漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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長らくお待たせしました。

リハビリ作のお蔭で感覚を取り戻し、漸く完成させる事が出来ました。


決着 聖騎士死す

 後方から響く衝撃音にスレイプモンは思わず背後を振り抜きそうになってしまう。

 その気持ちを必死に押し込め、ただ前にだけ進み続ける。もはや自らに出来る事は大とアグモンを連れて逃げる事だけ。此処で戻る事はデュークモンの想いを無にしてしまう。

 悔しさと悲しみに満ち溢れながら、スレイプモンが空を駆けていると、右手に乗っている大が意識を取り戻す。

 

「……此処は…」

 

「…気がついたか、大」

 

「ス、スレイプモン? ……そうだ。おい! ルーチェモンって野郎はどうなったんだよ!?」

 

 気絶する直前の事を思い出した大は慌てて立ち上がろうとする。

 だが、立ち上がる直前、全身に激痛が走り、再びスレイプモンの手の中に倒れ伏してしまう。

 

「……無理をするな、大。お前もアグモンも、最早動ける体では無い。暫し休むのだ」

 

「なっ!? 何言ってやがるんだ!? んな事よりルーチェモンの野郎はどうしたんだよ!? 倒せたのか」

 

「…いや……お前が倒された後、アグモンも敗北した。私も敗北寸前に追い込まれ、こうしておめおめと逃げ延びようとしているところだ。ルーチェモンは今……デュークモンが命を捨てて我々が逃げ延びる時間を稼いでいてくれている」

 

「なっ!? ふざけんな!!」

 

 スレイプモンが告げた事実に、大は思わず怒鳴った。

 大達が救援に駆けつけた時、デュークモンは既に戦える状態では無かった。そんなデュークモンが自分達の為に戦っている。その事実を知って大は黙っている訳が無かった。

 

「今すぐ戻れ!! デュークモンが死んでも良いのかよ!!」

 

「……良い訳が……無かろう」

 

「ッ!?」

 

 悲しみに満ち溢れた声音に大がスレイプモンの顔を向けてみると、スレイプモンの両目からは涙が流れていた。

 同じロイヤルナイツに属するデジモンとは別に、スレイプモンとデュークモンの間には友情が在る。信念の違いで敵対した事も在るが、大が言うまでも無く、スレイプモンもデュークモンが死ぬ事など認めたくなかった。

 だが、既に遅いのだ。例え今から引き返したとしても、デュークモンの命が助かる事は無い。スレイプモンは知っている。デュークモンが使用したクリムゾンモードの代償がどれほど重いモノなのかを。

 

「デュークモンは我々を逃がす為に最後の切り札……『クリムゾンモード』を使用したのだ」

 

「クリムゾンモード? な、何だよそりゃ? 『バーストモード』みたいなもんか?」

 

「爆発的に力が増強すると言う点では同じだ……だが、違う。クリムゾンモードはバーストモードと違い、デュークモンの身に宿っている全パワーを解放する事によって変わる姿だ。その力は一時的にならば『七代魔王』デジモンとも戦えるようになる事が出来る凄まじいものだ……しかし、その代償としてデュークモンはクリムゾンモードに変わった後、一定時間経過すれば……デュークモンは死ぬ」

 

「なぁっ!?」

 

「嘗て地球とデジタルワールドが危機に陥った時に、デュークモンがクリムゾンモードを使用しなかったのはそれが理由だ。あの危機は短時間で解決出来る事態では無かったのだからな」

 

 使用したら最後、短時間は絶大な力を得られるクリムゾンモード。

 その代償は重く、使用したらデュークモンは逃れる事が出来ない死の運命が背負わされてしまう。

 だからこそ、デュークモンはルーチェモンが来ると分かっていてもクリムゾンモードに成らなかった。もしも制限時間内にルーチェモンが現れなければ、無駄死にでしかない。また、クリムゾンモードに成る為には力を高めなければならないと言う弱点も在る。ルーチェモン級の敵を相手に力を高める隙などは無く、戦闘中になる事も出来なかったのだ。

 

「……大、お前の気持ちは良く分かる……だが、此処は退くしかないのだ。もしも戻れば、それこそデュークモンの覚悟を無駄にする事になるのだから」

 

 大はスレイプモンの言葉に何も言う事は出来なかった。

 何故ならばスレイプモンは両目から悲しみの涙を流し、大とアグモンを乗せている手は悔しさで震えていたのだから。

 

 

 

 

 

「ハアァァァァァァァァァッ!!!!」

 

「ウオォォォォォォォォォッ!!!!」

 

 大雨が降りしきる中、ルーチェモン・フォールダウンモードの拳と、デュークモン・クリムゾンモードの神剣ブルトガングが激突し、鬩ぎ合う。

 ぶつかり合った時の衝撃で二体の周囲に降っていた雨は吹き飛んでしまった。だが、二体はそんな事に構わず、ただ相手を倒す為に攻撃を繰り出して行く。二体の戦いで周囲は荒れ果て、唯一ピラミッド型の遺跡だけが無事だった。

 その戦いの中でルーチェモン・フォールダウンモードは一つの異常に気が付いた。

 

(クッ!! 更に力が上がっているだと!? どういう事だ!?)

 

 最初の方は自らが押して居た筈なのに、徐々にデュークモン・クリムゾンモードが押し返して来ていた。

 その理由は時間が経過するごとにデュークモン・クリムゾンモードの力が、上がっているのが原因だった。

 

(デュークモンがこれほどの力を持ちながら使用しなかったのには、何か理由が在る筈だ!)

 

 自惚れでも何でもなく、不完全ながらも七大魔王に覚醒したルーチェモン・フォールダウンモードに迫る力を持ちながら使用しなかったのには訳が在る筈。

 デュークモン・クリムゾンモードの力を見極めようとルーチェモン・フォールダウンモードは、受け止めるでは無く力を纏わせた両腕を使って振るわれる神剣ブルトガングを〝受け流して行く”。

 

(ッ!? ま、不味い!!)

 

 ルーチェモン・フォールダウンモードの動きが変わった事に気が付いたデュークモン・クリムゾンモードは、焦りを覚える。

 先ほどまでのルーチェモン・フォールダウンモードとの激突は、力と力のぶつかり合い。だが、今のルーチェモン・フォールダウンモードは相手の力を見極めようとする戦い方。それはデュークモン・クリムゾンモードにとって不味過ぎる戦い方だった。

 

「(気づかれる前に何としても!!)……ウオォォォォォォォーーー!!!」

 

 デュークモン・クリムゾンモードは背の十枚の翼を輝かせて、ルーチェモン・フォールダウンモードに急接近する。

 剣を振るう速度を更に上げ、足も使ってルーチェモン・フォールダウンモードに決死の想いで攻撃を繰り出す。だが、その想いは。

 

「…そうか。見切ったぞ、貴様の力の正体を」

 

 ルーチェモン・フォールダウンモードが呟いた言葉と、猛攻を潜り抜けて叩き込まれた拳によって敢え無く散らされてしまう。

 

「ガハッ!?」

 

 叩き込まれた場所から全身に走った衝撃に、デュークモン・クリムゾンモードは息を吐き出しながら地面に落下した。

 ルーチェモン・フォールダウンモードは腕を組んで上空から、起き上がろうとしているデュークモン・クリムゾンモードの赤熱して雨粒を蒸発する事に鎧から発生する煙を見下ろす。

 

「時間が経つほどに力が上がる筈だ。デュークモン。貴様のその力は確かに大したものだ。だが、弱点は見切ったぞ。その姿は長くは保てないようだな?」

 

「クゥッ!!」

 

「貴様の今の状態は、言うなれば高まり続ける力を自らの体に押さえている状態。しかし、そのような無理は長くは持つまい。私が今の貴様と戦闘を始めてから約五分。後何分持つ?」

 

「貴様に答える必要は無い!!」

 

 デュークモン・クリムゾンモードは叫ぶと同時に、地面から飛び上がり神剣ブルトガングを振り下ろす。

 ルーチェモン・フォールダウンモードは背の翼を羽ばたかせる事で移動し、振り下ろされる神剣ブルトガングを躱した。そのまま右手に光球を作り上げて投げつける。

 

「『光』ッ!!」

 

「させん!!」

 

 自身に向かって来る光球をデュークモン・クリムゾンモードは、神剣ブルトガングで斬り裂いた。

 

「その技は既に見て、私も見抜いたぞ。シャイングレイモンを倒した技だが、魔法陣を形成する技の為にエネルギー球には攻撃力自体は無い。そして二つの相反するエネルギー球が混じり合う事で初めて効果を発揮する技だと言う事を! 混ざり合う前ならば破るのは容易い!」

 

「……確かにその通りだ。忌々しい事を思い出せてくれる」

 

 心底忌々しそうにルーチェモン・フォールダウンモードは呟いた。

 嘗て別のデジタルワールドで『デッド・オア・アライブ』を使った時、戦っていた相手に最悪な形で技を利用された事が在った。その時の事はルーチェモン・フォールダウンモードにとって、これ以上に無いほどに忌々しい出来事。思い出すだけでも腸が煮えくりかえりそうになる。

 

「しかし、見破ったとは言え、それでどうなる? 貴様に勝つ道など在りは……」

 

「いや、在るぞ」

 

「…何?」

 

 デュークモン・クリムゾンモードの発言に、ルーチェモン・フォールダウンモードは眉根を寄せた。

 

「貴様が私の状態を見切ったように、私も貴様のその進化について悟った事が在る。貴様は上手く隠していたようだが、私の力が上がるのに対して、貴様の力は下がって来ている。それは大量のエネルギーを吸収する事で、無理やり進化を果たした弊害であろう!」

 

「ッ!?」

 

 気が付かれないようにしていた事実を指摘されたルーチェモン・フォールダウンモードは、僅かに動揺した。

 そう、もしもシャイングレイモン・バーストモードとスレイプモンを倒した時の力がルーチェモン・フォールダウンモードに在れば、クリムゾンモードになった当初のデュークモンでは力押しで敗れていた。だが、ルーチェモン・フォールダウンモードはそれが出来なかった。

 それは進化した当初に比べて、ルーチェモン・フォールダウンモードの力が落ちていたからだった。

 

「私の勘が正しければ、貴様も同じように時間制限付きで進化を果たしたのだろう。そして、その代償が在る筈だ!!」

 

「……どうやら、貴様は完全に消滅させなければならないようだ」

 

 知られては不味い事実。

 その情報を得たデュークモン・クリムゾンモードを生かしておく訳には行かない。時間が経てば勝手に死ぬからと言って放っておく事も出来ないのだ。何せ死ねばデュークモン・クリムゾンモードはこのまま時間制限で死に至ってしまえばデジタマに成ってしまう。その時に記憶を継承する可能性が高い。

 万が一にも記憶を継承し、デジタマが他のロイヤルナイツの手に渡ってしまえば、今のルーチェモン・フォールダウンモードの弱点が知られてしまうのだから。そうなれば不味いどころの騒ぎでは済まない。

 

(進化が解け、成長期に戻ってしまえば私の力は並みの成長期デジモン以下! 其処までは見抜けなくとも、弱体化する情報が奴らに渡るのは危険だ!! 奴のデジタマを回収し、ギズモンの力で消滅させなければならん!! クッ! 完全な進化ならばギズモンの力など不要だと言うのに!)

 

 本来ならば『七大魔王』に属するデジモンは、自らが倒したデジモンを完全消滅させる事が出来ると言う脅威の力を宿している。

 ギズモンの力を態々借りなくてもルーチェモン・フォールダウンモードはデュークモンを消滅させる事が出来る筈なのだが、今は不可能だった。ロストロギアの力を使って無理やりに進化した為に、ルーチェモン・フォールダウンモードはデジモンの完全消滅能力を失っていた

 デュークモンのデジタマから生まれるデジモンを洗脳すると言う考えは、ルーチェモン・フォールダウンモードには無い。

 目の前に居るデュークモン・クリムゾンモードは、デジタルワールドの平和を第一に考えているデジモン。記憶を継承している可能性が高い上に、例え記憶を継承していなくても自らの配下に加わる可能性は無いに等しい。洗脳しても解かれてしまえば情報が敵にわたってしまう可能性も在る。それならば確実にギズモンの力で消滅させる。

 ルーチェモン・フォールダウンモードは心に決め、組んでいた腕を解いて拳を構える。

 

(狙い通り、私を殺す気になったな)

 

 デュークモン・クリムゾンモードは、殺気を立ち昇らせるルーチェモン・フォールダウンモードの姿に、狙い通りに事が進み、内心で安堵する。

 クリムゾンモードの弱点がルーチェモン・フォールダウンモードに知られた時点で、デュークモン・クリムゾンモードが勝利する可能性は無くなっていた。何せ力が弱まって来ていても、逃げに徹するだけでルーチェモン・フォールダウンモードは勝利出来るのだから。

 そうはさせない為に、デュークモン・クリムゾンモードは、自らが悟ったルーチェモン・フォールダウンモードの弱点を漏らした。案の定、ルーチェモン・フォールダウンモードは、デュークモン・クリムゾンモードを殺す気になった。

 後は次の一撃に全てを賭けるだけ。そう心に決めながら、更に鎧を赤熱させて輝く神剣ブルトガングをデュークモン・クリムゾンモードは構える。

 

「ウオォォォォォォォォォォッ!!!」

 

 咆哮と共に真紅の鎧は赤熱を深め、降り落ちる雨は鎧に触れると共に蒸発し、デュークモン・クリムゾンモードの体から煙が上がるようにさえ見える。

 上げられるだけ自らの力をデュークモン・クリムゾンモードは上げて行く。残りの戦える時間が無くなっても構わなかった。ルーチェモン・フォールダウンモードを倒す為には、全てを込めた一撃に賭けるしかない。

 高まって行くデュークモン・クリムゾンモードの力を悟ったルーチェモン・フォールダウンモードは、右手に光の力が集ったエネルギー球を、左手に闇の力が集ったエネルギー球を作り上げる。

 デュークモン・クリムゾンモードが放とうとしている最大の技に対して、自らも最大の技である『デッド・オア・アライブ』を放つつもりなのだ。先ほどデュークモン・クリムゾンモードに光のエネルギー球を破壊されたが、それは他の事に気を回せる時だけに出来る事。

 今、最大の一撃を放とうとしているデュークモン・クリムゾンモードには気を回す余裕はない。後は、どちらの技が先に決まるのかの勝負。

 空気が膠着する。雨は更に大降りになり、ルーチェモン・フォールダウンモードの服は濡れ、デュークモン・クリムゾンモードは熱気と煙を全身に立ち昇らせる。

 そしてデュークモン・クリムゾンモードの力が限界点に達した瞬間、背の十枚の白いエネルギー状の翼から爆発したように衝撃が発生し、ルーチェモン・フォールダウンモードに向かって神剣ブルトガングを構えながら突撃した。

 

「ハアァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

「『光』ッ!!」

 

 ルーチェモン・フォールダウンモードは、突撃して来るデュークモン・クリムゾンモードに向かって光のエネルギー球を投げつけた。

 最早躱す気が無いデュークモン・クリムゾンモードは、迫る光のエネルギー球に構わず突き進む。もう一つの闇のエネルギー球が当たらなければ、ルーチェモン・フォールダウンモードの必殺技は完成しない。その前に全身全霊を込めた一撃を叩き込む為だけに、デュークモン・クリムゾンモードは進む。

 しかし、無情にもルーチェモン・フォールダウンモードは闇のエネルギー球を掲げる。

 

「終わりだ。やっ!?」

 

 投げつける直前、ルーチェモン・フォールダウンモードの左腕に痛みが走り、僅か一瞬だけ動きが止まってしまう。

 

(なっ!? ま、まさか!? あの時の奴の拳が届いていたのか!?)

 

 ルーチェモン・フォールダウンモードの脳裏に浮かんだのは大の拳を、左手で受け止めた時の事。

 完全に受け止めた筈だった大の拳。だが、ほんの僅か、ルーチェモン・フォールダウンモードには自覚は無かったがダメージは通っていたのだ。それは時間が経てば癒えるダメージだった。しかし、デュークモン・クリムゾンモードが繰り出す猛攻を受け流して行く間に、徐々にダメージは募り、遂に必殺技を放つ時に一瞬だけ動きを止めるほどになった。

 そして巡って来た最大にして最高の好機を、デュークモン・クリムゾンモードは逃さない。

 

「(大!! 感謝するぞ!!)ウオォォォォォォォッ!!! 無敵(インビジブル)ッ!!!」

 

「グゥッ!!!」

 

 慌てて左腕をルーチェモン・フォールダウンモードは掲げるが、既に時遅く、デュークモン・クリムゾンモードは、光り輝く神剣ブルトガングを振り下ろす。

 

(ソード)ぉッ!!!」

 

 永遠とも思える静寂が広がった。

 空から振りしきる雨の音だけが戦場に広がり、戦闘音も無い。

 

「……危なかった。もう一歩遅れて居れば…私の負けだったな」

 

 立体状の魔法陣に包まれ、身動き一つ取れずに拘束されているデュークモン・クリムゾンモードを眺めながら、ルーチェモン・フォールダウンモードは呟いた。

 デュークモン・クリムゾンモードが無敵剣を放った瞬間、ルーチェモン・フォールダウンモードは掲げた左腕をデュークモン・クリムゾンモードが振り下ろす神剣ブルトガングに当たるように動かしたのだ。

 それによって事前に当たっていたせいで光のエネルギーに包まれていたデュークモン・クリムゾンモードは、ぶつかった闇の力と光の力が混ざり合い『デッド・オア・アライブ』の発動条件を満たした。

 無論、もしも旨く闇のエネルギー球が神剣ブルトガングに当たって居なければ、発動する事は無く、無敵剣によってルーチェモン・フォールダウンモードは破れていた。更に言えば、無理やりな形で発動させた為、左腕が全く動かなくなっている。

 しかし、手痛いダメージを受けたが、それでも勝負はルーチェモン・フォールダウンモードの勝利で終わった。

 

「デュークモン……認めよう。貴様は確かにロイヤルナイツの称号を持つに相応しいデジモンだった。だが、この戦いは私の勝ちだ!!」

 

(ロイヤルナイツの皆)

 

「『デッド』」

 

(他のデジタルワールドの守護者達…そして……大……アグモン)

 

「『オア』」

 

(デジタルワールドの未来を……頼んだぞ)

 

「『アライブ』ッ!!」

 

 膨大なエネルギーの奔流が魔法陣内を走り、デュークモン・クリムゾンモードを襲った。

 叫ぶ事も出来ず、デュークモン・クリムゾンモードは光に包まれ、魔法陣が崩壊すると共に発生した大爆発に飲み込まれた。

 爆発の影響が治まった後には、デュークモン・クリムゾンモードが居た痕跡は何一つ残らず、何も残って居なかった。

 

「……チッ! そう言えばこのデジタルワールドの管理者、『イグドラシル』は眠りについていたのだったな。奴のデジタマは何処かに吹き飛んでしまったか」

 

 動かない左腕を右手で押さえながら、ルーチェモン・フォールダウンモードは呟いた。

 本来ならばロイヤルナイツ級のデジモンが消滅した時は、管理者である『イグドラシル』がそのデジタマを回収する筈。だが、回収する筈の『イグドラシル』が眠りについてしまって居る為に、デュークモンのデジタマは爆発の影響によって何処かに吹き飛んで行ってしまった。

 浮かび上がるデジタマを回収するつもりだったのに、当てが外れてしまったルーチェモン・フォールダウンモードは悔しげに辺りを見回す。とは言え、もう探している暇は無い。タイムリミットが近づいているのだから。

 ルーチェモン・フォールダウンモードはデュークモンのデジタマを探すのを諦め、凄まじい戦闘が在ったにも関わらず無事に残っている遺跡に近づく。

 遺跡が無事なのは当然だった。その遺跡の中にはデジタルワールドにとって危険過ぎる物が封印されている。それ故に強固に遺跡は造られ、強力な封印が施されていた。だが、その全てが。

 

「消え去れ」

 

 傲慢さに満ち溢れた宣言と共に放たれた力によって、一瞬の内に崩壊した。

 ルーチェモン・フォールダウンモードは、崩れ落ちた遺跡を上空から見下ろす。同時に遺跡の残骸の一角が動き、何かが黒い波動を発しながら浮かび上がって来た。

 ソレはデジタマだった。自らの前に浮かぶデジタマをルーチェモン・フォールダウンモードは口を笑みで歪め、右手で掴み取った。

 

「……フフッ、アハハハハハハハハハハハハハハハッ!!! 遂に手に入れた! 手に入れたぞ!! 七大魔王の一角、『怠惰』のベルフェモンのデジタマを!!」

 

 右手に持つ『怠惰』のベルフェモンのデジタマを、ルーチェモン・フォールダウンモードは哄笑しながら掲げた。

 

「フフッ、先ずは一体。残りの六つ、『憤怒』、『暴食』、『色欲』、『嫉妬』、『強欲』の魔王達のデジタマも何れ必ず我が手に……ん!?」

 

 何かに気がついたようにルーチェモン・フォールダウンモードは、遠方を見回す。

 

「…チッ! 他のロイヤルナイツどもが集まって来ている……それにそろそろタイムリミットも近い……デュークモンのデジタマを探している時間は無いか」

 

 自らの弱点に繋がる情報を継承しているかもしれないデュークモンのデジタマは惜しいが、それよりもそろそろ進化が解ける時間が近づいて来ていた。

 このまま戦闘になれば敗北する可能性が高いと、瞬時に判断し、ルーチェモン・フォールダウンモードはその場から転移した。

 それから数分後、戦闘の在った跡地に転移光らしきモノが発生し、背の高い女性と小柄な少女が現れる。

 

「急げ!」

 

「分かっている!」

 

 現れると同時に二人は何らかの機器を取り出し、即座に反応を調べた。

 機器に反応が示され、二人は即座にその場所に向かい出す。そして在る箇所で足を止めると、すぐさま地面に屈み込んで掘り進めて行く。

 

「……在った!! 在ったぞ! トーレ!!」

 

 小柄な少女が地面の中から掘り出したデジタマを手に持ち、背の高い女性-『トーレ』-に報告した。

 

「良し! ウーノ!! すぐに転移してくれ!!」

 

 トーレが通信機に指示を送ると同時に、二人の足下に魔法陣が発生し、二人の姿はその場から消え去ったのだった。

 

 

 

 

 

 一方その頃、ブラック達が拠点として使っているアルハザードで眠っていた女性が目覚めていた。

 

「……此処は? ……私は?」

 

 寝かされているベットの上で目を覚ました女性-『クイント・ナカジマ』は、首を動かして部屋の中を見回す。

 清潔感に溢れた部屋。自身が何故此処に居るのかとクイントは考えようとする。しかし、考えている途中で何かに気が付いたように体を起こそうとする。だが、クイントは起き上がる事は出来なかった。

 クイントはゆっくりと自身の両腕が在る筈の場所に目を向けるが、其処には何もなく、肩口から両腕は失われていた。足も動かそうとするが、右足しか感覚は無く、左足の感覚は無かった。

 一体どういう事なのかと、クイントは混乱する。

 

「一体? どういう事なの?」

 

 その時、部屋の扉が開き、フリートが入って来る。

 

「あっ! 気が付きました」

 

「だ、誰!?」

 

「えぇと、まぁ貴女を治療した医者です。つきましては、義手と義足を用意しようと思いまして」

 

 フリートは白衣の中に手を入れ、カタログのような物を取り出してクイントに見せる。

 

「どんなのが良いですか? ドリル付きからロケットパンチ機能付きまであります。更にはピッキング、包丁変化、更にはデバイス機能まで付けますよ……(勿論、現行の管理世界の技術で造れる物が限度ですけどね)」

 

「そ、その前に……一つ聞いても良いかしら?」

 

「何ですか? あっ! お代の方は安くさせて貰いますのでご安心して下さい。因みに、私のお勧めの義手は、このドリルロケットパンチ機能付きのがお勧めですよ」

 

「そ、そうじゃなくて! わ、私って……」

 

「私って?」

 

「……誰なのかしら?」

 

「……へっ?」

 

 クイントが告げた言葉にバサッとカタログを床に落としながら、フリートは呆然とした声を上げたのだった。




次回は今回の事件の処理と、漸くブラック達サイドの話です。

それからはなのは達のパートナーデジモンとの出会いですね。

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