機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡   作:きゅっぱち

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今回は戦闘はありません。そんな頻繁ドンパチ出来ませんし。MSも使えないでしょう。あんなもの一人で動かすのは凄まじい労力だろーし。


第六章 グレート・キャニオン砲撃戦前夜

宇宙移民(スペースノイド)地球人(アースノイド)

 

その確執が本格化したのはいつだろうか。

 

"エレズム"思想からだろうか、

 

"コントリズム"思想からだろうか、

 

ジオン・ズム・ダイクンの独立宣言からだろうか、

 

それとも、

 

宇宙世紀(ユニバーサル・センチュリー)の始まった、宇宙移民開始からだろうか。

 

 

 

──U.C. 0079 4.9──

 

 

 

 一五三○(ヒトゴーサンマル)、青い空に、ギラギラと眩しい太陽の下、少尉は黒々とその天を衝く様な巨体を晒す"それ"を振り仰ぎ、手をかざして上を見上げていた。ジリジリと肌を焼く暑さに物ともせず、立ち昇る陽炎の中太陽の光を浴びて、緩やかな曲線と鋭いエッジを描く装甲形状を持つ"ザクII"がその巨大な姿を浮かび上がらせている。

 

……………大きい。まるでフィクションか何かの巨大ロボットだ。いや、そのものと言っても過言ではないだろう。

 周りで取り巻くように揺らぐ陽炎と合わせ、まるで夢の中の出来事であるが、この暑さが雄弁に語り掛けて来る様に、コレは紛れもなく現実だった。現実なのだ。

 

 コイツによって地球連邦軍はあらゆる戦場において一方的な敗退を喫し、地上にまで侵略され、俺の愛機も撃墜されたのだ。

 

「──死神め……」

 

 特徴的な一つ目(モノアイ)を沈黙させたそれは、決して動く事は無い。しかし、過去に見せつけられた戦闘行動は、少尉の脳裏に焼き付いていた。今でこそ整備兵達の前に為す術もなく突っ立ち、彼らを群がらせ為されるがままの機体に、少尉は帽子を深くかぶり直し、目を伏せながらぼそりと吐き捨てた。

 

MS-06J "ザクII" 地上戦仕様

製造 ジオニック社

生産形態 量産機

頭頂高 17.5m

本体重量 56.2t

全備重量 74.5t

出力 976kW

推力 43,300kg

最高速度 95km/h

センサー有効半径 3,000m~3,500m (大気状況で変化)

装甲材質 超硬スチール合金 発泡金属 カーボンセラミック ボロン複合材料

 

──……判っていた。いや、()()()()()()()()()()

 

 しかし、鼻先に突き付けられた現実はどこまでも非情だった。鹵獲と同時に得たカタログスペックは驚愕の一言だ。既存の兵器を軽く凌駕するこの性能の前に、戦慄する事しか出来ない程に。

 特にこの機体はJ型と呼ばれる機体であり、地球降下作戦開始後生産された中の一機であった。1G下における戦闘、つまり地上、重力戦線特化仕様にチューンされている機体だ。

 そのため汎用機として初期生産型されたF型をベースに現地で生産段階から改良が加えられ、空間戦闘において必要不可欠である姿勢制御用のアポジモーターの多くを取り外し、加えて推進剤搭載量の削減や宇宙用の装備の省略で軽量化が図られている。また、ジェネレーター冷却機構の空冷化、それに伴うダクトの最適化に防塵対策など手を加えられ、地上における稼働時間や機動性が改善されている。

 それらのマイナーアップに加え、本機は地上で試作された最初期ロットの機体であり、根幹をなす機体フレーム、駆動系である流体パルスモーターに関節部、脚部サスペンション、ショックアブゾーバー等も強化された物が採用され、より地上戦に特化された、今後の地上戦におけるMSのスタンダードとなる物であるらしい……おやっさん曰く。

 

 少尉にその話の全てを理解する事は出来なかったが、確実に言える事は一つだけあった。

 

 それは、この機体を戦力に組み込む事が出来れば、我が隊の戦力は劇的に強化され、生存率も上昇するだろうという事だった。あのチェ・ゲバラも言っていた。『物量で勝る相手と戦う時は、同じ武器を使え』と。

 

 襲撃し奪取した物資集積所にはこの"ザクII"一機と予備パーツが一機分、それに梱包を解かれたばかりで真新しい様子のB.M.C. Z78/2 汎用中型オートバイ10台、PVN.3/2 "サウロペルタ" 軽機動車 5台、PVN.4/3 "ワッパ"機動浮遊機 4台、PVN.44/1 "ヴィーゼル"水陸両用装輪偵察警戒車 3台、PVN.42/4"マゼラ・アタック"(緑のデカい戦車) 強襲戦車2輌、M-1"マゼラ・アイン"(グレーの小さい戦車)空挺戦車 3輌があった。大収穫である。それらがズラリと並べられている様子は、まるでジオン地上軍保有兵器見本市の様だ。

 これらをほぼ無傷で手に入れられた事により、我が旅団の戦力は激増………………。

 

 

 

 

…………すれば、良かったんだが…………。

 

 

 

 

 まず手始めに、鹵獲品の解体、分解、解析、整備などを含めるリバースエンジニアリング、それに加えセンサー、レーダーにIFFが使用不可能な状況、有視界における敵味方識別を容易にするための塗装の変更が進められているが、これがまだ全く済んでいない。

 塗装がそのままだと敵に対しある程度の偽装効果を発揮出来るものの、当たり前であるが同時に友軍からも攻撃対象となってしまう。ミノフスキー粒子の効果により、電子機器の誤作動及び無効化が当たり前に近い状態となった事による交戦距離の短縮化、偶発的戦闘の増加、敵味方入り乱れる乱戦の激化など、友軍との交信及び意思疎通が困難な今、同士討ち(フレンドリーファイア)の危険性は限りなく高まっている。チープキルなんぞ真っ平ゴメンだ。

 

 しかしその塗装一つを取っても、ただ普通のペンキをペタペタ塗ればいいと言う訳でもない。軍で使用される特殊塗料には、塗料自体に錆止め、電磁波遮断、断熱などの様々な効果がある上、装甲表面にはセンサー、アクセスハッチ、排熱系が大量にある。それらを考慮しつつ、自軍と分かる色でかつ迷彩としても効果的な塗装が必要なのである。また、これらは搭載された電子機器のテストと並行して行う事が出来ないのもネックである。民生品とは出力が桁違いな兵器を相手にそんな事をした日には、まるで電磁ネットへと飛び込んだハエや蚊の様に、ゴロゴロと人間の丸焼きが転がる結果となる事は目に見えている。

 

 それに加えリバースエンジニアリングも、まだ解析に向いていそうなスペースコロニー出身整備士がおやっさんを含め数人しかいないのだ。その他も努力しているが、使用専門用語の違い、規格の違い、設計思想の違い、構造の違いなどの壁はかなり高くやはり難しいようだ。

 ジオン軍、連邦軍共に機械類の最小単位である部品単位における兵器の規格はある程度は共通しているが、それは生産ラインの規格などだけである。それより上になると同じところを探すのが難しくなるぐらいに違うのだ。さらにジオン軍のものの規格は実質スペースノイドオリジナルなので仕方が無い。数十年の刻とともに、宇宙と地上という環境の違いはそれ程の変化をもたらしたのである。

 

………まだ宇宙世紀となり、言語や表記、単位や記号などが基本的に統一されたのがせめてもの救いか、ぐらいなのである。そりゃ簡単に進むはずもない。

 

 それに、鹵獲したといっても、それを使いこなす、と言う観点からみる事となると話は全く変わってきてしまう。自軍の兵器であってもゲームなどの様に簡単に機種転換など出来るはずもない。ましてや敵軍の兵器をや、だ。宇宙世紀となり、それなりの科学技術の進歩もあり自動化、ハイテク化も進んでこそはいるが、それを扱うソフトである人間は数十年かそこらでリセットされてしまうのだ。

 人類の指が5本でなく6本だったら数学は更に進化したであろうと言う事を鑑みるに、人類の寿命が平均数百年なら、と嘆きたくもなる。

 

 鹵獲のデメリットはここだ。それに今回物資集積所を丸々無傷で手に入れられたからいいものの、消耗品や修理パーツは新造できない。弾薬だって違う。代用の効く物も少ないだろう。その結果整備は難航し、稼働率はどんどん落ちていくだろう。いつかは共食い整備も始まる。改造してまで使う必要もない。その時容易に廃棄に踏み出せるのがまだ救いか。今回は戦力が全く整っていなかったからこそ、補給や新造も不可能であるから早急な戦力化の為鹵獲に踏み切った訳で、兵站さえ確保されればこんな苦労はしなくて済むのに……。

 

 話が逸れてしまったが、現在総出でそれらの扱い、操縦、分解、整備などの訓練に連日明け暮れる日々が続いている。それゆえ進軍速度もやや停滞してしまっている。

 

 その代表であるMS及びMS操縦に関しては、おやっさんと軍曹が中心となり協力し、簡単なMS操縦シミュレーターを立ち上げるも、その結果は芳しいものではない。

 多少ながら適合したのも少尉、伍長、軍曹に整備兵数人のみ、それも戦闘にはまだ全然達していない。一番使いこなし、既に戦闘機動に到達しつつある軍曹であるが、軍曹は戦車兵としてこの部隊に無くてはならない存在であるというのがまた………天才1人が何でも出来ても、ってヤツか……。

 

……くそう、軍曹が後5人いりゃこの戦争にも勝てるだろうに…………クローンなどの研究を禁じたU.C. 0051締結の"汎地球圏人権条約"が憎い………。クローンの何が非人道的何だよ……あ、アレか?双子みたいなのが増えて瞬間移動マジックとかがマジックにならんからか?仕方ない。ここはこっそりと"恐るべき子供達計画"でも…………やめとこ。

 

 それらと並行して行われている捕虜の尋問もあまりうまく行っていない。みんな黙りで、時折口を開いても『地球人(アースノイド)の飼い犬、連邦野郎(フェディ)に喋る事など一つもない』の一点張りだ。おい無理にでも口割らせたろか?代わりはいくらでもいるんだぜ?とにかく拷問だ!拷問にかけろ!!

 

…………なんて事も出来ないのが実情であるが……。

 

 "一週間戦争"の後締結された"南極条約"で捕虜の人道的扱いが規定されている為、拷問なども出来ないのである。まぁ、仮にできても、拷問というのは生かさず殺さず上手く情報を引き出さねばならない高等技術であるため、成功しないだろうが……。素人が下手に手を出すドもんじゃなさそうだ。精神衛生上もヤバそうだし。

 まぁ仮にやるとしても、水飲ませまくったり吊るしたり袋被せて水ぶっかけたり爪の間に針さしたり剥がしたり、裸にしてほっぽるくらいだなぁ……でもヤりたくはないし……。

 因みに裸にしてほっぽるのは日本の拷問で、手足を縛り裸にし、酒をぶっかけ一晩中ほっぽるのだ。結果、蚊に刺されまくる。かゆい。

 

 軍曹が拷問出来ると言っていたが、やらせたくもない。

 

──あ、今のオフレコでね?報道したら記者人生終わるよ?

 

 因みに、なぜ戦争に条約という取り決めがあり、ルールがあるか不思議に思う人も多いだろう。なら話し合いで決めろと言う人もいるかも知れない。

 しかし、それは大きな間違いだ。妥協による平和はたいてい永続きしないもので、平行線という物は折れても平行線のままであり、決して交わる事はなく、妥協は解決策ではなくただの引き伸ばしに過ぎないのである。

 

 また、戦争とは政治のさらなる延長、最終手段の一つに過ぎない。つまり、戦争は他の手段をもってする政治の継続なのである。武器を使わず、流血がない戦争が政治であり、武器を使い流血と共に行われる政治が戦争なのである。正義などありはしない。そこにあるのはただ、大義と名付けられた利益だけだ。

 

『戦争は武器の問題よりも金銭の闇題なり。金銭によって武器は役立つ』

 

 だから、だからこそ(・・・・・)ルールを守るのだ。ルールを破ると、敵に大義名分を与えてしまう。破るヤツは、戦争を『相手を叩きのめして終わり』と勘違いしている愚か者だけだ。勝った後にどうするか、何のために戦争するのかを考えず、ただ相手をぶっ潰せばいいだけなら、それこそ"ルナII"でもなんでもを質量兵器として加速させ"サイド3"にぶつけまくりゃいい。相手を滅ぼしゃ終わる。

 

 そう、武器が、軍隊が戦争を産むのではないのだ。いや、逆に抑止しているといえるだろう。

 

『戦争の準備は平和を守る最も有効な手段のひとつである』

『平時における賢者は戦争に備う』

『均等の力を持つものの問にのみ平和は永続する』

 

 戦争は、対象国に対して適切な武力を保持し、相互確証破壊を満たしていれば起こらない。旧世紀の核抑止と同じだ。しかしこれだって、大国間の全面戦争こそ抑止するが、局地的な小競り合いや地域的な紛争を抑止するには至らない。小国間同士は戦争を起こし、大国が介入しようとも泥沼化し、また代理戦争の場ともなる。戦争に無関係な国は存在しない。

 

 ま、そのバランスが悪けりゃ、戦争の名を借りた一方的な虐殺(ジェノサイド)が起こるのみだ。

 

 この考えは、戦争が大嫌いと抜かすのみで、軍を、武器を叩き、知ろうともせず批判しかしない自称(・・)平和主義者には永遠にわからないであろう。

 

 多分、戦争というワードが嫌いすぎて、思考停止しているのではないだろうか?『戦争のことは考えない、平和と叫べば平和になる!』

──世の中そんなに甘く無いのに………。

 

『平和を欲するなら、戦争を理解せよ』

 

 更には、時に行き過ぎた平和主義が戦争を巻き起こす事もある。

 

──旧世紀に勃発した"第二次世界大戦"がその代表だ。

 

 時に、とある東洋の島国には憲法9条という、平和主義の体現の様な憲法がある。戦力を保持せず、交戦権を持たないという憲法9条は1928年に締結された"不戦条約"を手本にしている。 世界で唯一戦争の放棄を訴えたその条文は、それ自体は尊いものだ。

 しかし、その"不戦条約"は、かえって"第二次世界大戦"を引き起こした事はあまり知られていない。

 これに対しチャーチルは『平和主義者が戦争を起こした』と言っている。

 

 ナチスドイツのヒトラーは平和主義を利用して勢力を拡大していったのだ。

 

 ヒトラーが"ヴェルサイユ講和条約"を破棄し再軍備したとき……。

 

 "ラインラント"に進駐したとき……。

 

 そして、"ミュンヘン会議"により"ズテーテンラント"を要求したとき………。

 

 いずれのときも周辺諸国は平和主義に縛られ、 力をつけ始めたドイツ軍を一掃できたのにもかかわらず、軍隊を使わなかった。 使えなかったのだ。

 

 その結果、ヒトラーは戦力充実に成功し、"第二次世界大戦"を引き起こしたのだ。

 

──行き過ぎた平和主義は戦争を招く。

──戦争をする決意のみが戦争を防ぐ。

 これが世界を混迷の闇に叩き落とした"第二次世界大戦"の教訓である。

 

 しかし、人類はこの教訓を活かす事は出来なかった。結局、俺達地球連邦軍は抑止力としての役割に失敗してしまった。

 

 つまり、今の俺達の仕事は、基本的に負け戦となる。基本的に『何かあってから』でないと仕事が出来ない……その時点で負け戦なのだから。

 

──だが、同じ負け戦なら、せいぜい生きあがいてやる…………。

 

 またこの事から現実問題、平和主義と軍備は矛盾しないのである。いや、必要な軍備こそ平和主義を名乗るに相応しいと言えるだろう。

 

 世界も真の平和主義を目指すのであれば、戦争研究をしなくてはならない…………。

 

──そう、"平和"な世界の住人なぞ、テレビの前に寝そべってポテチかじりながら、『遠い国の戦場の悲惨な映像』を見てああかわいそうだね戦争は嫌だねと口先では言いながら、実際には救援活動どころか義援金も送らないのが当たり前だ。

 それどころか平凡な日常生活ではまずお目にかかれないホンモノ(・・・・)の空爆シーンや死屍累々の風景に妙に血が騒いだりしてしまう、そんな奴しかいない。俺たちが求めてやまない『当たり前の平凡な日常』を嘆く、アタマでっかちの"王子サマ"だ。

 

 実際、俺もその中の一人だった。

 戦争は不思議なもので、その場にいる者にとっては地獄でも、遠くから見れば美しく見えるものなのだ。

 

──そう、みんなそうだ。画面の向こう側に戦場を押し込め、部外者の顔をして戦争を否定する。

 戦争だけじゃない。戦場に在る物、在る者の全てを否定する。

 

 だが……つい数時間前までは確かに笑っていた部隊の仲間が、夜にはいなくなっている。そして、銃弾や断片で肉体のどこかを失い、それでも負傷した仲間を背負って野戦病院へ駆け込む兵士………何より、自分自身のそばを銃弾がかすめない限り、そこが戦場である事は判らないのだ。そして、その場ではそんな物は頭の隅どころか考えから消える。

 

──今の(・・)俺は"平和"という言葉を安易に口にする連中が大嫌いだ。

 戦争は何故起きるのかを考えもしない。

 国境、民族、宗教、政治、思想、さまざま理念が絡み合った果てにいずれ衝突する。

 

 それが戦争だ。

 

 平和の一言で解決出来るならとっくに遠い過去に戦争は消滅してる。

 

 ならば何故、まだ起き続けているんだ?絶対に戦争が悪とは言わせない。

 それは無責任極まりない発言だ。

 

 おそらく"絶対"というワードがとにかく駄目なのだ。絶対戦争をやるべき、絶対負けない、王は絶対敬うべき。かつての絶対王政の様に。

 絶対というワードを持ち出した途端に、人は思考停止になる。

 

 そしてそれは、この宇宙世紀でも同じなのだ。

 

 絶対戦争をやってはいけない、絶対憲法を守るべき。

 物事に絶対などという価値観を盛り込むとどんな理想もすぐ腐る。

 

 正しい判断は多様な選択肢の中からしか生まれない。

 

──……………………くだらない事を考えてしまった。コレ(・・)は、今は必要ない。そんな事、生き残ってからゆっくり考えりゃいい。

 

「………はぁ……」

 

 どっとあらゆる疲れが来た様な気がし、少尉はこっそりと溜息をつく。そんな時、ポンと肩を叩かれた。少尉の肩を叩いたのはおやっさんだ。少尉の隣に並び、足元に絡みつく風が"ザクII"へ吹き付ける様子を見上げながら話しかけた。

 

「……どうした少尉?溜息なんかついて」

「──……いや、やる事が山積み過ぎて……」

 

 誤魔化すように笑い、肩を竦めた少尉を、風が撫でる。おやっさんはその様子に鼻を鳴らすも、サングラスの奥で瞳をキラリと輝かせ、切り替える様にコロリと態度を変え喋り出す。それに救われる形となった少尉は、その言葉に耳を傾けた。

 

「有るだけいいって事よ!!俺なんか毎日が天国だ!!ジオンの最新兵器が丸裸に出来るなんてよ!!うはははははっ!」

 

 楽しそうだよね、確かに。たまに高笑いとか聞こえるもの。俺は最後に腹の底から笑ったのはいつだろうか?

 見上げた空にはぽっかりと白い雲が浮かび、ゆっくりと流れて行く。はぁ……空が、空が飛びたいなぁ……──。

 

 あの蒼い空をどこまでも。俺は攻撃機のパイロットであったが、戦闘機パイロットとしても結構やってたからなぁ……。

 

 ま、基本チキンだから燃料やら何やらがあり過ぎて自由に飛んでる感全然なかったけど。曲芸とかは出来るんだけど………何も考えずに飛び続けられたらいいのに………。それこそ、息をする様に。

 

「……俺はMSへの転換のための訓練。MSを組み込んだ戦術、戦略の構築。捕虜(POW)への尋問、通信解析、暗号解析。それに通信機や敵味方識別装置(IFF)の更新、情報管理、兵站管理、その他諸々の情報の統括、連絡報告に目を通す、まだありますよ?聞きますか?………死にます……軍曹が手伝いに居なかったら過労死してましたよ……」

 

 実際口に出して言う事でその量を再確認し、少尉は更にナーバスになる。折角手に入れた戦力だ、何とか使わなければ……。だが、俺以外の整備兵達もジオン製の兵器への転換に手こずっている。いつまでも悠長にやってられない。敵はいつ来るか分からないのだ。

 

 偵察に出ている軍曹曰く、付近には敵影は見られないらしいが、それもどこまで続くか……。

 

 特に最近は偽装のためにミノフスキー粒子を散布している。MS程度のジェネレーターでは範囲に限りがあるが、それでも無いよりはマシだろう。これにより長距離レーダーが無効化され、かなりバレづらくなるが、逆にこちらも敵を見つけずらくなる。それに、ミノフスキー・テリトリーの構築は、そこに核融合炉があり起動している事が露呈してしまう。例えるならば、火を焚いて煙を出しているのと同じだ。煙は我々の姿を敵から覆い隠してくれるが、敵はその煙を見て火が焚かれ、誰かがいる事を察知してしまうのである。

 ジオンの装備だから敵も無視してくれればいいのだが、通信されたら終わりだ。

 

 ジオン軍人を含めスペースノイドには喋り方に特有の訛りがある。ジオン公国のあるサイド3("ムンゾ")は特にそれが顕著であり、俗にコロニアル・イングリッシュ("ジオン訛り")とも言われるヤツだ。仮にその場は隠し通せても、怪しまれ部隊を派遣されたら終わりだ。

 今の我々にジオンの部隊と真っ向からやりあって勝てる戦力は存在しない。逃げられる脚もだ。硬い皮膚より速い脚とはよく言ったものだ。捕まったら最後、華々しく散り与えられもしない二階級特進に思いを馳せるぐらいしか出来ないだろう。

 

「そらまたご苦労さん。たまには休めよ」

「いえ、通信、暗号の解析が始まり、情報を多数得たので……流石にそろそろ動き始めようかと」

 

 全然そうは思って無いだろう軽い言葉をするりと受け流し、少尉は顎に手を当てまた考えに沈み始める。

 ジオン地球侵攻部隊はこの北米大陸において、西側は"キャリフォルニア・ベース"周辺、東側は"ニューヤーク"周辺の二つに分けた部隊で降下作戦を行い、挟撃することで北米大陸の完全な実効支配をするつもりらしい。恐らく地球圏最大規模の穀倉地帯である北米を抑える事で、戦争の継続の原動力となる食料を確保、さらに地球市民に打撃を与えるのが目的であろう。

 

 それに、"キャリフォルニア・ベース"の軍需産業施設をはじめとする、旧世紀に"サンベルト"と呼ばれた工業地帯などの施設を利用したMSの生産を始めたらしい。先程も述べたが基本的生産ラインなどは共通なので使えてしまうのだ。

………それで出来た機体が鹵獲出来たら良かったのに……。言っても仕方ないが……。

 

「そうか。おっし、ならぼちぼちか……」

「そうなります。また、当てにさせていただきます」

 

 頭を下げようとした少尉を片手で制し、くるりと背を向けたおやっさんが軽く手を振って歩き出す。

 

「おうよ、期待しといてくれや」

「はい。よろしく頼みます」

 

 日に照らされ、その光を浴びる中肩をグルグルと回しながらおやっさんが歩いて行く。その背中を見つつ、少尉はまだ考え続ける。

 

 状況は芳しく無い。現在ジオンに()を付けられない程度に秘匿回線を用い通信を試みているが……。友軍からの応答はいまだ全く無い。

 "コロニー落とし"の影響による大気の乱れに舞い上がったチリや、ミノフスキー粒子の及ぼすミノフスキー・エフェクトなどにより長距離通信がほぼ不可能なのに加え、地下を走る光ファイバーケーブルなどを含めるインフラストラクチャーにもダメージは及んでいるのだ。通信など出来るはずもない。

 

 時折雑音の砂嵐の中、断片的に聞く事の出来る海賊局などを含めるラジオ放送などの風の噂も、ジオンの勝利を讃えるものや連邦軍の敗走ぶりを吹聴する様な良く無いものばかりだ。……それだってミノフスキー粒子の影響で途切れ途切れだし。一定濃度まで達したミノフスキー粒子の形成する立体格子の性質上、ミノフスキー・エフェクトは基本的に長続きしない。ミノフスキー粒子の散布は、戦闘の痕跡と言っても過言ではない。我が旅団の周りでは、散発的に戦闘行動が行われているようである。

 

──良く無い。全くもって良く無い………。

 

…………特に、ジオンは地球各地に降下作戦を実施し、既に"オデッサ"なども陥落している事など………。プロパガンダだと思いたいが………コレは、本当だろう。

 

 これはヘビーな事実だった。ジオンは地球全土、世界各地で破竹の進撃を進めている。現にあちらこちらでジオンによる実効支配が始まっているとの事だ。それはこの北米大陸も同じだ。地球連邦軍北米最大の拠点であり防御の要であった"キャリフォルニア・ベース"が墜ちた今、"ケープカナベラル・ベース"、"メイポート・ベース "などを初めとする主要基地ももう長くは持たないであろう。

 この足の遅い旅団が捕捉されるのも時間の問題だろうと言う事か………早く"ジャブロー"方面へ抜け出さ無ければ……。

 

 顔を歪ませ悩む少尉の心境とは裏腹に、晴れ渡る空は緩やかな風を吹かせ、やがて迫り来る日没とともにゆっくりと、だが確実に時を刻んでいた。

 

 

 

──U.C. 0079 4.12──

 

 

 

 ○八○○(マルハチマルマル)、爽やかな朝陽を浴びつつ、許可印(ノーフォーン)を片手に軍曹が淹れたコーヒーを飲む。美味すぎる。趣味らしいが、フツーに店やっていけそうだ。

………本当に人生経験が違うなぁ。俺料理はそこそこ出来るんだけどなぁ。コーヒーはどうやって上手く淹れるんだろう。ただのお湯の代わりに蕎麦茹でたお湯とか入れればいいのかな?

 

「……少尉、ここ、ミスだ……」

「え?」

 

 軍曹の言葉で現実に引き戻された少尉は口をつけていたコーヒーを置き、軍曹の差し出した資料を受けとる。なるほど、数値が幾らかズレている………。少尉は額に手をやりながら天を仰ぎ、溜息とともに軍曹に応える。

 

「…ホントだ、あちゃー……。直しとくよ……で、軍曹、今後、進路どうするべきだと思う?俺はこのまま南下しつつコロラド河の渡河地点を探そうと思ってんだけど……」

 

 背もたれに寄りかかり、上体を逸らしたまま少尉がボヤく。弾薬管理の資料から目をあげず、軍曹は空いた片手で地図を書きつつ応える。

 

「……ジオンの…構築した戦線を、鑑みるには……」

「おやっさーん!!レティクルが変ー!!ここはどうすればいいのー!!」

 

 その奥では伍長が開放されたキャノピーから身を乗り出し大声を出している。低血圧気味の少尉に、朝から伍長のティップ・トップ・シェイプなハイテンションは()る物があり、おやっさんに丸投げだった。

 

「マニュアルの164ページを見ろと言ってんだろーが!」

 

 紙束をバンバン叩きながら怒鳴り返すおやっさんを始めとし、整備班は既にフル稼働だ。恐るべし。

 

「分かんないから聞いてんですぅ!!PSマガジン(良い子のマンガ教本)は無いんですかぁ!?」

「はっは。私がやります故、整備班長殿は"ザクII"の方を」し

「分かった!頼んだぞ!」

「火ぃ入れるぞ!!離れろー!」

 

 ドタバタと奏でられる狂想曲をBGMに、情報報告に目を通しつつ軍曹と相談しながら戦略構築を進める。朝はだいたいこうやって過ぎて行く。

 

 少尉が飲む、軍曹のコーヒーは、苦い。

 

 

 

 

「──だぁ~っ!!」

 

 活字とのにらめっこに疲れ、少尉は目元を揉み伸びをしながら視線を外す。ふと向けた視線の先では、伍長がおやっさんと"マゼラ・アタック"をテスト中だ。その様子を見るに、鹵獲兵器もだいぶ使えるようになってきているようだ。………………MSは全然だが。

 

 まだ基本動作が出来るのはプログラミングなども行っている軍曹を除いて俺だけ。それでも、MSという身体の延長である兵器をまるで元からあった手足の様に動かす、ベテランのジオン兵が乗る"ザクII"には勝てないだろう。

 

 しかし、"マゼラ"はトラックの移動に随伴出来るようにはなった。この"マゼラ・アタック"は戦車としては車高がバカ高い分、レーダーの効かない状況下における目視による索敵距離も長いのだ。そのためこいつらは長距離レーダーの効かないミノフスキー粒子散布下における御衛にはピッタリであり、それがそこそこ運用出来ると言う事は大変喜ばしい事だ。火力も高いしな。175mm無反動砲は伊達じゃない。頭を痛める問題としては、ガスタービン駆動ってところか?

 

 そう、それだ、そうなのだ。石油をはじめとする化石燃料は結構貴重なのに、こいつらと来たら………ガバガバ燃料ばっか食いやがって装甲うっすいくせに。なんで資源の少ない国がこんなもん作ってんだ。しかも足回りも弱いんだぞコレ。コレで装甲薄いってリッター200mのティーガーIよりひでーじゃねーか。

 

「……いづれ動かせんくなるかもな……その時は、まぁ…解体か……」

 

 未だにうず高く積み重なる書類に目を通しながらクッソマズいレーションをコーヒーで胃に流し込む。無造作に積み上げられたしょうもない事から最重要の極秘情報まで、全てがごった煮の書類。それに栄養価と保存性のみに重点を起き、古今東西のそーゆーものをぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたレーション……全く、混ぜ過ぎるとただただマズくなるな。

 

 資源無し、戦力無し、人で無し、じゃなくて人手無し、無い無いづくしだ。

 

『軍属たるもの、不自由は常なるを思ひ、毎事節約に努むべし。奢侈は勇猛の精神を蝕むものなり!』。俺には無理です。甘いモン無いと………。

 

「……──くぁーっ!!SOSだ!シット・オン・シングル(SOS)だけに!!いや食うけどさ!!」

 

 相当マズイ。食べられる材料で出来た何かみたいだ。伸びをしながら、珍しく下品な言い方でぼやき、少尉は自己嫌悪に顔を歪めつつまた仕事へ戻る。今の少尉の戦場は、他ならぬここ(・・)だった。

 

 ちなみにマズいマズいと有名なレーションであるが、『兵士を戦闘可能(・・・・)な状態に維持する』べく、『大量に生産・消費が可能で、補給路遮断を考慮して長期間保存(・・・・・)が容易』であり、『戦地に置かれ、火も水もない状況での維持食たりうる』性能を持ち、『末期の食事になるかもしれない』などといった様々な条件の元、様々な試行錯誤を行った結果この様に作られている。

 高いストレスと死の恐怖に晒される交戦地域では、"食事"も兵士や将官の士気に大きく響くため、ある程度自国民の味覚や好みに配慮し、改良に改良が重ねられており、昔の宇宙食(笑)のイメージであろう練り歯磨き吸ってる様な物では無い。

 そう、レーションの中身は『包装に至るまで各国の事情を表現している』と言われており、そんな物国や軍によって千差万別だ。まさに()のエサのような悪名高きMREレーションから、結構美味いと好評の、自衛隊自慢の缶メシ、デザートにワインのついたイタリア、やっぱりつけちゃった紅茶ことイギリスなど………よーするに、今食ってるコレは宇宙世紀においてもコレかい、と世界各国の軍人さんたちに言わしめた一品であるだけである。

 賞味期限が近かったため、消費しなければと思ったが……そこらのリスにでも食わせた方がいいんじゃね?

 

 やめておこう……リス相手に名誉の戦死なんて情けないしな…………。

 

「……少尉、報告が……」

 

 お昼過ぎ、そのくっそマッズいレーションで手早く食事を終えた少尉の元に、技能の関係上単独の偵察後、伍長と捕虜の様子を見に行った軍曹が小走りでやって来る。後ろにはやや遅れて伍長もいる。本当にワンセットだわ。

 

「……捕虜が、危険な情報を………緊急事態(タックイー)だ、……」

「やったよ少尉!!褒めて褒めて!!」

 

 笑顔でぴょんぴょん飛び跳ね、少尉の周りをくるくる回る伍長。まるでスタップル・ホッパーズだ。歩兵科(バッタ隊)にでも移ったら、という言葉を飲み込み、辟易した顔を向けつつ、少尉は後頭部を掻きボヤく。

 

「喜べ、ないなぁ……」

「もっと喜んで下さいよ!!がんばったのに!!」

 

 やっとピークが過ぎて、落ち着いてきたと思った矢先にこれかよ。くそぅ。

 椅子に深く沈み込み、青い空を仰ぐ。最近空を見てばかりだ。雲がポツポツと浮かぶ以外なにも見られない青い空は、何か足りないような気がした。

 

 脱力している少尉の元へとおやっさんもやって来た。凄い嗅覚だ。だいたいこう言う話には何故か必ず顔を出せる特殊能力があるようだ。

 

「で、その情報とやらは?軍曹」

「え?私には聞かないんですか?なんで?」

 

 素で首を傾げる伍長に苦笑を返し、そのまま首を傾け軍曹の方を向く。あ、この体勢ちょっと首痛い。

 

「……──あー、軍曹、頼む」

「………もういいよーっだ。フンッ……」

 

 伍長がショボンとした顔で石を蹴り始める。コイツ軍隊向いてねぇよ!!今までどうやってきたんだよ!!

 

「………あと数日で、ここに……増援が来る、と………"ザクII"が2機…だそう、だ……」

「………やはり、か……」

 

 がっくしと肩を落とした少尉へ、軍曹が励ますように手を置く。その手の心地よい重みを感じつつ、少尉は深い溜息を吐いた。

 

「仕方ねぇよ少尉、嫌な予感っつーのはだいたい当たるもんさ。……問題は、どうするか、だ」

「ですよ、ねぇ……尻尾巻いて逃げても追いつかれるでしょうし……」

 

 それは、物資集積所を襲撃し、MSを見たときに感じた違和感の正体だった。MSは基本的に3機一組(スリーマンセル)の一個小隊単位で行動する。MSの数が足りなかったのだ。

 

 さらには人型、という兵器は重力下で立っているだけでフレーム、駆動系が摩耗する。つまり、万全の態勢で戦うにはかなりの物資が必要となるのだ。また、それに伴い予備機は絶対に必要だ。それらを考えて、ローテーションを組むにしてもMSの数が少な過ぎたのである。

 

「………ところで、よく口を割らせたな」

「……それは、伍長の、お陰……」

 

 石を蹴るのに飽きたのか、丸まって拗ねていた伍長が凄い勢いで顔を上げ、走り寄ってくる。仔犬かコイツは。まぁ確か伍長は犬派だったな。なんでも昔、庭に恐竜が入らないよう飼っていたらしい。何?サイド6("リーア")はジュラシックパークってんのかよ?

 

「そうです!!褒めてください!!」

「そ、そうだな、よくやった。……どうやったんだ?」

「ご飯です!!」

 

は?

 

 

 

 

 

は?

 

「………テイク2 スタート!……で、その情報とやらは?軍曹」

「そこからかよ。つーかなんだってそんなボケを……」

 

 小馬鹿にするようなおやっさんの顔に頬を掻きながら少尉が言う。

 

「いや、そう言われましても……ねぇ…」

「まぁ、な……」

 

 思わずボケたが……いやー、おやっさんがノッてくれて良かった。前これやったら総スルーされて、何か、こう……死にたくなったからな。

 

「……うぅ~……話、聞いてくださいよぉ…」

「あ、すまんすまん」

 

 改めて伍長に向き直る。早くも機嫌を直した伍長は手をブンブンと振っていた。尻尾かあったらちぎれんばかりに振り回してんだろーなー……。

 

「目の前で、幸せそうにご飯を食べたんです」

「別に食事は渡してる。飢えてはないんじゃないのか?」

 

 賞味期限切れかけのこのくっそマズいヤツだけど。ちなみに伍長は食ってない。美味しいヤツ食ってる。男卑女尊敬はんたーい。というか、『だんひじょそん』ってアフリカ人になんか居そう。

 

「いや、レーションじゃなくてステーキを食べたんです!!おいしかったぁ……」

「なにぃ!!ステーキだと!!どうやったんだ!!俺にも食わせろ!!」

「うぇっ!?あばぼばばぼばびばび………」

「おやっさん落ち着いてください!!」

 

 おやっさんが伍長の肩を掴みガックンガックン揺さぶる。伍長の首、なんか取れそうなんだけど。首取れたらどうしよう。()()()()()()でひっつくかな?

 まぁ取れたら取れたで首無しドライバーデビューしてもらうか。"ロクイチ"の性能なら涼しい顔で峠を攻められるだろーし。

 

「落ち着いてられっか!!ステーキだぞステーキ!!」

「……まだ、ある。……食べたらいい。少尉も、ぜひ……」

「うおっしゃぁ!!ちょっくら食ってくる!!安心しろ、少尉の分は残しておくからな!!」

 

 場所を聞くや否や、会議を放り出し凄い勢いで走っていく"神の腕"を持つ整備兵統括班長。あんたはそれでいいのか。良くも悪くも自分に正直な人だ。つーか幾つなんだ?前聞いたら『マラ歳だ』って……あれ?刻が見える…?

 

「……肉はどうしたんだ?」

「軍曹が取ってきたんだって!!」

「……偵察がてら……皆…喜ぶと、思って…弾丸は、未使用だ……安心、して欲しい…」

 

 すげーな軍s……マジでスゲーなおい!!……いや、狩猟許可書見せなくても大丈夫だからね?つーか俺に見せてどうする。

 

「それで!目の前で美味しく食べたの!!敵が幸せそうなら、ぶっ壊してやろうと思って何か言うかなーって」

 

 伍長が目を輝かせ、手を上下に振りながら力説する。その様子は褒めて褒めてと言わんばかりだ。ホントにかわいーなコイツ。

 

「成る程、考えたな」

「いや?考えたのは軍曹だよ?」

伍長(お前)じゃないんかい!!」

 

 思わずっこみながら少尉は器用にもずっこける。倒れこみ大の字で寝転がり空を見上げ、少尉はただ呆れる事しか出来なかった。

 よーするにほぼ全部軍曹立案実行だった。更に聞くと料理したのも軍曹だった事が判明。本当にただ食っただけかい伍長。

 まあ、幸せそうにステーキを貪る軍曹なんて想像出来んが……。

 

「……少尉、どうする……?」

 

 ステーキの味を思い出して興奮しているのか頰に手を当てる伍長に一瞥をくれた後、差し出された軍曹の手に助け起こされながら、少尉はおもむろに口を開いた。2人の間に、先程の雰囲気はもはや微塵も感じられず、既に戦闘態勢へと入っていた。

 

「……一応、作戦の骨子は考えてある。危険だが、やるしかない。まぁ、"マゼラ"や、おやっさんの"新作"が使えるから、まだマシになったかもな」

 

 MSはまだだが、何とか"マゼラ・アタック"は戦車として運用出来るようにはなった。戦車……?…いや、突撃砲としては……。

 

 何と、実はこの"マゼラ・アタック"、砲塔が旋回出来ない。どちらかと言うと突撃砲だ。それに、放熱板かと思っていた飾り羽はマジもんの羽で、なんと上部がジェットホバー機になるというトンデモ兵器だった。………いや、コンセプトは分かるよ?敵戦車の装甲の脆弱な上部を撃ち抜きたいんだろ?そのために飛んだ、と。分かるけどマジでやるとは思わんかった。

 飛行限界時間は脅威の約5分。どうしろというのだ。それにだから戦車の癖にあんなクソ薄い装甲なのか。それは戦車の仕事じゃねーよ!!お前たちは戦車の上で百貨店を開こうどころか戦車を天空の城にしようしたんかよ!!やめろ!!しかもソレ正式採用かい!!誰か止めろよ!!

……………スペースノイドの考える事は分からん。本当に。素直にM-1MBT(マゼラ・アイン)作りゃ良かったじゃん。

 この設計には約1名を除き整備兵一同懐疑的であり、結局、デカイ突撃砲またはトーチカに近い物として使う事に。デカくて見つかりやすい上紙装甲でヤなんだけど。

 

──が!!

 

 おやっさん曰く出来た設計らしい。"マゼラ・アタック"は主力戦車でなくMSの支援兵器であり、月面での低重力下の防衛を考慮に入れた設計なのでは、と。MSに随伴させ、ただの戦車なら大威力であるが平射弾道でしか撃てないキャノンを砲塔ごと上空へ飛翔させる事で上空から第一線を超越したディープ・ストライクを可能にする。らしい。

 

 いや、それ、攻撃ヘリに同じキャノン積んだ方が早くね?いや、ミサイル積んだ方がもっとよくね?やっぱ、いらなくね?

 

 それに、こっちにはおやっさんの"新作"、歩兵が携行可能な対MS戦闘用決戦兵器がある。

 

 旧世紀の米軍と呼ばれた軍隊の置き土産に対MS用に改造を施した、FGM-148A3++"スーパージャベリン"対戦車ミサイル(ATM)だ。

 

 総重量は20.2kg。発射されたミサイルは圧縮ガスによって発射筒から押し出され、数m飛翔した後に安定翼が開き、同時にロケットモーターが点火される。このコールドローンチ方式という発射方式により、バックブラストによって射手の位置が露見する可能性を抑え、後方が塞がっている室内などからも安全に発射することができる。ミサイルは完全自律誘導のため、射手は速やかに退避することができる。が、ミノフスキー粒子下でも利用できるよう、赤外線画像判別自立誘導機能をオミット、グラスファイバーによる有線及び先端にカメラを搭載、有視界による誘導方式に変更したものだ。武器を構成する素材、パーツの見直しも行われ軽量化が成功し携行性もアップ、内部炸薬も改良を加え、シミュレーションでは"ザクII"の頭部カメラ(モノアイ)、脚部背面膝関節部、スカートアーマー下の股関節部なら有効打撃が与えられると出た。

 

 これを"ラコタ"に搭載、機動運用をする。それに"ロクイチ"を交えた波状攻撃で倒す。

 "ザクII"や、"ワッパ"、 "ヴィーゼル"はまだ練度が低く、また、鹵獲されているのがバレたら困るので使わない予定だ。"マゼラ"は隠して砲撃には使う予定だ。砲撃音でバレるかもしれないけど。

 

 その上で作戦を立てる。

 

「………さて、ザクハント始めますか……」

「一狩り行こうよ!!」

「……狩りに、備えて………狩っておけ……!」

 

 損害は出す訳にはいかない。今、一番重要な資源は、人的資源だ。

 

 最善の策を……この戦力だけで、あの"死神"を討つ策を……………!

 

………………よし、これで行こう。時間は一○二○(ヒトマルフタマル)、今日はまだ始まったばかりだ。少尉は軍曹、おやっさんに、戦闘員全員に集結させるよう声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

『総員、第一戦闘配備!!気を抜くな!!』

 

 

 

 

これが、連邦軍の、反撃の鏑矢になるか…………

 

 

 

 




次回、MS vs 連邦軍機甲歩兵機動隊!!
戦法はエイガーのロクイチによるザク撃退戦法や重力戦線のザクハンターからヒントをもらっています。

予定ではもっと進んでる予定だったんだが………。

マゼラアタックには形式番号が2つあり、統一するため新しい方に、アインは分かりませんでした。誰か教えて下さい……。

ルビふれる事を習得しました。打って行きたいと思います。

次回 第七章 グレート・キャニオン砲撃戦

「よし………行くぞ!!」

アルファ1、エンゲージ!!

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