漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

41 / 49
更新遅れてすいませんでした。
次の投稿はなるべく早めにします。


険しき試練 Ⅱ

 フリートの試練を受ける事になったなのはは、とりあえず【レイジングハート・エレメンタル】の調子を確かめる為に泊まっていた建物の庭に家族とグレアム達、そしてガブモンと共に外に出た。

 それなりの広さがある庭で、なのはは待機状態の【レイジングハート・エレメンタル】を起動させる。

 

「レイジングハート・エレメンタル! セット・アップ!!」

 

stand(スタン) by(バイ) ready(レディ).set(セット) up(アップ).》

 

 桜色の魔力光と共に【レイジングハート・エクセリオン】の時よりも強靭になり、装飾が増えた白いバリアジャケットをなのはは纏った。

 長年管理局に勤めていたグレアム達は、今のなのはが纏っているバリアジャケットの強靭さを瞬時に見抜き、驚きながらバリアジャケットを見つめる。

 

「……コレは凄い。以前のなのは君が纏っていたバリアジャケットも防御力が高いタイプだったが、このバリアジャケットはソレを遥かに上回る防御力を秘めている」

 

「それなのにバリアジャケットを構成している魔力が少ないなんて……コレだけでもとんでもないわね」

 

「ロストロギアってのも間違いじゃ無いかもね」

 

「……ソレでなのは? 何か違和感を感じるかい?」

 

 門外漢故に詳しくは分からない士郎は、なのはに調子を確かめる為に質問した。

 聞かれたなのはは、確かめるように体を動かし、【レイジングハート・エレメンタル】を見つめる。

 

「……うん。大丈夫だよ、お父さん。でも、凄い。エクセリオンのフルドライブを持っているみたいに力を感じるの」

 

《現在システムの八十パーセントが使用不可能な状態ですが、ソレでも本機はエクセリオン時のフルドライブの機能を扱えます》

 

「ちょっと待って? フルドライブ時って事は、カートリッジシステムも使えるの?」

 

《いえ、使用不可能です。ソレでも本機はエクセリオン時のフルドライブと同レベルの性能を発揮出来ます》

 

 【レイジングハート・エレメンタル】が伝えた事実に、グレアム達は絶句した。

 【レイジングハート・エクセリオン】は様々な問題点は在ったが、管理局の技術者達が精魂を込めて造り上げたデバイス。そのデバイスをもってしても、エレメンタルの二十パーセント程度の機能と同レベル。

 残りの八十パーセントが使用不可能らしいが、もしもその機能が解放されたらどうなるのか想像する事も出来ない。フリートが言っていたロストロギアと言う呼称は、比喩ではなく事実だと悟る事が出来た。

 

「……とにかく、時間は残り少ない。なのは君が使ったと言うシステムに関してだけは詳細を知るべきだろう。何処まで彼女が言っていた事が本当なのかは分からないのだから」

 

「あの……少なくともフリートさんが言っていた事に嘘は無いと思いますよ。本当にコレは最後のチャンスなんだと思います」

 

 グレアムの発言に、ガブモンがフリートを擁護するように答えた。

 フリートは確かにマッドでは在るが、信念を持っている。【レイジングハート・エレメンタル】の行動が信念を刺激するような行動だっただけに怒っているが、少なくとも異常が発生するまではレイジングハートをなのはに返すつもりだったのは本当である。

 

「フリートさんが言っていた試練の内容には嘘は無いと思います。最初の試練は、本当に君が使う魔法しか使わないし、あの模造品を使ってしか戦わないと思う」

 

「『一撃を当てる』か……詳しくは分からないが、あの人は相当なハンデを背負っているのか?」

 

「……はい。正体を教えられないし、僕は魔法に関しては詳しくは分かりませんけど……多分恭也さんの言う通り、かなりのハンデだと思います」

 

 勉強はしているが、実際に魔法は使えないのでフリートがどれだけハンデを背負っているのかガブモンには分からない。

 だが、あの場には魔法に詳しいリンディとルインが居た。ルインはともかく、なのはに好意的なリンディがフリートが提示した試練の内容に文句をつけなかったのだから、かなりのハンデをフリートが与えているのは間違いない。

 

「という事は、二つ目の試練の内容は見えて来るよね、お父さん」

 

「そうだな、美由希……きっと本気の彼女が戦うという事だろう」

 

 二つ目の試練の【折れない】。

 古流武術を学んでいる士郎達にはその内容が自ずと分かって居た。古い技術が時に現代の技術を上回っている事は良くある事なのだ。

 特に魔法技術は過去の技術の方が優れている。現実に過去の魔法技術を用いた代物が現代では解析不可能な物が多く、ロストロギアと呼ばれているのだから。

 嘘か本当なのか分からないが、フリートが自重せずに物を造ればロストロギアに指定されると言うリンディの言葉を信じるならば、本気のフリートの実力は予測する事も出来ない。

 

「……とにかく、確かめて見るべきだ。なのは君」

 

「はい! レイジングハート!」

 

《エレメントシステム起動。シャインエレメント、セット・アップ!》

 

 何らかの起動音と共になのはが纏うバリアジャケットが淡い光を発した。

 しかし、それ以外に何の変化も起きず、グレアム、ロッテ、アリアは訝しむ。

 

「……魔力的に何の変化も感じないが」

 

「そうね。父様の言う通り、カートリッジ・システムみたいに魔力が増大しているようじゃないみたいだし」

 

「変わったところと言えば、バリアジャケットがちょっと光っているぐらいよね」

 

「なのはは何か違和感を感じるかい?」

 

 士郎の言葉になのはは確かめるように体を動かすが、やはりなのは自身も変化が感じられず首を傾げる。

 

「……何にも変わってないみたい。とりあえず、魔法を使ってみるね」

 

Protection(プロテクション)

 

 なのはの意思に応じて、レイジングハートは防御魔法を発動させた。

 だが、やはり変化をなのは達は感じられず、桜色に輝くだけのプロテクションを見つめる。

 

「やはり、ただの防御魔法のようだ」

 

「もしかして機能が壊れてるとか?」

 

《いいえ。効果は発動しています》

 

 美由希の言葉に、少しムッとしたようなレイジングハートの音声が即座に否定を発した。

 僅かな感情表現まで出来るほどのレイジングハートのAIの成長と、ソレを表現する機能に驚きを覚えながらも、グレアムが質問する。

 

「しかし、見たところ何の変化も無いようだが?」

 

《このシステムは変化が起きては行けないシステムなのです。多少バリアジャケットに変化が出てしまったのは、あの研究者も予想外だったのでしょうが、本来は決して変化を悟らせない仕様にされています。そもそも《エレメントシステム》は、対魔導師用システムでは在りません。対デジモン用のシステムなのです》

 

「僕もそう聞いています。協力する事になったんで教えますけど、実はデジモンには特性が在るんです」

 

『特性?』

 

「自分の有利な場所で、デジモンが戦った場合、そのデジモンの力は……二倍になるんです」

 

『に、二倍!?』

 

 ガブモンが告げた恐るべきデジモンの特性に、なのは達は騒然となった。

 有利な場所で戦った場合、力が二倍に引き上がる。魔導師で言えばAランクの魔導師が、AAランクの魔導師になると言う事である。以前なのはとヴィータが戦ったブルーメラモン達に一方的にやられてしまったのも、ソレが理由の一つだった。

 本来ならば互角か或いは僅かに劣る程度の実力だったブルーメラモン達の実力が、雪原と言う有利な場所だったが故に二倍に力が上がって居たのである。

 

「でも、その特性には弱点が在るんです。例えば炎系のデジモンが熱い場所で戦えば力が二倍になるけれど、水場で炎系デジモンが戦った場合、力が半減するんです。つまり、相性が良い場所で戦えばデジモンは強くなるけれど、逆に相性が悪い場所の場合は弱くなるんです。なのはと美由希なら今の説明で分かりませんか? 何で姿を消せるバケモンが昼間に襲って来なかったのか?」

 

「……そうだったんだ。呪いみたいな技を使って来るし、姿も隠せるのに昼間にやらなかったのか可笑しいなって思っていたけど、昼間だと弱くなるから出て来れなかったんだ」

 

 バケモンの必殺技である【デスチャーム】を受けた事が在る美由希は、確かにガブモンが言うように違和感を感じていた。

 姿も消せて、時間が少しかかるとは言え、相手を呪い殺せる【デスチャーム】。夜で人も居なかったので気配からバケモンを察知出来たが、もしも昼間で人が多かった場合は察知出来たともしても即座に反応出来たかは分からない。ソレだけの隠密能力を持っていた筈のバケモンが、何故昼間ではなく夜に襲って来たのか。

 その答えは今のガブモンの説明に寄って明らかになった。バケモンのような夜系のデジモンにとって、昼間は相性が悪過ぎる場所なのだ。

 

「なるほど。では、デジモンは相性が悪い場所や攻撃に弱いと言う事か」

 

「はい。バイオ・レディーデビモンがダメージを大きく受けたのも、今のなのはの魔法には【光】属性が宿っているからです」

 

「アレ? じゃあ、相性が悪い場所に連れて行けば弱くなるのだったら、あの【ベルフェモン】って奴も昼間は弱くなるの?」

 

「いや、そうでもないんです」

 

 デジモンの特性は確かに弱点に繋がる重要な事だが、ソレに頼り切っては不味い事になる。

 高位のデジモンになればなるほど、場所に寄る力の増減が厳しくなるのだ。例えばオファニモンクラスのデジモンが昼間に戦ったとしても力は残念ながら上がらない。強く神聖な光に満ち溢れている空間か、悪意に満ち溢れた闇の空間でしかオファニモンのデジモンの特性は発揮されない。

 【七大魔王】デジモンのその類で、例え昼間で日の光が溢れている場所でも力の増減の発揮される事は無いのである。

 

「バイオレディーデビモンクラスのデジモンなら、夜になれば有利になりますけれど、実は昼間でも実力が半減しないんです。でも、その反面弱点の属性攻撃には弱くなるんです。だから、【プワゾン】を砲撃で相殺出来たんだよ」

 

 通常の砲撃魔法ならば、バイオレディーデビモンの必殺技であるプワゾンを相殺する事は出来ない。

 何せプワゾンは一見すれば砲撃の類に見えるが、本質は全く違う攻撃の類。通常の砲撃魔法とプワゾンがぶつかり合えば、相殺出来ずに終わる。

 なのはがプワゾンを防げたのは、防いだ時に放ったディバインバスターに【光】属性が宿っていたからなのだ。

 

「あの時はレイジングハートが判断してくれたから良かったけれど、今度デジモンと戦う時は、先ずディーアークを使って相手のデジモンの情報を調べた方が良いよ。知って居た方が対処出来るからね」

 

「うん。分かったよ。ありがとう、ガブモン君」

 

 ガブモンの忠告になのはは頷き、バリアジャケットのポケットの中に入っているディーアークを取り出す。

 相手の情報を表示してくれるディーアークは確かに役立つ。フリートとの戦いや魔導師戦では役に立たないだろうが、大切に所持していようとバリアジャケットのポケットに戻す。

 その様子を眺めながら、恭也は士郎にフリートが提示した試練の内容の中で気になった事を小声で質問する。

 

「父さん……なのはにアドバイスするべきだろうか?」

 

「……いや、ソレはなのは本人が気が付いた方が良い事だ。今後もなのはが戦うなら、確かに必要な事だからな」

 

 フリートが言った試練の内容。

 最初の試練は、上手くすれば簡単に突破出来る可能性が在る。無論なのはが気が付けばなのだが。

 だが、士郎はその事をアドバイスするつもりは無かった。出来る事ならばなのはにはもう戦って貰いたくないという親心も在る。しかし、それ以上になのは自身が気が付かなければならない事だとも理解している。

 そう思いながらなのはを見ていると、今度は現在のエレメントシステムで使えるもう一つの属性をなのはは試し出す。

 

《ウィンドエレメント! セット・アップ!》

 

 起動音と共に淡く光っていたなのはのバリアジャケットの白い部分が、今度は緑色に染まった。

 しかし、染まっただけでなのはは変化を感じられず、残念そうに見つめる。

 

「……やっぱりバリアジャケットに変化が出るぐらいなのかな?」

 

「う~ん。僕もフリートさんにどんな効果が出るのか詳しく聞いてないから。デジモンに効果が在るのは良く分かるんだけど」

 

「とにかく、彼女に対しては効果が無いのならば使うべきでは無いだろう。使用するだけでもデバイスの処理に影響が出るのならば使わずに戦った方が良いかも知れない」

 

「分かりました」

 

 そう言ってなのははレイジングハートにエレメントシステムの起動を止めさせ、バリアジャケットは元に戻った。

 そのまま調子を確かめるように飛行魔法や誘導魔法などを使い、約束の時間ギリギリまで訓練を行ない出す。

 

 

 

 

 

 

 一方、なのは達と離れたフリートは、リンディに試験場所に指定された草原に運ばれていた。

 翡翠色の鎖に雁字搦めに拘束されながらも、目に映る大自然に研究意欲がどんどんフリートの中で沸き上がっていた。

 

「ヌウゥゥゥッ! す、凄い興味深いです!! リンディさん。逃げませんから、離して下さいよ」

 

「駄目よ。先ずは指定の場所についてから」

 

「……シクシク……少しぐらい良いじゃないですか?」

 

「貴女の場合はその少しが怖いのよ。ソレに離しても逃げられないわよ。分かって居るでしょう?」

 

「……えぇ、まぁ」

 

 フリートは落ち込んだ声で返事をしながら、自分達の背後をフヨフヨと浮かびながらついて来ているマリンエンジェモンに目を向ける。

 

「パピ~」

 

「……何でこっちに来るんですかね? 高町桃子さんに懐いていましたから、そっちに行くと思ってたんですけど」

 

「あの子は元々貴女の監視が任務だから。私としてはとても助かるわね」

 

「……私にとっては地獄です……ふえぇぇぇぇぇぇん!!」

 

「さて、そろそろ真面目な話をしましょうか? ……どうなの?」

 

「……試練の突破率は50%ぐらいですかね」

 

「思ったよりも高いわね」

 

 フリートが告げたなのはの試練の突破の可能性に、僅かにリンディは驚いた。

 アルハザードの技術を完全に秘匿したいと考えているフリートだけに、なのはが試練を突破出来る可能性は10%も無いとリンディは考えていた。

 

「一応試練ですからね。ちゃんと可能性は与えます。最も全部(・・)出し切ればの可能性です」

 

「……もしも出し切れなかった時は……いえ、なのはさんが魔導師として戦った場合は?」

 

「その時の可能性は……ですよ」

 

「……そう」

 

 告げられた可能性にリンディは目を伏せる。

 分かり切っていた可能性。だが、これから先の戦いに参加するのならば、フリートの試練を乗り越える事が出来なければ足手纏いでしかない。相手はソレだけ強大な存在なのだ。

 

「アレに気が付けますかね? 果たしてあの子は?」

 

「アレ?」

 

「いえ、魔力に属性を与えてみたらちょっと面白い結果が出たんですよ。十個も属性が在るのに、何で【光】と【風】の二属性が目覚めたと思います?」

 

「……【光】はバイオレディーデビモンに対する為に目覚めてくれたと思っていたけれど…違うのかしら?」

 

「違いますよ。高町なのはと相性が良い属性が偶然【光】と【風】だっただけです。まぁ、気が付けばの話。難しいでしょうけど、気が付く事が出来れば最初の可能性に近づけます」

 

 フリートはそう言うと口を閉ざした。

 これ以上ヒントを与えるつもりは無いらしい。リンディは【エレメントシステム】の機能を詳しくは知らない。対デジモン用に【十闘士】の属性を魔法に与えるシステムとしか聞いていない。

 と言うよりも、レイジングハート・エレメンタルに関しては次から次へと異常な出来事が起き続けているので、製作者であるフリート本人が把握し切れてないので、魔導師では無くなったリンディには尚更分からない。

 

(一体どう言う意味なのかしら? なのはさんと相性が良いのは【光】と【風】。その二つが優先して目覚めた意味? どういう事なのかしら?)

 

 疑問を考え込みながらリンディは前へと進むが、幾ら考えても答えが出る事は無く頭を悩ませながら目的地の草原に辿り着く。

 辿り着くと同時にフリートの体をグルグル巻きにしていた翡翠色の鎖が消失し、体の自由が戻る。

 戻ったと同時にフリートはリンディの肩から降りて、すぐさま体を伸ばし出す。

 

「う~ん!! 漸く解けました。と言う訳で、すぐさまやる事は、研究ッ!!」

 

 即座にフリートは草原に生えている草花や土など採取し出す。

 そのまま白衣の中から取り出した検査機器を取り出して、入念に検査し出した。

 

「……採取ぐらいは探査機器を使ってやっていると思っていたけど?」

 

「やってましたよ! だけど、こうして外に出たんですから、改めて確認したいんですよ!」

 

 そう言うとフリートは地面に膝をつき、そのまま採取を続け出す。

 呆れたようにリンディはその背を見つめ、マリンエンジェモンも呆れたように息を吐きながらリンディの肩に乗る。

 

「ご苦労様」

 

「ピプ」

 

 気にするなと言うようにマリンエンジェモンはリンディの頬に小さな手を当てた。

 マリンエンジェモンとしては桃子と一緒に居たいが、オファニモンからの指示を無視する訳にも行かない。

 何よりも考えている事を実行する為にも、余りオファニモン達への心証を悪くする訳には行かないのである。

 そうマリンエンジェモンが考えているとは思っても居ないリンディが、楽し気に草木を採取し続けているフリートを見ていると、背後にルインを肩に乗せたブラックが降り立つ。

 

「予想通りフリートはやってますね」

 

「えぇ、分かり切った事だったけれど……そう言うルインさんの方は調子はどうなの?」

 

「まだ本調子には戻り切れていません。私の再生能力を上回るダメージでしたから」

 

 ブラックとのユニゾン状態でルーチェモンから受けたダメージは、ルインの再生能力が受けきれるダメージを超えていた。

 完全覚醒したルインはアルカンシェルの一撃だろうと堪え切る自信が在ったが、ルーチェモンの必殺技である【グランドクロス】はアルカンシェルを上回っている。実際、ルーチェモンが【グランドクロス】を放った場所は、災害が吹き荒れる危険地域に指定されたままである。

 災害級の攻撃と言うと両方とも同じであるが、アルカンシェルが入念な準備の必要な魔導兵器に対して、【グランドクロス】はルーチェモン個人で何時でも放つ事が出来る技。どちらの方は脅威が上なのかは言うまでもない。

 

「……次は勝つぞ、ルイン」

 

「はい、ブラック様」

 

 ブラックの決意にルインは迷う事無く答えた。

 確かに今回は敗退した。だが、ブラックとルインも負けたままでいるつもりは無い。必ずルーチェモンを倒してみせると決意を固めていた。

 

「ダークエリアに行くつもりだったが、その前にオファニモン達が言っていた()を見つけ出す」

 

「……あのデジモンと戦う気なの?」

 

「あぁ、奴もまた最高の獲物だからな。戦える時が楽しみだ」

 

「やり過ぎないように気を付けてね」

 

 言っても止まる事が無いブラックを知っているだけに、リンディが言えたのはソレだけだった。

 その間にもフリートは止まらず、検査機器に表示されるデータを楽し気に見つめて笑い出す。

 

「ナハハハハハハハハハハハハッ!! す、素晴らしいですぅぅぅぅーーーーーーー!!! この草木や土は地球の草木と土の成分と一致している! 別世界同士では成分の違いが在るのに、【デジタルワールド】と【地球】は全く同じ!! コレは二つの世界が双子世界だと言う証明! にも拘わらず、【デジタルワールド】と【地球】では違う点が多い!! ア~! とっても興味深い!! もっと詳しく研究を!!」

 

「あぁ、そう言えば来る途中で街路樹の葉っぱや土を採取してましたね。そのまま何処かにフラッと行きそうになって、ブラック様に殴られてました」

 

「……やっぱり、そんな事になってたのね。ハアァァァッ、コレから大変になりそうね」

 

 アルハザードから外に出られる様になっただけに、フリートの危険性は飛躍的に増した。

 本人は自重しているつもりでも、途轍もないウッカリ屋なだけに何をやらかすか分からない。本人的にはちょっとのつもりでも、何かをやるだけで大惨事に繋がる可能性を秘めているのがフリートなのである。

 その危険性を減らす為にも、自身の肩に乗っているマリンエンジェモンをアルハザードに派遣出来ないかとリンディはオファニモンに頼むつもりだった。

 

(何としてもマリンエンジェモンちゃんには来て貰わないと)

 

「ピプ~!」

 

 突然マリンエンジェモンが鳴き声を上げながら、小さな手を伸ばした。

 その先にはガブモンを先頭にしたなのは達が歩いて来ていた。

 

「フリートさん。なのはさん達が来たわよ」

 

「……ハァ~、もう時間が来たんですか。もうちょっと研究していたかったんですけど……やりますか」

 

 何時になく真剣な顔をしながら、フリートは検査機器と採取して試験管に容れた物を白衣の内ポケットに仕舞いながらリンディ達から離れて行く。

 その動きに続き士郎達は足を止めるが、なのはだけは足を止めずに付いて行く。

 二人は他の者達から一定の距離を離れると、互いに向き合う。

 

「さて、一時間前にも言いましたが、試練を受けるつもりは変わりませんね?」

 

「はい」

 

「なら、始めましょう。最初の試練、私に『一撃を当てる』を。エクセリオン」

 

 フリートの右手に【レイジングハート・エクセリオン】が瞬時に展開された。

 なのはも即座に【レイジングハート・エレメンタル】を起動させ、バリアジャケットを身に纏った。

 

「では、始めます! アクセルフィン!!」

 

「レイジングハート!」

 

Accel(アクセル) Fin(フィン)

 

 フリートの両足からは白い魔力光の羽が、なのはの両足には桜色の羽が発生し、二人は空へと飛びあがった。

 先に先行したのはなのはだった。まだ、フルドライブを起動させていない故に、エクセリオンとエレメンタルでは差が出ている。

 その差を認識していていたなのはは、即座にフリートの先を取りエレメンタルの矛先をフリートに向かって構える。

 

「ディバインシューター・フルパワー!! シュート!!」

 

 八個の生成されたスフィアからディバインシューターは撃ち出され、フリートに向かって行く。

 対するフリートは瞬時にエクセリオンを構えるが、迷う事無く頭上に高く放り投げた。

 

「えっ!?」

 

 自らのエクセリオンを手放したフリートの行動になのはは驚き、一瞬だけ動きが止まってしまう。

 その一瞬だけでフリートにとっては充分だった。瞬時に両足に展開させていたアクセルフィンを、同時に(・・・)加速させ、ディバインシューターの包囲から抜け出し、先ほど投げたエクセリオンを掴み取り、矛先をなのはに向ける。

 

「アクセルシューター、ファイヤ!」

 

「クッ!」

 

 迫って来る四つのホーミングレーザーに匹敵する速さのアクセルシューターを、なのははプロテクションを発動させて防ごうとする。。

 ディバインシューターを操作しながらプロテクションで防ぎ、アクセルシューターを防ぎながらディバインシューターをフリートに当てようと、なのはは考えたがフリートが放ったアクセルシューターはプロテクションに当たる直前に動きを変えてディバインシューターに向かって行く。

 

「ッ!?」

 

 その動きになのははフリートの狙いを悟った。

 アクセルシューターはディバインシューターの発展形。その中での明確な差はアクセルシューターは相手の攻撃の迎撃が可能と言う点。

 なのはの予想通り、四つのアクセルシューターはなのはが操作するディバインシューターを正確に撃ち落として行く。完全に自身の操作が見切られている事を悟ったなのはは、悔しさを感じながらもフリートに向かってエレメンタルを向ける。

 

「(アクセルシューターを操作している時には動けない筈! 今の内に)……ショートバスターー!!」

 

 最速の砲撃をアクセルシューターを操作していて動けない筈のフリートに向かって、なのはは撃ち出した。

 だが、一直線に迫って来る砲撃に対してフリートは僅かに右足(・・)のアクセルフィンを動かし、砲撃を躱した。

 その動きになのはは目を見開く。アクセルシューターを使用していながら移動したのも含めてだが、今のフリートの動きには何か違和感を感じたのだ。

 

「レイジングハート。今の?」

 

《詳細は解析中。ですが、アクセルシューターを使っていながら移動出来た謎は判明しています。敵は……ディバインシューターを迎撃するのに必要な威力しかアクセルシューターに込めず、八個のディバインシューターの迎撃と同時にアクセルシューターは消滅しました》

 

「……嘘?」

 

 一瞬、なのははレイジングハートが告げた事実を信じられなかった。

 相手の魔法を迎撃する事はなのはも出来る。だが、正確に相手の魔法を迎撃する為だけに魔法を使用し、迎撃を終えると同時にアクセルシューターを消滅させるのは出来ないとしか言えなかった。

 何せほんの僅かな差だけでアクセルシューターは消滅する事無く留まる。何よりも数はディバインシューターの方が数は多いのだ。アクセルシューターでそれぞれ二発ずつディバインシューターを撃ち落としたとしても、撃ち落とし終えると同時にアクセルシューターも消滅させる事は出来ない。

 なのはは知らなかった。そのような不可能に近い事をやってのける存在がフリートなのだと言う事を。

 

「考え事で止まっていられるなんて、余裕ですね?」

 

「ッ!?」

 

 何時の間にかすぐ傍に来て肩にエクセリオンを担いでいるフリートに気が付いたなのはは、慌てて離れる。

 その気ならば今の隙に攻撃する事がフリートには出来た筈。なのに、攻撃して来なかった事に違和感を感じながら離れたと同時に光の輪がなのはの腰辺りに出現して拘束する。

 

「レ、レストリロック!?」

 

「貴女の弱点その一、砲撃や射撃が主な魔法なので、予測してない接近には思わず離れてしまう。カートリッジロード」

 

Buster(バスター) Mode(モード)

 

 カートリッジロードと共にエクセリオンは変形し、バスターモードに変わった。

 そのまま矛先をレストリロックに拘束されているなのはに向ける。

 

「ディバインバスター」

 

 白い光の砲撃がなのはに向かって撃ち出された。

 

「(今だ!)レイジングハート!!」

 

Bind(バインド) Break(ブレイク)!》

 

 既に解析を終えていたフリートが使用したレストリロックは一瞬の内に破壊された。

 レストリロックは元々なのはの魔法。多くのバインドの中で最も簡単にバインドブレイク出来る魔法。

 一瞬にして拘束から解放されたなのはは、そのまま高速移動魔法を使用する。

 

Flash(フラッシュ) Move(ムーブ)

 

 アクセルフィンとの同時使用で砲撃を回避し、一気にフリートとの距離を稼ぐ。

 砲撃を放った直後で動きが止まっているフリートに向かってエレメンタルを構える。

 

「決めるよ!! ディバインバスターー!!」

 

《Divine Buster》

 

 バリア貫通効果を付加したなのはの一撃が強力無比な一撃がフリートに迫る。

 当たるとなのは、そして地上に居るグレアム達は確信する。だが、その確信は。

 

「ツイン・アクセルフィン……最大加速」

 

 フリートの両足から発生した急激な加速によって破られた。

 残像が幾重にも見えるほどの急激な加速。その動きはなのはが知っている高速機動を得意としているフェイトを完全に上回り、そして完璧に制御し切っていた。

 反射的になのははプロテクションを全力で発動させた。その動きに加速移動しながらフリートは笑みを浮かべながら告げる。

 

「良い判断ですよ。ショートバスター」

 

 フリートが放った砲撃がなのはのプロテクションに直撃し、爆発を引き起こした。

 爆煙が巻き起こる場所をフリートは見つめる。煙が徐々に晴れて行き、息を荒くしながらエレメンタルを握る右手を左手で握るなのはが姿を現す。

 

「デジバイスに救われましたね。ショートバスターが直撃する瞬間、プロテクションをバーストさせて直撃を逃れた」

 

「……私も分かりました……貴女が使っているアクセルフィンの正体……左右の足……それぞれに別々(・・)のアクセルフィンを使っているんですよね?」

 

「正解です。私は貴女の魔法しかこの試練では使いませんが……貴女と同じように使うとは言っていませんからね」

 

 簡単にフリートは言っているが、なのははその意味に戦慄と恐怖を感じた。

 通常飛行魔法は一度使用すればそれだけで充分なのだ。同時に左右の足にそれぞれアクセルフィンを使用するなどなのはは考えた事は無い。いや、魔導師ならば誰もが考えもしない。

 何せそれぞれバランスを取らなければならなくなる。僅かに出力の違いが出るだけで、使用者のバランスは崩れて最悪の場合は自滅してしまう。だが、フリートはソレをまるで何でもないと言うように平然としている。

 地上に居るグレアム、リーゼロッテ、リーゼアリアはフリートの異常さを悟った。

 アレは違う。魔導師ではない別の何かだとなのは、グレアム、リーゼロッテ、リーゼアリアは悟った。

 その中でリンディは、フリートが告げたなのはが魔導師として戦った場合の可能性を思い出す。

 

『その時の可能性は0%ですよ』

 

「さぁ、続きを始めましょうか」

 

 エクセリオンを構え直しながら、フリートは試練の続きを宣言し、なのはも慌ててエレメンタルを構え直すのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。