漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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待たせてしまいましたが、今回は説明会になってしまいました。
また、旧作と違い奴が外に出ます。


デジタルワールドへ

「な、な、な、な、な、何ですかこれはぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!!?????」

 

 アルハザードの研究室内で復活を果たしたフリートは、目の前に映る空間ディスプレイの映像と雁字搦めに封印処置した『レイジングハート・エレメンタル』から得たデータを見て大絶叫を上げた。

 空間ディスプレイに映る映像は何故かレイジングハート・エレメンタルを扱えているなのはの姿。在り得る筈が無い在り得てはならない出来事。

 更に追い打ちを掛けるようにレイジングハート・エレメンタルを調査した結果、フリートも更に驚く状態になっていた。

 

「何で扱えているんですか!? プロテクト解除のキーワードも言っていますし!? その上、何で私が施したプロテクトと全く違うプロテクトがデジバイスに施されているんですかぁぁぁぁぁぁーーー!? 一体何がどうなっているんですぅぅぅぅーーーー!!」

 

 残像が見えるほどの素早さでフリートはコンソールを弄って行く。

 事細かに映像及びレイジングハート・エレメンタルを調査し、幾つもの疑問の答えを得ようとして行く。その様子を研究室内の壁に寄り掛かりながら本来の姿に戻ったブラックは見つめ、その横に座るガブモンも水を飲みながら心配そうに見つめる。

 

「……一体何が起きているんでしょう」

 

「あのデジバイスとやらに起きている事は分からんが、お前に起きた事は分かって居る。漸くデジタルワールドも動き出したと言う事だ」

 

「……ブラックさんは僕となのはが出会えば、あの出来事が起きるって分かって居たんですか?」

 

「可能性としてな。お前と高町なのはと言う小娘には、これまでの件で妙な縁が窺えた。ルーチェモンも動き出しているとなれば、デジタルワールドの守護の力も動き出して可笑しくはない。気に入らんがお前とあの小娘が選ばれたのは、〝運命゛とやらだろうな」

 

 先ほど起きた『ディーアーク』の出現までの流れは、運命としか言えない。

 ブラックとリンディがあの場にやって来た時には、既になのはの手にディーアークは握られていたのだ。もう少し早ければバイオ・レディーデビモン達の戦闘に割り込めていただろう。だが、割り込めなかった。

 それこそ運命としか言えない出来事だった。

 

(運命か……嘗て俺もそれに負けた。今は良い。だが、何れは運命とやらも勝って見せるぞ)

 

 そう、ブラックが内心で挑むべきもののに対して意欲を募らせていると、データをある程度解析し終えたのか、フリートが頭を抱える。

 

「ふえぇぇぇぇぇぇん!!! こんな事になるなんて!? ………でも、コレ……凄く興味深い……良し! やっぱり分解して徹底調査をします!!」

 

「止めろ」

 

「ヘブッ!」

 

 即座にレイジングハート・エレメンタルの分解に乗り出そうとしたフリートの頭に、迷いなくブラックがドラモンキラーを叩き込んだ。

 そのままフリートは椅子ごと床に沈むが、ブラックは構わずにフリートに質問する。

 

「それで? 一体何が起きている?」

 

「ググッ! よ、容赦ない一撃……ウゥ……や、やっぱり……まだ怒ってます?」

 

「勝手に俺の体に手を加えたんだ。その体が跡形も無くされないだけでありがたいと思うんだな」

 

 怒りを思い出したのか殺気を僅かに放つブラックに、フリートは血まみれになっている頭部を再生させながら体を震わせる。

 ブラックが怒っている理由は、なのはの前に現れた時に成っていた人間の姿の事だった。フリートはブラックが回復の為に深い眠りについている隙をついて、データを送り込んだ。嘗てブラックを生み出した存在達の中に、デジモンから人間に化ける能力を持っている者達が居た。それを聞いていたフリートは、もしかしたらブラックも出来るかも知れないと思ってやって見たのだ。結果は成功。ブラックは人間の姿に化けられるようになった。

 無論、勝手に体を弄られたブラックは大激怒として、フリートを部屋ごとボコボコにして原型を留めない状態にした。最も其方の方がフリート的にはダメージが大きい。肉体が完全破壊されれば、新しい体の方に意識が移ってすぐに復活出来る。逆に再生の為には痛みも感じるのでかなりキツイのである。

 

「……申し訳在りませんでした」

 

「……二度と俺の体を勝手に弄るな」

 

 土下座するフリートを見下ろしながら告げ、フリートは土下座したまま何度も頷く。

 

「それで……一体何が起きた?」

 

「……うぅ……『エレメントシステム』の完成の為に必要でしたけど、まさか、こんな事態に成るなんて本気で思っていませんでしたよ……高町なのはがレイジングハート・エレメンタルを扱えている原因は……『十闘士』です」

 

「えっ!? じゅ、十闘士って!?」

 

 話を聞いていたガブモンは思わず叫んだ。

 デジバイス事レイジングハート・エレメンタルに『十闘士』の一部のデータが使われている事はガブモンも知っていた。しかし、あくまで、使われたのはデータの一部だけ。十闘士そのものが宿っているスピリットが埋め込まれている訳ではない。にも拘わらず、なのはがレイジングハート・エレメンタルを扱えた件には十闘士が関わっている。

 一体どういう事なのかとブラックはフリートに説明に続きを促す。

 

「先ず、現在のレイジングハート・エレメンタルの状態を説明しますと、全機能の八割が使用不可能。この中にはカートリッジシステムも入っています。簡単に言ってしまえば、カートリッジシステムが使用出来ない『レイジングハート・エクセリオン』ぐらいの性能しか在りません。まぁ、其処に『エレメントシステム』で『光』と『風』の二属性だけは使用可能になっていますが」

 

「……なるほど。それで、何故其処に『十闘士』が関わって来る?」

 

「人工知能を加えたデジバイスの作製の過程で一番厄介だったのだが、『エレメントシステム』のデータ容量でした。膨大過ぎるデータ容量を組み込んだAIが処理し切れずにオーバーヒートしてしまうのが失敗の原因。それで私は充分に成長して人間並みに考えられるAIならばオーバーヒートを起こさないと考えて、レイジングハート・エクセリオンのAIを組み込みました。結果は大成功でしたが、此処で私は考えを間違えていました。膨大なデータ容量が原因ではなく、『十闘士』のデータそのものが原因だったんです!!」

 

 よくよく考えてみれば、デジモンはデータの集合体である。

 『十闘士』のスピリットはそれを結晶化させたような物。一部とは言え、そのデータを抽出した結果、僅かに意思のようなものが『レイジングハート・エレメンタル』を含めたこれまで造った人工知能搭載型のデジバイスには宿っていた。

 統括意思として組み込んだAIよりも、『エレメントシステム』に宿っていた強過ぎる意思が、人工知能搭載型のデジバイスの失敗の本当の原因だったのだ。その中で唯一成功した『レイジングハート・エレメンタル』は、統括意思として『十闘士』に認められた事の証明。

 そして同時になのはもまた、『十闘士』に認められていた。

 

「高町なのはがディーアークを握る前に、『レイジングハート・エレメンタル』から声が出ました。アレは『十闘士』の声だと見て間違い在りません」

 

「そうか……『十闘士』にまで認められるほどに、あの小娘は成長している訳か」

 

 僅かに楽し気にブラックは目を細める。

 元々ブラックはなのはに余り興味が無かった。『異界』の知識でなのはの未来の実力を在る程度分かって居た為に興味を覚えては居なかったのだ。だが、ディーアークを手にし、更に『十闘士』の力を宿したフリートの最高傑作である『レイジングハート・エレメンタル』の主に選ばれた。

 最早ブラックの知る知識とは違う道をなのはは歩み出そうとしている。将来的には楽しめるかも知れない相手になるかも知れない事実に、ブラックは笑みを浮かべる。

 それを見たフリートは、凄く嫌な予感を覚えた。

 

「えっ? ……あの……ブラック……まさかと思いますけど……いや~な予感がするんですけど」

 

「フリート。ソイツを高町なのはが十全に扱える可能性は在るのか?」

 

「や、やっぱりーーー!!! 無理に決まっているじゃないですか!?」

 

 フリートは再生を終えた頭を抱えながら叫んだ。

 今のところ『レイジングハート・エレメンタル』は、ギリギリなのはが使用出来るレベルまでプロテクトが外されている。しかし、残るプロテクトの内、一つでも解除すればその瞬間になのはは扱えなくなる。

 扱えるように成る為にはなのはが技術を磨き、今後も修練を重ねなければならない。しかも、ただ現代の魔導技術を学ぶのでなく、アルハザードの魔導技術を学ばねばならないと言う前提で。

 当然ソレを教える事が出来るのは一人だけ。

 

「絶対に嫌ですよ!! 前にも言いましたけど、私の最終目的は管理世界からの『アルハザード技術の完全抹消』!! それなのにあの娘に教えたら本末転倒じゃないですか!!」

 

「奴に誰にも話さないように言い聞かせれば良い。これから奴は世界の裏を知る。裏を知ってまで話そうとする奴は、余程の馬鹿か、考え無しかのどちらかしかない。幸いにも奴は俺が知る『高町なのは』と違って、管理局には染まっていないようだからな。そうだろう、ガブモン?」

 

「は、はい。僕が来て居た事も、あの家の人達はあの子を含めて内緒にしてくれて居ました。『念話』って言う手段で連絡もしていないようでした」

 

「だ、だからと言ってデメリットの方が大き過ぎます!! ブラック達に手を貸すのはメリットが充分に在りますけど、高町なのはにアルハザードの技術を教えるメリットが無いじゃないすか!!」

 

「メリットなら在るだろう? 貴様が本当に(・・・)描いている『エレメントシステム』とやらの完成形を見られるかもしれんぞ」

 

 ブラックの発言と同時にドキッとフリートの体が強張った。

 リンディから話を聞いた時からブラックは、フリートが本当に目指そうとしているモノをある程度予想していた。以前から度々フリートは嘗てのルーチェモンと『十闘士』の話を、ブラックや三大天使から聞いていた。

 その結果、造り上げられた『エレメントシステム』はデジモンにとって使いこなせば脅威となる代物。だが、何故最初から十の属性を『レイジングハート・エレメンタル』に組み込んでいるかの謎が在る。炎属性だけを宿した機能から実験すれば良いのに、フリートは『レイジングハート・エレメンタル』に十の属性を組み込んだ。

 その目的をブラックは悟り、フリートは冷や汗を流しながら視線を逸らす。

 

「た、確かに私の目的はアレですけど……そ、それと高町なのはに教えるのとは話が違います。第一段階は既に完成したんですから、今後も研究を重ねれば問題は無い筈です」

 

「アレの為には『十闘士』に認められるのが最低条件だ。お前は製作者だから使用出来るだろうが、少なくともそのデジバイスで完成形を見る為には高町なのはの協力は必要だろうな」

 

「ムムッ……う~ん」

 

 悪魔の誘惑だと知りながらもフリートは悩む。

 確かに完成形を見れるかも知れない事実には興味が大いに惹かれる。だが、そう旨く行くとは思えない。

 もしも失敗すれば、徒労に終わるどころか、アルハザード技術の流出の切っ掛けに成ってしまうかも知れない。しかし、久々に旨く行かない研究が捗るのも事実。早期に結果を見てみたいと言う気持ちと、じっくり腰を据えて研究してみたい気持ちが鬩ぎ合う。

 本気でフリートは悩み続け、ブラックとガブモンは答えを待つ。因みにこの時点でフリートの中で『レイジングハート・エレメンタル』を分解する気は完全に無くなっていた。

 そして待つ事一時間、遂に答えが出たのか、フリートは研究室内のデスクの傍に移動し、引き出しを開けて腕時計のような物を取り出して右手首に付ける。

 

「……フゥ~、良いでしょう。ブラック! 此処は貴方の提案に乗って上げます! その代わり、テストさせて貰いますよ!」

 

「テストだと?」

 

「そうです! 高町なのはが本当に技術を教えても大丈夫なのかどうかを!?」

 

「……え~と、まさか、フリートさん? ……()に出る気なんですか?」

 

「決まっているじゃないですか、ガブモン! 貴方達デジモンやブラック、リンディさん、ルインさん、或いはクイントさんのように気を失って来るならともかく、此処に管理局関係者と密接な関係に在る高町なのはは来させられません! だから、私が外に出るんです!!」

 

「……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーー!!!!!」

 

 ガブモンは思わず持っていたコップを床に落としながら叫んだ。

 もしもこの場にリンディが居たのならば、ガブモンと同じかそれ以上に驚愕し、最悪の場合現実を否定する為に気絶しただろう。ただでさえフリートは問題を次々と引き起こす災厄の問題児なのだ。それが外に出るとなれば、どんなとんでもない事態を引き起こすのか想像するのも拒否するだろう。

 何とかフリートに思い留まって貰おうとガブモンはフリートに話しかけようとするが、その前にブラックが口を開く。

 

「確かお前は此処から出られないと言う話だったが?」

 

「ホホホホッ、確かに二年前はそうでした。ですが、既にその問題は解決済みです! だって、これからブラック達は忙しくなります。そうなればデジタルワールドに必要な素材を取りに行く暇が無いでしょう。ならば、私が取りに行くしかないと思って頑張ったんです!」

 

(……ど、どうしよう……リ、リンディさんが居てくれたら良かったのに!?)

 

 自分ではフリートを止められないと理解しているガブモンは、頭を抱える。

 何とか止められないかとガブモンは考え、フッと気になった事が在った事を思い出す。

 

「そ、そうだ! フリートさん! あ、あの子はどうして戦えたんですか? 確か後遺症で普通には動けない筈だったのに、何でか戦えていましたし」

 

「あぁ、アレですか……ブラック」

 

「何だ?」

 

「聞きたいんですけど、高町なのはの手に握られた機械について知っていますか?」

 

「知っている。アレは恐らく『ディーアーク』だ」

 

 レイジングハート・エレメンタルを回収した時に、ブラックはなのはの手に握られているディーアークも確認していた。

 多少形は違う部分が在ったが、それでも最も形が近いのは『ディーアーク』。四つのデジタルワールドの中でも最も過酷で無慈悲。弱肉強食の世界をデジタルワールドの中で最も表現されているが故に、他の世界よりも戦うに特化した力を選ばれし者達に与えていた。

 それこそがなのはの手に現れた『ディーアーク』。

 

(本来ならば三大天使の世界で出現するのは『ディースキャナ』の筈だが……十闘士に選ばれた人間達は今も生きて地球で生活している。それ故に守護の力は新たに『ディーアーク』を造り上げたと言う事か)

 

「『ディーアーク』ですか。身に覚えが在るのなら話は早いです。その『ディーアーク』の機能を知っている限り教えてくれませんか?」

 

「構わん」

 

 ブラックは知り得る限りの『ディーアーク』の機能をフリートに説明する。

 ガブモンを自分に関わる事などで真剣にブラックの説明を聞き入り、全てを聞き終えたフリートは納得したように頷く。

 

「なるほど……『ディーアーク』による究極進化は、パートナーである人間がデータ化してパートナーデジモンと融合ですか」

 

「……ブラックさん。もしかして僕とあの子も?」

 

「確実ではない。『ディーアーク』を持っていた奴ら全員が究極進化に至った訳ではない。何処の世界でも同じだが、『究極進化』は強力な分、其処に至るまでの道程は険しいからな」

 

 『究極進化』は強力な分、其処に至れる者は険しい道程を越えなければならない。

 例えばブラックが居た世界では『紋章』と言う力や神に匹敵するデジモンの協力が必要。三大天使の世界では『十闘士』全員に認められ、更に共に戦った人間が心の底から信頼を得なければならない。大門大達の世界も同様にデジモンと共に戦い続け、デジソウルを鍛えなければならない。

 そして『ディーアーク』が出現した世界では、デジモンと人間の『絆』が最大に高まり、共に先に進む覚悟を心から決めた時に究極進化へと至れる。中には例外は在るが、『究極進化』は険しい道程を超えた先に至れる境地。

 『ディーアーク』を得たとは言え、高町なのはとガブモンが『究極進化』に至れるとは限らないのだ。

 

「まぁ、究極体に至る力ですからね。当然と言えば当然でしょう……しかし、コレでハッキリしました。高町なのはが戦えた理由は、〝書き換えた゛んですよ。後遺症が無い体に自分の体をデータ化させて」

 

「……そう言う事か。道理でガブモンがワーガルルモンXに進化した時にデジコードに巻き込まれた訳だ」

 

 遠目から戦いを見ていた時、ブラックはガブモンの進化の様子に違和感を覚えていた。

 通常ならばパートナーが近くに居たとしても、パートナーデジモンの進化にパートナーである人間がデジコードに巻き込まれる事は無い。

 『ディーアーク』による『究極進化』か、或いは『十闘士』への進化しかデジコードに人間が巻き込まれる事は無いのだが、なのはは巻き込まれた。

 

「つまり、ガブモンの完全体への進化に巻き込まれ、その時に自身の体をデータ化させて後遺症を治したと言う訳だな?」

 

「だと思います」

 

(俺の知る『ディーアーク』とはやはり違う部分も在ると言う訳か)

 

 本来『ディーアーク』による『究極進化』は、デジタルワールドでしか行えないと言う制約が在る。

 その制約を解除して人間界でも『究極進化』を行えるようにする為には『四聖獣』デジモンの力が必要なのだ。だが、なのはの『ディーアーク』には最初から所有者のデータ化機能が宿っている。

 その時点でブラックが知る『ディーアーク』となのはが持つ『ディーアーク』には違う部分が在る。

 話を聞いていたガブモンはフッと気になり、恐る恐るフリートに質問する。

 

「……あの、そんな事をして問題は無いんですか? 僕らと違って体のデータを書き換えるなんて?」

 

「……多分問題は在るでしょう。詳しい事は検査しないと分かりませんが、デジモンで言うところの『古代種』デジモン達だけの特性である『オーバーライト』ですから……まぁ、寿命が少し削れているかも知れませんね」

 

 『オーバーライト』とは古代種デジモンが持つ特性であり、自身の体の身体能力データを書き換える事で完全体でありながらも究極体に匹敵する力である。

 だが、急激なデータの書き換えはデジモンに負担が掛かり、寿命を大幅に縮め、古代種デジモンの数はデジタルワールド全体から数えても少ない部類にあたる。なのはが無意識に行ったのはその『オーバーライト』と同じ事であり、今後も使い続ければなのはは早死にするだろう。

 

「今回は後遺症を治すぐらいのデータ書き換えでしたから、代償は少ないでしょうが、もしも大怪我を負った時にデータの書き換えを行っていたらかなりの寿命が削られたでしょうね」

 

「そうか」

 

「教えてないといけませんよね。もしも知らないで使い続けたりしたら」

 

「早死に間違い無しでしょう」

 

 重苦しい雰囲気が研究室内に満ちる。

 今はまだ知らないだろうが、なのはの性格上、ディーアークの機能を知れば使ってしまう可能性が高い。

 絶対に教えないと行けないとガブモンが考えていると、研究室の扉が開き、イガモンが慌てて入って来る。

 

「ブラック殿、ガブモン! デジタルワールドから緊急連絡でござる!」

 

「何だ?」

 

「他のデジタルワールドの守護者達と会談を行っていたオファニモン様とケルビモン様がご帰還されたとの事に御座る。ついては今後の方針についてと、現れたであろう〝選ばれし者゛に関しての協議を行いたいとの事に御座る」

 

「やはり奴らは感知していたか」

 

 ディーアークの出現を三大天使デジモンが感知出来るのは当然の事である。

 デジタルワールドの守護を担うデジモンで在り、時にはデジタルワールドを護る為に発現する守護の力を望む形で現出させる事も三大天使デジモンには可能なのだ。だが、以前のルーチェモンとの戦いの時に守護の力を『ディースキャナ』と言う形で顕現させてしまった為に、三大天使が守護の力を扱えば『ディースキャナ』と言う形でしか出現出来ない。

 言うなれば制約なのだ。守護の力はデジタルワールドを護る為に使うべきもの。それを悪用されない為に守護者でありながらも三大天使デジモンにも守護の力に関しては制約が存在しているのだ。

 だから、彼らは待っていた。守護の力自身が望む形で、そして現在の状況に最も最適な形で守護の力が現出するのを。

 

「イガモン。三大天使に伝えろ。新たな〝選ばれし者゛の所在は判明している。ソイツも伴ってデジタルワールドに向かうとな」

 

「りょ、了解で御座るが……問題は無いので御座るか」

 

「問題が出た時は俺が対処すると伝えろ」

 

「わ、分かったでござる」

 

 イガモンは返事を返すと共に部屋から退出した。

 ブラックもそのままガブモンとフリートを伴い、部屋から出ようとするが、そのブラックの脳裏に声が響く。

 

(ブラック様)

 

「ムッ!」

 

「どうしたんですか?」

 

「……ルインが目覚めた」

 

「そうみたいですね」

 

 ブラックの言葉に素早く手元にコンソールを展開したフリートが同意した。

 

「……完全復調では在りませんが、もう外に出ても問題は無いぐらい回復していますね」

 

「そうか。なら、ルインも連れて行くぞ」

 

「了解です」

 

 フリートは頷くと共にルインが入っている治療カプセルの扉を開ける指示をコンソールで送り、合流したルインと共にデジタルワールドへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 高町家のリビングでは重苦しい雰囲気に包まれていた。

 突然家の中から消えたなのはに慌てていた士郎達だが、そのなのはが無事に戻って来た事に喜び、家族それぞれ抱き締めた。同時に何故後遺症でまともに動けない筈のなのはが普通に歩いて戻って来たのかや、グレアム達だけではなく、リンディが居るのかと困惑した。

 事前にリンディがなのはぐらいの年齢にまで若返っている事は聞いていたのでその点に関しては疑問は無かったが、同時に管理局から離れた事も聞いていた。それにガブモンも居ない事に士郎達は気が付き、その説明をたった今聞き終えた。

 

「……そうですか。彼はまたなのはを護ってくれたんですね」

 

「私達が駆け付けた時には既に戦いは終わっていたので、あの生物が護っていたのは間違いないでしょう。それで、リンディ……話してくれるのかね?」

 

「……全ては管理局が在る男を保護してしまったのが、今の状況の始まりです。あの男を……『倉田明弘』を」

 

「『倉田明弘』? 名前からして地球の出身のようだけど 何故その男を管理局が保護したと言えるの?」

 

「……なのはさん? 覚えてるかしら? 管理局本局の最高評議会が潜んでいた場所に、ロボットのような見た目の生物が居た事を?」

 

「は、はい!」

 

 リーゼアリアの疑問にリンディはなのはに顔を向けて質問し、なのはは管理局本局内で見たギズモンXTを思い出して頷いた。

 最高評議員の命令で自分達に攻撃しようとし、更には直前までブラックを壁に埋め込んでいたので、なのはは良く覚えて居た。その後、クロノ達も色々調べたのだが、結局正体が分からないままだった。

 

「あの生物の名前は『ギズモンXT』。あの生物こそ、管理局内に『倉田明弘』が居る事の証拠。今は何処かに潜んでいるようだけど、あの男は放置してはおけない。既にあの男は解き放ってはならない存在を、最高評議会の力を使って解き放ってしまった。『ルーチェモン』と言う最悪の脅威を」

 

「ルーチェモン!? それはクロノが接触したと言う天使のような子供の事か!?」

 

 事前にクロノからグレアム達もルーチェモンに関しては聞いていた。

 常識を超越した存在であり、管理局が最大に警戒するブラックさえも上回る実力を秘めた、正真正銘の化け物。

 出会ったりしたら即座に脇目も振らずに逃げろと警告されている。何せ天変地異を引き起こしたかもしれない存在なのだから当然だが、その存在を解き放つのに最高評議会が手を貸していたとはグレアム達も思ってなかった。

 

「私もクロノ達が居た現場に居ました……だけど、私はルーチェモンを見ただけで固まってしまった。彼の後ろに隠れてクロノ達を逃がすのだけで限界だったわ」

 

 純粋な人間ではなく、デジモンに近い故にリンディはルーチェモンとの実力差を実感し、本能的に勝てないと感じ恐怖した。

 圧倒的と言う言葉では足りない。その気になればクロノ達は出会った瞬間にルーチェモンに殺されていた。クロノ達の決死の戦いは、ルーチェモンにとって遊びでしかない。

 

「でも、そんなルーチェモンが恐れる力が在る。それこそが今なのはさんの手に握られている『ディーアーク』」

 

「こ、これがですか!?」

 

 なのはは驚きながらディーアークを見つめ、他の者達もディーアークに目を向ける。

 手に収まるぐらいの大きさしかないディーアークが、ルーチェモンが脅威を示すほどの力を秘めていると言われて、信じられる筈が無い。

 

「……まさか、それって、ロストロギアなの?」

 

「違うわ、アリアさん。ロストロギアは過去の遺物。その『ディーアーク』はさっきこの世界に発生したのだから、ロストロギアと言う名称は相応しくないわね」

 

「待ってくれ、リンディ。君の言っている事には矛盾が在る。先ほど発生したと言っているのに、君は何故その機械の名称を知っているのだ?」

 

「……色々と此方にも事情が在るんです……(失言だったわね。彼の知識は役に立つけれど、ウッカリ知っている名称で呼んでしまったわ)」

 

 リンディが『ディーアーク』と言う名称を知っているのは、自らに流れ込んで来たブラックの記憶である。

 とは言え、その説明を出来る訳が無い。何よりどうやって説明すれば良いのかリンディには全く出来る自信が無い。特殊な『異界』と呼ばれる世界が存在している事を証明出来る術が無いのだから。

 とにかく話を変える為にリンディは口を開く。

 

「話を戻しますけど、二年前に彼が私達の前に少し現れる前、最高評議会と彼らに従う一部の勢力が、一つの世界に一つの要求を伝えました。要求の内容は、管理局にとっては当たり前になってしまった、管理世界に指定する世界に対して要求する内容です」

 

「『管理世界に指定したい』という事か?」

 

「えぇ。ですけど、その世界は『自分達はこの世界で満足しているので断る。他世界と交流する気は無い』と伝えました。でも、『倉田明弘』によってその世界の危険性を知った最高評議会は放置をせず、強硬な手段に出ました」

 

「……何をしたんだね、最高評議会は」

 

「……〝虐殺と捕獲゛」

 

『ッ!?』

 

 告げられた事実にその場にいる全員が息を呑んだ。

 

「馬鹿な!? 幾ら違法を行っていた最高評議会とは言え、そのような短絡的な事をする筈が!?」

 

「それを実行するほどの情報が、彼らの下に在れば実行するでしょうね。何せ多くの世界を管理している管理局が、勝てない存在が多数生息している世界なだけに、危険度は高い。其処に実際にその世界の危険性を知っている『倉田明弘』が話せば動くでしょう。どんな風に話したかまではもう分かりませんけど、まんまと倉田は目的どおりに求めるモノを手に入れた……『七大魔王』の一角、『傲慢』を司るルーチェモンを」

 

「『七大魔王』って……まさか、クロ助が言っていたような奴が他にも居るって事!?」

 

 信じられないと言うようにロッテが叫び、他の者達も目を見開く。

 天災を引き起こした存在が他にも存在しているなど、普通なら考えられないだろう。リンディだって信じたくはないが、残念ながら存在し、倉田とルーチェモンが復活させようとしている可能性がある。

 重々しく事情を説明しようとリンディが口を開きかけた瞬間、通信機から音が鳴り響く。

 

「ちょっと失礼します……はい、此方リンディ。あっ、ガブモン君。どうしたの? …えっ、そう戻って来たの。それでなのはさん達を連れてあそこに……はっ?」

 

 信じられない事を聞いたと言うようにリンディは固まった。

 耳に当てている通信機を持つ手が小刻みに震え、唇は青ざめ顔色は真っ白になって行く。明らかに尋常じゃない様子のリンディにグレアム達は何かが起こったと悟るが、当のリンディは構わずに通信機に震えながら質問する。

 

「ご、ごめんなさい、ガブモン君? ちょっと通信機の調子が可笑しいみたいなの……もう一度言ってくれるかしら?……『フリートさんが外に出て、一緒にデジタルワールドに向かっている』……フフッ、ガブモン君。冗談でもそんな事を言わないで頂戴……えっ? 替わる? 誰にかしら? 勿論彼かルインさん、イガモン君、シュリモン君或いはクイントさんによね? 居ない人に替われるはずが…………………な、な、な、な、な、何で貴女が其処に居るのぉぉぉぉぉーーーーー!!!!!!?????」

 

『ッ!?』

 

 突然大声を上げたリンディに全員が驚くが、当のリンディはそれどころではないと言うように通信機に向かって叫ぶ。

 

「今すぐ帰りなさい!!! えっ、もう渋谷駅の地下に居るから無理。トレイルモンが来たので乗り込みますって、止めなさい!!! もしもし! もしもし!? もしもし!?」

 

 狂乱と言うようにリンディは通信機に向かって叫ぶが、既に通信は切れていた。

 一瞬にしてリンディの顔色が土気色に染まって行く。何せ危険過ぎる人物が外に出てしまったのだ。何故外に出られない筈のフリートが外に出られたのかリンディは分からないが、時はそう無い。最早事情をゆっくり説明していられる事態では無いのだ。

 

「全員! すぐに向かうわ!」

 

「ま、待ってリンディ! 何をそんなに慌てて居るんだね?」

 

「それを説明している時間も無いんです! とにかく、これから向かう場所に行けば全てが分かります。『デジタルワールド』で全てが」

 

『デジタルワールド』

 

 そしてなのは達は向かう事に成る。

 全ての始まりにして世界に新たな秩序を造り上げた世界、『デジタルワールド』へと。

 同時に彼らは知る。現在の世界が破滅へと向かっていると言う真実を。




次回で説明会は終わり、新章に入る予定です。

因みにフリートが外に出ましたが、あくまでなのはを見極めるだけで本格的な参戦は無理です。と言うのもフリートは魔導師相手はともかく上級デジモンとの相性が悪い過ぎるので、戦闘に出ても簡単にやられてしまいますから。

活動報告に一つご報告が在ります。

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