黒い淀みの中に飲み込まれるブラックウォーグレイモンの姿を目撃したなのは達は、状況を知る為に闇の書に付いて最も知っているリインフォースの下に全速力で向かっていた。
そして近くの空で待機していたはやてとその守護騎士四人の下へと辿り着くと、なのはが即座にはやてに質問する。
「はやてちゃん! 如何してさっきのヒトが『闇の書の防御プログラム』に飲み込まれたのか、リインフォースさんに聞いて!?」
「分かったわ!! リインフォース、どういう事なん!?」
なのはの言葉を聞いたはやては、自分と融合しているリインフォースへと尋ねると、恐怖に震えた声が返って来る。
『……あ…り…え…な…い……まさか、アレを受け入れる事が…アレが主として認める者が存在していたと言うのか!?』
「どう言う事や!?」
『……防御プログラムは私の半身、つまり私が主とユニゾン出来る様に…防御プログラムもまた自身の意思を持ち、主と定めた者に自身の力を与える事が出来るのです…』
『ッ!!!!』
リインフォースの告げた闇の書の闇に隠されていた事実にその場に居たなのは達と守護騎士達、そしてアースラから話を聞いていたリンディ達は驚愕に目を見開いた。
闇の書は誰にも制御する事が出来ない物。その情報を得ていたリンディ達からすれば、リインフォースが告げた事実は信じられないものだったが、リインフォースは構わずに説明を続ける。
『歴代の主達は、防御プログラムの主に相応しくないと判断された為に、力の制御が出来ず闇の書は暴走して幾つもの世界が滅ぶ結果に成ったのです。長い年月の間幾多の所有者の手に『闇の書』は渡りましたが、真の意味で防御プログラムの主に成れる存在は結局現れず…の主となれる者はいないと思っていたのですが、遂に防御プログラムは見つけてしまった。自分の主に相応しい存在を。そして私と防御プログラムは既に完全に切り離されている為に、最早それを止める術は在りません』
『ですが!? 世界を滅ぼす力を制御出来るとは思えません! 確かに先ほどの者はかなりの強さを持っていると判断出来ますが!! 闇の書の闇と呼べる存在を制御出来るはずが!?』
アースラからリインフォースの話を聞いていたリンディは否定の叫びを上げるが、リインフォースはリンディの言葉を否定する。
『奴の力は闇の書を従える事が出来る領域に在ります。現に私が奴と戦っていた時は、闇の書の力を全て奴に向けて、漸く互角に持ち込めたのです。その証拠に、本来なら覚醒した直後に起きている筈の辺りへの異変が全く起きていません』
『ッ!!!!』
リインフォースの言葉に再び話を聞いていた者達は驚愕に目を見開く。
その場に居る全員がリインフォースから告げられた事実に声を失っていると、海面に浮かんでいた黒い淀みに変化が起き始める。
『ッ!! 大変です艦長!! 防御プログラムの暴走が収まり、安定を始めています! それどころか、アルカンシェルと同等か、それ以上のエネルギーが防御プログラム内部で発生しています!!』
『何ですって!?』
エイミィの報告にリンディは悲鳴の様な声を上げ、なのは達が海面に浮かぶ黒い淀みの方に顔を向けた瞬間。
ーーードグオン!!
黒い淀みの中から、リインフォースに良く似た女性とブラックウォーグレイモンが飛び出して来た。
そしてブラックウォーグレイモンは淀みに目を向けながら、負の力を両手の間に集中させると、巨大な赤いエネルギー球を生み出し、黒い淀みへと投げ付ける。
「ガイアフォーーース!!!!」
ドゴオオオオオオオオオオン!!!!
ブラックウォーグレイモンの放ったガイアフォースは、寸分違わずに残っていた黒い淀みへと直撃し、海に残っていた淀みを完全に消滅させ、巨大な大爆発を海面に起こした。
数分前
黒い空間の中を淀みの中に飲み込まれたブラックウォーグレイモンは、不機嫌さに満ち溢れた目をしながら歩いていた。
「漸く見つけられた強敵だと言うのに……邪魔が入る…何とかして奴と一対一で戦える状況を作らねば」
ブラックウォーグレイモンは苛立っていた。
この世界に来てから漸くまともに自分と戦える存在を見付けたと思ったのに、次々と邪魔が入って来る為に、彼の戦闘本能が満たされないでいるのだ。
確かに前世の自分なら戦いよりも世界の方を優先しただろうが、ブラックウォーグレイモンとなった彼には、自身の欲望-強い奴と戦う方-が優先なのだ。
そしてこの空間に入ってから感じる気配の下へと向かって歩いていると、何処からともなく声が響いて来る。
(……ダレモガ…ワタシヲヒテイスル)
「ムッ?」
(……ナンデヒテイスルノ…ワタシヲツクッタノハ……ニンゲンナノニ…カッテニウミダシテオキナガラ……ニンゲンハ…セカイハ……ワタシヲヒテイシツヅケル)
「……お前は…」
聞こえてくる声に、ブラックウォーグレイモンは苛立ちを消して、言葉に含まれている悲しき思いに共感の念が湧いて来た。自分と同じだと気が付いたのだ。
自分もブラックウォーグレイモンと成った時に、世界から否定され続ける気持ちを味わっていた。一時は世界を滅ぼそうと思った程だったが、アグモンや子供達、そして他のデジモン達のお陰で心が癒された。だからこそ、自身が彼らに関われば何れ自分は死ぬと分かっていても、彼らに力を貸したのだ。
「…そうか、お前も否定されていたのだな。俺にはそれが分かる。俺も同じ様に世界に否定され続…けている」
ーーーシュン!
ブラックウォーグレイモンが呟いた瞬間に、闇の中から銀色の髪に蒼い瞳を持ち、黒と青色のロングコートを身に付けたリインフォースに良く似た女性が姿を現すと、女性はブラックウォーグレイモンの胸に抱き付き、涙を流し続ける。
「俺はお前を否定しない。共に行こう」
「は、い」
ブラックウォーグレイモンの言葉に、女性は嬉し涙を流しながら頷いた。
長き放浪の果てに、彼女は漸く出会えたのだ。自分を受け入れてくれる者を。
「名は在るのか?」
「名は在ります…ですが、その名は貴方と共に歩むのに相応しいとは思えません……どうか、新たな、貴方と共に歩む私の名を付けて下さい」
「そうか、ならば貴様は破滅を呼ぶ風、『ルインフォース』だ!」
「名称固定、ルインフォース。主設定、ブラックウォーグレイモン。どうぞ、宜しくお願いします。我が永遠のマイマスター」
ーーービキビキ、ビキィン!!!
女性-ルインフォースが言葉を呟いた瞬間に、空間に次々と罅が入り始め、外への出口が開く。
外への出口が開くのを確認した二人は外に飛び出し、残っている闇の書の闇の残骸を目にすると、ブラックウォーグレイモンは巨大な赤いエネルギー球を瞬時に生み出し、残骸に向かって投げ付ける。
「ガイアフォーーース!!!!」
ーーードゴオオオオオオオオオオン!!!!
ブラックウォーグレイモンが放ったガイアフォースに寄り、残骸は跡形も無く消滅し、海に大爆発を起こした。
現在
闇の書の闇を完全に消滅させたブラックウォーグレイモンは辺りを見回し、上空に浮かぶはやて達を見付けると、瞬時にはやて達の所に移動する。
ーーービュン!
「俺が戦っていた管制人格の奴を出して貰おうか? 決着をつけなければ俺の気がすまんからな」
「あ…あ…あ」
ブラックウォーグレイモンは、はやての目の前に現れると共にドラモンキラーをはやての俄然に突き付けた。
『はやて!!!』
『はやてちゃん!!!』
『主!!!』
ブラックウォーグレイモンの放つ殺意に、はやてが恐怖の声を出すと、なのは達ははやてを助けようと駆け出すが、突然現れた魔力の檻に全員拘束される。
ーーーガシャン!!
「マイマスターの邪魔はさせませんよ」
「ッ!! まさか!? 防御プログラムなのか!?」
「ええ、私は貴女達が否定した防御プログラム。名はルインフォースと言います、烈火の将」
シグナムの叫びにルインフォースは答えながらも、羨ましそうな視線をはやてに、正確に言えば、はやてとユニゾンしているリインフォースに向けていた。
ルインフォースに取って主であるブラックウォーグレイモンに求められる存在は、須らく羨ましい存在なのだ。漸く見付けた主が別の者に目を向けている事に、嫉妬しているのだ。
その様にルインフォースが嫉妬を覚えている間に、ブラックウォーグレイモンはリインフォースに話を付けていた。
「これ以上決着がつかないのは我慢の限界だ。俺と戦って貰うぞ?」
『……良いだろう。だが、此処では主達に迷惑が掛かる。二日後の昼に、貴様が初めて現れた世界で決着を付けよう』
「リインフォース!!」
リインフォースの言葉にはやては悲鳴の様な声を上げるが、リインフォースは意見を変えずにブラックウォーグレイモンの言葉を待つ。
「…(二日後か……此方の準備が終えるには充分な時間だな)……良いだろう。だが、邪魔が入ったら絶対に赦さん! 指定の場所で待っているぞ」
ーーーシュウン!!
ブラックウォーグレイモンは叫ぶと共に、ルインフォースと共にその場から転移して行った。
そしてブラックウォーグレイモン達が自身の前から去ったのを確認したはやては安堵の息を吐くが、すぐに不安そうな表情を浮かべて、自身と融合しているリインフォースの事を心配するのだった。
暗い闇に彩られ、数々の機器が並べられている部屋の内部。
その部屋に存在する三つのカプセルの内部に浮かんでいる脳髄は、目の前の空間モニターに映し出されているブラックウォーグレイモンとリインフォースの戦いの映像の内容を確認し終えた。
映像が終わるとともに空間モニターは消失し、機械的に作られたカプセルから音声が鳴り響く。
『此れは不味いぞ…よもや、“あの世界”がこれほど早く対応して来るとは予想外だった』
『さよう…“奴”の話では我らの組織を知れば争いを呼ぶとかの世界は考えて、幾ばくかの時間が在る筈だったのだが…考えが間違っていたようだ』
『いや、そうとは限るまい…映像の中に映っている生物は、明らかに『闇の書』だけを目的として動いていた。我らの組織の部下どもにも攻撃を加えたが、それは此方から仕掛けた故に』
『ムッ? …では、あの生物は?』
『偶然にもかの世界から離れた生物と言う事も考えられると言う訳だな』
『その通りだ』
三つのカプセルの内の一つがそう告げると、残りのカプセルも納得したと言うような雰囲気を発する。
『とは言ったとしても……かの世界の生物は我らの世界に今しばらく現れては困る事には違いない……早急に抹殺すべきだ』
『だが…相手は“奴”が渡したデータで調べたところ、完全体を超えた究極体に分類されている存在だぞ?』
『“あの技術”の転用が終わっていない状況の我が組織では、多大な犠牲を払わねば倒す事は出来んだろう』
『それならば問題は在るまい。どうやら奴は『闇の書の管制人格』との戦いを望んでいる。その情報はアースラメンバーにも伝わっている』
『……なるほど…利用しない手は無いか』
『アースラの艦長は職務に忠実な者。そしてその夫は英雄の称号を得ている。世界に悪影響を及ぼす者を倒し、英雄の称号を与えるには充分な相手だ。此度の『闇の書事件』の功績も考えれば、多くの者が彼女の死を悼むのは間違いない筈だ』
『では、すぐに準備に取り掛かろうぞ。時間はそう無いのだからな』
『うむ……全ては我らが組織。“時空管理局の安寧の為に”』
一つのカプセルからそう機械的な音声が響くと、他の二つのカプセルは何処かへと連絡を取り始めるのだった。