漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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今回は前作と違う点が在ります。
ルーチェモンが前作よりも動いていますので、その影響で強化する事にしました。


訪れた運命と覚醒 後編

「グゥッ!?」

 

 更なる爆発が走るガルルモンの足を襲った。

 既に幾度と無く爆発を受けたガルルモンの前足は黒く薄汚れ、血で赤く滲んでいる。

 ミスリル並みの強度を誇る毛皮のおかげで致命傷には及んで居ないが、このまま行けば走れなくなるのも時間の問題。かと言って足を止めて迎撃に出れば、背後から迫って来るバイオ・レディーデビモンの『ダークネスウェーブ』の餌食になる。

 自身だけならば乾坤一擲の覚悟で挑んでいたかも知れないが、今は背中になのはが乗っているので不可能。同時に振り落としてしまう訳にも行かないので無理な動きも出来ない。

 ガルルモンはバイオ・レディーデビモンに対して見事としか思えなかった。前回の時から感じていたが、やはりバイオ・レディーデビモンは格段に強くなっている。最初の時は自らに宿っていた力に溺れていたが、今は冷徹に目的を成し遂げる為だけに戦っている。

 まるで詰め将棋の中に居るように勝機が見えない。

 

(如何する!? このまま先に進んでも恐らくは罠が在るに違いない!?)

 

 一見すればガルルモンの目的通りに海鳴公園に向かっているように思えるが、此処まで冷徹な策を巡らせているバイオ・レディーデビモンがガルルモンの思惑に気が付いていない筈が無い。

 どうするべきかとガルルモンが悩んでいると、背に乗っているなのはが声を掛けて来る。

 

「ガ、ガルルモン君……もう良いよ……本当は逃げられるんでしょう? 私が居なければ」

 

「ッ!? そ、それは……」

 

「ガルルモン君は大きいのにすごい身軽だもん……だったら、低い家なんか飛び越せる筈なのに、それをやらないの……私が背中に乗っているからでしょう?」

 

 なのはは気が付いていた。

 ガルルモンの身体能力ならば、態々道路を走らなくも家を飛び越えたり、或いは家を踏み台などにして高くジャンプを行なったりしてバイオ・レディーデビモンの罠を掻い潜る事も出来た筈。

 それを行なわなかった理由が在るとすれば自身の体を気遣っているからだとなのはには分かった。

 高速で走るガルルモンから振り落とされてしまえば、なのはの命は無い。だからこそ、無茶な行動をせず爆発を食らうのも分かって居て道路をガルルモンは走っているのだ。

 だが、このまま行けば限界が訪れガルルモンは走れなくなる。そうなる前になのははガルルモンに逃げて貰おうと考えたのだ。足手纏いでしかない自身を置いて。

 

「私は大丈夫だよ……レイジングハートは少しだけ何かを浮かせる事ぐらいは出来るみたいだし……だから」

 

「……駄目だ。それだけは絶対にやらない!」

 

「でも、このままじゃ!?」

 

「諦めるな! 残された君の家族がどう思うのか分からないのか!?」

 

「ッ!?」

 

 ガルルモンはなのはの発言に本気で怒っていた。

 何故ならばガルルモンは残された(・・・・)側の者だったからだ。嘗てルーチェモンが復活した時、デジタルワールドは消滅寸前の事態にまで追い込まれ、数え切れないほどのデジモンが死んだ。その中で僅かに生き残ったデジモン達が居た。ガルルモンはその内の一体だった。

 だが、共に幼年期を過ごした友達だったデジモン達と育ての親だったデジモンをガルルモンは失った。デジモンはデジタマに戻って生まれ変わるが、前世の事を覚えて居るデジモンは稀でしかない。家族を失った気持ちを抱いてガルルモンは生きて来た。

 ブラック達と出会い、ルーチェモンが復活しているかも知れないと知った時に復讐心を抱かなかったかと聞かれれば、確かに復讐心を抱いた。しかし、それ以上にガルルモンが思ったのは自らのような悲しみを持つ者を減らしたいと言う想い。誰かに頼るではなく、自らデジタルワールドを守りたいとガルルモンは思ってデジタルワールドから出たのだ。

 そして僅かな時間だが高町家の人々と触れ合い、必ずなのはを守り切るとガルルモンは誓った。

 

「必ず君をあの人達のところに帰して見せる! だから、諦めないでくれ!」

 

「……う、うん!」

 

 なのははガルルモンの言葉で思い出した。

 自身には帰りを待っているであろう家族達が居る事を。封鎖領域が張られたせいで離れ離れになってしまったが、きっと今も心配しているのは間違いない。

 家族に無事な姿を見せて安心させたいとなのはは心から思った。何としても今襲って来ている窮地から脱すると誓い、何か手段は無いかと考える。

 

「……そうだ! レイジングハート! 少しだけなら何かを浮かせられるんだよね!? 私を浮かせる事は出来る!?」

 

《……可能です。ですが、良くて数十秒ぐらいが限度です》

 

「なら!?」

 

 作戦を考えたなのはは小声でガルルモンとデジバイスに説明する。

 

(何か企んでいますわね)

 

 背後からガルルモンを追い駆けるバイオ・レディーデビモンは、ガルルモンとなのはの様子に目を細める。

 幾重にも頭の中でシュミレーションを行ない、必勝と言える策を考えたバイオ・レディーデビモンだが、だからと言って油断は全くしていない。これまでの戦いからガルルモンならば何か逆転の手段を実行して来る可能性も考慮している。

 

(でも、どんな策を練ろうと私の行なうべき事は変わらない。ガルルモン。貴方の決定的な弱点を突かせて貰いますわ!)

 

 バイオ・レディーデビモンがダークネススピアを構えると同時に、ガルルモンが動く。

 後少しで海鳴公園に辿り着く直前、ガルルモンは地面を強く蹴り、高く舞い上がった。瞬時にバイオ・レディーデビモンは『ダークネスウェーブ』を放ち、逃げ道を塞ごうとする。

 それに対しガルルモンは落下する途中で、自らの足の下に氷の板を発生させる。

 

「アイスウォール!」

 

(これはあの時の二段ジャンプ!?)

 

 アイスウォールを足場として利用するガルルモンの二段ジャンプ。

 しかし、ジャンプした先の方向は前ではなく、更に上にジャンプし、ガルルモンはそのまま宙返りを行ない、顔を目を見開くバイオ・レディーデビモンに向ける。

 

「アイスキャノン!!」

 

 口から放たれた巨大な氷の塊は、勢い良くバイオ・レディーデビモンに向かう。

 それに対してバイオ・レディーデビモンはISで隠して在る『ダークネスウェーブ』を使い、迫るアイスキャノンを防御しようとする。だが、防御する直前、アイスキャノンを放ったガルルモンが続けて蒼い炎を放つ。

 

「フォックスファイヤーーー!!!」

 

「なっ!? クッ!」

 

 アイスキャノンの背後から迫るフォックスファイヤーに驚いたバイオ・レディーデビモンは、ISで隠しているダークネスウェーブだけでは防ぎ切れないと判断し、周りに飛翔させていたダークネスウェーブも防御に回す。

 アイスキャノンが先に激突して爆発を起こし、続けてフォックスファイヤーもダークネスウェーブに直撃して大爆発が起きる。その衝撃でガルルモンの体は爆風の衝撃で海鳴公園の方に押しやられる。同時に背中に乗っていたなのはも、爆発の衝撃で手を放し、吹き飛ばされてしまう。

 そのまま勢い良く地面に落下して行くが、フワッとその身を魔力光が覆い地面への落下を防いだ。

 ガルルモンはそれを落下しながら横目で確認し、更なる攻撃を加えようとアイスウォールを再び後ろ足で発生させようとするが、直前に目にする。爆煙の中で薄い笑みを浮かべているバイオ・レディーデビモンを。

 

(まさか!?)

 

 嫌な予感を感じ、ガルルモンは即座になのはに顔を向けて目にする。

 爆発の余波から免れたダークネスウェーブがなのはに向かって飛翔して行くのを。

 

「クッ!?」

 

 ガルルモンは即座にアイスウォールを発生させ、なのはに向かって飛び出す。

 同時になのはもダークネスウェーブが向かって来ているの事に気が付き、目を見開く。そのなのはを守るようにガルルモンが降り立つと同時にダークネスウェーブがガルルモンに直撃して大爆発が起きる。

 

「フフッ! やりましたわ!!」

 

 自らの策の成功にバイオ・レディーデビモンは歓喜する。

 ガルルモンの最大の弱点。それは護っていたなのは。彼女に危機が訪れれば、ガルルモンは必ず動く。

 何が在ろうとその行動だけは行なうと確信していたバイオ・レディーデビモンは、なのはを狙ったのだ。そしてその策は成功し、爆発の中からガルルモンは姿を見せると同時に地面に倒れ伏してしまう。

 

「ッ!? ガルルモン君! ガルルモン君! 確りして!?」

 

「……驚きましたわね。まさか、あの爆発を受けて無傷なんて」

 

 ガルルモンに呼びかけるなのはを目にしたバイオ・レディーデビモンは驚いていた。

 なのはは着ている服に汚れが付いているが、それ以外に傷らしきものは無い。ガルルモンが身を挺して護ったと言う証拠。一気にガルルモンとなのはを葬るつもりだったが、予定よりもダークネスウェーブの数が減って居た為に命を奪う事は出来なかったのだ。

 涙を流しながら意識が無いガルルモンに呼びかけるなのはを目にしながら、バイオ・レディーデビモンはダークネススピアを構える。自らの顔に付いた消えない傷の事が僅かに脳裏に浮かび、二人一緒に串刺しにする気なのだ。

 

「さぁ、これで終わりですわ!!」

 

 背の翼を勢い良く動かし、なのはとガルルモンに向かって突撃する。

 突撃して来るバイオ・レディーデビモンを目にしたなのはは、悔し涙を流しながらガルルモンを庇おうと両手を広げる。無意味でしかない行為。突撃して来るトラックを受け止められる訳が無いと同じで、なのははダークネススピアにその身を貫かれ、その背後にいるガルルモンを突き刺す。

 だが、何かをしたいと言う思いでなのははガルルモンを庇おうとする。そしてダークネススピアがなのはの体に届く直前、光が突如として発生する。

 

「なっ!?」

 

「……えっ?」

 

 発生した光とダークネススピアが激突し合ったと同時に、甲高い金属音が周囲に響き、バイオ・レディーデビモンは背後に弾き飛ばされた。

 

「な、何が起きましたの!?」

 

 地面に着地しながらバイオ・レディーデビモンは声を荒げる。

 確実に決まると思った瞬間に、発生した光。しかもその光は自らの攻撃を弾いた。一体何が起きたのかとバイオ・レディーデビモンがなのはに顔を向けると、不可思議な声が周囲に響く。

 

『光に手を』

 

『その光が君達の力になる』

 

「だ、誰ですの!?」

 

「……レイジングハートから声が?」

 

 声の出どころはなのはが左手に握るデジバイスから響いていた。

 しかし、その声は先ほどまで聞こえていたレイジングハートの音声ではなく、全く別の男性と女性らしき声。

 何が起きているのかなのはには分からない。だが、今だなのはの前には突然発生した光がそのまま残っている。恐る恐るなのはが右手を光に伸ばし、光の中から桜色の縁取りが施されている機械-『ディーアーク』-が現れ、右手に握られる。

 

「あっ……ああああああぁぁぁぁぁぁっーーーー!!!!!」

 

 ディーアークを目にした瞬間、バイオ・レディーデビモンは悟ってしまった。

 恐れていた事態。ルーチェモン達さえも恐れる力が遂に目覚めてしまったのだと。コレを恐れて襲撃したのに、自らの行動が目覚めを促してしまった。

 その事実に半狂乱になりながらもバイオ・レディーデビモンはダークネススピアを構える。

 

「ま、まだですわ。まだ、覚醒したばかり。早急に抹消すれば対処出来る筈!!」

 

(熱い……この機械から何か熱さを感じる)

 

 狂乱するバイオ・レディーデビモンに対して、なのはは右手に握るディーアークから感じる熱さが全身に伝わって行くのを感じる。

 何も出来ない悔しさ。無力な自分への怒り。ガルルモンを護りたいと言う強い意志。それらが武器に変わろうとしているとなのはは感じ取った。そして熱さに動かされ、本来ならば後遺症で動けない筈の体が動く。

 フッとすれば倒れてしまいそうになるほどに揺れながらも、確かになのはは立ち上がった。同時にディーアークから電子音声が鳴り響く。

 

《MATRIX-EVOLUTION》

 

 電子音声が響くと同時にディーアークから光が発生し、倒れ伏していたガルルモンの目が見開く。

 

「ッ!? ガルルモン進化!?」

 

 ガルルモンが叫ぶと同時に蒼いデジコードが発生し、ガルルモンと、そしてなのはを包み込む。

 蒼く輝くデジコードは徐々に繭を形成し、大きさを徐々に縮め、一定の大きさに達した瞬間弾け飛ぶ。

 内部から両手足に金属製の小手と具足を装着し、背中に幾つものギザギザが生えているように見える金属製のジャケットを着た二足歩行の狼男のようなデジモンが立っていた。

 狼男のようなデジモンは両手の鋭い爪を輝かせ、背後に居るなのはを護るように立つ。

 そのデジモンこそ、ガルルモンが完全体へと至った姿。その名も。

 

「ワーガルルモンXッ!!」

 

ワーガルルモンX、世代/完全体、属性/ワクチン種、種族/獣人型、必殺技/カイザーネイル

X抗体によるワーガルルモンのデジコアへの影響より通常のワーガルルモンより、パワフルな体格を身につけている。通常よりも2倍近くに達したその体格から繰り出す豪快なキックは、重量級のデジモンを一撃で吹き飛ばす程のパワーをもつ剛脚の獣士である。キック技の動きを妨げないよう薄手に作られた軽量なクロンデジゾイド製の武具を装着し、攻守のバランスの取れた戦闘のスペシャリストである。二足歩行になったせいでガルルモン時よりもスピードは落ちているが、攻撃力と防御力、ジャンプ力、そして瞬発力が大幅にパワーアップしている。必殺技の『カイザーネイル』は、両手の鋭い鍵爪で相手を切り裂く技だ。その他にも格闘系の技や、珍しい事に成熟期のガルルモンの時に使用した必殺技の『フォックスファイヤー』も使用出来る。

 

「か、完全体に進化した!? そ、それも『X抗体』を持つデジモンに!?」

 

 『X抗体』デジモン。デジモンの中でも珍しいタイプのデジモンで在り、通常の進化よりも『X抗体』を持つデジモンは、寄り強力なデジモンとなる。無論代償が存在し、自らに宿る『X抗体』を制御出来なければ暴走して周囲に破壊を撒き散らす存在になってしまう。

 だが、バイオ・レディーデビモンが見たところワーガルルモンXは理性を宿した瞳を持っている。

 ワーガルルモンXはゆっくりと自らの金属小手と鋭く輝く爪に目を向ける。

 

「こ、これは……どうして今進化が?」

 

 ワーガルルモンXは僅かに困惑を覚えて居た。

 意識を失っている時に突然暖かさと力が沸き上がり、完全体に進化出来たのだ。しかも今も暖かさが全身を覆い、今も力が沸き上がって来る。しかし、何時までも呆けている場合ではないとバイオ・レディーデビモンを睨みつける。

 

「クゥッ! まだですわ!!」

 

 すぐさまバイオ・レディーデビモンは上空に舞い上がる。

 確かに進化されてしまったのは予想外だったが、幸運にもワーガルルモンXは地上型タイプのデジモン。油断をするつもりは無いが、空を自由に動けない事に変わりはない筈。何よりもまだ高町なのはと言う足手纏いが居る。

 勝ち目は確かに在るとバイオ・レディーデビモンは感じながら、ダークネスウェーブを放とうとした瞬間、なのはの声が響く。

 

「……古の地の力に蘇り、十の力を宿した不屈の意思。今此処に目覚めん。新たな契約を今此処に!!! 『レイジングハート・エレメンタル』、セット・アップ!!」

 

stand(スタン) by(バイ) ready(レディ).set(セット) up(アップ).》

 

 なのはがデジバイス-『レイジングハート・エレメンタル』-を掲げた瞬間、桜色の魔力の奔流が発生し天高く聳え立った。

 光の中でなのはは新たなバリアジャケットを纏って行く。以前の制服をイメージしたバリアジャケットと違い、各所には金属鎧のような装着され、胸元のリボンは消失してハードシェル装甲が装着される。同時に次々とパーツが出現し、柄の部分は白銀に輝き、二又の金色の槍を思わせるようなレイジングハート・エクセリオンモードを彷彿させる杖に合体して行く。

 バリアジャケットを纏い終え、デジバイスも完全に姿を現し、なのはは右手でレイジングハート・エレメンタルを強く握って構える。

 

「……レイジングハート、行ける?」

 

《全機能の20%が使用可能。並びに『エレメントシステム』の属性解放率は二種類……戦えます、マイマスター!!》

 

「……えっ?」

 

 一連の流れを見ていたワーガルルモンXは、思わず疑問の声を漏らした。

 本来ならばなのはは戦えない体の筈であり、同時にデジバイス事レイジングハート・エレメンタルは強固なプロテクトが施されていて起動出来ない筈。何よりも起動出来たとしても迂闊に使えば、なのはの命が危ない筈なのに平然となのはは使っている。

 一体どういう事なのかとワーガルルモンXは混乱する。

 それに対してなのはは、ゆっくりとレイジングハート・エレメンタルの矛先をワーガルルモンX同様に驚愕しているバイオ・レディーデビモンに向かって構える。

 

「どうしてかは良く分からないけれど、今なら戦えそうなの。だから、ワーガルルモンX君。一緒に戦おう!」

 

「……分かった」

 

 疑問は色々と在るが、今は先にバイオ・レディーデビモンを倒さなけばならない。

 一見すれば完全体に進化したのとなのはの不可思議な復活で優位に立っているように見えるが、余裕は余り無い。まだ進化した状態にワーガルルモンXは慣れて居らず、なのはもレイジングハート・エレメンタルを使いこなせない。

 対してバイオ・レディーデビモンも現状の厄介さに危険度を跳ね上げていた。次々と起こる不可思議な現象は間違いなく、ルーチェモン達が恐れている力の覚醒が原因。このまま戦うべきかと、それとも逃げるべきかと天秤に架ける。

 

(進化したてとはいえ『X抗体』を持った完全体デジモン。何故か戦える体になった高町なのはに、それに見た事も無いデバイスまでも。一体どうなっていますの!? ……此処はやはり退くべき……いえ、このまま戦闘継続すべきですわね)

 

 不確定要素を不確定要素のままにしておく方が危険。

 この戦闘は主であるスカリエッティも観測している。今後の為にも情報が必要だと判断し、バイオ・レディーデビモンは背の翼を広げる。

 

「行きますわよ! ダークネスウェーブっ!!」

 

 再びダークネスウェーブは放たれ、無数の暗黒飛翔物がワーガルルモンXとなのはに襲い掛かる。

 それに対してワーガルルモンXは構えようとするが、その前になのはがレイジングハート・エレメンタルを掲げる。

 

《シャイン・エレメント、セット・アップ.Wide(ワイド) Area(エリア) Protection(プロテクション)

 

(防御魔法を使って防ぐつもりのようですけど、無駄ですわ!)

 

 回避よりも防御を選んだなのはをバイオ・レディーデビモンは嘲笑する。

 どんな強固な盾であろうと絶え間なく、ダークネスウェーブが直撃すれば防げる筈が無いのだ。一発一発ならともかく、無数を防げる筈が無い。

 自らのISであるシルバーカーテンで防御の為のダークネスウェーブを残しながら、バイオ・レディーデビモンはワイドエリアプロテクションとダークネスウェーブと激突し、爆発に飲み込まれるワーガルルモンXとなのはを見る。

 そのまま発生した爆炎と煙を見つめていると、煙の中からワーガルルモンXが飛び出して来る。

 

「ウオォォォッ!!」

 

「クゥッ!」

 

 飛び出して来ると同時にワーガルルモンXの鋭い蹴りを放ち、バイオ・レディーデビモンはギリギリのところで躱す。

 そのまま地面に落下するであろうワーガルルモンXにダークネススピアを振ろうとする。だが、落下する直前のワーガルルモンXの足元に桜色に輝く魔法陣-『フローターフィールド』-が発生し、落下を防ぐ。

 バイオ・レディーデビモンは慌てて攻撃を止めようとするが、その前にワーガルルモンXがダークネススピアを掴む。

 

「逃がさない!」

 

「この!?」

 

 引き離そうとバイオ・レディーデビモンは力を籠めるが、進化した事に寄って力が上がって居るワーガルルモンXを引き離す事は出来なかった。

 そのバイオ・レディーデビモンの背後から八つの桜色の魔力弾が襲い掛かる。

 

「ディバインシューター、シュート!!」

 

Divine(ディバイン) Shooter(シューター)

 

「チッ!!」

 

 背後から迫る魔力弾に気が付いたバイオ・レディーデビモンは、翼で自らの体を包んで防御態勢を取った。

 隠して在るダークネスウェーブで防御する事も出来るが、其方はワーガルルモンXの必殺技を警戒して使用しなかった。だが、防御態勢になった瞬間、フッとバイオ・レディーデビモンの脳裏に嫌な予感が過った。

 以前にも同じような事が在った。その考えが脳裏に過ったと同時に魔力弾が直撃し、予想を超える激痛が襲い掛かった。

 

「キャアァァァァァッ!! こ、この痛みは!?」

 

 前回の襲撃時にも感じた事が在る痛み。

 一体何故桜色に輝くだけの魔力弾(・・・・・・・・・・・)だけで、此処までダメージを受けるのか分からず、バイオ・レディーデビモンは困惑する。

 その隙を逃さず、ワーガルルモンXは強烈な蹴りをバイオ・レディーデビモンの腹部に向かって叩き込む。

 

「フッ!!」

 

「グハッ!?」

 

 強烈な一撃にバイオ・レディーデビモンは息を吐き出しながら、後方に吹き飛ぶ。

 しかし、すぐさま翼を使って態勢を立て直し、ワーガルルモンXに口を向ける。

 

「食らいなさい!!」

 

「させない!!」

 

 何かをやろうとしている事に気が付いたなのはが、瞬時に桜色に輝く羽を両足から発生させながらワーガルルモンXとバイオ・レディーデビモンの間に割り込み、レイジングハート・エレメンタルの矛先を構える。

 その姿からはダークネスウェーブに寄るダメージらしきものは見受けられなかった。ただ不自然な事にバリアジャケットの白い部分から淡い光のようなものが発生している。何が起きているのかと訝しむが、すぐさま口から闇の奔流を吐き出す。

 

「プワゾン!!!」

 

 バイオ・レディーデビモンの最大の必殺技『プワゾン』。

 放たれた闇の奔流が相手に直撃すると同時に、相手の持つパワーをダークエネルギーと相転移し、敵を内から滅殺する防御不可能な必殺技。回避する以外に対処法はなく、これならば確実になのはとその背後に居るワーガルルモンXに届く筈だと確信する。

 だが、そんな確信を裏切るようになのははレイジングハート・エレメンタルの矛先から最も得意とする砲撃魔法を放つ。

 

「ディバイン、バスターーー!!!!」

 

 放たれたディバインバスターはプワゾンと激突し合い、互いを撃ち破ろうと鬩ぎ合う。

 その事実にバイオ・レディーデビモンは目を見開く。本来『プワゾン』と鬩ぎ合う事など在り得る筈が無い。

 『プワゾン』の特性は相手のエネルギーをダークエネルギーに変化する事に在る。以前検証した結果、魔導師が放つ砲撃魔法であろうダークエネルギーに変化し、逆に相手を飲み込む筈なのだ。

 にも拘らず、なのはが放ったディバインバスターはダークエネルギー変換される事なく、互いに鬩ぎ合い続けている。

 

(如何なっていますの!? あのデバイスは一体何なのです!? ダークネスウェーブを防いだ事と言い、異常なダメージも受けて……まるで夜なのに相性が悪い場所(・・・・・・・)で戦っているみたいに……ッ!?)

 

 脳裏に過った一つの推測。異常なまでのダメージに必殺技の弱体化。そしてなのはのバリアジャケットから漏れる淡い光。

 それらの状況証拠がバイオ・レディーデビモンの優れた頭脳に寄って、一つの答えへと導いた。その答え通りならば不味いと判断したバイオ・レディーデビモンは、プワゾンに加えて隠していたダークネスウェーブを操り、なのはに向かわせようとする。

 だが、バイオ・レディーデビモンが動き出す直前、頭上からワーガルルモンXの声が響く。

 

「カイザーーー!!!」

 

「ッ!?」

 

 聞こえて来た声にバイオ・レディーデビモンは目を向けると、ワーガルルモンXが両手を振り上げていた。

 なのはとバイオ・レディーデビモンが鬩ぎ合っている隙に、ワーガルルモンXはフローターフィールドを蹴りあげて飛び上がっていたのだ。

 そして完全に隙を付いたワーガルルモンXは、自らの最大の必殺技を放つ。

 

「ネイル!!」

 

 ワーガルルモンXが両手を振り下ろすと同時に、十本の爪線から赤い閃光が放たれた。

 バイオ・レディーデビモンはプワゾンを放つのを止め、カイザーネイルを回避する。

 そしてすぐさまISを発動させる。

 

「シルバーカーテン!!」

 

 IS発動と同時にバイオ・レディーデビモンの姿は消失し、更に封鎖領域も解除する。

 不味いとワーガルルモンXとなのはは海鳴公園に着地する。封鎖領域が解除されたと言う事は、一般人に見られてしまう恐れがある。

 バイオ・レディーデビモンは逃げる為の切り札も残していた。これでは追う事は出来ない。

 

《敵勢力離脱を確認しました、マスター》

 

「うん……みたいだね」

 

 地面に降り立ったなのははレイジングハート・エレメンタルの報告になのはは警戒心を解き、バリアジャケットに備わっていたポケットからディーアークを取り出す。

 同時にディーアークの液晶画面から空間ディスプレイのようなものが展開され、一番近くに居るデジモンの詳細情報が勝手に表示される。

 

「ワーガルルモンX。世代完全体。属性ワクチン種。必殺技はカイザーネイルって……これって、ワーガルルモンX君の情報なの?」

 

《そのようです》

 

 ディーアークの表示情報に驚きながらなのはがワーガルルモンXに顔を向けると、ワーガルルモンXの体からデジコードが発生する。

 デジコードは徐々に大きさを縮め、デジコードが消え去った後にはガブモンが地面に座り込んでいた。同時にディーアークは今度はガブモンの詳細情報を映し出す。

 

「ガブモン。世代成長期。属性データ種。必殺技はプチファイヤー。……この機械って一体何なのかな?」

 

「……選ばれた証明品とも言えるわね、なのはさん」

 

「ッ!?」

 

 聞き覚えの在る声になのはは振り向く。

 視線の先には予想通り、複雑そうに曖昧な笑みを浮かべるリンディと黒いコートとズボンを着た金色の目をした不機嫌そうにしている男性が立っていた。

 突然現れたリンディと謎の男の姿になのはが思わず固まってしまう。その隙を逃さず、男は瞬時になのはの前に移動し、レイジングハート・エレメンタルの柄を蹴り上げる。

 

「フン!!」

 

「アッ!」

 

 蹴り上げられたレイジングハート・エレメンタルに、なのはは思わず叫ぶが、男性は構わずに落下して来るレイジングハート・エレメンタルを右手で掴む。

 

「……なるほど、フリートの奴が最高傑作だと言うだけは在るな。それなりの力を込めて蹴ったのに、破損が見えん」

 

「そ、その声は、まさか!?」

 

 聞き覚えの在り過ぎる声になのはは思わず叫ぶが、男性-人間の姿になっているブラック-は、レイジングハート・エレメンタルを持ったままなのはには構わずガブモンの下へと向かう。

 逃げる事は出来ないと観念したのか、レイジングハート・エレメンタルは機能を停止させ、バリアジャケットが解除され、なのはは私服へと戻る。

 ブラックの背になのはは慌てて声を掛けようとするが、リンディがなのはに傍に近寄って来る。

 

「元気そうね、なのはさん」

 

「……はい。リンディさん、一体何が起きているんですか? この見た事も無い機械が突然現れたり、私の体が治ったりしたり……リンディさんは何かを知っているんですか?」

 

「……なのはさんの体が治った理由は、私にも分からないけれど……その機械に関しては予想はついているわ。貴女は選ばれたのよ、なのはさん。ガブモン君と共に」

 

「選ばれた? 私とガブモン君が一体誰にですか?」

 

「……運命、或いは世界にかしらね」

 

 そうリンディが告げると同時に、風が何処からともなく周囲に吹く。

 漠然となのはは感じた。リンディの言っている事は冗談などではないと。右手に握るディーアークは一見すればただの機械にしか見えないが、何か途轍もないものを秘めた代物なのだと。

 

「知りたい、なのはさん? 今世界に何が起きているのか? そして何が起きようとしているのかを?」

 

「……知りたいです」

 

「……そう」

 

「我々にも教えて貰いたいな、リンディ」

 

 背後から聞こえて来た声にリンディは驚く事無く振り返り、懐かし気にグレアム、リーゼロッテ、リーゼアリアを見つめる。

 

「……お久しぶりですね、グレアムさん、ロッテさん、アリアさん」

 

「久しぶりだ。それで我々にも話して貰えるのかね」

 

「話すのは構いませんけど、他にもなのはさんのご家族に説明しないと行けませんから、一先ずはなのはさんの家に向かいましょう」

 

「分かった」

 

「俺は先にガブモンと戻るぞ」

 

 頷くグレアム達と違い、ブラックは疲労したガブモンを左肩に抱きながら告げてその場に背を向ける。

 

「かなりガブモンは消耗している。それに、これ以上奴を待たせるのは不味いからな」

 

「えぇ、でも私達が行くまではデジバイスを分解するのは止めておいてね」

 

「分かって居る。俺もこんな面白いものを壊させたりする気は無い」

 

 そう告げるとブラックの足元に魔法陣が発生し、右手にレイジングハート・エレメンタルを持ちながらガブモンと共に何処かへと転移して行った。

 

「さて、行きましょうか」

 

 ブラックの転移を見届けたリンディは歩き出す。

 なのは達はその後を付いて行く。その先にはきっと自分達の想像も知らない事実が待っている事を感じながら。




本作でのディーアーク設定。

詳細:形状はデジモンテイマーズのディーアークと同じ。正しカードスラッシュ機能は存在せず、変わりにデジモンが完全体に進化する為にブルーカードは必要としないだけではなくパートナーデジモンが受けるダメージはパートナーには及ばない。ディーアーク内部はデジモンの詳細情報が記録されていて、対象のデジモンにディーアークを向ける事で情報が閲覧出来る。また、ディーアークには所有者をデータ化させる機能が実装され、現在は不可能だが条件を満たせば究極体への進化にも問題なく可能。

デジバイス設定。

名称:『レイジングハート・エレメンタル』
詳細:アルハザード技術とデジタルワールドの技術を融合させてフリートが造り上げた最高傑作のデジバイス。
現在のデバイス技術を天元突破して居るだけではなく、製作者のフリートも予想が付かないレベルで変貌し始めている。管理局が見つければ永久封印指定を間違いなく押されるロストロギア。現在は強力なプロテクトを施されて居る為に機能の約八十%が使用出来ないが、それでも『レイジングハート・エクセリオン』と同レベルを誇る。フレームやパーツは全てクロンデジゾイド製で造られ、現在のアームドデバイスとぶつかり合えば、アームドデバイスの方が粉々に砕けるほどに強靭。最大の特徴である『エレメントシステム』は〝伝説の十闘士゛の属性情報を元に造られ、ギズモンとは別の意味でデジモンにとって厄介なシステム。今現在使用出来る属性は『光』と『風』の二属性のみ。
今後のなのはの成長次第で機能が解放されて行く。

なのはが復活した詳細などは次回説明します。

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