のんのんでいず   作:カレー大好き

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短編としていますが、物語の内容や時間軸は本編に準じているので分けずに掲載します。


短編1 「犬に追いかけられた」

本来学校に無いものが不意に現れたりすると妙に盛り上がってしまうってことありませんか?

例えば、学校の校庭にふらりと犬が現れたら、ちょっとした騒ぎになるでしょう。

でも、そういったイベントが全部楽しい結果になるとは限りません。

中にはアクシデントに発展してしまうことだって有り得ます。

今回、私たち……というか、私が経験したものは、まさにソレだったのです!

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

「にゃんぱすー」

「おはよ~、お姉ちゃん」

「おはようございます」

「おーっす、れんちょん、こなみん、ほたるん」

「おはよう、3人とも」

 

 

朝の登校時間、バス停に着く前に女子全員が集合して挨拶を交わす。

ここ数日で定番となってきた朝の光景だ。

時々夏海が寝坊するので、いつもこのとおりといかないのはご愛嬌というヤツである。

 

 

「あ~、今日もまた試練の時間が始まるなー……気が滅入るぜぃ」

「その気持ちはわかるけど、もうすぐテストなんだから今の内に気合入れないとヤバイよ?」

「うがーっ、忘れかけてた現実を思いださせないでくれよ、姉ちゃん!」

「なっつんはおかしいのんなー、お勉強楽しいのに」

「おっとれんちょん、小学一年のお勉強と一緒にしてもらっちゃあ困るぜ。うちの苦労は中学生になってみないとわからんのだよ」

「何言ってんの、あんたは小学生のときだって苦労してたじゃん。マンガでしか見ないような点数取ったときもあったでしょ?」

「もうやめて、夏海ちゃんのライフはゼロよ!」

「ぷぷっ、夏海お姉ちゃん面白い」

「うん、面白いねぇ~(夏海先輩、ごめんなさい……)」

 

 

おかしな動きをしながらもだえ苦しむ夏海の姿を見てこなみが噴き出す。

割と本気で苦悩している夏海には気の毒だが、面白いのだから仕方が無い……まぁ、自業自得だし。

とはいえこのまま放って置くのも可哀想なので、テンションの下がってしまった夏海をみんなで励ましながら学校へ向かうことになった。

そうしてバス停までのんびりと進み、ほぼ時間どおりにやって来たバスに乗ってしばらく移動してから、さらに歩いてやっと学校に到着する。

時間は結構かかるが、楽しい話し相手がいるのでさほど長いとは感じない。

 

 

「さぁて、今日の給食はなんだろなー」

「もうお昼のこと考えてるのかよ」

 

 

いつものように気軽な会話のキャッチボールを交わしつつ校庭を進んで校舎に向かう。

しかし、今日の学校はいつもと違った。

校舎の玄関前に何やらうごめく物体があるような……。

 

 

「ねぇ夏海、アレって……」

「もしかして、犬?」

「えっ、犬?」

「なんでここに……」

 

 

みんなの視線の先にいる茶色の物体は犬だった。

彼女たちは飼っていないものの、ご近所ではそれなりに見かけるから特に珍しくは無い。

なので、普段だったら怖がることはないのだが、今は状況が悪かった。

ここは本来飼い犬がいる場所ではないので、野良犬が迷い込んだかもしれないという恐怖心が大きく出てしまったのだ。

もし野良犬だったら襲い掛かってくる可能性が高いし、危険な病気を持っていることも有り得る。

しかも、そんな心配をした矢先に当の犬がこちらに向けて走って来るではないか。

 

 

「こっち来た!?」

「まずい!」

 

 

だとすれば、取るべき手段は一つしかない。

夏海はれんげを抱き上げると、みんなに指示を出した。

 

 

「ほたるん、こなみんを抱っこして! それから、みんな別々の方向に逃げて校舎を目指すんだ!」

「なんで別々なの!?」

「その方が動きやすいし囮役にもなるでしょ」

「お、囮!?」

「追いかけられたら助けに行くから、とにかく走れっての! ほら来たぞ!」

「は、はい!」

「なんでこうなるの~!?」

 

 

夏海の合図でみんなは蜘蛛の子を散らすように駆け出した。

犬は玄関の真正面からやって来ているので上手く回り込まないといけない。

できるのか、うちに……いや、やらなければいけないんだ!

なんてカッコつけているうちに、犬は夏海と蛍を無視して一直線に小鞠へと向かっていった。

 

 

「うわーん、うちのとこ来たー!?」

 

 

恐怖のあまり思わず訛りが出る小鞠。

とりあえず危機が去った夏海と蛍はすぐに逃げられるようにしつつも小鞠を気にかける。

 

 

「せ、せんぱーい!」

「姉ちゃん、高いとこに上がれー!」

「た、高いとこー!?」

 

 

小鞠が逃げた方向にある高台は、大きいタイヤを半分地中に埋めたものが連なっている遊具しか無い。

高台として使うには低すぎるが、贅沢は言っていられない。

ええい、ままよ! 

 

 

「とうっ!」

「ワン、ワンッ」

「やっぱり低かったの~ん!」

 

 

となりのタイヤに飛び移ることを繰り返して何とか犬との接触を避けるも、ピンチを脱したとは言えない状況だ。

とはいえ、背の小さい小鞠がぴょんぴょん飛び跳ねる姿はとても可愛らしくて、申し訳ないとは思いながらも蛍の胸はときめいてしまうのだった。

 

 

「せんぱ~い、頑張って~!」

「蛍お姉ちゃん、なんか嬉しそうだね」

「え~そんなことないよ~(きゃー、抱っこされてるこなみちゃんも可愛い~)

「コマちゃん、ゲームに出てくるヒゲのオジサンみたいなのん」

「ぷっ、そう言われると、Bダッシュしながら小さい穴を飛び越えてるようにしか見えないっ!」

 

 

おかしなことに、ピンチに陥っている小鞠を見ているうちになぜか余裕が出てくる4人。

一見冷たいように見えるが、それにはちゃんと理由があるようだ。

 

 

「よく見たらあの犬、そんなに危なくなさそうなのん」

「そうだね、あんまり大きくないからこんなに警戒しなくてもよかったかも」

「それに毛に埋もれてるけど綺麗な首輪が見えるし、お手入れもちゃんとしてるみたいだから、たぶんあの子は飼い犬だよ」

「おおー、さすがアニマルマスターこなみん、良い目を持っていらっしゃる」

「あー、まだその設定続いてたんだ」

 

 

アニマルマスター云々はともかく、こなみの適確な鑑定によって野良犬という可能性はかなり低くなった。

 

 

「飼い犬なら思い切って近づいて取り押さえますか?」

「いやー、それは迂闊だよほたるん。噛まれる危険性はまだあるからね」

「じゃあ、どうするのん?」

「そうだ、先生を呼んだら良いかも」

「おお、そうだよこなみん。こういう時こそ先生の出番じゃないか。流石にこの状況ならあの先生でも助けてくれるでしょ」

「残念ながら、それは無理なのん」

「え、なんで?」

「ねえねえはうちが家を出るときまだ布団の中にいましたのん」

「こんな時に遅刻かよコンチクショウ!」

 

 

やはりというか、あの先生が肝心なときに使えないのは、もはやお約束だった。

それでも、相変わらずの一穂クオリティに思わずつっこみを入れてしまうが、今はそれどころではない。

他に何か良い方法はないのか……。

 

 

「そうだっ! 兄ちゃ~ん、カムヒアー!!」

 

 

校舎に向けて夏海が叫ぶと、すごい速さで卓がやって来た。

自転車に乗って彼女たちより先に登校していた彼はこれまで静かに教室で待機していたが、流石にこちらの騒ぎには気づいていたらしい。

 

 

「よし兄ちゃん、男を見せる時が来たぞ!」

「(こくり)」

「うおー、いけいけー」

「がんばってーお兄ちゃん」

「お願いします、小鞠先輩を助けてください!」

 

 

未だかつてないほどの期待を受けつつ、卓は行動を開始する。

ここでやらなきゃ男が廃る。

彼はまったく躊躇することなく大胆な足取りで前に進み、一心不乱に小鞠を追いかける犬へ近づく。

しかし、卓が輝いていたのはそこまでだった。

 

 

「……」

「あれ?」

「あの犬、兄ちゃんをまったく見ていない!?」

 

 

夏海の言うように、犬は卓に興味を示さなかった。

近づこうが、目の前で手を振ろうが、背中をなでようが、まるで誰も居ないかのように振舞っていた。

まさか、犬に対してまで存在感が薄いとは……。

その事実に気づいた卓はショックを受けたらしく、小鞠を助けることも無くトボトボと校舎へ戻っていった。

 

 

「ちょ、兄ちゃんどこ行くのぉ~!?」

「なんてこった! 兄ちゃんのステルス能力がこんな所で仇になるとは!」

「強すぎる力を持つと身を滅ぼすことになるのん」

「怖い話だね~」

「みんな、注目するところが違うような……」

 

 

蛍のつっこみも空しく、頼れるアニキ作戦はあっという間に瓦解した。

こうなったら自分たち4人で取り押さえるしかない。

とりあえず、卓に噛みつこうとはしなかったからそんなに酷いことにはならないだろう。

 

 

「しょうがないから、うちらで何とかしよう」

「そ、そうですね! 4人でかかれば……」

「大丈夫、うちは犬に好かれるほうだから……」

 

 

夏海と蛍が覚悟を決めて犬に立ち向かおうとする。

いざというときは自分たちが盾になってれんげとこなみを守るんだ。

 

 

「南無三! ……って、あれ?」

「よ~しよしよし、良い子だね~」

「肉球ぷにぷに~」

「既に手なずけてるっ!?」

 

 

年上2人があれこれ考えているうちに小1の2人が任務を完遂していた。

当の犬はれんげとこなみのナデナデによってメロメロになっており、リラックスした様子で腹を見せている。

散々人を引っ掻き回してくれたクセにいいご身分だ。

 

 

「はは、うちらのやる気は無駄だったね」

「はい……。でも、無事に済んでよかったです」

「そうだね、一時はどうなることかと思ったけど」

「ねぇ、もう大丈夫なの?」

「あー姉ちゃん、無事でなにより」

「全然無事じゃないよ!!」

 

 

事態の終息を感じた小鞠がタイヤから降りてくる。

それに犬が反応するも撫でられるほうが良いらしく、先ほどまでのように暴れることはなかった。

その事に安堵していると校舎の方から再び卓がやって来た。

手には太めの紐が握られており、どうやらリードの代わりとなるものを探してきたようだ。

すぐに小鞠を助けなかったのは、さっきの接触でこの犬には危険性が無いと判断したからだろう、たぶん。

とりあえず、犬の首輪に紐をつけて卓に持たせたので、みんなはようやく安心することができた。

 

 

「よし、これでもう大丈夫だろ」

「はぁ、よかった……」

「朝っぱらからすんごい疲れたよ」

「本当ですね……」

「私は面白かったよ?」

「うちもうちも~! 素晴らしいドッグファイトでしたん」

 

 

色々と思うことはあったが、なにはともあれ全員無事だったのでよかったよかった。

なんて思っていると、急に背中から声がかかる。

 

 

「おーいみんなー、授業が始まってる時間なのに、どうして外にいるんだい?」

「先生……今頃到着ですかい」

「いや~これでも急いで来たほうなんよ? たまたま家に戻ってきた母ちゃんに見つかって、こっぴどく怒られちゃったからねー」

「恥ずかしげもなくぶっちゃけたね」

「それがねえねえなのん」

「ははは~、れんちょんは容赦ないなぁ……おや、その犬は小野田さん家のラブちゃんじゃないか。なんでここに?」

「先生、この犬知ってるんですか?」

「ああ知ってるよー。この学校の近くに小野田さんという方が住んでいてね、学校がお休みの時に飼育小屋の動物たちの世話を頼んでいるんだけど、その家でラブとヒメって犬を飼ってるんよ」

「で、こいつがそのラブってわけか」

「ワンッ!」

 

 

どうやら、ご近所で飼っている犬だったらしい。

恐らく、何らかの理由でリードを外した時についはしゃぎすぎてここまで来てしまったのだろう。

もしくは、散歩時間が足りずにストレスが溜まっていたのかもしれない。

 

 

「この子もまだ若いからねー、たまには自由を満喫したかったんだと思うよ?」

「うちらにとっちゃ迷惑な話だ」

「まぁそう言うなって、小野田さんにはだいぶ世話になってるんだからさ、恩返しのつもりだと思って勘弁しときなって」

「なんと、遅刻してきたねえねえがすごく真面目なこと言ってるん!」

「説得力がまったく無いよね~」

「そういうことは本人の前で言うもんじゃないよ」

 

 

実際に怖い思いをした当事者としては文句の一つでも言いたい所だが、目立った被害が出ていないのでこんなもんだろう。

とりあえず簡単に飼い主もわかったから、一連の犬騒動はようやく終わりを向かえそうだ。

ただ、一つだけまだ疑問が残っていたが……。

 

 

「そういえば、なんで姉ちゃんだけ狙われたのかな? 姉ちゃんわかる?」

「わかってたらあんな目にあってないよっ!」

「まあまあ、先輩……でも、確かに不思議ですよね」

「ナゾナゾだよね~」

「ナゾがナゾを呼ぶのん」

 

 

思わずみんなで考え込む。

なぜラブは小鞠にばかり反応していたのだろうか。

 

 

「あー、もしかしたらアレかも……」

「おっ、先生何かわかったの?」

「うん、確か小野田さんには遠方に小学5年くらいのお孫さんがいて、その子がここへ遊びに来ることがあるらしいから……たぶん、コマちゃんの背格好がその子に似てたのかもね」

「なるほど、姉ちゃんは小学5年生に間違えられたのか……すごく納得」

「なんだよソレ!? そんなオチで納得できるかーっ!!」

 




小鞠は悲惨な目にあっている場面が多くて印象に残ったので、こんな話になってしまいました。
何と言うか、話を書いているうちにそうしたくなってしまうんですよね。
もしかすると原作者の方もそうなんだろうか……。

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