魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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追記

今回のアリスの性格があまりにも違和感がありすぎるという印象を抱いたので、スネイプ合流後の話を少し修正しました。

修正したはいいけれど、話の途中からの修正なので矛盾が生じてないか心配ではあります。アップする前にチェックはしていますが、おかしな点があれば指摘いただければ助かります。



偽りの真実

「やぁ、ピーター。しばらくぶりだね」

 

ルーピン先生が気さくに声を掛けるも、ピーター・ペティグリューは酷く怯えたように体を震わせている。

 

「リ、リーマス……シ、シリウス。お……おぉ、なつかしの友よ」

 

ピーター・ペティグリューは二人の名前をどもりながら口にする。シリウス・ブラックの腕が僅かに動いたが、ルーピン先生によって止められた。

 

「さて、ピーター。今我々が何を話していたのか、そして君に何を聞こうとしているのか分かるね?」

 

ルーピン先生が穏やかに話しかけるが、その目には一切の感情が篭っていない。ピーター・ペティグリューは振るえながら話し出す。

 

「わ、私には、何のことか、さ、さっぱりだ。リ、リーマス。君は信じていないだろうね?さ、さっきの馬鹿げた、は、話を」

 

「それを確かめるためにもピーター、二つ三つ確認しておきたいことがある」

 

ルーピン先生が続いて話そうとしたとき、突如としてピーター・ペティグリューが叫びだした。誤解だとか勘違いだとか、シリウス・ブラックは嘘をついて自分を殺しにきたのだとか。他にも色々と息をつく間もなく叫んでいたが、要するに自分は悪くなく、シリウス・ブラックは自分の悪事の罪を自分に押し付け、殺すことで事実を闇に隠そうとしている。と言いたいらしい。

 

その後は質問というよりは尋問に近い形でピーター・ペティグリューへ言葉が掛けられていく。尋問が進み、追い詰められていくピーター・ペティグリューはこの場にいる全員に自分を擁護してくれるように懇願していた。それがハリーに至ったときにはシリウス・ブラックが怒鳴り散らしていたが、それに対してもピーター・ペティグリューは言い訳を続けている。そして今度は私に近づいてきた。

 

「お、お嬢さん。賢く、聡明なお嬢さん。き、君なら分かってくれるだろう?こ、これが、いかに、間違ったことか」

 

「……鼠のまま十二年間も過ごしてきた忍耐力はある意味尊敬できますけど、それ以外に私から貴方に言うことはないですね」

 

そう言って、床を這ってくるピーター・ペティグリューから離れてハリーたちの方へと向かう。ピーター・ペティグリューは未だに何か言っているが、ここまできたら言い逃れなんて出来はしないだろう。

 

「ロン、ちょっと足を見せなさい。折れてるでしょ?」

 

ロンの返事を聞かずに、私はロンのズボンの裾を引き上げる。脛の辺りが大きく腫れ上がり青紫色へと変色している。

 

「これは応急処置程度しか出来ないわね。“エピスキー -癒えよ”―――後でマダム・ポンフリーに直してもらいなさい」

 

そのまま腕の怪我にも治癒呪文を掛けていく。完全には直りきっていないが、それでも痛みは大分引いただろう。

 

「あ、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

ロンの応急処置が終わった私は立ち上がりルーピン先生たちのほうへと向く。私がロンの治療をしている間も話は進んでいき、最終的にはハリーの一存によってピーター・ペティグリューは殺さずに吸魂鬼へ引き渡すことになったようだ。ピーター・ペティグリューは未だに言い訳を続けていたが、ここまでくると呆れを通り越して感心してしまう。私がピーター・ペティグリューに対して尊敬しているものが二つになりそうだ。見習いたくはないが。

 

城へ向かうために全員が移動を始める。気絶しているスネイプ先生はシリウス・ブラックが魔法で引っ張っていくようだ。ピーター・ペティグリューは猿轡を噛ませられて簀巻きにされる。さらにルーピン先生とロンの腕に手錠で繋がれて連行されていく。

 

隠し通路は全員が一度に通れるほどに広くはないので、縦一列に並びながら進んでいく。私は列の一番後ろ、ハリーとハーマイオニーの三人で殿の形をとっている。しばらく歩いていると、ハリーとこれからのことについて話していたシリウス・ブラックが私に話しかけてきた。

 

「君……アリスといったかな?」

 

「そうですけれど。何か?」

 

「いや、そういえばお礼を言っていなかったと思ってね。ありがとう。君がいたおかげでピーターを逃がさずにすんだ。それに私が無実と認められればハリーと共に暮らせるかもしれない」

 

「それはよかったですね。ハリーの名付け親なんでしたっけ?」

 

「あぁ。今まで何もしてこれなかったが、これからは色んな事をハリーにしてやることができる。本当にありがとう」

 

「……どういたしまして」

 

頭を下げながらお礼を言ってきたシリウス・ブラックに吃驚しながらも言葉を返す。シリウス・ブラックは本当に嬉しそうな顔をしており、見ればハリーも口元が緩んでいるみたいだ。

 

「ところで、君はハリーたちとは同級生なのかい?」

 

「えぇ、そうなります。まぁ、私はグリフィンドール生ではなくレイブンクロー生ですけれど。それがどうかしました?」

 

「そうか。いや、三年生にしては見事な魔法の腕だと思ってね。ここに来るときに目くらまし術と遮音呪文を使ってきたと言っていただろう?あれはどちらもかなり高度な魔法のはずだが、その歳で使えるとは驚きだな」

 

「そうよ!アリスったら、いつのまにあんな魔法を使えるようになってたの?学校じゃ一度も教えていないはずなのに」

 

そこでハーマイオニーが若干興奮した様子で会話に割り込んできた。

 

「確かに高度な魔法だけれど別に闇の魔術とかではないし、普通に図書室の本に載っていたからね。空いた時間とかに練習してただけよ」

 

これに関しては本当のことで、図書室には一般的な呪文集などの本のほかにも色々な魔法についての本が置かれている。当然、闇の魔術に関係するものは禁書庫に保管されているが。上級生でもそれらの本を見て、独学で魔法を身につけている人が少なからずいる。

 

「そんな空いた時間ぐらいで身につけられるものなの?毎日の宿題だってあるのに」

 

「基本的に宿題はその日のうちか翌日には終わらせているからね。そもそも、毎日宿題が出ているのなんてハーマイオニーだけじゃないの?随分と無茶な時間割じゃない。来年からはコレは止めたほうがいいんじゃない?」

 

そう言いながら、手で何かをひっくり返す動きをする。それを見たハーマイオニーは少しだけ身体を強張らせたあと、恐る恐るといった感じで見てきた。

 

「え……えっと。もしかして、アリスは知っているの?」

 

「幾つかの可能性の中ではソレを使うのが一番現実的でしょ。あぁ、誰にも言わないから安心していいわよ」

 

ハーマイオニーが使っているだろう逆転時計はパチュリーなどの特異な例を除けば魔法省が管理していたはず。それをハーマイオニーが持っているということは、学校側がハーマイオニーの無茶な時間割を通すために魔法省から借りてきたのだろう。態々そんな手間をするぐらいなら、ハーマイオニーの受講教科を減らさせるなりさせればいいものだが。

 

「そろそろ地上にでるぞ」

 

ハーマイオニーが何かを言ってくる前に、前を歩くシリウス・ブラックが声を掛けてくる。気がつけば隠し通路の端っこ、暴れ柳の下にまで来ていた。

先頭が上の穴を抜けていくのを見ながら、右の視界を暴れ柳の外に待機させていた露西亜と繋げる。

切り替わった私の右の視界には暴れ柳にハリーとハーマイオニーの背中が映る。どうやらハリーとハーマイオニーはあれからずっと森に隠れていたようだ。

暴れ柳の根元からはクルックシャンクスが姿を現し、続いてロン、ピーター・ペティグリュー、ルーピン先生と続き、スネイプ先生にシリウス・ブラックとハリー、ハーマイオニー、最後に私の姿が見えた。私を含めた一行は真っ暗な校庭を歩き城へと向かっている。

 

もういいだろうと思い露西亜との視界を断とうとする寸前、視界に映るハリーとハーマイオニーの動きが慌しくなっていた。何やら私たちの方と空を見比べている。

右の視界が元に戻った私は思わず二人が見ていた空へと視線を向ける。そのとき、空を覆っていた雲が突然晴れ始め、暗い校庭に明るい満月の光が降り注いだ。

 

「満月……!?」

 

空に浮かぶ満月を見た瞬間、あることを思い出した。

以前、スネイプ先生にある生物についての宿題が出された際に調べてから三ヶ月くらい経ってから気がついた違和感。その生物の生活習慣や特徴がルーピン先生と似ていたのだ。それと、ルーピン先生が以前まね妖怪の授業を実演した際にまね妖怪が変身したもの。光り輝く丸いものに、その周囲を漂う靄のようなもの。

それらのことから知り得たルーピン先生の秘密。決して人には知られたくなかったであろうこと。

 

ルーピン先生が狼人間であるということ。

もちろん確証があるわけではなかったが、それは今私の前で確証に変わった。

 

「逃げろ―――逃げるんだぁ!」

 

シリウス・ブラックが叫ぶ。私たちの前では、ルーピン先生がまさに狼人間へと変身しようとしていた。

 

「―――インカーセラス! -縛れ!」

 

私は杖を抜き呪文を唱える。杖からは何本もの太いロープが伸びていき、ちょうど狼人間へと変身し終わったルーピン先生へと巻きついた。ルーピン先生は地面に倒れながらもロープから抜けようと身体を捩っている。

 

「何をしている!早くここから逃げるんだ!」

 

「逃げるにしても時間を稼がなければ無理でしょう?怒鳴っている余裕があるなら呪文を唱えてください」

 

そう言っている間にルーピン先生は身体に巻きついたロープを引き千切って起き上がろうとしていた。私がもう一度呪文を放とうと構えるが、横から黒い何かが飛び出たのを見て動きを止める。

飛び出ていったのは黒い大きな犬だった。シリウス・ブラックだろう。シリウス・ブラックはルーピン先生の肩に噛み付き、ルーピン先生もシリウス・ブラックの腕―――前足か?―――に噛み付いている。

 

「シリウス!やつが!ペティグリューが逃げた!」

 

少し横に離れた場所からハリーの叫ぶ声が聞こえる。ピーター・ペティグリューが逃げたらしく、周囲を探すがどこにもピーター・ペティグリューの姿は見えなかった。鼠になって逃げたのだろうか。だとすると、この暗闇の中小さな鼠一匹を見つけ捕らえるなんて不可能だ。いくら本の虫で探したところで、捕捉するころには追いつける場所にはいないだろう。

 

そう考えていた私の横をまたもやシリウス・ブラックが通り抜けていった。ルーピン先生の方を見るが既に姿はなく、代わりに森の方から狼の遠吠えが聞こえる。シリウス・ブラックとルーピン先生がいなくなったことで一気に静かになった。

 

「ロン!しっかりして、ロン!」

 

これからどうするか考えていたところに、ハーマイオニーの叫ぶ声が聞こえた。ハーマイオニーの方へと近づくとロンが地面に倒れていて、ハリーとハーマイオニーがロンの肩を揺さぶりながら声を掛けている。

 

「どうしたの?」

 

「アリス!ロンが!ロンがペティグリューに呪文を掛けられて動かないの!」

 

ハーマイオニーの言葉を聞きながらロンの様子を確認する。息はしているようだがこちらの呼びかけに一切の反応がない。というより、ただ単に気絶しているだけのようだ。

 

「心配しなくても気絶しているだけよ。多分、失神呪文を使われたんでしょう。放っておいてもそのうち目を覚ますわ」

 

反対呪文を使えばすぐにでも目を覚ますことはできるが、怪我人が今起きてもやることはないのだから放っておくことにする。

 

「―――僕、シリウスのところへいく」

 

突然そう言ったハリーはハーマイオニーの制止の声も聞かずに森の方へと走り去っていった。

 

「ハリー!?待って!ハリー!!」

 

ハーマイオニーもハリーを追って森の方へと走り去っていった。

その場に一人取り残されてしまいどうしようかと考えていたら、地面に一つ二つと影が増えながら森の方へ進んでいるのに気がついた。上を見上げると多くの吸魂鬼が森へ向かって飛んでいっている。森の方へ目を凝らすと、色んな場所から森に向かって飛んでいる吸魂鬼が見えた。

 

それを見た私は森へと駆け出していく。なんで吸魂鬼が急に集まってきたのかは分からないが、森へ向かっていることから吸魂鬼が獲物とする誰かがいるのだろう。それがハリーかハーマイオニーかシリウス・ブラックかルーピン先生か他の誰かは分からないが、もし吸魂鬼が誰かを狙っているのだとしたら非常に危ない状況なのは明らかだ。現状、杖を持ち守護霊の呪文を使えるのはハリーしかいない。もしかしたらハーマイオニーも使える可能性もあるが、確証もないので使えないものと考える。とすると、最悪ハリー一人で数多の吸魂鬼から三人を守らなければならない。それは完全な守護霊を作り出せないハリーには非常に難しいことだ。

 

そこまで考えて足を止める。さっきの場所には気絶したロンとスネイプ先生が横たわっている。気絶している無防備の状態でだ。もし吸魂鬼がやってきても一切の抵抗ができない状況である。

 

「エクスペクト・パトローナム -守護霊よ来たれ」

 

やむを得ないので、守護霊を出して二人の場所へと向かわせる。それと、いざというときに状況が分かるように蓬莱も一緒に向かわせる。私の杖から出た孔雀の形をした守護霊が空を飛んでいき、蓬莱は守護霊の背中に乗っていった。

 

あまり守護霊を多用するのは避けたかったが、この場合仕方がないだろう。

というのも、私が吸魂鬼に襲われた際に守護霊を出さなければならないわけだが、守護霊を同時に複数出すというのはかなり精神力を消耗してしまう。一般的に守護霊は一体しか出せないと思われているが、実際は術者の精神力次第で複数の守護霊を出すことが可能なのだ。だが、たとえ守護霊を複数出すことが可能な人がいても普通はそんなことはしない。

 

先ほども言ったように複数の守護霊を出すということはかなりの精神力を消耗するので、そんな状態ではとてもではないが他の呪文を使う余裕がないからだ。もし守護霊を使っている途中、何かに襲われたり不慮の事故が起こった際に呪文が使えないというのは致命的だ。すぐ守護霊を消しても呪文が使えるようになるまでは休まなければならないことを考えると、守護霊を同時に出すのは決していいことではない。

 

 

 

 

「そういえば、もう一人のハリーはどうしたのかしら」

 

露西亜をつけていたハリーたちのことを思い出し視覚を露西亜へと繋げる。視界が変わり露西亜の見ている視界へとなる。そこにはハーマイオニーの姿はなくハリーだけが湖を眺めているのが映った。ハリーの眺めている先、湖の反対側の岸辺にはもう一人のハリーとハーマイオニーとシリウス・ブラックがいる。シリウス・ブラックは地面に倒れておりハリーとハーマイオニーが上に向かって杖を上げていた。杖からは白い靄が出ている。

 

「まずいわね」

 

私は急いで湖のへと向かう。最後に見た視界には数え切れないほどの吸魂鬼が空を覆っていた。つまり、ハリーたちは大量の吸魂鬼に襲われていて守護霊もまともに出せない状況にある。形を持った守護霊を出せるはずのハリーが守護霊を出せていないのは、精神的に限界が来ているのか吸魂鬼の影響を深く受けているのか。

 

 

私が湖へと辿り着くと、すでにハーマイオニーは地面に倒れており、ハリーも腕が下がっている。吸魂鬼は今にも三人へ襲い掛かろうとしていた。

 

「あっちのハリーは何をしているのよ―――エクスペクト・パトローナム! -守護霊よ来たれ!」

 

私の杖から二体目の守護霊が飛び出す。その瞬間、身体から力が一気に抜けて立ち眩みを起こしたときのように身体がふらつく。一瞬意識が遠退きそうになるが唇を食いしばって堪えた。口の端から僅かに血が流れる。

 

湖を見ると三人に襲い掛かろうとしていた吸魂鬼を始め、この場にいる全ての吸魂鬼が離れていっていた。逃げていく吸魂鬼に向かっていっているのは私の守護霊と、もう一体の守護霊だった。もう一体の守護霊は大型の四足動物―――牡鹿だろうか―――の形をしている。

吸魂鬼を追い払い守護霊を消すと同時に、さっきハリーがいた場所へと目を向ける。そこにはハリーとハリーに近寄る牡鹿の守護霊が見えた。

 

「出せるんなら、もっと早くに出しなさいよね」

 

牡鹿と向き合っているハリーに文句を言いながらポケットからチョコレートを取り出して口に放り込む。吸魂鬼に襲われたわけではないが、甘いものを食べると幾分か気持ちが落ち着き精神力の回復に役立つのだ。とはいっても、消耗具合に対して微々たるものでしかないが。

 

チョコレートを飲み込み気絶している三人のところへ向かう。あの守護霊を出したハリーが未来のハリーならこの時間のハリーに接触するわけにはいかないだろう。ハーマイオニーも同様だ。吸魂鬼が戻ってこないとも限らないので三人を城へ運ぶためにも私が行くしかないか。

 

「ア~リス~」

 

「ん?」

 

歩いていると森の奥から蓬莱が私のほうへ向かって飛んできた。

 

「どうしたの?ロンとスネイプ先生は?」

 

「我輩を呼んだかね?」

 

蓬莱を抱き寄せながら聞くと、背後から聞き覚えのある声が聞こえる。恐る恐る振り向くと、案の定そこにはスネイプ先生がいた。傍には担架が浮いており、未だ気を失っているロンが乗っている。

 

「こんにちは、スネイプ先生。目が覚めたんですね」

 

「さきほどな。で、なぜ君がここにいるのかね?」

 

スネイプ先生は目を鋭くさせながら聞いてくる。

 

「そうですね。お話はしますけれど、歩きながらでもいいでしょうか?」

 

「―――よかろう。とりあえずは、あの凶悪犯を捕らえるのが先決であろうからな。話は後でじっくりと話を聞かせてもらおう」

 

そう言って、私は岸辺に地面に倒れている三人を見る。スネイプ先生も三人を見て状況を察してくれたのか歩き出した。シリウス・ブラックを凶悪犯と言うあたり、彼が冤罪ということには気がついていないのか。いや、あの場ではスネイプ先生は気を失っていたから当然か。それに、スネイプ先生なら個人的な恨みだけでシリウス・ブラックを凶悪犯呼ばわりしそうな気がする。

 

 

シリウス・ブラックを拘束したあと三人を担架に乗せて城へと戻っていく。もう一人のハリーたちはどうなったのか気になるが、今の状況では知りようもないので放っておこう。とてもではないが、スネイプ先生の横で露西亜と視覚共有する気にはなれない。それよりも、城についてから追求されるであろうことについてどう説明したものか。

 

「あの孔雀の守護霊は君が出したものかね?」

 

私がこれからのことを考えていると、横を歩いているスネイプ先生がこちらを見ずに尋ねてきた。

 

「はい、そうですけど」

 

まぁ、特に知られて困るというものではないので素直に答えておく。スネイプ先生は一瞬だけ私の方を一瞥するが、すぐに視線を戻した。

 

「―――君は今回の事についてどれだけ知っているのかね?」

 

「―――ハリーたちやルーピン先生が知っている程度でしたら」

 

少し考えてそう答える。別に嘘は言っていない。ハリーたちが知っていることは直接聞いていたし、私が知っていることもハリーたちには話してある。それ以外のことは予測の範囲でしかないが、全部を知っているとは言っていないし間違ってはいないだろうから惚けておく。

 

 

 

 

 

 

「なんということだ。誰も死ななかったのはまさに奇跡だ。前代未聞……いや、君が居合わせたのは幸運としかいえない。それに生徒とはいえ、君にも助けられてしまったな」

 

「恐れ入ります、大臣閣下」

 

ホグワーツの保健室。そこではファッジ魔法大臣とスネイプ先生に私を含めた三人が今回の事件について話し合っていた。ハリーたちはベッドで寝ており、マダム・ポンフリーは部屋の奥で薬を調合している。シリウス・ブラックは西塔に閉じ込められているようだ。

 

ファッジ魔法大臣の言葉から分かるように、今夜の事件はスネイプ先生と私によって終息したということになっている。真実からはかなり捻じ曲がっているのだが、ピーター・ペティグリューがいない以上真実を言っても信じてはもらえないだろうし、シリウス・ブラックを自らの手で捕らえ吸魂鬼に引き渡したいスネイプ先生は、ハリーたちが気絶しているのをいいことに脚色した経緯を話している。スネイプ先生としてはシリウス・ブラックが刑に処されれば多少のことは見逃す腹積もりのようで、嫌っているハリーたちもシリウス・ブラックに操られていたと庇っているほか、自らの話に真実味を含ませる目的で事前に私へ口裏を合わせるように言い含めてきたほどだ。

状況的にシリウス・ブラックを擁護するのは無理があるので仕方なくスネイプ先生の話に合わせたが、内心では短い時間で親密になっていたシリウス・ブラックとハリーに対して申し訳なく思う。ハリーにとっては両親の親友といえる相手であり、シリウス・ブラックにとっては親友の忘れ形見なのだから。二人にとって掛け替えのない者同士。それが失われるとなるとどれだけの絶望か。

 

 

 

 

スネイプ先生に言われた全体の流れとしては、談話室から外を眺めていた私がシリウス・ブラックに攫われる三人を偶然見つける。友達が凶悪犯によって連れていかれたのを見た私は談話室を抜け出して、シリウス・ブラックを追いかけながらドールズの一体に先生に知らせるよう伝言を頼む。それを聞いたのがスネイプ先生であり、暴れ柳の近くで隠れていた私と合流。スネイプ先生は私に隠れて、自分が戻らないようであれば城へ戻りこの事を知らせるように指示したあと暴れ柳の下にある隠し通路へと潜っていく。

一時間以上経ったあと、暴れ柳からでてきたのはシリウス・ブラックとルーピン先生とハリーたち三人だけでスネイプ先生の姿は見当たらなかった。シリウス・ブラックを除いた四人は焦点が定まっていないかのようにフラフラしていたのを見た私は、スネイプ先生に指示されていたとおり城へと戻ろうとする。そのときに雲が晴れて満月が顕になり、それを見たであろうルーピン先生が狼人間へと変身して暴れだしたことで場は混乱し、シリウス・ブラックは大きな黒い犬へと変身してルーピン先生を取り押さえようと森へと移動していった。

ロンはその混乱の中で気を失ってしまい、恐らく錯乱していたであろうハリーとハーマイオニーはシリウス・ブラックを追って森の中へ。私はハリーたちのことが気になり森へと向かおうとしたが、空を吸魂鬼が森に向かって移動しているのを見て、ロンの傍に守護霊とドールズの一体を置いてから森へと入っていった。

私が森を進んで見たものは、地面に倒れているシリウス・ブラックとハリーとハーマイオニーの三人に加えて、その上を漂う無数の吸魂鬼の群れ。私は守護霊を放って吸魂鬼を追い払おうとするも、どこからか別の守護霊がやってきて共に吸魂鬼を追い払ったが、術者の姿は見えなかったため誰の守護霊だったのかは分からなかった。その後、戻ってきたスネイプ先生と合流して今に至るということだ。ここまでならスネイプ先生は目立ったことをしていないようだが、守護霊を出した私では到底四人を城へと連れて行くことができなく、スネイプ先生が来てくれたおかげでシリウス・ブラックが目覚める前に捕らえ連行することができたということだ。

 

「我輩は最初にマーガトロイドに寮へ戻るよう言ったのですが、彼女の友達が心配であるという思いを汲んで待機することを許しました。教師の立場で言えば、無理にでも戻らせるべきだったのでしょうが、結果としてマーガトロイドがいたお陰で無用な犠牲が出ることもなく事を終えることが出来たのです」

 

「そうか。いや、そういうことなら彼女にも相応の何かを与えねばなるまい。校則は破ったかもしれんが、今回のことはそれを帳消しにして有り余るほどの功績だ」

 

「―――恐れ入ります、ファッジ魔法大臣」

 

正直そんなものはいらないが、ここで無理に断ってもややこしくなるだけだろうし素直に貰っておこう。ファッジ魔法大臣にも面子というものがあるのだろうし。それにしても、仕方がなかったとはいえスネイプ先生と口裏を合わせた結果こうなってしまったけれど、どうしようか。真実七割嘘三割といった内容だが、ハリーたちが知ったら絶対に苦情の嵐が飛んでくるだろう。

スネイプ先生はシリウス・ブラックを捕らえることが出来て上機嫌なのか、ハリーが攻撃したことを言わないどころかシリウス・ブラックに呪文を掛けられていたので責任はないとまで言っている。それでも怨みはあるのかハリーたちの停学を進言しているが、ファッジ魔法大臣はそれをのらりくらりと流している。

 

「ところで、ミス・マーガトロイド。本当に吸魂鬼を追い払ったもう一つの守護霊を出した術者は見なかったのかね?」

 

ファッジ魔法大臣はスネイプ先生のしつこい進言をかわすのがきつくなったのか、唐突に私へ話を振ってきた。

 

「はい。私のいたところから見た限り周囲に人はいませんでした。肝心の守護霊の形も、自分の守護霊を保つのに集中していたので確認している余裕がなく―――」

 

「いやいや、構わない。聞けば相当切羽詰まっていた状況であったのだろう。守護霊で吸魂鬼を追い払ってくれた君にそこまで求めるのは酷というものだ。とはいえ、三年生の君が守護霊を扱えることに私は驚きを隠せないよ。それも守護霊二体の同時使役など、にわかには信じられんことだ」

 

「―――恐れ入ります」

 

「どうだね?もし君さえよかったら卒業後は魔法省に勤めてみないかね?君ならきっと優秀な闇祓いになれると私は思うよ。勿論これから専門的なことを学ぶ必要はあるが、それも早い方がいいだろう」

 

「―――ありがとうございます」

 

まさか魔法大臣直々の誘いとは正直驚いている。この場の空気に流されているだけかもしれないが、それでも魔法大臣の言葉は軽くないだろう。割と本気で言っているのかもしれない。とりあえず、失礼にならないように保留の意を伝えておく。

 

 

「おや!目が覚めたのですか!」

 

マダム・ポンフリーの声に全員が振り向くと、ベッドに寝ていたハリーとハーマイオニーが目を覚ましていた。ただ、ハーマイオニーが難しい顔をしているので、起きていながら寝た振りをしていた可能性があるな。

 

「えっ!?」

 

今度はハリーの声が保健室内に響く。突然の大声にファッジ魔法大臣が早歩きでハリーに近づいていく。

 

「ハリー、何事かね?大人しく寝ていないといけないよ」

 

「大臣!聞いてください!シリウス・ブラックは無実なんです!今夜、ピーターを―――」

 

ハリーがシリウス・ブラックの無実をファッジ魔法大臣に説明しているが、ハリーがいまだ錯乱していると思っているファッジ魔法大臣はハリーをやんわりと窘めている。ハーマイオニーも加わるが聞き入れてはもらえていない。まぁ、あれだけ慌しく話していたら呪文にかかっていなくても錯乱していると思われてしまうだろう。

 

「ねぇ!アリス!アリスも知っているわよね!?アリスからもシリウス・ブラックが無実だと説明して!」

 

一向に言葉を聞いてもらえないハーマイオニーは、私にも援護してくれるように話を振ってきた。分かっていたこととはいえ、面倒くさい。

 

「ハーマイオニー、気が動転しているのは分かるけど少し落ち着きなさい」

 

「アリス!!」

 

「だから落ち着きなさい。慌てたって何にもならないわよ」

 

私の言葉にハーマイオニーがさらに捲くし立てようとするが、部屋の扉が開いた音で全員がそちらへと意識を向ける。シリウス・ブラックと話してくるといっていたダンブルドア校長が戻ってきたようだ。

ハリーたちは、今度はダンブルドア校長へシリウス・ブラックの無実を説明している。そのたびにマダム・ポンフリーが注意しているが、二人は聞く耳持たずといった感じだ。

 

「すまないが、わしはこの二人と話があるのじゃ」

 

そう言って、ダンブルドア校長は全員に席を外すよう促す。それに対して、マダム・ポンフリーとスネイプ先生がダンブルドア校長と口論するが、ダンブルドア校長の言外の譲らないという態度に折れたのか、渋々引き下がった。

 

 

 

 

 

 

「さて、私はこれから吸魂鬼を迎えに行かなければならない。ミス・マーガトロイド、君は寮へ戻りなさい。褒賞についてはまた後日通達しよう」

 

「―――ファッジ魔法大臣。もしよければ、吸魂鬼のキス執行に立ち合わさせてはもらえないでしょうか」

 

「なんと。いやいや、それは駄目じゃ。あんなモノは人に見せられるようなモノではない」

 

「それがどれだけおぞましいモノなのか知るためにも見ておきたいのです。普通ならまず見ることが叶わないものを、今なら限りなく安全に見ることが出来ます。ファッジ魔法大臣が仰ったように、将来闇祓いとして働くことになったときにこの経験は少なからず役に立つと思うんです」

 

「いや、だが。しかし……」

 

―――もう少し引き伸ばせるか。スネイプ先生との話を見ていた限り、ファッジ魔法大臣は予想通り押しに弱い。相手にもよるだろうが、感情的に話しかける相手には一歩引いてしまうみたいで、明確な拒否の言葉がでてくる気配はない。

あの二人がどんな方法を取るのかは知らないが、時間が多くあって困るものはないだろうし、伸ばせるなら出来るだけ伸ばしておこう。

 

時間にして数分程度だろうか。私とファッジ魔法大臣の話に痺れを切らしたのか、スネイプ先生が苛立った様子によって話を中断させられた。

 

「マーガトロイド、いい加減にしたまえ。いくら今夜の功労者としても、大臣閣下に対してその物言いは不敬過ぎる」

 

「あぁ、いいんだスネイプ。はっきりと断らなかった私に非があるのだからな。残念だがミス・マーガトロイド。学生の君に吸魂鬼のキスを見せることはできん。いくら将来のための経験としてもだ」

 

ここまでか。私にできるだけの時間稼ぎはしたのだから、あとは二人次第だ。

 

「今夜のことで疲れているのだろう。寮へは遠いだろうから保健室へ今日は休むといい。先生方には私のほうから言っておこう」

 

「……わかりました。無理を言って申し訳ありませんでした、ファッジ魔法大臣」

 

「気にしなくていい。君のような積極的な向上心は大切なことだ。時と場合は選ばなくてはならないが、それは大切にしておきなさい」

 

そう言って、ファッジ魔法大臣はスネイプ先生を連れて城の門へと向かっていった。私はファッジ魔法大臣に言われたとおり保健室へと向かう。

 

果たしてどんな結末になるのか。

 

 

あの後、保健室へと向かって歩いていた私は階段から息を切らしながら現れたハリーとハーマイオニーを発見した。ロンがいないところを見ると、この二人は戻っていた二人なのだろう。随分急いでいるようだし、ここで話しかけてもややこしくなるだけと思い影に隠れて二人の死角に入る。

二人は廊下を見渡した後保健室のほうへと走っていき、曲がり角を曲がり姿が見えなくなったのを確認する。

 

「あれだけ急いでいれば鉢合わせることもないでしょう」

 

 

私は静かに廊下を歩いていく。そして曲がり角へ差し掛かったときに、向こうから歩いてきたダンブルドア校長と鉢合わせた。

 

「おや、君は確か寮へと戻ったのではないのかね?」

 

ダンブルドア校長は髭を撫で下ろしながら不思議そうに聞いてきた。

 

「思ったより疲れていまして。ファッジ魔法大臣が気をきかせてくれて保健室で休むよう取り計らってくださったんです」

 

「ほぅ、コーネリウスが」

 

ダンブルドア校長は、今度は愉快そうに声を弾ませながら呟く。ダンブルドア校長は話していくごとに会話のテンポを変えてくるので話しづらい。

 

「それなら早く休まないといかんの。引き止めてすまなかった」

 

「いえ、では失礼します」

 

ダンブルドア校長と別れて保健室へと向かう。一度後ろを振り向いたけれど、そこにはもう誰もおらず、煙が吹いて撒かれたかのようにダンブルドア校長はいなくなっていた。

保健室へと入ると、先ほど廊下で見たハリーとハーマイオニーの視線が私のほうへと向く。二人は一瞬驚いた顔をするも、すぐに戻り話しかけてきた。

 

「ねぇ、アリス。どうして―――」

 

ハーマイオニーが言いかけたところで廊下から誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。それはどんどん大きくなり、やがてその声の発し主が保健室の扉を勢いよく開いて現れた。

 

現れたのはスネイプ先生で、米神に血管を浮かび上がらせながら部屋の中を見渡していた。そのすぐあとにファッジ魔法大臣やダンブルドア校長もやってきて、何だと思う前にスネイプ先生の重く響く声が発せられた。

 

「どうやって奴を逃がしたのだ!」

 

話を聞くに、シリウス・ブラックが牢屋として使っていた部屋から逃げ出していたらしい。シリウス・ブラックが自力で逃走するのは不可能だということで、スネイプ先生は現在城で動ける人物―――スネイプ先生はハリーだと確信しているみたいだが―――が手引きをしたはずだと考えているようだ。

とはいえ、当事者やある程度事情を把握している私以外からしたら荒唐無稽な話でしかなく、スネイプ先生も段々とヒートアップしてきて言っていることが支離滅裂になっていた。

最終的にファッジ魔法大臣に諌められて出て行ったが、最後の最後までその顔から怒りが消えることはなかったようだ。

 

 

「―――シリウス・ブラックは逃げたみたいね」

 

保健室からダンブルドア校長とファッジ魔法大臣がいなくなったのを見計らって二人に声をかける。

 

「アリス。どうしてシリウスが無実だって言ってくれなかったの?」

 

ハーマイオニーが若干険しい口調で私へと問いただしてくる。ハリーも口には出していないが私を睨んでいる。さっき目覚めたロンだけは事態が飲み込めていないようで首を傾げているが。

 

「ねぇ、一体どうなってるの?」

 

「黙ってて、ロン。あとで説明するから。ねぇアリス、どうして?」

 

「―――シリウス・ブラックも言っていたでしょう?ピーター・ペティグリューの生存が知られれば自由になれるって。それはつまり、ピーター・ペティグリューがいない限りシリウス・ブラックの無実は証明できないということよ。あの場で何を言ったところで、ピーター・ペティグリューがいない以上はダンブルドア校長でもシリウス・ブラックの無実を証明することなんてできないわ」

 

私は淡々とハーマイオニーへ伝える。ハーマイオニーも理解はしていると思うが、多分感情で認めたくないのだろう。

 

「それでも、たとえ受け入れてもらえなくても真実を言うことはできたでしょう!もしかしたら私たちの言葉を確かめるために刑の執行が延期させられるかもしれないじゃない!」

 

「無理よ。あの時、貴方たちはシリウス・ブラックによって錯乱の呪文を掛けられていたとファッジ魔法大臣に思われていたわ。そんな状況で言ったことが信じてもらえると思う?あんなに取り乱しながら一方的に叫んでいるだけじゃなおさらよ。言ったわよね?落ち着きなさいって。それに、ファッジ魔法大臣はできるだけ早急に事件の解決を図っていたわ。それこそ、準備が整い次第に吸魂鬼のキスを執行するほどにね。つまり、あのときにはもう言葉で解決できる事態は通り越してしまっていたの」

 

余計に言葉を挟まれないように一気に言ったけれど、やはり納得がいかないのか二人の顔は険しいままだ。ロンは相変わらず首を傾げているが、下手に口を出してくるよりはよほどいい。

 

「でも、それでも「だから貴方たちは言葉ではなく行動に移したのではないの?」―――えっ?」

 

「私たちが保健室から出て行ってからシリウス・ブラックを逃がすには時間的にも物理的にも無理だわ。それにあの時に保健室から貴方たちがいなくなれば、すぐに怪しまれてしまう。でも、もしあの時間に保健室にいる貴方たちと別の場所にいる貴方たちが同時に存在していたら?アリバイも時間的猶予も十分過ぎるほどだわ」

 

私がそう説明すると二人は訳が分からないといった感じで戸惑っていた。

 

「な、なんでアリスがそれを知っているの?」

 

「隠し通路でハーマイオニーが逆転時計を持っていることを知っているってのは伝えたわよね。直接的には言ってないけど。で、どうしようもない事態になったときに過去へと戻れる道具を持っていたらどうするか。それを考えれば分かるわ」

 

ハーマイオニーは呆然とした感じで固まっている。ハリーも似たような感じだ。ロンは相変わらず首を傾げている。

 

「ま、今言ったのは後付の理由だけどね。確信を持てたのは、私が暴れ柳下の隠し通路へ入る前に森に隠れている二人を見つけたからよ」

 

その言葉に二人は僅かに体を震わせる。

 

「き、気づいてたの?」

 

「えぇ。安心なさい。スネイプ先生は気が付いていないようだったから。知っていたらもっと追求してただろうしね。まぁ色々言ったけれど、私は貴方たちなら過去に戻ってでもシリウス・ブラックを逃がすと思っていたから、あの場では何も言わなかったのよ。下手に混乱を広げるのは貴方たちだって嫌だったでしょう?」

 

そこまで言って、ようやく二人は黙りこんでベッドに座った。これ以上長居するとマダム・ポンフリーに注意されるだろうから寮へと戻ろうとハーマイオニーたちに背を向ける。そのとき、今まで口を閉じていたハリーが話しかけてきた。

 

「アリス、一つだけ聞きたいんだ。湖で大量の吸魂鬼が襲ってきたときに鳥の守護霊を出したのは君なのかい?」

 

「そうよ。ちなみに、あれは孔雀ね。ハリーだって守護霊を出していたでしょう?牡鹿かしら?」

 

「うん……ねぇ、アリスは誰に教わったの?その、守護霊の呪文を」

 

「それは秘密よ。あんまり人に知られるのを嫌がる人だからね」

 

本当はそうでもないが、態々説明するのも面倒なので誤魔化しておく。話はもう終わりみたいなので、今度こそ保健室を出て寮へと向かっていった。

 

 

 

 

今学期最後の日も終わりロンドンへと帰る日となった。ホグワーツ特急に乗りながら、私は恒例となりつつあるコンパートメントの独り占めをしている。

 

シリウス・ブラックが逃亡した夜から数日後、魔法省から世間に発表された事の顛末を知った人々は揃って魔法省、特にファッジ魔法大臣への批評を上げていた。折角シリウス・ブラックを捕らえたのに刑の執行目前に逃亡されてしまうなど、危機管理能力が欠落しているとまで言われていたほどだ。日刊預言者新聞では連日そのことで一面を飾っていたが、ファッジ魔法大臣が新たに警備・追跡体制を見直し・強化してシリウス・ブラックの再逮捕に全力を尽くすなど諸々を発表したことで一応は沈静化された。

 

また、シリウス・ブラックの確保に貢献したことでスネイプ先生にはマーリン勲章が授与されるはずだったが、シリウス・ブラックの逃亡と同時に取り消しとなってしまったらしい。スネイプ先生はあの夜以降かなり機嫌が悪そうだったが、あれはマーリン勲章が取り消しになったというよりはシリウス・ブラックが逃亡したことが原因ではないかと思っている。あの夜のスネイプ先生の言い分からするに、スネイプ先生はハリーがシリウス・ブラックを逃がしたと確信しているようだ。実際その通りなのだが証拠がないので、積もりに積もったストレスの捌け口がなく、それがあの機嫌の悪さの原因となっているのだろう。

 

ちなみに、私にも特別褒賞として魔法大臣特別功績勲章なるものが授与されるみたいだったが、それも取り消しとなった。仕方ないというより当然というか、正直貰えようが貰えまいがどちらでも構わなかったが。最も、ファッジ魔法大臣が勲章の代わりとして個人的に褒賞を与えると言っていたので少しだけ気になっている。夏を楽しみにしていなさいと言っていたけれど何なんだろうか。

 

 

事件以外のこととしては学期末テストの結果発表とルーピン先生の退職ぐらいだろうか。

学期末テストの結果は、学年別に順位が張り出される仕組みになっている。寮内だけの順位は各談話室に、全寮を含めた順位は大広間前の大ホールの壁に掲示されるのだ。

基本的にはどの教科もレイブンクローが上位を占めていて、他の寮は十人程が食い込む程度なのだが、今年は闇の魔術に対する防衛術の上位陣にグリフィンドールが多めに入っている。特にハリーやハーマイオニーは最高得点を取っていた。

私の成績は一つの教科を除いて全てが最高得点であり、ハーマイオニーと同点という結果になった。あれだけの教科を受けて全てが最高得点のハーマイオニーは素直にすごいと思う。ちなみに、一つの教科とは魔法生物飼育学のことで、唯一ハーマイオニーやハリーたちより下の順位となっている教科だ。途中から真面目に取り組んでいなかったから別に順位が下だとか上だとかで何か言ったりはしないが、ハグリッドはあの授業内容からどうやって成績を決めていたかが唯一気になることではある。

 

ルーピン先生については、狼人間であることが公になってしまったことにより、生徒の保護者から苦情が来る前に自主的に退職したようだ。本来なら一部の者が秘密にしていれば公になることはなかっただろうが、スネイプ先生が朝食時の大広間でうっかり漏らしてしまったのだ。うっかりというか、あれは絶対に故意だと思うが。

一昨年と去年の闇の魔術に対する防衛術の教師がアレだったので多くの生徒はルーピン先生が退職することを残念がっていた。スリザリンは例外だったが。

 

 

 

 

今年の夏の予定は、京人形と倫敦人形と仏蘭西人形の三体の人形に魂を与えるつもりでいる。その合間にはパチュリーに頼みっきりになっているバジリスクの毒の研究を予定しているが、最後の朝食時に来たふくろう便で送られてきた手紙によるともう成分の解析は終わってしまったらしく、私が戻るころには試作品が出来ているようだ。たかだか十数年しか生きていない学生と百年は生きているだろう魔女を比べるのが間違いだと思うが、何も手をつけずに終わってしまったことに悔しく思う。私がしたことなんてバジリスクの毒を採取してきた程度だろう。

 

 

時計を見ると、ロンドンまではまだ五時間は掛かりそうだ。人形の作成も魔法の練習も読みかけの本も何もないので、パドマたちのコンパートメントへ遊びに行こうと席を立つ。

入り口の扉を開け、通路を進みながら一つの懸念事項だけを呟く。

 

「二人が仲睦まじくしているようだったら速攻で退散しましょう」

 

あの二人の惚気に付き合うのは心底疲れるのだ。

 

 

 




アリスを絡ませるために、ところどころ原作と違っている箇所が何箇所かありますが、ご了承ください。辻褄は合わしたつもりですが、合っていなかったらどうしようか。



追記

時事ネタは消しました。

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