のんのんでいず   作:カレー大好き

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今回の話はかなりぶっ飛んでいますが、あまり深く考えずにお楽しみください。


第10話 「初日の出を初めて見た」

たくさんの思い出を与えてくれた今年も、いよいよ終わりを迎えようとしている大晦日。

各家庭では、それぞれの年越し準備を進めていた。

越谷家の小鞠たちは雪子に強制されて大掃除をしており、一条家の蛍はお正月バージョンのこまぐるみ&こなぐるみを作ってウットリしている。

何かと忙しそうではあるものの、一家団欒の暖かな大晦日を過ごしていた。

当然ながら、村中が同じような雰囲気に包まれており、海川家でも賑やかに過ごしていると思われたが……予想に反して人の気配すら無かった。

仕事の都合で横浜からこれなくなった父親のところへ急遽母親だけが行くことになり、一連の事情をれんげ経由で知った一穂の配慮で、大河とこなみが宮内家へとお呼ばれされたのだ。

このままではこなみに寂しい思いをさせてしまうと感じていた大河はその誘いを喜んで受け、2人は宮内家で年を越すことになったのである。

 

 

「大河先輩、手伝いはもういいから、あっちで年越しそば食べようよ」

「そうか。では、お言葉に甘えさせていただくとしよう」

 

 

お盆に年越しそばを乗せながら、ひかげが声をかけてくる。

大河は、世話になるお礼にと台所でおせち料理を作る手伝いをしていたのだ。

ここでも妹のために身に着けた料理スキルが活躍して、知らぬうちに宮内夫婦の好感度を上げていたりする。

やっぱりいいわね彼、もしかしてひかげのカレシになってくれるかしら?

いやいや、その前に男っ気が微塵も無い一穂と付き合ってくれないだろうか。

ひかげたちに聞かれたら一騒動起こりそうな事を裏でこそこそ話し合いながら、2人のやり取りを見守る。

 

 

「そのお盆は俺が持とう」

「うん、あんがとね」

「何、君のためならアクシズだって持ち上げてみせるさ」

「うぇ!? 言ってる意味はよく分かんないけど、君のためならってのはいいかも……」

 

 

一緒にいる時間はまだまだ短いものの、それを全く感じさせないほど親しい雰囲気である。

これは脈ありだなと、ニヤニヤしながら様子を伺っていた宮内夫婦は確信し、肩を並べて仲良く居間へ向かう彼らの背中を生暖かい目で見送った。

がんばるのよひかげ、今夜は仲を深める大チャンスなんだからね。

俺たちはお前の恋を応援しているぞ……あ~でも、男運が欠片も無い一穂はどうするかな……。

この時、噂話の影響を受けてか居間でウトウトしている一穂が盛大にくしゃみをするのだが、そんなことより今は年越しそばを食べるのが先だ。

居間に入って紅白歌合戦を見ているみんなに声をかける。

 

 

「姉ちゃん! れんげ! こなみ!」 

「んにゃ~?」  

「なんなん?」

「まだおせち作ってるから、年越しそば先に食べてって」

「「う~ん……」」

 

 

明らかに眠そうな声で返事を返してくるれんげとこなみ。

いつもならとっくに寝ている時刻なので当然だろう。

そして、いつも寝ている印象のある一穂も当然のように半ば夢の中にいた。

 

 

「姉ちゃん? 聞いてる?」    

「寝てるん」

「え? 」

「紅蓮の弓矢の辺りで寝てたよ~」

「マジで? あれやってたの8時半くらいじゃん……姉ちゃん、年越しそば!」 

「あとで……」

「年越しちゃうよ」

 

 

ひかげが声をかけても一切動こうとしない一穂。

いつもどおりとはいえ、我が姉ながら情け無いとため息が出る。

遥かに幼いれんげたちは懸命に起きていようと頑張っているのに。

 

 

「うちは食べるまで寝ないのん」

「私も~。どこまでもれんげちゃんに付き合うよ~」

「こなみん……嬉しいこと言ってくれるのん」

「お友達として当然だよ」

「だがしかし、すっごい睡魔がすぐそこまで歩み寄って来てるのん……」

「そんなっ! こんな所で眠っちゃダメだよ!」

 

 

何だか雪山で遭難した冒険家みたいになってきた。

2人は今、宮内家のコタツにいながら壮大で過酷な大冒険を追体験しているのだ。

しかし、この物語は最初からクライマックスで、ものすごく短かった。

 

 

「どうやら、うちはここまでのようなのん」

「あ~ん! れんげちゃんが~!」

「ふふっ、こなみん。そんなに……メソ」

「れんげちゃん……? メソって何さ~!?」

 

 

謎の呟きを残して、とうとう睡魔に負けたれんげは眠りについてしまう。

恐らく、「メソメソするな」とでも言おうとしたようだが、後が続かなかったせいで意味深な言葉となり、こなみを混乱させるだけに終わった。

それにしても惜しかった……午前0時までもう少しだったのに。

力尽きてすやすやと寝息を立てるれんげを見つめながら、一緒に年越しの瞬間を楽しもうと思ってたのになと残念に思う。

しかし、そんなこなみにも限界が近づきつつあった。

 

 

「あ~あ、れんげちゃん寝ちゃったよ~。もうちょっとだグ~……」

「ええ~っ!? 普通にしゃべりながら寝ちゃったんですけど!?」

「こなみは寝つきが良いからな!」

「って、そういうレベルじゃないだろ!」

 

 

限界は一瞬で訪れて、こなみも眠ってしまった。

あまりに唐突過ぎてひかげはびびってしまったが、それほど無理をしていたということだろう。

 

 

「お休み、子供たち」

 

 

2人を起こさないようにそっと布団まで運び、仲良く並んで寝かせる。

まるで姉妹のように眠る彼女たちを見て大河とひかげは微笑むと、こちらも仲良く並んで居間へと戻っていく。

早足なのは、せっかくの温かいそばが冷めてしまうからだ。

 

 

「さぁ、今年のそばは4人前だ!」

「いや、1人で全部食べなくてもいいんじゃね?」

「あはは、あはは、あはははは!」

「って、聞いちゃいねー!」

 

 

深夜テンションに加えてこれまで空腹で料理をしていた大河は、食欲がやたらと増大していたのだ。

結局、妙に元気になった大河1人で、眠ってしまったみんなの分のそばも平らげてしまった。

この時、一穂は後で食べると言っていた事を思い出したひかげだったが、まぁいっかと忘れることにするのだった。

そうこうしているうちに年は明けて、2人は早速新年の挨拶をすると、その後はゲームでもしながらまったりと過ごす。

何故寝ないで起きているのかと言うと、楓から初日の出を見ようと誘われたからだ。

そして、午前3時頃、白いワンボックスカーに乗って楓がやって来た。

 

 

「ち~っす!」

「あいよ~、おめでとさん」

「ハッピーニューイヤー、楓!」

「おわっ!? 何でお前がここにいるんだ?」

「見ての通り、ひかげと一夜を共に過ごしていたんだ」

「なにぃ!? とうとうやっちまったのか、お前ら!?」

「いやいや、間違っちゃいないけど間違いはなかったからな!」

 

 

大河たちがお邪魔していることを知らなかった楓は、彼の紛らわしい言動に釣られてつい下ネタに走ってしまう。

姫始めなんてイベントもあるくらいなので、お正月とはそういう気分にさせる力があるのかもしれない。

とはいえ、ここにいるみんなは全員良い子であって清い交際を心がけているので、風紀の乱れは決してありません。

 

 

「そういうことなら、まぁいいけどさ……お前も初日の出見に行くのか?」

「うむ。この海川大河、修羅道の果てであってもお供させていただく!」

「そんな物騒なとこには行かねぇよ!」

 

 

無論、これから行く場所は戦場などではなく、初日の出が良く見える山の展望台だ。

楓もここ数年は何かと忙しくて行っていなかったが、今年は特に用事も無く天気も良いので一穂たちを誘ってみたのである。

時間が惜しいので、未だに夢の中にいる一穂を何とか叩き起こして、さっと準備を整える。

しかし、いざ出発しようとした時、寝ていたはずのれんげとこなみが起きだしてしまった。

深夜に山歩きをするので子供たちは置いて行こうとしていたのだが、バッチリ目撃されてはそうもいかない。

寝ぼけ眼で目ざとく楓の姿を発見したれんげは、彼女に駆け寄って一緒に行きたいと懇願しだした。

 

 

「うちも初日の出行きたいん!」   

「あぁ……」

「言うこともちゃんと聞くん! 嫌いな物もちゃんと食べるん!」

 

 

れんげに服をぎゅっと掴まれた楓は困った表情になる。

彼女は、れんげのお願いに超弱いのだ。

 

 

「初日の出……」

「好き嫌いしないって、ニンジンとかも食べるのか?」 

「食べるん」

「ほうれん草も?」    

「食べるん!」

「じゃ、ピーマンは?」

「ぅ……食べるん!」

「何か間があったな」  

「食べるん!」

 

 

交換条件を持ち出して高度な交渉を持ちかける策士のれんげ。

捨て身の策だったので、ちょっとだけ不利益な結果になってしまったものの、何とか目的は達成できそうだ。

それに対してこなみは、相手にしやすい大河にターゲットを絞ってお願い攻撃を開始した。

 

 

「お兄ちゃん、私も嫌いな物ちゃんと食べるよ~」

「ほう、嫌いなトマトも食べるというのか?」

「食べる~」

「セロリもか?」

「食べる~」

「では、お兄ちゃんのことをどう思う?」

「大好き~!!」

「全く間が無かったな!」

「って、何さらりと兄妹愛確かめ合ってんだよ!」 

 

 

どんなところからでも妹ラブをアピールしてくる大河につっこみを入れるものの、れんげたちのお願い攻撃には流石の楓も敵わない。

結局、2人の熱意に折れて、みんなで初日の出を見に行くことになった。

急いで荷物を詰め込み、楓の運転するワンボックスカーに乗って、展望台へ続く山道の入り口まで行く。

十数分かけて午前4時前に目的地へ到着すると、早速山登りの準備を始める。

とはいっても、懐中電灯を誰が持つか決めるだけだが。

 

 

「とりあえず、懐中電灯2個あるけど、誰が持つ?」

「うち、うち懐中電灯持つ~ん!」

「じゃあ、1つはれんちょん持って、もう1つはうちが持つかな~」

 

 

意見を聞いてみたところ、目の前のれんげと右隣にいる一穂から返事が返ってくる。

それならばと懐中電灯を渡すためにそちらへ振り向くと、そこには目出し帽を被った怪しい人物が立っていた。

マンガやアニメに時々出てくるステレオタイプの犯罪者みたいな格好で、妙齢の女性が身に着けるものではない。

本人もそのことを絶対に自覚して受け狙いで被っていると思われるので、楓はあえて無視することにした。

しかし、一穂よりも上を行くバカがいることを彼女は失念していた。

 

 

「ほう、一穂さんも良いものを被っておられますね。ある種のシンパシーを感じますよ」

「んふふ~、そうでしょ……おぉ!?」

「「「?」」」

 

 

後ろから大河に声をかけられた一穂が、自分の姿にリアクションしてくれたと嬉しそうに振り返った瞬間、予期せぬ衝撃が走った。

その様子に気づいたみんなも何事かと後ろを振り返ってみる。

すると、そこには暗闇に怪しく浮かび上がる獣の顔が……。

 

 

「「「「タイガー~~~~~~~~~~~!!?」」」」

「うむ。いかにも、俺は大河だが?」

 

 

みんなの視線の先には、トラの頭をした人間が立っていた。

というか、その正体は超リアルなトラの被り物を被った大河である。

車を降りてから静かにしているなと思ったら、入らん小細工をしていたようだ。

 

 

「何で、んなもん被ってんだ~!!」

「いや、大掃除をした時に文化祭で使ったものが出てきてな、防寒具に再利用出来るかと思ったのだ」

「思うな!」

「先輩の目出し帽の方がまだマシだわ! 女捨ててるけどな!」

「コラコラ、さらっと本音が漏れてるぞ~」

 

 

傍迷惑なサプライズで思いっきり驚いてしまった楓たちは、同類の一穂をいじりながら大河を攻める。

心構えも無く暗闇であんなものを見せられたら、怒られても当然かもしれない。

ただ、不幸中の幸いか、れんげとこなみからの評価は高かった。

 

 

「ぬおお~! カッコイイのん! これぞまさしくタイガーマスクなのん!」

「虎だ、虎だ、お前は虎になるのだ~!」

「は~はっはっは! 惚れ惚れするだろう、この雄々しき勇姿に!」

「はぁ。お前ら、早く来ないと置いてくぞ~」

 

 

子供たちの反応を見て色々と諦めた楓は、ひかげに懐中電灯を渡すと1人で先に行ってしまう。

そうだそうだ、早く行かないと初日の出に間に合わないからな~……。

 

 

「あっ、待つの~ん!」

 

 

大河とじゃれあっている間に登山口まで行ってしまった楓の後をれんげは慌てて追う。

わざとゆっくり歩いていた彼女をすぐさま捕まえて、持っている懐中電灯を受け取ると、今度は自分が先頭に立って進み始めた。

置いてかれた他の面子も遅れまいと小走りで追いつき、合流後は真っ暗な山の中を横に並んで歩いていく。

当然ながら目的地はまだまだ先で、1時間くらいかかると聞いた一穂は既に疲れた様子を見せてしまう。

そこでれんげは、得意のオリジナルソングを歌ってみんなを元気付けることにした。

 

 

「や~ぶれか~ぶれのや~ぶ医者が~♪ たけやぶの中へす~ったこらさ~♪ やぶからぼ~うにすったこらさ~♪ や~ぶれったラブレタ持ってすったこらさ~♪」

「酷いなこの歌……」

「否! その意見には意義ありと言わせてもらおう。よく聞けば、巧みに韻を踏んだ素晴らしい歌ではないか」

「流石タイガー、よく分かっていらっしゃるのん!」

「お兄ちゃんに褒められるなんてすごいねれんげちゃん! 私も負けてられないよ~」

「えっ、今度はこなみが歌うのか?」

 

 

れんげの歌を聴いているうちに感化されたらしく、こなみも歌を歌うと言い出す。

彼女は大河の妹だけあってなかなか個性的な感性を持っているので、何が飛び出てくるか分かったもんじゃないと楓やひかげは身構える。

はたして、どんな歌になるのやら。

身振りから判断するに、どうやらラップを歌う気らしいが……。

 

 

「ヒーロー、ヒーロー♪ 勇者ひろしはヒーロー♪ 緋色のマントを翻し♪ 広い世界に光を披露♪ バーロー、バーロー♪ 魔王ひろゆきバーロー♪ ヒロインちひろを救うため♪ 拾った道具で魔王を疲労♪」

「魔王疲れさせるだけかよ!」

「勇者と魔王、日本人過ぎだろ!」

 

 

やはり、つっこみどころ満載の歌だった。

とはいえ、子供たちには楽しいものらしく、結局その後もおかしな歌合戦が展開されてしまう。

どの歌も相変わらず微妙な内容なので、傍で聞き続けている楓たちをモヤッとさせるのだった。

それでも、仲良く手を繋ぎながら一生懸命に歩くれんげとこなみの姿はとても健気で愛しく見えた。

何と言っても、生まれてからずっと傍で見守り続けているのだから。

 

 

「ふふっ、頑張って歩いてるな~」

「ああ……5年前はまだ赤ん坊だったんだよな~」

「そういえば、家が農作業で忙しいときは、れんげの世話頼んでたよねぇ」

「ああ。初めて世話したのは、あいつが1歳ぐらいの時だったか……」

 

 

赤ん坊と聞いて不意に過去の出来事を思い出したひかげ。

そういえばそんなこともあったと記憶を呼び覚ました楓も、懐かしい子供の頃へと意識を飛ばす。

確か、あれは中学3年の夏休みだったっけ……。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

今より5年前の夏。

現在とほとんど同じ佇まいの駄菓子屋では、15歳の楓が中学生最後の夏休みを満喫していた。

遅めの朝食を済ませた後に自室で服を着替えて、気だるげな様子で居間へと向かう。

せっかくの夏休みなのだが、起きたばかりでこの後の予定が決まっていないため、とりあえずテレビでも見ようと思ったのだ。

ここまでは、普段と変わりないいつもどおりの日常である。

しかし、異変は唐突に現れた。

 

 

「やぁおはよう! ご機嫌はいかがかな、駄菓子屋の少女!」

「!!?」

 

 

居間に入った途端、急に聞き覚えのない声で話しかけられた。

驚いて声の主を見てみると、自分と同い年か少し下ぐらいの見覚えのない少年が、堂々とあぐらをかいて座っている。

何だコイツは?

美少年と言えるほど整った顔立ちをしているものの、今の楓にとっては唯の不審人物でしかない。

ちょっと前まではいなかったのに、いつの間に入り込んだのだろうか。

かつてないほど不可思議な状況に遭遇してしまった楓は、緊張感で胸がドキドキしてくる。

相手は不法侵入しているクセにやたらと落ち着いており、ちゃぶ台の上に置かれた駄菓子をつまんで美味そうに食べているようだが……。

 

 

「って、何勝手に家の駄菓子食ってんだ!?」

「失敬な! 金はしっかりと払っている!」

「無断で上がりこんでる時点でお前の方が失敬だろ!」

 

 

事態を把握しないうちに仲良くケンカしだす2人。

それにしても、この少年は何者なのか。

見た目や言葉の端々から判断するとそんなに悪いヤツではないようだが、怪しいヤツには違いない。

何にしても、話は通じるので、まずは身元を確かめるべきだろう。

 

 

「お前は一体何者なんだよ!」

「俺か? 俺は……そうだな、【カレーの妖精】とでも名乗らせてもらおうか!」

「はぁ!!? 訳分かんね~よ!? 妖精っていうか、助けを要請すべき不審人物だろ!?」

「フッ。君からの救援要請ならば、どこへなりとも駆けつけてみせよう!」

「原因のお前を呼んでど~すんだよ! いいからもう帰れよ!! カレーの国に帰ってくれよっ!!?」

 

 

ダメだ、話は通じるけど全く噛み合わない。

さらに、言ってることも怪しいことこの上ない。

それでも、何故か危機感をまったく感じないのはどういうことか。

楓自身にも良く分からず頭を捻っていると、唐突に電話が鳴った。

 

 

「俺に構わず電話に出るといい」

「不法侵入者が気ぃ使ってんじゃね~よ!」

 

 

妙に馴染んでいる自称カレーの妖精につっこみを入れつつも、出ないと話が進みそうにないのでとりあえず電話を受ける。

受話器を耳に当てて声を聞くと、相手はひかげだった。

5年前なので、この時の彼女は11歳の小学5年生である。

楓とは年が離れているものの、子供があまりいないこの土地では数少ない遊び相手となっているので、今回もどうせその誘いだろうと思っていたらどうも違うようだ。

詳しく話を聞いてみると、今年で1歳になるれんげの面倒を頼みたいという内容だった。

 

 

「はぁ? お前がやればいいだろ? 大体、私は赤ん坊とか苦手なんだ」

『でもさぁ、私もちょっと用事があって』

「だったら、このみに頼めばいいだろ? あいつ子供好きそうだし」

『ん~だからぁ、このみとちょっと町の方まで出かけるんだ』

「そっちに私も呼べよ!」

『あはは……』

「ちなみに駄賃って……?」

『聞いて驚け、5000円』

 

 

それを聞いて、気乗りしていなかった楓の気持ちがあっさりと動く。

1日がかりとはいえ中学生にとってはかなりオイシイ金額なので、お金に関してがめつい面がある彼女がこんなチャンスを見逃すはずがない。

だったら膳は急げと、ひかげにすぐ行くと伝えてから電話を切った。

受話器を置きながら、これは良い臨時収入になるとほくそ笑む。

しかし、まだここにカレーの妖精という訳分からん懸念材料が残っている事を思い出す。

 

 

「あっそうだ! コイツをどうするか……って、アレ?」

 

 

気が付いて辺りを見回すと、あの少年の姿はどこにもなかった。

ちゃぶ台に乗っていた駄菓子も見当たらない。

どう見ても少年がいた痕跡はどこにも無かった。

 

 

「マジかよ……」

 

 

もしかして白昼夢でも見ていたのだろうか?

あんなに生き生きとした幽霊などいないだろうし、まさか、本当にカレーの妖精だったのか?

どう考えても答えは出ないが、何にしても異常な現象が起きたことは紛れもない事実である。

だけど……。

 

 

「ま、いっか」

 

 

狐につままれた気分に陥りながらも、そんなに嫌な気持ちではなかったので気にするのを止めた。

何となくまた会いそうな気がするし、その時はまた適当にあしらえばいい。

そう結論付けた楓は、さっさと気持ちを切り替えると、すぐさま出かける準備を整えて宮内家へと向かう。

通い慣れた道を軽快に歩き数分で到着すると、玄関で待ち構えていたひかげかられんげを預かる。

 

 

「一応リビングのテーブルに哺乳瓶の温め方とか書いた紙があるから」

「ああ、分かった」

「何かあったら、畑にうちの親いるから。んじゃ、後はヨロシク~」

 

 

開放感に包まれたひかげは、ぱぱっと注意事項を伝えると軽く手を振りながら出かけていく。

その反対に、不慣れな手つきでれんげを抱っこした楓は、元気に歩き去っていく彼女の後姿を不安げな表情で見送った。

ここからは彼女たち2人きりであるが、はたしてどうなることやら。

何となく先行きを心配しながら、とりあえず縁側に移動してれんげをあやしてみる。

 

 

「れんげ~。ほら、飛行機雲だぞ~」

「ん~……うあ~~う、あう~~~~!(涙)」

 

 

いきなり泣かれた。

やっぱり、ただでは済まないようだ。

 

 

「うわっ!? どうしたどうした! ひかげが出かけたのが気に障ったのか?」

「うわ~~~~~~~ん!(涙)」

 

 

喋りかけてもれんげの泣き声は大きくなるばかり。

こりゃどうしたもんかと頭を抱えそうになる。

その時、ついさっき聞き覚えたばかりの声が背後から耳に届く。

 

 

「若さが出たな、駄菓子屋の少女!」

「うわぁっ!?」

「今の君はあまりに非力……! まるで深窓の令嬢のようだよ!」

「その声は……まさか!?」

 

 

声の正体を察して後ろを振り向く。

すると、そこには……超リアルなトラの被り物を被ったあの少年がいた。

 

 

「タイガー~~~~~~~~~~~!!?」

「いや、俺はタイガなどという乙女座の男ではない。カレーの妖精だ」

「って、お前か~!! 何なんだよ、その被り物は!?」

「何、赤子をあやすのに使えると思ってな。どうだ、惚れ惚れするだろう、この雄々しき勇姿に!」

 

 

そう言うと、れんげを顔の高さまで抱き上げてトラの被り物を見せ付ける。

普通の子だったら、まず間違いなく大泣きする所だろう。

しかし、この年で特殊な感性を開花させつつあるれんげにとっては面白いものに見えるらしく、一転してご機嫌になった。

 

 

「うはぁ~、あうあう~(喜)」

「いや、何でだよ!」

 

 

自分では出来なかったことをトラの被り物だけで成し遂げた少年に、少しだけムカッとしてしまう。

とはいえ、今はそんなことに気を取られている場合ではない。

まさか、自分の家だけでなく別の場所にまで現れるとは思っていなかったので、一体どういうことかと問いただす。

 

 

「何でお前がここにいんだよ?」

「子供の味方であるカレーの妖精は、赤子の泣き声に敏感なんでね。俺がここにいても、何らおかしいことはない」

「いや、おかしいよ! 明らかにおかしいよ! こんなの絶対おかしいよ!!」

 

 

返ってきた答えは、やっぱり荒唐無稽だった。

相変わらずの非常識っぷりに呆れてしまうものの、優しくれんげをあやす少年を見て楓はふと思いつく。

コイツがいればれんげの世話も楽になるのではないか?

普通なら追い出す所だが、何故かコイツからは全く危険を感じないので、このまま好きなようにさせてもいいかもしれない。

どうせ追い出しても、またひょっこり現れそうだし……。

 

 

「はぁ。もうめんどいからお前も手伝え」

「その申し出、しかと承知した。共に愛でようではないか、2人の愛の結晶を!」

「って、何で夫婦になってんだよ! 勝手に子持ちにすんなよ! ママは中学3年生なんて、リアル過ぎて今日日マンガも出せやしね~よ!」

 

 

堂々と好意を見せる少年に対して、一気に恥ずかしさが膨れ上がってしまった楓は一瞬で顔を真っ赤に染める。

やっぱりコイツは危険だ……楓の乙女心にとってはだけど。

それでも、使えることは確かなので、ブツブツと文句を言いながらも一緒に居間へと移動して今後の対策を練る。

まずは、ひかげが残していったメモを見てみることにした。

 

 

「なになに……1、れんげはガラガラが好き……これか?」

 

 

テーブルの上に置かれたガラガラと音が鳴るオモチャを手に取り、早速使ってみる。

れんげは今、少年が外したトラの被り物と懸命に対話している最中だ。

リアルなトラの頭部と語り合う赤ん坊というシュールな光景に引きながらも、愛想笑いを浮かべながら近づいていく。

しかし、楓の行動はれんげの怒りを買うだけだった。

 

 

「あう! あ~う、あう!(怒)」

「なっ、何で怒ってるんだよ。何なんだよ……これ好きなんだろ?」

「な~う!(怒)」

「あ~分かったよ。せっかく一緒に遊ぼうと思ったのに……」

 

 

メモとは違う反応を返されて、思惑が外れたと不満顔になる。

急激に成長している赤ん坊の心は、周囲の人間が思っている以上に複雑なのだ。

 

 

「これだから赤ん坊は好きじゃないんだ。何考えているか分からん」

「仕方のないことだろう。興が乗らねば、阿修羅ですら戦いを止めるものさ」

「まぁ、そうかもしんないけど……」

「それでも納得できないと言うのであれば、この俺にガラガラを使うがいい! その想い、華麗に受け止めてみせよう!」

「って、どうしてそうなる!?」 

 

 

少し納得出来ることを言ったと思ったらこれだ。

もしかすると、れんげの相手をするよりも疲れるかもしれない。

いつの間にか、楓が諦めたガラガラを使ってれんげのご機嫌を勝ち取っている少年を見つめながらため息を吐く。

どうやら、楓と少年がガラガラで遊んでいると思ったれんげが逆に興味を持ったようだが、オイシイ所を持っていかれた気分になる。

しかし、会話が大変というデメリットを差し引いても彼の存在はありがたいので、この後も何とか協力しながられんげの世話を続けた。

あれやこれやと2人で悪戦苦闘しているうちに時間は過ぎる。

そして、いよいよれんげのミルクタイムがやって来た。

 

 

「火力はこんなもんか~?」

「うむ。良い感じだ」

 

 

2人仲良く台所に並んでミルクの火加減を調節する。

初めてなので若干手間取ったものの、これで後少し待てば完成だ。

そこまでこなして何とか一安心出来たので、台所かられんげが遊んでいるはずの居間に目を向ける。

 

 

「もうすぐ出来るからな~……れんげ?」

 

 

おかしいな……どう見てもれんげが見当たらない。

どうやら、少し目を離した隙に、廊下へ移動してしまったらしい。

 

 

「ちぃ! 迂闊だった!」

「ヤベッ! 探すぞ!」

 

 

楓と少年は台所を飛び出すと、急いで廊下に出てれんげを探す。

すると、縁側でネコの尻尾を引っ張って遊んでいる彼女を発見した。

すぐ傍の窓は開いていたので危ない所だった。

 

 

「あ~そこにいたか。あんまりちょろちょろすんなよ~」

 

 

れんげの無事を確認できて、ほっと安堵する楓。

しかし、気を抜くのはまだ早かった。

なんと、れんげに尻尾を引っ張られていたネコが突如怒り出して、猫パンチを繰り出してきたのだ。

その刹那、楓のとなりにいた少年の姿が消える。

 

 

「れんげはやらせん! この俺がいる限りはな!」

 

 

猫の攻撃に対して瞬時に反応した少年は、勢いよくヘッドスライディングすると、滑り込んだ体勢のままれんげを抱き上げた。

そして、彼女の代わりに猫パンチを顔面に受ける。

 

 

「ニャ~~~ッ!!」

「ぐおっ!」

「うわ! 猫パンチ!」

「やってくれたな! 俺は見苦しい真似をしてでも勝利に固執する男だ!」

「大人げねぇ!?」

 

 

基本的には優しいのに自分を攻撃してきたネコには容赦しない、子供っぽい少年であった。

それでも、台所を出る前にコンロの火を弱めておくという気配りが出来るのだから、何ともつかみどころのない男である。

何はともあれ、彼の活躍(?)によってれんげが助かって何よりだったが、予期せぬアクシデントの連続で精神的に疲れた。

ようやくミルクを飲ませる段階まで持ってきた楓は、深くため息をつく。

 

 

「育児やべえな……。ミルクあげるだけの事がここまで大変とは……世の中の親も大変だなぁ……」

 

 

実際に経験してみて親の苦労を実感する。

何事もやってみないと分からないものだ。

美味しそうにミルクを飲んでいるれんげを見つめながら、悟ったような気分に浸る。

すると、不意にれんげと目が合い、それがきっかけとなったのか、彼女はあぐらをかいた楓のヒザに寝転がってきた。

 

 

「勝手にヒザの上に乗るなよ。重たいだろ。どけよ」

「んなうー!」

「何言ってるか分からん。ほら、どけって」

「んままう!」

「いや、んままうじゃなくて……なんつうか……」

 

 

最初は気恥ずかしくてぶっきら棒な様子を見せていた楓だが、内心ではれんげの事を愛おしく思い始めていた。

だから、自然と頭に手が伸びて優しく撫でてしまう。

その姿はもう実の姉妹のようだった。

お肌の触れ合いをしながら、こんなのもたまにはいいかなと思いつつ、さらに2人の時間は過ぎていく。

そして、辺りが夕暮れ色に染まった頃に、ようやくひかげが帰ってきた。

 

 

「ただいま! ちょっち遅くなっちゃった~」

 

 

出掛けた時と同様に元気よく声をかけるが、誰の返事も帰ってこない。

居間や台所を見ても2人の姿はない。

後は、れんげの布団が敷いてある客間だけだが……。

 

 

「どこ行った? お~い、ここにいる? だがし……」

 

 

途中まで出掛かった言葉を止める。

戸を開けて部屋の中を見ると、楓とれんげが仲良く引っ付きながら一つの布団で寝ていたからだ。

れんげをあやしているうちに楓も眠ってしまったらしい。

いつもと違う女の子らしい彼女の様子に思わず呆気にとられていると、不意に後ろから声が聞こえた。

 

 

「美の極みだな! 俺を魅了して止まないその姿、まさしく天使だ!」

「!!?」

 

 

ここにいるはずのない若い男性の声であり、当然ながら聞き覚えもない。

それじゃあ一体誰なのかと驚いて後ろを振り向くが……そこには誰もいなかった。

 

 

「なななっ!? 何なの……?」

 

 

突然起こった怪現象に一瞬だけびびるひかげ。

しかし、何故だか恐怖は感じない。

むしろ暖かくて、安心を感じるとは……。

 

 

「ん~、よく分からないけど、空耳ってことにしておくか」

 

 

とりあえず、危険は無さそうなので気にするのを止めた。

人間、若い時はいろんなことがあるけど、今の自分の手に余ることはあんまり気にしない方がいい。

その気持ちは楓も同様で、結局姿を消してしまった少年のことは誰にも話さず、今日という特殊な1日は何事も無かったかのように終わりを迎えた。

ただ、このままお別れというのも後味が悪い。

楓は、次の日も宮内家を訪れて、れんげの相手をしながら少年のことを考えた。

すると、その思いが通じたのか、再びあの少年が現れる。

 

 

「今日も来たのか。懲りないヤツだな」

「フッ。つれないな、駄菓子屋の少女。しかし、安心するがいい。今日はお別れを言いに来たんだ」

「お別れ?」

「ああ。君が幸せを手に入れた事を確認したからな。カレーの妖精としての任務は終了だ」

「お前の行動のどこにカレーが関わってたのか疑問だけど、私は別に幸せになってね~ぞ?」

「それはどうかな。答えは既に君の胸の中にあると思うがね」

「えっ……」

 

 

言われて自分の胸を見てみると、ひざに座らせたれんげが見上げていた。

そして、手に持ったお菓子を楓に食べさせてあげようと差し出してくる。

愛らしいその仕草に嬉しくなって微笑むと、お菓子を持ったれんげの指に顔を寄せて優しく口に含んだ。

心が温かい……これが少年の言う幸せなのだろうか。

 

 

「ふふっ。……あれ、アイツは? 行っちまったのか……」

 

 

優しい笑みを浮かべながら顔を上げると、少年の姿はもうなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

「って、私はなんちゅ~もんを想像してんだぁ~~~!?」

 

 

長い回想が終って早々に突然シャウトする楓。

何故かは自分でも分からないが、過去の記憶を思い出しているうちに現在の記憶と混同してしまったようだ。

まさか、無意識のうちに記憶を改ざんしてしまうほどコイツを意識してしまっているということなのか?

それとも、思っていた以上に自分はメルヘン志向だったのか?

 

 

「う~ん、これが中二病というヤツなのか……?」

「どうした楓、変な白昼夢を見てしまったような顔をして」

「うおっ!? い、いや、なんでもない、なんでもないぞ!」

 

 

大河に声をかけられて、お前のせいだという言葉が出掛かるが、とりあえず誤魔化しておく。

あんな恥ずかしい妄想など誰にも話せるわけないじゃないかと1人で勝手に身悶える。

そんな彼女を他所に、他の一同は黙々と歩みを進める。

一穂はかなりリタイヤ気味で、彼女が立ち止まってしまったことに気づいたひかげに肩を担がれながら、何とかついてきている状態だ。

体力の無いこなみも既に大河におんぶされており、れんげも大分息遣いが荒くなってきたのでそろそろ限界だろう。

 

 

「楓、何らかの理由で身悶えているところ何だが、れんげをおんぶしてやってくれないか?」

「えっ!? あ、ああ、そうだな……ほら、れんげ。帰りは歩けよ?」

「うわぁ~い! 楽チンな~ん!」

「あ~そうかい」

 

 

嬉しそうに背中に負ぶさってきたれんげを持ち上げて再び歩き始める。

赤ん坊の頃より成長して大分重たくなったが、伝わってくる温もりは今も変わらない。

実の姉より姉らしいことを考えてしまい、楓は苦笑する。

 

 

「その姉妹のような姿、愛しさと切なさが込み上げてくるな!」

「私たちも負けてられないね~」

「いや、別にお前たちと張り合う気は無いから」

 

 

変な所で対抗意識を燃やしだした海川兄妹を適当にあしらいつつ先を急ぐ。

そうして山を登ること十数分。

何とか日の出前に目的地へ到着出来た。

開けた場所に公園のような広場があり、階段で上る簡素な展望台が設置してあることだけが特徴の殺風景な場所だ。

少し早めに来てしまったので温かいお茶を飲みながらしばらく待ち、一息ついてから一穂以外の5人は展望台に上がる。

 

 

「空が明るくなってきたん! お日様出るん?」

「余所見してると日が出る瞬間見逃すぞ~」

「私、初日の出見るの初めてなんだ~」

「うちもなのん。今日は初初日の出なのん」

「実は俺も初体験でな。まるで恋する乙女のように、その瞬間を待ちわびている!」

「その言い方だと別の意味に聞こえるから止めて」

 

 

みんなで会話を弾ませながらその時を待つ。

そうしている間にも東の空は徐々に白じんでいき、次の瞬間、ついに太陽が今年最初の姿を現した。

 

 

「お日様出てきたん! 出てきたん、お日様!」

「ありがたや~、ありがたや~」

「見よ! 東方は、赤く燃えている! これが感動の極みか!」

 

 

初日の出を初めて見た面子が、それぞれ歓喜を込めた言葉を口にする。

まさしく、生命を育む希望の光に感謝すべき瞬間だ。

太陽の恩恵を受けて大地に生きる人々は、その気持ちを大切な人たちと分かち合い、新しい年……未来へと命を繋いでいく。

 

 

「あ、あ……明けましておめでとうございます!」

「はい、おめでとう」

「私も~、明けましておめでとうございます!」

「うむ。ハッピーニューイヤーだ!」

「大河先輩、明けましておめでとう。今年もよろしくね」

「ああ、こちらこそだと言わせてもらおう!」

 

 

それぞれ心を込めながら新年の挨拶をする。

挨拶は基本中の基本、これが無くては何事も始まらない。

その後しばらく太陽を眺め、直視するのが危なくなって来る前に仲良く展望台を下りる。

少し名残惜しいけど、これにて初日の出イベントは無事終了だ。

下でグッタリとしていた一穂の目出し帽を引っぺがして気合を入れつつ、みんなで帰り支度を進める。

 

 

「さて、初日の出も見たし、どうする?」

「お年玉タ~イム!」

「却下だ」

「フフッ。ひかげよ、安心するが良い。この俺が君の分のお年玉を用意しているぞ」

「マジで!? 大河先輩愛してるぅ~♪」

「はっはっは! 君の愛、しかと受け取った! 今ならば石破ラブラブ天驚拳も撃てそうだ!」

「はぁ、新年早々これだよ……」

「どうした楓。君の分もあるのだが、もしかしていらないのか?」

「マジで!? お前のそういうとこ好きだぜ、大河~♪」

 

 

言ってるそばから手のひら返し。

新年早々から、文字通り現金な楓だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

ゆっくりと山から下りて宮内家に戻ってきたみんなは、お雑煮をたらふく食べてすっかり落ち着いていた。

居間では大河と一穂が食器の後片付けをしており、そこにデザートのミカンを取りに行っていたひかげが戻ってくる。

 

 

「あれ? 駄菓子屋は~? 帰った?」

「いや、まだいるよ~」

「そちらの部屋にいるぞ」

「ん?」

 

 

大河に言われて戸が閉まっている隣の部屋を覗いてみる。

確かに楓はそこにいた。

れんげとこなみに挟まれる格好で、仲良く一つの布団で眠っている。

その光景は、子供の頃に見た夏の日の記憶と被って見えた。

 

 

「ふふっ」

「美の極みだな! 俺を魅了して止まないその姿、まさしく天使だ!」

「……あれっ? 今のセリフ、どっかで聞いたような……」

 

 

いつの間にか隣に来て、いつもの如く暑苦しい言葉を放つ大河の姿に、何故か既視感を感じてしまう。

その記憶は楓が妄想したものだったはずだが、大河に気があるひかげにも彼女と同様の現象が起きたのだろうか。

あまりに現実味の無い話なので、真相は分からない。

ただ、人の意識は、どこかで繋がることが出来るのだという可能性を感じさせる気がした……。




やっとこさ後2回という所まで漕ぎ着けました。
次回のヒロインは……ほたるんかな?

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