漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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絶望と希望の事実 後編

 火の街の駅ホームから出たなのは達は、先を歩くブラックの後を続いて行く。

 深夜の時間帯なので、街の明かりは少ないが、街路は街灯の灯に照らされているの安全に進む事が出来た。先頭をルインを肩に乗せたブラックが進み、次にクイントの手を引いたフリート、最後尾にはリンディとガブモンが歩き、なのは達は真ん中を歩くと言う並びである。

 実はコレは襲撃を警戒しての事だった。二年前の件でデジモン達の中には人間に不信を抱く者も少なくは無く、更にルーチェモンが復活した事も既に【デジタルワールド】全土に伝えられている。

 今現在の【デジタルワールド】は厳戒態勢に近い。何時ルーチェモンが舞い戻って来るのかと、多くのデジモン達が怯えているのである。ソレだけの事をルーチェモンはしたのだ。

 火の街の日常を二年間の間で知っているリンディは、何処か怯えた雰囲気を発する街に苦い顔をして、嘗てルーチェモンが行なった恐怖の象徴がある夜空に思わず目を向けてしまう。

 地球と【デジタルワールド】が双子世界ならば、存在していても可笑しくない筈のモノが夜空に浮かんでいない。その理由をリンディは知っている。恐ろし過ぎる事実。

 【デジタルワールド】に住むデジモン達は、夜空を見る度に嫌でも理解してしまうのだ。ルーチェモンの恐ろしい脅威を。

 なのは達が物珍しそうに火の街の街並みを見回していると、一つの大きな建物に辿り着く。

 先頭を歩いていたブラックが建物の入り口の扉を開けようとするが、その前に内側から扉が開き、中から背中に六枚の白き翼を生やし、両肩に十字を象った紋章が刻まれた巨大な肩当てを装備し、顔に仮面をつけ、全身を鎧で覆った主天使型デジモン-【ドミニモン】が出て来た。

 

ドミニモン、世代/究極体、属性/解析不可、種族/主天使型、必殺技/ファイナルエクスキャリバー

『三大天使』デジモンの下に属する主天使型デジモン。表に姿を現すことが少なく、生態についてはよく分からないと言う謎の多いデジモン。同じ天使型デジモン達とは違い、あらゆる事が不明。必殺技は、腕の鎧の手首から光の剣を出現させて敵を斬る『ファイナルエクスキャリバー』だ。

 

「ドミニモン!?」

 

「ん? ……おぉ!! ガブモンではないか!?」

 

 呼びかけられたドミニモンはガブモンを目にすると共に、嬉しそうな声を上げてガブモンに近寄った。

 ガブモンも嬉しそうにドミニモンに駆け寄って、二体は握手を交し合う。

 

「久しぶりだね、ドミニモン!」

 

「あぁ、お前は【デジタルワールド】の外に、私は【ダークエリア】付近の警備で忙しい身の上だからな……元気そうで良かったが、この者達がそうなのか?」

 

「う、うん」

 

 ドミニモンの質問にガブモンは頷く。

 同時にドミニモンから僅かに殺気が漏れ、士郎達はすぐさま桃子となのはを護るように立つが、マリンエンジェモンがドミニモンと士郎達の間に浮かび上がる。

 

「ピプッ!!!」

 

「……マリンエンジェモンか」

 

 怒っているマリンエンジェモンにドミニモンは殺気を収めた。

 そのドミニモンにリンディが近づいて来て話しかける。

 

「ドミニモンさん、気持ちは分かりますけど、今の彼らは管理局と距離をおいている身です。殺気を向けるのは……」

 

「リンディ殿。貴女の事はこの【デジタルワールド】を襲うように命じた命令者達を処罰した事とオファニモン様達の通告で認めているが、私は彼らを信用出来ない。その理由は分かって居る筈だが?」

 

「それは……」

 

 ドミニモンの言いたい事をリンディは理解している。

 特にドミニモンがどう言う事情にあるのかも。警戒するようになのは達にドミニモンは仮面を向けていたが、ゆっくりと背を向けてその場から離れ始める。

 

「……ブラックウォーグレイモン。三大天使様から伝えられると思うが、現状【ダークエリア】に居る暗黒デジモン達には動く気配はない」

 

「そうか」

 

「……だが、これから先は変わる可能性も在る。この【デジタルワールド】から、ルーチェモンに協力するデジモンが出て来る事もある……あの【デュナスモン】と【ロードナイトモン】のようになッ!」

 

 心底忌々し気にドミニモンは言い捨てると共に去って行った。

 その背を見ていたガブモンは、警戒しているグレアム達に振り返ると、深々と頭を下げて謝罪する。

 

「……ドミニモンがすいませんでした。でも、ドミニモンにも事情があるんです」

 

「彼は、昔この【デジタルワールド】でルーチェモンが蛮行を行なった時に生き残った数少ないデジモンの一体なんです。だから、今の【デジタルワールド】を護ろうとする意志が人一倍強い。その分、ルーチェモンを復活させてしまった管理局に対する怒りが強いんです」

 

 ガブモンの謝罪の意味を補足するようにリンディが説明した。

 ドミニモンはガブモンと同じように嘗てルーチェモンが行なった蛮行から生き残ったデジモンの一体である。戦いの後は、【十闘士】と新たに生まれ変わった【三大天使】達と共に【デジタルワールド】の復興作業に遵守し、【三大天使】からも信頼が厚く、復興後は【デジタルワールド】で最も危険な地帯である【ダークエリア】の警備任務についていた。

 ガブモンとも復興作業の最中に出会い、共に行動した事がある。

 

「……事情は分かった。しかし、ルーチェモンとは一体何を行なったのだ? 随分とこの世界の者達に危険視されているようだが」

 

「……それをこれからお話しましょう」

 

『ッ!?』

 

 グレアムの疑問に答えるように、閉まっていた屋敷の扉が勝手に開き、中から翡翠の鎧と仮面を被り、神々しい雰囲気を発しているオファニモンが出て来た。

 圧倒的な雰囲気を発するオファニモンに、グレアム達は息を呑んで呆然と見つめてしまう。ブラックの放つ威圧感とは違い、オファニモンの放つ威圧感は安らぎを感じるような穏やかな威圧感だった。

 

「ようこそ、【デジタルワールド】へ。事情が事情故に歓迎は出来ませんが、貴方方が知りたい事を全てお話ししましょう」

 

 オファニモンはそう言いながら、グレアム達の顔を見回し、最後になのはに顔を向ける。

 

「……貴女がそうなのですね」

 

「えっ?」

 

「……それでは中に」

 

 オファニモンに促されてグレアム達は屋敷の中に入る。

 入った先の通路を歩いて行き、オファニモンは一つの扉を開ける。内部には円形のテーブルと椅子が人数分用意され、既にセラフィモン、ケルビモンが座っていた。

 

「良く来てくれた」

 

「席に座ってくれたまえ。立ち話を行なうには長すぎる話になる」

 

 明らかに偉大な存在としか思えないセラフィモンとケルビモンの丁寧な対応に戸惑いながらも、なのは達はそれぞれ椅子に座る。唯一ブラックだけは三大天使の背後の壁に寄り掛かり、リンディ、フリート、クイント、ルインは三大天使側の席に座った。

 ガブモンはなのはが余り離れたく無さそうだったので隣の席に座り、マリンエンジェモンは桃子の右肩に当然と言わんばかりに乗っていた。

 

「ようこそ、【デジタルワールド】へ。立場上貴方がたを歓迎は出来ませんが、来てくれた事に感謝します」

 

「元管理局員のギル・グレアムだ。先ず最初に聞かせて貰いたいのだが、この世界で管理局員が虐殺と捕縛を行なったと言うのは事実なのかね?」

 

「事実です。その時の光景を御見せいたしましょう」

 

 オファニモンはゆっくりと席に座りながら右手に翡翠の槍を出現させる。

 そのまま力強く槍柄で床を叩く。同時に周囲の光景が変化し、ブラック達も見た管理局員によるデジモンの虐殺と捕縛の映像が展開された。

 未知の力による映像展開に驚きながらも、グレアム達は次々と武装局員達が幼年期や成長期、そして成熟期デジモン達を殺し、デジタマを回収して行く光景を目にする。更に映像は変わり、大気圏外で待機していると思われる長距離魔導砲が備わった艦艇が映し出される。

 艦艇は地上に向かって魔力砲を撃ち出し、何らかの遺跡を護っていたデジモン達に無慈悲に攻撃を加えて行く。そして身動きが取れなくなったところで武装局員達が転移して来て、デジモン達の身動きを完全に封じ、遺跡内部から一つのデジタマが持ち去られる光景が映し出された。

 其処で映像は終わり、部屋の中は元の光景に戻った。

 

「……最後に映し出された光景に映っていたデジタマこそが、今あなた方の前にも姿を現したルーチェモンのデジタマです」

 

「我々は何としてもルーチェモンの復活だけは防ぎたかった。その為に強力な封印を奴のデジタマに施していたが、其方の組織が保管していたロストロギアと言う代物で……」

 

「奴の封印は解かれてしまったと我々は考えている。そして封印が解かれた奴は、別世界の【デジタルワールド】を襲撃し、守護デジモンを一体滅ぼし、更なる【七大魔王】のデジタマを得てしまった」

 

「……ま、待ってくれ? 今別世界の【デジタルワールド】と言ったが、どういう事かね?」

 

「あなた方は認識出来ていませんが、【地球】は一つでは在りません」

 

 再びオファニモンは床を翡翠の槍柄で衝き、四つの地球が浮かぶ光景を部屋の中に展開した。

 

「次元世界と呼ばれる空間は果てしなく広がっています。あなた方管理局が認識しているのはほんの僅かなのです。更に遠くに離れた場所には、似たような世界が存在しているのです」

 

「ま、まさか……そんな事が?」

 

「それじゃ、【地球】は四つも在るのか?」

 

「いえ、それ以上に存在している可能性も在るでしょう」

 

 驚天動地の事実に驚くグレアムと士郎にオファニモンは冷静に事実を告げた。

 他の面々も今まで知っていた常識を覆すような事実に顔を見合わせる。

 

「分かりやすく言えば、なのはさん達が住む市である海鳴市が無い地球が存在していると思えば良いわ」

 

「まぁ、そんな感じでしょうね。問題は、貴方達が住んでいる【地球】を含めた四つの【地球】全てに【デジタルワールド】が隣接している事です」

 

「四つ全てに!?」

 

「その通りです。そしてこの一つの地球から、【倉田明弘】は此方側に飛ばされて来たのです」

 

 カァンッと言う音が室内に響くと共に、新たな光景が展開された。

 数え切れないほどに薙ぎ倒されたビル群。亀裂が幾重にも入り道路。人の気配が全く感じられず、暗闇だけに支配された廃墟の街並みの光景が広がった。

 一体何なのかとなのは達が周囲を見回すと、聞くだけで絶望感と恐怖心を抱いてしまう咆哮が轟く。

 

『■■■■■■■■■■ッ!!!!!』

 

「……な、何? 今の声は!?」

 

「気をしっかり持って下さい。映像故に影響力は低くなっていますが、それでも心を強く保てなければ〝折れます゛」

 

 恐怖に震える美由希にオファニモンが冷静に言葉を告げた瞬間、巨大な黒い鳥型のデジモンがビルを薙ぎ倒しながら吹き飛ばされて来た。

 次に狼のような鎧を身に纏い、背中にマントを棚引かせたデジモンと十二枚の機械の翼を持ち、鎧を纏った竜型のデジモンが鳥型のデジモンが飛ばされて来た方向に向かって行く。

 地上からは頭部がバラを思わせるような形状をした人型のデジモンが向かって行く。

 その先には、ビルの破片を巨大な足で踏み潰し、幾重にも鎖を巻き付けた筋骨隆々の体躯を持ち、背に巨大な黒い翼を三対六翼広げた獣の顔立ちをして太い角を二本備えたデジモンが立っていた。

 見るだけで恐怖を感じ、絶望感が心の底から沸き上がって来るような悪魔を超える魔王。そうだと言われても信じられるほどの強大な威圧感を発するデジモンを目にして震えるなのは達に、オファニモンは名を告げる。

 

「【ベルフェモン】。ルーチェモンと同じ【七大魔王】の称号を持つ魔王デジモンです」

 

ベルフェモン・レイジモード、世代/究極体、属性/ウィルス種、種族/魔王型、必殺技/ランプランツス、ギフトオブダークネス

ベルフェモンは千年に1度の周期で永き眠りから覚めた時に見せる本来の姿。眠りから覚めたベルフェモンは怒りの権化と化し、視界に入るもの全てが破壊の対象となり、再び眠りにつくまで止まる事は無い。ベルフェモン・レイジモードの咆哮を受けただけで、完全体以下のデジモンはデータ分解し即死するといわれており、究極体デジモンといえども無傷ではいられない。必殺技は、体に巻きついた鎖から発する黒い炎【ランプランツス】と、地獄の炎を纏った爪から繰り出される斬撃【ギフトオブダークネス】。なお、【七大魔王】を冠するデジモンに葬られたデジモンのデータは輪廻転生することなく、ダークエリアの中心へと送り込まれ、魔王たちの血肉となる。

 

「こ、コレが……クロノ達が出会ったと言うルーチェモンと同格の存在だと……馬鹿な、これではまるで」

 

「……本物の魔王」

 

「こ、怖い」

 

 全身が恐怖で震えながらグレアム、ロッテ、アリアは呟いた。

 桃子も思わず隣に座っていた士郎の手を握り、なのはもガブモンの毛皮を掴んでしまう。

 恭也と美由希も折れそうになりそうな心を必死に奮い立たせる。

 ベルフェモンの姿になのは達が恐怖を感じる間にも映像は続き、ベルフェモンが空間を引き裂く光景が映し出されて行く。引き裂かれた空間は修復をする様子も見せずに残り続け、グレアムはまさかと言う気持ちを抱く。

 

「……ま、まさか……あ、アレは?」

 

「く、空間を傷つけているの!? そ、そんな事をしたら!?」

 

「【次元断層】が起きる!!」

 

「いいえ、貴方がたが危惧する事態にまでは及びません。特殊な世界構造をしているおかげで、ベルフェモンの攻撃で傷つくのは【地球】と【デジタルワールド】の時空間です。ですが、その境界は……」

 

 トンっとオファニモンが床を槍柄で再び叩くと、周囲の光景は変化する。

 新たに映し出された光景は、ベルフェモンが消滅して行く光景だった。その事実にグレアム達は目を見開く。

 魔王としか称する事が出来ないベルフェモンが消滅するなど、グレアム達は在り得ないと思っていた。だが、現実にベルフェモンは消滅し、空中に中年の白衣を着た男が投げ出される光景が広がっている。

 そしてその男性が何らかのスイッチを押すと同時に、同じように空中に投げ捨てられていた丸い機械の爆弾が爆発した。

 次の瞬間、広がった光景をグレアム達は一生を忘れないだろう。空間に次々と罅が広がり、中年男性の目の前に空間の穴が出現して男性は飲み込まれた。それだけでは終わらず、空間の罅は世界全体に広がり、遂に砕け散り、空に【デジタルワールド】が出現した。

 同時に映像は消え去り、元の部屋の光景へと戻った。

 

「今のが実際に起きた出来事です」

 

 オファニモンの言葉にグレアム達は口を開く事が出来なかった。

 世界の崩壊の光景。ソレを目の当たりにした事に誰もが言葉を失うしかなかった。仕事ゆえに危険任務についていたグレアム達も、今の光景には言葉を失うしか無かった。

 【ジュエルシード】や【闇の書】、或いは他の古代の遺失物ではなく、現代に存在する物で世界崩壊が起きかけた。更に一目見るだけで絶望するしかないと思えてしまうほどの威圧感を放っていたベルフェモン。それと同格の存在だと言うルーチェモンは、既に解き放たれてしまっている。

 恐る恐る美由希が手を上げて、オファニモン達に質問する。

 

「あ、あの……今の映像で映っていた地球はどうなったんですか? や、やっぱり滅んでしまったんですか?」

 

「いや、滅んではいない」

 

「あの映像の後、人間とデジモンが協力して動き、最終的に世界の崩壊は免れた」

 

 なのは達はセラフィモンの言葉に安堵の息を吐いた。

 例え自分達が住む【地球】とは違うとは言え、やはり【地球】が滅んだと言われて冷静でいる事は出来ない。

 しかし、安堵しては居られない。ベルフェモンと同格の存在である、ルーチェモンが次元世界の何処かに潜んでいるのは間違い無いのだから。

 今後どうすべきなのかとグレアムは考えようとするが、フッと駅でルインがリンディに告げた事実を思い出す。

 

『別のデジタルワールドの守護デジモンの一体がルーチェモンに敗れ、【七大魔王】のデジタマが奪われてしまったそうです』

 

「……ま、まさか」

 

「どうやら気が付いたようですね」

 

 絶句して言葉を漏らしたグレアムに、オファニモンは神妙な顔をして頷いた。

 自身の推測が当たってしまった事実に、グレアムは全身から冷や汗を流し、顔は蒼白になった。何故オファニモンが態々絶望と恐怖しか与えないベルフェモンの姿を見せたのか。

 ソレはベルフェモンが〝管理世界に現れる゛可能性が在るからだった。

 恐怖に震えるグレアムの様子に、他の面々もまさかと言う思いを抱きながらオファニモンは残酷な事実を告げる。

 

「そう遠くないうちにベルフェモンは、復活を果たします。今度は先ほどの映像での〝不完全体゛ではなく、ルーチェモンの手によって完全な状態で復活する事になるでしょう」

 

 オファニモンが告げた事実を一瞬、グレアム達は理解出来なかった。

 正確に言えば、理解するのを拒否したかったと言うのが正解なのかもしれない。だが、オファニモンが訂正の言葉を告げない事から徐々に理解が及んで来たのか全員が顔色を蒼白にする。

 

「ふ、不完全体?」

 

「ア、アレで?」

 

「う、噓でしょう?」

 

「……そんな」

 

「残念ながら事実です。本来のベルフェモンならば、『レイジモード』になる事無く、映像の中で戦っていた四体のデジモン達を倒す事が可能なのです」

 

 再びオファニモンが槍で床を衝くと、今度は机の真ん中辺りに映像が展開された。

 怪しく輝く鎖で体を縛り、小さな両手で時計らしき物を抱え、長く曲線を描く2本の角を頭部から生やした愛らしい猫を思わせるような容姿をし、目を瞑っているデジモンが映し出された。

 

「ベルフェモンには二つの形態が在ります。一つは最初に見た『レイジモード』。そしてもう一つがこの状態。通常時はこの『スリープモード』なのです」

 

ベルフェモン・スリープモード、世代/究極体、属性/ウィルス種、種族/魔王型、必殺技/エターナルナイトメア、ランプランツス

ダークエリアの最深部に封印されていると言われる【怠惰】の称号を持つ七大魔王デジモン。強大すぎる力を持つため、デジタルワールドのシステムによって、データをスリープ状態にされているといわれているが真偽は定かではない。深い眠りについているため、自ら攻撃を繰り出すことは出来ないが、寝息だけでデジモンにダメージを与えることが可能であり、そのためベルフェモン・スリープモードの寝込みを襲うことは容易ではないだろう。必殺技は、安らかな寝息から発動し、全方位と広範囲に衝撃波を撒き散らす【エターナルナイトメア】と、体に巻きついた鎖から発する黒い炎【ランプランツス】だ。【エターナルナイトメア】は眠りが深ければ深いほどに威力が上がるが、眠りが浅いだけでも並みの完全体が消滅する威力を秘めている。もしも睡眠不足であれば【エターナルナイトメア】はお勧めである。永遠の眠りを約束してくれるだろう。

 

「な、何か可愛いけれど……『スリープ』って……もしかして寝てるの?」

 

「なら、『レイジ』と言うのは怒りの意味だから、寝ているベルフェモンを起こしたらさっきの姿になるという事か」

 

 美由希と恭也は得た情報からベルフェモンの事を推測し、他の面々もベルフェモンに対して理解が及んで行く。

 

「ならば、完全に覚醒したとしても眠らせたままにしていれば問題は無いのでは?」

 

「いいえ。確かに『レイジモード』にさえしなければ、ベルフェモンが本当の力を発揮する事は在りません。ですが、ソレは一時的な凌ぎでしかありません。何故ならばベルフェモンは……眠りながら世界を滅ぼせるデジモンなのです」

 

『……ハッ?』

 

 一瞬言われた意味が分からず、なのは達は思わず唖然とした。

 眠りながら世界を滅ぼせるなど冗談としか思えない。だが、残念ながら事実だった。

 

「【七大魔王】デジモンにはそれぞれ冠する称号が存在する。君達が知っている、ルーチェモンは【傲慢】の称号を」

 

「そしてベルフェモンが冠する称号は【怠惰】。『スリープモード』時の奴こそがその称号を最も表している」

 

「眠りが深ければ深いほど、ベルフェモンの必殺技である【エターナルナイトメア】の威力は上がり、最終的には世界全土に衝撃波が襲い掛かります。そうなる前にベルフェモンを倒さなければならない」

 

「……しかし、倒そうとすれば目を覚まし、先ほど見た『レイジモード』になると言う訳か」

 

 三大天使デジモン達の説明に、グレアムは【闇の書】以上の危険存在に絶望感を抱いた。

 【闇の書】が暴走しても、最終的に犠牲は大きいが【アルカンシェル】を使えば対処は何とかなった。だが、絶えず衝撃波を撒き散らすベルフェモン・スリープモードには、【アルカンシェル】が通じない。

 【アルカンシェル】が届く前に、ベルフェモン・スリープモードの必殺技【エターナルナイトメア】が発する衝撃波によって防がれてしまう。世界全土を覆い尽くすほど広範囲を襲う衝撃波など止める以外に手段は無いと言うのに、止めれば魔王として真の覚醒をして世界を滅ぼす。

 ルーチェモンは天変地異を巻き起こし、ベルフェモンは世界を滅ぼす。誰もがブラックの言葉の意味を理解した。

 知った事には絶望しかないと言う事を。

 

「……聞きたいが、貴方達はルーチェモンとベルフェモンに勝てるのか?」

 

「……ベルフェモンならば、多くの犠牲を覚悟すれば勝てます。ですが、ルーチェモンには私達は勝てません。勝てない理由が在るのです」

 

「本来ならば……この世界の守護を担うデジモンはルーチェモンだったのだ。だが、ルーチェモンは守護ではなく支配を選び、【七大魔王】になった」

 

「そのルーチェモンの暴挙を止め、奴から守護の役割を奪い、私達がその座を担った。つまり、私達の守護の力は元々はルーチェモンの力の一端なのだ。だからこそ、私達が敗北すれば奴は私達から力を取り戻す事が出来る。そうなれば奴は【七大魔王】として覚醒してしまう。だからこそ、奴が目覚める前に何としても奴が眠っていたデジタマを回収せねばならなかったッ!!」

 

 ドンッと悔し気にケルビモンは机を叩いた。

 打てる手は打っているつもりだった。だが、余りにもルーチェモンの覚醒が早過ぎたのだ。

 オファニモン達が知らなかった各世界の遺失文明の遺産であるロストロギア。ソレを大量に保管していた管理局の存在をオファニモン達が知らなかった故に、ルーチェモンの覚醒時期を見誤ってしまった。

 最もブラック達にロストロギアを回収してくれと頼んでも無理だった。数が多過ぎる上に、管理局だけではなく次元犯罪組織まで所持しているのだ。管理局から奪うだけではなく、数多い次元犯罪組織からまで奪えと言われてもブラック達でも無理としか言えない。

 それだけ管理局が敷いた次元世界の秩序は広いのだから。どうやってもルーチェモン復活は時間の問題に過ぎなかったのだ。

 

「……今日はもう遅い時間帯です。これ以上の説明は明日しましょう。無論、聞く気が在ればですが……ガブモン、マリンエンジェモン」

 

「は、はい!」

 

「パプッ!」

 

 オファニモンに呼ばれたガブモンは立ち上がり、マリンエンジェモンも桃子の肩から浮かび上がった。

 

「皆さんを寝台部屋に案内して上げて下さい。場所はマリンエンジェモンが知っていますから」

 

「わ、分かりました」

 

「あっ、序にクイントさんもお願いしますね。ちょっとショックが強過ぎたみたいなので」

 

 フリートはそう言いながら、横で顔を蒼褪めさせて震えていたクイントを立ち上がらせ、ガブモンに預ける。

 ガブモンも椅子から立ち上がり、なのは達を促してマリンエンジェモンと共に寝室に案内して行く。

 扉が閉まり、なのは達が居なくなった事を確認したブラックは寄り掛かっていた壁から離れ、オファニモンに話しかける。

 

「それでオファニモン。他の【デジタルワールド】の代表者達の話し合いはどうなった?」

 

「先ず最終的な結果から告げます。各世界の【デジタルワールド】から援軍が来る事になりました」

 

「ほう……一体誰だ?」

 

「先ずはベルフェモンのデジタマが奪われた世界からは、一人の人間とそのパートナーデジモン、そしてロイヤルナイツが一体です」

 

「人間とパートナーデジモンに、ロイヤルナイツですか。もしかしてその人間とパートナーデジモンって?」

 

「はい、不完全体のベルフェモンを倒した者達です。心強い援軍になってくれるでしょう」

 

 ルインの疑問にオファニモンは頷きながら答えた。

 最もソレだけでルーチェモン達に勝てる可能性は低い。何処に居るか分からない上に、ベルフェモンのデジタマまで奪われてしまっただけでなく、今度はルーチェモンまで居るのだ。

 ベルフェモンを以前の不完全な状態で復活はさせないだろう。例え倉田が不完全な状態で復活させようとしても、ルーチェモンが止めるか、或いは逆に利用してベルフェモンを自らが覚醒する為のエネルギー源にする可能性が在る。他の【七大魔王】と違い、ルーチェモンが完全覚醒する為の条件は厳しいのだから。

 強力な援軍にリンディは頼もしさを覚えながら、次に関して質問する。

 

「それで他の【デジタルワールド】からは一体誰が?」

 

「ブラックウォーグレイモンが元々居た【デジタルワールド】からは、残念ながらデジモンの援軍は来ない。彼方の世界は今、重要な時期に在る。故に戦力を減らしたくはない。だが、代わりにブラックウォーグレイモンが知っている相手が来てくれる事になった」

 

「俺が知っている? ……なるほど、〝アイツ゛か。確かに奴ならば、管理局に対しては助かるな」

 

 ブラックの脳裏に民族衣装を着た一人の男性の姿が浮かび、懐かし気に目を細めた。

 

「あぁ、〝彼゛は戦闘能力は無いが、その分、他の面では助かる。コレまで管理局と言う組織内部を調べるのは隠密デジモンに頼らざる得なかったが、〝彼゛が来てくれればより精密な情報を得る事が出来る」

 

「だから、貴様らは許可を出したのだな。元管理局の人間が【デジタルワールド】に来る事を」

 

 オファニモン達が何故【選ばれし者】ではない、グレアム達が【デジタルワールド】に来るのを許可したのかブラックと、そしてブラックの知識を持っているリンディは悟った。

 逆にブラックが言う相手が分からないルインは不満そうにブラックを見つめるが、後で教えてくれるだろうと思い黙る。フリートは興味は在るが、何れ会えるだろうと思い、その時に調べれば良いと考えているのか、次に話を進める為に口を開く。

 

「ソレで? 最後の【デジタルワールド】からは誰が来るんですか? 確か最後の【デジタルワールド】は【四聖獣】デジモンが管理している世界ですよね? 過激派のデジモンも居るらしいですし、やっぱり強力なデジモンですか?」

 

 その質問にオファニモン、セラフィモン、ケルビモンは神妙な顔をして見合わせる。

 ブラック達はその様子に、【四聖獣】達が守護する【デジタルワールド】から来る援軍は、余程の事情が在る援軍なのだと悟る。

 悩むようにしながら、オファニモンが口を開く。

 

「……【四聖獣】達が守護する【デジタルワールド】から来る援軍は、最大の切り札になり得るデジモンです」

 

「許可を出すべきなのか、最後まで悩んだ。だが、彼のデジモンに対する【四聖獣】達の信頼に賭ける事にしたのだ」

 

「……一体誰だ? まさか、あちらの世界のテイマーとそのパートナーデジモンか?」

 

「いいえ、違います……来る援軍のデジモンの名は【ベルゼブモン】。【暴食】の称号を冠する【七大魔王】デジモンなのです」




次回はなのは達がどのような選択をするのか。
そして選択の末に待つ試練に移ります。

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