GANTZ観察日記   作:時械神メタイオン

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一章最終話


Mission 04. Next Stage に移行するためにチュートリアルを終了します.

 キンコンカーンコーンという、郷愁を誘う音で目が覚めた。終業のチャイム。俺、どうして学校の教室で寝てるんだ?

 窓から差し込む夕日から、もう帰宅する時間だとわかる。授業が終わってだいぶ経つのか、教室には俺以外の人影はない。

 何かおかしい、とは思ったが、寝起きの頭では何がおかしいのか判然としない。

 

 とりあえず机の横にバッグを掛けてあるのを取って、家に帰ろうと思った。

 机の横に回した俺の手に、バッグでは無い何か硬いものが当たった。それを持ち上げる。手にとったそれは、未来的なデザインだが、見れば銃だと判断できる代物だった。なんでこんな玩具(おもちゃ)が教室にあるんだ?

 少しいじってみることにした。机に向かってトリガーを引いてみる。だが何も飛び出さない。カチッ、カチッと空撃ちの音が教室に響く。良く出来てるが、所詮おもちゃか……と思ってたら、銃の後方の画面に映っているものに気がついた。

 銃の画面には、机の中、筆箱の白い影が映っていた。おい、まさか……この銃、レントゲンみたく対象を透視してるのか? とてもただの玩具とは思えない。

 

 銃を角度を変えてよく観察する。トリガーは、2つ。さっきは、トリガーを1個だけしか引いてなかったから撃てなかったのか。順に引くか、同時に引くかすることで撃てるのかもしれない。そして、照準を合わせるための画面。この画面が最大の謎だ。手を透かしてみたが、骨が映った。レントゲンと同じ仕組みではありえない。レントゲンは撮影のために対象を()()必要がある。一方向から見るだけで物体を透過するこの銃の照準画面ははっきり言って異常だ。人類がギリギリ到達し得ていない領域の光学技術。そんなものが……ただの玩具に搭載されてる? いや、玩具なワケがないな。

 

 さらに観察を続ける。分解は……難しいか? ネジ穴の類は見当たらない。無理矢理分解(バラ)してしまった場合、元の形に戻すのは困難だろう。中身を検めるのは諦めるしかない。どうにかして分解したいものだが。表面に指をなぞらせて、どうにかうまく銃の装甲を外せないか、境目を探る。

 そうしているうちに、グリップの底の部分に違和感を覚えた。何か、全体的に金属の冷たい質感なのに、底の一部分がラバーのような……。ひっくり返して底を眺める。ビンゴ。カッターナイフの刃を立てれば、ラバーの一部を剥がせそうな雰囲気だ。家に持ち帰って試してみよう。

 ああ、でもな。確か、これを家に持ち帰るのは止められていたよな。ええと、()()()()()()()()()()()っけか?

 

 この段階に至って、やっと俺は本格的な違和感を抱いた。

 俺は……俺はどうして学校の教室になんかいるんだ?

 さっきまで、俺はこの銃を使ってのミッション真っ最中だったはずだ。どうして俺はこんなところにいる?

 軽い混乱。今も皆戦っているはずだという焦り。座っている机を蹴っ飛ばし、今すぐこの教室の窓から飛び降りて、戦場に戻らなくちゃいけないという強迫観念に囚われる。

 

「待て、坊主。忘れちまったのか、ミッションは終わった。慌てるな」

 

 俺を呼び止める声。

 気がついたら教室の前方部分、教壇のところにおっさんが立っていた。

 おっさん何時(いつ)からそこにいたんだよ。

 おっさんは俺の質問には答えない。

 

「坊主、大人しく聞け。日が沈んだら授業を終えるから我慢しろ」

 

 授業て。おっさんの言い方がまるで教師だ。

 

「授業の内容は……人の魂についてだ」

 

 魂? 何だよその哲学的な話題。

 もしかして……これは明晰夢ってやつか? ここに至って俺は今の自分の置かれている状況に確信を得た。銃を詳しく観察したことは無いが、グリップの底にラバー部分なんて無かったよな? 今のこの状況は俺の想像の産物か。まぁ、目が覚めるまでの余興みたいなものだと思って……今がミッション中なら、寝ぼけてるわけにはいかない。今すぐ目を覚まさなきゃマズイ。

 

「ミッションは終わった。いい加減に思い出せ、坊主」

 

 焦りで腰を浮かした俺に、おっさんから叱咤が飛ぶ。

 何言ってんだ。おっさん! ()()()()()()()()()、あんなもん! おっさんも寝ぼけてないで、さっさと……。

 

 怒鳴り返している最中に何が起きたか思い出してきた。

 そうだ。ミッションは終わったはずだ。

 それで……それで? 終わったことだけは覚えているのに、靄がかかったようにミッションの内容が思い出せない。

 

「……お前さんは今回のミッションで大怪我を負った。部屋へは、健常な時点に巻き戻して再生される。記憶が欠けているのはそのせいだ」

 

 巻き戻す? 記憶が欠ける? 何だそれ、初耳なんだが。

 

「勿論、大脳のニューロンもミッション中に形成された分は巻き戻される。肉体には記憶は残らない。だが、魂の情報パルスは転送時にその影響を受けにくく、わずかながら記憶のフラクタルを巻き戻された時点の肉体にフィードバックする」

 

 おっさんは、説明をしながら黒板に図を書き始めた。

 理解が追いつかない。何だ、この内容、この状況。なぁおっさん、俺たちは……今どうなってるんだ? これは俺の夢の中の出来事なんだよな?

 

 狼狽える俺に呆れたのか、おっさんが溜息をついた。

 チョークを置いて、こっちを振り返る。 

 

「時間はないが仕方ない。慌てるな、ゆっくり深呼吸しろ。まず、ミッション前の部屋のことまで思い出せ」

 

 おっさんに促されるまま、深呼吸を一回。

 そうだ。おっさんの顔色を見て、今回のミッションがちょっとヤバイんじゃないかって思って、それから……。 

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

9月18日

 

「ダー、乱暴にしないで、ちょっと!」

 

 ギャル子が悲鳴をあげる。おっさんが無理矢理その腕を引っ張って武器部屋に連れ込んだのだ。

 おっさんの様子がただごとではない。大学生、高校生と顔を見合わせる。

 これはどういうことだってばよ? 3人でそっと部屋を覗き込む。

 このとき、初めて俺は武器部屋の中の様子を知った。

 

 薄暗い電灯。“先生” のある部屋なんかよりよほど広い空間。そこに数台のバイクが鎮座していた。壁に掛けられているのは、おっさんしか使っているところを見たこと無い刀の……柄、だけか? 

 

「飛行ユニットの使い方は前回見ていたはずだ。転送され次第、ステルスを発動してエリアの高度いっぱいまで浮上しろ。絶対に一箇所に留まるな。交戦はしなくていい。今回は生き残ることだけ考えろ」

 

「ねぇ、何言って……」

 

()()()()()()()()()()()、次はお前が部屋の新人を導くんだ。わかったな」

 

「ねぇ、マジ無理! 説明してよ!」

 

「そんな暇はない!」

 

 バイクのうち一台にギャル子が乗せられていた。その傍らで何やら捲し立てるおっさん。

 

「うわぁ、なんじゃこりゃぁ!」

 

「あ、これ持っていってください。トリガー2つとも引いたら撃てますから」

 

 部屋の方では転送が始まってしまった。文化部ちゃんが転送されている新人の手にさり気なく銃を握らせているのが見えた。あの子、何気に優秀だよな。目まぐるしく変わる状況。新人どもを文化部ちゃんだけに任せるわけにもいかない。大学生と目配せする。

 

「……これは、佐藤さんから話を訊くべきだと思う」

 

 だよな。俺が訊いとく。俺がおっさんと付き合い一番長いし。

 

「わかった。新人への説明はこちらでする」

 

 大学生と高校生の二人が、部屋の方を振り返って新人にできる限りの説明を始めた。

 

 武器部屋の中では、おっさんがギャル子のバイクに何か取り付けようとしている。

 ん? あれってカーナビじゃね? バイクに取り付けて使うものだったのか。

 おっさん、100点とった特典をそうホイホイ他人に貸し出していいものなのか? 話を聞く限り、あれ生存装備……おや? 生存装備で最初から一人だけ逃してるのか?

 おっさんのしていることの意味に気がついて背筋に悪寒が走った。

 取り付けが終わったらしく、おっさんが叫ぶ。

 

「“先生”、ギャル子の転送を始めてくれ!」

 

「ねぇ、ダー! やだ、やだから! 死んじゃ、絶対、生きて帰ってきt……」

 

 ギャル子がバイクごと転送された。その言葉が途切れてかき消える。

 

「……坊主、お前を選んでやれなくてすまん」

 

 おっさんはこっちを振り返らずに謝ってきた。

 ガチシリアスなのはやめね? どうでもいいから、かいつまんで今回どうヤバイのかだけ教えてくれ。

 

「星人名称を持たないミッションの共通事項。今回のボスは単体で100点だ」

 

 それは具体的なようで、漠然とした指標。なぁ、それってアレキサンダー大王の4倍ヤバイってことでいいのか?

 

「4倍? 馬鹿を言うな。100点は、()()()()だ」

 

 その意味を数秒掛けて理解する。それにつれて、怖気が足元から這い上がってきた。

 なぁ、おっさん、勝算はあるんだよな? な?

 

 おっさんの返答は、俺の思った通りのものだった。

 

「勝算か? それがあるなら、はじめからギャル子を逃しておらん」

 

 おっさんは、喋りながらも手を止めない。壁から刀の柄を取って、スーツのジョイントに2つ取り付けた。俺の方にも順に3本放ってきた。俺と、大学生と高校生の分か?

 

「スーツの機能が生きていさえすれば、銃より有効な場面もあるかもしれん。保険で持っておけ」

 

 そうは言うが……使い方は教わっても、使う訓練をしていない武装だ。これを渡されたところで、ミッションの成功に寄与するかどうかはかなり怪しいところだ。それをおっさんがわからないはずがない。

 それでも、少しでも武装を増強させようとするのは、それだけ敵がヤバイからか?

 おっさんが武器部屋から出てくる。

 

「スーツ組! 今回は敵への接近は厳禁だ! ライフル型銃を使っての狙撃に徹しろ!

 大学生、今回は俺がプレッシャーガンを使う! 寄越せ!」

 

 簡潔で明瞭な指示。何より、自分が矢面に立つという判断。これでおっさんに従わないやつはいないだろう。だが、それもその指示が届いていればの話だ。

 

「……厨房は? 厨房はどこへ行った!?」

 

「先に転送されました! 俺が向こうで指示を伝えます!」

 

 おっさんが欠けている面子に気が付き、焦った声を出す。それに応える大学生。

 

「すまん、頼む!」

 

「了解。 “先生”、次は僕を転送してくれ!」

 

 大学生が転送された。

 

「次は俺だ! “先生”、急いでくれ!」

 

 あ、おい! まだ説明し足りてないことだらけじゃないか!?

 止めるのが間に合わないうちにおっさんの転送が開始された。

 

「……あ、僕の順番来たみたいです」

 

 高校生が、“先生” から自分の頭にポインターされたのに気がついた。

 あ、そういや。刀の柄を一本放って高校生に渡した。持ってけ高校生。守り刀になるといいな。

 高校生は小さく会釈して、そのまま転送されていった。

 ……ゴタゴタしてて大学生に刀渡し忘れた。どうしよ?

 

「私の番ですね。ナポリさん、レポートありがとうございました」

 

 文化部ちゃんの転送が開始されたのに気がつく。あ、ついででこれを持ってってくれ。

 大学生の分の刀を文化部ちゃんに手渡した。

 

「ふふっ、どうも。今回もお互い生き残れるといいですね」

 

 文化部ちゃんの悪戯な笑み。こんな状況なのに、不覚にもドキッとしてしまった。いや、こんな状況だからか?

 

 文化部ちゃんのあとは次々と新人たちが転送されていき……最後に俺の転送が開始された。

 そして。

 エリアに降りて早々に、「避けろ!」っておっさんが叫んでた。

 

「避けろ、坊主!」

 

 それが俺に向かって発された台詞だと気づいたときには遅かった。

 おっさんと100点の敵との戦闘に巻き込まれて……俺の右腕の肘から先が消し飛んだ。

 

 そして、そこから先のことを俺は殆ど覚えていない。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

「どうだ? 思い出したか」

 

 今回のミッションがやばかったことは十分にな。

 なぁ、俺がソクラテス星人の記憶が殆ど無い理由ってもしかして……。

 

「今回と理由は同じだ。あのときは左腕だったが」

 

 マジかよ。考えてみれば初参加がそれなのに、よく生きて帰れたな俺。

 いや……俺が力尽きる前に、おっさんが一人でミッションを終えたのか。やっぱおっさん別格だわ。

 半分称賛、半分呆れている俺を見ておっさんがクククッと笑い声を上げた。何かおかしいことを言ったか、俺?

 

「いや、何。ケツに火のついたお前さんの戦いぶりを、お前さんに見せてやれないのが残念だと思ってな」

 

 ん? そりゃ忘れてしまうから仕方ないだろ。素っ頓狂なこと言うなよ。今日のおっさん何かオカシイぞ。まぁ、俺の夢の中だから仕方ないのかもしれないが。

 俺の返答に、何がオカシイのかおっさんはただ笑って返す。

 

「……そうだな。最後だから、少し雑談をしよう」

 

 そして、結局夢の中で授業は行われなかった。

 最後まで、俺とおっさんの駄弁りで時間は過ぎていき、日が暮れた。

 

「本当のところ、坊主にも期待していたんだ。しぶといやつだってな」

 

 まぁ、実際のところはおっさんに負んぶに抱っこだっただけだと思うけどな。

 

「俺に万が一があったら、次は部屋のことをお前さんに任せるつもりだったが……。次はギャル子に任せた方が良さそうだ。あっちのが才能があるというより、お前さんの普段が頼りなさすぎる」

 

 バッサリ言うなよ。これでも結構傷つくんだぞ。

 

「大学生は……プレッシャーガンを持たせていれば大丈夫だな。夜更かしは程々にするように大学生に伝えておいてくれ」

 

 調査丸投げしといて、その言い方は無責任にも程がねぇかおっさん?

 

「高校生は……そうだな。もっと積極的に発言してくれると嬉しい。とても聡い子だ」

 

 ああ、わかる気がする。そろそろドイツ語をマスターしそうな勢いらしいぜ。

 

「文化部は……任せた。あの子はお前さんに懐いているようだからな」

 

 ……せやろか? 訓練から逃げられたことを俺は忘れてねーぞ。

 

「厨房には特に強く言っておけ。反省すれば許されるとは限らん。だが、真摯であり続けることをやめてはならない。少なくとも、不貞腐れてもどうにもならん、とな」

 

 急に厳しいなおい。大人でも、実践できるか怪しい道徳論を投げてくんなよ。

 ドッジの時も思ったが、おっさんガキ相手の方が容赦無いよな。俺のときにはちょっと手心入ってて、厨房に放る球には回転(スピン)かかってたの、俺気づいてたぞ。

 

「だが、その分子供の方が成長も早い。素直だからな。かえって大人の方が頑固で……やり方を変えられないものだ」 

 

 苦笑しながらそう言うおっさんの言い方には、わずかばかりの自嘲が含まれていたと思う。

 

「ギャル子には、そうだな……スマンとだけ伝えといてくれ」

 

 ……自分で、伝えろよ。たったそれだけじゃ、何もわからんと思うぜ。

 なぁ、さっきから気になってたんだけどよ、おっさんの言い方じゃまるで……。

 

 パン、と手をたたき合わせて俺の言葉を遮るおっさん。

 

「暗そうな顔をするな坊主! ……いつもみたいに茶化してくれ」

 

 そういうおっさんは……悔しさを滲ませながらも、しっかり笑っていた。

 

「なぁ、坊主。俺たちはやり直しのチャンスを与えられてあの部屋に集まった。

 だが、あの部屋の技術は俺達の命の価値を軽くする。そう思ったことは無いか?」

 

 ……急にどうしたよ。改まって。

 

「……おっと、授業を始めようと思ったところで日が暮れちまったな」

 

 窓の外に目をやると、何時の間にかとっぷり日が暮れていた。

 

「今日の授業はここまで。さぁ、坊主目を覚ませ」

 

 キンコンカーンコーンというチャイムの音。それに混じって、リーンリーンという音が聞こえ始めた。ミッションの終わりに部屋で採点が始まる音。

 視界がグラグラする。教室の空間が溶け始めて、何もかもがわからなくなる。虚空になる。

 

 視界の暗闇に横線が入った。瞼が開くときの光明。

 覚醒直前で意識が朦朧とする中、それでもおっさんの声だけは明瞭に聞こえた。

 

「いいか、坊主―――けして俺を再生しようとするな」

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

9月18日

 リーンリーンという音で目を覚ました俺は、既に部屋に帰ってきていた。

 ミッションが始まって転送されてから……記憶がキンクリされてやがる。

 右腕を触って確認する。ちゃんとくっついてやがる。ひとまず、胸を撫で下ろした。

 

 新人は一人も帰ってきていなかった。

 大学生はプレッシャーガン片手に。高校生は刀を。ギャル子はカーナビを胸に抱えていた。

 青い顔をしている厨房と、ライフルを抱えた文化部ちゃん。スーツ組は全員生還している。

 さんざん脅されたが、何とか全滅は免れている。おっさんのやつ、全くビビらせやがって……待て、おっさんはどこだ?

 俺の質問に誰も答えてくれない。

 大学生に答えを期待したが、顔を伏せた。ギャル子が泣き崩れる。

 何が何やらわからないうちに採点が始まった。

 

 “ナポリ 0点 足手まとい(笑)”

 “先生” に罵倒された上に点数が全て没収されてる。でも、今はそんなことはどうでもいい。“先生”、おっさんを出し忘れてるぞ。おっさんはどこだよ、なぁ!

 

 “だいがくせい 0点 がんばったけどルールなので(笑)”

 

「っ、ふざけるな! 確実に100点以上あるはずだ! 出せ、100点メニューを出せ!」

 

 採点の結果を見た大学生が激昂して叫ぶ。先生の画面を叩いて抗議するが……先生はそれに反応しないまま、次の採点結果を映し出した。

 

 “こうこうせい 0点 くろのけんし(笑)”

 

「僕も納得がいきません。“先生”、100点メニューを……佐藤さんを再生させてください」

 

 大学生と対称的に、穏やかに先生に語りかける高校生。だが、語調からは苛立ちが滲み出ていた。

 

 “ギャル子 0点 たたかわないのは逃げ(笑)”

 

「嘘つき、嘘つき……うぐぅぅぅ……」

 

 カーナビを抱きしめて泣くギャル子。こんなのどう言葉をかけりゃいいんだよ。

 なぁ、教えてくれよおっさん、なぁ。

 

 “文化部 0点 しっこくのスナイパー(笑)”

 

「……あまり怒らせると、バラバラにしますよ。私は本気です」

 

 苛立ちのあまり、先生に殺害予告をする文化部ちゃん。無機物に何言っても無駄だとは思うが……今回は俺が許す。もっと言ってやれ。

 

 “厨房 0点 ちっ、しとめそこねたか……(笑)”

 

「……俺、もう自由になりてぇ」

 

 俯いて泣き言を言う厨房。何だかんだこの部屋で一番年下なのだ。もっと労ってやるべきなのかもしれない。

 でも、このときの俺にそんなことを考える余裕は無かった。

 

 なぁ、先生、おっさんを出せよ! なぁ! おっさんが死ぬはずないだろ! 最強生物なめんな、なぁ、なぁ! おっさんを出せ! 出せよ!

 大学生、高校生と共に、先生に対してただひたすらに叫び続けた。

 採点を終えた先生は、画面が落ちて、その後うんとすんとも言わない。

 

 ……おっさんに何回命を救われたと思ってんだ。おっさんが死ぬわけ無いだろ。

 俺は……俺は、そんな、の、認めねぇぞ。認めて、たまるか……。

 気がついたら、誰ともなく黒い球に縋り付いて泣いていた。

 

 結局、その日の夜、おっさんは部屋に帰って来なかった。





 しんじまったひとのでーたをこうかいしておきます

・おっさん
 離婚経験あり。元体育教師。現在休職中。
 修学旅行の引率中、バスが事故を起こし引率のクラスごと部屋に送られる。
 再生したかった人数はクラスの20人、述べクリア回数は5回。
 ギャル子に再生したい人数を問われて答えなかったのは、それが現実的な数字ではないと自覚があったから。

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