GANTZ観察日記   作:時械神メタイオン

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 一部原作との時系列に齟齬があるため、完結後に修正する可能性あり。
 
 タイトルからわかるとおり主人公視点。


Mission 10. ヒーローの Roll Play をしてください.

12月2日

 どうしても今日、日記をつけておこうと思った。

 

 1

 

 随分久しぶりに日記を付けた。

 

 正直な話、100点ボスと戦った直後は、何をすれば良いのかわかんなかった。

 正体のわからない罪悪感に苛まされて、夜中に目が覚めて……無性に泣きたくなる、何日かはそんな夜が続いた。

 

 それでも前は向かなくちゃいけない。そうじゃなきゃ死ぬだけだ。

 1週間ほどして、部屋の面子にメールを回した。また集まって話そうと提案をする。

 

 相変わらず文化部ちゃんには断られた。「バイトがあるので」だと。俺の中で文化部ちゃんのヤバさのレベルが一段階上がる。100点ボス戦経験してまだ訓練に参加しないというのだから筋金入りだ。

 

 驚いたのは、大学生と高校生が参加を見送ったことだった。

 

「やることがある。成果次第では十分お釣りが来る。信じてくれ」

「僕は藤原さんを手伝います。船堀さんは厨房くんの面倒をお願いします」

 

 これに関しては、実際に部屋の情報交換サイトを見つけてきたわけで。

 大学生が持ち帰ってきた情報の数々は、多分今後、俺たちの生命線とも言えるものだ。

 

 ギャル子は……正直、連絡するのを躊躇った。

 何を言ってやれる? 何をしてやれる?

 それ以前に、俺は記憶が抜け落ちてしまっているが……俺は()()()()()()()()()()()

 

 どんだけ敵が強かろうと、ただおっさんがやられるわけがない。

 おっさんは、何かしら判断ミスをしたのだ。とんでもないミスを。そのミスをした理由に……きっと俺が一枚噛んでる。記憶は無いのに、そんな気がして仕方なかった。

 

 ……罵倒されるなら、されよう。そう思って、連絡を入れる。

 

 

 

 返信の結果は拍子抜けするものだった。

 

「そんな気分じゃないから、ごめん、行けない。

 ダーとの最後の会話、聞いてたでしょ?

 ごめん、纏めるのとか無理だから、一番の古株のあんたがリーダーやってて」

 

 結局、呼び出すのに一番難儀するだろうと思われていた厨房だけが集合場所にやって来た。

 

「……誰も来てねーじゃん」

 

 厨房がボソリと漏らす。

 

 結局、厨房と二人きりで少し鬼ごっこをしたら、帰りにラーメンを奢ってやる。

 そんなやりとりが数日続いた。

 

 

 

 2

 

 聞いた話だが、あのミッションのさなか、おっさんは一人でボスを引きつけ続けていたらしい。

 

 俺はその戦闘に巻き込まれる形で負傷し……それでもおっさんの援護をしようと、意識がある間は戦闘を続けていた、らしい。

 

 いや、そんなわけあるか。腕が吹っ飛んだところまでは記憶がある。その後も戦い続けるって、俺はサイボーグか何かか?

 

 結局、俺もおっさんもボスに吹っ飛ばされて……でも、おっさんは()()()退()()()

 そのシーンを大学生も高校生も直接確認してはいない。爆音が止んで、戦局の中心だった場所に降りたところ、瀕死のおっさんと俺が転がっていたらしい。

 でもそこに……()()()()()()()()()()

 

 ボスは粉々に砕けたのか。それとも逃げただけか。判断を保留し、二人はおっさんと俺を担いで避難。

 その後は、ふざけた数の雑魚敵を掃討するうちに時間切れになった。

 それがルシファー戦の顛末だと、大学生は言っていた。

 

 どこまで本当なのか疑わしいが……大学生が見たとおりなら、俺がおっさんの足を引っ張ったに違いない、そんな気がするのだ。

 

 おっさんは、アリストテレス星人の時もアレキサンダー星人の時も俺のことを庇ってくれた。

 普段でさえ、俺はロクにおっさんのサポートなんて務まらなくて、結局おっさんが一人で全部持ってくのに……片腕で俺に何かができたとは思えない。

 

 まだ時折、あの日の夢に魘される。目が覚めたら、何も覚えていないのに、「ああ、あの夜のことか」とぼんやり感じるのだ。そして、どうしようもなく悲しくなって……。

 

 俺のことを顧みなければ、おっさんは部屋に帰ってこれていた。そんな気がするのだ。

 本当は、あの日死ぬのは俺だったはずで。

 想像がどこまで正しいかはわからない。おっさんなら1人で戦っていたら(俺を庇わなきゃ)勝っていたはずだ、なんて考えてもしまうが、それは憧れから来る盲信で、どのみち、あの日俺たちは負けるみちしかなかったのかもしれない。

 それでも……おっさんが俺に()()()()()()って確信だけはある。

 なのに、俺は何もわからない。何も覚えていない。

 

 それが、どうしようもなく悔しい。

 

 

 

 3 

 

 大学生と高校生が板を発見したことに少なからず驚いた。

 マジで日本中にあの黒い球と同じものがあって、俺らがさせられているような戦いを繰り広げているらしい。

 別におっさんの話を疑ってたわけじゃないが……今更ながら、自分が巻き込まれている事態の、その意味について気になってくる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 少なくとも、“先生”の使う言語は宇宙人のものなんかじゃないしな。

 それなら、ミッションの裏には理解できる意図が見え隠れしているはずなのだ。

 

 秘匿したいはずなのに、想像以上に規模の大きい事態。星人の正体の不明瞭さ。現代の工学技術を飛び越えた兵器の数々の存在とその必要性。

 これらを一元的に説明できる理屈があるだろうか?

 

 ……宇宙人との戦争、なんてな。そんな馬鹿げた話があるわけないか。

 一瞬、“カタストロフィ” から連想してそんなことを考える。

 

 こんな話をしたら笑われちまうな。それかけた思考を引き戻して、大学生の報告に耳を傾けた。

 ペナルティの存在を聞いて、面子全体に情報を周知する。相変わらず訓練に参加しない文化部ちゃんに、次回だけは連携に参加するよう連絡だけは密に取り合った。

 結局、初参加だった女の子拾って、俺が一番連携を乱していたわけだが。

 

 いろいろあってミッションの意味についてはすっかり考えるのを忘れてしまっていた。

 1番の開放を選びさえすれば、関係なくなる話なのだから、考えるだけ無駄なのかもしれない。

 

 

 

 4

 

 8回目のミッション内容については日記にもつけておこう。

 相手の呼称はヘーゲル星人。ボスが1体と、飛行能力を持った通常星人の群れ。

 新人は女子小学生が1人。先生命名“ JS ”。毎回思うが、先生の命名は直截に過ぎる。

 

 俺は新人保護してて、ほとんど戦闘らしい戦闘はできなかった。我ながらよく15点取って生きて帰ってこれたな。

 実は、何回か通常星人と小競り合いになりかけたが、その都度文化部ちゃんが狙撃で援護してくれて事なきを得た。

 ミッション後にお礼を言ったら、誤魔化されたけど。いや、君以外に動く相手にピンポイント射撃できるやついないでしょ。

 

「そもそも、それならそれで、点数横取りしたって怒らないんですか?」

 

 ……あー、考えてみたら、それもそうか。

 しかし、そうじゃなきゃ、女の子が死んでたかもしれない。それにだ。

 俺は文化部ちゃんの点数について指摘する。

 

 “文化部 18点 つんデレスナイパー”

 

 明らかにギリギリに調整された点数。多分、俺の援護以外で点数を取っていないのだろう。

 転送直前に、「新人に構うのは危険です!」って俺を引き止めたことも含めて……明らかに今回、気をつかった戦い方をしている。

 点数の取り合いについては、むしろ他の面子の方が気にしてなかったくらいで、大学生が39点、高校生が33点と、結構な取り方をしていた。

 そんで厨房が27点、ギャル子は……飛行ユニットでヘーゲル星人を雑にはたき落とす戦法で48点をマークしていた。

 1体1点だとは流石に思わなかったが、もし2点だったら危なかったのは文化部ちゃんだ。

 

 わがままに付き合わせてごめん。助けてくれてありがとう。ちゃんと言葉にして伝えた。

 

「そう思うなら……何か甘いものを奢ってください。

 言葉だけで誠意を伝えた気になるのは、怠慢ですよ?」

 

 そんな約束をしてたはずだけど、でも、結局その後はお互い訓練やバイトにかまけてすっかり頭から抜けてしまっていた。

 忘れないうちに、約束守っとかなきゃな。

 

 

 

 5

 

 俺も掲示板を覗いて、思ったより雑談ばっかでおどけた空気が漂っていることに、最初は困惑した。

 すぐに勘違いだと気付かされたが。

 ここの連中は、ただそのノリのまま真剣な話も陰惨な話もできるだけだ。

 ネット掲示板というメディアの特性も多分に影響しているだろうが。

 

 板を覗くようになってからは怒涛だった。

 

 情報交換を経て、3番について()()()()()()()

 思い悩む間もなく、おっさんの荷物を引き取ることになった。

 おっさんも()()()()()ことを知って、大学生と高校生と一緒に声あげて泣いた。

 小学生が次回生き残れる可能性が低いことを知って、対策を練った。

 

 そうして、俺達はおっさん抜きの2回目のミッションに臨むことになった。

 

 

 

 6

 

 やっと本題だ。

 9回目のミッションが終わった。だから日記をつけようと思ったのだ。

 

 今回の敵は、ホッブズ星人。

 まさか、おっさん抜きで2回も生き残れるとは思わなかったが……俺のゴールはまだ遥か遠くだ。

 ゴールの最低要件は、女の子をクリアーさせた上で、俺がクリアーすること。

 おっさんは50点を優に越して取る回もあったから……もしかしたら、2回もあればあの部屋から抜け出すことも可能なのか、なんてふっと思い浮かぶ。

 ……いや、無理だな。あの点数はプレッシャーガンありきで考えたほうがいい。

 

 今回の敵と戦って、感じたのはおっさんの抜けた穴のでかさだ。

 今回参加した新人は3人。その3人とも、ミッションの終わりに部屋に帰ってくることができなかった。 

 

 敵が多すぎた。

 1体1点の敵が群れ……というより()()となって襲いかかってきた。

 プレッシャーガンを持つ大学生が、対処が間に合わないと察して、退避を余儀なくされる物量。

 戦ってる途中では1体1体の点数は不明だったが、全部倒せれば一発クリアも夢じゃないと思えた。

 けど、こんなの相手しきれるか。脳裏に、ルシファー戦らしき光景が一部フラッシュ・バックする。……ああ、こんな感じだったのか。

 

 災害と見紛う星人の濁流に、確保が間に合わず新人たちが呑み込まれた。

 ステルスを使っている部屋の面子の安否は……レーダーを覗く限り、何とか無事だ。

 

 屋上かどこか、高所に足場を確保したのだろう。大学生がプレッシャーガンを使う爆音がこちらにも響いてきた。

 こちらはこちらで、ハンドガンで数体撃って確認したが、再生能力の類は無し。物量が厄介なだけで、特殊な能力は見当たらない。

 最初は面食らったが、全然大したことない敵だ。ステルスを看破する知能があるようにも思えない。

 あげく、射撃に警戒する様子もなく、同族の死体に群がって貪り始める。

 

 印象としては……飢えた獣だ。大学生も高校生も既にこいつらのレベルを見切っている頃だろう。

 大学生一人で殲滅は可能な相手だと判じ、俺はやるべきことをやることにした。

 武器を殺傷用のハンドガンから、捕獲銃へと持ち替える。

 

 俺が掲示板で受けたアドバイスは、それそのものは戦術と言えないようなものだった。

 どちらかと言えば、改めて部屋の装備の説明を受けたというべきだろう。

 

 ◇

 

『えー、ガキがすぐ死ぬ主な理由は、足が遅いからです。

 体格の関係で、単純に移動速度が大人に比べて遅いので、割合すぐに距離を詰められるんですね。

 本来、スーツの耐久は保険として運用するべきもので、もみくちゃにされると命の保証はありません。』

 

『武器が完全に大人サイズに設計されてますね。

 子供が扱うにはレーダーも機能が複雑だし、銃の類も大きすぎて手に上手く収まりません。

 携帯ブレード? 以下の理由から、あまりオススメしません。

 まぁ、そんなこんな、ガキは武器を持たせても、ちょっと()()()()場面が多いです。

 迷ったら、スーツ任せで殴ったほうがマシまでありますが、同じく以下の理由から(以下略)』

 

『これは掲示板の通説ですが、スーツの筋力のパンプアップ量に関しては、元の身体能力が高ければ高いほどその恩恵が大きいとされています。

 おそらく、筋力倍加の最大振れ幅には一定の比例係数が存在します。比例係数K=5千~1万くらい?

 まぁ、具体的な数字に関しては適当なこと言いました。本気にしなくていいです。

 おわかりだと思いますが、子供の筋力ではパンプアップしても大人の半分もパワーがでません。』

 

『以上の理由が、児童の生存率の数字の低さの裏付けですね。

 ぶっちゃけた話、たま○っちより死にます。』

 

『共倒れが起きるパターンについては……説明する必要無いですね。

 群馬部屋式戦闘メソッドの過去分書き込み参照してく―ださい。』

 

 

 

 

『あるにはあるぞ、ガキを安全に返す方法。』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 ◇

 

 俺は、ミッションの開始の転送直後から、女子小学生をずっと左腕で抱きかかえていた。

 言われてみればごくごく簡単な話だ。

 

 移動するのも、姿を隠すのも、武器を扱うのも、全部()()()()()()()

 ステルスの隠蔽範囲は、自身と手に持っている装備だけじゃなく、()()()()()()()()()()()までくらいなら余裕でカバーしている。

 本当に、言われてみればごくごく簡単な話で……ステルスを個人戦術の単位で考えた時点で抜け落ちてしまう発想。

 1つの事態を多角的に眺めることができる。それこそ情報交換の醍醐味だ。発想一つで不可能が可能になるなんてざらにある話だしな。

 

 右手で捕獲銃を構える。こいつはおっさんが「役に立たない」と切り捨てていたせいで、俺もこれまで手に取ることがなかった。

 ワイヤーを射出して、敵を拘束後、何処かに転送する機能を持った銃。即座に敵を拘束できるのが強みだが、()()()()()()()()()()()。早い話、連続使用ができないのだ。一応、ワイヤーで拘束するだけなら連射可能。拘束機能に主眼を置けば使い勝手が変わるが、殺傷能力を欠くため「二度手間だ」というのがおっさんの評価だった。

 

 だが、この武器にも斜め上の使い途がある。オンラインゲーでいうところの養殖だ。

 

 ◇

 

『お前が撃って拘束したら、同じ銃を渡して最後に転送のトリガー引かせるだけでいい。

 2人で1丁の捕獲銃を使った場合、Aが拘束して、Bが転送のトリガーを引くと、点数は全てBに入る。

 

 100点ボス直後のミッション、ガキを小脇に抱えてドンパチ(銃撃戦)してたんだが……最後の最後でガキにも点数を取らせることができないかって試してみたら、意外といけて、それで捕獲銃が使えることに気がついたんだ』 

 

 ◇

 

 ホッブズ星人の群れに向けて、雑に数発、ワイヤーを叩き込む。

 とくに避けられることも拘束を振り切られることもなく、ホッブズ星人を捕まえることに成功した。

 捕まったホッブズ星人達は藻掻いているが、他の奴は気にした様子もない。

 

 いけるな。そう判断して、女の子に捕獲銃を手渡した。

 拘束してる1体に銃口を向けさせて、上のトリガーだけ引くように指示する。

 

 照準が狂って二度三度空撃ちした後、銃口を向けられていたその1体が光の筋となって()へと登っていった。

 

 こうやって、俺は女の子に点数を取らせることに成功した。

 

 あとはその繰り返し。大学生が全部片付けてしまう前に送れるだけ送ればいい。そう考えた。

 だが、そこはそうと問屋が卸さなかったらしい。

 

「船堀さん、船堀さん! ボスです!」

 

 焦った声。振り返ると、ステルスを解除した高校生がこっちに向かって必死に叫んでいる。

 

「藤原さんが負傷しました! 一度合流してください!」

 

 

 

 7

 

 分断されてすぐ、大学生はボスと会敵していたらしい。

 俺が聞いていた爆音は、ボスとの戦闘音。

 

「怪我は大したこと無い。右腕がいかれただけだ。スーツの耐久はまだ残っている」

 

 大学生が痛みに顔をしかめながら言った。

 

「何らかの方法でステルスを看破しているみたいです。

 距離を取ると大丈夫みたいですが、プレッシャーガンの射程からも外れます」

 

 高校生がそう報告する。

 

「俺、見てたんだけど、やべぇよ。モブを呑み込んで傷を治してた。

 せっかく藤原のおっさんが削ってたのに、それが全部ちゃらにされてる」

 

 厨房が青褪めて呻く。

 

 俺たちの視線の先にいたのは、巨大な蛇のような怪物。這って移動するそいつの動線上にいたホッブズ星人は、全部呑み込まれてしまう。

 その体の至る箇所に、小さく弾けたような傷がついていってた。おそらく、遠方から文化部ちゃんが狙撃を続けているのだ。

 そして、傷ができるそばから肉の芽が小さく盛り上がって、傷を治していくのが見えた。

 異常な再生能力持ち。俺がさっきまで戦ってたホッブズ星人は()に過ぎないわけだ。

 

 さらに、怪物の頭上で光が瞬いているのが見えた。ステルス機能が干渉を引き起こしているときのスパーク。

 多分、ギャル子が飛行ユニット使って怪物の攻撃が届くか届かないかの高度で接近を繰り返している。ボスを引き付けて俺たちが作戦を立てる時間を稼いでくれているのだ。

 

 ……もたもたしてる暇は無さそうだ。

 なぁ、先にモブを一掃してから遠巻きに削るんじゃダメなのか?

 餌がなくなれば再生能力の条件を満たさなくなるように見えるが……。そう確認を取った。 

 

「ダメみたいです。プレッシャーガンに巻き込まれた通常星人の死体ごと呑み込んでいました。

 それに、通常星人の数が多すぎます。その手間をかけている間に、時間切れになる可能性が高いです」

 

 高校生の指摘を受けてレーダーを確認する。残り時間が20分を切っていた。

 

「ボスと、餌となる星人を分断して、同時に落としていって時間ギリギリだと思う。

 問題は “誰がボスとやるか” なんだけど……すまない、しくじった」

 

 大学生が歯噛みする。通常星人相手ならまだしも、痛みでパフォーマンスの落ちている今、ボスの相手が務まるかは怪しい。その自覚があるのだろう。

 

「……誰がやるんだよ、そんなの」

 

 厨房がつぶやきを漏らす。

 

 

 

 迷ったのは数秒だったと思う。俺は厨房の腕に女の子を押し付けた。

 

「船堀のおっさん?」

「リーダーさん……?」

 

 厨房と女の子が困惑した声をあげる。それに答えず、俺は全体に指示を出した。

 

“俺があのボスをエリアの端に誘導する。仕留めるのは……高校生、頼めるか?”

 

 高校生がうなずいて、肯定の意思を見せる。

 

“俺が前方からブレードで注意を引きつける。

 そこを高校生が背後からプレッシャーガンで奇襲する形になるのか?

 仕掛けるタイミングは任せる。チャンスは一度のつもりで挑んでくれ”

 

 大学生がプレッシャーガンを高校生に手渡した。交換で、高校生が携帯ブレードを大学生に渡す。

 

“大学生は、モブの掃討を頼む。スーツもステルスもまだ生きてるよな?”

 

「ああ、雑魚相手なら片腕でもなんとか問題ないと思う」

 

 痛みに顔をしかめながらも、大学生がうなずき返してくる。

 

“頼んだ。それで、厨房は……女の子を頼む。悪い、今回は点数我慢してくれ”

 

「いいけど……、本気かよ」

 

 厨房は、正気じゃない奴を見る目で俺を見てきた。

 

 まぁ、この時は俺も緊張でおかしくなっていたんだと思う。大分()()()ことを言ってしまった自覚はある。

 

“ここで……俺達だけであいつを倒さなきゃ……俺達は前に進めないんだ”

 

 やめときゃいいのに、ボスを指差して()()()しまう。

 

“おっさんに、見せてやろうぜ。おっさんの教え子どもができるってところをよ”

 

 ……これで、記憶無くさずに帰ってこれてりゃ、もう少し格好がついたのかもしれないけどな。

 

 

 

 8

 

 そして気がついたら、部屋に帰ってきていた。

 軽く混乱する。ボスはどうなったんだ?

 

 俺が覚えていたのは、ボスの攻撃が目の前に迫ってくるところまで。そこで視界が暗転して……気がついたら、もうここに居た。

 

 俺が最初の転送。次にプレッシャーガンを持って高校生が転送されてきた。

 

「あれ、僕は……? すみません船堀さん、ボスはどうなりました?」

 

 ……高校生も記憶が定かでなかった。心配になってくる。ちゃんと俺たちはボスをやれたのか?

 

「俺は……あれ? どうしてプレッシャーガンを君が?」

 

 大学生が転送されてきて、高校生の手に渡っているプレッシャーガンを見て呆然としていた。

 やはり記憶が欠けている。

 

 不安が最高潮に達した。俺はともかく、現在部屋の最高戦力の二人がこの様子って。マジかよ。

 他の皆は無事なのか。何でまだ転送されないんだ? 先生、他の皆はまだかよ、なぁ!

 

 

 

 だが結局、その心配は杞憂に終わった。

 

 青褪めたままの厨房が転送されてくる。俺たちを見て一瞬ギョッとしていた。

 

 ギャル子が転送されてきて、俺たちを見て同じように固まった。それで何故か後ろを向く。

 すすり泣く声。ああ、涙を見せたくないのか。

 ……これ、本格的に俺たち死んだと思われてたパターンじゃん。

 

 文化部ちゃんが転送されてきた。ああ、また驚かれるなって思ったが……俺の顔を見つけて、あからさまにホッとした表情になる。

 

「信じていますけど……あまり、無茶したらだめですよ?」

 

 文化部ちゃんに、そんな言葉をかけられた。予想外の反応に少し動揺する。「あっ、はい」なんてくっそダサい返答してしまって、クスクスと笑われた。

 え、ちょっといい空気じゃね?

 

 そんなんだから、女の子が最後に転送されてきたのも気が付かなかった。

 ドン、と背後から何か小さい塊にぶつかられてバランスを崩す。

 

「よがっ、よがっだァァァ……リーダーさん、いぎ、いき……っでたァァァ……」

 

 転んだ俺に、女の子が泣きながら縋り付いてくる。

 ……たった二回のミッションでよくよく懐かれたもんだ。

 

 というか、えー。やっぱ俺たち、今回相当ヤバかったのか。

 この中の誰が欠けたって可怪しくなかったことに、少なからずゾッとした。

 

 

 

 9

 

 採点が始まった。

 

 ギャル子が前回からの合計で67点。文化部ちゃんが48点。途中からボスの牽制に回ってたせいで、点数が伸びなかったみたいだ。

 女の子は16点だった。何体送ったかを思い出して、今回の星人の点数を算定する。1体1点か。

 厨房が88点まで点を伸ばしていた。序盤の入食い状態のときに稼いでいたのだろう。

 俺は17点取って、計32点だった。あれ?

 ハンドガンで倒したのが多くても4体くらいのはず。どのタイミングで点をとったんだ?

 

 一人首を傾げていると、大学生の採点結果が表示された。それを見て部屋の面子が皆息を呑む。

 

“だいがくせい TOTAL 127点 100点めにゅ~からすきなものをえらんでくだちい”

 

「2番だ。プレッシャーガンを俺にも用意してくれ」 

 

 大学生は迷わなかった。

 

「1番か……3番じゃなくていいわけ?」

 

 ギャル子が投げかけた疑問に、大学生が首を横に振った。

 

「君も3番については()()()()()はずだ。

 1番を選ばないのは……昔から気になったことには徹底的にやる(たち)なだけだよ」

 

 大学生にそう返されて、ギャル子が顔を背ける。

 

 そして、画面が切り替わった。

 再び、部屋の面子が息を呑んだ。

 

「……一番最後、ボスを仕留めていたのは斎藤くんのプレッシャーガンの一撃でした。

 派手に下級個体を巻き込んでいたのも見えてました。

 この結果は何も不思議なことじゃないです」

 

 文化部ちゃんの説明に一応の納得を覚える。それなしでは、とても目の前の点数が信じられなかった。

 

“こうこうせい TOTAL 119点 100点めにゅ~からすきなものをえらんでくだちい” 

 

 1回のミッションで二人のクリアーが現れる事態。それだけ今回のミッションが危険だったことを意味しているわけで。

 

「僕は……ぼく、は……」

 

 高校生がかすれた声を漏らす。

 画面にかじりつく姿、その背中から戸惑っているのが伝わってきた。

 

 ……俺達は、3番をきっと選ばない。なら、1番だ。1番しか無い。

 けど、今まで一緒に戦ってきた大学生が残留を選択したことに思うところがあるのだろう。

 

 高校生が散々迷うのを見ていて……ギャル子は口を開きかけて、けど思い直したように閉じる。

 大学生は、腕を組んだまま壁にもたれ掛かって何も言わない。多分、今自分が何を言っても逆効果だと思っているのだろう。

 厨房はすげーすげー言ってるだけで、空気を読めてないし、女の子は誰かに説明をして欲しそうにキョロキョロしている。

 

 文化部ちゃんと目が合った。……正直、君はどう思う?

 文化部ちゃんは静かに首を横に振る。

 

「私からは、何も」

 

 あー、これは俺が言わなきゃいけないパターンか。  

 ……言わなきゃ、きっと後悔するよな。

 

 なぁ、高校生。聞いて欲しいことがあるんだが。

 俺は、おっさんに言ってやれなくてずっと後悔していた台詞を高校生に投げかける。

 

 

 

 皆からの祝福を受けながら今晩、一人の少年が部屋の呪縛から解放された。




 かいほうされたひとのでーたをこうかいしておきます

・こうこうせい
 高3。実は受験戦争真っ只中に居た。
 記憶を失ったことにより、一部受験勉強の記憶も消えてしまう事態に。
 だが、普通に対応能力が高いので何とか切り抜けていくだろう。
 高校ではクイズ同好会に所属していたが5月に退会済み。

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