リンディ・ハラオウンの死亡。
十年前の『闇の書』事件での英雄-クライド・ハラオウンの妻であると共に管理局でも数少ないSランクの魔導師だった上に、半年前に起きた『PT事件』を解決へと導いた人物の死は管理局内に波紋を生み出した。
どういった経緯でそのような事態になったのかと管理局の殆どの者が疑問に思い、すぐさま失意にくれながらも帰還したアースラの乗組員達全員に対して事情聴取がされた。
そして詳しい経緯を乗員達に聞き、最終的に集った情報を集約して判断されたのは、『アースラに乗り込んで来た竜人に対してリンディは乗員達が退艦する時間を稼ぐ為に単身で挑み、駆動炉がオーバーヒートを起こすほどの魔力を使用した果てにアースラと共に運命を共にした』と言う事だった。
艦艇の駆動炉がオーバーヒートするほどの魔力を使用して、漸く相打ちに追い込む事が出来た存在であるブラックウォーグレイモンに対して管理局の誰もが信じられないと言う気持ちを抱いたが、ブラックウォーグレイモンが脱出する時間がなかったとされ、ブラックウォーグレイモンもアースラと共に消滅したのだろうと管理局は判断していた。
リンディの功績を考えれば今回の件は犠牲が大きいと管理局の者達の殆どは考え、リンディと親しかった者達は誰もがリンディの死を嘆いていた。
特にアースラの乗員だった局員達はリンディが死んだ事実に嘆き悲しみ、誰もが失意にくれながら悲しんでいた。
「……リンディさん」
「…なのは」
本局の医局でブラックウォーグレイモンの攻撃により重症を負ったなのはは、ベットの上で包帯まみれになりながらも、悲しみの涙を流していた。
出会ったのは半年前だが、それでもなのはにとってリンディは色々としてくれた恩人だった。その恩人が死んだ事に、なのはは此処数日ずっと悲しんでいたのだ。
そんな、なのはの横で椅子に座っている、体中に包帯が巻かれているフェイトもリンディの死を悲しんでいた。
実はフェイトは、リンディから養子に成らないかと言う誘いが来ていたのだ。
その事を答える前にリンディが死んでしまった為に、答えるのはもはや不可能に成ってしまったが、それでもフェイトには二人目の母親を失ってしまった様な悲しみが襲い続けていた。
だが、一番悲しんでいるのは、なのはやフェイト、そしてアースラの乗員達ではない。一番に悲しんでいるのはリンディの息子であるクロノ・ハラオウンだった。
「う、う、母さん」
「クロノ君」
「クロ助」
「クロノ」
事情を全て聞いてベットの上で悲しみの涙を流し続けるクロノの横で、エイミィ、リーゼアリア、リーゼロッテ、そして今回の闇の書事件で退職したギル・グレアムがクロノの事を心配そうに見つめていた。
本来ならグレアムは故郷のイギリスに戻るつもりだったが、リンディの死を知り、援助しているはやてと同じ様にクロノも自身が援助を行うと願い出たのだ。少しでもクロノの悲しみを癒す為に。
管理局内でリンディと親しかった者は少なからず誰もが悲しんでいた。そして誰もが今回の事件は終わったのだと思い込んでいたのだった。
管理局本局の奥深くに存在する一室。
一般の局員には存在さえも知られていない部屋。その部屋の中には三つの人の脳髄が入っているシリンダーが置かれ、青白い不気味な光で部屋は覆われていた。シリンダーの中に在る三つの脳髄こそ、管理局の最高機関である最高評議会を束ねる面々。管理局の創設の頃から肉体を失いながらも機械を使用してその命を永らえさせている者達。
彼らの目的は『管理局による次元世界の統一』。その目的を阻む可能性が在るモノは、どんな手段を使用しても排除すると言う考えを持っていた。
『リンディ・ハラオウン一人と巡航艦一隻だけで犠牲が済んだのは僥倖だった。乗員全員の犠牲を覚悟していたからな』
『うむ。究極体を倒すのには安い犠牲だった』
『リンディ・ハラオウンは高ランク魔導師だったから惜しい面は在ったが…彼女が見つけた面々を考えれば彼女を犠牲にしても問題はあるまい』
ーーーブン!!
一つのシリンダーが呟くと共に、彼らの目の前にディスプレイが出現する。
そのディスプレイには高町なのは、フェイト・テスタロッサ、そして今回の『闇の書』の事件の当事者である八神はやて、リインフォース、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラのデータが表示されていた。
『『闇の書』の件に関しては予想外だった。管制人格も我らの駒に加わったのだからな』
『しかし、あの究極体に協力していると言う研究者は何者なのだ?我ら管理局の技術力でも不可能だった管制人格の修復プログラムを僅か二日で作り上げたのは信じ難い』
『人間とは限るまい。“奴”の情報ではあの生物どもはデータ生命体だと言う。管制人格や守護騎士どもも、データを元にした魔導生命体だ』
『“あの世界”に居る修復に秀でたモノに協力を依頼した可能性も在るか…やはり、“あの世界”は我らの目的にとって邪魔な世界…何としても管理下に…何としても管理下に・・・それが出来なければ』
『滅ぼす事も視野に入れねばなるまい』
『全ては『管理局による次元世界の統一』の為に』
そうシリンダー内の脳髄達は話し合い、今回の事件を利用して管理局の評判を上げる計略についての話に議題を変えるのだった。
彼らは知らなかった。消滅させたと思っている存在が生存し、自分達に対して牙を突き刺そうとして居る事を、彼らは夢にも思ってなかったのだった。
その頃、管理局に死んだと思われているブラックウォーグレイモンは、アルハザードでルインの手により傷ついた体の治療を受けていた。
「むう~」
「何故その様な表情を浮かべる?」
ブラックウォーグレイモンに回復魔法を掛け続けているルインは不機嫌そうな表情を浮かべ、その事をブラックウォーグレイモンが質問すると、ルインは怒り出す。
「何を言っているんですか、マイマスター!? どうして時間が殆どなかったのに、態々あの艦の駆動炉に向かったんです!? 駆動炉を止めなければ脱出出来ないのならともかく!! マイマスターは駆動炉を止めなくても脱出できたじゃないですか!?」
「俺を嵌めてくれた奴の思惑を知りたかったからだ。駆動炉に向かったおかげで、少なくともあの件は管理局の上層部辺りが仕組んだ事が分かった…今回の礼は必ず返してやる」
ルインの叫びにブラックウォーグレイモンは何でも無いと言いたげに答えるが、ルインは突如として涙を浮かべてブラックウォーグレイモンに抱き付く。
「…だからって…無茶は止めて下さい…マイマスターに何か在ったら、私はまた一人に成りますし、マイマスターが死ぬなんて、絶対に嫌ですよ。ヒック、ヒック」
「……分かった。お前の言うとおり出来るだけ無茶は止めてやる。だから泣くな」
「はい!!」
涙を流すルインに根負けしたブラックウォーグレイモンは、不機嫌そうな表情を浮かべて了承する。
ブラックの言葉を聞いたルインが笑みを浮かべて涙を拭いて答えた瞬間に、フリートが通路の奥から姿を現し、ルインとブラックウォーグレイモンの様子を見て笑みを浮かべる。
「仲が良いですね。正しくパートナーと言う感じですよ」
「黙れ。それで俺が持ち帰ったデータから何か分かったか?」
アースラが爆発する前に、ブラックウォーグレイモンはアースラ内部からフリートの指示に従って艦に登録されていたデータを持ち出した。
目的は言うまでもなく最悪の形で戦いの邪魔をしてくれた者達に報復を与える事であり、その為に情報をアースラから抜き取り、後は死んだと思わせるようにする為に脱出する前に駆動炉に掛けた『エターナルコフィン』を解いてアースラを爆発させたのである。
そしてフリートはブラックが持ち込んだデータを今の今まで解析していたのだ。
「どうやら直前にデータを書き換えられたようですね。あの女性よりも上位者の権限で、あの女性が駆動炉から魔力を受け取る魔法を発動後に駆動炉が暴走するように設定されていました。因みに暴走後には貴方が行なった力技以外には止める手段は無いようにプログラムされていましたよ」
「やはりか」
「状況から考えれば、暴走の目的はあの女の抹殺か、それともマイマスターの抹殺のどちらかでしょうが…前者と後者にしてもマイマスターがあの女と戦う事を予定していなければ無理な行動ですよね?」
「その通りだ…だが、俺が此方の世界で暴れたのは地球での出来事の時だけだ…(確か、俺の知識では最初に連中に姿を見せた時は、管理局内のグレアムだったか? ソイツが何かをして映像は無い筈だ………地球での出来事だけで此処までの計略を行なえるか? …分からん…もしや管理局には俺が知らない何かが在るのかもしれん……調べる事が増えたな)」
ブラックウォーグレイモンはそう判断すると、ゆっくりとフリートの方に視線を向けて質問する。
「フリート? 貴様の技術力なら管理局本局に探索用の機械を送る事は簡単だろう? 恐らくは、今回の件を管理局は自分達の評判を上げる為に利用するだろう。それを命じた奴を探れ」
「まぁ、それが良いですね。いきなり強襲をかけたら、探れるものも探れませんからね」
「そうだ…頼むぞ」
「質問です!!!」
『ん?』
突然のルインの発言にブラックとフリートは揃ってルインに顔を向ける。
自身に二人の視線が向いた事を確認したルインは、ゆっくりとフリートに視線を向けて質問する。
「気になっていたんですけど…どうして貴女はマイマスターに協力するんですか?」
「ん~…そうですね。彼の行動は面白いですし、興味深い部分も在ります。何よりも私の探しモノを見つけるのには、彼のように自由奔放に動いている者が良いんですよ」
「探しモノ? それは何ですか?」
「…まぁ、此処まで関わったら話しますが…実は私、外の世界に残っているかもしれない『アルハザード』の技術を回収したいんですよ。ですが、私の本体はこの世界の中心に在るので身動きが取れませんし、このボディも虚数空間を越えて外の世界には出られないんです」
「ほう…初耳だな…だが、何故俺が来るまで外の世界に干渉しなかった?」
「外の世界に干渉して『アルハザード』が実在していると知られたら不味いかと思って、ずっとこの世界で研究を続けていたんです。ですが、約半年ぐらい前に此処にも及ぶほどの次元震が発生しまして、この世界に“カプセルに入った金髪の少女の遺体と、それに寄り添うように死んでいた黒髪の女性”が地表に落ちて来ました」
「金髪に黒髪? …(何だ? そんな容姿の奴らに覚えが在るような気がするが?)」
「それで、その二人が如何したんです?両方とも死んでいたのでしょう?」
「はい、死んでいて虚数空間を越えた影響で手の施しようも在りませんでした。しょうがないので髪の毛などは少し貰いましたが、遺体は丁重に埋葬しました。ですけど、黒髪の女性が保持していたデバイス内に『アルハザード』の技術に関する事が記録されていたのです。どうにもその技術が悪用されていると分かったので、私は外の世界に残されている『アルハザード』の技術を回収したいんですよ。私達の世界の技術が悪用されて、此処の存在が明らかになったら大変な事態になりますからね」
「なるほど…確かに少しの期間しか居なかった俺から見ても、此処の技術力は外の世界を遥かに超えているのは確かだ」
数週間近くの付き合いでは在るが、ブラックウォーグレイモンはフリートと『アルハザード』の技術力を高く評価していた。
本物のデジモンが持つデータ吸収能力を道具を用いてでは在るが、ダークタワーデジモンであるブラックウォーグレイモンが使用出来るようにしたり、魔法の力もデバイスを破壊すれば手に入るようになった。
技術力を考えれば先ず間違いなく現在の管理世界では『アルハザード』を超える世界は存在していない。魔法と言う次元世界に知れ渡っている技術も、最終的なその発祥地は『アルハザード』なのだから。
フリートにしてもデジモンと言う未知の種族の存在をブラックウォーグレイモンに出会ったおかげで知る事が出来た。更に言えば予想していた以上にブラックウォーグレイモンの行動は興味深く、そして面白いと心の底から感じていた。
ブラックウォーグレイモンとフリートは目の前に居る相手と敵対するよりも、手を結び合った方が自分達の利益に繋がると心の底から感じ取り、楽しげに笑みを浮かべながら手を取り合う。
ーーーガシッ!
「お前と戦うのも面白そうだが…それ以上に俺の目的を叶える為には手を組む方が良いだろう」
「私としても自由に動き回る貴方の行動を見ていれば、充実した日々を送れそうです」
ブラックウォーグレイモンとフリートは笑みを浮かべながら完全に手を組み、ルインはその様子に頬を膨らませるが、二人は全く気にせずに話を続ける。
「貴様が探している『アルハザード』の技術を保有している場所に覚えが在る。時空管理局の最高評議会という連中が所持していた筈だ」
「フ~ム……確かに各世界で文明の遺物を保管し回っている組織なら考えられますね…で、貴方が知っている技術は兵器関係ですか? それとも生命関係でしょうか?」
「確か…そうだ…生命関係だった筈だ…最もそれ以外にも保有している可能性は在るな」
「管理局と言う組織を調べるのは確かに有益ですね…分かりました。すぐに隠密機能に特化した機器を送っておきます」
「序でに襲撃を掛けるのに適した日も調べておけ。あのような横槍をしてくれた連中には、それ相応の礼をしてやらんと気がすまんからな」
「了解ですよ…出来れば、その時に研究の為に連中が保管している歴史的な遺物も欲しいですね」
「気が向いたら手に入れて来てやる」
フリートの頼みにブラックウォーグレイモンは素っ気なく答えて、別室に向かおうとする。
ルインもその後をついて行こうとするが、フッと少し気になることを思い出してフリートに顔を向ける。
「そう言えば…“アレ”はどうしたんですか? マイマスターに態々回収させた“アレ”? 私見から見ても、“アレ”を助けるのは無理でしょう」
「そうですね…殆ど使い物にならない状態でしたけど……ちょっとした実験がしたくなったんですよ。この地の技術は全て覚えてますし、それに色々と確かめたい事が在りましたので少し実験がしたくなったんですよ。分かるでしょう?」
ルインの質問にフリートは小悪魔の様な表情を浮かべて質問を返し、ルインとブラックウォーグレイモンは同時に思う。
(コイツには絶対にマッドの素質がある。“アレ”も哀れなものだ)
(フリートには絶対にマッドの素質があります。“アレ”も哀れですね)
ルインとブラックウォーグレイモンは同時にそう思うと余り関わりたくないと思い、その場から離れて行くのだった。
時は流れて数日後のフリートの研究室内部。
その研究室には様々な器具や機械が置かれていた。その機械の中に人が入り込めるようなカプセルが存在していた。僅かに響く機械音とカプセルの中を満たしている青い色合いの液体に浮かび上がる気泡から内部に誰かが居るのが判別出来る。
フリートはそのカプセルに繋がるコンソールを操作しながら、逐一反応を示す空間ディスプレイに映るモニターを眺めていた。
「ウ~ム…生命反応増加を確認。確実に目覚めの兆候は起きていますね……しかし、私が考えていたよりも融合率が…いえ、この増加レベルを考えればもはや侵食率と言う方が正しいですね。ブラックウォーグレイモンから聞いた情報では、自分が三種の属性として分類されるのはウィルス種らしいですから、それの影響が出ているのかもしれません…ですが、これだと私の予測を超える事が起きる可能性が…」
ーーービィビィビィビィッ!!
「なっ!?」
突然に鳴り響いた警告音にフリートは驚き、慌ててカプセルの方を見てみると、僅かしか上がっていなかった気泡が凄まじい勢いで上がっているのに気が付く。
それと共にカプセル内に居るモノが激しく暴れ出し、カプセルの蓋を何度も強く叩く。
ーーードガッ!!ドン!!ドン!!
「まだ意識が覚醒していないのに暴れるってどう言う事ですか!? …って!? 浸食率が九十パーセントをオーバーしています!? まず…」
ーーーバキィィィーーン!!
「ッ!?」
いきなり起きた異変にフリートが慌てていると、突如としてカプセルの蓋が内側から飛び出て来た異形の腕によって破壊された。
それと共にカプセル内に入っていた液体が外へと流れだし、呆然としているフリートの耳にカプセルの中から擦れた低い声が届く。
「……ク…イ…ウ…ラ…ギ……コ…ワ…ス…スベ…テヲ…」
「も、もしかして…彼の因子に宿っていた負の感情と■■は同調して融合率が浸食率に変化したのでは?」
カプセル内部から聞こえてきた負の感情に満ち溢れている擦れたような声に、フリートは不味いと心の底から思った。
声の主は最終的に言えば自身が信じていたモノに殺された経緯を持っている。死の直前には部下や仲間を護ると言う感情を優先していたが、怒りや憎しみと言う感情を抱いても可笑しくはない状況だった。心の奥底に宿っていた負の感情が、悪しき意思の欠片があったブラックウォーグレイモンの力強い因子と反応し合い、カプセルの内部に居るモノはフリートの予測を超える早さで目覚めてしまった。
ゆっくりとカプセル内に居たモノは這い出るように割れた部分から外へと出て、憎しみと言う感情に満ち溢れた視線で辺りを見回す。それと共に異形と成っていた腕が突然に発生した黒いコードのようなモノに覆われ、九歳ぐらいの子供の腕へと変化する。
ーーーギュルルルルルッ!!!!
「ムゥッ!! 今のは『デジコード』!? と言う事は実験は成功したんですね!!! やりましたよ!!!」
「……キャノン」
ーーードグオオォォォォォン!!!
「ヘッ? ギョエェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
不意をつかれる形で放たれた砲撃を避けることが出来ず、フリートは砲撃に飲み込まれてそのまま壁へと激突した。
ゆっくりと砲撃を放ったモノは部屋の中を見回し、何かを探すように視線を彷徨わせながら研究室の出口へと歩いて行く。
(…カンリ…キョク……ウラギリ…コロサレタ…“ワタシヲ”…コロシタ)
負の感情に支配されながら、ソレはゆっくりとまるで“知っている”かのように真っ直ぐ転送機器が在る部屋と向かって歩いて行く。
研究室の中に残されたフリートは瓦礫の中から這い出ながら、転送室の方へと向かったモノに関して考える。
「ま、不味いです!!! 完全に暴走してます!! 本当は自意識が完全に覚醒してから外に出す筈だったのに、ブラックウォーグレイモンの因子の影響で負の感情に支配されてます!? しかも、あの様子だと記憶の方も問題が在るみたいですし……と、とんでもない事に成るかも知れません!? 管理局の本局に向かったんでしょうから、す、すぐに連絡を取らないと!?」
瓦礫から這い出ると共にフリートは、管理局本局を襲撃しようとしているブラックウォーグレイモンとルインに急いで連絡を行なうのだった。
管理局本局内に存在するとある会場施設。
その施設では有数の魔導師であり、『PT事件』、『闇の書事件』、そして世界に悪影響を与える存在を自らを犠牲にして倒したリンディ・ハラオウンの功績を称える式が行なわれていた。
重要な役職にある高官達だけではなく、アースラの乗員達にリンディと親しかった局員達も多く参加していた。その中には怪我が在る程度癒えたなのは達の姿も在り、誰もがリンディの死を悲しんでいた。
記者達なども会場内には存在し、今回の一件は多数の管理世界にも報道されていた。
壇上に居る最高評議会の代理人の人物はリンディの功績を称えるように演説を行い、会場にいる誰もがリンディ・ハラオウンは死んだのだと実感する。
ある程度回復していたクロノも両手でリンディが写っている写真を手に持ちながら座って、演説を聴いていた。その隣にはグレアムの姿も存在し、クロノの父で在り、リンディの夫だったクライド・ハラオウンの時の事を思い出し悲しげに顔を歪めていた。
大規模なリンディの葬儀を兼ねた式典。規模の大きさから本局の警備もそれに合わせた配置になっていた。最も警備と言ってもソレは内部の警備であり、外部からの襲撃に対する警備では無かった。
長い間、管理局にとっての中心と呼ぶべき本局に襲撃を行なった者は、犯罪組織を加えたとしても存在していない。本局に襲撃をかける者は愚か者でしかないと誰もが思っていた。故に無意識の内に本局に居る時の管理局員は危機意識の緩みが在った。
その隙を襲撃者達は見逃さなかった。
本局内に存在する管制室。
その場所には本局に入って来る艦艇などの手続きが行なわれ、本局の探知システムも備わっていた。
「そういや、今日だったけ? リンディ・ハラオウン提督の葬儀式は?」
「あぁ…最高評議会が直々に行なうように命じたらしい。普段は表に出てこないが、あの方々も今回の件は堪えたんだろうぜ。あの人は美人だったし、管理局の仕事に真剣に取り組んで半年前も重大な事件を解決した人だからな」
「それに加えてオーバーSランクの魔導師。俺も仕事が終わったら会場を見に行くとするか」
「そりゃ、いいかもな」
ーーービィビィビィビィッ!!
『ッ!!』
突然に鳴り響いた警報音に管制室に居た局員達は顔を見合わせて、慌てて探知システムが警報を告げているモノを調べ出す。
「ッ!? 本局から数キロ離れた地点に大型の転移反応を確認!!!」
「何だこりゃ!? 転移地点から出ているエネルギー値が異常だぞ!?」
「過去のデータに類似したモノが無いか調べます!!」
次々と探知機器が示す情報に管制室に居た局員達は俄かに慌て出し、その正体を探ろうとする。
巨大な映像画面には転移反応を示す場所が映し出され、ゆっくりとソレは転移地点から姿を現した。
幾多の伝説の生物が無秩序に融合したと思わせる体を持ち、小さな島と同程度の大きさのその身の頭頂部には女性のシルエットを思わせるモノが存在している醜い異形。ソレは膨大な魔力を全身から発し、本局に進路を向けていた。
映し出された異形の姿に管制室に居た誰もが言葉を失って呆然と画面に映っている異形を見つめていると、データを照合していた女性局員が震えながら、信じたくないと言うように呟く。
「…照合結果…過去のデータと合致……反応の正体は…や、やみ……『闇の書の暴走体』です!!!!」
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!!』
女性局員の悲鳴のような叫びと共に映像に映っていた『闇の書の暴走体』は大声量の咆哮を轟かせ、その進路を管理局本局へと向けて進行するのだった。