残念な結果に終わった文化祭の次の日、越谷家では反省会と称したガールズトークで盛り上がっていた。
参加者は、小鞠、夏海、このみ、蛍の4人だ。
「そもそも夏海の企画がいい加減だったんだよ」
「え~、そうかな~?」
「メニューに載せてた料理、一度も作ったことなかったじゃん!」
「えっ、そうだったの?」
「はい……私は先輩たちが作れると思ってたんですけど」
「うちらに期待するなんてチャレンジャーだね~、ほたるん」
「自分で言うな!」
なんという行き当たりばったりな企画。
これでは失敗しても仕方がない。
しかし、そのおかげで大河と一緒に楽しく料理をする機会が出来たので、言うほど悪いイベントではなかった。
それどころか、このみにとっては十分に楽しめたと言える。
「私は結構面白かったけどな~。大河君と料理作れたし」
「あっ……うん、あれは楽しかったかな?」
「私も、あの時はとても楽しめました」
「うちは酷いバツを食らったから、全然面白くなかったけどな~」
「当然の報いだろ」
小鞠は反省の色がない夏海に一言言いながら、昨日の出来事を思い浮かべる。
大河の前でタヌキの格好をさせられたことは今でも腹が立つが、彼と一緒に作ったお菓子をみんなで食べた辺りは良い記憶となっている。
「前半はともかく、後半はよかったかな?」
「でしょ? またこういうイベントやってみたいよね~」
「文化祭みたいなイベントですか?」
「そうそう。例えば、体育祭とか」
「おっいいね、体育祭!」
「え~? 何かめんどくさいな~」
「そんなことないって。上手くすれば一日休みが増えるし」
「それに、関係者の参加もOKにすれば、大河君とスキンシップが図れるかもよ?」
「なんですと!?」
「スキンシップ……」
このみの言葉に反応してしまった小鞠と蛍は、それぞれ妄想に浸る。
「(大河先輩と二人三脚……触れ合うお肌とお肌……いいかも!)」
「(先輩とこなみちゃんが仲良く頑張っている姿……いいかも!)」
この時、2人の意思は決まった。
「やろう、体育祭!」
「はい! 絶対にやりましょう!」
「うおっ、急にノッてきたなっ!」
「よしよし、そうこなくっちゃね」
こうして、性懲りも無く新たなイベントを立ち上げることになった。
今度は前回の失敗を踏まえて、しっかりと事前確認して準備を整えることにする。
とはいえ、競技に関しては定番の物でいいし、道具に関しては分校にあるものを補修すればいいので、基本的には問題無く実施出来る。
後は、祭りを盛り上げるためのプラス要素である。
このまま普通にやったら人数が少ないので盛り上がりに欠けるし、せっかくスキンシップを図るのならもっと効果的なほうがいい。
ということで、このみが思いついたアイデアは……コレだ。
「何でブルマなんだ~~~~~!!?」
1週間ほど時間は進んで体育祭当日。
何故か白い体操服に紺色のブルマを着込んだ楓が、分校の校庭で叫んでいた。
このブルマこそ、このみが立案して蛍が製作した秘密兵器である。
現在はどこの学校でも正式に使用していないが、アニメやマンガなどではいまだに見かけるので、生で見たことの無い男子にも割かし知られている衣装だ。
下着っぽいので着るのはちょっぴり恥ずかしいけど、せっかくのお祭りだし大河へのアピールにもなる(?)ので、思い切って再現してみた。
しかし、人数合わせのために半ば無理やり参加させられている楓にとってはたまったものではない。
学生の頃にも着たことがなかったのに、大人になってから着るハメになるとは……。
「っていうか、学生じゃない私までブルマ履く必要ね~だろが!!」
「まぁまぁいいじゃないか。こういうのは様式美ってもんだよ」
「いやいや、先輩はもっと抵抗しなきゃダメだろ!」
補助員扱いの楓と一穂も、このみの押しに負けてブルマを着用させられてしまったのである。
ピッチピチな20歳の楓ならともかく、一穂の年だと若干痛々しい気が……。
「コラそこ、今痛々しいとか思っただろ?」
「突然何言ってんすか……」
どこからかよからぬ意思を感じて憤る一穂。
怒るということは、本人もそれとなく自覚しているらしい。
それでも履いてしまったのは、みんなから忘れられてる自分の若さをアピールしたかったからか。
「まったく、無茶しやがって。いろんな意味で」
「まぁ、たまにはいいじゃない。こんなの水着着てるようなもんだし」
「ちょっと恥ずかしいけどね」
「はい……」
そう言いつつ、お尻の辺りを気にしてブルマの端っこを引っ張る小鞠と蛍。
彼女たちは、それぞれの思惑のために自らブルマを着用していた。
そして、少し離れた所ではしゃいでいる夏海たちもブルマを着用しており、特に恥ずかしがることも無くノリノリで楽しんでいた。
「「「コマネチ!」」」
「何やっとるんだアイツらは……」
「ははっ、元気でいいじゃないか。まさに白い妖精だ!」
「上手いこと言ってるつもりだったら、その幻想をぶち壊す!」
タイミング良くやって来てアホなことを言い出した大河に、ビリビリと超電磁砲をぶっぱなしそうな勢いでつっこみを入れる楓。
今まで何をしていたのか確かめてみると、彼の回りに体育祭で使う道具が置いてあるので、近くにいる卓と一緒に運んできたようだ。
「さて、道具もそろったし、準備を始めましょうか」
「今から準備するんすか?」
「そうだよ~。人数少ないからのんびりやっても午前中で終わると思うし、ゆっくりでいいんよ~」
「ん~、この適当感……前の文化祭と同じ気配がするな……」
何となく不安に思いながらも、こうなったらやるしかないと準備を進める。
トラックの白線引き、スターターピストルのチェック、音楽用のCDラジカセのセット、各種道具の安全確認などを1時間ほどで整える。
全ての作業を午前10時までに整えて、久しく行われていなかった旭丘分校での体育祭がとうとう始まった。
チームは戦力の均等を図って、大河・楓を加えた小学生チームと一穂・このみを加えた中学生チームに分かれる。
「よしっ! やるからには絶対に勝つぞ!」
「「「おお~!」」」
「はぁ、やれやれだぜ」
大河を筆頭にやたらとやる気を見せる小学生チーム。
対する中学生チームも同様で、夏海を先頭に祭りを楽しもうとしている様子が伺える。
ただ、2名だけはちょっとした不満を抱いていたが。
「ちくしょ~、大河先輩と二人三脚したかったのにぃ~!」
「う~ん、大河君とのスキンシップ計画が……」
「ん~? どしたの2人とも?」
思惑の外れてしまったこのみと小鞠はぐぬぬと唸るものの、結局このままのチーム編成で行う事となった。
注目すべき最初の競技は、定番中の定番である徒競走だ。
走るのは義務教育組のみで、小学生は50m、中学生は100mのハンデ戦となっている。
「よ~いドン!」
パ~ンと一穂がピストルを鳴らして子供たちが一斉に走り出す。
目指すは、楓とこのみがテープを持って待ち構えているゴールだ。
生き生きと一生懸命に走る子供たちの姿がまぶしく見える。
しかし、そんな彼女たちを軽快な横っ走りで併走しながらビデオ撮影する大河の姿は、少し怖かった。
「は~っはっはっは! 見えるぞ! 俺にも妖精が見える!」
「あいつは幻想の中に生きてるな……」
進行そっちのけで撮影に勤しむ大河に呆れた楓はため息をつく。
その間にみんなが続々とゴールして決着は付いた。
1位蛍、2位卓、3位れんげ、4位夏海、5位小鞠、6位こなみとなり、この競技はほぼ引き分けとなる。
「よく頑張ったな、みんな!」
「でも負けたのん。うち悔しいのん」
「その気持ちが大事なんだ。あきらめたらそこで試合終了だぞ!」
「おお~、心に響く素晴らしいお言葉なのん!」
「最初に言ったのは別人だけどな」
その筋で有名な名言を使ってみんなを励ましつつ、次の準備をする。
2番目の競技は、小鞠が大河とやりたがっていた二人三脚だ。
バランスなどを考慮した結果、組み合わせは、楓・大河、れんげ・こなみVSこのみ・小鞠、夏海・卓となった。
「ったく、何でお前とこんなことしなきゃならね~んだ」
「俺は嬉しいぞ。楓と合法的に合体できるのだからな」
「いかがわしい言い方すんな!」
照れ隠しなのか、乱暴な口調で大河に絡む楓だったが、表情を見ると頬を赤く染めて満更でもない様子だ。
傍から見れば、仲の良いカップルがいちゃついているように見えなくも無い。
だとすれば、隣で2人の様子を伺っていたこのみと小鞠が嫉妬してしまうのは当然の成り行きだった。
「うぬぬ~! 羨まし過ぎるぅ~!」
「うむむ~! モヤモヤするぅ~!」
この瞬間、2人のシンクロ率は100%を超えて驚異的な力を発した。
これには流石の大河も堪らず追い抜かれ、彼女たちはぶっちぎりで1位となる。
それでも、ゴールした後は空しさを禁じえなかったが。
「はぁ。このままじゃ大河先輩にアピールできないじゃん……」
「弱気はダメだよ小鞠ちゃん。あきらめたらそこで試合終了だよ!」
「何かさっきも聞いたセリフだけど、とりあえず分かったよ」
使い勝手の良い名言で気持ちを盛り上げて、再び野望を燃えあがらせるこのみと小鞠。
そんな彼女たちの思惑とは関係無しに、体育祭は順調に進んでいく。
3番目の競技は、借り物競走だ。
参加者は、審判役の一穂・大河を除いた全員で、探し物のお題は参加者が1つずつ書いたものを使う。
「よ~いドン!」
一穂の合図で走り出したみんなは、少し離れた場所に置かれたお題の紙に向かう。
これもハンデを付けられていたので、小学生チームがいち早く辿り着いて紙を選ぶ。
「君に決めたのん!」
「私のは何かな~?」
「簡単だといいね」
3人仲良く同時に選んで中を見ると、こなみは【水筒】、蛍は【縦笛】、れんげは【大事な物】と書いてあった。
無難なお題だったこなみと蛍はすぐさま取りに行くが、とんちの様なことが書いてあったれんげは立ち止まって考え込む。
「何なのん?」
恐らくは、夏海辺りが考えた妨害策だろう。
曖昧にすることで迷いを生じさせる効果が出るわけだ。
しかし、鋭い感性を持ったれんげにはあまり効果が無かった。
彼女は、遅れてやってきた卓を見てキラーンと目を光らせると、彼からとある物を借りて速攻で一穂に差し出した。
「おや、もう持ってきたの?」
「鑑定をお願いしますのん!」
「どれどれ~。お題は【大事な物】で~、持ってきたのは……メガネ?」
「そうなのん。メガネは、にぃにぃそのものなのん」
「確かに、メガネは兄ちゃんの本体みたいなもんだからね~。よし合格!」
「何気に酷くね!?」
さも当然のように、メガネを自分と同等に扱われた卓は地味にへこんだ。
近くで聞いていた夏海からもジャッジに異論が出たが、一穂は強権を行使してこの勝負は小学生チームの勝利となる。
何はともあれ、これでプログラムの約半分が終わって、次が丁度折り返しとなる。
「4番目の競技は、パン食い競走か~」
「おいしそうだね~」
「うちはメロンパンを狙っていくのん」
スタート地点に並びながら食べたいパンを選ぶ。
参加者は、今回も大河と一穂以外の全員だ。
パンの高さは背丈の違いを考慮して配置してあるので、背の低いれんげたちも安心して参加できる。
既に用意は整っており、合図を出すと同時にみんなは一斉にパンの元へと走り、口を使って銜えようとジャンプしだした。
「あんっ、難しいです!」
「あはっ、そうだね~」
「はむっ、私は何をやってるんだ……」
蛍、このみ、楓が高い位置にあるパンを選んでピョンピョン飛び跳ねる。
若い女子が口を開けてパンを噛もうとしている姿は結構セクシーだったりするので、女性としての魅力を妙に強く感じさせた。
しかも、間近で見ていた小鞠は、彼女たちの胸がプルプルと揺れている光景を目の当たりにしてしまう。
なんてこった、圧倒的じゃないか!
しかし、胸の大きさの違いが、この勝負の決定的差ではないということを……教えてやる!
「がるるるるる!」
「うわっ!?」
「何事!?」
急に荒ぶりだした小鞠は、獣のように驚異的な運動能力を見せてパンを噛み取ると、そのまま1位でゴールした。
ちょっと人には言えない理由でハッスルした彼女の活躍によって、この競技は中学生チームの勝利となる。
「はっ! こんなアピールしてど~する私!?」
今更気づいても後の祭り。
パン食い競争はとっくに終わって、競技は5番目のバットまわりへと移っていた。
バットまわりとは、地面に立てたバットの先端を額にあて、バットを中心に一定数回転してからコースを走る競技である。
目が回ってまっすぐ走れない走者を見て楽しむもので、手軽に出来るゲームとして各種イベントで重宝されている。
参加者は、またまた大河と一穂以外の全員だ。
オモチャのバットを持ってスタートラインに並ぶと、みんなで一斉に10回回転する。
「にゅおお~? 世界がグルグルしてるぅ~!」
「おほほぉ~!? まっすぐ走れん!」
全員ほどよく目が回って、あらぬ方向に進みながらよたよたとゴールに向かう。
その中で比較的まともに走れているこのみが1番でやって来た。
「(出来るだけ大河君の近くでアピールしたいもんね~)」
何となく邪な気持ちを抱いてゴールにいる大河へと近づいていく。
すると、吸い寄せられるようにゴール寸前でふらついて、テープを持っていた大河に抱きついてしまう。
「おっと。大丈夫か、このみ」
「あっ……うん。ありがとう大河君」
別に狙ってやったわけではないものの、思わず嬉しい展開となりウットリしてしまうこのみ。
これだよ、こういう展開を待ってたんだよ。
典型的だけど効果的なラブコメ展開に感謝しつつ、偶然手に入れた幸せに酔いしれる。
とはいえ、良い雰囲気が長く続かないのもラブコメの宿命で、2人の様子を後方で見ていた小鞠が、その手があったと大河に抱きついてきた。
「あ~ん、転んじゃった~!」
「ははっ、君もか」
「って、小鞠ちゃんはわざとでしょ?」
「ふふん、証拠はないもんね~」
そっぽを向きながらしらを切って、さらに強く抱きしめる。
小鞠もなかなか強かである。
しかし、彼女の行動でこのみの対抗心にも火がついてしまい、これは負けていられないと積極的に抱きつき始めた。
競技そっちのけでラブバトルが始まり、何やってんのかね~と向かいで見ていた一穂が思っていると、彼女たちの後ろかられんげやこなみ、夏海や蛍までつっこんできた。
「わ~い、うちらもまぜろ~」
「「そうだそうだ~」」
「わ、私も行きます!」
「えっ、ちょ、まっ!?」
「ぐええ~!!」
どうやら面白そうなことをやっていると思われたらしいが、いっぺんに来たのは失敗だった。
みんなで抱きついた結果、バランスが崩れて倒れこんでしまったのである。
しかも、そのままゴールしてしまったので勝敗がよく分からなくなり、結局この勝負はお流れとなる。
「私がやった意味が……」
「どんまいどんまい」
せっかくの苦労が水の泡となって嘆く楓。
その気持ちは分かるものの、プログラムの残りも後わずかなので、最後まで付き合ってもらうと一穂が目を光らせる。
彼女が抜けてしまったら、唯一人大人でブルマを履いている自分がとても痛い存在になってしまうから……。
「くふふ、逃がしゃしないよ」
「先輩、顔が怖えよ……」
鬼気迫った一穂が楓に対して妙なプレッシャーをかけている間に、6番目の競技の玉入れを用意する。
カゴやお手玉は学校に置いてあり、保存状態も良かったのでそのまま使う。
この競技に審判はいらないので、裏方に徹していた大河と一穂を加えての全員参加となる。
2つのカゴの回りに紅白のお手玉をばら撒いて、いよいよ勝負開始だ。
「小学生チーム、スタンドマニューバと共に散開! 玉入れ合戦だ!」
妙に気合の入った大河は、よく分からない言葉で指示を出す。
とりあえず散開しろという意味だけは読み取れるので、楓たちは均等に散らばった。
「全機、フルブラスト!」
「「了解!」」
「ええっ!? よ、よく分からないけど分かりましたぁ~!?」
「さっきから何言ってるんだこいつは?」
大河の意味不明な言動に対して何とか雰囲気で意味を読み取り、とにかく全力で玉を投げ入れる。
多少の温度差はあるもののチームワークは良いようで、何だかんだと言いながら意思の疎通が出来ているみたいだ。
「左舷! 弾幕薄いよ! 何やってんの!?」
「左舷!? 弾幕ぅ!?」
「性格まで変わってる!?」
いや、彼を理解するのはまだまだ難しいのかもしれない。
それでも、玉入れの腕前は確かで、大河の活躍によって中学生チームを大差で引き離すことに成功した。
急に豹変して楓たちをびびらせたものの、しっかりと小学生チームの勝利に貢献する辺りは流石と言った所か。
ただ、その代償は高くついたが。
「ええい、玉入れに熱中しすぎてビデオカメラを壊してしまった」
「んなもん持ってやるからだ。あ~、それじゃもう使えないな」
「まだだ、たかがメインカメラをやられただけだ!」
「いや、メインカメラしかないだろそれ!」
どうやらちょっとしたアクシデントがあったようだが、これで6競技が終了して残すはあと1つとなる。
ここまでの成績はほぼ同点なので、決着は最後の勝負で決まるという絶好の状況だ。
取りを飾るその競技は、1番分かりやすくて盛り上がるリレー走である。
4人で400メートルを継走するものだが、れんげとこなみにはハンデをつけるので、小学生チームは300メートル走ればいい。
多少変則的ではあるものの、これできっちりと勝敗がつく。
さらに、このタイミングで大河から嬉しいサプライズが齎される。
「みんなここまで本当によく頑張った。その熱意に答えて、勝利したチームに褒美を進呈することを約束しよう」
「ええっ!?」
「マジで!?」
「褒美って何だよ?」
「勝利したチーム全員の願いを1つずつ聞いてやろう。無論、常識内で出来る範囲でだがな」
「おお~!」
ノリの良い大河は、みんなのやる気を奮起させようと奥の手を出してきた。
これなら、無理やり参加させられている楓もやる気を出すはずだ。
「よぉぉ~し! 出来る限り高いもん買わせてやるぜ~!!」
「ねぇねぇ、大河君。その約束はうちも含まれるのかね?」
楓だけでなく、何故か一穂もちゃっかり乗っかってくるが、まぁ仕方が無い。
そして、大人たちがそうであるように、子供たちも褒美目当てにテンションを上げてきた。
特に、恋する少女たちの熱意は高くて、あらぬ妄想を抱いてしまう。
「えへへ~、やっぱりデートがいいかな~?」
「そんでもって、一緒に腕組んだりして~」
「思いきって、お家にお泊りしちゃおっかな~」
「「……えっ?」」
蛍の狙いは大河だけでなくこなみにもあるので先ほどのような発言になったのだが、聞き様によってはかなりアブナイ。
しかし、彼女たちの愛は、形が違えど全てホンモノだ。
つまり、このリレー勝負は愛の勝負でもあるのだ。
はたして、誰の愛が勝利を手にするのか……という風に盛り上がりたかったんだけど、現実はそう甘くは無かった。
「ヒャッハ~! 金のためなら全力出すぜぇ~!!」
「「エェ~~~~~~~~~~~~~~~~!?」」
このみと小鞠の愛は、楓の金銭欲の前に敗れ去ってしまった。
まぁ、実際世の中なんてこんなもんだよね。
思惑違いな結果に終わってしまった中学生チームはがっくりと肩を落とす。
反対に、勝利した小学生チームは、我が世の春を謳歌していた。
「「いえ~い!」」
「やったぁ~!」
「よっし! ご褒美ゲットだぜっ!」
みんなで元気に勝ち鬨を上げる。
楓だけ欲望丸出しで色々と台無しだが、気にしてはいけない。
「おめでとう、小学生チームの諸君! 俺も我が事のように嬉しいぞ」
「さっき言ってた約束忘れてないよな」
「ああ勿論。俺も君たちからたくさんの贈り物をもらったからな、そのくらいお安い御用だ!」
「贈り物をもらったってなに?」
「うむ、これだよ」
このみの疑問に答えるように大河が見せてきたものは、ビデオカメラで撮影したみんなの姿だった。
メインカメラは壊れたものの他の部分は無事だったらしく、小さい画面には健康的なお色気に溢れた彼女たちの姿が映し出されていた。
むっつりスケベな卓の協力を受けた結果、とてもきわどいアングルなどもあって、それを見た本人たちは真っ赤になってしまう。
「おい、何だこれは!」
「うわぁ、これはちょっと恥ずかしいかな~」
「うにゃ~、お尻が見えちゃってるよ~!」
「えへへ~、後でコピーさせてもらおっと」
蛍だけ反応が違うようだが、お姉さん組は恥じらいを見せる。
しかも、さらに恥ずかしい映像が出てきて、このみたちほど覚悟が出来ていなかった楓は慌ててしまう。
「ほら、見てみろ楓。この時の君はとてもセクシーだったぞ」
「ああ? セクシーってなん……だぁ!?」
言われて見てみると、そこには色っぽい様子でパンに食いつこうとしている楓の姿が映っていた。
大きく口を開けて少しだけ舌を伸ばしているとても扇情的な瞬間である。
まさにビデオカメラでないと確認できないお宝映像だろう。
とはいえ、本人にとっては冗談ではないシロモノだった。
「うわぁ~~~~~!? 消せ消せ! 今消せ! 全部消せ~~~!!」
「むぅ。そこまで言われたら仕方が無いが、これで言うことを聞けば、君の褒美は叶えたことになるぞ?」
「私の脳内選択肢が豪華な褒美を全力で邪魔している!?」
恥ずかしい記録を消すかオイシイご褒美を手に入れるか、突如突きつけられた絶対選択肢に楓は悩む。
そんな騒がしい空気の中、蛍は1人笑みを浮かべる。
彼女だけは、ほぼ望みどおりの結果を得られたからだ。
「えへへ~。いいな~、先輩とこなみちゃんのブルマ姿~♪ これでまたコレクションが増えるよ。……それに、大河先輩からご褒美も貰えるし」
今日一番得をしたのは蛍かもしれない。
短編はこれで打ち止めです。
本編はまだ3回ありますが、ネタ出しが全然出来ていないので時間がかかりそうです。
でも、3月中には完結させる予定なので、何とか頑張ります。