漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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竜人の計略

 管制室から届いた報告に管理局本局中が騒然となった。

 僅か数キロの地点に突如として転移して来た幾多もの世界を滅ぼした『闇の書の暴走体』。しかも、その進路は管理局本局に向いている。本局の外に在った艦艇は即座に『闇の書の暴走体』に攻撃しようとしたが、攻撃する前に『闇の書の暴走体』が操る巨大な先が鋭く尖った触手に艦艇の駆動炉を貫かれて機能停止に追い込まれていた。

 更に言えば今日はリンディ・ハラオウンの葬儀式が本局内部で行なわれていたので、其方の警備に重点が置かれていた。そのせいで外の警備は通常時よりも数が減ってしまっていたので、『闇の書の暴走体』に対しての防衛策もすぐには執り行なえなかった。

 

「護衛艦! 更に沈黙!! 駄目です!? 暴走体の進行が止まりません!!!」

 

「魔導師達の砲撃も効いていません!? 暴走体には過去のデータに記録されていた四層の障壁だけではなく、ディストーションシールドが覆われています!! 此方からの攻撃は全て無効化されています!!」

 

「クッ!! 常駐している魔導師全てを最終ラインに配置出来る時間を稼げ!! 暴走の兆候は!?」

 

「徐々にエネルギーが高まっています!! このままだと…臨界点に達する恐れが」

 

 その報告に管制室に居た全ての者が恐怖に震え上がった。

 過去にも『闇の書の暴走体』と管理局は戦った事が何度も在るが、その時には管理局の保有する空間兵器『アルカンシェル』を用いて倒して来た。だが、今回は『アルカンシェル』の使用など絶対に出来ない。

 絶大な威力を持つ『アルカンシェル』は使用すれば空間を歪曲させ、対象の反応そのものを消滅させてしまう威力を持つ。しかし、半径百数十キロに渡っての範囲を消滅させてしまうと言う途轍もない問題点が存在している。大気圏内で使用すれば地殻にも多大な影響を及ぼし、地形が変わるほどの大災害を呼び起こす危険性が存在している。現在の状況で使用したら最後、『闇の書の暴走体』と共に管理局本局はこの世から完全に消滅してしまう。本局に居る全ての管理局員と共に。

 しかし、『アルカンシェル』を使用しないにしても、このままでは遠からず『闇の書の暴走体』は臨界点を超えて世界を幾つも滅ぼした力を発揮するには明らか。打開策を打とうにも、『闇の書の暴走体』が本局を襲撃するなど局員の誰も夢にも思ってなかった。何も打つ手が思い浮かばず、現在の状況に多数の局員達の心は恐怖に支配され始めたのだった。

 

 

 

 

 

 レティ・ロウランが提督を務めている巡航艦のブリッジ内部。

 状況を知らされたレティは今日行われていたリンディ・ハラオウンの葬儀式から急いで自身が艦長を務めている艦艇に戻り、部下達に情報の収集を命じていた。その中には同じように葬儀式に参加していたなのは達だけではなく、本局で聴取を受けていたはやて、リインフォース、そして守護騎士達の姿も在った。

 全員が空間ディスプレイに映っている、本局へと進行している『闇の書の暴走体』の姿に言葉を失い、クロノが近くの壁に拳を叩き付ける。

 

ーーードン!!

 

「クッ!! …迂闊だった…確かに母さんはあの生物を倒した…だけど、あの生物が従えた『闇の書の闇』は現場には居なかった…主を失った事で再び暴走したんだろう」

 

「……恐らくそれで間違いありません」

 

 リインフォースの言葉にこの場にいた全員の視線がリインフォースに集まる。

 『闇の書』関連に関しては彼女以上に知っている者はこの場にはいない。もしかしたら現状を打開する方法も知っているかもしれないと全員が僅かに期待を込めた視線で見つめていると、リインフォースは語りだす。

 

「ブラックウォーグレイモンが死んだことによって彼女は再び主を失った状態に戻りました。その為に安定していた力が保てなくなり、再び暴走したと考えて間違いありません。奴が死んでから今日まで暴走しなかったのは、私の修復プログラムを作り上げた研究者が抑えていたのかもしれません」

 

「だが、奴は此処に来た……その研究者でも抑えきれなくなったと言うことか?」

 

「恐らくはそうだ、将…自らの漸く見つけた主を奪った管理局に復讐する為に半身は来たと考えて間違いない」

 

「それで…アレを止める手は在るのか? 『アルカンシェル』が使用出来ない状況だ…何か打開策を提案して欲しいんだが?」

 

 そのクロノの言葉にリインフォースは考え込むように目を閉じ、全員がリインフォースの考えが纏まるのを待つ。

 『闇の書の暴走体』を止める手段は現在の状況では管理局にはない。管理局が保有しているSランクオーバーの魔導師の多くは難しい任務に出ている。それだけではなく、警備の重点が本局内に置かれていた為に防衛網を築く時間も無い。もはや『闇の書』について最も詳しいリインフォースをあてにするしか管理局が出来る事は無かった。

 やがて考えが纏まったのか、リインフォースは自身が思いついた打開策を語り出す。

 

「一つだけ方法が在ります…湖の騎士が回収してくれた私の修復プログラム…アレを防御プログラムの中心に与えれば、恐らくは防御プログラムは一時的に機能不全に陥るでしょう。あのデータは私を修復する事だけに特化していましたが、私と半身のデータは似通っています。半身を修復する事は出来なくても、一時的に止めることは出来ます。その一時の間に半身を無人の世界に転移させれば、管理局が態勢を整える時間は稼げます」

 

「待って! リインフォース!? 修復プログラムは貴女に使用した後に消滅したじゃないの!?」

 

 リインフォースの発言にシャマルが疑問に満ち溢れた声で質問した。

 そう、ブラックウォーグレイモンからシャマルが『旅の鏡』を使用して手に入れた修復プログラムが記録されていたディスクはリインフォースに使用すると共に消滅していた。

 使用する前にコピーは取れないのかと管理局の技術部は試行錯誤を繰り返したが、結局コピーは愚か解析も全く出来なかった。本当に修復プログラムなのかと誰もが疑問に思ったが、ディスクをリインフォースに近づけた瞬間にディスクが勝手に起動してリインフォースのシステムは完全修復された。

 その後にはディスクは完全に消滅し、管理局の下にはディスクは残らなかった。

 存在しないモノを何故当てにしているのかと全員が首をかしげていると、ゆっくりとリインフォースは右手を自身の胸元に当てる。

 

「奴と私は元々一つだった…覚醒して意識がハッキリしている奴は無理だが…暴走している奴なら…一つに戻れる」

 

『ッ!!!』

 

「修復プログラムによって修復された私が奴と再び一つになった時に拒絶反応が起こる。その反応で奴は自らを保つ事ができなくなり、同時に動きは停止する……その時に攻撃を加えれば奴を転送させる事が出来るでしょう。それが現在『暴走体』へと戻った奴を倒せる術です」

 

「…リインフォース…そ、それって…もしもそないな方法を使ったらリインフォースは」

 

「……結局これが私の運命だったのかもしれません…この方法しか現状を打開する術が無いのです。主はやて」

 

 リインフォースが告げた現状の打開策になのは達は言葉が出せなかった。

 唯一の打開策を使用すれば、リインフォースは間違いなく消滅する。しかし、現状ではリインフォースが告げた方法以外に『闇の書の暴走体』を倒す術は存在していない。

 

「…レティ・ロウラン提督…私と奴が接触出来る機会を作って下さい。接触さえ出来れば奴を倒せます」

 

「…分かりました…すぐに今の案を司令部に伝えます。恐らくは了承を貰えるでしょう」

 

 レティはそう言いながらすぐさま打開策を探している司令部に通信を取る。

 元々犯罪者として追われていたリインフォース達。管理局からすれば高ランク魔導師と言う事で戦力に加えたかっただろうが、現状ではリインフォース一人だけを犠牲にして本局が護れるならば平然と今出された案は承諾される。

 それが組織と言うモノなのだから。案の定レティが告げたリインフォースの案は即座に承諾されて、リインフォースを『闇の書の暴走体』の下へと運ぶように指示が届いた。

 

「これより本艦は進行中の『闇の書の暴走体』へと向かいます! 各員すぐに準備を!!」

 

『了解!!』

 

 艦長であるレティの指示にオペレータ達は慌しく動き出し、艦艇は『闇の書の暴走体』の下へと向かい出す。

 その間にリインフォース達は到着してから行なう行動について話し合っていた。

 

「『闇の書の暴走体』を覆っている障壁は我らが破壊する。人間であるテスタロッサ達と違って、我ら守護騎士達は次元空間でも活動が行なえるからな」

 

「専用の装備が在れば次元空間でも活動出来るが…あいにくと僕を含めてなのは、フェイト、アルフ、ユーノの装備は無い…残念な事だが…彼女達に任せるしかない」

 

 クロノの発言になのは、フェイト、アルフ、ユーノは顔を下に俯ける。

 状況が状況とは言え、大切な戦いに参加出来ない己の無力さに悲しんでいるのだ。

 そしてはやても己の家族が帰って来れないかもしれない戦いに向かうことに悲しみの涙を目元に浮かべる。シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラはそんなはやての悲しみを少しでも晴らそうと声を掛け、リインフォースもはやてに話しかける。

 

「主はやて…守護騎士達は必ず主はやての下に戻ります」

 

「…で、でも…リインフォースは」

 

「これは…私が決着を付けないといけない事なのです…それが彼女の半身だった私の責務なのかもしれません」

 

 本当の事を言えばリインフォースも自身が修復された時に、はやて達と共に歩める未来に想いを馳せた。

 だが、そんな未来は許さないと言うように自身の半身である『闇の書の暴走体』が出現し、その猛威を振るおうと進行して来ている。

 

(止めなければいけない…主達の未来を護る為に)

 

「目標まで後一キロの距離までに到着しました!!!」

 

「行くか?」

 

「あぁ…行こう、騎士達」

 

「へっ! ちょっと暴れて来るぜ、はやて」

 

「私達が向き合わないといけない存在」

 

「行かねばなるまい…これ以上『闇の書』の悲劇を起こさない為に」

 

 シグナム、リインフォース、ヴィータ、シャマル、ザフィーラはそれぞれ決意に満ちた顔をしながらブリッジから出て行く。その後姿をなのは達は祈るような気持ちで不安そうにしながら見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 本局へと真っ直ぐに進行していた『闇の書の暴走体』は、自身の道を阻むモノだけを優先して攻撃し、その足は一切止まる事が無かった。

 艦艇が放つ砲撃は『暴走体』を覆うように展開されているディストーションシールドによって阻まれ、いかなる攻撃もその身にダメージを与える事は出来なかった。幸いにも今のところは死傷者は出ていないが、負傷者は多数出ており、本局に辿り着けばこの場に居る全ての者が消え去るのは明らかだった。

 だが、突如として『闇の書の暴走体』の足は止まり、一隻の艦艇に視線を向けると、大声量の咆哮を艦艇に向かって放つ。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!』

 

「…アイツ…あたしらが居る事を分かってんのか?」

 

「恐らくはそうだろう…奴と我々は元々『夜天の魔導書』に組み込まれていたモノだ…例え別れても我らの存在を感知出来ていない筈が在るまい」

 

「暴走して…もう理性も無いのに…私達に対する怒りは忘れていないと言う事ね」

 

 艦艇の穂先にそれぞれの騎士甲冑を纏いながらヴィータ、シャマル、ザフィーラは、自分達に向かって怒りに満ちた視線を向けている『闇の書の暴走体』の姿に苦い表情を浮かべる。

 地球で一度見た人型の面影は頭部分に在る女性のシルエット以外に『闇の書の暴走体』は持っていない。他の部分は多種多様な生物が寄り合わさったような異形の形態。

 その姿に戻ってしまった事実にシャマル達は悲しさを僅かに覚え、鞘からレヴァンテインを引き抜いたシグナムがリインフォースに質問する。

 

「奴の障壁を破れば良いのだな?」

 

「あぁ…接触さえ出来れば後は私が行なう」

 

「分かった。皆、行くぞ!」

 

 シグナムの呼びかけにシャマル、ヴィータ、ザフィーラは即座に頷き、『闇の書の暴走体』に向かって飛び出す。

 

「先ずはあたしから行くぜ!! シャマル!! ザフィーラ!!」

 

「えぇっ!!!」

 

「応ッ!!」

 

 ヴィータの呼びかけにシャマルとザフィーラは返事を返し、シャマルは両手の指から伸びるペンダルフォルムに変形している『クラールヴィント』を構えて詠唱する。

 

「我らが鉄槌の騎士に力を!!!」

 

ーーーポワン!!

 

「おし!!! アイゼン!!!」

 

Gigantform(ギガントフォルム)ッ!!!≫

 

 その身がシャマルの緑色の魔力光に覆われると共に、ヴィータは自身のデバイスである『グラーフアイゼン』のハンマーヘッドを巨大な角柱状のものに変形させた。

 そのまま更に『グラーフアイゼン』を巨大化させて、『闇の書の暴走体』に向かって構える。

 

「轟天爆砕!!!」

 

『■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!』

 

 ヴィータの攻撃に気がついた『闇の書の暴走体』は咆哮を上げると共に、自身の周りに張り巡らしていたディストーションシールドを解除して体から生える触手をヴィータに向かって伸ばす。

 しかし、触手がヴィータへと届く前にベルカ式の魔法陣を発生させていたザフィーラが叫ぶ。

 

「させんぞ!! 縛れ! 鋼の楔ッ!!!」

 

ーーーブザァァァァン!!

 

『■■■ッ!?』

 

 ザフィーラが叫ぶと共に魔法陣から白い柱が伸びて触手を全て切り裂いた。

 その隙をヴィータは逃さずに、ギガントフォルムに変形していた『グラーフアイゼン』を『闇の書の暴走体』に向かって振り下ろす。

 

「ギガントシュラーーーク!!!!」

 

ーーーバキィィィィーーン!!

 

 ヴィータのギガントシュラークによって『闇の書の暴走体』を覆っていた四層の魔力障壁の内、一つが甲高い音と共に破壊された。

 自身を護る壁を一つ失った『闇の書の暴走体』は即座に反撃しようと、巨大な獣のような口から砲撃を放とうとするが、その前にディストーションシールドが解除されたのを好機と読んだ管理局の艦艇数隻が砲撃を放つ。

 

ーーードゴオオオオオォォォォォン!!!

 

ーーーバキィィィィーーン!!

 

 艦艇が放った砲撃によって更に防御障壁は破壊され、シャマルは嬉しそうに叫ぶ。

 

「効いているわ!! 私達を倒す事を優先して防御力を減らしたから、艦艇の攻撃が通る!! シグナム!!」

 

「分かっている!! レヴァンテイン!!」

 

Bogenform(ボーゲンフォルム)ッ!!≫

 

 シグナムの指示にレヴェンテインは即座に応じて、大弓の形態へと変形した。

 即座にシグナムは魔力で作られた弦を引き、レヴァンテインの刀身を利用した矢を『闇の書の暴走体』に向かって構える。

 

「お前の主はコレを受け止めたが…理性を失ったお前には止められまい!!! 駆けよ! 隼!!!」

 

Sturmfalken(シュツルムファルケン)ッ!!≫

 

ーーードシュゥゥゥゥーーン!!

 

ーーーバキィィィィーーン!!!

 

『■■■ッ!?』

 

 更に魔力障壁を一つ失った『闇の書の暴走体』は悲鳴のような咆哮を辺りに響かせた。

 そして足から無数の触手を発生させて砲撃を放とうとするが、その前に詠唱を静かに続けていたリインフォースが特大の砲撃を広範囲に撃ち出す。

 

「咎人達に、滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ。貫け! 閃光! スターライト・ブレイカーーー!!!!」

 

ーーードグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!!!』

 

ーーーバキィィィィーーン!!!

 

 リインフォースが放ったスターライトブレイカーを受けた『闇の書の暴走体』は咆哮を轟かせて抗おうとしたが、最後の障壁も甲高い音と共に砕け散った。

 それと共にリインフォースはシャマルに目を向けると、シャマルは辛そうな顔をしながらも『クラールヴィント』を構えて転送の準備を行なう。リインフォースはシグナム、ヴィータ、ザフィーラ、そして最後にはやてが乗っている艦に目を向け、そのまま傷ついた『闇の書の暴走体』へと背の翼を広げて飛び出す。

 高速で迫るリインフォースに気がついた『闇の書の暴走体』は触手を操って近づけまいとするが、シグナム、ヴィータ、ザフィーラが次々と触手を破壊して行く。

 そしてリインフォースは遂に『闇の書の暴走体』の頭頂部に生えていた女性のシルエットを模ったモノの前に辿り着く。

 

「…再び一つに戻ろう、半身…もう『闇の書』は終わるのだ。共に逝こう」

 

(死にたければ一人で死になさいよ、生真面目)

 

ーーードスゥゥゥゥーーン!!

 

「なっ!?」

 

 リインフォースが『闇の書の暴走体』に触れようとした瞬間、突如として届いた念話と共にリインフォースの腹部を頭頂部に生えていた女性のシルエットの腹部から生えた腕が貫いた。

 自身を貫く腕の正体にまさかとリインフォースが思った瞬間、『闇の書の暴走体』全体に罅が走る。

 

ーーービキビキビキビキビキッ!!!

 

「ま、まさか!?」

 

ーーーバキィィィーーン!!

 

「こんにちは、半身さん」

 

 リインフォースの疑問の声に応じるように、女性のシルエットが砕け、その内側からリインフォースと同じ容姿で白と蒼の色合いのロングコートを羽織った『ルインフォース』が邪悪な笑みを浮かべながら姿を現した。

 『闇の書の暴走体』の内部から現れたルインに、腹部を貫かれているリインフォースだけではなくシグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ、そして艦艇からずっと様子を見ていたなのは達も驚愕に言葉を失う。

 

「な、何故…お前が理性を保てている? …あ、主を失ったお前は暴走する筈だ?」

 

「鈍いですよ、私が理性を保てている理由なんて簡単じゃないですか? そして何故私が態々暴走した振りをしていたのか、少し考えれば分かりますよね?」

 

 そのルインの発言に誰もが脳裏に一つの最悪の可能性が浮かび上がった。

 

 それが正しいと言うようにルインの出現に驚愕に固まっていたレティに、部下から緊急の報告が告げられる。

 

「艦長!? 本局司令部から緊急入電です!? 本局内部に侵入者が入り込み、次々と残っていた魔導師達を戦闘不能にしながら、真っ直ぐに本局の奥へと向かっているそうです!?」

 

「な、何ですって!? まさか、生きていたと言うの…リンディがその身を犠牲にしたと言うに」

 

 部下からの報告にレティは苦虫を噛み潰したような声を出した。

 この状況での本局の襲撃者。それは一人しか彼らには考えられなかった。ルインフォースと言う『闇の書の闇』を従え、尚且つ管理局本局への襲撃など行える存在。

 話を聞いていたクロノ、なのは、フェイト、はやて、アルフ、ユーノも信じられないと言う思いを抱いていると、本局から襲撃者の映像が届いて来る。

 映し出されるのは襲撃者を倒そうと戦っている本局に残っていた魔導師達。その魔導師達を次々と戦闘不能に追い込み、真っ直ぐに本局の奥へと進んで行く漆黒の体に、金色の髪に鈍く光る銀色の頭部に胸当てをし、両腕の肘まで覆う手甲の先に、三本の鍵爪の様な刃を装備した漆黒の竜人。

 その絶対に忘れないと言える者の姿に、クロノは怒りに満ちた声で竜人の名を叫ぶ。

 

「ブラック…ブラックウォーグレイモン!!!!」

 

 クロノの叫びに艦艇内に居た誰もが、ブラックウォーグレイモンが生きていた事実を認識したのだった。

 

 

 

 

 

 ブラックウォーグレイモンが本局へと侵入した経路とは別の経路。

 多くの局員が迫っていた『闇の書の暴走体』に対する対処に覆われ、人の気配が全く感じられなくなった通路を、黒いローブで全身を覆い隠した九歳ぐらいの子供と思われるモノが歩いていた。

 その子供は潜入した経路から真っ直ぐに前へと歩いていたが、その足は突如として止まり、ゆっくりと右側の壁を見つめる。

 

(…タタカッテル…カンリキョクト……タタカッテル…イカナケレバナラナイ……ワタシヲ…コロシタ…モノヲ…シルタメニ)

 

 ゆっくりと子供は戦いの気配が感じられる方へと進み出す。

 その子供とクロノ達が邂逅するまでもう少しだった。


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