漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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再来の悪夢の兵器

 管理局本局内の通路。

 ほんの少し前までは綺麗に清掃も行き届いていた筈の通路だったが、今は隔壁と壁の瓦礫や傷だらけで倒れ伏す武装局員、そして武装局員達を治療する医局員達で通路は埋め尽くされていた。

 重傷の者も居れば軽傷の者も居るが、全員が全員戦闘不能の状態に追い込まれていた。最も彼らは在る意味では幸運だった。ブラックウォーグレイモンの目的が管理局最高評議会のトップだけで無かったら、怪我人など存在せず武装局員全員が死んでいただろう。

 レティが提督を務める艦艇から転送ポートを使用して帰還したクロノ、なのは、フェイト、ユーノ、アルフは医局員に治療を受けながらも苦痛の声を上げ続ける武装局員達の姿にそれぞれ顔を暗くしながら、ブラックウォーグレイモンが向かった方の通路を進んで行く。

 余計な破壊をしていないおかげか、ブラックウォーグレイモンの足跡を追うのは簡単だった。それぞれが度合いは違ってもブラックウォーグレイモンに対して怒りを覚えながら進んでいると、見覚えの在る人物達がタンカーに運ばれて行くのを目にする。

 

「ッ!! グレアム提督!! アリア! ロッテ!!」

 

 驚愕の余り管理局に所属していた頃の呼び名で呼んでしまったが、クロノは医局員達に運ばれているグレアム、リーゼアリア、リーゼロッテに近寄る。

 なのは達も顔見知りの者達が運ばれている事に慌ててグレアム達に近寄ると、何かにグレアムの目が僅かに開いてクロノを捉える。

 

「…ク…クロノか? …すまない…奴に挑んだが…敗北してしまった…奴は既に魔導師の弱点を理解している……決して…近づいて攻撃しては…ならない」

 

「……分かりました」

 

「そ、それと……重要な事が在る…“彼女”は…生きていた」

 

『ッ!!!』

 

 グレアムが告げた事実にクロノ達は驚愕に目を見開いた。

 この状況で思い浮かぶ人物はただ一人。ブラックウォーグレイモン同様に死んだと思われていた“彼女”以外にクロノ達は考えられなかった。その人物が生きていた事実になのは、フェイト、ユーノ、アルフは笑みを浮かべるが、クロノだけは険しい顔のままだった。

 クロノ自身も内心では死んだと思っていた“彼女”の生存の事実は嬉しいが、見逃せない事実が存在していた。

 “グレアムが告げた人物が、敵対していたブラックウォーグレイモンと戦っていないと言う事実が”。

 そのクロノの疑問を答えるように、グレアムは体に走る激痛と自身が知る事実に顔を辛そうにしながら声を出す。

 

「…“彼女”は生きていた……だが…もはや…私達の知る“彼女”では無い…管理局を…自分を殺したと言う管理局の誰かを…殺そうとしている」

 

「えっ? …嘘ですよね?」

 

「だって…あの人は…ブラックウォーグレイモンと一緒にアースラに残って戦ったはず」

 

「もしかして…洗脳されたんじゃ?」

 

「そうかもしれないね。アイツの下には優秀な研究者が居るらしいから…ソイツが多分やったんだろうよ」

 

 グレアムの報告になのは、フェイト、ユーノ、アルフは否定するように声を出した。

 自分達の知る“彼女”が誰かに復讐するような事をする筈がない。寧ろ操られていると言う事実の方がなのは達は納得出来た。故になのは達は絶対に“彼女”を救い出そうと決意する。

 クロノも幾つか疑問に思う点は在ったが、とにかくこれ以上ブラックウォーグレイモンに好き勝手させる訳にはいかないと決意して『S2U』を握る右手に力を込めながらブラックウォーグレイモンが進んだ先に目を向ける。

 

「奴が進んだ方向はロストロギア保管庫だ…魔法の使用には充分に注意してくれ…行こう!!」

 

『うん!!』

 

「あいよ!!」

 

 クロノの呼びかけになのは、フェイト、ユーノ、アルフは頷き、ロストロギア保管庫へと向かい出す。

 その先で待つ再会と、管理局と言う組織の頂点に位置する者達の存在との出会い、そして別れを経験する事になるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 時空管理局最高評議会。

 管理局に所属する者なら誰もが自らの所属する組織の最高機関で在ると知りながら、其処に所属する者を詳しく知らない機関。管理局創設から百五十年の間、ずっと管理局のトップとして君臨していた。

 彼らは最初は心の底から次元世界の平和を願っていた。しかし、何時の頃から彼らの考えは変わらずともその思想は行き過ぎる面を持ち始めてしまった。何故そうなったのかは彼らにしか分からない。肉体を失った事が理由なのか、或いは巨大化して行く管理局と言う組織の権力に飲まれたのか。もしくは自分達こそが次元世界を導ける唯一の存在だと考え出したのか。様々な理由が考えられるが、彼らが“狂ってしまった”と言う事実は変わらない。

 管理局の人材不足の解消の為に秘密裏に違法研究を推進し、その他にも管理局が定めた法を自ら破る事も仕方ないとさえも彼らは思っていた。それら全てが“次元世界の平和の為”には必要な犠牲だと彼らは容認しているのだから。

 そして彼らの思想は管理局の上層部に蔓延している。故に本来ならば犯罪行為として認定されている行為も何時の間にか当然の事だと言う考えが生まれてしまった。本来ならばそうなる前に組織を自浄する機関が動いたりする筈なのだが、管理局は地球と違って一組織では考えられないほどに権力が集中してしまっている。それ故に組織内で犯罪が行なわれても自然と身内を庇ってしまうような流れが出来てしまった。

 唯一組織としてはミッドチルダ地上本部と管理局本局として分かれて在るが、内実で言えば本局側の方に権力は大きく重点を置かれているのが事実だった。

 

 そして今、ブラックウォーグレイモンとその肩に乗っている子供の目の前に置かれている三つの巨大なシリンダー内部に存在している三つの人間の脳髄こそが管理局のトップである最高評議会の面々だった。

 

『……よもや、あの状況から逃げ延びていたとは』

 

『忌々しき生物が…我らの作り上げた秩序を乱す存在め』

 

「フン…俺の戦いに下らん横槍を入れてくれたからな。その礼をしなければ気がすまん」

 

 ゆっくりとブラックウォーグレイモンは巨大な部屋内部に足を踏み入れながら声を出した。

 その肩に乗っている翡翠の髪の子供は漸く見つけた自身の復讐相手達の姿に暗い笑みを浮かべて、今すぐにでも三つのシリンダーを破壊しようとするが、ブラックウォーグレイモンはゆっくりと子供の前にドラモンキラーを翳して攻撃を止めさせる。

 何故と言う様に子供はブラックウォーグレイモンを見つめるが、ブラックウォーグレイモンは自身が来た事に慌てていない最高評議会の面々の様子に訝しんでいた。自身を最悪な形で殺そうとした理由を考えれば、目の前に居る者達は自身の実力を知っているのは間違いない。なのに焦りが余り見えない。

 

(何を企んでいる? …コイツらがやった計略を考えれば、間違いなく俺の存在を知っている筈だ…なのに、何故冷静でいられる……ッ! 上か!!)

 

 そうブラックウォーグレイモンは最高評議会の面々の冷静さに警戒心を強めた瞬間、迷う事無く後方へと飛び去り、天井から放たれたレーザーのような攻撃を避ける。

 

ーーービィィィーー!!

 

ーーードン!!

 

「誰だ!?」

 

 床に着地しながらブラックウォーグレイモンは頭上を見上げ、自身を攻撃して来たモノの姿を捉える。

 ブラックウォーグレイモンを攻撃した相手は、天井に張りついていた。だが、ソレは魔導師では無かった。いや、それは生物だとさえも認識するのは難しい姿をしていた。

 形としては人型に近いが、意思のようなものは全く見えず決められた行動しか行なえないような機械のような存在。頭部に存在する目のようなカメラアイが真っ直ぐにブラックウォーグレイモンに向けられている。

 その機械のような生物から感じられる気配に、ブラックウォーグレイモンは僅かに目を見開く。

 

「馬鹿な…この気配は…デジモンだと?」

 

『その通りだ。これこそが我らが協力者が作り上げた兵器『ギズモン:XT』だ』

 

ギズモン:XT、世代/完全体、属性/不明、種族/マシーン型、必殺技/XTレーザー

人間の手により、他のデジモンのデータを改造して作られたマシーン型デジモン。このデジモン自体に意思は無く、プログラムされた命令通りに行動する。また、人型故に多種多様な武器を装備する事が出来る。その力は完全体で在りながら究極体にも匹敵する。このデジモンに倒されたデジモンはデジタマに戻る事さえも出来ず、完全な消滅しか待っていない。必殺技は、眼球と腹部から赤いレーザー光線を放ち、デジモンのデータを粉々に破壊する『XTレーザー』だ。

 

「な…ん…だ…と? …『ギズモン』? …馬鹿な!? 何故コイツが此処に存在している!?」

 

 最高評議会の言葉にブラックウォーグレイモンは驚愕と困惑に満ち溢れながら、ゆっくりと床へと降り立ったギズモン:XTを見つめる。

 『ギズモン』と言うデジモンに対して、ブラックウォーグレイモンは知識として情報を持っている。だが、そのデジモンが次元世界に存在する筈が無い。他のデジモン達と違って『ギズモン』と言うデジモンだけは自然では決して生まれる事の無いデジモンなのだから。

 驚愕と困惑に満ち溢れるブラックウォーグレイモンの姿が愉快だったのか、最高評議会の一人が告げる。

 

『ほう、こやつを知っているか? ギズモン:XTこそ、何れは我ら管理局が彼の世界を管理下に治める時の尖兵よ。今はまだ技術転換が出来ていないが、何れは魔導師達のデバイスにこやつの技術をシステムとして組み込む予定だ』

 

『我らの秩序を乱すやも知れぬ危険な世界…『デジタルワールド』を管理下に置く為にな』

 

「デジタル…ワールド…クククククククッ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!! そうか!! 此方にも存在していたのか!!!」

 

「……ドウシタノ?」

 

 心の底から楽しげに笑い続けるブラックウォーグレイモンの様子に、肩に乗っていた子供は質問した。

 その質問に対してブラックウォーグレイモンは答えずに、ゆっくりと肩に乗せていた子供を床に降ろしてギズモン:XTと向き合う。

 幾つか気になる点は在るが、ブラックウォーグレイモンの歓喜はソレを上回っていた。何故なら自身が全力で暴れる事が出来る世界が、自らの力を超える者達が住む世界が存在していると分かったのだから。

 

「ククククッ、此処に来たのはやはり正解だった…後は当初からの目的を果たすだけだ。…少し待っていろ」

 

「…ハイ」

 

 ブラックウォーグレイモンの言葉に子供は素直に返事を返した。

 ゆっくりとブラックウォーグレイモンは自身を見つめているギズモン:XTと向き合って、両手のドラモンキラーを構える。

 そのまま戦いを始めようとするが、その前に評議員の一人がブラックウォーグレイモンの後方に居る子供に疑問を覚えて声を出す。

 

『…先ほどから気になっていたが…その小娘はよもや…貴様と共に死んだと考えていた者のクローンか何かか?』

 

『で在ろうな…その小娘からは魔力が全く出ていない。本人の筈が在るまい』

 

『我らに対する嫌がらせか何かか? それとも貴様を消滅させる為に利用したリンディ・ハラオウンの死を少しは悼み生み出した存在か?』

 

「答えてやる義務は無い。コイツを倒したら次は貴様らだ。少しは自分の命に対して危機感を持つんだな?」

 

『フフフッ、その時は貴様も消え去る定めだ。我らの維持装置には幾つかのロストロギアと直結している』

 

『我らの維持装置が停止した時は、この場所ごと完全消滅だ』

 

「…ソンナコトシタラ…ホンキョクモ…キエル」

 

 評議会の言葉を聞いていた子供は自身の考えを告げた。

 ロストロギアはその危険性を故に保管されている代物。暴走する危険性を考えて管理局は保管していると言うのに、それを利用して自分達の命の安全を図っている評議員達に子供は険しい瞳を向ける。

 だが、評議員達はそんな視線など気にしていないと言うように子供に対して答える。

 

『ならば、我らを殺さなければ良いだけの事だ』

 

『そう、我らは死ぬ訳には行かない…我らが求める優れた指導者によって統べられる世界。その指導者を我らが選び、陰ながら導かねばならん。その為に生命操作技術は向上しなければならない』

 

「フン…下らん……神にでもなったつもりか? 悪いが貴様らがどれだけご大層な存在だろうと、俺は貴様らを敵として認識した…だ…から、潰すだけだ!!!」

 

ーーードン!!

 

≪ピピッ!!≫

 

 叫ぶと共に飛び掛かって来たブラックウォーグレイモンに対して、ギズモン:XTは即座に反応してブラックウォーグレイモンの一撃を片腕を動かす事で防ぐ。

 

ーーーガキィィン!!

 

「ムン!!」

 

 自らの攻撃が防がれてもブラックウォーグレイモンは構わずに攻撃をし続け、ギズモン:XTはその攻撃を最小の動きだけで防いで行く。

 

ーーードガッ!!ガキィッ!!ドン!!キィン!!

 

(チッ!! コイツ……どうやら俺の戦闘データが記録されているようだな。その上、今も戦いながら俺のデータを収集している。長期戦は不味いか!!)

 

 攻撃を無駄なく捌いていくギズモン:XTに、ブラックウォーグレイモンは更なる猛攻を繰り出す。

 しかし、その攻撃も予想の範疇だと言うようにギズモン:XTは防いで行く。防いだ後の衝撃に対しても柔軟な体を利用してギズモン:XTは衝撃を受け流し、その身にはブラックウォーグレイモンの力を持ってもダメージは最小限しか与えられていなかった。

 しかも徐々にギズモン:XTがブラックウォーグレイモンの攻撃に対処する速度は上がって行き、遂にギズモン:XTがブラックウォーグレイモンに対して拳を振り抜く。

 

≪ピピッ!!≫

 

ーーーブン!!

 

「クッ!!」

 

 予備動作も無く放たれた拳をブラックウォーグレイモンはギリギリのところでかわし、そのままギズモン:XTの胴体にドラモンキラーを叩きつけようとする。

 しかし、ブラックウォーグレイモンのドラモンキラーが届く前に避けた筈のギズモン:XTの腕が間接など関係ないと言うように曲がり、ブラックウォーグレイモンの背中に激突する。

 

ーーードゴォン!!

 

「グゥッ!!」

 

 予想外の場所からの攻撃にブラックウォーグレイモンの動きが一瞬止まってしまう。

 その隙を逃さないと言うようにギズモン:XTは右拳を構えて、ブラックウォーグレイモンの腹部を殴りつけ、出入り口の壁へと吹き飛ばす。

 

ーーードゴオォォォン!!

 

「…お、おのれぇ…」

 

 自身を吹き飛ばしたギズモン:XTに対して怒りの声を上げながら、ブラックウォーグレイモンは立ち上がろうとする。

 だが、その前に高速回転したギズモン:XTが突撃して来てブラックウォーグレイモンを壁へと深くめり込ませる。

 

ーーーギュイィィィィィィィン!!

 

ーーードゴオオォォォォン!!

 

『…気に入らぬが、“奴”の兵器は予想以上の力だ』

 

『うむ…高ランクの魔導師数名を一度に相手にして勝った究極体と互角以上に戦うとは』

 

『…我らとしては魔導師と戦闘機人以外の戦力は認めがたいが…有用なのは認めざるをえまい』

 

 魔法主義の最高評議会としては認めたくは無いが、少なくともギズモン:XTは何れは自分達が管理下に置こうとしている世界に対して有用な力だと認めざるをえなかった。

 そろそろ戦いはブラックウォーグレイモンの敗北で終わるであろうと評議員達が思った瞬間、ブラックウォーグレイモン達が入って来た場所から声が響く。

 

「キャッ!?」

 

「な、なんだいこの部屋は?」

 

「ひ、人の脳髄?」

 

「ク、クロノ?」

 

「…一体…此処は?」

 

 ブラックウォーグレイモンの後を追って来たなのは、アルフ、ユーノ、フェイト、クロノは、それぞれ部屋の中央に置かれている三つの巨大なシリンダー内部の脳髄の姿に声を出した。

 その声に気がついた評議員達は自分達の部屋に繋がるロストロギア保管庫の封鎖が終わる前に入って来たなのは達に焦りを覚えた。例え職務に忠実な管理局員だとしても、脳髄である自分達が管理局のトップだと知れば管理局に疑問を抱く。手駒ならばいざ知らず、なのは達は手駒ではない。唯一の局員であるクロノも、自分達の存在を知れば訝しんで調べる可能性が高い。

 故に彼らが即座に判断したのは目撃者の抹消だった。

 

『ギズモン:XT! 其処の小娘どもも殺せ!! 金髪の小娘だけは出来るだけ原型を留めておけば構わん!!』

 

ーーーガチャッ!!

 

『えっ!?』

 

 突然に横合いから聞こえた音になのは達が目を向けて見ると、無機質なギズモン:XTの目と合う。

 何の感情も宿していないギズモン:XTの無機質な目になのは達は言い知れぬ恐怖を感じるが、ギズモン:XTは構わずに無機質な瞳からレーザーをなのは達に向かって放つ。

 

≪ビビィッ!!≫

 

ーーービィィィィィーーーーー!!!!!

 

『ッ!!!』

 

 突然のレーザー攻撃に対してなのは達は驚愕し、動きが止まってしまう。

 しかし、なのは達にレーザーが直撃する前に横合いから翡翠の髪の子供が割り込み、その右手を迫って来ているレーザーに向かって構えながら叫ぶ。

 

「ディストーションシーールド!!!」

 

ーーーギュィン!!

 

『何だと!? デバイスと魔法陣無しで高位の魔法の使用だと!?』

 

 レーザーと激突し合う子供の右手の先に起きている空間の歪みを目にした評議員の一人は驚きに満ちた声を出した。

 それは子供に護られているなのは達も同じだった。体の大きさは明らかに違うが、聞こえて来た僅かに知っているものよりも高い声と、空間の歪みとぶつかり合うレーザーによって巻き起こる衝撃によって揺らめく“翡翠の髪”。まさかと思いながらなのは達が目の前で自分達を護っている人物の後姿を見つめていると、ゆっくりと子供は背後を振り向いて優しげな笑みをなのは、フェイト、アルフ、ユーノ、そしてクロノに向ける。

 

「無事みたいね、皆」

 

『リンディさん!?』

 

「リンディ!?」

 

「か、母さん!?」

 

 幼くなったリンディの姿になのは、フェイト、ユーノ、アルフ、クロノはそれぞれ驚愕と困惑に満ち溢れた声を上げた。

 その様子に苦笑をリンディは浮かべるが、すぐに真剣な顔をしてギズモン:XTのレーザーに押され始めたディストーションシールドを保ちながら叫ぶ。

 

「何時まで大人しくしているの!? こんな自分の意思も無い操り人形でしかない敵に負けたら、“貴方が知っている子達に悲しまれるわよ”!!」

 

ーーードゴオォォン!!

 

ーーーガシッ!!

 

 リンディの叫びに応じるようにギズモン:XTが押さえつけていたブラックウォーグレイモンの右手が壁を破壊しながら飛び出し、ギズモン:XTの首を掴んでレーザーの向きを上へと無理やり向かせた。

 

ーーーギギギギッ!!

 

「正気に戻って早々に言ってくれる!!! しかも、今の発言…チッ!! 余計なモノまで貴様に流れ込んだようだな!!!」

 

ーーードゴオォォン!!

 

 怒りに満ちた叫びと共にブラックウォーグレイモンは、自身を押さえつけていたギズモン:XTの腹部を蹴り飛ばした。

 その威力にギズモン:XTは吹き飛び、三つのシリンダーの目の前まで漸く止まり、評議員達は肝を冷やした。後ほんの少しギズモン:XTが止まるのが後ろだったら、シリンダーは破壊されて内部に居た評議員は死んでいただろう。

 

『貴様!? 我らが言った事を忘れたのか!? 我らが入っているシリンダーが破壊されたら、ロストロギアが暴走するのだぞ!?』

 

「何だって!? ど、どう言う事だ!?」

 

 評議員の一人の発言を耳にしたクロノは、その言葉の意味に驚愕しながら叫んだ。

 ロストロギアの暴走。それが本局内で起きたら本局崩壊どころの騒ぎでは済まない。失敗すれば近隣の世界全てを巻き込む大惨事が引き起こされる可能性が在るのだ。

 何せ保管庫内に在るロストロギアは全て危険な遺物として指定されている代物。それらが一気に暴走したら次元震どころか、次元断層さえも起きる可能性が高い。

 その事実に行き着いたクロノを含めたフェイト、アルフ、ユーノは顔を青ざめさせ、なのはもロストロギアの暴走と言う言葉に体を震わせる。

 クロノは思わずブラックウォーグレイモンに対してでなく、ギズモン:XTに護られるように立っている三つのシリンダーに向かって『S2U』を構える。

 

「お前達は何者だ!? 管理局が保管しているロストロギアを危険な形で使用する事は重度の犯罪行為だぞ!!!」

 

『フン…小童が…我らが何者で在るかもしらぬ一局員でしか無いと言うのに、良く吼える』

 

「何だって?」

 

「クロノ…彼らこそが…私達が所属している管理局と言う組織の最高機関…管理局最高評議会の面々よ」

 

「ッ!! …か…母さん…嘘ですよね?」

 

「…私も信じたくは無いけれど…事実なの」

 

『ッ!!』

 

 告げられた管理局のトップの正体にクロノ、フェイト、アルフ、ユーノ、なのははそれぞれ驚愕しながら三つのシリンダー内部の液体の中に浮かぶ脳髄の姿を見つめる。

 その姿は管理局と言う組織に対する印象を変えるに相応しい姿だった。特にクロノは自身の所属している組織の頂点が目の前に存在しているモノだと信じられずに呆然としていた。

 

『先ほどからの発言…よもや、貴様はリンディ・ハラオウン本人なのか?』

 

「そうとも言えますし、言えないかもしれませんね、評議員の方々…私は自己の死を確かに認識して死にましたし…今こうして此処に居る私には確かにリンディ・ハラオウンとしての意識も明確に存在していますけど…全てが受け継がれていると言う訳では無いようですね…管理局に対する奉仕の意思は殆ど無く…代わりに…アナタタチヘノ…ニクシミイガイニ…カンリキョクニ…タイスルイシガ…ナイワ」

 

『ッ!!』

 

 暗く憎しみと言う感情に彩られたリンディの声に、クロノ達は驚愕に満ちた視線をリンディに向ける。

 あのリンディがグレアムが告げたように憎しみと言う感情に支配されていると言う事にも驚いたが、それ以上に今の発言を考えればリンディを殺したのは最高評議会と言う事になる。

 一体どう言う事なのかとクロノ達が疑問に満ち溢れた視線をリンディに向けると、リンディはアースラで起きた出来事を語り出す。

 

「アースラに残った私は彼と対峙して少しでも時間を稼ぐ為に駆動炉の魔力を受け取ったの…でも、魔力を受け取って少ししてから駆動炉は暴走して膨大な魔力が私に流れ込んで来た…結果、私は急激に流れ込んだ魔力を制御する事が出来ず、リンカーコアは砕け、その体も膨大な魔力のせいでボロボロな状態になった…残された力で私は在る代償を彼に差し出す事で協力を取り付けて、駆動炉への停止に向かった…だけど、駆動炉は私のアクセスを受け付け無かった…駆動炉のプログラムを彼らの手の者に書き換えられていたのよ!」

 

『…フン、其処まで分かっているなら惚けても無駄か…さよう、我々がアースラの暴走を仕組んだのだ』

 

『全ては究極体で在るそやつを消滅させる為…今暫らくはその生物の存在を管理世界の者達に知られる訳には行かぬ。何としても抹消せねばならぬ』

 

『最小の犠牲で究極体を倒せる最良の策だった。よもや、究極体と手を結んで生き延びていたわな。道理でアースラの乗組員が脱出出来る時間が存在していた筈だ』

 

「あの時に彼が力を貸してアースラの暴走を止めていなければ、乗員は全員駆動炉の暴走に寄る爆発で死んでいたわ!! 貴方達は私達アースラメンバーの命を犠牲にしようとしていたのよ!!」

 

『駒ごときの命など幾ら犠牲にしても構わぬ』

 

『ッ!!』

 

 余りの発言に話を聞いていたクロノ達は目を見開いて評議員達を見つめる。

 リンディも分かっていた事だが、目の前に居る評議員達にとってもはや管理局と言う組織に所属する者は自分達の手足である駒でしか無い。彼らは目的を果たす為ならば、どれだけの命を犠牲にしようと構わないと言う考えになってしまったのだ。

 時には確かに犠牲を支払わなければならない時が在る。だが、犠牲にされる側からすればその理由を知らなければ気がすまない。嘗てリンディ・ハラオウンの夫、クライド・ハラオウンが犠牲になった時はクライドは覚悟を決めて自らを犠牲にした。リンディもその覚悟を持ってブラックウォーグレイモンに挑んだが、それはアースラの乗員達の為。自身だけではなく乗員達さえも犠牲にする計略を練って実行した評議員達を、リンディは赦す気にはなれなかった。

 

「…やっぱり…無理ね…貴方達を赦す気にはなれない……ダークエヴォ…」

 

「止めろ」

 

 今まで黙していたブラックウォーグレイモンがリンディに対して声をかけて、その行動を止めた。

 何故邪魔をするのかと言う視線をブラックウォーグレイモンにリンディは苛立たしげに向けながら叫ぶ。

 

「退いて!! 私は彼らを倒すわ!! 今はそれだけさえ出来れば!」

 

「貴様の体は調整が終わっていないらしい。正気に戻ったのも奇跡に近い状態だ…何よりもギズモンを相手に“力”を初めて使用する貴様では勝てん…アレは『デジモン殺し』に特化した存在だ。調整が完全ではない貴様では甚大なダメージを負う可能性が在る」

 

「クッ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンの言葉にリンディは悔しげに声を出した。

 一先ずは止まったと判断したブラックウォーグレイモンは、再び評議員達を護るように立っているギズモン:XTに対して両手のドラモンキラーを構える。

 

「そろそろ本気で終わらせる。ギズモンの存在には驚いたが、貴様らを殺す事に変わりは無い」

 

『貴様…どうやら言葉を理解出来ん低脳の存在のようだな…ギズモン:XTよ!! 我らを除いたこの場に居る全てを抹殺せよ!!!』

 

≪ビビッ!!≫

 

ーーードン!!

 

 評議員の指示に従ってギズモン:XTはブラックウォーグレイモンに向かって飛び掛かった。

 そのままギズモン:XTはブラックウォーグレイモンに向かって拳を振ろうとするが、その前にブラックウォーグレイモンのドラモンキラーがギズモン:XTが振り抜こうとしていた拳に突き刺さる。

 

「ドラモンキラーーーー!!!!」

 

ーーードスゥン!!

 

≪ビッ!?≫

 

「ムン!!」

 

ーーードゴオォォォン!!

 

 一瞬動きが止まってしまったギズモン:XTを、容赦なくブラックウォーグレイモンは床に叩きつけた。

 そのまま起き上がろうとしているギズモン:XTをブラックウォーグレイモンは全力で踏みつけて、床へとめり込ませる。

 

ーーーードゴォン!!

 

≪ビビッ!!≫

 

「貴様と言う存在で恐ろしいのは、一撃でデジモンを滅ぼせる必殺技だ。それ以外の面も確かに通常のデジモンよりも強力だが、それ以外は機械的で動きが読みやすい!!」

 

ーーードゴォッ!!

 

 ブラックウォーグレイモンは更に容赦なくギズモン:XTに攻撃を加えて、更に床にめり込ませた。

 何とか脱出しようとギズモン:XTはブラックウォーグレイモンに向かって胸のカメラアイと、頭部のカメラアイを構えてレーザーを撃ち出す。

 

ーーービィィィィィーーーーー!!!!

 

 放たれた二本のレーザーは真っ直ぐにブラックウォーグレイモンに向かうが、ブラックウォーグレイモンは後方へと飛び去る事で避ける。

 

ーーードン!!

 

「眠れ!!! ガイア!!!」

 

 後方へと着地すると共にブラックウォーグレイモンは巨大な赤いエネルギー球を両手の間に作り出す。

 強力なエネルギー反応にギズモン:XTは床から脱出しようとするが、深くめり込んでいたのですぐに脱出する事は出来なかった。その間に巨大なエネルギー球を完成させたブラックウォーグレイモンは、迷う事無くギズモン:XTに向かって投げつける。

 

「フォーーース!!!!!」

 

ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 全力で投げつけられたガイアフォースをギズモンXTは避ける事が出来ずに飲み込まれた。

 その時の衝撃で本局が激しく動き、戦いを見ていたなのは達は床に尻餅をついてしまう。そしてギズモン:XTが居た場所には大穴が存在し、その中心に何かの生物らしき卵が落ちていた。

 ブラックウォーグレイモンは大穴から卵を拾い上げると、勝つと自信を持っていたギズモン:XTの敗北に動揺している評議員達に向かって歩き出す。

 

「貴様らから知りたい情報は幾つか在るが、それはもう奴が手に入れているから構わん。後は此処に来た目的を果たすだけだ」

 

『何度言ったら分かる! 我らを殺せば…』

 

「フリート」

 

『はいはいですよ!!! 本局内に潜ませていた隠密用機器に命じて、彼らのロストロギアとの繋がりを削除しました!!』

 

『なっ!?』

 

 突然にネックレスから聞こえて来た女性が告げた事実に、評議員達は驚愕に満ちた声を上げた。

 最も厳重に指定していた管理局のシステムが削除された事実にも驚いたが、何よりも自分達の命を護る絶対の生命線が失われた事の方が何よりも重要だった。

 このままでは自分達には絶対の死しか待っていないと考えていると、ネックレスの向こう側から僅かに苛立ちに満ちたフリートの声が聞こえて来る。

 

『随分と私の世界の技術を悪用してくれていましたね。挙句の果てにはその情報を流して私の世界に影響を及ぼす事態を引き起こしてくれて…こっちは大迷惑ですから、“返して貰いましたよ”』

 

『何者だ? …この生物に協力している研究者か?』

 

『これから死ぬ連中には関係ないです。ブラックウォーグレイモン、やっちゃって構いませんよ』

 

「そうか」

 

『ま、待…』

 

ーーーバリィィィィィィィーーーン!!!!

 

 評議員の一人が全ての言葉を言い切る前に、ブラックウォーグレイモンのドラモンキラーが振り抜かれてシリンダーの内部に入っていた脳髄ごと呆気なく粉砕された。

 次元世界にその名を轟かせる司法機関の管理局のトップの一人にしては、余りにも呆気なさ過ぎる最後だった。それと共にロストロギアの暴走が起きる様子も無く、ブラックウォーグレイモンの行動を邪魔していた最大の要因が消え去った事が確認された。

 その事実に残りの評議員達は無念だと言う気持ちを抱きながら、ブラックウォーグレイモンに向かって声を出す。

 

『我らが消えたところで、管理局が潰れる事は無い…既に我らの志の種は蒔かれているのだから』

 

『必ず管理局は次元世界を全て治める。あの世界も何れは管理局の手に落ちるのだ』

 

「…貴様らは何も理解していない。あの世界は貴様らの考えなど及びも付かない世界だ…手を出さずに居る事こそがどっちにとっても幸いだろう。だが、既に種は蒔かれているか…(此方側のデジタルワールドに行く気だったが、どうやら既に事態は動いていると言う事か…早急に向かわねばならん)」

 

 そうブラックウォーグレイモンは考えると共に左手のドラモンキラーを構える。

 二人の評議員は迫る死を思いながら、ブラックウォーグレイモンが振るおうとしているドラモンキラーを眺め、翡翠色の魔力刃が二つの脳髄に寸分違わずに突き刺さる。

 

ーーードスゥゥゥゥーーン!!!

 

「……俺に任せておけば、貴様は管理局に追われる必要が無かった筈だが?」

 

 ゆっくりと翡翠の魔力刃が突き刺さった箇所から水漏れを起こしているシリンダーに背を向けて、先んじて攻撃を放ったリンディにブラックウォーグレイモンは顔を向ける。

 クロノ、ユーノ、アルフ、フェイト、なのはも評議員を殺したリンディに視線を向ける。リンディが殺した者達はどのような形で在れ、管理局最高評議会の議員達。当然ながら、評議員を殺したリンディは管理局にとって赦されざる犯罪者に指定される。

 何故と言う気持ちでクロノ達がリンディを見つめていると、リンディは部屋の内部に在る端末を指差しながらクロノに告げる。

 

「クロノ執務官! この部屋に在るデータを他の誰かが来る前にコピーしなさい!! …コレは…管理局アースラ艦長だったリンディ・ハラオウンが最後に出す指示です!!」

 

「か、母さん?」

 

「早く!! 此処でこの場所のデータを見逃したら、全てが闇に葬られるわ!!! そうなる前にデータを!!!」

 

「わ、分かりました」

 

 リンディの指示に疑問を持ちながらも、クロノは急いで端末へと移動して自身のデバイスである『S2U』内部にデータをコピーして行く。

 それを確認したリンディは次にユーノとアルフに顔を向けて、二人の手を握りながら説明する。

 

「此処で見た事は全てを伝えて…そしてクロノがデータをコピーした事だけは隠しておいて…きっと、そのデータが管理局を変える足掛かりになるわ」

 

「ま、待って下さい!!全部伝えたら、リンディさんが…した事も」

 

「そ、そうだよ!? あの変な脳髄連中の事は良く分からないけど、伝えたらリンディは不味い事に」

 

「…どちらにしても…私は管理局には戻れないわ…こうして助かった代償として…私は…“人”では無くなってしまった」

 

「…ど、どう言う事だい?」

 

「リンディさん? 一体どう言う意味ですか?」

 

 リンディが告げた事実にアルフとユーノは目を見開きながら質問するが、リンディは苦笑のような笑みを浮かべて、次に戸惑っているなのはとフェイトに近寄る。

 

「…先ずはフェイトさん…ゴメンなさい…養子の件はこっちから提案したのだけれど…無理になってしまったわ…本当にごめんなさい!!!」

 

「リ、リンディさん…そ、その」

 

「レティに事情を説明すれば、今までどおり地球で過ごせると思うの…学費の方は私の通帳から出して良いわ…クロノはもう学校に通うなんて事は無いから…フェイトさん…貴女と過ごせた日々は短かったけれど…楽しい日々だったわ…ありがとう」

 

 涙を浮かべているフェイトをリンディは最後に優しく抱き締める。

 本当に別れなのだと気がついたフェイトは大粒の涙を目から零して嗚咽を漏らし、リンディは心の底から申し訳なさそうな顔をしながら、フェイト同様に目に涙を浮かべているなのはに向き直る。

 

「なのはさん」

 

「リンディさん…そ、その…本当に行っちゃうんですか?」

 

「えぇ…残念だけれど…私はもう管理局には居られないわ…それとなのはさん…私は貴女を管理局に勧誘していたけれど…それは考え直して欲しいの」

 

「ッ!! ど、どうしてですか!?」

 

「…なのはさんも見たでしょう? …管理局にはさっきの最高評議会のような闇が存在している…全部が全部とは言うつもりは無いけれど…確かに闇は存在しているの…それに…(彼の知識どおりなら…このままではなのはさんは魔法と言う力に飲み込まれてしまう)」

 

 正気に戻ると共に脳裏に浮かんだブラックウォーグレイモンの知識の数々。

 それを得たリンディは正直信じられないと言う気持ちを抱いたが、半年と言う短い時間で知ったなのはの性格ならば同時に在りえると思ってしまった。

 このままではなのはに失敗すれば取り返しのつかない出来事が降りかかると理解したリンディは、何とかなのはに管理局入りを一時的にでも思い留まって貰おうと説得しようとするが、その前に複数の足音が近づいて来ているのをブラックウォーグレイモンは感知する。

 

「ム? …時間切れだ…さっさと行くぞ」

 

「ッ! ……分かったわ」

 

 ブラックウォーグレイモンの言葉の意味を察したリンディは頷き、ブラックウォーグレイモンの傍へと移動する。

 そのまま転移しようとするが、その前にデータをコピーし終えたクロノがブラックウォーグレイモンに向かって叫ぶ。

 

「待て!?」

 

「何だ?」

 

「…今回は調べなければいけない点が幾つも出たから保留にするが、僕はお前を赦す気は無い!! 何時か必ずお前を倒す!!! それだけは覚えておけ!!!」

 

「フン…なら、せめてこれぐらいは出来るようにするんだな!!! ウォーブラスターーー!!!!」

 

ーーードドドドドドドドドドドドドドドゴオオォォォォォン!!!

 

 ブラックウォーグレイモンが振り返ると共に両手から数え切れないほどのエネルギー弾が天井に向かって放たれ、直撃すると共に天井から瓦礫が落ち始める。

 

ーーードォン!!

 

「不味い!! 部屋が崩れる!! 早く出るんだ!!」

 

 クロノは慌ててなのは達に向かって叫び、なのは、フェイト、アルフ、ユーノは後ろ髪が惹かれるような思いを抱きながらも部屋から出て行った。

 次々と天井から落ちて来る瓦礫をリンディは見つめながら、横に立っているブラックウォーグレイモンに声を掛ける。

 

「これで暫らくはデータをコピーした事は隠せるわね」

 

「知らんな。俺は忌々しい連中が居た場所を破壊しただけだ。それよりも……貴様何故奴らを殺した? その体とて、フリートの調整を受ければ人間とは限らんものになるかもしれんのに」

 

「…抑え切れなかったと言うのも在るけれど…決別かしらね…過去との…もう私はリンディ・ハラオウンでは居られないから」

 

「…そうか」

 

ーーードゴオォォン!!

 

 一際大きな瓦礫が落ちる音が鳴り響くと共に、ブラックウォーグレイモンとリンディの姿は部屋内部から消え去ったのだった。

 

 

 

 

 

 次元空間『闇の書の暴走体』が居た地点。

 その場所にはルインが脱ぎ捨てた『暴走体』の残骸が浮かんでいた。ソレを足場として戦いは繰り広げられていたが、今ではその足場となっていた場所にヴィータ、ザフィーラ、シャマル、リインフォース以外に、救援として現れた管理局の魔導師達が多数倒れ伏していた。

 それを行なった人物であるルインは、右手に最後まで挑みかかって来たボロボロの状態のシグナムを持ち上げながら、ロングコートの中に仕舞っていた通信機からフリートからの連絡を受け取っていた。

 

『終了ですよ、ルインさん!! 目的は遂げましたから、帰還して下さい!!』

 

「そうですか。じゃ、帰りますね。早くマイマスターに褒めて貰いたいですからね」

 

ーーードサッ!

 

 フリートからの報告にルインは持ち上げていたシグナムを地面に落としながら、その周りに転移魔法陣を発生させて帰還の準備を行い出す。

 しかし、その前に倒れ伏していたリインフォースが膝を着きながらも起き上がり、ルインの背に向かって声を出す。

 

「ま、待て」

 

「まだ、動けたんですか? 悪いんですけど、今日はもう帰ります。用は終わったんですからね」

 

「…お、お前は…これから…何をする気だ?」

 

「私の意志はブラックウォーグレイモン様の望むままです。序でに言っておきますけど、もう私は貴女達がどうなろうと構いません。このまま八神はやてと暮らすなら好きにするんですね」

 

「…憎んでいないのか…私達を?」

 

「……憎んでいないと思っているんですか? 半身?」

 

 ルインは其処で皮肉げに告げながら漸くリインフォースに顔を向けて、暗く憎しみに満ちた視線を向けた。

 

「私と貴女達は決して分かり合えない。八神はやてと言う光に救われた貴女達と違って、この身を受け入れてくれたのはブラックウォーグレイモン様だけです。二度と私と会わない事を願うんですね。今回は痛めつけるだけで抑えましたが…次は地獄を見せてやります。その気になれば私は守護騎士プログラムを乗っ取れる事を忘れない事ですね」

 

 そうルインは告げると共に足元に発生していた魔法陣が光り輝き、その場から転移して行った。

 リインフォースはルインが転移を終えると共に、意識が遠退きルインが残して行った暴走体の残骸の上に倒れ伏したのだった。


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