「……記憶……喪失ですって?」
「えぇ、間違いなく、彼女、クイント・ナカジマには自分に関する記憶が一切在りません」
ガブモン達と共に管理世界に居るデジモン達の捜索を行なっていたリンディは帰還すると共に、フリートから聞かされた事実に唖然とした。
スカリエッティの研究所から救出したクイント・ナカジマ。彼女はフリートの治療によって一命を取り止め、意識も回復した。だが、クイントは記憶喪失になっていた。
よくよく助け出した時の事を思い出せば、クイントはリンディが助け出した時、頭から壁を突き破って来たのだ。当然頭に凄まじい衝撃が襲っていたに違いない。通常ならばバリアジャケットで護られるのだが、クイントが相手にしていたのはルーチェモン。その一撃の前ではバリアジャケットの耐久力など無いに等しい。
寧ろ即死しなかっただけでも奇跡に等しかったのだから。クイントが記憶喪失になっても可笑しくは無いとリンディは納得する。
「…一応確認するけれど、記憶喪失のフリとかでは無いでしょうね?」
「嘘発見器から、脳波の測定による変化まで行なって確認しましたけれど、本当に記憶喪失ですね。正確に言えば、自分に関する部分、〝エピソード記憶”関連が全滅です。ミッドチルダに在るサーチャーを使って、彼女の家族関連の写真を撮って見せてみましたけれど……首を傾げられて知らないと言われました」
人間の脳には、言葉や知識に関する部分を記憶する『意味記憶』。
運動の慣れなど関する部分は『手続記憶』。そしてこれまでの人生で得られた思い出を記憶する『エピソード記憶』が在る。クイントはその三つの中でエピソード記憶が失われている状態に在る。
運が良いと言って良いのか分からないが、意味記憶と手続記憶は無事なのは幸いだった。もしもそれらの記憶まで失ってしまえば、クイント・ナカジマは生きているのに死んだと言える状態になっていただろう。
「記憶が戻る可能性は在るの?」
「……ぶっちゃけって言って難しいでしょうね。いや、戻る可能性は在るには在るんですけど……低いです。何せ此処に来た時点でボロボロでしたからね。かなり頭も打っていたみたいですし」
「…確かにそうね。寧ろ私も送った時は助かる可能性は低いと見ていたから」
「アルハザードは死者蘇生出来るって管理世界で言われていますけど、それは流石に無理です。完全に死んでないならともかく、本当に死んでいる者には、精々出来て体を綺麗な状態に出来るぐらいですよ」
管理世界に於いて伝説の地、アルハザードでは不可能は無いとされている。
だが、実際には違う。脳死に至ったって無ければ助かる可能性は在るが、脳が無事で無ければ蘇生出来ない。時間操作などは若返りや不老など、或いは体感時間の操作などは可能だが、過去に渡る事や未来に行く事などのタイムスリップは不可能。限りなく万能に近い事は出来ても、本当の万能では無い。
そもそもアルハザードには不可能は無いと言われているが、本当に不可能など無ければ滅んではいない。現在の次元世界よりも遥かに魔導技術が進んでいるだけに過ぎないのだ。
「……失った記憶を治す魔法とかは無いの?」
「一応、在るには在るんですけど……アルハザードでは、〝禁止指定魔法”に指定されています。もしも使うなら沢山の許可を貰って、しかも治療者の家族関係者以外は絶対に使用許可は出さない魔法です」
記憶とは人間の人格を構成する為に必要なものである。
フリートが言う魔法は確かに記憶を治せる可能性は在るが、使用者と使用された者との間に深く関わりが無ければ、人格に悪影響が出てしまう危険な魔法でも在るのだ。記憶復活の魔法は悪用すれば、人への洗脳魔法になってしまう。
故に、記憶を失う前のクイントと全く関係が無いフリートが使用する訳には行かないのだ。
その説明を聞いたリンディは、すぐさまクイントの家族構成を思い出す。夫のゲンヤ・ナカジマは魔法適性が無く、娘二人には魔法資質は在るが、幼く高位の魔導士とは呼べない。ならば、クイントの親友だったメガーヌ・アルピーノならばと考えるが、すぐにそれは無理だとフリートが説明する。
「リンディさんが考えている事は分かりますけど、管理世界の魔導士じゃ魔法の使用は無理ですよ。人の脳はとても繊細です。僅かでも魔法の制御を誤れば、相手は廃人になります。その制御に関しても、クモの糸よりも細くて切れ易い糸を針の穴に通すぐらいを、魔法を使って簡単に出来るぐらいの制御力が必要です。今の管理世界の魔導士にそれは不可能でしょうし……第一、これはアルハザードの魔法ですから、現在の魔導士じゃ使うのは不可能なんですよ」
「…そうね。どうするべきかしら?」
本当に困ったと言うようにリンディは眉根を寄せる。
元々クイントの扱いに関しては悩んでいたが、記憶喪失と聞いて更に悩みは深くなる。何せクイントが死んだとされる現場の状態は酷い有様で、どう考えても生存しているなど在り得ないと思われている。
そんな状況でクイントが戻れば混乱を招く。寧ろクイントのクローンでは無いかと疑うだろう。その上、記憶喪失となれば、もうクイントを戻しても絶対にクローンだと思われるのは間違いない。つまり、クイントをミッドチルダに送る事は更に不可能になってしまった。
「暫らくは平穏に過ごさせるしか無いでしょうね。もしかしたら記憶が戻るかもしれませんし」
「可能性は低いけど、それに賭けるしか無いわね。取りあえずは……」
今後のクイントに関してリンディがフリートに頼もうとすると、扉が開き、〝両手と左足”が在るクイントが入って来る。
「え~と、お邪魔だったかしら?」
「いや、もう話しは終わりましたよ。それでその両手と左足の調子はどうですか?」
「えぇ……少し反応は悪いけれど、問題なく動かせるわ」
「それは良かった。では、本格的に義手と義足の作成に取り掛かるとしましょう」
「ちょっと待ちなさい、フリートさん」
普通に椅子から立ち上がって部屋から出て行こうとフリートの頭を、リンディは据わった目をしながら掴んだ。
「アレ? リンディさん、どうしました?」
「重要な質問が二つあるわ。先ずは一つ、どうして彼女は両手と左足が在るのかしら?」
「あぁ、それはですね。ルインさんや魔導生命体の守護騎士を思い出して下さい。アレの理論の応用です」
両手や左足が無いと動くのに何かと不便だと考えたフリートは、使用者の魔力を使って魔力体で在る両手や左足を発生させるデバイスをクイントに与えたのである。
病院着のような服を着ているクイントの首にはネックレスのような物が装着されていて、ソレが魔力で造られたクイントの両手と左足を発生させているのである。簡易のせいで重い物を持てなかったり、走る事などは出来ず、多少反応が鈍いなどの問題は在るが、簡易的な義足や義手としてアルハザードで使われていた代物である。
「それで彼女には失った四肢が在る訳です」
「なるほどね。その技術は流石としか言えないけれど……もう一つの質問よ。そう最も重要な質問……何で彼女は若返っているのかしら?」
そう言いながら、戸惑うように自分を見つめているクイントにリンディは視線を向けた。
女性魔導士は全体的に年齢よりも若く見られるが、今のクイントは明らかにアルハザードに連れて来た時よりも若返っている。年齢的に言えば二十歳前後ぐらいにしか見えない。
「それはですね。彼女が入っていた治療カプセルが原因です……実は」
「実は?」
「……そう、実は! ウッカリ治療カプセルの設定が全体的な治療に設定されていて、テロメアまで再生されてしまったんです!! まぁ、若い方が義手や義足を付けるのは楽なので丁度良かったんですけど」
「……ねぇ、フリートさん? 質問なのだけれど、任務に参加して行方不明になった相手が、私みたいに特殊な事情も無く、いきなり若返って戻って来て本人だと思えるかしら?」
「………あっ!」
「このマッドォォォォォ!!!」
漸く気が付いたようにハッとした顔をするフリートに、リンディは怒りの叫びを上げたのだった。
次元空間。世界と世界を渡る為に通る必要が在る空間を、一隻の民間船と思われる船が移動していた。
その民間船の中で、成長期に戻ったルーチェモンは、肩口から指先まで包帯で覆い、ギブスで吊るして椅子に座りながら管理世界に在る拠点に居る倉田と連絡を取っていた。
「旨く行ったよ。ベルフェモンのデジタマは手に入れたし、ロイヤルナイツの一体も倒しておいたよ」
『それは良い報告です。では、すぐに育成の準備を行なっておきます』
「頼むよ。僕は暫らく動けないからね。後で送るから」
『……分かりました……では、私も何かと忙しいので失礼を』
倉田が言い終えると共にルーチェモンの前に展開されていた映像モニターが消えた。
ルーチェモンは消えたモニターを切り、不機嫌そうに体を椅子に預ける。そんなルーチェモンの背後から水が入ったコップを乗せたトレーを持った赤い服の女性が近づいて来る。
「お飲物です」
「うん」
女性が差し出して来たコップを右手で受け取ったルーチェモンは、すぐさま口につけて飲む。
飲み終えると共にトレーにコップを戻し、そのまま女性に指示を送る。
「管理世界に付近についたら、事前に君達が用意してくれたアジトに向かうように」
「倉田の下には直接帰還しないのですか? 手に入れた七大魔王のデジタマを直接渡した方が良いと思うますけど?」
「冗談は止めなよ。もしも今の僕が倉田の所に戻ったら、利用しやすいようにするのは目に見えているよ」
倉田とルーチェモンは互いを利用し合っている関係に在る。
隙あらば互いを潰そうとしている。特に倉田は最初はルーチェモンを道具として利用する気だっただけに、自分の意志で動いている今のルーチェモンは目障りに思っているのは間違いない。とは言え、ルーチェモンも倉田の技術力は切り捨て難い。
デジモンに取って天敵であるギズモンを創り上げ、人間とデジモンを融合させると言うバイオデジモンの技術、そして不完全ながらもベルフェモンを覚醒にまで導いた倉田の技術力をルーチェモンは認めていた。逆に倉田もルーチェモンの力とカリスマは嫌いながらも認めている。
次元世界にデジモンの脅威を教える為には、ルーチェモンのカリスマは必要なのだから。
そして今、ルーチェモンは並みの成長期以下の力しか無い上に、デュークモンの最後の一撃で左腕も暫らくは動かない。此処まで弱体化したルーチェモンに倉田が何かをしない訳がない。完全に力が回復するまで通信を使って連絡を取るしかないのだ。
「直接は当分会わないよ。だから、君達が会うようにしてくれ。僕は回復に専念するからね」
「分かりました……それと先ほど、管理局に潜入しているあの方から連絡が届きました」
「ふ~ん……それでアイツは何て?」
「準備は整ったとの事らしいです」
「そうかい」
報告にルーチェモンは笑みを浮かべた。
計画通りに管理局は進んでいる。もう最高評議会に従っていた局員達は不要。
「伝説の三提督とか呼ばれている連中も気が付いていないだろうね。残っている管理局の裏の連中なんて小物同然の連中で、僕らに繋がる重要な情報なんて何一つ残って居ない事に」
三大天使達も、リンディ達も、そして管理局を正常化させようとしている三提督達も気が付いていなかった。既に倉田とルーチェモンが管理局の裏に見限りをつけていた事に。
管理世界の闇は管理局だけでは無い。最高評議会が広めてしまった闇は管理世界の何処にでも在る。
「時が来れば、僕らは管理局に戻る。最もその時は全部手遅れになって居るだろうけどね」
そう言い終えると共に椅子にルーチェモンは深く体を沈ませ、戦いで消耗した体力の回復に努めるのだった。
管理世界に在るスカリエッティの研究所。
其処で他の戦闘機人達の調整に努めていたスカリエッティは、他のデジタルワールドに向かわせたウーノからの報告に歓喜していた。
「ハハハハハハハハッ!!! そうかい、守護デジモンのデジタマを得られたのかい!!」
『はい。偶然ルーチェモンが守護デジモンと戦っている現場を捉え、長距離から映像も得られましたが……その……』
「ん? どうしたんだい、ウーノ? 君らしくない様子だが」
『いえ、正直私もトーレもチンクも信じらない光景でしたので……とにかく、後ほど得られた映像をお送りいたします』
「君が其処まで言う映像か。どのような映像なのか楽しみにさせて貰うよ。それとデジタマの方だが、トーレとチンクはそのままデジタルワールドに残して君が運んで来てくれたまえ」
せっかく遠い世界に在る他のデジタルワールドに向かったのだ。
行ってすぐさまとんぼ返りでは余りにも利益が無さ過ぎる。今後の為にも利益は多い方が良いのだから、残せる者は残して来た方が良い。
『分かりました。それでクアットロに与えた任務の方は?』
「それは残念ながら失敗してしまったよ」
『なっ!? クアットロに加え、ルーチェモンの配下のデジモン達が多数参加していたあの作戦がですか!?』
冷静沈着なウーノも流石にスカリエッティの任務失敗の報告に驚いた。
それほどまでにクアットロの作戦の失敗が信じられなかったのだ。詳しくはデジタルワールドに向かう為に分からないが、それでも向かう前に見た任務内容を見れば失敗の恐れは無かった筈なのだ。
「私も予想外だったんだけどね。偶然にもあのブラックウォーグレイモンと一緒に居る連中が現れたんだよ。お蔭で失敗してしまったと言う訳さ」
『……なるほど。其方のデジタルワールドの支援を受けている連中。ブラックウォーグレイモンがルーチェモンに敗北した後、新たなデジモンを援軍として贈られたと言う訳ですね?』
「そう言う事だろうね……此方も準備をしておく。守護者のデジタマを持って戻って来てくれたまえ」
『了解しました。では、失礼します』
通信が切れると共にモニターは消失した。
スカリエッティはゆっくりとコンソールを操作し、別の連絡先に繋ぐ。
「私だ」
『……はい、ドクター。今は傍に誰も居ないので通信は問題ありません』
「そうかい。それでアレは手に入りそうかい?」
『今しばらくお時間を……司祭の籠絡はもうすぐ終わります。ドクターの所望の品は必ず手に入れますので』
「頼んだよ。ソレは絶対に必要な物だからね」
スカリエッティはそう告げると通信を切った。
そのまま部屋から出て行き、別室へと移動した。部屋の中にはクアットロが居て、真剣にコンソールを操作している。そしてクアットロの周りには複数のカプセルが存在し、内部には人の姿が見受けられた。
「順調かい? クアットロ」
「は、はい! ドクター。近い内には六番、九番、十番、十一番が目覚める筈です」
「それは良かった。では、彼女達に相応しいデジモンの捜索を指示しておかなければならないね」
「ドクター……お願いが在りますの」
「何かね?」
「私もデジタルワールドにどうか向かわせて下さい……あのガルルモン!! 絶対に許す訳には行きませんわ!!」
憎しみに満ちた顔をしながらクアットロはスカリエッティに進言した。
自らの顔に治らない傷跡を付けたばかりか、今度は任務遂行の邪魔までしてくれたガルルモンを、クアットロは必ず自らの手で殺すと誓っていた。死んでデジタマに戻ったとしても許す気は無い。ギズモンの力を使って、この世から完全に消滅させる気だった。
その為には力が必要なのだ。今の自身を超える更なる力が。
「(素晴らしい。以前は私の因子に従って行動するだけのクアットロが、此処まで自身の意志を持つとは)……分かっているさ、クアットロ。何れ君もデジタルワールドに向かって貰う予定だからね。この…姉妹達と共に」
スカリエッティは宣言すると共に、カプセルの中に入っている新たな戦闘機人の少女達を祝福する様に両手を広げるのだった。
「よっしゃ! これで準備は完了だぜ!!」
「食べ物は沢山持ったぜ、兄貴!」
デジタルワールドの森の中で、全身に包帯を巻いた大門大とアグモンは、大量の荷物の前に立ちながら叫んだ。
デュークモンのお蔭で戦場から逃れる事が出来た大とアグモンは、手当てをある程度終えると同時に異世界に向かう準備を進めた。目的は一つ。管理世界の何処かに居る倉田とルーチェモンの野望を阻止する。好き勝手にデジタルワールドを荒らしたばかりか、デュークモンの命を奪ったルーチェモンを、大とアグモンは許す気は無かった。
その為に別世界に向かう準備を行なっている。普通なら向かう事など出来ないが、大とアグモンには協力者が居た。
「おっ! 兄貴、来たみたいだぜ!!」
アグモンの呼び掛けに大が空に顔を向けてみると、スレイプモンが地上に降り立つ。
「二人とも、遅れて済まない」
「今こっちも準備が終わった所だから構わねぇよ」
「そうか」
「でもよ、スレイプモン? お前大丈夫なのか? 勝手に別世界に向かうなんて?」
スレイプモンもまた、大達と共に次元世界に向かうつもりだった。
無論、それは本当ならば不味い。勝手に別世界に向かう事は許可を得なければならないのだから。幾らロイヤルナイツであるスレイプモンとは言え、現状で勝手に行動する事など決して赦される訳がないのだ。
だが、それでもスレイプモンは向かうつもりだった。今回の件で粛清を受ける事も既に覚悟出来ている。友であるデュークモンの仇を必ず取る。そうスレイプモンは心に誓っていた。
「構わない……私は救援に駆けつけながら、おめおめと逃げ延びた者だ……ロイヤルナイツの称号は、あの時、逃亡を選んだ時点で捨てた。今の私はデュークモンの仇を執る為だけに戦うただのスレイプモンだ」
「スレイプモン」
「……絶対に仇を執ろうぜ、兄貴、スレイプモン!」
『応ッ!!』
アグモンの言葉に大とスレイプモンは頷いた。
そのままスレイプモンの背に荷物を載せ、大とアグモンも乗り込む。
そしてスレイプモンはデジタルワールドから旅立とうとする。だが、その背に声が掛けられる。
「待て、スレイプモンにアグモン、そして大門大」
『ッ!?』
背後から聞こえて来た声に振り向いてみると、ビル五階ほどの大きさの巨体があり、黒い甲冑で全身を覆った骸骨の様な兜を被っているデジモン-『クレニアムモン』が腕を組みながら立っていた。
クレニアムモン、世代/究極体、属性/ワクチン種、種族/聖騎士型、必殺技/エンド・ワルツ、ゴットブレス
ブラックデジゾイド製の黒い甲冑で全身を覆った聖騎士型デジモン。その容姿からウィルス種と間違われる事が在るが、列記としたワクチン種であり、ロイヤルナイツの中で最も礼節をわきまえたデジモンである。敵と対峙するときはどんな時も1対1の戦いを好み、相手が強敵であればあるほど打ち破った時の喜びは至上のものとしている。また、武器として
「ク、クレニアムモン……戻って来ていたのか?」
クレニアムモンはロイヤルナイツの知将であるドゥフトモンと共に代表として、他のデジタルワールドの守護者達との会合に参加する為にデジタルワールドから離れていたのだ。
「あぁ、お前は招集に応じなかったから知らなかったようだがな……スレイプモン。勝手な行動は許さんぞ。デュークモンが死んだ今、お前達までデジタルワールドから離れるなど」
「…許される事では無いと分かっている。だが、私はデュークモンの仇をこの手で執る!」
「俺らもだ! これ以上デジタルワールドを好き勝手に荒らしやがるのは許せねぇ!!」
「そうだぜ!!」
「……ルーチェモンは不完全ながらも七大魔王に覚醒する術を得たばかりか、ベルフェモンのデジタマまで手に入れた。ギズモンも多数従えている。そんな連中が居る場所に、何の支援も無いお前達が行って何が出来る? ましてや連中を捜索する範囲は、一つの世界では済まない。三大天使が何故連中を見つけられなかったのか、それはお前も分かっている筈だ、スレイプモン?」
「分かっている。しかし、それでも私は向かわせて貰う。全てが終わった後、私を粛清しても構わない。だから、頼む、クレニアムモン……私を……私達を行かせてくれ……この通りだ」
「俺も頼むぜ、クレニアムモン……このままあいつらを野放しにはしておけねぇんだ」
「おいらもだ!! 絶対にあいつらを倒してやるんだ!!」
深々とスレイプモン、大、アグモンは頭を下げた。
スレイプモンはともかく、大とアグモンが頭を下げるのをクレニアムモンは内心で驚く。
それだけ覚悟を決めて行動していると言う何よりの証。だが、勝手を許す訳には行かない。
個人としては自身も大達と同じ気持ちだが、ロイヤルナイツとしてクレニアムモンは判断し、三人の顔を見回す。
「……お前達は我々守護者デジモンの足並みを乱すようだ。そのようなお前達を何時までもデジタルワールドに居させる訳には行かない……直ちにデジタルワールドから出て行け!!」
「……クレニアムモン…感謝する」
辛辣な発言の意味に隠されている想いを悟ったスレイプモンは、再び頭を下げて感謝を示した。
クレニアムモンはスレイプモンの感謝に反応を示さず、大とアグモンに手を伸ばす。
「大……これを持っていけ」
「何だよ?」
いきなり手を差し出したクレニアムモンに訝しみながら、手の上を見てみると、黒いデジタマが乗っていた。
一見すれば黒い色合いのデジタマでしかないが、大の隣に居るアグモンは、禍々しい気配をデジタマから感じて警戒する。
「兄貴……そのデジタマなんかやばいぜ」
「ば、馬鹿な、それが何故此処に?」
クレニアムモンが差し出した手の中に在るデジタマを見たスレイプモンは、恐れからか体を震わせて呟いた。
スレイプモンにはそのデジタマの正体が分かった。ルーチェモンに奪われたベルフェモンのデジタマと同様にこのデジタルワールドに封印されていた七大魔王のデジタマ。
「『強欲』のバルバモンのデジタマが、何故此処に!?」
「『強欲』って!? まさか、コイツも七大魔王とか言うデジモンのデジタマなのかよ!?」
「封印されているんじゃ無かったのか!?」
驚愕する三人に構わず、クレニアムモンは大の手にバルバモンのデジタマを渡した。
そのままスレイプモンに背を向けて、クレニアムモンは歩き出す。
「バルバモンのデジタマは、このデジタルワールドに在る。私達が護る……だから、お前達はさっさと行け……さらばだ、友よ」
クレニアムモンはそう言い残すと共に、飛び上がり空へと去って行く。
スレイプモン、大、アグモンは、自分達に託された『強欲』の七大魔王のデジタマの意味を悟り、決意に満ちた顔をしながら、クレニアムモンとは逆方向に顔を向けて飛び立つ。
長い旅の始まり。向かう先は、ルーチェモンと倉田が隠れ潜む次元世界。だが、三人はもう振り向かず、デジタルワールドを去ったのだった。
其処には怨念に満ちた闇しか無かった。
数百年。長い放浪によって関わった者達の怨念。力を求めた者の怨念。理不尽に殺された者の怨念。
様々な怨念で構成された闇。彼らは待っていた。歴代に於いて誰も従える事が出来なかった闇を従えた別の闇が弱るその時を、ずっと待っていた。
望むのは破壊と破滅。生きと生ける者の死。怨念であるソレが望むのは終焉。自己の意志など最早ソレには無い。ただ破壊と破滅だけを望む事しかソレには無い。
〝壊せ壊せ壊せ”
(…………)
〝破壊しろ破壊しろ破壊しろ”
(…………)
〝全てを全てを全てを”
(…………)
〝破壊し、壊せ!!”
「黙れ」
低い声と共にただ破壊と破滅の意志を告げていた怨念は、〝掴まれた”。
怨念が満ちる闇の中に、確かに金色に輝く瞳が在った。瞳には怒りが存在し、掴んでいる怨念を強く握りしめる。
「さっきから聞いていれば、誰に命じている。壊せ? 破壊しろだと? 最早自らが何かも分からん存在が、喚くばかりか、散々邪魔をしてくれたな?」
声の主は分かっていた。
自らが掴んでいる怨念が、ずっと邪魔をしていた事を。だが、手は出せなかった。
何せ数百年の怨念。しかも、パートナーの中枢に深く食い込んで居る為に迂闊に排除する訳には行かなかった。だから怨念と同じように待っていた。完全に消滅させる機会が来る時を。
「ルインとユニゾンして居る時に、何時も雑念が入って来ていた。お蔭で戦いに集中し切れずにいたが、漸く機会が来た」
〝壊せ! 壊せ! 破壊しろ! 破壊しろ!”
「壊せ? 破壊しろ? あぁ、言われた通り壊し、破壊してやろう。貴様をな!!」
掴んでいた怨念を手放し、両手を構えると共に負の力を集束させ、巨大な赤黒い球体を形成していく。
怨念は徐々に発生した赤黒い球体に吸い込まれて行く。元々ルインに無理やり付属していた歴代の主達の怨念。システムに干渉する事も、主であるブラックを支配する事など出来る筈が無かった。
ましてやブラックは怨念に気が付いていた。乗っ取られる隙など与える訳がない。
「消え去れ。ガイアフォーーース!!!」
放たれたガイアフォースは、怨念の闇が構成していた空間で大爆発を起こした。
同時に怨嗟に満ちた声は完全に聞こえなくなった。逆に怨念を消滅させたブラックは、ゆっくりと自らの右手に装備しているドラモンキラーを見つめる。
「これでX進化の邪魔は消えた……だが、これでは足りん。奴に、ルーチェモンに借りを返す為にも、更に強くならなければ……さぁて、起きるとするか」
意識がハッキリとして来る。
それは目覚めの証。ルーチェモンとの戦いで負った傷は完全に癒えた。
再び戦いの中に戻る為に、ブラックは目覚めるのだった。
大達が旅立ち、遂にブラックも覚醒しました。
クレニアムモンが大達にバルバモンのデジタマを渡したのは、他のロイヤルナイツ達の総意でも在ります。
まぁ、空白の席の方は意志を示して居ませんけど、彼らを止めたかったので同意しています。
今後もロイヤルナイツの彼らは、バルバモンを封印している遺跡を全力で護ります。
そしてブラックがこれまでX進化を長時間使えなかった原因、歴代の夜天の主達の残留データと言う怨念を排除して長時間使用可能になりました。
次回も頑張ります!