魔法の世界のアリス   作:マジッQ

5 / 37
アリスの魔法と平凡な日々

トロール侵入の日から幾日かが経った。

あの日、談話室へと戻った私はパドマとアンソニーに捕まり、何で一人危険なことをしたのか、トロールはどうなったのかを問い詰められた。特に隠すことではなかったので、聞かれた事には答えていく。話の途中で、私がトロールを倒したことを聞いたパドマとアンソニーは驚いていた。

 

また、最近ハーマイオニーがハリーとロンと一緒にいるところをよく見かけるようになった。どうやら、あの日を境に仲直りをしたらしい。図書室でハーマイオニーが楽しそうに二人について話してくるので、うまくやっているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大広間で朝食を食べながら周囲を見渡す。生徒たちは全員がどこか興奮していて、とくにグリフィンドールとスリザリンの寮生の熱気がすごい。もちろん、レイブンクローやハッフルパフも負けず劣らずといった感じだ。中には賭けをやっている生徒もいる。賭けの内容は、グリフィンドールとスリザリンどちらが勝つかだ。

 

「ねぇ、アリスはどっちが勝つと思う?」

 

「そうね。勝つかは分からないけど、スリザリンが優勢じゃないかしら。ここ数年はずっとスリザリンが勝ち越しているみたいだし」

 

今日は私たち一年生が学校に入ってから初めて行われるクィディッチの試合日だ。初戦を飾るのはグリフィンドールとスリザリンの二寮で、いつにもまして険悪な雰囲気を放っている。

 

「でも、私はグリフィンドールに頑張ってもらいたいかな。いつまでもスリザリンに負けてばっかりじゃ、やっぱり悔しいじゃない」

 

「今年はハリーがグリフィンドールのシーカーだからね。ハリーがどれだけ早くスニッチを見つけられるかに掛かっているでしょ」

 

そう言って、私はグリフィンドールのテーブルに座るハリーを見る。試合当日だというのに顔色が悪く、朝食も禄に食べていないようだ。ハーマイオニーとロンがハリーにしきりに声を掛けている。

 

「大丈夫かしらね?」

 

「う~ん。ちょっと厳しそうかな?」

 

「本番に強いっていうパターンもあるよ」

 

パドマとアンソニーも、調子の悪そうなハリーを見て不安に思ったようだ。ふと、ハリーたちの方に視線を向けると、スネイプ先生がハリーたちに何か話しかけていた。スネイプ先生はすぐに離れていったけど、そのときの歩き方が少し不自然なのが気になった。右足を引きずるようにして歩いているので、怪我でもしたのだろうか。

 

 

 

 

十一時になると、クィディッチ競技場の観客席が溢れるほどに人が集まっていた。観客席は試合がよく見えるように高いところに設けられている。外の空気が凍るほどに冷たく、吹き付ける風も刺すような冷たさで、生徒はマントやマフラーを着込み、身を寄せ合うようにして試合が始まるのを待っている。

 

十分後、いよいよ試合が始まるのか、教員や来賓のいる観客席からアナウンスが聞こえてきた。たしか、グリフィンドールのリー・ジョーダンという男の人だ。どうやら彼が試合の実況をするらしい。

競技場に選手たちが箒に乗って入場してきた。グリフィンドールは赤色のユニフォーム、スリザリンは緑色のユニフォームを着ている。ジョーダンが選手たちの紹介をしていく中、ハリーを見る。まだ緊張しているようだけど、今朝に比べてずいぶんと落ち着いているようだ。

 

選手の紹介が終わり地上を見ると、いつのまにかフーチ先生が立っていた。手にはクアッフルを持ち、地面には木箱が置いてある。木箱がガタガタと動いているのは、恐らく中でブラッジャーが暴れているのだろう。

 

「正々堂々と戦ってください!期待していますよ!」

 

フーチ先生は木箱を蹴り、その衝撃で蓋が開かれる。中からブラッジャーが勢いよく飛び出し、スニッチは上下左右に物凄い速さで動き、すぐに見えなくなってしまった。

 

そして、いよいよクアッフルが高く放り投げられて試合が始まった。最初にクアッフルを取ったのはグリフィンドールで、流れるようなパスワークでスリザリンのゴールへと向かう。スリザリンはクアッフルを奪おうとするが、グリフィンドールはスリザリンをかわしてクアッフルをゴールへと叩き込み先取点を取った。

 

「さぁさ、早くもグリフィンドールが十点獲得です。クアッフルはスリザリンへと移りました……おっと!グリフィンドールがクアッフルを奪った!パスの隙を狙った素晴らしいプレーです!そのままゴールへと向かい……ゴール!!絶妙なタイミングでフェイントを入れて見事ゴールを決めました!再び十点!この調子でグリフィンドールにはスリザリンをボッコボコにしてもらいたいです!」

 

「ジョーダン!!」

 

「おっと、失礼しました。では実況を続けていきます、スリザリンがクアッフルを―――」

 

 

 

 

「随分とグリフィンドール贔屓な実況ね」

 

私は実況の身内贔屓な解説を聞いていて、少し不愉快になっていた。確かに自分の所属する寮を応援したい気持ちは分かるが、これはいくらなんでもやり過ぎだろう。グリフィンドールが良いプレーをしたときやスリザリンが反則紛いのプレーをしたときは特にそれが目立つ。マクゴナガル先生から注意を受けているが、懲りた様子はみられない。

 

まぁ、スリザリンのプレーも過激過ぎと言えばその通りだけど。フーチ先生や実況は気がついていないようだが、接触した際に死角を利用して服を掴んだり肘を当てたりしている。悪質なプレーではあるけれど、審判の目を掻い潜って相手の邪魔をするというのはマグルの試合にだってある。反則はバレなければ反則じゃないとは、偉い人はよく言ったものだ。

 

 

 

その後も試合は進んでいき、五〇点対二〇点でスリザリンがリードしている。序盤はグリフィンドールが優勢だったが、キーパーでありキャプテンのオリバー・ウッドが一時的に外れたのが痛かった。スリザリンのキャプテンが打ったブラッジャーに当たったのが原因で、復帰した今も痛そうに顔を歪めている。

 

スリザリンが再び得点したとき、ハリーが猛スピードで動き出した。一歩遅れて、スリザリンのシーカーもハリーを追って動き出す。観客が一斉に沸いた。恐らくスニッチを見つけたのだろう。ハリーは一直線に飛んでいくが、突然不自然な動きをし始めた。

 

「どうしたんだ、ポッターは」

 

アンソニーが不思議そうに言う。それもそうだろう。今のハリーはスニッチを追うことを突如止めて、箒を滅茶苦茶に動かしているのだから。箒の動きに耐えているのか、必死そうに箒にしがみついている。

 

「箒が暴走しているように見えるけど、箒って暴走するものなの?」

 

「いや、箒は高度な魔法処理がされているから暴走なんてことは起きないはずだけど。それにハリーが使っているのは最新のニンバス2000だ。古い箒ならともかく、あの箒が故障を起こすとも思えないし」

 

「そう」

 

アンソニーの説明を聞いて再びハリーに視線を戻す。箒の動きはさっきよりも激しくなっており、ハリーはしがみつくので精一杯といった感じだ。

ふと、視線を下に移す。すると教員のいる観客席で気になるのを見た。手に持っている双眼鏡でもう一度教員席を覗く。すると、スネイプ先生が口を動かしているのが見えた。後ろを見るとクィレル先生も口を素早く動かしている。二人は視線を動かさずに、一点を凝視していた。その視線を追っていくと、どうやらハリーを見ているようだ。

 

以前読んだ本に書いてあった内容を思い出す。相手に継続的に呪いを掛けるには対象のことを見続けなければならないと本には書いてあった。二人が何を喋っているのかは分からないが、もし呪いだとするならハリーの箒が暴走しているのはそれが原因である可能性が高い。いくら魔法処理がされている箒とはいえ、強力な呪いにまで対抗できるものかは不明だ。

だが、二人掛りで呪いを掛けているのだとしたら、ハリーはとっくに箒から落とされていてもおかしくない。とすれば、一方が呪いを掛け、一方が反対呪文で呪いに対抗しているとも考えられる。

 

私が考えていると、教員席が急に慌しくなった。再び双眼鏡で覗くと、スネイプ先生の足元、というかマントの裾が燃えているようだった。周りの観客は距離を取っており、押されたのかクィレル先生は席の後ろで倒れていた。

何でいきなりスネイプ先生の服が燃えたのか疑問に思ったが、視界の隅で何かが動いたのを見たので、そちらに視線を動かす。すると、ハーマイオニーが急いで観客席の階段を下りて行くのが見えた。

 

私がハーマイオニーの行動に疑問に思っていると、観客が一斉に歓声を上げた。どうやら、箒の暴走が収まり復帰したハリーが再びスニッチを追いかけているようだ。そのスピードは速く、先行していたスリザリンのシーカーに僅か数秒で追いつく。二人は激しく肩をぶつけ合いながら急降下するスニッチを追っていたけど、スニッチが急降下を止める気配がなく、地面にぶつかりそうになったため、スリザリンのシーカーは先に離脱をした。

ハリーはまだスニッチを追い続け、地面にぶつかる寸前に箒を水平にもっていきスニッチに手を伸ばす。だが僅かに届かず、一旦仕切りなおしかと思ったところで、ハリーが予想外の行動にでた。箒に二本足で立ち上がったのだ。余りにも破天荒なプレーに驚いていると、ハリーは前かがみに落ちて、地面を数メートル転がっていった。ハリーはすぐに立ち上がるも、お腹を押さえて気持ち悪そうにしている。ハリーが何かを吐き出すようにしていると、口から何か金色のものが飛び出す。ハリーの手に落ちたそれを見ると、金色に輝くスニッチがハリーの手に収まっていた。

 

「グリフィンドールがスニッチを獲得!一七〇対六〇でグリフィンドールの勝利!!」

 

フーチ先生はハリーの手にスニッチがあるのを確認し、競技場全体に響くように声を上げる。同時にスリザリンを除いた寮生から割れんばかりの大歓声が聞こえた。当然、私のいる席の周囲も例外ではなく、あまりの声量に思わず耳を塞いだ程だ。一方スリザリンからはブーイングの嵐で、スリザリンのキャプテンがフーチ先生に何か抗議をしているが、グリフィンドールの勝利という結果が変わることはなかった。

 

 

 

 

城へと戻る道中、道を歩く生徒は誰も彼もが興奮していた。話を聞いていると、やはりスリザリンが負けたことが嬉しいらしい。誰も彼もがグリフィンドールを賞賛している。スリザリンに対しては言わずもがな。

 

「そんなにもグリフィンドールが勝ったのが嬉しいのかしらね」

 

「それはそうよ。ようやくスリザリンに対して勝ち星を取れたんだもん。アリスは嬉しくないの?」

 

「まぁね、結局は他寮同士の勝ち負けだし」

 

正直、クィディッチの試合はどっちの寮が勝ってもどうでもよかった。レイブンクローに点が入る訳でもないし、元の点数だって大きな差があるわけではない。

それにしても、グリフィンドールのスリザリンへの態度は少しいき過ぎではないだろうか。面と向かって言ってはいないが、明らかにスリザリンに聞こえるように話している。それを聞いたスリザリンの態度といったら、視線だけで呪いを掛けられると錯覚する程だ。まだ一回勝っただけなのに暢気だと思う。これからも試合はあるし、その時また勝てるとも限らないのに。ハッフルパフやレイブンクローにしてもそうだ。明日は我が身というのを知らないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホグワーツへやってきて初めてのクリスマスが近付いてきた。城の屋根や校庭、森のいたるところは雪で一面白銀の世界となり、湖はその大きさにも関わらず凍り付いている。廊下は吹き抜けで外気に晒されているため、防寒具なしではとても移動なんてできないような寒さになっており、廊下を歩く生徒は防寒具に加えて身を寄せ合っている。

 

フリットウィック先生がクリスマス中に学校へ残る生徒のリストを作るために、申請用紙を談話室の掲示板下に設置した。私は家に帰っても特にする事もないため、早いうちに申請を済ませた。パドマとアンソニーは実家へと帰省するらしい。お土産を持ってくるから楽しみにしておいてと言われた。

 

 

みんなが帰省のため荷造りをしている中、私は物体操作の呪文を練習している。以前成功させた時は全力で集中して僅かに動かすだけだったが、今では上海と蓬莱の二体を同時に動かす事ができるまでなった。動きも若干ぎこちないが、基本的な動作は十分できる。また、練習も兼ねて日常での作業を人形で行っている。とはいえ本や紅茶のカップを運んだり荷物を整理したりする程度だが。授業に使う教材も運ばせたいのだが、廊下でそんなことをやっていれば非常に目立つし、悪ければ減点を喰らうだろう。そんな訳で、基本的には談話室か寝室で練習しているのだ。

 

それと、最近になって新しく練習し始めたのが“命令のプログラム化”だ。これは、物体操作における命令をマニュアルではなくオート又はセミオートに出来ないかと思って取り組んだものだ。物体操作の呪文は、操作中常に対象に対して命令を出さなければならないことと、呪文の使用中は他の呪文を使用できないという欠点がある。以前、熟練者は無意識でも物体操作できるといったが、あくまで無意識レベルでの操作であって完全な無意識操作ではないのだ。その点、予め命令のパターンをプログラムとして人形に刻んでおき、呪文に必要な魔力を充填させておけば、これらの問題点を解決できる。

欠点として、人形の動きをパターン化させるということはそれ以外の動きが出来ず柔軟性に欠けるのだが、それは追々解決していこう。

 

「あ……忘れてた」

 

椅子の背もたれに寄りかかり背筋を伸ばしたとき、ベッドの上に置いてある本が目に入った。以前図書室から借りていた本だ。確か返却日は今日だったはず。

 

「そろそろ夕食の時間だし、先に返してこよう」

 

私は机の上を片付けてから寝室を出て談話室を抜ける。廊下の寒さに一瞬身振りしながら寮の階段を下りていく。吐く息は白く、階段や廊下の隅には薄っすらと氷が張っているのが目に付いた。私は滑らないように気をつけながら歩き、図書室へと向かっていった。

 

 

「ありがとうございました」

 

マダム・ピンスにお礼を言いながら本を返却する。時計を見ると夕食の時間までまだ余裕があったので、何か本を借りていこうかと思い本棚の間を進んでいく。確か前に見つけた本で“魂の在り方”という本があったはずなので、それを借りていこう。そう考えた私は目的の本棚へ向かう。

 

目的の本を見つけ、受付に持っていこうと戻っていたら横から声を掛けられた。声を掛けられた方を見ると、ハーマイオニーとハリー、ロンがいた。あまり近付きたくはなかったが、声を掛けられてしまった以上無視もできないので、ハーマイオニーたちのいるテーブルへと向かう。

 

「こんにちわ、ハーマイオニー。三人で勉強かしら?」

 

「えぇ、そうなの。アリスも勉強?」

 

「そうよ。といっても趣味のようなものだけどね。貴方たちは何を調べているのかしら?」

 

ハーマイオニーたちの机の上を見ると、“二十世紀の偉大な魔法使い”“現代の著名な魔法使い”“近代魔法界の主要な発見”“魔法界における最近の進歩に関する研究”といったものが積まれている。

 

「魔法史の勉強?でも、その本で調べるものってあったかしら?」

 

「えぇっと、魔法史ではないの。どちらかというと個人的な調べものというか……そうだ!ねぇアリス、ニコラス・フラメルって人物について何か知らない?」

 

「ニコラス・フラメル?錬金術関連の本で何回か見たけど、それがどうかしたの?」

 

ニコラス・フラメル。歴史的に著名な錬金術師であり、賢者の石の精製に成功した唯一の人物として知られている。賢者の石は如何なる金属をも黄金に変える力を持ち、飲めば不老不死となる命の水の源になるのだとか。

 

私が答えると、ハーマイオニーは驚いたような顔をした。ハーマイオニーだけじゃなく、ハリーとロンもだ。一体何なのかと疑問に思っていたところで、夕食の時間を告げる鐘が響き渡る。

 

「それじゃ、私は先に行くわね。貴方たちもあまり根を詰めすぎないほうがいいわよ」

 

三人を置いて、私は貸し出し手続きを行ってから大広間へと向かう。その途中、先ほどの会話で出てきたニコラス・フラメルについて……というか賢者の石について考える。自立人形を作る上で、賢者の石を利用できないかと考えた事があった。しかし賢者の石の精製方法は不明だし、不老不死となる命の水も、命のない人形に命を与えることができるのかなど色々な問題点があって、そこまで重要視はしていない。それに命を与えるということは、与えた命を失ってしまったら死んでしまうということだ。命の水も定期的に飲まなければ不老不死を維持できないらしい。

 

私は命というものより魂の方が重要だと考えている。そもそも意思とは命ではなく魂に宿るものなので、いくら人形に命を与えようが意味がない。それは唯生きているだけで意思はない。生きているかいないかの違いだけで人形と大差がないのだ。

だが意思の宿る魂ならば、入れ物である人形を動かせるようにすれば自立行動ができると考えている。もし、入れ物を動かすために命が必要であるのならば、それはその時に考えればいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスマス当日。目を覚ますと部屋の中央に幾つかの箱が目に入った。パドマとアンソニーにハーマイオニーからのクリスマスプレゼントだ。

パドマからはインド産の糸と布、アンソニーからはお菓子の詰め合わせ、ハーマイオニーからは世界の人形の最新号と紅茶の葉が贈られてきた。

もちろん私も三人にはプレゼントを贈っている。パドマにはユニコーンの人形とネックレス、アンソニーには鷲の人形とネクタイピン、ハーマイオニーには不死鳥の人形とイヤリングを贈った。人形は全て手作りで、それぞれの装飾品は、最近図書室で借りた“素人から蔵人まで~魔法彫金師・装飾品編~”を参考にして作ったものだ。これは魔法を使って金属を彫金するもので錬金術の基礎にあたる。ちょっと作りたいものがあって借りたのだが、思ったより上手くできたのでプレゼント用に新しく作ったのだ。

 

大広間で朝食を食べた後は談話室へと戻り、貰った紅茶とお菓子を準備して暖炉前の椅子に座る。ちなみに、これらの準備は全て人形で行っている。

彫金の本を読みながら時折お菓子と紅茶を口にしていく。今見ているのは指輪加工と魔術的加工のページだ。作ろうとしているのは私と人形の間にラインを作る指輪で、指輪を通すことにより人形が離れていても魔力供給や命令の指示、今はまだ出来ないが視覚の共有などを目的としている。

 

……のだが。

 

「……ふぅ、ちょっと一度に手を出しすぎかしらね」

 

どうも最近、目的のために手段が先走り過ぎている気がする。時間もあるし、少し整理しよう。

 

まず、最終的な目標は“魂を持った自立できる人形”の作成。これは人形に持たせる魂をどうするかを確立しなければどうにもならないので、いったん置いておく。

 

当面の目標はマニュアル操作又はオート・セミオートによる一定行動の自立化。これに関しては、基礎は完成してきている。現在出来るのは次の動作。

①浮遊術と物体操作を組み合わせた人形操作。これは完全なマニュアル操作で、上海と蓬莱の二体に基本的な行動をさせる程度の錬度はある。欠点は自分の周囲又は目に見える範囲でしか操作できない。

②命令のプログラム化。これは①の操作をパターン化させることで自立行動が可能になる。複雑かつ多くのパターンを組み込めばある程度の状況には対応できるが、想定外のことになると対応ができない。自立であるため手元から離れても動けるが、貯蓄した魔力がなくなると停止する。

③現在製作中の指輪により、手元を離れた人形に対しパスを繋げる事で、魔力の供給、命令の指示、視覚・聴覚の共有(検討中)を可能にする。また指輪で人形操作の呪文を使用できるよう魔術的処理を行うことで、杖を完全に自由にする。パスの最大連結距離は未完成のため不明。

 

自ら操作することに拘るなら、これだけでも十分ではあるだろう。①と②の切り替えによってマニュアルとオートを随時変更、サポートは指輪を介して行い、使用できる呪文はこれから覚えていく。

だが、人形が自分の意思で考え判断し行動するとなると全然足りていない。やはり魂がネックだろうけど、図書室の一般書庫では簡単な概念的なことが書かれた本しかない。より専門的な内容を求めるなら“閲覧禁止の書庫”にいくしかないだろう。だが、あの書庫の閲覧は厳しく取り締まられており、上級生が先生の許可・管理の下、高度な闇の魔術に対する防衛術を学ぶ際にしか見ることは出来ないことになっている。

 

「まぁ、今は出来る事からやっていきましょう」

 

まだ私は一年生なのだ。これからチャンスはいくらでも回ってくるだろうし、今ここで危険を冒すこともない。今は人形の操作、プログラム、指輪の製作、サポート呪文の習得、これらを完璧にしてから次を考えよう。もちろん、学校の勉強も疎かにはできない。

 

「そういえば、変身術と魔法薬学から宿題が出ていたわね」

 

私は整理した内容を本―――研究書に書き込んでいく。それが終わったら、新しく紅茶とお菓子を用意して、教科書と羊皮紙を広げて宿題に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

クリスマス休暇が終わり、ホグワーツは新学期へとなった。休暇から帰ってきたパドマやアンソニーは約束どおりお土産を持ってきてくれた。休暇中の手紙のやり取りで紅茶が好きだと言ったからか、それぞれの地元で珍しい葉を貰ったので、紅茶を入れて二人にご馳走し、休暇中の事を話し合った。

 

また、新学期になり授業も忙しくなってきた。学期末には学年末試験があるので、先生たちも張り切っているのか、日に日に授業の密度が上がってきている。特に大変なのは変身学と魔法薬学で、毎回沢山の宿題を出されるので多くの生徒が悲鳴を上げている。パドマとアンソニーもその例に漏れず、毎回悲鳴を上げては私のところに助けを求めてくる。とはいえ、答えを丸々写すなんてことは当然してはいない。最終的には自分の力で解こうとするのは、さすがレイブンクロー生といったところだろう。

 

 

 

 

 

明日は今学期初めてのクィディッチの試合がある。授業が忙しくなっても選抜メンバーには関係ないらしく、どこの寮も日々競技場を奪い合っては練習に励んでいる。

明日行われる試合はレイブンクローとグリフィンドールの対決だ。現在、レイブンクローはグリフィンドールに対して勝ち越しているが、試合の結果次第では逆転されることもありえる。そうすると、一位のスリザリンに対してグリフィンドールは二位、レイブンクローは三位になる。

 

競技場は変わらずの熱気に包まれており、逆転のチャンスであるグリフィンドールの気合は一入だ。もちろん、レイブンクローもグリフィンドールに負けず劣らず気合が入っている。こちらとしてはグリフィンドールに逆転されるかもというプレッシャーがあるのだろう、試合前の選手たちの表情が僅かに固かったのを覚えている。

 

試合が始まる十分前にグリフィンドールの観客席で歓声が上がった。何かと思い視線を向けると、巨大な垂れ幕が広がっていた。垂れ幕には「我らの星 ハリー・ポッターに勝利を!」と、赤地に金字で派手に書かれていた。

 

「うわぁ~。あれはちょっと恥ずかしいね」

 

「そうね。あんなので応援されたら逆にモチベーションが下がると思うけど」

 

「さすがに同情するな」

 

だが、私たちの考えとは裏腹に、競技場に入ってきたハリーは垂れ幕を見ると箒で飛び回り、三回転を決めた。どうやらハリーにとってあの垂れ幕はモチベーションを上げるに値するものだったらしい。

 

 

試合が始まり、今回もグリフィンドールのジョーダンの実況で進んでいく。スリザリンの時みたく贔屓な実況になるのではと思ったが、思ったより普通の実況だった。どうやら彼の贔屓実況はスリザリンに対してのみらしい。

 

試合は一進一退で進んでいった。グリフィンドールが点を取ればレイブンクローも点を取り返し、ボールが奪われれば奪い返す。二十分を過ぎると得点は決まらなくなってきて、ボール回しの応酬になってきた。上空ではハリーとレイブンクローのシーカーがグルグルと競技場を旋回している。まだスニッチは見つかっていないようだ。

 

 

さらに十分が経過し、レイブンクローが得点を決めたところで突如ハリーが動き出した。観客が一斉にハリーに注目する。どうやら遂にスニッチを見つけたようで、ハリーに続くようにレイブンクローのシーカーが追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合の結果はグリフィンドールに軍配が上がった。あの後もスニッチとシーカー二人の競争は続き、ハリーは何回かブラッジャーに襲われて体勢を崩したが、すぐに体勢を直しスニッチ追う。途中レイブンクローのシーカーに追い抜かれるも、最後の最後で急加速をしてスニッチを確保した。

今回の勝利でグリフィンドールは二位、レイブンクローは三位に落ちた。レイブンクローの寮生は悔しがったりリベンジに燃えたりと反応は様々だが、お互いのプレーを褒めあえるところを見る分には決して仲は悪くないようだ。

 

 

 

現在、私は恒例の図書室での調べものをしているのだが、いつもは人が少なく静寂な空間となっている図書室なのだが、数日前から溢れんばかりの人で埋め尽くされている。誰もが教科書や参考書を片手にペンを走らせていること、鬼気迫った顔をしているところを見るに、学業の方に本腰を入れ始めたのだろう。数日前まではクィディッチという嫌なことを忘れるには丁度いいイベントがあったが、いったん熱が冷めると試験に対する不安が出てきただろうことは予想がつく。

私の目の前で必死に本を読んでいるハーマイオニーもその一人だ。

 

「少しは休憩したら?大体、ハーマイオニーなら今更根を詰めなくても十分上位に入れるでしょうに」

 

「駄目よ。初めての学年末試験なんだから。何が起きるか分からないわ。それにハリーやロンが勉強しない分、私が二人に教えないと本気で落第しちゃうわ」

 

ホグワーツに落第なんて制度があるのか甚だ疑問だけど。

 

「ハーマイオニーは少し二人を甘やかし過ぎじゃないかしら?あんまり肩入れし過ぎると彼らの為にもならないわよ?」

 

ハーマイオニーは「そうなんだけどね……」といって再び本を読み始めた。面倒見がいいのはハーマイオニーの美点だけど、面倒見が良すぎるというのもどうなんだろうか。

 

 

「そういえば、以前聞いてきたニコラス・フラメルについては何か進展あったの?あれから随分と調べていたみたいだけど」

 

「えぇ、それなりに進展はあったわ。アリスのお陰よ」

 

「ならよかったわ。それじゃ、私はそろそろ行くわ。スネイプ先生に宿題を出しにいかないといけないからね」

 

私がそう言うと、ハーマイオニーは顔を僅かばかり強張らせた。なんだろう、スネイプ先生は名前を出すだけで嫌な顔をされるほどグリフィンドール生に嫌われているのだろうか。

 

「ねぇ、アリス。スネイプには気を付けたほうがいいわ」

 

「……いきなりどうしたの?」

 

「ここだけの話よ。実は……」

 

ハーマイオニーはここ最近のスネイプ先生の動向を観察したことや自分たちが調べていたことを私に説明した。何でも、クィディッチの試合中ハリーの箒に呪いを掛けてハリーを殺そうとしたとか、禁止されている四階の廊下にいるフラッフィー(三頭犬のことらしい)に足を怪我させられたとか、そのフラッフィーが守る先には賢者の石があるとか、スネイプ先生はヴォルデモートの手先で賢者の石を盗もうとしているとか。

 

「あぁ、だからニコラス・フラメルについて調べていたのね。それにしてもスネイプ先生がハリーをねぇ」

 

まぁ、普段のハリーに対するスネイプ先生の態度を見ていると満更冗談でもない気がするけど。それにしたって、学校という閉鎖空間の中でダンブルドア校長がいるというのにそんなことをするだろうか。スネイプ先生が一年生相手に勘ぐられるような不手際をするとは思えないし、一年生が気付くなら他の先生たちも気付くだろう。それにハーマイオニーは知らないかもしれないが、クィレル先生も状況的にはスネイプ先生と同じく怪しいといえる。あのクィディッチの試合でスネイプ先生が呪文を唱えていたのは間違いないだろうけど、同時にクィレル先生も呪文を唱えていたことは確かだろう。

 

「そうなの。だから余りスネイプに近付くのは危ないわ」

 

「……そう。まぁ程々に気をつけておくわ」

 

そう言って私はハーマイオニーと分かれ地下室へと向かう。クィレル先生のことを教えてもよかったけれど、正直面倒くさいし、あれ以上話していると厄介なことに巻き込まれそうな予感がしたので、早々と引き上げた。早く宿題を提出して魔法の練習でもしようと、急ぎ足で進んでいった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。