魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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ホグワーツ魔法魔術学校

9月1日、10時にはキングス・クロス駅へと到着した。制服や教科書などを詰め込んだトランクを積んだカートを押しながら、構内を進んでいく。

 

「チケットには9と4分の3番線って書いてあるけど……どこかしら?」

 

普通に考えて9と4分の3番線なんて中途半端なプラットフォームは存在しないけど。だとしたら、これは何かの謎掛けかヒントなのかしら。

 

「とりあえず、9番線と10番線に行ってみましょう。何か分かるかもしれないし」

 

……その前に、お昼ご飯と飲み物を買っていきましょう。どのぐらい汽車に乗っているのか分からないし。

 

 

 

 

 

 

サンドウィッチと水を買った私は、九番線と十番線に到着した。どうやらプラットフォームを挟んで左右に分かれているため、一緒のプラットフォームになっている。

 

「さて、来てみたはいいものの。これからどうしようかしら」

 

近くにホグワーツ行きの案内がある訳でもなければ、案内人がいるわけでもなし。他にホグワーツに行く人がいればいいんだけど、残念ながら見当たらない。

 

とりあえず、原点回帰とばかりに、もう一度チケットを見る。

ホグワーツ行き、十一時発。キングス・クロス駅、九と四分の三番線。何度見てもそれしか書いていない。

さて困ったと溜め息をつきながら顔を上げると、ふと何かに気がついた。もう一度ゆっくりとプラットフォームを見渡してみる。

 

「……なるほど、そういうことね」

 

九と四分の三番線。まず場所はここ、九番線と十番線の間で間違いはない。で、四分の三というのは文字通り、四つあるうちの三つ目ということ。偶然、ここのプラットフォームには大きな柱が四本立っている。ここから出発する列車の進行方向は一緒。

つまり、プラットフォームの端、列車の最後尾から数えて三番目の柱が入り口ということではないだろうか。

三番目の柱へ行ってみると、何人かの人か上手く隠れながら柱に向かって消えていくのが見えた。それはそうか。魔法学校へと行く場所なのだから、一般人に見つかるような仕組みにはなっていないだろう。たぶん、あの柱にも漏れ鍋と同じように、一般人に気付かれにくい魔法か何かが掛かっているに違いない。

 

柱に近付き、身体で隠すようにして指で柱に触れる。すると、本来感じる石の硬さは伝わらずに、柱の中へと指が沈んでいく。

私は辺りを見渡し、一般人の視線が外れたことを確かめてから、柱に寄りかかるようにして入っていった。

 

柱を抜けた先には、先ほどとは違うプラットフォームがあり、赤い汽車が蒸気を出しながら停車していた。上を見ると、「ホグワーツ特急 十一時発」と書かれている。

プラットフォームは多くの人で溢れかえっていた。私と同年代くらいの子もいれば、上級生だろうと思われる人もいる。それぞれがお父さんやお母さんと話したり、別れを惜しんでいたりした。

その光景を少しだけ羨ましそうに見てたけど、時間を押しているし、汽車に乗り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

汽車の後ろ辺りで空いているコンパートメントを見つけたので、本を読みながら汽車が出発するのを待つ。あと十五分くらいだろうか。

呼んでいる本は“日刊預言者新聞”という魔法界の新聞で、この本は過去数年分の記事をまとめたものだ。教科書は一通り読んで覚えたし、ホグワーツや魔法界に関する本も読んである。ただ、情勢というか日毎に変わっていくものに関してはまだまだ知らない事が多いので、こうやって新聞の記事を読んでいる。量が膨大なので、とりあえずは私が生まれた年からのものから始めた。

 

 

汽車がガクンと大きく揺れたのを感じ、出発するのかと思い、外を見る。プラットフォームでは自分の子供と最後まで話している人もいれば、静かに手を振っている人もいる。中でも目立ったのは、赤い髪の毛をした家族で、小さな女の子が涙目になりながら走って手を振っている。プラットフォームを抜けカーブに入ると、駅は見えなくなり、変わりに草原が広がる景色に変わった。

……あの壁を抜けた時に移動用の魔法でも使われていたのだろうか。

 

 

暫く汽車に揺られながら本を読んでいると、ノックの音が聞こえ、コンパートメントの扉が開いた。視線をそちらに向けると、栗色の長いふわふわした髪の毛をした女の子がいた。

 

「ここ、空いてる?他に空いているところがないの」

 

「えぇ、空いているわ。どうぞ」

 

私が場所を空けると女の子は嬉しそうに中に入り、椅子に腰掛けた。

 

「ありがとう。私はハーマイオニー・グレンジャー。ハーマイオニーって呼んで」

 

「私はアリス・マーガトロイドよ。呼び方は好きにしてくれて構わないわ」

 

自己紹介すると、ハーマイオニーは何か考えるように首を傾げた。

 

「アリス・マーガトロイド……どこかで聞いたことがあるような……あっ!もしかして、人形作りで有名なアリス・マーガトロイド!?最年少でいろんなコンクールの賞を取っているっていう」

 

「……意外ね、こっちにも知っている人っていたんだ。もしかして、ハーマイオニーってマグル出身?」

 

「えぇ、そうよ。魔法については最近知ったばかりなの。それにしても、こんなところで貴女みたいな有名人に合えるなんてビックリ」

 

「私も知っている人がいてビックリしたわ。でも、確かに魔法族だけじゃなくてマグル出身の人もいるでしょうし、不思議なことではないのかもね」

 

「アリスは前から魔法を知っていたの?」

 

「いいえ、知ったのは最近。生粋のマグル生まれよ」

 

「そうなの。なら私と一緒ね。私も両親はマグルなの。私が魔女だって分かったときには二人ともビックリしていたわ。アリスのところは……あ」

 

ハーマイオニーが語尾を低くして黙った。多分、私の両親のことを聞こうとしたけど、もう死んでいるって思い出したのだろう。私のこと知っているみたいだし、いつか雑誌にも両親の事故について載っていたから、それで知ったのかも知れない。

 

「ごめんなさい。私、そんなつもりじゃ……」

 

「気にしないでいいわよ。もう前のことだし、その気持ちだけで十分よ」

 

とはいえ、ちょっと空気が固くなってしまった。私としてはそこまで気にしていないんだけど、ハーマイオニーからしたら気にしてしまうのだろうか。

しばらく会話が途切れていると、場の空気を変えるためか、ハーマイオニーが話しかけてきた。

 

「それ、なんの本を読んでいるの?」

 

「これ?日刊預言者新聞の過去数年分のまとめ本よ」

 

表紙を見せるとハーマイオニーは驚いた顔をした。

 

「すごい、そんな本まで読んでるんだ。私、学校の教科書や魔法界についての本は読んだけど、そこまでは考え付かなかったわ」

 

「まぁ、普通はそうだと思うわよ。私の場合、知らないことは無理な範囲でない限り知りたい性質だからね。固定された知識はいつでも取れるけど、こういう流れが激しい知識は、ちょっと逃すと、どんどん後ろに流れていくから」

 

「でも、過去の新聞なんて全部読んでいたらキリがないんじゃない?」

 

「私もそこまで網羅しようとしている訳ではないわ。とりあえず、自分が生まれた年からの新聞までね。それにもう読み終わるし、よかったら次読む?」

 

そう言って本を薦めるけど、ハーマイオニーは苦笑いしながら断った。

それからは、車内販売でやってきたおばさんからお菓子を何種類か買い、それを二人で批評しながら食べていった。蛙チョコレートはまぁまぁだったけれど、それ以外は……カオスの一言に尽きる。バーティーボッツの百味ビーンズなんか、これほど混沌という言葉が相応しいお菓子はないってくらいだった。ある意味、これらを作った人たちに尊敬の念を送りたい。同時に殺意も送りたい。

 

あんな味に当たってしまうなんて。

 

 

 

百味ビーンズのせいでテンションが下がり、椅子に深く座りながら休んでいたら、コンパートメントの扉が小さくノックされた。見ると、丸顔の男の子が泣きべそをかきながら入ってきた。

 

「ごめんね、僕のヒキガエルを見なかった?」

 

どうやら、男の子―――ネビルの持ってきたヒキガエルがいなくなったらしく、気車内を探しているらしい。私は見ていないし、ハーマイオニーも知らないみたいだ。そうネビルに言うと、ネビルは俯きながら「そう」とだけ答えて出て行こうとした。

 

「待って、一緒に探してあげるわ。どんなヒキガエルなの?」

 

「えっ?でも、そんな、悪いよ」

 

私がそう言うと、ネビルは驚いた後に断ろうとするが、「このまま放っておくのも後味が悪いし、見つからなかったら困るでしょ」と言うと、不安だったこともあってか、申し訳なさそうにしながらもお礼を言った。

 

 

ハーマイオニーとネビルは汽車の後ろに向かって、私はネビルが来た道をもう一度確かめる為に前へと向かった。

トレバー(ヒキガエルの名前らしい)は意外とすぐに見つかった。一つ前の車両の隅でじっと隠れるようにしていたのだ。

 

トレバーを手に持ち、ネビルのところに向かって歩いていると、少し前のコンパートメントが騒がしいのに気がついた。近付いて中を覗いてみると、5人の男の子がそれぞれ睨みあっていた。

 

「どうしたの?……喧嘩?」

 

コンパートメントの中を見るとお菓子が散乱しているし、三人組の男の子のうち一人は手から血を流している。

 

「いや、大したことじゃないよ。僕たちの持っているお菓子がなくなったから、分けてもらおうとしただけさ」

 

「無理やり取ろうとしたんだ!」

 

プラチナブロンドの髪をした男の子が何でもないと答えるが、それに対して、赤髪の男の子が異を唱える。

 

「そう。私は現場を見ていないから何とも言えないけど、これから長い間一緒に勉強する仲なんだし、仲良くしたら?まぁ、喧嘩から始まる友情っていうのもあると思うけど」

 

私がそう言うと、どっちの子も嫌そうな顔をした。

 

「おいおい、冗談はよしてくれ。僕がこんな奴と仲良く?ありえないね」

 

「こっちだって願い下げだよ!」

 

一体なにをしてここまで険悪になったのだろうか。犬猿の仲っていうものなのか。

まぁ、とりあえずは。

 

「貴方、ちょっと手を出して。まだ血が出ているわよ」

 

プラチナブロンドの子の後ろにいた男の子を手を指しながら近付く。男の子は腕を隠そうとするが、半ば強引に引っ張って袖を捲る。やっぱり、指先の傷だけじゃなくて手首にも傷が出来ている。多分、指を怪我したときに腕を引いて、その拍子にどこかにぶつけたのだろう。

 

「じっとしてて、“エピスキー ー癒えよ”」

 

ポケットから杖を出し、先を傷口へと向け呪文を唱える。すると、血が出ていた傷口はきれいに塞がり、あとは血の跡を拭けば怪我していたところは分からないだろう。

 

「はい、終わり。まだ痛むかしら?」

 

「……いや、大丈夫」

 

「そ、次からは怪我しないようにね。それと、お菓子も散らかし過ぎよ。“ムードゥス ー整頓せよ”」

 

軽く杖を振る。すると床や椅子に散乱していたお菓子が、一箇所にきれいにまとまった。

ポカンとしている五人を横目に杖をしまい、自分のコンパートメントに戻ろうとしたところでアナウンスが流れた、あと三十分ほどでホグワーツに着くらしい。

 

「さてと、そろそろ到着するみたいだし、準備したほうがいいわよ。それと貴方、お菓子が欲しいなら私のところに余っているのがあるから、あげましょうか?」

 

「……いや、遠慮しておくよ。―――そういえば君は何ていうんだい?僕はドラコ・マルフォイ。君が手を治したのがゴイル、こっちがクラッブだ」

 

「アリス・マーガトロイドよ。貴方たちは?」

 

「えっ、えっと、僕はハリー・ポッター」

 

「……ロン・ウィーズリー」

 

「よろしくね、ハリー、ロン。それじゃまた、ホグワーツで会いましょう」

 

その言葉を最後に、私はその部屋を後にした。ここに来るまでにネビルに合わなかったから、もしかしたらどこかで行き違いになったのかもしれないと思い、一旦コンパートメントへと戻る。ドラコたちとは途中で別れた。

そういえば、あの眼鏡の男の子。ハリー・ポッターって言っていたわね。名前を言ってはいけないあの人―――ヴォルデモートを打ち破った男の子、生き残った男の子って言われているハリー・ポッターに早くも会うとは思っていなかった。前髪の隙間から、額に稲妻形の傷跡があるのも確認したし、間違いはないだろう。

 

「まぁ、個人的には必要以上に関わり合いたくはないわね。私とは相性が悪そうだし」

 

特に確証があるわけではないが、何となくそう思った。

 

 

 

 

コンパートメントに着くと、予想通りにハーマイオニーとネビルがいた。ネビルがさっきよりも落ち込んでいるように見え、それをハーマイオニーが励ましている。

 

「お帰りなさい、アリス。どう、見つかった?」

 

「えぇ、この子で合っているかしら、ネビル」

 

「トレバー!」

 

ネビルは椅子から勢いよく立ち上がり、私の方にやってくる。ネビルにトレバーを渡した私は、荷物に近付き中から制服を取り出した。

 

「ありがとう、アリス!」

 

「もう逃げられちゃ駄目よ。自分のペットなんだから、きちんと管理しておきなさい」

 

「うん、気をつけるよ。それじゃ、もう行くね。本当にありがとう!」

 

私は手をヒラヒラ振りながら答える。ネビルが出ていき、カーテンを閉めてから制服に着替え始めた。

 

「結構時間掛かったみたいだけど、何かあったの?」

 

「何かというほどではないけどね。喧嘩している男の子がいたから沈静させてきたわ」

 

「そうなの。怪我はなかった?あんまり危ないことしちゃ駄目よ」

 

「あの程度は平気よ。そうそう、そこでハリー・ポッターに会ったわ」

 

「アリスも?私もさっき会ったわ。眼鏡が壊れていたから直してあげたの」

 

「そうなの?買い換えるなり、魔法で直すなりしなかったのかしら」

 

制服に着替え終わり、脱いだ服をトランクにしまう。外を見ると、どうやら汽車が速度を落としているようだ。忘れ物がないかもう一度チェックする。

杖に手帳、ハンカチ、ティッシュに、いつも持ち歩いている裁縫セット。

 

「それと、これを忘れちゃ駄目よね」

 

私はトランクの中から二つの人形を取り出す。取り出したのは小さい人型の人形で、それぞれ青い服と赤い服に白いエプロンをつけている。青い服の方が上海人形で、赤い服の方が蓬莱人形だ。ちなみに、上海には赤いリボン、蓬莱には青いリボンが結んである。

 

「わぁ、それってアリスの作った人形?」

 

ハーマイオニーが上海と蓬莱を見ながら聞いてくる。

 

「えぇ、青い方が上海人形で、赤い方が蓬莱人形よ」

 

「すごい、まるで生きているみたい。でも、ここで出してどうするの?」

 

「もちろん、持っていくのよ」

 

そう言うと、ハーマイオニーは一瞬硬直して、控えめに話し出した。

 

「えっと、アリス。さすがに初日というか入学式だし。それ以前に学校に持っていくのは拙いと思うのだけど」

 

「そうね。でも、こればっかりは譲れないわ。とはいえ、さすがにこのまま持っていくわけではないわよ」

 

私は羽織ったローブの内側にあるポケットに上海と蓬莱をしまった。ちなみに、このポケットは元から付いていたものではなく、私が人形を入れておくために作ったのだ。

 

その後も、何回かハーマイオニーに置いてきたほうがいいんじゃないかと言われたが、それについては全部拒否した。

汽車が止まり、駅に降り立った私たちを迎えたのは、2m以上の身長をした大男だった。離れたところからハリーの声が聞こえ、大男のことをハグリッドと呼んでいるのが聞こえた。

 

ハグリッドの案内で、湖の沿岸まできた私たちは、4人ずつに分かれてボートに乗り、遠く見える城へと水面を静かに進んでいく。

私はハーマイオニーとネビル、それとドラコと一緒のボートに乗り、途中、私が人形を持っているのに気付いたドラコが怪訝な視線を向けてきた。

 

「アリス、何で君は人形なんか持っているんだい?」

 

「ん?まぁ、ちょっとした実験……かしらね」

 

「実験?」

 

「えぇ。付喪神って知っているかしら?東洋にある日本って国の観念でね、長い間大切にしたものに神様や霊魂が宿るんですって。だから、こうやって肌身離さずにずっと持っていれば、魂が宿って動き出さないかなっていう実験」

 

私の言葉に、ドラコだけじゃなくハーマイオニーやネビルも唖然とした顔をしていた。

 

「君は、そんなマグルなんかの観念なんかを信仰しているのかい?」

 

ドラコは、そう言って軽蔑するような視線を向けてきた。

 

「別に信仰というほど程ではないわ。ただ、可能性があるならば、やるだけの価値はあると思わない?」

 

「僕はそう思わないね。マグルのやっていることに、どれだけの価値があるっていうんだい」

 

「そう、まぁ価値観の相違ね。ところで、さっきからマグルのことを酷く嫌っているみたいだけど、ドラコって純血主義?」

 

そう聞くと、ドラコは当然とばかりに答えた。

 

「そうさ。魔法族とは本来、純血であるべきなんだ。君だって純血なんだろう?」

 

「……私、マグル生まれだけど」

 

私がマグル生まれだということを告げると、ドラコは表情が固まり、次には信じられないという感じになった。しばらく私のことを見てたけど、軽蔑するような目になって黙り込んだ。

魔法族の純血主義っていうは少し知っていたけど、実際に目の当たりにすると、相手への対応がここまで変化するのか。ここまでくると、一種の人種差別に近いと思った。

 

 

 

あと、ドラコは何で私が純血だと思っていたんだろうか。

 

 

 

 

 

 

湖を渡り終わり、城にはいって長い階段を登っていくと、上の方にエメラルド色のローブを着た魔女がいた。確かあの日、私の家に来たマクゴナガル先生だ。

 

「マクゴナガル先生。イッチ年生をお連れしました」

 

「ご苦労様ハグリッド。ここからは私が預かりますので、貴方は先に向かっていてください」

 

マクゴナガル先生に引き継いだハグリッドは奥の扉に向かい出て行った。それを見届けたマクゴナガル先生は、私たちの方に向き直り、全体を見渡した後静かに、それでいて全体に響くように話し出した。

 

「ホグワーツ入学おめでとう。これから新入生歓迎の宴が行われますが、その前に皆さんには、所属する寮を決めるための組分けを行っていただきます。組分けはとても神聖な儀式です。これから皆さんが七年間過ごす寮を決め、そこに所属する生徒は皆が家族のようなものです。教室でも寮生と共に勉強し、寝るのも寮、自由時間も寮の談話室で過ごすことになります。」

 

マクゴナガル先生は一息入れ、もう一度全体を見渡して、再度話し始める。

 

「寮は四つあります。グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンです。それぞれに輝かしい歴史があり、偉大な魔法使いや魔女が卒業していきました。ホグワーツにいる間、皆さんの行いが寮の点数になります。よい行いをすれば所属する寮の得点になり、反対に規則を破れば減点されます。学年末になれば、その年最も獲得点数の高い寮には、大変名誉ある寮杯が与えられます。なので、どの寮に入ることになっても、皆さん一人一人が寮にとって、またホグワーツにとって誇りとなるように望みます」

 

マクゴナガル先生は話し終えると、準備をしてくるので身なりを整えて待っていなさいと言い残し、奥の扉から出て行った。これから組分けが始まるみたいだけど、一体どうやって決めるのだろうか。これだけの人数がいて、あとに宴が控えているなら、そこまで時間は割かないはずだけど。予め学校側が決めていて発表するのか、何か生徒を効率よく分けるための道具があるのか。

離れたところで、汽車の中で会ったロンが、ハリーに試験で決めるんだと言っているが、それだと時間が掛かりすぎる。周りにも知っているのはいないみたいで、結局マクゴナガル先生が戻ってくるまで、分からないままだった。

 

 

先生の案内で奥の扉を抜けると、そこはかなりの大きさをした大広間だった。四つの巨大な長テーブルが並び、一番奥の壇上には同じく長テーブルが横に一つ置かれている。四つのテーブルには多くの生徒が座り、壇上のテーブルには若い人から長く髭を生やした人までいた。恐らく教師陣だろう。

 

私たちは大広間の真ん中を通り、壇上前へと進んでいく。途中上を見上げると、本来なら天井があるそこには、満天の星空に無数の蝋燭がプカプカと浮かんでいた。確か“ホグワーツの歴史”という本に書いてあったことを思い出す。魔法で本物の空が見えるようにしているのだとか。

 

壇上前に全員が並び、四つのテーブル―――上級生たちに向かって立たされる。マクゴナガル先生が足長椅子に古ぼけた帽子を手に持ち、全員に見えるようにして置いた。

しばらくは静かな時間が流れたが、突然、長椅子に置かれた帽子の皺が深くなり、そこから歌が聞こえてきた。

 

歌の内容をまとめるなら、それぞれの寮の特色を現したものだった。

グリフィンドールは、勇気と騎士道精神を持った者が集まる寮。

レイブンクローは、知識を追求する者が集まる寮。

ハッフルパフは、忍耐強く誠実な者が集まる寮。

スリザリンは、目的の為なら手段を選ばない者が集まる寮。

 

そして、組分けはこの帽子を使って行うらしい。マクゴナガル先生が新入生のリストを持ち、帽子を持ち上げ、名前を呼び始めた。

 

「アボット・ハンナ!」

 

ピンクの頬をした、金髪おさげの女の子が転がるようにして前に出て椅子に座り、マクゴナガル先生が帽子を被せる。

 

「……ハッフルパフ!」

 

一瞬の沈黙の後、高々と寮の名を上げる。右側のテーブルから歓声と拍手が上がり、ハンナはハッフルパフのテーブルに向かっていった。

 

「ボーンズ・スーザン!」

 

次の生徒が呼ばれて帽子を被る。

 

「ハッフルパフ!」

 

またしてもハッフルパフと帽子が叫び、歓声と拍手で迎えられながら、先ほどのハンナの横に座った。

 

組分けは順調に進んでいき、ハーマイオニーとネビルはグリフィンドール、ドラコはスリザリンに入った。

 

「マーガトロイド・アリス!」

 

私の番だ。列から出てマクゴナガル先生のところに向かう途中、ハーマイオニーとドラコと目が合った。ハーマイオニーは応援するみたいに笑いかけてきて、ドラコには目を逸らされた。

足長椅子に座り、帽子を被せられる。すると頭の中で低い声が聞こえてきた。

 

「ほーう、これはまた難しい者がきたな。ふむ、聡明でいて知識欲に溢れている。目的のためにはどこまでも貪欲に知識を掻き集めるようじゃな。ならばレイブンクローが相応しいが、目的の為にあらゆる可能性を求めるのはスリザリンにこそ相応しい。さてどうしたものか」

 

組み分け帽子は2~3分ほど悩んでいたが、とうとう結論が出たのか高らかに宣言した。

 

「レイブンクロー!」

 

レイブンクローのテーブルに、拍手で迎えられながら向かう。テーブルの端に座ると、隣に座っていた男の子に話しかけられた。

 

「おめでとう。僕はアンソニー・ゴールドスタインっていうんだ。これからよろしくね」

 

「こちらこそ、よろしくね」

 

その後も組分けは着々と進んでいったが、ハリーが呼ばれると広間が一斉に静まり返り、あちこちで「ポッターっていった?」「あれが例のあの人を打ち破った」などと囁かれている。ハリーが帽子を被り組分けをしている間、他の人はじっとそれを見ている。ハリーは何か喋っているように口を動かしているが、ここからでは何を言っているのかは聞き取れない。数分が経過し、いつまでかかるのだろうかと思っていたが、唐突にそれは終わりを告げた。

 

「グリフィンドール!!」

 

同時にグリフィンドールのテーブルは、今まで以上に歓声に包まれた。ハリーは嬉しそうにテーブルへと向かい、テーブルでは同じ顔をした赤髪の二人が「ポッターを取った」と復唱している。

次に進んだ組分けを横目で見ながら、アンソニーに話しかける。

 

「一生徒の寮が決まっただけでここまでの騒ぎになるなんて、ハリーって随分と人気があるのね」

 

「それはそうだろう。ポッターは例のあの人を倒したっていうんだからな。しかも例のあの人はスリザリン出身なんだ。スリザリンと犬猿の仲って言われているグリフィンドールからしたらなおさらだろう」

 

「ふーん。例のあの人を倒したっていうけど、当時ハリーは一歳そこそこでしょう。どうやったのかしらね」

 

「それは知らないさ。けど、魔法省やダンブルドアまでもが、ハリーが例のあの人を打ち破ったと言っているんだ。僕たちが知らない何かを知っているんだろう。その上で、それを公にするべきではないと判断し、情報を秘匿しているのでは……というのが僕の考えさ」

 

「なるほどね。まぁ、確かにそうとも考えられるわね」

 

アンソニーとハリー談義をしていると、レイブンクローに組分けされた女の子が向かってきた。女の子は私の隣に座ると、人懐っこい顔で挨拶してきた。

 

「私はパドマ・パチル。グリフィンドールに入ったパーバティ・パチルの双子の妹よ。これから七年間よろしくね」

 

「私はアリス・マーガトロイドよ。こちらこそよろしく」

 

「僕はアンソニー・ゴールドスタイン。よろしく」

 

 

 

 

組分けが終わり、ダンブルドア校長のよく分からない挨拶も終わって、いよいよ宴に入った。最初何も乗っていなかった大皿には山盛りの料理が盛られ、みんな思い思いに取り分けている。私もローストビーフやポテトを取り食べ始めた。途中、サラダがないなぁと思ったが、次にはサラダが盛られた皿が出てきて驚いたのは秘密だ。

 

アンソニーやパドマとホグワーツでの生活や授業について話し合い、次に先生について話し始めた。最初にレイブンクローの寮監であるフリットウィック先生について話し合う。フリットウィック先生の身長の低さについて疑問に思ったが、正面に座っていた上級生によると、フリットウィック先生はゴブリンの血を引いているかららしい。

 

マクゴナガル先生やスプラウト先生、クィレル先生に続いて話題に上がったのは、ダイアゴン横丁で入学品を揃えるのを手伝ってくれたスネイプ先生についてだ。

 

「スネイプ先生はスリザリンの寮監で、マクゴナガル先生に続いて厳しいらしいよ。特にグリフィンドールやマグル生まれの生徒相手だと、特にそれが顕著らしい」

 

「あ、私も聞いた。逆にスリザリン生に関しては、多少のことなら注意で済ませるらしいけど、それ以外の生徒だと容赦なく減点するんだって」

 

アンソニーやパドマの話を聞いていると、スネイプ先生は随分と生徒に厳しく、嫌いな生徒には容赦がないらしい。

 

「でも、私もマグル生まれだけど、入学品を揃えるときにはスネイプ先生に付き添ってもらっていたわよ。まぁ、確かにちょっと威圧感はあったけど、割と普通だったわ」

 

私がそう言うと、二人は驚いたような顔をした。

 

「本当に!?私が聞いたスネイプ先生の話だと、そんなこと絶対にしなさそうなのに。なんでかしら?」

 

「……多分だけど、貴女が普通に接したからじゃないかしら」

 

すると、先ほどの上級生が話しに入ってきた。

 

「スネイプ先生の生徒いびりも結構お互い様ってところがあるのよ。新入生のスネイプ先生に対する印象の殆どが、上級生やスネイプ先生をよく思っていない人からの又聞きでね、最初から悪い印象を持って接するから態度が悪くなる。で、普通の人にも言えることだけど、相手が悪い態度で接してきたら気分が悪くなるでしょ。だから、スネイプ先生の態度も高圧的なものになって、それに対して生徒が噂通りだと思って益々印象が悪くなる。あとは延々とそれの繰り返し」

 

「でも、いくら生徒の態度が悪くたって、それで贔屓するのは先生としてどうなんですか?」

 

「まぁ、そうなんだけどね。これはあくまで噂だけど、スネイプ先生が学生時代にグリフィンドールの生徒と何回か衝突があったらしくてね。それが原因なんじゃないかって」

 

「それでも、先生になったんなら全部とは言わないけど、私事は止めるべきだと思うけどな」

 

「だから言ったでしょ、お互い様だって。で、そんな感じだから、貴女みたいに普通に接して礼儀よくした場合は、スネイプ先生もそれなりの態度で接してくれるわ。それなら他の生徒もそうすればいいんじゃないかって話だけど、先入観もあってしないのよね」

 

上級生の話を聞いて、スネイプ先生にも色々あるんだなと思っていると、ダンブルドア校長が立ち上がり、それに伴って大広間が静かになる。

ダンブルドア校長が諸注意について話し終えると、私たちは寮に向かうため、監督生の後についていき大広間を出て行く。私は寮に向かう間、ダンブルドア校長の言った“四階の右側の廊下に潜む死”というのが気になった。

 

そんな危険区域を学校に作るなと。

 

 

 

 

 

西塔の螺旋階段を登ると、木で出来た扉が見えてきた。扉にはブロンズで出来たドアノッカーが付いている以外には、ドアノブも鍵穴も付いていない。

 

「新入生の諸君、ここがレイブンクローの談話室の入り口だ。ただ、見てのとおり、この扉にはドアノブが付いていない。扉を開けるには、扉が出す謎解きに答えなければならない。答えが分からない場合は、分かるものがくるまで談話室に入れないので頑張りたまえ」

 

なるほど。さすがは機知と叡智を求めると言うだけはあるか。合言葉とかなら、それを忘れないようにすればいいだけだけど、謎解きが鍵なら、談話室に入るたびに知恵を測られる。恐らくこれは、毎回出題が変わったり、学年が上がるごとに難易度が上がるのだろう。

だが、セキュリティ的な問題で言えば、合言葉に比べて低いんじゃないだろうか。合言葉なら寮生がバラさない限り知られることはないが、謎解きだと、分かるものなら誰でも入れることになってしまう。それとも、寮生以外は入れないように識別機能でも付いているのだろうか。

 

監督生がドアノッカーを叩くと、ブロンズの鷲の嘴が開き、柔らかに歌うような声が流れた。

 

「硬くも軟らかいものは?」

 

監督生は手を顎に当てながら謎の答えを考えている。周りを見ると、他の生徒も答えを考えているようだ。

硬くも軟らかいもの。矛盾した言葉ね。硬いか軟らかいかだけならともかく、その二つを持っているものか。別々に考えてみよう。硬くも軟らかいとあるが、その状態が同時かそうでないか、というのがポイントではないか。“硬くもあり軟らかくもある”というのはないが、“硬い状態もあれば軟らかい状態もある”という風に考えれば難しくはない。

 

「ねぇ、アリス。アリスは答え解る?」

 

パドマがお手上げとばかりに小声で聞いてくる。

 

「そうね。いくつかあるけれど、例えば水かしらね」

 

水は常温では液体であり、硬くもなく軟らかくもない状態。ただし、水が凝固し氷となれば硬くなるし、気化して水蒸気へとなれば軟らかく(触れないが)なる。

氷と水蒸気はそれぞれが硬いものと軟らかいものだが、この二つは同じものから出来ているのだ。

 

「……水だ」

 

その時、監督生が答え、正解だったのか扉が開く。中に入る監督生に続いて他の生徒も中へと入っていく。

 

「どうやら正解だったみたいね。まぁ、水以外にも色々と答えはあるけど、案外答えに沿っていれば正解なのかもね」

 

「なるほど。さすがアリス、頼りになるわ」

 

「ここで頼られても困るけど……」

 

 

 

談話室へと入ると、中は円形の部屋で、壁のところどころに優雅なアーチ型の窓があり、壁にはブルーとブロンズ色のシルクのカーテンが掛かっている。天井はドーム型で星が描いてあり、濃紺の絨毯も同じ模様で作られている。テーブルや椅子、本棚がいくつかあり、扉の反対側の壁の窪みには、大理石で作られた背の高い像が建っていた。

 

「ここがレイブンクローの談話室だ。像の左右にある扉から寝室に繋がっている。左側が男子で右側が女子の寝室だ。各自の荷物はすでに部屋へと運び込まれている」

 

説明を終えると、生徒たちは寝室へと向かっていく。今日は疲れたのか、みんな早く寝たいようで、欠伸をしたり目を擦っている生徒が殆どだ。

私も扉を通り、階段を登って部屋へと向かう。ここでも螺旋階段で、一定の感覚で踊り場があり、別の階段に繋がっているところもあれば、そこに各部屋の入り口があるところもある。

 

 

部屋へと入ると、中にはベッド、本棚、机、衣装箪笥などの家具が備えられている。見た感じ二人部屋のようだ。

自分の荷物が置かれたところに向かうと、扉が開かれ、パドマが入ってきた。

 

「あ、アリス。アリスもここの部屋?」

 

「えぇ。これから七年間は同居人ね。改めてよろしく」

 

「こっちこそ、よろしくね」

 

 

パドマと明日の予定について話し合いながら、荷解きもそこそこにして、私たちは眠りについた。

 

 




キングス・クロス駅での考察については適当です。現地を見たこともないので、4本の大きな柱と書いてるが、あくまで独自設定として考えてください。

ハーマイオニーがアリスが人形師として有名だと言ってますが、偶々ハーマイオニーが知っていただけで、実のところあまり知られていません。マイナーな世界ですので。
アリスが食べた百味ビーンズについては秘密です。

我が家のアンソニーとパドマは出来る子を目指してます。レイブンクロー生なので二人とも賢いです。
スネイプ先生談義も独自設定入っています。


談話室に入るための謎解きを考えるのが面倒くさい。たぶん、謎解きをする描写は滅多にでないと思います。

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