漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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長らくお待たせしました。
漸く本編開始です。


目覚めた冥府の王と懐かしき再会

 夢さえ見ないような眠りの淵についていた【冥府の炎王】イクスヴェリアは、自身の意識が徐々に覚醒して行くのを感じていた。

 

(……また、争いでしょうか?)

 

 自らが起こされる時は何時も争いが起きる時。

 イクスヴェリアはそう認識していた。最早数える事も出来ない程に繰り返して来た覚醒と眠り。

 その全てが戦争の為。自分達や敵に寄って燃え盛る世界。ソレに寄って舞い上がった黒煙に寄って黒く染まった空。

 最早正確に思い出す事は出来ない程に、遥か昔に見た青い空を取り戻す為に戦っていた筈なのに、求めた筈の空をイクスヴェリアはずっと見た事が無かった。見たのは戦禍の光景。目覚める為に戦い、戦火を広げる事しかイクスヴェリアは出来なかった。

 

(……ですが、コレが本当に最後の目覚めになるでしょう)

 

 気が遠くなるほどの長い年月の経過は、イクスヴェリアの体を蝕んでいた。

 戦争によって起きる技術の衰退。全盛期時代に肉体改造を行なったイクスヴェリアの肉体を、衰退していく技術では支える事は愚か、不具合を直す事も出来なかったのだ。その結果、前回の目覚めの時の最後には不具合が深刻化し、イクスヴェリアの力である【死人兵士生成】や死人兵士への指示機能さえも使用出来なくなってしまった。

 本来ならばそのままイクスヴェリアは死んでもおかしくなかった。だが、ガリア王家がベルカ全盛期時代から保管していた【アルハザード】製の生命維持装置カプセルのおかげで死ぬ事は免れた。

 ベルカの技術が衰えて行く中、【アルハザード】製のカプセルだけは劣化する事は無く、イクスヴェリアの時の揺り籠として機能し続けた。

 しかし、ソレがイクスヴェリアにとって救いとは言えなかった。あくまで生命維持装置は維持するだけの装置でしかない。イクスヴェリアの機能不全を治す力は無かった。

 

(……もしもあの時に戻れるなら……今の私は)

 

 正確に思い出す事が出来ない過去の記憶の中で、イクスヴェリアは詳細に思い出せる事が在った。

 ソレは自身の揺り籠として使用している生命維持装置を回収に来た【アルハザード】の魔導師との出会い。

 回収に来た【アルハザード】の魔導師には、恐怖と畏怖の記憶しかイクスヴェリアには無かった。王として崇められていたイクスヴェリアには、当然ながら屈強なベルカの騎士達が護りについていた。加えてイクスヴェリアの配下だった屍兵器も大量に配備されていたのだ。

 しかし、【アルハザード】の魔導師はたった一人で、屈強なベルカの騎士達を倒し、屍兵器を全て破壊してイクスヴェリアの前に立った。

 当時のガリアが所持していた【アルハザード】の技術は、イクスヴェリアの前で次々と破壊、或いは回収されて行った。その光景にイクスヴェリアの周りに居た臣下達は嘆き、悲痛な声で叫びながら止めるように懇願した。

 【アルハザード】の技術は夢のような物だった。何時かは辿り着きたいと思っていた技術の消失は、彼らに絶望を与えた。

 

(それからすぐに、【アルハザード】は消えた)

 

 突然の出来事だった。

 何とか【アルハザード】との関係を修復しようとした矢先に、【アルハザード】が消え去った。

 存在していた座標には影も形も【アルハザード】と言う世界の痕跡は何一つ存在せず、同時に【アルハザード】の魔導師達も姿が消え去った。

 あの恐怖をもう二度と味合わずに済むと当時のイクスヴェリアは安堵していた。だが、同時にソレこそが長きに渡るベルカ戦争の始まりを告げる鐘だった。

 

(……出来るなら、最後となるこの目覚めで蒼い空を見てみたい)

 

 そう考えていると、イクスヴェリアの意識はハッキリして行く。

 長い年月。数百年ぶりに目覚めるイクスヴェリアが最初に見たものは。

 

「家の技術を、良~~く~~も~~隠してくれてましたねぇ~」

 

 ハイライトが消えた瞳でイクスヴェリアを見つめ、長い髪で影を作って顔の全体を暗くさせているフリートだった。

 

「ッ!?」

 

 眼前に広がった光景にイクスヴェリアは驚愕し、思わず息を呑んでしまう。

 しかし、驚愕させた当人であるフリートは構わずに、やはりハイライトの消えた瞳のまま、イクスヴェリアの左右にドリルとチェーンソーの刃を見えるように構えて音を鳴らす。

 

「さぁ~、質問に答えて貰いますよ~~」

 

 激しい起動音に相応しいほどにオドロオドロしい声音を出しながら、声も出せずに震えるイクスヴェリアに目を合わせる。

 

「い、いや……」

 

「ケケケケケケケケケケケッ!!」

 

 コレから自分はどうなってしまうのかと恐怖するイクスヴェリアに、不気味に笑い声を上げてフリートはドリルとチェーンソーを振り被る。

 しかし、フリートが振り被ろうとした瞬間、フリートの背後から突然巨大なハンマーが振り抜かれる。

 

「何をやっているの貴女は!?」

 

「ギョエェェェェェェッ!!」

 

 巨大なハンマーを後頭部に受けたフリートはそのまま前方の壁に激突し、手に持っていた起動状態のドリルとチェーンソーが体に突き刺さる。

 

「ギャヤァァァァァァァァァデスゥゥゥーーーーー!!!!!」

 

「先ずは事情を聞いてからと言った筈よ! それなのにもう!」

 

 チェーンソーとドリルに体を削られる痛みを受けているフリートに、黒いデジコードを散らしながらリンディが告げた。

 

「……えぇと」

 

「あっ! ごめんなさいね。怖がらせてしまって。自己紹介するわね。私はリンディ。貴女は?」

 

「わ、私は……隠しても無駄でしょうね」

 

 部屋の中を見回したイクスヴェリアは、自身が居る場所が何らかの研究室だと理解した。

 眠る直前に居た場所はベルカの遺跡の内部。状況から考えて、遺跡から運び出されたとしか考える事は出来ない。

 ソレが意味する事は一つ。

 

「既に私の事は知っているのでしょう?」

 

「流石ね。えぇ、私達は貴女の事を知っているわ。【冥府の炎王】イクスヴェリアさん」

 

「……それで何故私を目覚めさせたのですか? 再び戦争でも起きましたか? でしたら、残念ですが私はもう役には……」

 

「ちょ、ちょっと待って……ゴホン。先ずは聞かせて欲しい事が在るの。重要な事よ」

 

「何でしょうか?」

 

「貴女は……【アルハザード】を知っているの?」

 

 その質問に対する変化は急だった。

 無表情に質問して来た時と違って、イクスヴェリアは全身を小刻みに震わせ、体から汗を流して行く。

 リンディはイクスヴェリアの姿に知っているのだと悟る。

 

「……だ、駄目です……あ、あの世界だけは……【アルハザード】だけは……だ、駄目です……触れては……行けません」

 

「えぇ、私も同感よ。本当に御伽噺のまま静かに眠って貰いたかったわ。本当にね」

 

「……何を言っているんですか?」

 

 イクスヴェリアはリンディの言っている言葉から、まるで【アルハザード】が実在している事を知っているかのように感じられた。

 ソレは在り得ない筈なのだ。ベルカ全盛期時代ならばともかく、前回目覚めた時には既に御伽噺に近い世界だと語られていた。【聖王のゆりかご】も詳細な伝承を【聖王家】は遺していなかった。

 イクスヴェリアにとって、その事はどれだけ安堵に繋がったか分からない。

 だが、今のリンディの発言は明らかに【アルハザード】が実在していると、知っているからこそ出来る発言なのだ。一体どういう事なのかと訝しんでいると、突き刺さったドリルとチェーンソーを引き抜いたフリートが立ち上がる。

 

「あぁぁぁ、凄く痛かったです。リンディさん! 酷いですよ!」

 

「ハァ~、フリートさん。気持ちは分かるけれど、相手を脅かしてどうするの?」

 

「ちょっとしたお茶目ですよ!」

 

「お茶目でドリルとチェーンソーを持ち出す人が居ますか! 全く……とりあえず、自己紹介するわ、イクスヴェリアさん。心して聞いて頂戴。此方フリート・アルハザードさんよ」

 

「えっ?」

 

「どうも、フリート・アルハザードです」

 

「……う~ん」

 

 パタンとイクスヴェリアは再びベットの上に眠りについた。

 

 それから一時間後、リンディの介抱によって起きたイクスヴェリアは事情を聞いていた。

 

「と言う訳で、私達は貴女をベルカの遺跡から【アルハザード】に連れて来たの」

 

「……私が目覚めた経緯は分かりました。しかし、何故起こしたのですか?」

 

「簡単に言いますと、私としては他にもベルカが【アルハザード】の遺産を隠していないか心配なんです。その辺りの話を聞く為に貴女の体を治したんです」

 

 フリートの言葉にビクッと体をイクスヴェリアは震わせ、警戒するようにフリートを見つめる。

 その様子に気がついたリンディは、フリートの傍に近寄って小声で質問する。

 

「随分と警戒しているみたいだけど、貴女一体何したの?」

 

「私じゃなくて、彼女が警戒しているのは【アルハザード】ですよ。昔はうちも色々とやらかしましたからね」

 

「……その辺りの事は聞かない事にするわ」

 

 聞いても碌な事にならないと判断し、リンディは話を打ち切った。

 溜め息を吐きながらイクスヴェリアに顔を向け直す。

 

「まぁ、そう言う事で。もしも【アルハザード】の遺産に心当たりが在ったら教えて欲しいわね」

 

「……申し訳ありません。私が知っている【アルハザード】の遺産は、私が入っていたカプセルだけです。他の王家が所持していた遺産に関しては残念ながら知りません」

 

「キィィィィッ!!! つまり、他のベルカ王族もうちの技術を隠していたんですね!!」

 

 まだ、次元世界の何処かに【アルハザード】の遺産が残っている事をフリートは確信した。

 

「絶対に赦しませんよ!! 先ずはブラックに頼んで聖王教会を襲げ……ボケボォッ!!」

 

 何時になく怒っているフリートの鳩尾に、リンディは迷う事無く拳を叩き込んだ。

 

「落ち着きなさい、フリートさん。聖王教会なら二年前に貴女が偵察機を送って調べたでしょう」

 

「ゲホッ……そ、そう言えば……そうでした」

 

「とりあえずベルカ関係の遺跡を調べる方針で行きましょう。イクスヴェリアさんも悪いけれど、貴女が覚えているベルカ施設の在った世界に関して教えてくれないかしら。もちろん、貴女が居た時代と今の世界は大きく変わっているから、大まかなで構わないわ」

 

「それは構いませんが……やはり私を目覚めさせたのは戦いの為でしょうか?」

 

『……えっ?』

 

「私の体を治したと言う事は、私の体に宿っていたあの機能も当然……」

 

「あぁ、ソレなら取り外してますよ」

 

「……えっ?」

 

 平然と告げられた言葉にイクスヴェリアは呆然としながらフリートに顔を向けた。

 

「そう言えばまだ説明してませんでしたが、貴女の今の体は出来るだけ普通の人間に近いように治療しました。機械部分も出来るだけ少なくしたので、今後、治療を続けて行けば普通の人間のように成長出来るようになります」

 

「え、えっ?」

 

「残りの機械部分も今後の治療で除去して行く予定です……と言うよりも、凄く残念なお知らせなんですけど……リンディさん。あの死人兵士って現代だと何の役に立ちます?」

 

「……テロ行為ぐらいにしか使えないわね」

 

 事前に聞いていたイクスヴェリアが産み出せる屍兵器-【マリアージュ】。

 両腕を戦刀、戦槍、砲などで武装化して戦闘を行い、行動不能になると燃焼液に変化して自爆する兵器なのだが、フリートの調べによって人語を解するくせに知能は昆虫並しかない事が判明している。

 戦時下ならば戦力確保としては役に立つが、現代ではテロ行為ぐらいにしか本当に役に立たない兵器なのだ。デジモンとの戦いでは尚更に役に立たない。

 研究用としてイクスヴェリアから摘出した屍兵器製造機器は残して在るが、使う事は金輪際無いだろう。

 因みに摘出した機械の一部分。正確に言えば、屍兵器への指揮、命令機能だけは修理し、現代に遺っているかも知れない屍兵器に人目がつかない砂漠で自壊するように指示だけは送っておいた。ソレに寄って人知れず、管理局がテロリスト認定していた犯罪者が姿を消したのだった。

 

「ショックかも知れないけれど、現代だと本当に役に立たないのよ。とにかく、先ずは現在の世界に関して説明するわね」

 

 そう告げながら、リンディは現代に関してフリートと共にイクスヴェリアに説明を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「ソレで奴らから何か聞き出せたか?」

 

 リンディとフリートがイクスヴェリアに現代に関して説明している頃、ブラックは指令室代わりに使っている部屋の壁に寄り掛かりながらイガモンとルインの報告を聞いていた。

 

「残念ながら、貴殿が気になった怪しい行動に繋がる証言は聞けなかったでござるよ。いや、それどころか二体とも、逆に此方の質問に驚いていたぐらいでござる」

 

「ブラック様が気にしているって言ったら、必死に思い出そうとしてましたから、嘘は無いと思います」

 

 ブラックが二人に聞いているのは、当然アノマロカリモンとメガシードラモンの不審な行動に関してだった。

 争っていた筈なのに、何故か争いを行なわず、並んで何処かに移動していた。だが、目覚めた二体ともその事を全く覚えてはいなかった。

 

「……そうか」

 

 分かり切っていた事だが、アノマロカリモンとメガシードラモンの行動は本人の意思では無い。

 第三者が関わっている事は間違いなのだが、どうやって争っていた二体のデジモンを操ったのかが分からない。

 

(倉田の奴はデジモンを洗脳する技術を持っている。ソレを改良したのか?)

 

 嘗て倉田は七大魔王である【ベルフェモン】を一時的にではあるが、洗脳機器を使って操った事がある。

 その洗脳機器を改良した可能性は充分に考えられるのだが。

 

(しかし、あの場には機械らしい物は無かった)

 

 戦闘後に隈なく周辺を調べたが、機械の部品らしい物は海底には無かった。

 例え二体の必殺技に寄って破壊されたとしても、破片ぐらいは残っていても可笑しくないのに。

 

(一体どうなっている。まさか、破壊されたりすれば消滅する機械でも造ったとでも……待て)

 

 ブラックの脳裏に一つの道具の存在が過ぎった。

 そう、確かに存在していたのだ。デジモンを操り、破壊されれば完全に消滅する道具が。

 

「……馬鹿な。在り得ん!」

 

「ブラック様?」

 

「ブラック殿?」

 

 いきなり声を荒げたブラックに、ルインとイガモンは首を傾げる。

 だが、当人であるブラックは二人の様子など構わずに考え込む。

 

(もしもアレだとすれば、確かにあの場に痕跡が無かったのも頷ける。だが、アレは在り得ん! アレに関する情報は、造った当人である一条寺賢本人も詳しくは覚えて居ないのだぞ!)

 

 ブラックが居た【デジタルワールド】で起きた事件。

 【デジモンカイザー】を名乗る一条寺賢に寄るデジモン洗脳事件。ブラックはその時には存在していなかったが、知識として知っている。

 その事件の時に【デジタルワールド】に大量に使われていた道具こそが、デジモンを洗脳する道具。【イービルリング】と【イービルスパイラル】。

 

(もしもあの二つの情報を倉田が得ているとすれば、その情報をどうやって得た?)

 

 考えられるとすれば、【デジモンカイザー】が基地として使っていた場所だが、その場所は戦いに寄って破壊されてしまっている。

 詳しい情報を得る事は先ず不可能。となれば、誰かから聞くしか無いのだが、ソレには問題がある。

 【イービルリング】と【イービルスパイラル】を使用する為には、絶対に必要な物。ブラックの体を構成している物質。即ち【ダークタワー】が。

 

「ッ!! ルイン! すぐに俺達が辿り着く前のあの海底付近から、電磁波が出ていなかった調べろ! フリートの奴なら、俺達が向かっても偵察機は移動させていない筈だ」

 

「は、はい!!」

 

「どうしたでござる?」

 

「……イガモン。すぐにオファニモンに伝えろ。こっちに俺の居た【デジタルワールド】から援軍に来るアイツに、調べるように頼む事があると……」

 

 ブラックはイガモンに顔を向け、調べる必要が在る事を告げようとする。

 その直前、指令室の扉が開き、フードを被った民族衣装の男が入って来る。

 

「その必要は無い、ブラックウォーグレイモン」

 

「ッ!? ……久しぶりだな」

 

 覚えのある声。

 その声の主をブラックは知っている。一時は共に行動し、ブラックの居た【デジタルワールド】で、選ばれし子供達をサポートしていた男。

 

「……ゲンナイ」

 

「……こうしてまた会えた事を嬉しく思う」

 

 フードを外し、男-【ゲンナイ】-は素顔を晒してブラックに笑みを向けた。

 その顔にブラックは胸の内に懐かしさが湧いてくるの感じる。

 【ゲンナイ】。ブラックが居た【デジタルワールド】の安定を望む者。通称【ホメオスタシス】に仕えるエージェント。デジモンと同じくデータ生命体で在り、直接的な戦闘能力は低いが、エージェントの名に恥じる事は無く、世界中のコンピュータに潜入してデジモンの情報を気づかれる事無く、コントロールする事が出来る。

 その技術と力に寄って、選ばれし子供達も幾度と無く助けられている。サポート能力に関しては、ブラックも認めるほどなのだ。

 ゆっくりとゲンナイは右腕をブラックに向かって掲げ、ブラックも自身の右腕を掲げる。

 ゲンナイはブラックの右腕に自身の右腕を軽く当てる。

 

「再会を喜び合いたいが、どうやらソレどころでは無いようだな」

 

「あぁ……ソレで、何を掴んで来た?」

 

 先ほどの入って来た時の言葉から、ブラックは何か重要な情報をゲンナイが持って来た事を察する。

 ゲンナイは神妙な顔をして頷き、ブラックに自身が掴んで来た重大な情報を説明し出す。

 

「先ずは順を追って説明する。君も関わった復活したディアボロモンの事件。その同時期に起きた【デジタルワールド】からの幼年期デジモンの大量失踪。私達はこの事件を先ず、ルーチェモンでは無く私達の【デジタルワールド】内のデジモンが引き起こした事件だと思い調査を開始した」

 

 当時はルーチェモンが引き起こした事件だと確証が無かった。

 ブラックから伝えられた何者かに寄るディアボロモンの干渉も、新たな暗黒系デジモンの可能性も考えられた。故にゲンナイ達エージェントは、ルーチェモンが関わっている可能性の調査はオファニモン達に任せ、内部犯の可能性を調査したのだ。

 

「だが、当然ながら新たな暗黒系デジモンの出現の兆候は発見されず、また突発的なデジモンの暴走も無かった」

 

 時々ではあるが、ディアボロモンのように突然変異に近い形で、【デジタルワールド】や【人間世界】に影響を及ぼしてしまうデジモンが発生する事がある。

 その面からもゲンナイ達は調査したのだが、此方も犯人らしきデジモンの存在は確認出来なかった。

 

「【デジタルワールド】内からの犯人の可能性を調べられるだけ調べた私達は、オファニモンの言う通りルーチェモンが犯人だと考え、その点から調査も開始した。そして……事件前の兆候を長い期間遡って調査を開始する事にした。沢山の幼年期デジモンが消えたので、用意周到な計画だと考えたからだ。ディアボロモンの件も加えての大規模調査だった……その中で私の仲間であるベンジャミンが、ある目撃証言を聞いて来た……【はじまりの街】付近で、帽子を被った青いコートを着た男と同じく帽子を被ったサングラスを掛けた赤い服の女を見たと言う証言だ」

 

「……あの世界出身のブルーメラモンの奴も同じ服装の男と女に連れ去られたと言っていたぞ」

 

 苦虫を噛み潰したような声でブラックは呟き、ゲンナイも顔を険しく歪める。

 その特徴に一致する人物達をブラックとゲンナイは知っている。だが、在り得ないのだ。

 何故ならばその人物達は死んだ筈なのだ。直接死ぬ瞬間は見ていないが、死んだ瞬間を目撃した者達が沢山いる。

 ゲンナイは目撃した者達から聞き、ブラックもオファニモンを通して確認した。しかし、死んだ筈の存在が目撃されている。ソレが意味する事は一つだけ。

 ブラックとゲンナイの脳裏にその可能性が浮かんだと同時に、空間ディスプレイを操作していたルインから報告が告げられる。

 

「ブラック様! 確かに言う通り、強力な電磁波が発生していました! ……ソレで酷似している電磁波が無いかと確認したところ……」

 

「……在ったんだな?」

 

「……はい。ブラック様から出ている電磁波に……酷似しています」

 

 世界に悪影響を及ぼしてしまうブラックの体。

 構成している物質は【ダークタワー】。ソレと同じ電磁波となれば、海底に在った物は一つだけ。

 【はじまりの街】の出身であるブルーメラモンの証言。海底に居たアノマロカリモンとメガシードラモンの不審な行動。其処から出ていたブラックが発する電磁波と酷似した電磁波。極めつけはゲンナイが告げた報告。

 此処までくれば考えられる事は一つしかない。

 その考えが浮かんだブラックは、胸の内から沸き上がって来る感情を抑え切れず、横の壁を右腕を振るい粉砕する。

 

「……生きて……生きてるのか。アルケニモン、マミーモン」

 

 粉砕した壁の瓦礫を踏みつけながら、ブラックは怒りと憎しみに満ちた声で呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 ミッドチルダ首都クラナガン。

 その首都内にあるとある喫茶店内で、自らのISであるシルバーカーテンを纏って姿を変えたクアットロは席に座ってある人物を待っていた。

 頼んだコーヒーを飲みながら静かに窓の外に見えるクラナガンの街並みを眺めていると、背後の座席に座っている人物が声を掛けて来る。

 

「ウーノは怒ってるわよ、クアットロ。出発時間に貴女が戻って来なかった事に」

 

「戻れる訳ありませんわ。色々と撹乱する為に行動しましたけれど、ソレで安心出来る相手では無いのですから……ドゥーエお姉様」

 

「……やっぱり、ウーノが言うように最初から戻る気は無かったのね、クアットロ」

 

「当然ですわ……あのガルルモンをこの手で殺すまで、私は此方の世界を離れる気はありませんもの」

 

 クアットロにとってガルルモン事ガブモンは、憎んでも憎み足りないほどの相手。

 その相手を放置して、スカリエッティと姉妹達と共に別の【デジタルワールド】に行く気は無かった。だから、他の姉妹達と共にでは無く、単独で任務に挑んだのだ。

 

「ソレに任務に望んで正解でしたわ……あの高町なのはが新たに得たデバイス。アレは今後の私達の行動に必ず支障を来たします」

 

 ゆっくりとクアットロは、手に持っていたデータディスクを背後に差し出した。

 ドゥーエはそのディスクを振り返る事無く受け取り、服の内ポケットに仕舞うと、ソレとは別に一枚のキャッシュカードをクアットロに差し出した。

 

「ドクターからの活動資金よ。貴女には、今後此方側で出現するデジモンのパートナーである人間の把握をお願いするらしいわ」

 

「……私の考えもドクターは御見通しと言う訳ですのね」

 

「クアットロ。私は今まで通り管理局への潜入任務を継続するから、余り力を貸せないわ」

 

「ご安心下さい、ドゥーエお姉様。私は強くなりましたのよ」

 

 そう、告げるとクアットロは背後を振り返る事は無く立ち上がる。

 そのまま会計を済ませると、喫茶店を出てクラナガンを行き交う人々の中に紛れ込み、姿を消したのだった。




次回からは久々の管理局サイドになります。
先ずは後々の六課の基礎となる部隊の立案辺りからです。

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