魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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いよいよ始まる対抗試合。

テンプレしてしまった感はあるが、元々が参加不参加の二者択一であるため仕方がない。

そして、さようならパチュリー。

多分、過去最長。


三大魔法学校対抗試合

ホグワーツ四年目の新学期。

ホグワーツ特急からセストラルの引く馬車へと移り学校へと進んでいく。馬車の外はバケツをひっくり返したかのような土砂降りの雨が降り続けており、馬車の屋根がバチバチとけたたましい音を鳴らしている。

 

 

クィディッチ・ワールドカップの日に起きたことは、当然のように日刊預言者新聞に取り上げられた。闇の印が撮影された写真が貼られ、その周りや後ろ何頁にも渡って様々な憶測や意見、事件の経過、今後の魔法省の対策方針などが記されていた。

その中で、他の記事と比べると異彩を放っている内容の記事があった。リータ・スキーターという女性記者が書いた記事のようで、内容は魔法省への中傷が殆どであったのだ。一部特定人物を取り上げている記事もあったがそれも中傷的な内容であり、随分と遠慮なく書き連ねていたので印象的な記事だった。

 

 

そして今日から三日前、ついにパチュリーが旅に出る日がやってきた。

どこにどう片付けたのかは不明だが、パチュリーは小さな布袋一つだけを手にしている。

 

「―――よ。これで必要なことは全部伝えたわ。所有権なども貴女に移譲したし。何か質問はあるかしら?」

 

「大丈夫よ。それにしても所有権諸々を持って改めて知ったけれど、この図書館の防衛能力って随分と物騒だったのね」

 

そう。この図書館の恐ろしいところは外敵からの防衛能力が高いこともさることながら、敷地内に侵入した外敵の逃げ道をなくし確実に排除することにこそ真の性能を発揮することである。攻撃は最大の防御というのを体現しているかのようなヴワル図書館は、まさしく要塞といえるだろう。尤も、“忠誠の術”によって既に存在そのものが気づかれなくなっているので、防衛機能が発揮されるまで侵入できる者もいないだろうが。

 

「それでも幾つかの魔法は封印してあるけれどね。今この図書館に備わっているのは貴女でも使える防衛機能と自立発動する機能だけよ。それ以外の機能は大部分が使えないからそのつもりでいなさい」

 

あとは自分で勝手に拡張するといいわ。

そう言ってパチュリーは図書館から離れていく。

離れていくその背中を見つめながら、私は頭を深く下げた。

 

「―――今までありがとうございました、お師匠様」

 

「…………頑張りなさい、アリス」

 

バチン。

姿くらましをする独特の音が聞こえて、ゆっくりと頭を上げる。

だが、そこには既に誰もいなくなっていた。

 

 

 

 

そんな感じでパチュリー別れたのが三日前。

今思い返してみると、三年間近く付き合っていた間柄にしては随分とあっさりとした別れだと思う。尤も、パチュリーとの涙流れる感動の別れなんていうのが想像も出来ないというのも確かではあるが。

 

「……ところで、ロンは何でそんなに不機嫌なのかしら?」

 

私と一緒の馬車に乗っているハリー三人組の一人であるロンがさっきから苛立ちを隠そうともせずに振り撒いているのだ。別に珍しいかと言ったらそうでもないのだが、密閉空間でこのような態度をされると気が散ってしまう。

 

「汽車の中でマルフォイとちょっとね」

 

ハーマイオニーが気まずそうにしながらも律儀に答えてくれた。何となく予想はついていたけれど、やっぱりドラコ関係か。今更だし言っても無駄だろうけれど、ロンたちもドラコたちも認め合えなんて言わないが無闇にちょっかいを出すのは止めたらどうだろうか。

 

その後は城に到着するまで沈黙が続き、雨が屋根を打つ音だけが響いた。

馬車が正面玄関前に到着するころにはますます雨足が強くなっていき、落雷の頻度も増えてきている。傘なんてものは誰も持っていないので、生徒達はみんな馬車から降りると一目散に石段を駆け上がり玄関へと飛び込んでいく。

私は正直、この雨の中急いだところでびしょ濡れになるのに変わりはないのだから急ぐ必要なんてないと思ったのだが、急いでいる人ごみの中で一人ゆっくりしているというのも邪魔であるので、みんなに合わせて急いで玄関へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

「さて諸君。よく食べよく飲み、はち切れんばかりに満腹となったことじゃろう」

 

新入生の組み分けが終わり、夕食最後のデザートがなくなったところで教職員テーブルの中央に座るダンブルドア校長が立ち上がった。

 

「満腹になった君らがベッドに潜りたいという気持ちは十分に分かるが、いま少しだけ耳を傾けてもらいたい。まずは管理人のフィルチさんからのお知らせじゃ。学校内への持込禁止の品が新たに追加された。禁止品のリストはフィルチさんの事務所で閲覧可能なので、見たいと思う生徒は確認するように」

 

その後も例年通りに禁じられた森への立ち入り禁止とホグズミード村についての諸注意が伝えられた。だが、最後にダンブルドア校長が発した言葉に大広間にいる生徒全員がざわめきに包まれる。

 

今学期の寮対抗クィディッチ試合の中止。

 

こればかりは容易に聞き流すことができないのか多くの生徒、特に各寮のクィディッチ・メンバーが唖然としている。いや、よく見るとドラコとその周りだけはいつも通り落ち着いているみたいだ。となるとドラコは今年のクィディッチが中止になることを知っていたということだろうか。

 

反発の声が上がりそうになる生徒を手で制したダンブルドア校長が、クィディッチを中止にする理由を説明しようとしたとき、突如として大広間の扉が音をたてて開いた。

開いた扉から入ってきたのは黒いマントを纏い長い杖に寄りかかっている男性であった。男性はマントを取り払うと身体を大きく上下させながら大広間を教職員テーブルに向かって進んでいく。

 

「あれは……」

 

蝋燭の光と雷光によって照らされた男性の顔には見覚えがあった。たしか“近代の闇払い名鑑”に載っていた人物だ。

アラスター・ムーディ。マッド-アイ・ムーディとも呼ばれる彼はかつて魔法省で闇払いとして従事し、数多くの闇の魔法使いを逮捕したということで有名な魔法使いだ。なんでもアズカバンに投獄されている囚人の半数は彼が埋めたというのだから、その実力は凄まじいものがあるのだろう。

ムーディはダンブルドア校長と言葉を交わしたあとは空いていた席に座り、持参した酒瓶を傾けながら残っていた夕食をもそもそと食べていた。

 

「さて先ほども言いかけていたのじゃが、これから数ヶ月に渡り我が校では心躍るイベントが開催される。この開催を発表するのはワシとしても大いに喜ばしい」

 

そこで一息いれたダンブルドア校長は再度口を開く。

 

「今年、ホグワーツにて三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)を行う!」

 

瞬間、大広間が先ほど以上の騒ぎに包まれる。グリフィンドールからは冗談だろうという叫びが響いたが、それはダンブルドア校長によって否定される。

 

三大魔法学校対抗試合とは、約七百年にヨーロッパの三大魔法学校―――ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの三校から代表選手が一人選出されて三つの競技を競い合う、いわば親善試合のようなものらしい。

今まで行われてこなかったのは、競技の最中に夥しい数の死者が出ることによって競技そのものが中止にされていたらしいのだが、それがこのたび再開されることになったそうだ。

 

「ボーバトンとダームストラングの校長が代表選手最終候補生を連れて十月にホグワーツへと来校される。その後、ハロウィーンの日に三校の代表選手が選ばれるのじゃ。そして、見事優勝した暁には優勝杯と栄誉、さらに選手個人には一千ガリオンの賞金が与えられる」

 

ただし。

ダンブルドア校長の語る話に興奮が収まらないといった生徒に対して、それを抑制するように間を空けずに続ける。

 

「いかに我々が予防措置を取ろうとも試合の種目は難しく危険であることから立候補できる生徒に基準を設けることにした。その基準は年齢制限であり、十七歳以上の者にしか参加資格を与えないというものじゃ。参加資格を持たぬ者が参加できぬようにワシ自らが目を光らせることとなる」

 

ダンブルドア校長の言う参加資格に一部の生徒が強く反発していたが、校長はそれを無視しながら話を進め、ボーバトンとダームストラングや来校した際の注意事項などを話したあと解散となった。

 

大広間から出て寮へと戻る間では、あちらこちらから不満の声が上がっている。中には十一月中旬に十七歳になる人がいるらしく、どうにかして参加できないか話し合っているのもいた。

 

「いたいた、アリス!」

 

「ん? あぁパドマ。それにアンソニーも」

 

名前を呼ばれて振り向くとパドマとアンソニーが小走りに近づいてきているのが見えた。二人は私の隣までくると息を整えながら先ほどの対抗試合について語りだした。

 

「ねぇアリス。アリスはどうするの?やっぱり参加してみるの?」

 

「参加って、十七歳以下は参加不可でしょ」

 

「確かにそうだけれど、それをどうにかしてクリアしてだよ。今や誰もがどうやって参加するか必死になって考えているよ」

 

「アリスは優秀なんだから絶対に参加するべきよ! アリスよりも魔法が上手な人って上級生でもそうそういないわ」

 

「パドマ、それは買いかぶりというか上級生に対してかなり失礼な言い方よ? それに私はあんまり興味ないから参加できたとしても遠慮しておくわ」

 

私が不参加の意思を伝えると二人は驚いたように目を見開く。というより驚いているのだろうけれど、そんなに意外なんだろうか。

その後も二人に参加しないか説得されたが、私の答えが変わらないと分かったのか談話室に着く頃にはどんな方法で参加資格のある人ない人を分けるのか、どういった方法でなら掻い潜って参加することが出来るかといった話に移っていた。

 

談話室を通り寝室へと入る。パドマは部屋に入ると一目散に荷物が置いてあるベッド脇へと向かいパジャマに着替え始めた。

私も自分の荷物が置いてあるベッド脇へと向かい、そこに置いてあったトランクの一つを開ける。中には六体の人形が入っており、トランクが開かれると待っていたとばかりに飛び出した。

 

「上海、蓬莱、露西亜、お疲れ様。何か問題はなかった?」

 

「特に何もなかったよ」

「しいて言えば、(キョウ)ちゃんが(ロン)ちゃんと(フー)ちゃんのことを脅かしていたくらいかな」

「でも大丈夫。私がしっかりメッしておいたから。あんまり効果なそうだったけど」

 

トランクに入っていたのは上海、蓬莱、露西亜に加えて、今年の夏に誕生した京、倫敦、仏蘭西の計六体のドールズである。三体までならローブの中に入れて一緒に行動できるのだが、さすがにここまで増えるとそうもいかないので、今回からトランクに詰め込んで寝室へと直行してもらうことになった。狭いトランクに詰め込むので反発があったり大変かとも思ったが、三体の話を聞く限りでは大丈夫なようだ。

 

「ねぇねぇ! アリス! この子たちって新しいお人形!?」

 

「えぇ、そうよ。上海たちの妹ってところね」

 

新しく見る人形に興奮しているパドマに説明しながらパジャマへと着替える。パドマはというと、京や倫敦や仏蘭西と会話を試みているのか向かい合って喋っている。

 

「パドマ、今日はもう遅いから早く寝ましょ。その子達と話すのはまた明日ね」

 

「そうね、分かったわ―――ねぇ、アリス。本当に対抗試合に参加しないの? これだけ凄い魔法が使えるんだから絶対大丈夫だと思うんだけど」

 

「しないわ。下手に参加して余計な注目を受けるのも嫌だしね」

 

そこでパドマとの会話を打ち切ってベッドへと潜り込む。パドマもベッドへと入ったのを確認すると部屋の明かりを消した。

 

 

 

 

ボーバトンとダームストラングがホグワーツに来校するまで一ヶ月。ホグワーツでは授業を受ける傍らで対抗試合に参加できる方法を模索している生徒がちらほらと見られた。

 

ちなみに私の履修する科目は去年同様であり、パドマやアンソニーは魔法生物飼育学をやめたらしい。なんでも去年のヒッポグリフみたいに危険な生物が出てきたら嫌だとか。

私も今年は履修するか迷っていたが、ヒッポグリフは珍しい生物であることは確かだし、これからもそういった珍しい魔法生物が見られるかもしれないという可能性に賭けて履修することにした。

 

―――結局は、尻尾爆発スクリュートというよく分からない生物の飼育という結果になったが。

 

「まぁ、あれはあれで確かに珍しくはあるから……うん、よしとしましょう」

 

それ以外の授業は概ね去年通りであったが、去年と異なる教師を据える闇の魔術に対する防衛術だけは今までにないくらいらしい(・・・)授業であるらしい。

というのも、闇の魔術に対する防衛術の教師であるムーディ先生が色んな意味で抜きん出た先生であるのだ。この先生、何と授業が始まった一日目に魔法を使った体罰を実行したのだ。事の発端はドラコがロンの家族を中傷していたのが原因である。ドラコの物言いにハリーが突っかかり、ドラコの家族を中傷したことでドラコがハリーに対して背後から魔法を放ち、それを見たムーディ先生が激怒してドラコをイタチに変身させたあと床へ叩きつけるという行為に及んだ。幸い、マクゴナガル先生がすぐにやってきたので大事にならずにすんだが、あれ以来ドラコはムーディ先生が近くにいるときには目立った行動をしないようになった。

 

そして今日の午後には今噂のムーディ先生の授業がある。いつものように真ん中寄りの席に座り授業が始まるのを待っていると、パドマとアンソニーが揃って入ってくるのが見えたので手を振り呼びかける。

 

「二人とも、こっちよ」

 

「ありがとう、アリス」

 

あらかじめ確保しておいた前列の席に二人が座ったところで、教室奥にある扉からムーディ先生がコツコツと義足を鳴らしながら入ってきた。ムーディ先生は黒板の前に立つと一度部屋を見渡してからチョークを手に持つ。

 

「アラスター・ムーディだ。元闇払いであり、魔法省に勤めていた」

 

それだけを言い、ムーディ先生はチョークを机の上に置く。出席簿を手に取り生徒の名前を呼んでいく間、ムーディ先生の左目の位置にある魔法の目がグルグルと忙しなく動いているのが見えた。どうやら、あの魔法の目は物を透かして見ることができる目であるらしく、たとえ本人が後ろを向いていても魔法の目が正面を見ていればそれが見えるという代物らしい。現に、今まで何人かがムーディ先生の視界に入らないようにふざけていたが、後ろを向いていたはずのムーディ先生に正確に言い当てられたという話が出ている。

 

「さて、まずは教科書なんぞしまってしまえ。そうだ、そんなものは必要ない。教科書に載っていることなぞ綺麗に型に収まった児戯でしかない。そんなものでは本物の闇の魔術には到底太刀打ち出来ん」

 

そう言ってムーディ先生は矢継ぎ早に言葉を続ける。

 

「魔法省によればワシが教えるのは闇の魔法に対する反対呪文ということだが、それだけでは駄目だ。反対呪文はいい、だがそれを唱えるべき闇の魔法とは何か。それをお前達は知る必要がある。闇の魔法というのがどのようなものなのか、実際に見て体験し覚えない限り、たとえ反対呪文を何十何百と覚えていたところで意味はないのだ」

 

そう断言するムーディ先生の目は、今まで見たどの先生よりも真に迫っているように感じられた。いや、あえていうならスネイプ先生が近い目をしているだろうか。

 

「では、お前達が向かい合う闇の魔法において尤も忌み嫌われている呪文とは何か。それを知っているものはいるか?」

 

ムーディ先生の問いに対して何人かの生徒が恐る恐る手を上げる。ムーディ先生はその中から一人ずつ指名していき、指された生徒は自信がないとも怖がっているともとれる面持ちで答えていった。

 

その中で出てきた呪文は二つ、“磔の呪文”と“服従の呪文”である。

この二つにもう一つ“死の呪文”を加えた三つの呪文は許されざる呪文と呼ばれていて、人に対して使用するだけでアズカバンでの終身刑を受けるほどの罪になる。

 

「そうだ。だが、もう一つ足りない。誰か答えられるものはいないのか? ん? マーガトロイド、お前はどうだ?」

 

手も上げていないのに指名されるとはどういうことなんだろうか。そんなことを考えながらムーディ先生へ簡潔に答える。

 

「―――アバダ・ケダブラ。死の呪文です」

 

私がそう答えると何人かの生徒が身体を震わせているのが分かった。

 

「他にも知っている者が何人かいたようだな。そうだ、死の呪文。尤もおぞましく尤も恐ろしい呪文だ。扱うには高い魔力が必要だ。並の魔法使いには到底扱うことの出来ない呪文であるが故に、その力は強力である。死の呪文を受けたものは誰であろうと死から逃れることはできない。何の外傷もなく静かに眠るようにして死に至るのだ」

 

ムーディ先生の重く響く言葉に教室中が静まり返っている。

 

「今一度言う。この呪文を受けて生き残ったものは誰もいない……ただ一人の例外を除いてな」

 

死の呪文を受けて生き残っている例外の人物。ムーディ先生は誰とは言わなかったが、恐らく誰もが一人の人物を思い浮かべているだろう。

ハリー・ポッター。ヴォルデモートの魔の手から唯一生き残り、打ち倒したと言われる生き残った男の子。近年で尤も死の呪文を使用していたと言われれば殆どの人がヴォルデモートと答えるだろう。そして、そのヴォルデモートから生き残ったハリーこそがまさしくその例外なのだろう。

 

「さて、これら三つの呪文は禁じられた呪文と呼ばれ、魔法法律で尤も厳しく罰せられる。これらの呪文を同類である人に対して使用した場合アズカバンで終身刑を受けるに値するほどの呪いだ。だが、闇の魔法使いどもはこれらの呪文を当然のように使ってくる。故にお前達は知らねばならん。禁じられた呪文がどういったものなのかを」

 

その後、ムーディ先生は蜘蛛や鼠を実験台にして“磔の呪文”“服従の呪文”“死の呪文”を実演してみせた。蜘蛛や鼠が“服従の呪文”でダンスを踊っていたときは生徒達の間で笑いがこぼれたが、“磔の呪文”で蜘蛛が苦しむ様子や“死の呪文”で鼠が死んだときは流石に静まっていた。

 

 

授業が終わり、生徒が出て行く中で私は一つ気になったことがあったので、奥の準備室へ入っていくムーディ先生を引き止めた。

 

「先生、一つ質問があるんですけれどいいでしょうか?」

 

ムーディ先生は振り向くと魔法の目を二回三回と回した後に答えた。

 

「何だ?」

 

「先ほどの―――許されざる呪文についてですが、先生は人間に使用するだけでアズカバンで終身刑を受けるに値すると言ってました。それなら人間以外、例えばトロールや人狼に対して使用した場合はどうなるんですか?」

 

「なんだと? なぜそんなことを聞く。お前はトロールや人狼に呪文を使う気なのか?」

 

「いえ、ただ単に気になっただけといいますか。魔法法律的にもどうなるのか知っておいて損はないと思いまして。勿論、そういうことを生徒に言ってはならないというのであれば結構ですが」

 

「……はっきりとは言えんな。そもそも許されざる呪文を使えることが前提条件となっているが、そのときの状況によって左右される。同胞である人間に対して使用した場合にアズカバンでの終身刑を受けるのであって、それ以外のものに使用しても罪に問われないということはない。アズカバンへの短期投獄というのもありえるし、なんらかの厳罰だけで済んだケースを存在する。だが、総じて軽い罪に問われているのは術者が生命の危機に瀕している場合だ。ただ人狼を見つけたから呪文を使用したでは投獄は免れないだろうが、人狼に襲われ生命の危機に瀕していたということなら情状酌量の余地がある」

 

尤も、禁じられた呪文を使用する者は使用したことを気取られることがないように徹底して、陰湿に身を隠しながら使用しているがな。

 

そう締めくくってムーディ先生は準備室へと入っていった。

結局のところ、使用する者たちにとってバレなければ問題ないということなのか。バレないイカサマはイカサマではないのと同じ感覚で語るのもどうかとは思うが、つまりそういうことなのだろう。

 

 

いまやホグワーツの中でムーディ先生はこれまでにないほどの型破りな先生ということで有名になっていた。学校で教えるものに禁じられた呪文を取り入れたのはムーディ先生が初めてではないだろうか。現在ホグワーツに尤も長くいる七年生がそう話していたのを小耳に挟んだ。

 

さらに、翌週の闇の魔術に対する防衛術の授業で行われたことで、ムーディ先生の名が一段と大きくなったのは当然ともいえるだろう。何せ、実際に生徒に“服従の呪文”を掛けると言い出したのだから。

何人かの生徒からそれは違法だと言ったが、ダンブルドア校長には許可は取ってあるということで誰もなにもいえなくなってしまった。

 

一人ひとりが教壇の前までいき、ムーディ先生が“服従の呪文”を掛けていく。呪文を掛けられた生徒は誰一人として抵抗することなく、ムーディ先生の命令する通りの動きを披露していた。聞いた話では、この授業で“服従の呪文”に完全に破ることができたのはハリーだけらしい。

 

「駄目だな、どいつも闇の力に抗えるどころか素直に受け入れてしまっている。自身を包み込む闇の力には限界まで抗わなければ到底破ることなぞ出来んぞ。では次は、マーガトロイド! お前だ、さぁ来い」

 

いよいよ私の番が回ってきたため席を立ち前へと歩いていく。

だが、はっきり言って素直に“服従の呪文”に掛かるつもりはまったくない。それに、ムーディ先生は生徒が“服従の呪文”を破るか抵抗できるまで続けると言っているので、私が抵抗しても問題はないだろう。

 

そんなことを考えていると、ふと去年の夏休みの出来事を思い出してしまう。実のところ、禁じられた呪文についてはかなり前から知ってはいた。ホークラックについて調べていたときに闇の魔法ということで偶然知ったのだ。当時はそれほど関心を持っていなかったのだが、去年の夏にどんなものなのかパチュリーに聞いてみたことがある。

 

今思えば、それが黒歴史の始まりだった。

私は純粋に気になっただけでパチュリーに質問したのだがタイミングが悪かった。そのときパチュリーが読んでいた本は“日本の諺大辞典~メジャーからマイナー、造語までより取り見取り”。見ていた頁には“百見は一体験にしかず”。

 

それからは“服従の呪文”を掛けられては抵抗できるまで醜態を晒すという繰り返しだった。“磔の呪文”まで使用してきたときには本気で復讐してやると誓った私は決して悪くはないはずだ。

結局、それが叶うことはなかったのだが。

 

というわけで、そんな黒歴史を持つ私からすれば“服従の呪文”に掛かるなんていうことは到底許容できるはずもなく。

 

「インペリオ! -服従せよ!」

 

全力で抵抗させてもらうのは当然といえる。

呪文が掛けられると同時に全身を何ともいえない幸福感が包み込んでくるが、生憎とパチュリーのそれに比べると劣っているのが分かるので、多少眩暈を起こしたが抵抗することができた。

 

「ほう! 素晴らしいな! まさか一回目で完全に“服従の呪文”を破ることができるとは! 見たかお前達。マーガトロイドは闇の力に抗ったぞ! それも完璧にだ!」

 

ムーディ先生はそう言うが、実際私がここまで簡単に破ることができたのは予め“服従の呪文”に対する準備が出来ていたからだ。この呪文の力を真に発揮したいのであれば、呪文を掛ける相手に対して不意をつくか、抵抗できないほどに精神を追い詰めてから掛けるのが尤も効率がいい。そういう意味で言えば、“磔の呪文”と“服従の呪文”は対になっているともいえる。“磔の呪文”で抵抗する意思を肉体と精神の両面から根こそぎ剥ぎ取り、抵抗する力をなくしたところで“服従の呪文”を掛ける。そこまでされて抗えるのはまずいないだろうし、いたとしてもほんの僅かだろう。

 

その後も授業は続きムーディ先生は生徒に“服従の呪文”を掛けていったが、破ることができた生徒はいなかった。

 

 

 

 

十月三十日。ハロウィーンの前日である今日の夕方にはボーバトンとダームストラングの二校が来校することになっている。それに伴い、生徒は城の前に立ち二校を出迎えた後、歓迎パーティーが開かれることになっている。

 

午前中の授業を終えて昼食を食べに大広間へと入るとグリフィンドールの席の一角で何やら白熱した声が聞こえてきた。見るとハーマイオニーがハリーやロン、ネビルやロンの兄である双子に小さなバッジを見せながら熱く語っている。

何か嫌な予感がしたので素知らぬふりをして通り過ぎようとするも、運が悪いと言うべきかハーマイオニーに捕まってしまった。

 

「アリス! ちょうどよかったわ。アリスにも是非入会してほしいの」

 

そう言ってバッジを突きつけてくるハーマイオニー。バッジにはS・P・E・Wと書かれているが、正直何のことだか分からない。

 

「……S・P・E・W。何これ?」

 

「S・P・E・W。屋敷しもべ妖精福祉振興協会よ。魔法使いの家やホグワーツで働いている多くの屋敷しもべ妖精たちはお給料も年金も休暇も福利厚生も何も与えられないで奴隷のように強制労働させられているの! S・P・E・Wはそんな不遇な扱いを受けている屋敷しもべ妖精にちゃんとした労働条件と正当な報酬、将来的には法律を改正して彼らにも一定の権利と主張が与えられるように活動するのが目的よ!」

 

「そんな活動をしている組織なんて聞いたこともないけれど?」

 

「当然よ! 私が最近設立したんだから。メンバーは今のところ数人しかいないけれど、これからどんどん増やしていくわ。ちなみにハリーが書記担当でロンが財務担当となっているわ」

 

「……で、私にも入会してほしいと?」

 

「そう! 入会費は二シックルで、これはS・P・E・Wの活動資金に当てていく予定。ちなみにアリスには副会長をやってもらいたいの」

 

―――ちょっと頭が痛くなってきた。

面倒だなとは思っていたけれど、予想の斜め上をいく内容に軽い頭痛が起こったのは決しておかしくはないはず。しかも副会長? 会長はハーマイオニーだとしても何で私が二番目の位置に据えられるのだろうか。

 

「悪いけど、断るわ」

 

そう言うと、ハーマイオニーは心底信じられないというような顔をしている。ハリーたちの顔を窺ってみたが、ハーマイオニー以外の人は当然のような顔をしていた。ネビルだけはオロオロとしていたが。

 

「ど、どうして!? 屋敷しもべ妖精はあたりまえのように奴隷として強制労働させられているのよ。アリスはなんとも思わないの?」

 

「まずそこなんだけど、彼ら屋敷しもべ妖精が言ったの? 自分達は不当に働かされています、どうか助けてくださいって」

 

「彼らはそう言えないように洗脳されているのよ! 彼らが自分達の主張を言うことができないのなら、それを代弁する人物が必要だわ!」

 

「その洗脳されているっていうのは、どこからきたの? 誰かがそう証言したとか?」

 

「だって普通に考えておかしいわ。私達は労働すればそれに見合った報酬を受け取るのが当然でしょ? なのに彼らは誰よりも働いているのにその報酬が一切与えられないのよ」

 

確かにハーマイオニーの言うことは正しいが、それは人間同士の話だ。小鬼のような例外もあるが、この場合は屋敷しもべ妖精には当てはまらない。

 

「ハーマイオニー、それは私達の常識であって彼らの常識とは違うわ。彼らは奉仕活動を行いたいという種族的な本能に従って動いているのよ。鳥が空を飛ぶのと同じよ。貴女は鳥が飛びすぎるのは可哀想だから羽を毟って飛べなくしてあげるべきだとでもいうの?」

 

「そんな訳ないじゃない! それとこれとは話が別でしょう!?」

 

「同じよ。相手の本能や考えを否定して自分の考えを押し付けるという意味ではまったく同じ。別の言い方をしましょうか? ハーマイオニーが多くの授業を履修しているのは心身ともに負担だろうから履修内容を減らしてあげよう。または、あなたの信仰している宗教や神は間違っているから私達が信じる宗教や神に改宗しなさい。ハーマイオニーが言っているのはそういうことよ」

 

「そんな!? 私、別にそんなつもりじゃ! 本当に彼らへの待遇が酷いと思ったから!」

 

確かにハーマイオニーのそう考える気持ちは本当に純粋なものなんだろう。そもそも、ハーマイオニーが本当に善意以外の感情をもってそういうことが出来るとは思えない。

 

「まぁ、ハーマイオニーの考えが邪な感情が一切ないというのは分かっているわ。でもね、どれだけ善意からくる行動だとしても、それを善意と受け取るかは相手しだいなのよ。奉仕することに誇りを持っている屋敷しもべ妖精からしたら、ハーマイオニーの考えは押し付けの善意でしかなく、自分達の存在意義を奪おうとする……悪意としかうつらないわ」

 

そう言うと、ハーマイオニーは俯いてゆっくりと席に着く。肩が少し震えているのを見ると、少し言い過ぎたかと反省する。これは何かしらフォローをした方がいいんだろうが、何て言ったものか。

 

「……でもまぁ、試しに活動してみることはいいんじゃないかしら? 否定的なことを言ったけれど、ハーマイオニーの言うような活動は今まで行われてこなかったんだろうし、賛同してくれる屋敷しもべ妖精も現れるかもしれないしね。もしこの活動が屋敷しもべ妖精に受け入れてもらえなくても、そのときは別の手段を考えればいいんじゃないかしら」

 

「そうだぜ、ハーマイオニー。確かにストレート過ぎてキツイ言い方だった気もしなくないが、やるだけやってみて小難しいことはそれから考えようぜ!」

 

「そうそう、よく言うじゃん? 当たって砕けろってさ!」

 

「……砕けちゃ意味ないんじゃないかしら?」

 

「あ~、うん。そうだな。まぁ、とにかく頑張ってみなって! 俺達だって何回も失敗して悪戯用品を作っているんだ。失敗するのは悪いことじゃないよ」

 

私のフォローとも言えない言葉にロンのお兄さん―――ジョージとフレッドだったか―――がフォローを入れてくれたお陰か、何とか場の空気がこれ以上悪くならずに済んだ。

 

 

 

 

「こんばんは、紳士淑女の諸君。そしてホグワーツへようこそ、客人の皆さん」

 

夕方、ボーバトンとダームストラングの二校がホグワーツへと到着し、大広間にて歓迎会が開かれた。ボーバトンは大きな館ほどもある馬車を天馬に引かれながら空を飛んで来校し、ダームストラングはこれまた巨大な船を潜水させながらやってきた。ボーバトンの生徒は水色の薄い絹のようなローブを着ており、ボーバトンがある地域と気候が違うためか非常に寒そうにしていた。ダームストラングはボーバトンとは逆に分厚そうな毛皮のマントを纏い、寒さを感じていないかのように身体を張っていた。

 

さらにそれぞれの校長。これまた正反対ともいえるような人物だった。

ボーバトンの校長であるオリンペ・マクシーム。女性だが、巨人の血でも引いているのかホグワーツ一の巨体であるハグリッドと同等かそれ以上の体格をしており、沢山の真珠か何かを身につけていた。

ダームストラングの校長であるイゴール・カルカロフ。こちらはマダム・マクシームとは異なり小さく―――とはいえ一般的には高身長である―――細い体格をした男性で先の縮れた山羊髭をしている。

 

「ボーバトン、そしてダームストラングの皆さんの来校を心より歓迎いたしますぞ。本校での滞在が皆さんにとって有意義かつ快適で楽しいものになることを、ワシは希望、また確信しておる」

 

ダンブルドア校長の言葉に何人かのボーバトンの女生徒が声を押し殺しながら笑う声が聞こえる。まぁ、ダンブルドア校長の挨拶は面白おかしいというのは周知の事実だが、今回は割りと普通だったと思う。何が彼女たちのツボに入ったのだろうか。

ちなみに、ボーバトンの生徒はレイブンクローのテーブルに着席しており、ダームストラングの生徒はスリザリンのテーブルへと着席している。

 

挨拶が終わると同時に大量の料理がテーブルの上に現れる。来校した二校のことも考えられているのか、それぞれの学校がある国の料理が振舞われている。ボーバトン生が多いためか、他のテーブルよりレイブンクローのテーブルにはフランス料理が多めに出されていた。

 

 

しばらくはパドマやアンソニーと話しながら食事をしていたが、いつの間にか隣に座っていたボーバトン生が話しかけてきた。

 

「はじめまーして。わたーし、フラー・デラクールいいまーす。あなーたのお名前はなんでーすか?」

 

フラー・デラクールと名乗ったボーバトン生はフランス語訛りの英語で自己紹介をしてくる。間近で彼女の顔を見て思ったのは、美女という言葉がこの女性のためにあるのではということだった。ボーバトンの女生徒は殆どが美人美少女と言える容姿をしていたが、その中でも彼女は突出しているように思える。

 

『初めまして、ミス・デラクール。私はアリス・マーガトロイドよ』

 

英語で話すのが酷く窮屈そうにしていたので、彼女に合わせてフランス語で自己紹介をする。すると、彼女は目を見開いて驚いた顔をしていた。

 

『ビックリしたわ。貴女、フランス語が喋れるの?』

 

私がフランス語を喋れると分かると、今度は英語ではなくフランス語で喋ってくる。

 

『えぇ。両親がフランス人でね。生まれはイギリスだけれど一応両方の言葉が喋れるの』

 

『そうなの。確かに、顔立ちが私達と似ているわ』

 

『ミス・デラクールみたいに整った顔ではないけれどね』

 

『私はヴィーラの血を引いているから他の子よりはね。でも、ミス・マーガトロイドも十分綺麗だわ。私までとはいわなくても、ボーバトンの中でも上の方に入ると思うわ』

 

『ありがとう。それと、私のことはアリスで構わないわよ』

 

『それなら、私のこともフラーと呼んでください』

 

その後は、歓迎会が終わるまでフラーと話し込んだり、パドマやアンソニーを紹介したりしていた。テーブルの上から料理がなくなったところでダンブルドア校長が立ち上がり、対抗試合について話し出す。

 

まず三大魔法学校対抗試合の開催に尽力したという人物からの紹介から入った。一人はクィディッチ・ワールドカップでも見たルード・バグマン。もう一人は魔法省の国際魔法協力部部長のバーテミウス・クラウチ。この二人と各学校の校長五人で審査委員会に加わるらしい。次に対抗試合についての概要が説明されて、最後に代表選手をどうやって選ぶかという話になった。

 

ダンブルドア校長が杖で開いた木箱に入っていたのは、大きな荒削りの木のゴブレットであり、衆目に晒されると同時に青白い炎が燃え盛った。このゴブレットに羊皮紙で名前と所属校名を記入して入れることで代表選手に立候補できるらしい。期限は二十四時間で、翌日のこの時間にゴブレットが各校より一人だけ代表選手を選び出すという流れである。

また、予め言ってあるように十七歳未満の生徒が参加できないようにダンブルドア校長直々に“年齢線”を張るらしい。

 

宴が終わり、ホグワーツ生は各寮へ向かい移動していく。ボーバトン生とダームストラング生はそれぞれ来校した際に乗ってきた乗り物で寝泊りするようだ。

フラーとも別れ、パドマたちと寮へ戻る最中では“年齢線”を超える方法はどのようなのがあるかという話をしていた。

 

 

 

翌日は土曜日ということもあり、多くの生徒が朝から炎のゴブレットが置かれている玄関ホールへと集まっていた。殆どの生徒は野次馬であったが、時折ゴブレットへ羊皮紙を入れる生徒が現れ、そのたびにホールにいる生徒は拍手を送っている。

ダームストラング生は朝一番でゴブレットに羊皮紙を入れたらしく、既に寝泊りしている船へと篭っている。何人かの生徒がビクトール・クラムと接触できないか相談していたが、こうも船に引き込もられていては無理だろう。

 

「ありすぅ、みんななにしてるのぉ?」

「あのそっくりなフタリ、ヒゲがもじゃもじゃだったね」

「京ちゃん。昨日も言ったけど、夜中に脅かしちゃ駄目でしょ」

「……(こくん)」

 

「アリスの人形達も随分賑やかになったわよね」

 

「本当にね。おかげでさっきから物凄い注目されてるよ。そしてアリスも、こんな中で落ち着いて髪の毛を梳かしたりしないでよ」

 

アンソニーの言葉は半ば無視しながら私の膝に座っている上海の髪の毛を櫛で丁寧に梳いていく。普段は一体だけを連れて授業に出ているのだが、土曜など授業のない日にはドールズ全員を連れているのだ。私の周囲をふわふわと浮かびながら喋っているドールズを見た生徒は大抵が似たような反応をするのだが、それも既に慣れたため殆ど無視するようにしている。

ちなみに、仏蘭西が言っている髭もじゃというのは、ウィーズリーの双子のことだ。“年齢線”を越えようと“老け薬”を飲んで挑戦したのだが失敗。無駄に歳をとって老人のごとく立派な髭を生やす結果となっていたのだ。

 

昼食を食べ終わった後も、午前同様に玄関ホールに居座って過ごす。

私としては外で日に当たりながら本を読みたいのだが、誰が立候補するのか知りたいけど一人でいるのは寂しいとパドマが言うので、半ば強制的につき合わされている。私がいなくてもアンソニーがいれば十分じゃないだろうかと思うのだが、どうもパドマはドールズと遊びたいらしい。ドールズの中では若い倫敦と仏蘭西の二体と今も遊んでいるのだ。

 

ふと、ホールがざわめき始める。

視線を向けると、校庭の方からボーバトン生が列をなしてホールへと入ってきていた。生徒の後にはマダム・マクシームがホールへと入る。ボーバトン生はマダム・マクシームの合図と共に一人ずつゴブレットへ羊皮紙を投じている。

 

ボーバトン生が全員羊皮紙を投じ終えると、来たときと同じようにホールを出て行こうとする。だが、その中で何人かの生徒が残りキョロキョロとホールを見渡している。その中にはフラーの姿も見えた。

 

『見つけた! アリス!』

 

フラーが私の方を見ると同時に声を上げながら手を振ってきた。何をしているのか思ったが、まさか私を探していたとは思っていなかったので少し驚くも、呼ばれた以上は返事をしないわけにもいかないので近づいてくるフラーへ手を振り返す。

 

『こんにちは、フラー。どうしたの?』

 

『こんにちは。お願いがあるんだけど、私達にホグワーツを案内してもらえないかしら?』

 

そう言ってフラーは後ろにいる数名のボーバトン生を紹介してきた。そのうちの一人はフラーの妹でガブリエールというらしい。

 

『この学校でフランス語が話せるのアリスしか知らないから、出来ればお願いしたいんだけれど』

 

『まぁ、今日はこれといった用事もないし構わないわ』「二人とも、私これからフラーたちに学校を案内してくるわ。また後でね」

 

「あ、うん。分かったわ」

 

「また後で」

 

二人はフラーたちがいきなり来たかは知らないが少し慌てながらも返事を返してくる。それを確認した私はフラーたちと並んでホールを進んでいった。

 

 

各寮塔や教室、天文台、温室、クィディッチ競技場、ふくろう小屋、中庭、禁じられた森、湖などを直接または見渡せる塔の上から案内し、暴れ柳や肖像画、隠し階段や通路を含めた面倒くさいホグワーツの仕掛けなどを案内していく。

 

『助かったわ。実はアリスが見つからなかったら他の人に頼もうかと思っていたのだけど、女性には避けられるし、男性は視線がちょっとね』

 

『まぁ、フラーたちは同性から見ても美人だしね。そういった反応はしょうがないんじゃないかしら』

 

『美しさは罪というけれど、まさしくそれを実感しているわ』

 

話しているうちに分かったことだが、フラーは若干自画自賛するところがある。しかも本人は自分の容貌を自覚して言っているのだから凄い。確かにそれに見合った容貌をしていることは事実なのだが。

 

『ところで、ずっと気になっていたんだけど。アリスの周りに浮いている人形は何なの?』

 

一通り説明し終わったところで、フラーがドールズについて聞いてきた。実のところもっと早い段階で聞いてくるかと思ったけれど、案内が終わるまで待っていてくれたのだろうか。

 

私がドールズについて簡単に説明するとフラーたちは非常に驚いていた。しかし慣れたとはいえ、毎回こういう反応をされるのは少し疲れる。

フラーに説明したのは、ドールズについて知られてもまったく困らない本当に簡単なものだったため随分と質問されたが、曖昧に答えたり禁則事項の一言で答えたりしてかわした。そうしている内にフラーも深く話せないこちらの事情を察してくれたのか、別れる頃には質問もされずに済み、お礼と共にボーバトンの馬車へと戻っていった。

 

 

 

 

「さて、ゴブレットは誰が試練に挑むべきかほぼ決定したようじゃな。代表選手に選ばれた者は前まで来た後に隣の部屋へと向かいなさい。そこで最初の指示が与えられることじゃろう」

 

ダンブルドア校長が杖を振り大広間の明かりを僅かばかり残して消し去る。暗闇の中で尤も光を放つのはゴブレットのみとなった。

そして次の瞬間、ゴブレットはこれまで以上に勢いよく燃え盛り、青白い炎は真っ赤な炎へと変わる。

全員がその様子を見守っている中、一枚の焦げた羊皮紙が炎の中から吐き出された。羊皮紙はダンブルドア校長の手に収まる。

 

「ダームストラングの代表選手は―――ビクトール・クラム!」

 

その名が出た瞬間、大広間は拍手と歓声に包まれた。特に各寮のクィディッチ・メンバーやカルカロフ校長の声など拡声器を使っているのではと思うほどの音量だった。

ビクトール・クラムが隣の部屋へと消えていくと、再びゴブレットが赤く燃え盛る。すると、先ほどの熱気なんてなかったかのように静まり返った。

燃え盛る炎から羊皮紙が吐き出されて、ダンブルドア校長の手に渡る。

 

「ボーバトンの代表選手は―――フラー・デラクール!」

 

再び大広間は拍手と歓声に包まれる。フラーは席から立ち上がると、その長い髪を流しながら歩いていく。選ばれなかった他のボーアトン生の反応は様々で、フラーに拍手を送っている者もいれば顔を伏せて泣いている者もいる。

 

「最後じゃ」

 

フラーが隣部屋へいなくなると、ダンブルドア校長はゴブレットに手を翳しながらそう言い放つ。同時にゴブレットが燃え盛り、最後の羊皮紙を吐き出した。

 

「ホグワーツの代表選手は―――セドリック・ディゴリー!」

 

ダンブルドア校長が言い終える前に、すでにハッフルパフのテーブルから今までに負けないほどの拍手と歓声が響き渡った。足を踏み鳴らし、手でテーブルを叩いている様は何かのデモか何かと思ってしまうほどだった。

名前を呼ばれたセドリック・ディゴリーはハッフルパフ生に笑いかけながら進んでいき、隣部屋へと入っていった。

 

「結構、結構! さて、これで三人の代表選手が決まった。選ばれなかった者も含め、全員が代表選手にあらん限りの応援をしてくれることを信じておる。代表選手へ真摯な声援を送ることで、君らは真の意味で彼らに貢献でき―――」

 

ダンブルドア校長が締めの言葉を遮るかのように、役目を終えたはずのゴブレットが再度燃え盛った。その予想外の出来事に、生徒や先生、クラウチ氏やバグマン氏、ダンブルドア校長でさえ信じられないものを見ているように唖然としている。

淡々と周りの状況を確認している私だけれど、さすがの私も今の事態には驚いているといって信じてくれる人は―――いなさそうだな。

 

「……」

 

ダンブルドア校長はゴブレットから新たに吐き出された二枚の羊皮紙を無言で手に取り、それをじっと見つめている。時間にして数秒か数分か。緊張に包まれる中、ダンブルドア校長はついに口を開いた。

 

「……ハリー・ポッター」

 

その名が出た瞬間、大広間にいる全ての視線がハリーへと注がれた。私もハリーを見るが、当の本人は今まで見たことがないほど混乱している様子だった。

 

だが、何人かの生徒はダンブルドア校長の手に未読の羊皮紙があることを思い出したのか、ハリーからダンブルドア校長へと視線を移している。

恐らく、あの羊皮紙には間違いなくもう一人の代表選手の名前が書かれているだろうことは誰でも想像できたことだろう。各校から代表選手は一人だけのはずが―――ハリーの年齢はこの際置いておくとして―――ホグワーツから二人も選ばれてしまったのだ。

ならば、次はボーバトンかダームストラングから二人目の名前が出てくるのだろう。だが、どちらの名前が出てきても問題となるのは確実だ。三校のうち二校が二人の代表選手をだして、残る一校は一人だけという状況になってしまうのだから。

 

沈黙と戸惑いに包まれる大広間。ダンブルドア校長はハリーに向けていた視線を残る羊皮紙に戻して、それを読み上げた。

 

「……アリス・マーガトロイド」

 

 

 

―――――――――はい?

 




【図書館の防衛能力】
魔術師的な工房に酷似

【お師匠様】
忘れがちだけど、二人の関係は師弟

【マッド-アイ】
優れたMAD職人に送られる称号(嘘

【三大魔法学校対抗試合】
戦争の縮図

【ドールズ入りトランク】
荷物の中で一番大きい

【京ちゃん、倫ちゃん、仏ちゃん】
蓬莱の妹たちに対する呼び名

【姉妹関係】
長女:上海
次女:蓬莱
三女:露西亜
四女:京
五女:倫敦
六女:仏蘭西

【尻尾爆発スクリュート】
キメラの一種?

【黒歴史】
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【『~』】
フランス語での会話

【年齢線】
上級生に頼めば下級生でも突破可能(ダン爺証言

【代表選手アリス】
テンプレ乙

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