リアルで色々と在ってしまい、更新が出来ずにいましたが、今後は少しづつ更新出来るように頑張って行こうと思います。
夜の闇に包まれる深夜。
ガブモンは高町家のなのはの部屋の前で、ノックする為に上げた手を下すのを悩んでいた。
(……弱ったな。まさか、僕が持って来た方が『デジバイス』だったなんて……本当にどうしよう)
なのはの部屋の扉の前でガブモンは頭を抱える。
『デジバイス』がどれだけ危険な物なのかガブモンは理解している。管理世界に渡れば、それだけで争いを呼ぶような代物であり、デジモンにとっても危険な代物。当然すぐさま回収してアルハザードに戻さなければならない。
だが、今回は前回と違って本気でフリートが怒っている。回収してフリートの手に渡れば、躊躇いなど無く『デジバイス』は徹底的に分解されるのは間違いない。それ故にガブモンは悩んでいた。
なのはが『デジバイス』と再会した時の心の底からの喜びを知っているだけに、『デジバイス』を返して貰わなければならない現状にガブモンは悩む。
(でも、返して貰わないとフリートさんが本気で動き出すらしいし)
現在フリートはガブモンには何が在ったのか分からないが、ブラックを怒らせて瓦礫に中に埋まっている。
そのおかげでフリート本人が来る事は無い。だが、『デジバイス』を回収出来なければ、証拠隠滅に乗り出す可能性が在るとリンディから伝えられている。本気で証拠隠滅の為に行動し出したフリートが何をするか分からない。
何時もは研究に熱中しているか、リンディにボコボコにされるか、時々いきなり高笑いを上げたりしているマッドサイエンティストだが、遊び抜きで本気で動く時のフリートは危険な存在なのだ。
(うぅ、本当にどうしよう)
今『デジバイス』がアルハザードに戻らなければ、最悪の事態になってしまう。
『デジタルワールド』としても、管理世界の拠点代わりに使えるアルハザードを失うのは不味い。『デジバイス』自体も管理世界に知られる危険は回避しなければならない。個人的な感情を抜きにすれば、ガブモンも『デジバイス』をアルハザードに戻したいと思っている。
(……と、とりあえず、何時までもこうしている訳には行かない。ブラックさんが来るらしいし、とにかく、アルハザードに関する事を秘密にして事情を説明しないと)
悩んだ末にガブモンはなのはの部屋をノックする。
「はい!」
「え~と、ガブモンだけど。(ウゥ、楽しそうな声だな)」
扉の向こう側から聞こえて来たなのはの楽し気な声に、ガブモンは恐る恐る質問する。
「……入っていいかな?」
「うん、良いよ」
「じゃあ、失礼します」
ゆっくりと扉をガブモンは開けて部屋の中を見回す。
なのはは車椅子から降りてベットの上に座っていた。そのなのはの前には赤い球-『デジバイス』-が空中に浮かんでいる。
「は、話しでもしていたの?」
「うん! それでガブモン君はどうしたの?」
「そ、それは……」
「? 如何したの?」
暗い雰囲気を放つガブモンの様子になのはは首を傾げる。
夕食を取った時と違う雰囲気。一体何が在ったのかとなのはが疑問に思うと、空中に浮かんでいる『デジバイス』が、ガブモンの様子を察する。
『……連絡が来たのですね?』
「レイジングハート?」
「……うん、来たよ。でも、どうしてこんな事を? あの人を怒らしたらどうなるか君になら分かって居た筈だ!!」
「ッ!?」
顔を上げたガブモンの気配に、なのはは驚く。
ガブモンは怒っていた。『デジバイス』の行動は不味いを通り越して、危険な領域に至っている。
何せ最悪の場合、逆鱗に触れたフリート本人がやって来る可能性が在ったのだ。マッドでは在るが、フリートにも矜持が在る。その矜持に真っ向から『デジバイス』は反抗してしまった。
「ガ、ガブモン君? レ、レイジングハートが何かしたの?」
「……実は、君の前に在るのは、君が知っているデバイス何かじゃないんだ。それは在る人の手で造られた新しい魔導師の武器。『デジバイス』」
「『デジバイス』?」
「そう……だけど、それをあの人は管理世界に渡す気は無いんだ。もしも、『デジバイス』が管理局に、管理世界に渡った時……管理世界の歴史がひっくり返ってしまうんだ」
「ッ!? ほ、本当なの、レイジングハート?」
恐る恐るなのはは相棒である筈の『デジバイス』に質問した。
『……事実です、マスター。私は『レイジングハート・エクセリオン』では在りません。破壊された『レイジングハート・エクセリオン』からAIを回収され、この『デジバイス』に組み込まれたのです』
「僕らがそれを知ったのは、君が一度目の脱走を行なった時だった。だから、病院の時に僕らは居たんだよ。脱走した『デジバイス』が向かう先は君のところしかないから」
「……じゃあ、あの時に私を助けに来てくれた訳じゃないんだ」
「うん。本当にあの時は偶然だったんだよ」
ガブモンは意を決して前回駆けつけた理由をなのはに説明する。
実際にあの時は偶然だった。なのはがルーチェモン側のデジモンに狙われるとは思っても無かったのだから。
(でも、良く考えてみればどうしてルーチェモン側のデジモンが動いたんだろう?)
管理局に依頼されたとしても、なのはを襲ったデジモン達は余りにも過剰な戦力。
そもそもバケモンを数体送り込み、一体だけでもなのはに『デスチャーム』を決める事が出来れば、それだけで済む。なのに襲って来たのは完全体のデジモンが二体に加え、成熟期のデジモンが十数体。
其処まで過剰な戦力を送り込む必要が在ったのかとガブモンは疑問に思う。
(それだけじゃない。どうしてブラックさんやリンディさんはこの子が襲われるって思ったんだろう?)
「……どうしたの?」
「い、いや、ちょっと気になった事が在って……それで話は戻るんだけど、『デジバイス』を返して……ッ!?」
ガブモンが話している途中で、突如として周囲の気配が変化した。
同時に感じた凄まじい殺意にガブモンは迷うことなくなのはと『デジバイス』の傍に近寄り、なのはを背負う。
「きゃっ!」
「ごめん! だけど、此処に居たら危ない! 『デジバイス』は確り握っておいて!」
「う、うん!」
なのはは言われたとおり、『デジバイス』を強く握る。
ガブモンはなのはを背負ったまま窓に向かって駆け出し、窓を破壊して外に飛び出す。同時になのはの部屋内部で爆発する。
「クゥッ! ガブモン進化!!」
爆発の衝撃に吹き飛ばされながらも、ガブモンは叫んで体をデジコードで覆う。
デジコードは巨大化し、内部から銀色の狼-ガルルモンが出現し、なのはを背負いながら危なげなく道路に立つ。
「ガルルモン!!」
道路に立ったガルルモンは周辺を見回し、先ほどまで感じていた士郎達の気配が消えている事を知る。
「……魔導師が使うって言う結界か」
「その通りですわ、ガルルモン!」
「ッ!?」
聞こえて来た声になのはが上を向いてみると、翼を広げて右手を槍の形状に変化させているバイオ・レディーデビモンを目にする。
「……バイオ・レディーデビモン!?」
「フフッ、やっぱり現れましたわね、ガルルモン」
「そっちこそいい加減に彼女を狙うのを止めたらどうなんだ? もう彼女が知っている事は全部伝えられているんだ。これ以上この子を狙う理由は無い筈だ!」
「いいえ、在りますのよ。其処に居る高町なのはと貴方は危険な存在になるかも知れませんものね」
「どう言う意味だ?」
「教えませんわ……(万が一にも認識して目覚められたら困りますもの)」
ガルルモンがこの場に居る事で、バイオ・レディーデビモンは確信していた。
高町なのはとガルルモンには目に見えない運命と言う名の糸で結ばれようとしている事を。一度目ならば偶然と言える。だが、二度三度と続けば最早それは偶然ではない。
ルーチェモンが本格的に動き出し、管理世界に放たれたデジモンの存在を人々が認識し始めたこの時こそルーチェモン達が恐れる力が目覚めるに相応しい時。
主人であるスカリエッティはその力が目覚める事を望んでいるが、バイオ・レディーデビモンは違う。
(絶対に目覚めさせませんわ。貴方達は今日この場で……私が殺す!!)
「(来る!)……フォックスファイヤーー!!!」
殺気を感じたと同時にガルルモンは口からフォックスファイヤーを放った。
高熱の青い炎は真っ直ぐバイオ・レディーデビモンに向かって行く。しかし、青い炎がバイオ・レディーデビモンに届く直前、何もない空中で爆発が生じる。
「クッ!」
「ふふ、今までのようには行きませんわよ」
爆発によって発生した煙の中からバイオ・レディーデビモンに余裕さに満ちた声が響く。
ガルルモンの背からその様子を見たなのはは目を見開くが、すぐに前回の戦いの時の事を思い出し、今の起きた現象の正体を悟る。
「も、もしかして、あの見えない攻撃を自分の周りに置いて防御したの?」
「その通りですわ。必殺技をただ攻撃に使う事の愚かしさを前の戦いで私は理解しました。最早以前までの私だと思わない事ですのね!」
「不味い!」
背の翼を広げて突撃して来るバイオ・レディーデビモンを見たガルルモンは、即座に道路を全力で駆け出した。
幾ら封鎖領域の中とは言え、街中で暴れるには場所が悪過ぎる。ガルルモンは巨体故に街中での戦闘は難しい。せめてある程度の広さが在る場所が必要だと判断し、自身がこの地にやって来た海鳴公園に向かう。
「確り掴まっていて!」
「う、うん!」
ガルルモンの呼びかけになのははガルルモンの毛をしっかり掴む。
後遺症で体が思うように動かないとは言え、何とかなのはは力を振り絞って飛ばされないようにする。
「レ、レイジングハート。索敵とかは出来ない? それにこの前は私が使わなくても魔法が使えたみたいだから、今回も」
《……申し訳ありません……現在の本機の機能は、全体の97%が使用不可能です。こうしてマスターと会話するのと僅かに自立駆動が出来る程度の機能しか使用不可能です》
「そ、そんな!? ガルルモン君! レイジングハートの機能を使用出来るように出来ないの!?」
「……ゴメン……僕にも出来ない。それにもしも使用出来たとしても……」
「ガルルモン君?」
急に口を閉ざしたガルルモンになのはは声を掛けるが、ガルルモンは口を閉ざしたまま走り続ける。
だが、更にスピードを上げようとコンクリートの道路を踏み締める足を前に出そうとした瞬間、右前脚で爆発が起きる。
「グゥッ!!」
「ガルルモン君!」
《例の見えない爆発物です! このまま進むのは危険と判断します!》
「……そ、そう言う訳にも行かないみたいだ」
右前脚から走る激痛を堪えながらガルルモンは背後に僅かに視線を向ける。
なのはも釣られて背後を振り向いて見ると、後方から大量の蝙蝠を引き連れたバイオ・レディーデビモンが向かって来ていた。
「……もしかして……あの蝙蝠が?」
「うん。アレが爆発物の正体。バイオ・レディーデビモンの技の一つ『ダークネスウェーブ』だ。見えない時の攻撃も厄介だけど、見えるようにしているなら」
「まさか、アレを街に放って逃げ道を防ぐ気じゃ」
「……違う。アイツの狙いは……グッ!」
「ガルルモン君!?」
再び爆発が生じ、今度は左前脚にダメージをガルルモンは受ける。
それでなのはは敵の狙いを悟った。ガルルモンの一番の武器である機動力を敵は奪う気なのだ。完全体と成熟期の世代の差をガルルモンが縮める要因は、戦いの経験と機動力に在る。
しかし、今ガルルモンが戦っている場所は街中と言う機動力が思うように発揮出来ない場所。加えて今は夜と言うバイオ・レディーデビモンの力が増大する時間帯。そして何よりも背中になのはを乗せて居る為に、無茶な動きは出来ない。後遺症で体が思うように動かず、今も必死に毛を掴んで振り落とされないようになのはは頑張っているのだ。
高速で動き、更に無茶な動きまでしてしまえばなのはは地面に激突して死んでしまう。そんな事をガルルモンは出来ない。同時になのはも自身がガルルモンの足手纏いになっている事に気が付く。
ガルルモンが優しい事をなのははこれまで助けてくれた事や、僅かな時間の交流で悟っている。自分を見捨てる事をガルルモンはしないと何故かなのはには確信出来た。だからこそ、悔しさを感じてガルルモンの毛を強く握る。
(……グレアムさん……アリアさんもロッテさんも来てくれない……きっとあっちにも敵が来てるんだ……どうしたら良いの!?)
何も出来ない事実に悔しさがなのはの心に満ちる。
だが、どうする事も出来ない。魔法も使えず、体も思うように動かず、何も出来ない。その事実になのはは涙を流すが、無情にも更に爆発が生じ、ガルルモンは更なるダメージを受けて行くのだった。
一方、なのはが予想していた通りグレアム達の前にも敵はやって来ていた。
封鎖領域が展開されると同時に住んでいる場所から空へと飛び出したグレアム達の前には、黒い雲-『デスクラウド』-が発生し、行く手を遮っていた。
「父様、これはもしかして?」
「あぁ、はやて君達から送られて来た情報に在った敵の攻撃だろう」
「なら、コイツを使っているのは……」
「私だよ、人間にその使い魔どもよ」
『ッ!?』
聞こえて来た声に三人が振り向いて見ると、周囲を覆っていたデスクラウドの一角からメフィスモンが姿を現した。
「悪いが此処から先に行かせる訳には行かないので邪魔をさせて貰おう」
「一体何が目的だ!? ヴィータ君の話では、貴様はブルーメラモンと言う生物達の仲間だと名乗っていたようだが、それは偽りなのだろう!? 何故なのは君を狙う!!」
「貴様らが知らなくて良い事だ。これ以上失態を重ねる訳には行かないのだ!」
遊びは無いと言うようにメフィスモンは叫び、周囲を漂っていたデスクラウドがグレアム達に向かって集束して行く。
デスクラウドは全てを腐食させる雲。前回のヴィータの時は時間稼ぎと言う目的も在ったので嬲るような戦い方をしたが、後が無いメフィスモンは一気に勝負を着けてバイオ・レディーデビモンの援護に向かうつもりだった。
「何としても高町なのはは殺さなければ……目覚めさせる訳には行かん」
そう呟きながらメフィスモンは翼を広げ、バイオ・レディーデビモンの援護に向かおうとデスクラウドに包まれたグレアム達に背を向ける。
だが、メフィスモンが背を向けた瞬間、デスクラウドから高速で何かが飛び出すと同時にメフィスモンの背を蹴り付ける。
「ハアァッ!!」
「グガッ!?」
無防備なところでの一撃にメフィスモンは苦痛の声を漏らしながら背後を振り向き、全身から魔力光を発しているリーゼロッテを目にする。
「馬鹿な!? 何故デスクラウドに包まれて腐食していない!」
「はあぁぁぁぁっ!!」
「チィッ!?」
問答無用とばかりに格闘戦を仕掛けて来るリーゼロッテの拳や蹴りをメフィスモンは躱す。
そのまま右手をリーゼロッテに向け、デスクラウドを発生させる。
「デスクラウド!!」
発生したデスクラウドはリーゼロッテを包み込み、今度こそ決まったとメフィスモンは確信する。
だが、その核心を裏切るようにデスクラウドの中から再びリーゼロッテの拳が飛び出し、メフィスモンの腹に突き刺さる。
「ウグッ!? ……な、何故私のデスクラウドが……通じないのだ」
「ミッドチルダの病院でアンタは守護騎士を襲ったよね? 確かに何でも腐食するようだけど……唯一腐食出来ないのが在ったの忘れたの?」
「ッ!?」
リーゼロッテの指摘にメフィスモンは思い出す。
確かにデスクラウドはデバイスであろうと騎士甲冑やバリアジャケットであろうと腐食する魔導師にとって厄介極まりない力。しかし、前回の時ヴィータが使用した防御魔法パンツァーヒンダネスを腐食して破壊する事は出来なかった。
その情報からメフィスモンのデスクラウドは魔力を腐食する事は出来ないと推測され、グレアム達はその対策を練った。そしてシグナムが扱う全身にバリアを張るパンツァーガイストに気が付いた。
アレならばデスクラウドが発生していようとメフィスモンと戦闘をする事が出来る。無論問題は在った。
『パンツァーガイスト』は確かにデスクラウドを破る可能性を秘めた魔法だが、魔力消費が大きく攻撃を行なう時には全身防御が出来ないと言う欠点が在り、高度な運用技術が必要になる。だが、グレアム達にはその欠点を埋める手段が在った。
「スティンガーレイ!!!」
「くっ!? き、貴様らまで!?」
デスクラウドを突き破りながら迫って来たスティンガーレイを右手で弾きながら、メフィスモンは目を向ける。
其処にはリーゼロッテ同様に全身から同じ色の魔力光を発している杖型のストレージデバイスを構えたグレアムとリーゼアリアが居た。
メフィスモンはその姿にグレアム達が纏っている防御魔法が一人が発動させているものだと悟る。
(防御を一人に任せて、他の二人が攻撃を行なう作戦か……ならば!!)
グレアム達の作戦を悟ったメフィスモンは上空へと飛び上がる。
その後をグレアム達は追いかける。自らについて来ているのを確認したメフィスモンは、両手を三人に向けて突き出す。
「食らえ!! 暗黒魔術!!」
メフィスモンが両手を突き出すと同時に、漆黒の雷が数え切れないほど放たれた。
ジグザグに雷は迸り、グレアム達に向かって行く。対してグレアムとリーゼロッテは瞬時に纏っている防御魔法だけでは防ぎ切れないと判断し、プロテクションを使用して雷を防ぐ。
「ソイツか!!」
グレアムに護られるように背後に控えるリーゼアリアを見たメフィスモンは、自らが放った雷の中を進む。
リーゼアリアさえ戦闘不能になればデスクラウドで勝負を決める事が出来る。連携はさせないと言うようにメフィスモンはリーゼアリアの前に瞬時に移動し、右手を振り下ろす。
これで決まるとメフィスモンが確信した瞬間、リーゼアリアは笑みを浮かべる。
「フープバインド!!!」
「何ッ!?」
リーゼアリアが叫ぶと共にカードが投げつけられ、発生した拘束輪は次々とメフィスモンの右腕に巻き付き、攻撃を止めた。
メフィスモンは油断していた。リーゼアリアがグレアムに護られた事で余裕が無いと思ってしまったのだ。急いで離れようとするが、右腕だけを拘束している複数の拘束輪はそう簡単には破壊出来なかった。
「お、おのれ!」
「ハァッ!!」
動きが止まったメフィスモンに勝負を決めると言うようにリーゼロッテが猛攻を繰り出す。
メフィスモンはデスクラウドや暗黒魔術を使った搦め手や遠距離攻撃を主にして戦う。身体能力も完全体故にかなりの高さを持つが、接近戦は余り得意ではない。何よりも魔導師の魔法は威力と言う点では脅威に思えなかったので、接近戦に力を入れる気も無かったのだ。
確かに魔法は威力では完全体のデジモンの必殺技には及ばない。だが、応用と言う点だけではデジモンの必殺技を大きく上回っている。
その事を真にメフィスモンは理解していなかった。
「グゥッ!! 舐めるな!!」
次々と体に決まるリーゼロッテの拳や蹴りに寄るダメージを無視して、メフィスモンは左手を突き出す。
掴まえてしまえば身体能力の差でリーゼロッテの骨を砕く事が出来る。掴まえさえすればとメフィスモンは左手で伸ばし、リーゼロッテが逆にその左手を掴む。
「な、何を!?」
『父様!!!』
「ムン!!」
二人の呼びかけに答えるようにグレアムがメフィスモンの体に杖型のストレージデバイスを押し当てた。
「決めさせて貰う! ブレイクインパルス!!」
「ッ!? ガアァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!」
魔法の発動同時にメフィスモンの全身を激痛が走った。
『ブレイクインパルス』。目標の固有振動数を割り出した上で、それに合わせた振動エネルギーを送り込んで対象を粉砕する魔法。対象の固有振動数の算出のために、目標に接触した状態で数瞬の停止が必要などの弱点が在る。だが、グレアム達はこの魔法ならばブラックにさえダメージを与える魔法だと確信していた。
異常なまでの耐久力を誇るが故に、例え殺傷設定の魔法でもブラックにダメージを与え切れない。だが、最小の力で最大の威力を発揮する『ブレイクインパルス』だけは別。デジモンで在ろうと確実にダメージを食らう。
そしてそれをまともに食らったメフィスモンは全身に走る激痛に苦しみ、我武者羅に暴れ回る。グレアム達は巻き込まれまいと離れる。
「ガアアァァァァァーーーー!!!!!」
(消える……わ、私が消えるだと!? あ、あの方に……ルーチェモン様に……し、失望されたまま……い、いやだ……わ、私は……此処で終わ……)
「ブレイズキャノン!!」
苦痛に苦しむメフィスモンにグレアムは砲撃魔法を放った。
熱量を伴った砲撃はメフィスモンを飲み込み、そのまま海の方へとメフィスモンを吹き飛んで行った。
それを確認したグレアム達はすぐさまなのはの救助に向かおうとする。このまま追い駆けてメフィスモンを捕らえる事は出来るが、敵の狙いがなのはで在る以上時間を掛ける訳には行かない。
すぐさま三人はデスクラウドが晴れた闇夜の空を駆けようとして、不思議な光を目にする。
「……何アレ?」
海鳴公園付近の上空。
その辺りだけ夜なのに仄かに光っていた。見るだけで暖かさを感じるような光。
光は徐々に強まり、そして光は地上に向かって降り注ぎ、世界が震えた。
世界の震えを感知した存在は、その方向に思わず顔を向けた。
同時に全員が感じ思う。
『時が来たと』
世界の変革。新たな世界の始まりを告げる光は、地上で倒れ伏すガルルモンと涙を流して右手に桜色の縁取りの機械-『ディーアーク』-を強く握るなのはを照らすのだった。