本年も宜しくお願いします!
なのは達が最初に【デジタルワールド】にやって来て一夜過ごした【火の街】から、十キロほど離れた場所に在る草原で、バリアジャケットを纏い、【レイジングハート・エレメンタル】を握ったなのはが地面に倒れ伏していた。
なのはが倒れ伏している場所から少し離れた場所には、心配そうになのはを見つめる高町家の面々に、信じられないようなモノを目にしたように体を震わせるグレアム、アリア、ロッテが立っていた。リンディとルイン、クイント、ブラック、そしてガブモンの姿も在るが、クイントを除いた四人は目の前の結果は当然だと言わんばかりになのはを見ている。
そしてゆっくりと空から、【レイジングハート・エクセリオン】の模造品を右手に持ったフリートが、地面に倒れ伏しているなのはの前に降り立つ。
「……コレが貴女が学ぼうとしているモノです。さて、聞きますよ。学ぶ気は在りますか? 高町なのは」
何時ものマッド的な雰囲気が消え、何処までも冷徹さに満ちた目と声でフリートはなのはに問いかけた。
何故フリートと戦い、地面に倒れ伏す結果になったのか。話は数時間前に遡る。
一夜明けた翌日。
【デジタルワールド】で滞在した屋敷の一室で、なのは達は窓から差し込む朝日の光を浴びながら起きた。
昨夜見たベルフェモンと恐怖の存在を映像越しとは言え、見た影響で誰もが眠れないと思っていたが、マリンエンジェモンのおかげで解消されていた。
恐怖で眠れずに居るなのは達にマリンエンジェモンは必殺技である【オーシャンラブ】を使用したのである。
マリンエンジェモンの必殺技は応用出来る範囲がかなり広い。デジモンの中でも他の者の傷を癒したり出来る技を使えるデジモンが少ない中で、マリンエンジェモンは使用する事が出来る。直接的な攻撃力は究極体の中では低いが、その分サポート面でマリンエンジェモンは上位に位置しているからだ。
「ピプッ!」
「朝食を持って来ました!」
朝起きたなのは達に、マリンエンジェモンとガブモンは朝食を運んで来た。
手早くなのは達に朝食が載ったトレーをガブモンが渡して行くが、誰も手を伸ばさせずにいた。
眠りから目覚めた事で誰もが理解してしまった。昨夜見せられた悪夢としか言えない光景が紛れもない事実である事を。
「え~と……余り食欲は無いかもしれないけど……とりあえず、食事だけはとっておいた方が良いですよ」
「ガブモンの言う通りじゃ」
「うん。お腹が空いて居たら力も出ないしね」
「クラ~!!」
ガブモンに続くように腰に腹巻き巻いた白い体のデジモン-【ボコモン】-と、長い胴体を持って赤いズボンを履いた眼の細いキツネのような顔立ちのデジモン-【ネーモン】、そしてボコモンの頭絵の上に乗った丸い身体に一つだけ目が在るデジモン-【クラモン】-が部屋に朝食を持ちながら入って来た。
ボコモン、世代/成長期、属性/ワクチン種、種族/突然変異型、必殺技/逃げ足猛ダッシュ
腹巻きを巻きオヤジのような姿をした突然変異型デジモン。デジモン界の学者でデジタルワールドの様々なことが書かれている『もの知りブック』を持っているが、あまり他人に見せてはくれない。必殺技は、勝てそうも無い相手に出会った時に猛ダッシュで逃げ出す『逃げ足猛ダッシュ』と言う、全く技とは言えない技だ。
ネーモン、世代/成長期、属性/データ種、種族/獣型、必殺技/狸寝入り、あれ?
いつもボーっとしてノンキな性格の獣型デジモン。ボコモンと一緒に居ることが多くネーモンのグータラさにイラついて、よくゴムぱっちんをされる。強いのか弱いのか、謎多きデジモンの1体。必殺技は、ピンチの時に寝たフリをして誤魔化す『狸寝入り』に、お腹に溜めたガスを膨らまして、体を爆発させ、爆発と同時に本体は瞬間移動を行う『あれ?』だ。
初めて会う三体のデジモンになのは達は顔を見合わせると、ガブモンが説明する。
「三人を紹介します。この火の街で幼年期デジモン達の保父をやっているボコモンさんとネーモンさんに、クラモンです」
「初めましてじゃ、地球から来た皆さん。ワシはボコモン」
「ボクはネーモン。それとこっちがクラモンだよ」
「クラ~!」
ボコモン達は自己紹介を行ないながら、なのは達に朝食を手渡して行く。
なのは達も戸惑いながら自分達の名を告げ、ボコモンは頷くと共に腹巻きの中から【もの知りブック】を取り出す。
「さて、ワシらが此処に来たのは何も朝食を運びに来ただけじゃなく、お前さんらに【デジタルワールド】の歴史を話す為なのじゃ」
「ボコモンさんは学者なんです。何よりもボコモンさんとネーモンさんは、昔ルーチェモンが復活した時の戦いを最後まで見て経験したデジモン達なんです」
「……では、聞かせて欲しい。一体どうやって、あの恐ろしい【ベルフェモン】と言う生物と同格だと言うルーチェモンを倒せたのかを……やはり、より強いデジモンの力なのかね?」
「確かにルーチェモンを倒したのは【十闘士】の集合体のデジモンである【スサノオモン】じゃ。じゃが、【スサノオモン】はただ強いデジモンではない。【スサノオモン】が再び現れる為には……人間の力が必要なんじゃよ」
ボコモンは懐かしむような顔をしながら語り出す。
嘗てこの世界に訪れ、【十闘士】の力を受け継ぎ、新たな伝説を築いた六人の少年少女の冒険譚を。
なのは達が【デジタルワールド】の歴史を学んでいる時、ブラック達はオファニモン達と昨夜から引き続いて今後の自分達の動きに関して協議を続けていた。
他の【デジタルワールド】から援軍がやって来るとは言え、次元世界は広い。ルーチェモン達が次元世界に放逐したデジモン達の保護も優先すべき事項であり、ルーチェモンと倉田の捜索も続けなければならない。更に今後現れるであろう【選ばれし者】にも気を配らなければならないのだ。
やる事は多く、事は慎重に進めなければならない。その上、オファニモン達から告げられた捜索すべきデジモンの存在も在る。
「……まさか、あのデジモンが生きていて此方の世界に送られていたとはな。イグドラシルも倉田の存在を危険に思っていたという事か」
「出来れば、その情報をロイヤルナイツの方々に知らせてから眠りについて欲しかったわね」
楽し気なブラックの言葉に、知識として知っているリンディが答えた。
その件はオファニモンも内心ではリンディの言葉に同意しながらも、その件は仕方が無いと思っていた。
「あの時はイグドラシルも【デジタルワールド】と【地球】の問題を優先していたのでしょう。それに、幾らイグドラシルでも時空の乱れが酷い状態で倉田の捜索は難しかった筈です。それでも眠りにつく前にあのデジモンを送り込んだ判断は間違っていません」
「まぁ、まさか、多くの世界に手を伸ばしている組織が居て、その組織に保護されてしまったのは予想外でしたでしょうからね……しかし、問題は、その最初に倉田が迷い込んだ世界が分からない事ですね」
別の【デジタルワールド】の管理者であるイグドラシルが送り込んだデジモン。
ブラックとリンディは知識としてそのデジモンがどれほど頼りになるデジモンなのか知っている。これから来るであろう援軍と合わせれば頼もしいのだが、問題が在った。
それはブラック達が倉田が最初に現れた世界が何処なのか知らない事だった。管理世界なのか、それとも管理局が手を伸ばしていない管理外世界なのか。
管理世界に現れたのなら、何らかの別世界に渡る手段を得て他世界に移動している可能性も在る。逆に管理外世界なら、その世界に留まっているだろうが、デジモンと言う特殊な生命体の存在を隠す為に隠れている可能性もある。
「……フリート殿? 貴殿ならば捜索は可能か?」
「……難しいですね、セラフィモン。確かに探索機器を使って捜索するのは可能ですが、件のデジモンがどんなデジモンなのか私は知りませんし。その上、管理局が手を伸ばしている世界は多過ぎます。早期に見つけるのは残念ながら不可能です」
フリートは確かにデジモンを見つけられる探査機器を造り上げた。
だが、ブラックのような特殊な存在でも無い限り、目的のデジモンを見つけられるほど機器は出来ていない。今後【デジタルワールド】で研究が進めば、デジモンの世代ぐらいまでは調べられるだろうが、其処までが現状の限界だった。
管理局内に倉田に関する情報が残って居れば話は早かったが、デジモンに恐ろしさを知っている倉田は徹底的に自分の情報を抹消して姿を隠した。その為、最初に現れた世界がどの世界なのかが分からないのだ。
「……現状出来るのはデジモンの反応が出たら、即座に調べに向かうしかないでしょう」
「歯がゆいけれど、ルインさんの言う通りそれしか無いわね」
現状では迂闊な事は出来ないと言う方針を変える事は出来ない。
焦ればソレだけルーチェモン達に付け入る隙が出来てしまう。方針としてはルーチェモン達に連れ去れたデジモン達の保護を優先し、フリートと隠密デジモン達の情報収集でエネルギー関係のロストロギアを見つけ次第に向かうと言う手段しかない。
【七大魔王】の覚醒には膨大なエネルギーが必要になる。管理局から幾つロストロギアを奪ったのかは分からないが、必ず足りなくなって何らかのアクションを行なう筈なのだ。
「……スカリエッティと手を結んだとなれば、あのロストロギアが目下の目的かも知れん」
「【レリック】ね」
ブラックの知識の中に在ったロストロギアの名称をリンディが告げた。
「詳細な効果までは謎だったけれど、確かにアレは膨大なエネルギーを宿したロストロギアだった筈だわ。それに確かルーチェモンがロイヤルナイツの方と戦った時に赤い宝石を飲み込んで進化したらしいし……もしかしたらソレが、【レリック】なのかも知れないわ」
「ならば、スレイプモンから得た情報を元に隠密デジモン達に捜索させよう」
「発見しても回収はするな。奴らが狙っているとなれば餌として使えるからな」
【レリック】を回収してエネルギー確保の邪魔をする事は出来る。
だが、結局のところは対処療法でしかない。【レリック】が駄目だと分かれば、今度は別手段でエネルギー確保に乗り出すのは分かり切っている。最悪の可能性としては、【デジタルワールド】に攻め込み、【デジタルワールド】を吸収する可能性が出て来てしまう。
そうなれば最悪としか言えない。以前は早い段階で【デジタルワールド】のデータをルーチェモンから取り戻す事が出来たので影響は余り無かったが、もしも長期間奪われたままだったら、【地球】にも悪影響が起きる。
「今のところは辛抱するしかないでしょう……さて、方針は大体決まりましたので次の話です。コレに関して」
そう言いながらフリートは白衣のポケットの中から待機状態の【レイジングハート・エレメンタル】を取り出し、テーブルに載せた。
三大天使は顔を険しくし、【レイジングハート・エレメンタル】に視線を向ける。彼らは感じた。
【レイジングハート・エレメンタル】から、【十闘士】の力を。
「解析した結果、全機能の内二十パーセントが使用可能になり、【エレメントシステム】も【光】と【風】の二属性だけは使えるようになっています。そしてプロテクトは私が施した物とは全く違うプロテクトに変質しています。何よりも試しに起動しようとしたら」
フリートが【レイジングハート・エレメンタル】に手を伸ばし、起動させようとした瞬間、ビリッと言う音が鳴り響いた。
分かり切っていた結果にフリートは溜め息を吐きながら、軽い火傷を負った手の治癒を瞬時に行なう。
「こうなる訳です。本当に困った子になってくれましたよ。製作者の私が起動出来ないとなれば、恐らく起動出来るのは……」
「彼女……【選ばれし者】と言う訳ですか」
新たに【デジタルワールド】の守護の力を得たなのは。
なのはに関しては出来る事ならば協力して貰いたいとオファニモン達は思っている。だが、無理強いをするつもりは無い。無理やり戦わせたとしても足手纏いにしかならないのだから。
その方針を伝えようとオファニモンが告げようとした瞬間、部屋の扉が開きガブモンが入って来る。
「失礼します。え~と、皆さんが昨夜の続きを聞きたいらしくて」
「……そうですか。分かりました。入って貰って構いません」
「それじゃ、すぐに連れて来ます」
オファニモンの言葉にガブモンは頷くと、すぐに部屋を出て行った。
それから十分ほど経過し、昨夜と同じようになのは達は椅子に座り、オファニモン達と対面していた。
「それでは話の続きを求められたようですが、何を聞きたいのでしょうか?」
「……代表して私が質問するが、昨日恐らく意図的に見せないようにしていた場面を見せて貰いたい。あの【ベルフェモン】を倒した場面を」
グレアムがそう質問すると、オファニモンはなのは達に視線を向ける。
全員が頷き、ボコモン達が【デジタルワールド】の歴史を話したのだとオファニモン達は察する。
「分かりました。では、ご覧下さい」
オファニモンは槍を出現させ、床に柄を打ち付ける。
同時に昨夜と同じように部屋の光景が変わり、昨夜意図的に見せないようにしていた【ベルフェモン】が倒される場面が映し出される。
映し出されたのは男性-【大門大】とそのパートナーデジモンである【シャイングレイモン】が【ベルフェモン】に挑む光景。
大が-グレアム達は知らないが-【デジヴァイスバースト】に手を翳すと、【デジヴァイスバースト】からデジソウルが溢れ出し、シャイングレイモンを【バーストモード】へと変化させた。
「あの形態を彼らは【バーストモード】と呼んでいます。一時的に力を爆発的に高め、その力は究極体を超える力となります。この力はデジモン単体では決して発揮出来ない力なのです」
オファニモンの説明と共に、【バーストモード】へと変化したシャイングレイモンは、その前の戦いでは一方的にやられていたにも関わらず、【ベルフェモン】を追い込んで行く。
そしてシャイングレイモン・バーストモードの手から大が飛び出し、【ベルフェモン】の腹部に在った倉田らしき顔を殴り飛ばし、【ベルフェモン】は消滅した。
圧倒的な存在感を放ち、不完全ながらも魔王としか呼べない【ベルフェモン】の消滅の瞬間に、なのは達はやはり言葉も無かった。
「この力こそ倉田とルーチェモンが恐れる力。【デジモンと人間の絆】の力なのだ」
「この力は正しき方向に進めば、世界を救うほどの力へと至る事が出来る。この後に起きた【地球】と【デジタルワールド】の危機も、【デジモンと人間の絆】によって防がれた」
「だからこそ、彼らは恐れていた。この力が此方の世界で発現する事を。そしてその力は遂に目覚めたのです」
カァンッと言う音が鳴り響くと共に、部屋の光景は元に戻る。
そしてなのはは恐る恐るポケットの中から【ディーアーク】を取り出した。
突然自身の前に出現し、デジモンに関するデータを表示し、ガブモンを完全体へと進化させる事が出来た謎の機械。
リンディが言っていたように、【ディーアーク】は選ばれたと言う証明だったのだ。世界と言う常識では考えられない何かによって。
「貴女の持つソレが出現したのは、私達も感知していました」
「故にブラックウォーグレイモンから君の事を知らされ、この地に来る事を認めたのだ」
本来ならば既に管理局からルーチェモン達が離れたとは言え、管理局に所属する者達が【デジタルワールド】で行なった事を赦す事は出来ない。
今も無辜のデジモン達が次元世界の何処かで彷徨っている事は、何としても解決しなければならない事態なのだ。ルーチェモンに進んで協力しているデジモン達はともかく、連れ去られて次元世界に放逐されたデジモン達は違うのだから。
その為に【デジタルワールド】に選ばれたなのはには協力して貰いたいのが、オファニモン達の本音である。
「改めて言いましょう。どうかこの事態の解決に力を貸してくれませんか?」
「……我々に管理局を裏切れと? 確かに管理局の裏は酷いモノだったが、今その管理局は変わろうとしているのだ」
「勘違いをしないで貰いたい。私達は協力しようと言っているのだ」
「……つまり、管理局との仲介を私達に願いたいと言う事かね?」
「あくまで知らせるのは上層部の一部のみ。しかも信頼出来る者だけと言う条件です、グレアムさん」
グレアムの疑問にリンディは補足するように答えた。
管理局そのものをオファニモン達は信じてはいない。あくまで現状の管理局を変えようとしている者達と手を結びたいだけなのだ。
【ディーアーク】まで出現してしまった時点で、世界の混乱は必ず起きてしまう。その混乱を最小限に抑える為にも、管理局の上層部の一部とオファニモン達は交流を持つしか無いのだ。
「恐らくコレからデジモンに関する事件は大きくなって行くでしょう。ルーチェモンに協力するデジモン達も活発に動き始めると見て間違いありません」
「恐れていた力の目覚めは、ルーチェモン達に危機感を抱かせる筈だ。だからこそ、そうさせない為にデジモンと人間が互いを憎しみ合う様に仕向けてくる筈だ。完全体だけではなく、究極体も姿を現す可能性が在る」
「……選択肢は無いと言う訳か。分かった。三提督の仲介を約束しよう」
どちらにしても早急な対策が必要になるのは間違いなかった。
ルーチェモンにしてもベルフェモンにしても、どちらが現れても天災級の被害が引き起こされるのは予想出来る。それに対抗する為にもオファニモン達の提案を受け入れるしか無いのだ。
とりあえずの協力体制を得られた事にオファニモン達は安堵すると、フリートへと視線を向ける。
向けられたフリートは頷き、ゆっくりと机の上に【レイジングハート・エレメンタル】を載せた。
「あっ! レ、レイジングハート!?」
ブラックに持ってかれたレイジングハートを目にしたなのはは、思わず喜びの声を上げた。
ソレに対してフリートは無言のまま魔力を使って【レイジングハート・エレメンタル】を浮かせ、なのはの手元に送る。
一切の無駄がない魔力制御に、歴戦の魔導師であるグレアムやクロノの師であるアリアとロッテは、フリートの実力を察して目を見開く。
なのはは自身の前に移動されたレイジングハートに思わず手を伸ばそうとするが、その前にフリートが口を開く。
「待ちなさい。ソレを受け取るには試練を受けて貰います」
「し、試練?」
「そう。試練です。先ず最初に話しておきますが、ソレはもう貴女が知るレイジングハートでは在りません。あなた達風に言えば、ロストロギアです。因みに管理局と言う組織に調べられたら最後……永久封印指定は先ず間違い無いでしょうね」
『なっ!?』
「えっ!?」
フリートが告げた事実に思わずロストロギアについて詳しいグレアム達となのはは思わず叫び、【レイジングハート・エレメンタル】を見つめる。
「まぁ、信じられないでしょうが、私が自重せずに造った物ですからね。出処が分かれば、絶対に管理局は封印指定にするでしょう」
「あ、アンタ一体? じょ、冗談でしょう?」
「ロッテさん。冗談だと思いたいでしょうけど、この人の場合は自重しないと普通に造った物が全部ロストロギアになるとんでもない人なのよ」
『ハッ?』
リンディの言葉にグレアム達は思わず呆気に取られて、フリートに視線を向けた。
「私の正体に関しては後ほど。其処に居る高町なのはさんが試練を乗り越えられたら教えましょう」
「あ、あの……し、試練ってどんなのですか?」
「試練の内容は二つ。『私に一撃を入れる』事と『折れない』事、この二つです。あっ、先に言っておきますが、最初の試練で私が使うのは貴女が使える魔法限定で、使うデバイスはこの子です。セット・アップ」
フリートが呼びかけると共に右手の先に次から次へとデバイスのパーツが出現し、組み上がって行く。
そして組み上がった後には、なのはが使っていたデバイスである【レイジングハート・エクセリオン】が現れた。
「えっ! レ、レイジングハート!?」
「正確に言えばカートリッジシステムやら何やらの問題点を改修した【レイジングハート・エクセリオン】の模造品です。ハァ~、本当はコレにAIを組み込んで渡す予定だったんですけどね。まぁ、もう関係ない話ですけど……それで試練を受けますか?」
「……もし、その試練を受けなかったらレイジングハートはどうなるんですか?」
「もちろん、徹底的に分解して研究します」
「ッ!?」
「悪いんですけど、その子には本当に何度も危機感を覚えさせられて怒っているんですよ。最初の一度ぐらいは私にも責任が在るんで見逃しましたが、二度目は別です。その子は本当に不味い事をしてくれたんですからね」
流石に【レイジングハート・エレメンタル】の行動はフリートの許容限度を超えた。
ブラックの言う通り【レイジングハート・エレメンタル】は興味深い対象では在るが、ソレでも【レイジングハート・エレメンタル】は最も危険な行動をした事に変わりはない。
なのはがこの試練を受けないと言うのなら、最早迷う事ない。即座に【レイジングハート・エレメンタル】をフリートは分解するつもりだった。
フリートの事を良く知らないなのはだが、今の言葉には嘘は無いという事だけはハッキリと分かった。
相手の実力は未知数。造った物がロストロギアになると言う話を聞くだけで、フリートが異常な実力を持っている事を察する事が出来る。
勝てないかもしれないとなのはの脳裏に可能性が過ぎる。前なら前向きに戦う事が出来た。
だが、此処最近の戦いの中でなのはは自身の限界を察し始めていた。負ければ其処で全てが終わってしまう恐怖が、なのはを縛っていた。
(……怖い…でも、レイジングハートが居なくなるのは、もっと怖い!)
恐怖を振り払うようになのはは、【レイジングハート・エレメンタル】を握った。
そのままフリートに強い眼差しを向けて、宣言する。
「受けます! その試練を!!」
「……そうですか。なら、一時間後にこの【火の街】から十キロ離れた場所にある草原で試練を行ないます。覚悟を決めて来なさい。制限は在りますが、私は手加減はしませんからね」
そう言い残すと共にフリートはテーブルから離れて、部屋を出て行こうとする。
しかし、部屋の扉に手を掛ける直前、リンディが何かを強く引っ張るような動作を行ない、フリートは体勢を崩して顔面から扉にぶつかる。
「ヘブッ!!」
『……えっ?』
先ほどまでの雰囲気を消すようなフリートの行動になのは達は唖然とするが、当のフリートは顔を上げると、何時の間にか自身の右足首に巻き付いていた翡翠色に輝く鎖に目を向ける。
「リ、リンディさん!? 一体何を!?」
「何処に行こうとしているのかしら、フリートさん?」
「いや、当然指定した場所に向かおうと思いまして」
「嘘ね。どうせ貴女の事だから、一時間の自由時間を使って好き勝手やるつもりなんでしょう?」
「……いや……幾ら私でもこのシリアスな雰囲気でソレは……」
「やるわよね、貴女なら絶対に。時間も忘れて何かに没頭する光景が目に浮かぶわ」
「フリートなら在り得ますね」
普通に考えられる情景にルインは何度も頷き、フリートは全身から冷や汗を流す。
確かにちょっと開いた時間で研究をしたいと考えていただけに、リンディの言葉を否定出来ない。
「と言う訳で、なのはさんとの約束の時間まで私が指定した場所に一緒に居ます。なのはさんは確り準備を頑張ってね」
「ふぇぇぇぇん!! 少しだけ自由な研究時間を下さい!!」
何時の間にか翡翠色の鎖でグルグル巻きにされながらフリートは叫ぶが、リンディは構わずに体型の差が在るにも関わらずフリートを抱え上げて部屋を出て行った。
続くようにもう用は無いと言わんばかりに、ブラックはルインを右肩に乗せて部屋を出て行く。残されたなのは達は呆然しながら閉じた扉を見つめるのだった。