のんのんでいず   作:カレー大好き

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アニメより前倒しでこのみが登場します。
自分の好きなキャラなので出番を増やしてみました。
この回からラブコメ要素が目立ってくるので、楽しんでもらえたら嬉しい限りです。


第3話 「姉ちゃんにライバルができた」

「夏海先輩とこなみちゃん、今日は何でリュックなんですか?」

「え? 何でって今日は遠足だからじゃん、ねぇこなみん」

「うん、特別な授業があるからお弁当持って来てって先生に言われたよ?」

「えっ!? 私何も聞いてないですけど……」

「私も昨日夏海から初めて聞いたんだ」

「ほたるんも姉ちゃんも、ちゃんと先生の言うことは聞いとかないとなぁ」

「威張るな。先生っていつも寝てばっかだから、つい油断しちゃっただけだよ」

「そうですよ~」

 

 

なにやら連絡が行き届いていないようだが、今日は遠足ということになっているらしい。

急な話で蛍だけは戸惑うものの、夏海は昨日から楽しみにしていて浮き足立っており、小鞠とこなみもどことなく嬉しそうだ。

しかし、こういういかにもな展開のときは気をつけなければいけない。

小鞠が言っているとおり、一穂は授業中でも堂々と居眠りできるような【反面教師】だということを忘れてはいけなかったのである。

 

 

「というわけで、楽しい楽しい遠足ぅ。田植え祭りを始めま~す!」

 

 

所変わって、ここは田植え準備が整った田園地帯。

もう少し詳しく言いうとれんげの家が所有している土地で、胴長靴を着た一穂は何故かこの場所にみんなを集めて遠足の説明……というか、このおかしな状況のいい訳を始める。

 

 

「え~、今日はこちらの田んぼのお手伝いをしてもらいま~す。まぁ、こちらと言っても先生んとこの田んぼですが~」

「「「「「……」」」」」

「あ、違う違う。別にバイト雇うお金が無いとか、先生が家の手伝いするのがメンドイとか、だから生徒に労働させるってわけじゃなくて、楽しく田植えしてお米の大切さを知ろうって課外授業でねぇ、うん」

「「「「「……」」」」」

「あれ? もしかして遠足の情報が十分に伝わってなかったことに怒ってるのかなぁ? 夏海とこなみちゃんには言ったんだけど、ちょ~っと言葉が足りなかったかな~? メンゴメンゴ」

「なんかムカツクな!」

「てゆーか、全然遠足じゃないじゃん! 嘘はいかんでしょ、先生!」

「いやいや、これでも一般的には遠足に違いないし~、勉強もお休みなんだからいいでしょ~? それに、れんちょんは遠足って聞いて、きゃっきゃ笑いながら楽しみにしてたもんね~」

「ほんと、笑わせてくれる」

「「「「(全然笑ってない!!)」」」」

「……うん。良いお返事をもらえたところで、楽しい田植え、は~じま~るよ~!」

「純真な子供の心を弄んでるな、この先生……」

「うわ~ん! こんな現実、認めんぞぉ~!」

 

 

こうして、夏海のささやかな抵抗も空しく、一穂の計略は成功するのだった。

例えダメダメであっても教師の言葉は絶対なのだ。

 

 

「あ~そうそう、こなみんは頑張りすぎないでいいからね~。れんちょんも初めてだから、一緒にのんびりとやってちょうだい」

「は~い」

「うちと一緒にやるん!」

「上手くできるかな~?」

 

 

先ほどまでは一穂に騙されたせいでテンション真っ逆さまだったれんちょんも、大好きな友達と一緒なら理不尽な展開でも受け入れられるようだ。

未だ放心中の夏海とはえらい違いである。

そのように、子供らしく自分たちの感情を素直に示している彼女たちを見ながら、ちょっぴりお姉さんの小鞠はやれやれとため息をつく。

 

 

「はぁ、そういやこの時期はいつも田植えさせられるんだった」

 

 

今更ながら気づくも後のフェスティバル。

しょうがないので人数分用意してある胴長靴のひとつを着てから髪をポニーテールに纏めて準備を整えると、苗の入った入れ物を持って田んぼに向かう。

お姉さんは子供たちに模範を示さなければならないのだ。

 

 

「仕方ないね、さっさと終わらせてお弁当食べて帰ろう」

「私お弁当なんて持ってきてないですよ~」

「ああ、おにぎりでいいなら私が作ってきたの分けてあげるよ」

「えっ、先輩の作ったおにぎり……がんばろう!」

 

 

欲求を満たされた人間は強くなるものだ。

これまでの成り行きに一番置いてけぼりを食っていた蛍だったが、小鞠の一言だけで一気にやる気がみなぎってきた。

さらに、その効果はこなみの一言によって小鞠にまで現れることになる。

 

 

「蛍お姉ちゃん、私もお弁当持ってきたからみんなに分けてあげるよ」

「こなみちゃんのお弁当までもらえるの!? あっでも、それだとこなみちゃんの分が無くなっちゃうよ?」

「大丈夫だよ、ママがみんなにも食べてもらいたいからって多めに作ってくれたし、それにお兄ちゃんが作ってくれたお菓子もあるから……」

「えっ、大河先輩の作ったお菓子!?」

「きゃっ!?」

「急にどうしたの、小鞠お姉ちゃん?」

「ふにゃっ!? あ~ははは……大河先輩って料理するんだ~?」

「うん、凄く上手でおいしいんだよ」

「そうかそうか~! そんなにおいしいなら、是非私も食べてみたいな~!」

「いいよ~、田植えが終わったらみんなで食べようね」

「よっしゃー、がんばるぞー!!」

「小鞠お姉ちゃん元気一杯だね~」

「私も負けてられませんっ!」

「ほたるんも食いしん坊さんなんな」

 

 

蛍は大好きな小鞠とこなみからお弁当をもらうため、小鞠は恋しちゃってる大河の作ったお菓子をおいしくいただくために闘志を燃やす。

動機はどうであれ、楽しんで労働できるならそれに越したことは無いだろう……例え、一穂の手の内で踊らされているだけだとしても。

そんなこんなで、一風変わった思惑を秘めた田植え作業が始まった。

 

 

「先輩のおにぎり! 先輩のおにぎり!」

「大河先輩のお菓子! 大河先輩のお菓子!」

 

 

呪文のように同じ単語を繰り返しつぶやきながら一心不乱に田植えをする小鞠と蛍。

今の彼女たちは近寄りがたい雰囲気があるので、視点をれんげたちに移すことにしよう。

れんげとこなみは、先の2人とは違って一穂の言うとおりにゆっくりと苗を植えていた。

ただ、その植え方は間違っているようで、ひとつ苗を植えるごとに前に進んでしまっているため、せっかく植えた苗を踏んでしまっていた。

 

 

「しっかり入れて……よし! よっこいしょ……よっこいしょ……」

「奥まで入れて……よし! んっしょ……こいしょ……」

「れんちょん、こなみん、ストップ」

「ふぉ?」

「ふぇ?」

「2人とも、植えた苗ガチ踏みしてるんですけど」

「あら」

「ほんとだ」

「いいかい、こういうのは後ろに下がりながら苗を植えていくの」

「「おお~」」

 

 

後ろ歩きは基本的に危険なことだという認識もあってか、幼いれんげたちではこの方法を思いつけなかったらしく、一穂のお手本を見て感心した。

2人でパチパチと拍手しながら一穂を褒め称える。

 

 

「流石、先人の知恵」

「おばあちゃんの知恵袋だね」

「うちはまだ24歳だよ……」

 

 

子供たちのピュアで残酷な言葉によってさりげなく一穂は傷ついた。

とはいえ、みんなの田植え作業自体は特に問題も無く進んでいく。

一方、遠足で行きたかった場所を力いっぱい叫ぶことでストレスを発散した夏海は、彼女と同じようにやる気無く座っていた卓にちょっかいを出していた。

身近にあった道具を使って、されるがままの彼を案山子に仕立てあげていく。

しかし、いざ完成させてみると、思っていたより楽しくは無かった。

 

 

「う~ん、もっと面白くなるはずだったのにな~」

「……」

「しゃ~ない、別のことしますか」

 

 

卓に悪びれることもなくそのまま放置して、次なるターゲットを探す夏海。

彼女には田植えをする気などまったく無く、今はせっかくできた自由時間を満喫することだけしか考えていないようだ。

気分のままに何か楽しいことは無いかと視線を巡らす。

すると、泥に嵌まって困っている様子の小鞠に気づいた。

 

 

「ん? うははぁ~!」

 

 

これは面白いネタを見つけたと子供のように目を輝かせると、すぐさま小鞠の近くに駆け寄って、いつものごとくからかい始める。

 

 

「な~になになになに!? なに嵌まっちゃってんの? あっはっは~! どうやったらそこまで嵌まるの? 嵌まる瞬間アンコール!」

「くぅ~、ここまで順調に行ってたのに、よりによって夏海の近くで嵌まっちゃうなんて!」

「まったくしょうがないなぁ、姉ちゃんは。うちがついてないとすぐこうなるんだからぁ~」

「子供扱いするな!」

「え~? だって、姉ちゃんって子供っぽいじゃ~ん」

「むきぃー、言わせておけば好き勝手言ってくれちゃってぇー! 恋しちゃった私はもうお子様じゃないんだぞー!」

「ん~? 今なんて言ったの、姉ちゃん?」

 

 

照れて小声になった「恋しちゃった」の部分を聞き逃した夏海は、小鞠の方へさらに近づく。

この時は何のことは無い行動だったが、そのせいで後にひどい目に遭うことになる。

 

 

「今の私は、大人のお姉さんなんだぞ!」

「ええ~? 泥に嵌まってるクセにな~に言っちゃってんの~?」

「ふんっ! こんな泥んこぐらい、お姉さんの力で押し出してやる!」

「無茶なことは止めときなって」

「ラブパワーは伊達じゃないっ!!!」

 

 

小鞠はそう叫ぶと渾身の力を振り絞り、体の捻りも加えつつ右足を振り上げた。

すると、先ほどまで動かなかった足が持ち上がり、次の瞬間には左前方に向けて綺麗に伸び上がった。

宣言したとおり伊達じゃないラブパワーが発揮されたことに小鞠は喜ぶ。

しかし、その結果によってそばで見ていた夏海に災難が降りかかることになった。

狙ったわけではないものの、小鞠が蹴り上げて舞い上がった泥が夏海のいるほうに向かってしまい、散弾のように襲い掛かってきたのだ。

 

 

「あっ」

「ぶべらっ!?」

 

 

至近距離で泥散弾を食らった夏海は、変な叫び声を上げながらのけ反って倒れこむ。

しかも、夏海に当たらなかった泥はさらに飛んでいって、その先にいた卓にも直撃した。

 

 

「!!?」

 

 

ドババーッ!!

竹の棒で腕を固定された卓には成すすべも無く、泥まみれになるしかなかった。

一見巻き添えを食った感じだが、これも田植えをサボった罰なのかもしれない。

それでも彼は編み笠を被っていただけましで、夏海は泥水が目に入ったらしく悶絶していた。

 

 

「あーん! 夏海ちゃんの目がー!!」

「さぁて、無事脱出できたことだし、田植えを再開するか~」

「なんという非情なスルー!?」

 

 

とまぁ、小さなアクシデントはあったものの、何とか田んぼ一区画の田植えを終えて子供たちは休憩に入った。

時刻はもうすぐお昼なので、たぶんこのまま課外授業は終了するだろう。

一所懸命がんばった小鞠たちが達成感に満たされる中、泥まみれになった自分の身体をれんげとこなみに拭いてもらいながら、夏海は今日の感想をつぶやく。

 

 

「もう、田植えなんてしない」

「アンタは何もしてないけどね」

「てか、元凶の先生はうちらを放ってどこ行ったの?」

 

 

そういえば、終わりを告げることも無くどこへ行ったのか?

夏海の一言でみんなも気づき、この場からいなくなった一穂を探す。

その時、機械の動く音が聞こえてきたのでそちらに目を向けると、少し離れた所に置いてあった田植え機に乗って田植えを始めた彼女を見つけた。

 

 

「ああ~、やっぱり人手より機械だわ~。いや~、こいつ買ったから人の手とどっちが効率いいか知りたかったんだけど、断然機械だわ~」

「「「「「……」」」」」

「あ~、みんなはもう帰っていいよ~!」

 

 

何と言うか……予想以上に酷いオチで、みんなは言葉をなくすのであった。

あまりのフリーダムさにつっこむ気も起きない。

それに、今はそんなことより興味のあるものがあった。

 

 

「何か色々あったけど、これで心置きなくお弁当が食べられるね!」

「はい!」

「それじゃ、お弁当出すね」

「うわ~い、お腹空いたの~ん!」

「よっしゃ、こなみんのお弁当とお菓子、楽しみにしてたんだぁ!」

 

 

待ってましたとばかりに、小鞠は持ってきたリュックからおにぎりを取り出し、こなみは自分の分の小さいお弁当箱とみんなに食べてもらう分の大きいお弁当箱を取り出した。

そして、最後に大河の作ったお菓子が入っているタッパーを出す。

中に入っているのは、結構凝った作りのケーキ菓子だ。

 

 

「うわぁ、すごくおいしそう!」

「おおっ、こなみんママが作ったお弁当もめっちゃ美味そうだ!」

「さぁみなさん、どうぞお食べになって……」

「から揚げウマウマ~」

「れんちょん、食うの早っ!」

「あの、先輩のおにぎり貰っていいですか?」

「もちろん、約束だからね」

「ありがとうございますっ!」

 

 

用意するなり、早速食事を始める一同。

こなみの母親が作った料理はかなり好評で、小鞠たちの作ったおにぎりも主に蛍がおいしく頂いた。

しかし、ここでも災難が巻き起こる。

おにぎりを食べた夏海が、何故か突然シャウトしたのである。

 

 

「かぁらぁ~~~~~!!?」

「何事なん!?」

「自爆か……」

 

 

実は、夏海が作ったおにぎりの中に1個だけカラシ入りのロシアンおにぎりがあったのだ。

自分で仕込んだものに自ら当たるという古典的なオチでギャグ担当としての任務を全うする夏海であった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

6月のとある休日、小鞠を尋ねて来客があった。

彼女は、越谷家の隣に住んでいる高校3年生の少女、富士宮このみだ。

小鞠と夏海とは幼馴染の間柄なので年齢差を感じさせない付き合いをしており、今日も親しげな雰囲気でガールズトークに花を咲かせていた。

 

 

「なぁに? またなっちゃんとケンカしたの?」

「だってアイツ、私のアイス食べちゃったんだもん!」

「もう、そのくらいお姉さんなんだから許してあげればいいじゃない」

「人事だと思って簡単に言わないでよこのみちゃん。この前だって、家出に付き合わされて酷い目にあったんだからね~。あいつにはガツンと言わなきゃダメなんだよ、姉として!」

「私には仲良しさんにしか見えないんだけどな~。ところで、小耳に挟んだんだけど、分校に転校生が来たんだって?」

「うん、女の子が2人も来たよ」

「ふむふむ。それで、名前はなんて言うの?」

「最初に来たのは小学5年の一条蛍って子で、次に来たのは小学1年の海川こなみって子だよ」

「ふぅん、一条蛍ちゃんと海川こなみちゃんね……やっぱりそうか~」

 

 

なにやら、転校生の名前に心当たりがあるらしいこのみ。

その反応を見た小鞠は、疑問に思うと同時に何やら危機感を覚えた。

俗に言う女の感というヤツで、脳裏にキュピーンと電撃が走ったのだ。

 

 

「このみちゃん、やっぱりってどういうこと?」

「あ~うん、先月の上旬くらいに私のクラスにも転校生が来てね、その人の妹が分校に通ってるってつい最近聞いたから、確かめてみたらそのとおりだったって訳だよ」

「その人の名前って、もしかして海川大河って言うんじゃ……」

「うん、そうだよ。その様子だと小鞠ちゃんも会ってるみたいだね。彼ってちょっと変わってるから驚いたんじゃない?」

「ま、まぁね……」

 

 

まさか、お隣のお姉さんと気になってる先輩にそのようなつながりが出来ていようとは思ってもいなかった。

しかも、大河のことを話すこのみはどことなく楽しそうで、憎からず思っているのは明らかだ。

このみのことも大好きな小鞠としては、非常に困る状況になりそうだ。

 

 

「大河君って見た目はカッコイイから始めはすごい人気だったんだけどさ、話してみたらユニークな個性の持ち主だってことが判明して、女子の大半が引いちゃったんだよねぇ。今じゃシスコン、中2病、変態、ネタキャラ、残念なイケメン、愛すべき馬鹿とか呼ばれてるよ」

「散々な言われようだね……。でも、このみちゃんは違うみたいだけど」

「まぁね。私は面白いなって思っただけだし、基本的にはものすごく良い人だから意外と気軽に付き合えるんだよ。ほんと、みんな勿体無いよね~」

 

 

やはり、このみは大河に対してそれなりに好感を持っているようだ。

思わず内心で、むむむと唸る小鞠。

 

 

「それに、見かけによらず世話好きでさ、最近は勉強を教えてもらったりしてるんだ。大河君、すごく頭がいいから助かってるよ」

「むむむ~」

 

 

次々とこのみから出てくる仲良し話を聞いているうちに、唸り声が実際に出てしまった。

何となくだが、このままではいけない気がする。

なので、今度は自分から攻勢に出ることにした。

 

 

「私だって大河先輩に頭撫でてもらったり、大河先輩の作ったお菓子食べさせてもらったりしてるもんね~!」

「ほほぅ、あやつは可愛い後輩にそんなことをやってたのか~……なるほどねぇ」

 

 

小鞠の反撃に対して、今度はこのみが唸る。

今の会話で小鞠の抱いている感情が何となく伝わったからだ。

年上のお姉さんとしては、妹のような幼馴染の成長を嬉しく思うけど、女としては譲れないものがある。

今はまだ何となく良いなと思う程度だが、今後の展開次第では恋に発展するかもしれないから中途半端にはしたくないし、それでは小鞠にも失礼だ。

そう思ったこのみは、思い切った行動に出ることにした。

これなら、自分だけでなく小鞠のためにもなるはずだ。

 

 

「実はさ、前々から大河君の家に行ってみたいと思ってたんだけど、小鞠ちゃんはもう行ったことある?」

「えっ!? ううん、まだないよ」

「じゃあさ、今から2人でおしかけちゃおうか?」

「い、今から!?」

「知らない仲じゃないんだから大丈夫だよ。それに、まだここに来たばかりで戸惑ってることもあるだろうから、私たちが手取り足取り教えてあげようじゃないか」

「う~ん……突然行ったりしていいのかなぁ?」

 

 

若干気後れするものの大河の家に興味がある小鞠は、押しの強いこのみの提案に乗っかることにした。

というわけで、決めたのならば善は急げと早速出かける2人。

海川家は、農村の中でも比較的人口が集まっている住宅街にあって彼女たちの家からは少し離れているが、徒歩でも簡単に行ける距離だ。

こなみや蛍から聞いた話で大体の場所は分かっているので、そんなに迷うことはないだろう。

 

 

「ところで、教えてあげるって何を教えるの?」

「ん? 特に考えてないよ?」

「えー、用事ないじゃん!?」

「まぁ大丈夫でしょ。都会からこんな田舎に来たばかりなんだから、まだ色々と馴染めなくて……」

 

 

このみがそう言葉を続けようとしたその時、少し先に行ったところにある橋の下から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

どうやら、川で遊んでいる人がいるらしいが……。

 

 

「小魚、とったどー!!」

「えっ!?」

「この声って……」

 

 

一体誰なのか確かめようと橋まで駆け寄って下を覗き込む。

するとそこには、夏海、れんげ、こなみの姿があり、さらにはこれから会おうとしていた当の大河がいた。

上半身裸で川に入り、ずぶ濡れになりながら網を持ち上げて仁王立ちしているという野生的な姿で。

 

 

「「めっちゃ馴染んでる!?」」

 

 

思わず大声を出してつっこんでいると、彼女たちに気づいた夏海が話しかけてくる。

 

 

「あ、姉ちゃんとこのみちゃんだ。こんなとこで何してんの?」

「あはは~……」

「いやね、これから大河君の家にお邪魔しようかな~って思ってきたんだけどね」

「ほう、俺に何か用事でもあったのか?」

「ううん、特に用事があったわけじゃないんだけど……それより、みんなはここで何やってるの?」

「うちらは今対決してたんだよ」

「タイガー対なっつんでハンター能力を競い合っていたのん」

「さっきのお魚で引き分けなんだよ~」

「はぁ、ものすご~く自然を満喫してるようだね~」

「うむ、郷に入れば郷に従えと言うしな。好意を持って接すれば何事も楽しめるものだ」

「順応性高いね……」

「心配は無用だったかな……」

 

 

川から上がってくる大河を見ながらこのみたちは思った、やはりこの男は只者ではないと。

そんな風に思われていることなど分かるはずも無い大河は、ごく自然な態度でこなみに預けていた上着を着ていた。

 

 

「お兄ちゃんびしょ濡れだね~」

「ああ、これでは流石に落ち着かないから家に帰って着替えるとしよう。そろそろ冷やしていたプリンも良い感じになっている頃だしな」

「いやほ~う、プリン食べる~ん!」

「うちもうちも~!」

「よかったら君たちもどうだ?」

「えっ、いいの?」

「もちろん、プリンもちゃんと人数分あるから問題ない」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

 

何とも意表を突かれる出会い方をしたものの、当初の予定はすんなりと達成できそうだと内心でほくそ笑むこのみたち。

捕獲した生き物をれんげとこなみが川にリリースするのを見届けてから、みんなで海川家へ向かう。

その道すがら、今回が初対面となるこなみとこのみの自己紹介が行われた。

 

 

「初めまして、富士宮このみです。うん、お兄ちゃんから聞いてたとおり小さな可愛子ちゃんだ。お姉さんがナデナデしてあげよう」

「うにゃ~、初めまして、海川こなみですぅ~」

「ふふっ、このみとこなみって、響きが似てるから他人って気がしないよ」

「そうだな、俺がこのみに親しみを感じているのは、そのおかげもあるだろうな」

「はぁ……流石、自他共に認めるシスコンだね。でもさぁ、そいつは私に対してちょっと失礼じゃないかね?」

「確かにそうだな、心からお詫びする。しかし、親しみを感じるのは君の魅力があってこそだという事を、敢えて言わせてもらおう」

「……も~う、そんなセリフ言われたら、こっちが恥ずかしくなるでしょ~が!」

 

 

バシッ! バシッ!

 

 

「痛いじゃないか」

「おぉ~、大河君の身体って結構逞しいんだね~」

「ぐぬぬ~」

「ほら、小鞠ちゃんも叩いてみなよ。大河君も喜ぶから」

「えぇっ!?」

「俺にそんな性癖はないぞ」

 

 

照れ隠しに大河を叩きながら小鞠まで巻き込むこのみ。

そのように、少女たちの純情な感情が垣間見れる場面もあったが、順調に歩みを進めてさほど時間をかけずに住宅街に着いた。

途中で近所にある蛍の家にも寄ってみたが、あいにく出かけていて留守だったので大人しく引き下がる。

そうして十数分かけて到着した海川家は、二階建ての新築一戸建てで、れんげたちの家ほど土地は広くなく規模は平均的なものだった。

見慣れない友人の家を観察しながら玄関を通った一同は、ぞろぞろと家の中に入る。

大河は着替えに部屋へ行き、夏海は風呂場で身体を乾かし、他のみんなはダイニングルームにあるテーブルに着いた。

 

 

「へぇ~、初めて来たけど、こなみの家ってすごく綺麗だね~」

「うちはもう何回も来てるん。こなみんとタイガーのお部屋にもお邪魔しましたのん」

「なんだとぉ!? れんげめ~、いつの間に……」

「プリン食べたらみんなも案内するよ~」

「ありがとうね、こなみちゃん」

 

 

可愛らしい雑談をしながら時間を過ごしているうちに、着替え終わった大河と服を乾かし終わった夏海がやって来た。

2人が出会ったのはこの中では遅いほうだが、時間の差など感じさせないくらいに仲良しとなっている。

 

 

「大河兄ぃ、プリンおくれ~」

「了解した。しばし待つがいい」

「おっけ~い」

 

 

気軽なやり取りをしながら大河は台所へ向かい、夏海は小鞠の隣に座る。

 

 

「行儀が悪いぞ~夏海」

「へぃへぃ、悪うござんした~」

「何かすごい馴染んでるけど、なっちゃんもこの家に来たことあるの?」

「んにゃ、今日が初めてだよ?」

「我が妹ながら図々しいヤツだなぁ」

「いやぁ、うちもこんなにリラックスできるのが不思議なんだけどさ~、大河兄って妙に居心地良いオーラ発してんだよねぇ」

「オーラってなんだよ」

「もしかしたらアレじゃない? 大河君ってシスコンだから、妹を魅了するパッシブスキル持ってて、妹属性のなっちゃんに効果が出てるのかも」

「うちらはゲームキャラかよ」

 

 

大河をダシにしながら会話を弾ませる。

アクの強いあの男は話題に事欠かないのだ。

そうしてしばし過ごしていると、調理を終えた大河がプリンを持ってきた。

見ればただのプリンではなく、ホイップクリーム、アイスクリーム、フルーツなどでデコレーションしたプリン・ア・ラ・モードだ。

 

 

「おお~! 本格的じゃん!!」

「フルーツてんこ盛りなん!」

「すご~い、おいしそう!」

「人呼んで、タイガースペシャル!!」

「何か格闘ゲームの必殺技みたいだね」

「フッ、名前はともかく味は保障するぞ。さぁ、食べてみるといい」

「は~い、いただきま~す」

 

 

大河に促されて早速食べてみる。

確かに、彼の言うとおりとてもおいしい。

丁寧に作られているからか、大量生産されているものより断然美味いとみんなが感じた。

 

 

「すごいなぁ、大河先輩。こんなに料理が上手だなんて」

「なに、好きこそ物の上手なれだ。こなみにおいしい物を食べさせてやりたいと頑張っていたら自然と身についたに過ぎない」

「好きって、料理じゃなくて妹のほうかよ!」

「ははは、大河君らしいね」

「こなみんは幸せ者なんな」

「えへへ~」

 

 

相変わらずのシスコンネタで盛り上がる中、小鞠はちょっぴり落ち込んでいた。

何でも器用にこなしてみせる大河とドジっ娘な自分を比べて自信を無くしてしまったのだ。

そんな彼女の変化に気づいたこのみは、声をかけてみる。

 

 

「どうしたの小鞠ちゃん?」

「うん……大河先輩は何でも出来てすごいな~って思ってたんだ。私とは大違いだよ……」

「いや、それは違うぞ、小鞠」

「えっ?」

「俺もそこまで万能ではないよ。その証明を君に見せよう」

 

 

そう言ってこの場を離れた大河は、手に何かを持って再び現れた。

 

 

「これを見てみるといい」

「これって、クマのぬいぐるみ?」

「そうだ。こなみにあげようと思って作ってみたのだが、どうやら俺にはセンスがないらしくてね」

「でも、言うほどひどくないですよ。とても可愛く出来てます」

「そうか? 小鞠にそう言ってもらえたら嬉しいよ、ありがとう」

「!? いえ、その、どういたしまして……」

「姉ちゃん、流石にそれはお世辞過ぎるでしょ。真っ黒で目に傷があってオレンジ色のバイザー付けてるクマなんて、どう見ても可愛くないって」

「ええい、ウルサイっ!! 空気読め!!」

 

 

夏海のつっこみで良い所を邪魔された小鞠は彼女に噛み付く。

しかし、そんなことなどどこ吹く風の夏海は、小鞠からぬいぐるみを奪い取ると弄くりだした。

そこで、あることに気づく。

 

 

「おや、このぬいぐるみって、良く見たらアレに似てるなぁ」

「アレってなんだよ」

「ほら、この間出てきた【小吉さん】だよ」

「えっ……そういえばそうかも」

「小吉さんって、もしかして小さい頃小鞠ちゃんが大事にしてたあのぬいぐるみ?」

「そうだよ、何でか知らないけどうちの宝箱兼ゴミ箱に入ってたんだ」

「ゴミ箱に?」

「だって、ぼろぼろになってたんだもん」

「アンタが壊したんでしょ~が!」

 

 

大河のぬいぐるみが小吉さんとやらに似ていたせいで、何故かもめ始める越谷姉妹。

話からすると小吉さんは大破状態で発見されたようだ。

 

 

「小鞠の大事にしていたものに似ているのか。だったらそのぬいぐるみは君が持っているべきだろう」

「!! 貰ってもいいんですか!?」

「ああ、どうやら君とそのぬいぐるみは、運命の赤い糸で結ばれていたようだ」

「運命の赤い糸……!!」

「そして、このような偶然を生み出した俺と君との出会いもまた運命だったのだろう!」

「運命の出会い……!!」

「小鞠ちゃん、あんまり大げさに考えないほうがいいよ? 大河君の言うことだし」

「ふふん、そのくらい私にもわかってるよ。でも、大河先輩からプレゼントを貰ったという事実は間違いないもんね~!」

 

 

そう言って不敵に微笑む小鞠。

そんな表情を向けられたこのみもまた同じような笑みを浮かべる。

今、2人の心に浮かぶのは恋敵(ライバル)という2文字のみ。

 

 

「「(私たちの戦いは、これからだっ!!)」」

 

 

これまた同じ文句を同時に思い浮かべる似たもの同士な2人。

彼女たちの恋愛バトルは、仲良くケンカしな状態になりそうだ。

それでも、本気度は間違いないが。

 

 

「うおぅっ!! 何だ、このプレッシャーは!? うちを震えさせるとは……」

「なっつん、ブルブルしてどうしたん?」

「風邪かな?」

「それはいかんな、自愛しろよ」




この後も、このみの出番はちょいちょい増える予定です。
それに、駄菓子屋も加えられるようにしていきたいと考えています。
アニメにはない絡みが見てみたいので、何とかアイデア出さないと……。

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