漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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今回は前作と大きく流れが違います。

辻褄が寄り合う形に変えました。


悪しき計略

 地球から転移したブラックウォーグレイモンとルインフォースは、再びアルハザードへと訪れていた。

 アルハザードへと戻って来たブラックウォーグレイモンは研究所の通路を歩き、フリートを探し始めるが、見た事も無い場所にルインフォース-以後『ルイン』は、不安そうにしながらブラックウォーグレイモンに質問する。

 

「あの、マイマスター、此処は何処ですか?」

 

「此処はアルハザードだ」

 

「ッ!! アルハザード!? まさか!? 此処は『伝説の地・アルハザード』なのですか!?」

 

 ブラックウォーグレイモンの告げた世界の名に、ルインは驚きの声を上げた。

 『アルハザード』と言えば、次元世界で魔法に関わる者ならば知らない者が少ないと言えるほどの世界の名称。だが、全ての魔法発祥の地として次元世界に名が知れ渡りながらもアルハザードに辿り着いた者は居らず、本当に在るのかさえも疑われている世界なのだ。

 その伝説の世界に居る事実にルインが驚いている間に白衣を着たフリートが通路の奥から歩いて来て、ブラックウォーグレイモンとルインの姿を確認すると、二人に笑みを向ける。

 

「中々面白い事態に成っているようですね。やはり貴方に観察用の機器を渡したのは正解でしたよ」

 

「そうか、それは良かったな。それよりも頼んでいた物に必要な物を持って来たぞ」

 

 フリートの言葉にブラックウォーグレイモンは答えながら、クロノから奪ったカードを取り出しフリートの手へと渡す。

 カードを受け取ったフリートは笑みを浮かべると、素早く手慣れた動作で起動させて興味深げに自身の手の中に現れた機械的な杖-『氷結の杖・デュランダル』を眺める。

 

「フムフム…なるほど……此れが現在の世界のデバイスですか?」

 

「そうだ。俺の持つ知識が正しいのならば、最新のストレージデバイスらしい」

 

「フ~ム……まぁ、此れならば貴方の要求も叶えられますね」

 

 デュランダルを眺め終えたフリートはブラックウォーグレイモンの首に掛かっているネックレスに手を伸ばし、ネックレスを首から外す。

 

ーーースルッ!

 

「既に準備は出来ていますので、すぐに作業に掛かります。まぁ、二日後までには用意は出来るので安心して下さい」

 

「それともう一つ、ルイン」

 

「はい!」

 

 ブラックウォーグレイモンがルインに声を掛けると、ルインはフリートへと対抗心を燃やしながら、ブラックウォーグレイモンの隣は自分の居場所だと宣言する様にブラックウォーグレイモンの横に並び、フリートに対抗心に満ちた目を向けた。

 対抗心に燃えるルインの姿を見たフリートは苦笑を浮かべながら、自身の名前をルインに名乗り始める。

 

「アルハザードの管制人格、フリートと言います。宜しくルインフォースさん」

 

「マイマスターの永遠のパートナーである、破滅を呼ぶ風、ルインフォースです」

 

 二人は自身の名を名乗ると、互いに右手を差し出し握手をかわし合う。最もルインはフリートへの対抗心を向き出しにしながらでは在るのだが。

 だが、二人の気まずい雰囲気に気が付かず、ブラックウォーグレイモンはフリートに声を掛ける。

 

「フリート。ルインのデータから安全な防御プログラムを作れ。管制人格の奴は俺との戦いで死ぬつもりだ。そんな奴と戦ってもつまらんからな」

 

「確かにあの生真面目な管制人格なら在りえますね。それではマイマスターが戦いを楽しめないですし、良いですよ」

 

 ブラックウォーグレイモンの言葉にルインも腕を組みながら同意を示した。

 何せルインはずっと闇の書の中で管制人格であるリインフォースを見ていたのだから、その言葉に説得力が在った。

 ブラックウォーグレイモンとルインの言葉を聞いたフリートは更に苦笑を深め、ブラックウォーグレイモンの方に目を向ける。

 

「分かりました。では、両方とも二日後の昼までに終わらせますね」

 

 

「それともう一つあった…そのネックレスに俺の意思で発動出来る何処にでも行ける広範囲の緊急転移を組み込んでおけ」

 

「? …それは簡単ですけど……どうしてですか?」

 

「奴との再戦を取り付けた時に管理局の連中が近くに居たのを忘れていた・・・・次元世界の世界の守護者を謳っている奴らの事だ。世界に悪影響を及ぼす俺の存在は抹消したいだろう」

 

「つまり、マイマスターの戦いの邪魔をして来ると言う訳ですね?」

 

「そうだ」

 

 ルインの問いにブラックウォーグレイモンは苦々しい声で答えた。

 リインフォースは漸く現在の世界で見つけた強敵。半身だったルインと完全に別れてしまったので、その力は半減しているが技量は下がっていない。魔法と言うブラックウォーグレイモンにとっての未知の力を宿す相手としては、少なくとも現在では最高の相手だった。

 だからこそ、リインフォースとは何が在っても決着をつけるつもりなのだが、横槍が必ず入って来るのも同時に悟っていた。

 

(奴らは必ず来る…俺の戦いの邪魔をするならばただでは済まさんが…万が一アルカンシェルなどと言う兵器を最初から使用して来る事を考えた場合、気に入らんが逃げる手段も得ておくべきだ)

 

 戦いの中で死ぬのはブラックウォーグレイモンとしては望むところだが、横槍で死ぬのは気にいらない。

 故に、その事態になった時の為の対処をブラックウォーグレイモンは得ておくことにしたのである。

 フリートとルインはブラックウォーグレイモンの要求の意味を理解して納得したように頷く。

 

「そう言う事でしたか。分かりました。頼まれた事は二日後の昼までには全て終えておきます。ルインフォースさん、作成に力を貸して下さい」

 

「了解しました。それではマイマスター、行って来ます」

 

 ルインが笑みを浮かべながらブラックウォーグレイモンに言葉を言うと、ブラックウォーグレイモンは頷き、二人はそれを確認すると通路の奥を進み始めた。

 それを見たブラックウォーグレイモンは壁に寄り掛かり、二日後の戦いに思いを募らせるのだった。

 

 

 

 

 

 その頃、アースラ内部の会議室では管理局に捕まったはやて達がリンディ達とブラックウォーグレイモンについて話し合いを行い、エイミィが本局に送られたクロノ達の容体を報告していた。

 

「クロノ君とアルフはかなりの重症のようで、本局で治療を受けています。比較的に軽症と呼べるユーノ君も、幾つかの骨折が在るので、同じ様に本局で治療を受けていますが・・・・・医者の話では、クロノ君とアルフの怪我は相当深いそうで、未だに意識が戻っていないそうです」

 

「……ご苦労様、エイミィ」

 

 エイミィの報告にリンディは険しい声で答え、なのは達は悲しげに顔を歪めるが、リンディは険しい表情を浮かべたままリインフォースの方に顔を向ける。

 

「彼は闇の書の闇さえも支配下に置いた存在です。貴女はそれに勝てるのですか?」

 

「…無理でしょう。奴は闇の書が完全な状態でも勝てなかった存在です。防御プログラムを失った私が勝てる可能性は0です」

 

「ッ!! 駄目や! 行ったらあかん!!」

 

 リインフォースの言葉を聞いたはやては、目に涙を浮かべてリインフォースに掴み掛かるが、リインフォースは首を横に振るう。

 

「主、元々私は消えなくてはいけなかったのです。それが奴に倒されるかどうかの違いだけです。守護騎士達は残りますので安心して下さい」

 

「駄目や! まだ、ほんの少ししか一緒にいてへんのに! 死んだらあかん!!」

 

「いえ、私はもう十分に幸せを貰いました。新しい名前と心を、だから、笑って逝けます」

 

 リインフォースは儚い笑みを浮かべて、はやてを抱き締める。

 二人の悲しげなやり取りを見たなのは達は悲しげな表情を浮かべるが、リンディだけは険しい表情を浮かべ続け、何かを考え続けていた。

 

 

 

 

 

 地球から本局に帰還して停泊している艦艇アースラ。

 その艦艇は現在対闇の書ように装備されていた管理局の保有する魔導兵器アルカンシェルの取り外しが急ピッチで行なわれていた。

 絶大な威力を持つアルカンシェルとは言え、使用には制限が設けられている。今回は過去にも数えきれないほどの悲劇を生み出した『闇の書』に対して使用するという事で装備されていたが、ブラックウォーグレイモンに対する使用許可が下りず、今はリンディと上層部の指示によって取り外しが行われているのだ。

 そんな中、アルカンシェルとアースラの駆動炉に直結していた機器を弄っていた技術者の一人が、他の技術者達に気が付かれないように一枚のディスクを取り出して駆動炉を操作しているシステムにディスクの中身を読み込ませる。

 インストールが終わったのを確認した技術者は、何食わぬ顔をしながらディスクを服の中へと戻して作業へと戻って行くのだった。

 

 

 

 

 

 地球での出来事から二日後の正午。砂漠が広がる大地でブラックウォーグレイモンは待ち合わせの場所に佇みながら、リインフォースが来るのを静かに待っていた。

 そして突如としてブラックウォーグレイモンの見つめる先に転送用の魔法陣が出現し、バリアジャケットを身に纏ったリインフォースが姿を現す。

 

ーーーシュウン!!

 

「漸く来たか」

 

「……防御プログラムは如何した?」

 

「ルインなら、別世界でこの戦いを見ている。貴様との戦いは俺の戦いだ。誰にも邪魔はさせん!!」

 

 リインフォースの質問にブラックウォーグレイモンは答えながら、一つのデータディスクを取り出し、リインフォースに見えるように動かす。

 

「それは何だ?」

 

「貴様の修復プログラムだ」

 

「ッ!! …何だと? …私の修復プログラム?」

 

「そうだ。ルインが持つ貴様のデータから、とある研究者が貴様の状態を安定させる為に作り上げたプログラムだ。どうせ、見ているんだろう? 俺と貴様の戦いを他の連中が?」

 

「ッ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンの指摘にリインフォースは苦い顔を浮かべた。

 その様子にブラックウォーグレイモンは目を細めながら辺りを見回し、戦いを隠れて覗いている者達に聞こえるように叫ぶ。

 

「前にも言ったが、もう一度言っておくぞ!!! この戦いの邪魔をするならば、死を覚悟しておけ!!!! そして其処に居る管制人格を唯一救える手段が無くなると思うんだな!!! 邪魔をすれば、迷わずに俺は此れを破壊する!!」

 

 その宣言に潜んでいる幾つかの気配が動揺するように動いたのを感じたブラックウォーグレイモンは笑みを浮かべると、即座にディスクを鎧の中に仕舞い込んでリインフォースに向かって駆け出し、右腕のドラモンキラーを突き出す。

 

「ドラモンキラーー!!!」

 

「盾!!」

 

ーーーガアン!

 

 ブラックウォーグレイモンの攻撃を、自身の修復プログラムが存在していた事に対する驚愕を収めたリインフォースは瞬時に防御魔法を発動させて防ぎ、ブラックウォーグレイモンに向かって質問の叫びを上げる。

 

「私の修復プログラムだと!? 如何に半身がいるとは言え、二日と言う時間で作り上げたと言うのか!?」

 

「その通りだ!! 貴様が俺に勝てたら渡してやる!! さぁ、始めるぞ!!」

 

「くっ! 刃を()て、血に染めよ! 穿(うが)て、ブラッディダガーー!!」

 

ーーーズガガガガガガガガガッ!!!

 

 ブラックウォーグレイモンが言葉と共に放った蹴りを、ギリギリの所でかわしたリインフォースは背中の羽を羽ばたかせ、上空へと飛び上がると、二十本近くの赤い短剣を生み出し、ブラックウォーグレイモンへと放った。

 だが、自身に高速で迫って来るブラッディダガーを見てもブラックウォーグレイモンは慌てずに、リインフォースと同じ様に上空に飛び上がり、自身を追って来るブラッディダガーに向かって全力で両腕で振り抜く。

 

「ムン!!」

 

ーーードドドドドドゴオン!!

 

「くっ! 出鱈目にも程が在るぞ! ただの腕の振りに寄って発生した風圧でブラッディダガーを破壊するなど!!」

 

 ブラックウォーグレイモンの腕の振りで発生した風圧により赤い短剣が全て消滅した事実に、リインフォースは叫びながらも、ブラックウォーグレイモンに向かって飛び掛り、二人は空中で激突を始める。

 

「羽ばたけ、スレイプニール!! ソニックムーブ!!」

 

「ほう、移動魔法の重ね掛けでスピードを上げたか。面白い! それでこそ俺の敵に相応しい!!」

 

 リインフォースは移動魔法の重ね掛けでスピードを上げ、さらに次々と自分に強化魔法を重ね、ブラックウォーグレイモンの力に対抗しようとする。

 それを見たブラックウォーグレイモンは笑みを浮かべながら、リインフォースに向かって次々と攻撃を放ち、二人の激突は世界さえ揺るがすほどに加速して行く。

 リインフォースが砲撃魔法や射撃魔法を使えば、ブラックウォーグレイモンは両腕を全力で振るった事により発生する風圧や、背中に装着している『ブラックシールド』を使うことで防ぐ。

 ブラックウォーグレイモンが接近戦を行なえば、リインフォースは両手にダメージを負いながらも受け流して決定的な一撃を回避して行く。

 熾烈な戦いを繰り広げる二人だが、徐々にでは在るが、リインフォースはブラックウォーグレイモンの猛攻を防ぎ切れなくなって来た。

 

ーーードゴオン!!!

 

「グアッ!!」

 

 遂にリインフォースはブラックウォーグレイモンの猛攻を防ぐ事が出来なくなり、ブラックウォーグレイモンの渾身の一撃を体に受けると、リインフォースは地上へと落下して行く。

 

「中々楽しめた。おかげで魔法と言う力も大体把握出来た・・・だが、これで終わりだッ!!」

 

 リインフォースが地上に落下していくのを見たブラックウォーグレイモンは笑みを浮かべると共に、巨大な赤いエネルギー球を生み出し、自身の頭上に掲げる。

 

「ガイアフォ…」

 

ーーーシュゥン!!

 

「何!?」

 

 巨大なエネルギー球を生み出している途中で、突然にブラックウォーグレイモンの体の前に穴のようなモノが出現する。

 その穴から手のようなものが飛び出し、ブラックの鎧の中に仕舞われていたディスクを素早く抜き取り、ディスクを掴んだまま手は穴の中へと戻る。

 

ーーーサッ!!

 

「(今のは『旅の鏡』と言う魔法!?) おのれ!!!!」

 

 まんまとしてやられた事実に気がついたブラックウォーグレイモンは、頭上に掲げていた巨大なエネルギー球の照準を逃げ去るように離れて行く気配の方へと向ける。

 そのまま全力で投擲しようとするが、その直前にブラックウォーグレイモンの真下から二本の白い柱が急激に伸びてガイアフォースを掲げていたブラックウォーグレイモンの両腕に突き刺さり、動きを封じ込める。

 

「縛れ!! 鋼の楔ッ!!」

 

ーーードスゥゥゥゥゥーーン!!

 

「ヌゥッ!!」

 

 両腕に突き刺さった白い柱に動きが封じられたブラックウォーグレイモンは、声の聞こえて来た方に目を向け、リインフォースを護るように立つ蒼い狼を目にする。

 自身の戦いの邪魔をしてくれた者達に対する怒りが湧き上がり、両腕に突き刺さっている白い柱を破壊しようと力を込めようとした瞬間、遠方より桜色の砲撃が直進して来てガイアフォースを貫き大爆発を引き起こす。

 

ーーードゴオオオオオオオオオオン!!!!

 

 その様子を地上で倒れながら見ていたリインフォースが自身を護るように立つ蒼い狼-『ザフィーラ』-の姿と、自らの技の爆発に飲み込まれたブラックウォーグレイモンに目を見開いていると、爆発によって生じた煙に向かって更に攻撃を加える二人の人物を目にする。

 

()けよ、(はやぶさ)!」

 

Sturmfalken(シュツルムファルケン)ッ!!≫

 

「雷光一閃!! ブラズマザンバーーブレイカーーー!!!!」

 

ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 上空から放たれた音速で走った一筋の閃光と、大砲撃の金色の閃光は煙の中に居たブラックウォーグレイモンに直撃し、更なる爆発を引き起こしてブラックウォーグレイモンを地面へと弾き飛ばした。

 いきなり目の前で起きた出来事の数々にリインフォースが完全に言葉を失っていると、目の前に居たザフィーラが褐色肌の男性へと変身し、リインフォースに肩を貸す。

 それと共に上空からブラックウォーグレイモンに攻撃を加えたシグナムとフェイトもリインフォースの傍に着地する。

 

ーーートン

 

「大丈夫か?」

 

「……何故来たのだ、盾の守護獣…それに烈火の将にフェイト・テスタロッサ…これは奴と私の戦いなのだぞ?」

 

「家族を救うのに理由は無い。それにこれはリンディ提督の作戦だ。お前を倒す為に必ず奴は闇の書の闇の残骸を消滅させた一撃を放つと予測して、高町に砲撃を遠距離から放ってほしいと頼んだのだ。流石に奴も自分の技をゼロ距離で食らい、更に私とテスタロッサの最大の一撃を受けたのだ」

 

「幾らアイツが強くたって、コレだけの攻撃を加えれば…」

 

「侮っていたな」

 

『ッ!!!』

 

 背後から響いた声にシグナム、フェイト、ザフィーラは目を見開き、リインフォースも苦々しい顔を浮かべて振り向いてみると、鎧に傷を負いながらも全身から凄まじい殺気を溢れさせて、右手に機械的な矢を握ったブラックウォーグレイモンが立っていた。

 ゆっくりとブラックウォーグレイモンは右手に握っていた矢をシグナム達の方へと投げ捨てる。

 

「馬鹿な!? 『シュツルムファルケン』を受け止めたと言うのか!?」

 

「思ったよりも厄介だな魔法と言う力は…デジモンの必殺技に比べれば威力は圧倒的に低いが…利便性と言う点では魔法の方に僅かに分が在るか…やはり知っているのと、この身で受けるのは別物だな……だが、おかげで大体把握出来たぞ」

 

「何を…奴は言っているのだ?」

 

「…逃げろ…私は大きな勘違いをしていた……奴は私との戦いで確認していたんだ」

 

「リインフォース?」

 

「奴が半身を失った私と戦う最大の目的は…知る為だったのだ……魔法の力を!!!」

 

「……もう充分に把握した。全力で行かせて貰うぞ!!!」

 

 怒りに満ちた視線をブラックウォーグレイモンはシグナム、リインフォース、フェイト、ザフィーラに向け、瞬時にシグナムとリインフォースの前に移動する。

 

ーーービュン!!

 

「はや…」

 

「死ね」

 

ーーードスッ!

 

「ガアッ!!」

 

「烈火のグフッ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンは迷い無く三本の鍵爪の様なドラモンキラーの刃を2人の腹に突き刺し、辺りに血の雨を降らさせる。

 突然の出来事にフェイトはシグナムとリインフォースから飛び散る赤い血を呆然と見つめて動きが止まってしまう。

 その隙を逃さずにブラックウォーグレイモンはフェイトに向かって右腕のドラモンキラーを振り抜くが、ザフィーラが入り込んで魔法障壁を構える。だが、魔法障壁とドラモンキラーが触れ合った瞬間、何の抵抗も見せずに魔法障壁は砕け散り、ザフィーラの胴体にドラモンキラーの爪が深々と突き刺さる。

 

ーーーバリィィィィーーン!! ドスン!!

 

「ガァッ!!」

 

「ムン!!」

 

ーーードゴオォン!!

 

 ドラモンキラーの爪先を突き刺したままブラックウォーグレイモンはザフィーラの体を持ち上げ、砂の地面に向かって全力で叩き落した。

 砂の地面で在りながらも全身を襲った凄まじい衝撃にザフィーラは声も出せずに意識を失ってしまう。

 次々と倒されて行く仲間の姿に漸く呆然としていたフェイトは我に返り、背のマントをパージするとソニックフォームへとバリアジャケットを変えて金色の大剣-『バルディッシュ・アサルト・ザンバーフォーム』-をブラックウォーグレイモンに向かって振り抜く。

 

「このぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

ーーーガシッ!!

 

「ッ!!」

 

 ソニックフォームになった事でスピードが大幅に増しているにも関わらず、ブラックウォーグレイモンは左手でフェイトが振り抜いた金色の大剣を簡単に受け止めた。

 フェイトはその事実に目を見開くが、すぐさまブラックウォーグレイモンから離れようとバルディッシュの柄に力を込める。しかし、フェイトがどれだけ力を込めようとバルディッシュはピクリとも動かなかった。

 

「そ、そんな!?」

 

「ムン!!」

 

ーーーバシッ!!

 

「アッ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンが力を込めて左腕を引くと、フェイトの腕の中からバルディッシュは奪い取った。

 その事実にフェイトは声を上げるが、ブラックウォーグレイモンは構わずに瞬時に右腕の先にエネルギー球を作り上げて振り被る。

 

「食らえッ!!」

 

「クッ!!」

 

 エネルギー球を投げつけようとしている事に気がついたフェイトは、ソニックフォームになっている事で上がったスピードを利用して逃げようとする。

 しかし、ブラックウォーグレイモンはそうはさせないと言うように全力で砂の地面を蹴り上げ、大量の砂を宙に舞い上げる事で自身の姿とフェイトの視界を完全に覆い隠す。

 

「フッ!!」

 

ーーードバァァァァァァァァァァァァッ!!!

 

「なっ!?」

 

 宙に舞い上がった大量の砂に視界を覆い隠されたフェイトは驚いて動きが一瞬止まってしまう。

 その瞬間に舞い上がった大量の砂をエネルギー球が貫き、フェイトのすぐそばの地面に直撃して爆発を起こす。

 

ーーードゴオオォォン!!

 

「キャアァァァァァッ!!!」

 

 ソニックフォームになっている事で防御力を殆ど失っていたフェイトは爆発の衝撃をモロに食らい、悲鳴を上げながら大量の砂の中に埋もれた。

 ブラックウォーグレイモンはソレを確認すると、左腕に握っていたバルディッシュの金色の刀身が消え去り、柄の部分だけが砂の地面へと落ちる。

 

「…なるほど……使用者が気を失えばデバイスも機能を停止すると言う訳か…コイツで確かめるか」

 

 ゆっくりとブラックウォーグレイモンは呟きながら左足を上げて、砂の地面に落ちているバルディッシュを踏み潰そうとする。

 だが、突如としてその動きは止まり、遠方と、すぐ近くの岩場辺りに目を向けて両手にエネルギー球を作り上げる。

 

「…忘れる所だった…後二人居たんだったな…フン!!」

 

「えっ? キャアァァァァァーーーー!!!」

 

ーーードゴオン!!

 

 ブラックウォーグレイモンが投擲したエネルギー球は、此方へと向かっていたなのはへと直撃し、なのはは煙を上げながら地上へと落下した。

 それを確認すると続けてブラックウォーグレイモンは、左腕に生み出していたもう一つのエネルギー球を岩場で息を顰めて機会を伺っていたシャマルに向かって投擲する。

 

「ハァッ!!」

 

ーーードゴオオオォォォォーーーン!!!

 

「キャアァァァァァァァァーーーーー!!!!」

 

 隠れていた岩場ごとシャマルは爆発によって遠くへと吹き飛んで行った。

 ゆっくりとこの場で動く者が居なくなったのをブラックウォーグレイモンは確認すると、次に頭上に顔を向けながら首に掛かっているネックレスに話しかける。

 

「フリート、見ていたな?」

 

『はいはい、見ていましたよ。中々考えられた戦略でしたが、相手を間違えましたね』

 

「分かっているなら話は早い。奴らの艦は何処に在る?」

 

『衛星軌道上に認識阻害魔法を使用しながら隠れていますね…ネックレスに追加した機能なら転移出来ますよ。もう座標はネックレスに送っておきましたからね』

 

「そうか…ならば、其方を先に片付けるとするか」

 

ーーーシュウン!!

 

 ブラックウォーグレイモンが呟くと共にネックレスから転送用の魔法陣が出現し、その場からアースラへと転移して行った。

 

 

 

 

 

 衛星軌道上でブラックウォーグレイモンとリインフォースの戦いを見ていたアースラのブリッジでは、ブラックウォーグレイモンにやられたリインフォース達の搬送の準備を慌てて行なっていた。

 

「すぐに全員の搬送を行なって! 一刻の猶予も無いわ!!」

 

「了解です!!」

 

 リンディの叫びにエイミィは頷き、リンディの指示に従ってなのは達の搬送を急ごうとする。

 だが、突如としてリンディの背後から殺意に満ちた低い声が響く。

 

「貴様か、俺と奴との戦いの邪魔をする様に命じたのは?」

 

『ッ!!!!』

 

 聞こえて来た声にリンディ達は一瞬にして顔が青ざめ、恐る恐る背後を振り返って見ると、凄まじいほどの殺気をリンディに向けて放つブラックウォーグレイモンが立っていた。

 

「……どうやって…アースラの中に?」

 

「これから死ぬ事になる貴様らには関係ない」

 

「ッ!! エイミィ! 総員に退艦命令を発令!! 此処は私が抑えるから、早く!!」

 

「了解です!!」

 

 リンディの叫びにエイミィは慌てて頷き、艦全域に向けて退艦命令を発令させた。

 その指示に他のブリッジのメンバー達は次々と座っていた椅子から立ち上がり、ブリッジを出ようとする。だが、ブラックウォーグレイモンは一人も逃がさないと言うように、瞬時に両腕をブリッジの出入り口に向けて次々とエネルギー弾を生み出し、ブリッジの出入り口に連続で放ち出す。

 

「ウォーーブラスターーー!!」

 

ーーーズガガガガガガガガガッ!!!

 

「ディストーションシールド!!」

 

ーーーガガガカガガガガガアン!!!

 

 ブラックウォーグレイモンの放ったウォーブラスターはブリッジの出入り口に直撃する直前で、リンディの発動させた防御魔法により防がれた。

 その隙に次々とブリッジのメンバーは外へと駆け出し、最後に出ようとしたエイミィがリンディの方に顔を向け叫ぶ。

 

「艦長!!」

 

「エイミィも行きなさい!! 私は今回の作戦を実行した責任を取るわ!!」

 

「まさか!? 艦長!!」

 

 リンディの叫びを聞いたエイミィは、その意味を理解して悲鳴の様な声を上げた。

 艦に居る人間達の脱出時間を稼ぐ為に、リンディは一人で艦に残りブラックウォーグレイモンを抑えようとしているのだ。

 その結果がどうなるのかも全て知った上でも、ブラックウォーグレイモンが次々と放ち続けるエネルギー弾を全力で防御し続けながらも、リンディは何時もの優しげな笑みをエイミィに向ける。

 

「エイミィ…クロノに『ゴメンなさい』って伝えて……そしてクロノの事を支えて上げてね。あの子はきっと、辛い思いをするから…お願いね」

 

「……ふぁい」

 

 リンディの言葉にエイミィは涙で顔をクシャクシャにしながらも頷き、ブリッジを急いで出て行った。

 エイミィや他のブリッジメンバー達に逃げられたブラックウォーグレイモンはウォーブラスターを放つのを止めて、リンディに忌々しげな視線を放つ。

 

「覚悟は出来ているんだろうな? 貴様は絶対に生かしてはおかんぞ!!」

 

「覚悟なら出来ていますよ。あの作戦を考えた時から!!」

 

ーーーシュン!!

 

 リンディは叫ぶと共に二本のデバイスを構え、自身の背中に四枚の羽を作り出し、アースラの駆動炉からも魔力供給を受けて、自身の前面と出入り口を護るように防御魔法を発生させ始める。

 急激に上がったリンディの魔力にブラックウォーグレイモンは目を細めると、確かめるようにリンディが張り巡らした防御魔法に向かってエネルギー球を投げる。

 

「ムン!!」

 

 ブラックウォーグレイモンが投げつけたエネルギー球は真っ直ぐに防御魔法へと向かうが、防御魔法とエネルギー球がぶつかり合おうとした瞬間、突然に空間が歪み、エネルギー球は防御魔法ではなくブリッジの床に激突して爆発を起こす。

 

ーーードゴオオォォン!!

 

「…ほう…知ってはいたが、やはり魔法と言う物は厄介だな……出来る者は限られているだろうが、“空間を歪ませて攻撃を受け流すか”……時間を稼ぐには持って来いと言うべきか」

 

(クッ!! こうもアッサリと狙いに気がつかれるなんて!?)

 

 リンディはブラックウォーグレイモンの観察眼に苦々しい思いを抱いた。

 高ランクの魔導師として登録されているリンディが得意とするのは、結界や捕縛と言う魔法の類。

 そして今使用している魔法の名称は『ディストーションシールド』。空間の狭間に特殊な歪みを生じさせ、範囲内の攻撃や空間干渉を低減・無効化させる魔法。個人での空間干渉などは本来は魔力が足りず、使用する事など出来ないのだが、リンディはアースラの駆動炉から魔力の供給を受けて可能にしている。

 無論、アースラと言う巨大艦の駆動炉から魔力の供給を受けると言う事は、制御に失敗すればリンディ自身の体に多大なダメージが及ぶ諸刃の技術。しかし、その技術を最大限に使用しなければブラックウォーグレイモンの攻撃を抑えるのは不可能だとリンディは先ほどの戦いの映像と、地球での戦いの映像から理解していた。

 

(この生物の一撃一撃は…SSランク以上の攻撃力を秘めている!! 生半可な防御魔法じゃ防ぎきれないわ!!)

 

(外部から魔力と言う力を受け取る技術か……だが、奴が一度に受け取れる量は限られている筈…ガイアフォースならば、奴の空間干渉を撃ち破れる)

 

(来る!!)

 

 両手を掲げるように構えたブラックウォーグレイモンの姿に、リンディは最大の一撃が来る事を悟り、それに対して備えようとした瞬間、アースラの駆動炉が突如として暴走する。

 

ーーーゴオオォォォォーーーー!!!

 

「ッ!!! アァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 

「何だ?」

 

 突然に両手に持っていたデバイスを床に落として、苦痛に満ちた悲鳴を上げながら胸元を押さえて床に倒れ伏したリンディの姿に、ブラックウォーグレイモンはガイアフォースを中断して疑問の声を上げた。

 その間にもリンディはアースラの駆動炉から過剰と言う言葉が優しいほどの魔力の供給に、リンカーコアが悲鳴を上げるように全身に激痛が広がり床をのた打ち回る。背に現れていたエネルギーの羽にも流しきれず、遂にリンディの魔力制御を上回り、リンディのリンカーコアが砕け散る。

 

ーーーバキィィィーーン!!

 

「アッ!! …アァ…アァ…」

 

「一体何が起きた?」

 

 床に倒れ伏して動かなくなったリンディの様子に、ブラックウォーグレイモンは疑問を覚えて近づく。

 既にリンディが張り巡らしていたディストーションシールドも消え去り、ブラックウォーグレイモンを阻むものは何一つ無い。逃げ出した局員達を追うのは簡単だったが、それよりもブラックウォーグレイモンはリンディに起きた出来事に言い知れない予感を感じていた。

 何か危険な事が起きる前兆だとブラックウォーグレイモンは直感し、原因を調べようとリンディに近づいた瞬間、アースラが突如として大きく揺れ動く。

 

ーーーズズズズズズッ!!

 

「ん?」

 

『ブラックウォーグレイモン!! すぐに其処から転移してください!!』

 

『マイマスターーー!!! 早くその艦から逃げて下さい!!』

 

「何だと? 如何言う事だ?」

 

 首に掛かっているネックレスから聞こえて来たフリートとルインの悲鳴のような声に、ブラックウォーグレイモンは疑問を覚えて質問した。

 

『ネックレスに備わっている計測器から判明したのですが、その艦に備わっている駆動炉が暴走したんです!!! このままだと駆動炉の暴走が臨界点を超えると共に艦は完全に消滅してしまいます!!!』

 

「…なるほど…(だが、何故暴走した?)」

 

 フリートの説明にブラックウォーグレイモンは納得しながら、もはや動かなくなった床に倒れ伏しているリンディに目を向ける。

 

(この女は駆動炉から魔力を受け取っていた…暴走すると分かっていた駆動炉から魔力の供給を受けるのは考え難い…誰が今の流れを仕組んだ? ……考えるのは後回しだな…すぐに此処を離れるとするか)

 

 そう判断すると共に、ブラックウォーグレイモンはアルハザードへと帰還しようとする。

 しかし、ネックレスから転移用の陣が発生する前にブラックウォーグレイモンの右足を床に倒れ伏していたリンディが掴む。

 

ーーーガシッ!!

 

「…ほう…生きていたのか?」

 

「…お…おね…がい…わ、私を…駆動炉に…こ…このままだと…艦内から…全員が…脱出…する前に……アースラは…」

 

「消滅するだろうな。もう十分も時間は無いようだ」

 

 ブラックウォーグレイモンはアースラに起きている振動が徐々に強くなって来ている事を感じながら、リンディの言いたい事をアッサリと告げた。

 もはやアースラに乗船している者が脱出出来る時間は無い。事前にリンディが退艦命令を出していたとは言え、それでも残り時間で全員が脱出する事は不可能に近い。更に言えばブリッジから見える外の風景には、リンディが使用していたディストーションシールドと同質の魔法が張り巡らされたままの状態。

 脱出艇に乗員が乗り込んだとしても、アースラに張られているディストーションシールドを解除しない限りアースラの爆発に巻き込まれるのは間違いない。それを止める為には暴走している駆動炉を停止させて、艦の機能を全て停止させる以外に方法は無かった。

 だが、それを行なえるリンディは魔力の暴走によって一気に送り込まれた膨大な魔力によってリンカーコアを失い、動く事もままらないどころか命に関わる状態に追い込まれて身動きが取れない。駆動炉に行く為には誰かに連れて行って貰うしか方法は無い。

 

「…お…お願い……貴方…だって…このままだと」

 

「悪いが俺には脱出する手段が在る……俺の戦いに横槍を入れてくれた敵である貴様の頼みなど聞く義理も義務も無い。俺はさっさと脱出させてもら…」

 

「……命を…あげるわ」

 

「…何だと?」

 

「わ、私はどうせ…助からない…なら…この命を貴方にあげる……だから…私を…駆動炉に……お…お願い…」

 

「…それはこの艦を預かる貴様の義務の為か?」

 

「…いえ…私にとって…アースラの乗員は…全員大切な…仲間…そして家族よ…だから」

 

「…仲間に家族か……フン、死に掛けの貴様の命など貰っても嬉しくは無いが…俺も少し気になる点が在る。序でに駆動炉とやらに連れて行ってやる」

 

『なっ!? マイマスターーー!!! 何を言っているんですか!? もう時間が本当に無いんですよ!!!』

 

ーーーガシッ!!

 

 ネックレスから聞こえて来る悲鳴のようなルインの声に構わずに、ブラックウォーグレイモンは床に倒れ伏していたリンディを左脇に抱え上げる。

 リンディは駆動炉の場所をブラックウォーグレイモンに教えようとするが、その前にブラックウォーグレイモンはリンディが使っていた二本のデバイスに向かって右腕のドラモンキラーを振り下ろす。

 

「ムン!!」

 

ーーーバキィン!!

 

 ブラックウォーグレイモンの攻撃に寄ってデバイスが破壊された瞬間、壊れたデバイスから蒼いデジコードが発生し、ブラックウォーグレイモンの腕の中へと入って行く。

 ソレと共にブラックウォーグレイモンの脳裏にアースラの構造のデータが浮かび上がり、実験が成功した事に笑みを浮かべる。

 

「コレで場所は分かった…悪いが時間はもう五分も無い。急いで行くから覚悟しておけ!!!」

 

ーーードゴオオォォン!!

 

 リンディに忠告の言葉を告げると共にブラックウォーグレイモンは右腕のドラモンキラーを振り抜いて、床を破壊して下へと向かう。

 そのまま駆動炉が在る場所に向かって壁や床を破壊しながら真っ直ぐに進み、駆動炉へと続く扉の前に辿り着く。

 

「此処か…ムン!!」

 

ーーードゴォ!!

 

 迷う事無く目の前に在る扉を破壊し、ブラックウォーグレイモンが内部へと入り込んでみると、火花を散らし、明らかにオーバーヒートしながらも稼動し続けている駆動炉を目にする。

 

ーーーゴオォォォォーーーッ!!!!

 

(やはり、誰かがこの状況を仕組んだようだな・・・・だが、如何言う事だ?この状況を仕組んだ相手は、俺がこの艦に来ると分かっていたのか?・・・・いや、それとも何か他に別の目的が在るのか?)

 

「…うぅ…わ、私を…あそこに在る…制御盤に」

 

「(考えるのは後回しだな)…其処だな」

 

 リンディの声に一先ずブラックウォーグレイモンは考えるのを止めて、リンディを教えられた制御盤の傍へと連れていく。

 制御盤へと運ばれたリンディは、最後の力を振り絞って駆動炉の緊急停止コードを打ち込むが、返って来たのは停止を告げる音声ではなく、否定の音声だった。

 

『コードが違います』

 

「ッ!! そんな!? …緊急停止のコードが変えられてる…駆動炉が停止できない」

 

 返って来た無情な音声にリンディは絶望感が溢れて来た。

 駆動炉が停止しなければ、乗員が全員退艦する前にアースラは消滅する。だが、リンディが知っていた駆動炉の緊急停止コードは通らなかった。なら、艦長権限ではどうかと遠退き掛ける意識を無理やり繋げながら操作するが、返って来るのは無情な音声だけだった。

 

『貴女の権限は剥奪されています…駆動炉への操作は認められません』

 

「…そんな…こ…これじゃ…皆が…脱出する時間が…」

 

「フン…つまり、コイツを止めれば良いと言う事か…なら、話は早い」

 

「な…何を?」

 

 突然の発言にリンディは驚きながら目を向けると、駆動炉に向かって右手を向けて詠唱するブラックウォーグレイモンを目にする。

 

「悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ」

 

「ッ!! 魔法の詠唱!? …そんな、貴方にはリンカーコアは!?」

 

「凍て付け! エターナルコフィン!!!!」

 

ーーーガキガキガキガキガキイン!!!

 

 ブラックウォーグレイモンが力強く叫んだ瞬間、凄まじい冷気が右手の先から駆動炉に向かって放たれ、徐々に駆動炉は凍りついて行き、完全にその機能を停止した。

 自身が使用した技の威力にブラックウォーグレイモンは笑みを浮かべて、氷に覆い尽くされた駆動炉を眺める。

 

「悪くない…やはり、あの小僧から奪ったデバイスに登録されていた魔法は中々のものだったな」

 

 ブラックウォーグレイモンは自身に新たな力が宿った事に考察しながら、ゆっくりと呆然としているリンディに目を向ける。

 

「あ…貴方は…一体何者…なの?」

 

「教える理由は無い…貴様の願っていた事は叶えてやった…何か言い残す事は在るか?」

 

「……もう…伝えている…時間も…ない…み…た…い」

 

 自身の意識が底が知れない闇の中に消えて行くのをリンディは感じていた。

 アースラの駆動炉が何故暴走したのか。目の前にいるブラックウォーグレイモンが何故魔法が使用できたのか。それらに対しての疑問は幾つか在るが、もはやそれを考える気力はリンディには無かった。

 明確な死と言うものを感じながらリンディの意識は薄れて行き、最後に本局で治療を受けている自身の息子を思いながら口を動かす。

 

「…ご…め…ん…ね…ク…ロ……ノ…」

 

 最後の力を振り絞ってリンディは言葉を告げると共に、その身から力は完全に抜けて動かなくなるのだった。

 

 

 

 

 

 アースラの暴走が止まり、リンディ以外の全員が退艦して数分後。

 

ーーードゴオオオオオオオオオオン!!!!

 

 内部から発生した巨大な爆発にアースラは飲み込まれ、次元空間に巨大な花火が上がったのだった。

 これが、後に広域次元犯罪者に指定される『漆黒の竜人』との管理局の最初の敵対で起きた出来事である『時空管理局・巡航L級8番艦アースラ消滅』の顛末であった。


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