もう暫らくお待ち下さい。
「ビフロストッ!!」
咆哮と共に放たれた灼熱の光矢は、寸分違わずにギズモンXTに直撃し消滅させた。
全てのギズモンXTを倒し終えたスレイプモンは安堵の息を漏らしながら、自分達が来るまで必死になって戦い続けていたデュークモンに急いで駆け寄る。
「デュークモン!!」
ルーチェモンの光球の爆発によって生じた巨大なクレーター内に倒れ伏しているデュークモンに、スレイプモンは心配に満ちた声で叫んだ。
デュークモンの状態はかなり危険な状態に追い込まれていると分かったのだ。白銀に輝く鎧は至る所に損傷が目立ち、背中のマントなどはボロボロに焼け焦げていて元の色が分からないほどになっていた。そしてスレイプモンは気がつく。デュークモンの聖盾であるイージスが何処にも無い事に。
「(ギズモンに破壊されたのか!?)……確りしろ!」
「……ス、スレ…イプ……モンか?」
呼ばれている事に気がついたのか、デュークモンは薄っすらと目を開けた。
「遅れて済まない! だが、大とシャイングレイモンを連れて来た!」
「…そう…か…」
スレイプモンの報告にデュークモンは僅かに安堵の息を漏らした。
これで戦況は大きく変わる。デュークモンは戦闘は難しい状態だが、ロイヤルナイツに匹敵する実力を持つ大とシャイングレイモン、そしてスレイプモンが加わればルーチェモンを倒せる可能性が在る。更に言えばギズモンXT達を倒し終えたで、デュークモンのようにスレイプモンの武具が失われる事は無い。
「…スレイプモン……私の事は良い……それよりも大とシャイングレイモンの…援護を頼む」
「分かった。後は私達に任せて休んでくれ。必ずルーチェモンを倒してみせる」
そうスレイプモンは告げると、デュークモンに背を向けて大達が戦っている場所に急いで向かう。
デュークモンの事は心配だが、今はルーチェモンの方を優先しなければならない。幾ら大とシャイングレイモンでもルーチェモンの相手は長時間は難しい。スレイプモンはそう考えながら空中に駆け出した。
その様子を見たデュークモンはゆっくりと僅かに体を地面から上げ、何かを決意したように自らの体に力を集め出す。
(…済まない、スレイプモン……だが、此処でルーチェモンは確実に倒さなければならない。今の奴は私達が知るルーチェモンよりも危険だ……この
最大の必殺技を放つ為のイージスを失っても、デュークモンにはまだ切り札が残されている。
その切り札を使用する為にデュークモンは力を集め出す。その先に在るのが自らの死だと理解しながらも。
「ウオォォォォォッ!!」
力強い咆哮と共にシャイングレイモンは接近して来るルーチェモンに向かって、右拳を放った。
ルーチェモンは僅かに翼を動かし、拳を軽やかな動きで躱し、そのままシャイングレイモンの右腕を伝うように移動する。
目の前まで迫って来ようとしているルーチェモンに、シャイングレイモンは離れようとするが、そうはさせないとルーチェモンは速度を更に上げながら右手を握り締める。先ほど拳を顔に叩きこんでくれたに、今度は自分が叩きつけてやると言いたげに拳に力を込める。だが、そうはさせないと言うようにシャイングレイモンの肩に乗っていた大がルーチェモンに向かって飛び出す。
「させっかよ!!」
「チィッ!!」
大が飛び出して来た事を悟ったルーチェモンは舌打ちしながら翼を羽ばたかせて、シャイングレイモンから離れた。
先ほどの一撃で、大は脅威に値する存在だと言う事をルーチェモンは思い知った。油断していたとは言え、自らにダメージを与えた存在に対してもうルーチェモンは油断などしない。寧ろ確実に此処で抹消して見せると心に決めているほどだった。
「消えなよ!!」
今だ空中に居る大に向かって、ルーチェモンは右手を翳して光球を放とうとする。
だが、それを遮るようにシャイングレイモンがルーチェモンに向かって左腕を振り下ろす。
「ウリャアァァァァァッ!!!」
「クッ!!」
シャイングレイモンの攻撃に気がついたルーチェモンは攻撃を中断し、右腕を翳して防御した。
体格差などモノともせずに自らの攻撃を防いで見せたルーチェモンにシャイングレイモンは目を見開きながらも、今度は右拳を振り抜く。
その拳もルーチェモンは轟音を発しながらも左手で受け止めてしまう。シャイングレイモンはその事実に驚愕しながら後方に下がり、大に呼び掛ける。
「兄貴ッ!!」
「応ッ!!」
阿吽の呼吸でシャイングレイモンの呼びかけの意味を察した大は、デジヴァイスバーストを取り出して横に付いているセンサー部分に手を当てる。
「『ジオグレイソーード』!!!」
「ムンッ!!」
シャイングレイモンは右腕を地面に叩きつけ、其処から金色に輝く巨大なダブルセイバー-『ジオグレイソード』-を引き抜いた。
自らの武器を召喚し終えたシャイングレイモンは、ジオグレイソードの切っ先をルーチェモンに向けて全速力で飛び掛かる。
「ハアァァァァァァァッ!!」
間合いに入ったシャイングレイモンは連続でジオグレイソードで振り抜く。
だが、その連撃をルーチェモンは軽やかな動きで全て躱して行く。自らの攻撃が全て見切られている事実に、シャイングレイモンは苦い思いを抱く。どんなに強力な攻撃でも、当たらなければ意味は無い。
昔ルーチェモンと同じく七大魔王に属するベルフェモンとシャイングレイモンは戦った事が在るが、今戦っているルーチェモンはそれ以上の強敵だと感じていた。
(こんな奴とデュークモンは一人で戦っていたのか!?)
「考えてごとをしている暇なんて無いよ!!」
「ハッ!? ガアッ!!」
「シャイングレイモン!?」
一瞬の隙を吐き、ルーチェモンはシャイングレイモンの胴体に蹴りを叩き込んだ。
その威力にシャイングレイモンは地面へと倒れ込み、大は助けようと駆け出す。ルーチェモンは大が近寄って来るのを確認すると、上空に舞い上がり、右手を掲げる。
同時に空が曇って行き、風が荒れ狂い出す。シャイングレイモンと大は異変に気がつき、ルーチェモンに目を向ける。
「コイツは!?」
「気をつけろ、兄貴。凄い力を感じるッ!」
「この世から完全に消し去ってあげるよ!!」
ルーチェモンの最大の必殺技『グランドクロス』。周囲への影響も大きいので使用はしなかったが、此処で大とシャイングレイモンは抹殺する為に使用を決意した。
シャイングレイモンは慌てて立ち上がり、背中の巨大な翼を広げて光のエネルギーを両手に間に集め出す。
「駄目だ! 間に合わない!?」
「消えろ!! グランド…」
「オーーディンズブレスッ!!」
「なっ!?」
ルーチェモンがグランドクロスを放つ直前、突然横合いから超低温のブリザードが襲い掛かった。
超低温のブリザードに晒されたルーチェモンは、グランドクロスを放つの中断して防御姿勢を取ろうとする。シャイングレイモンはその隙を逃さず、光のエネルギーを極限まで集中させた光球を撃ち出す。
「グロリアスバーーストッ!!」
シャイングレイモンが放ったグロリアスバーストはブリザードに寄って身動きが取れないルーチェモンに直撃し、大爆発を空中で引き起こした。
その様子をニフルヘイムを掲げて気候を操り、ブリザードを引き起こしていたスレイプモンはシャイングレイモンと大に向かって叫ぶ。
「手を緩めるな! 必ず奴は此処で倒すぞ!!」
「応! 分かったぜ! シャイングレイモン!! 行くぞッ!!」
「あぁっ! 頼むぜ、兄貴ッ!」
シャイングレイモンの声に応じるように、大が左手に構えていたデジヴァイスバーストの液晶画面に映っていたULTIMATE EVOLUTIONが、BURST EVOLUTIONへと文字は変化した。
同時にデジヴァイスバーストの左側に存在しているセンサーに、大は右手をゆっくりと滑らせる。
「デジソウル……バーースト!!!!」
大が叫ぶと同時にデジヴァイスバーストから凄まじい量のデジソウルが溢れ出し、シャイングレイモンにデジソウルは降り注ぐ。
デジソウルを浴びたシャンイグレイモンは全身が赤と白に染まっていき、背中に存在していた機械的な翼は凄まじい炎が吹き上がる火炎の翼へと変わった。
同時にシャイングレイモンの頭上に太陽を思わせるような火炎球が出現し、シャイングレイモンがそれに手を伸ばすと、右手には炎で出来た剣が、左手には円の形をした炎の盾が火炎球から抜き出される。
その姿こそ、大とシャイングレイモンが会得している究極を越える力-『バーストモード』-をシャイングレイモンが発動させた姿。その名も。
「シャイングレイモン!! バーストモーード!!!」
シャイングレイモン・バーストモード、世代/究極体、属性/ワクチン種、種族/光竜型、必殺技/コロナブレイズソード、ファイナルシャイニングバースト、トリッドヴァイス
シャイングレイモンがバースト進化と言う特殊進化で進化して、一時的に限界能力を発動し、太陽級の高エネルギー火炎オーラを纏った光竜型デジモン。必殺技は、火炎の盾と剣を合体させ、爆発的に威力を増した大剣『コロナブレイズソード』と、全身全霊を込めて大爆発を引き起こす『ファイナルシャイニングバースト』。そして灼熱の火炎弾を連続して相手に向かって放つ『トリッドヴァイス』だ。
(あ、アレが!? 『倉田』の言っていたベルフェモンを倒した力なのか!? アレは不味い!)
見ただけ分かる強大な力を発揮したシャイングレイモン・バーストモードに、ルーチェモンは戦慄を覚えた。
このままでは不味いと感じたルーチェモンはグロリアスバーストによって受けたダメージを顧みず、上空に逃れようとする。だが、それを遮るように灼熱の光矢がルーチェモンの行く手を遮るように通り過ぎる。
「スレイプモン!!」
「貴様は逃さん!!」
怒りに満ちたルーチェモンの叫びに、スレイプモンは劣らないほどの咆哮で返した。
其処に込められているのは、この場で必ずルーチェモンを倒すと言う意志。その意志を感じたルーチェモンの動きは一瞬だけ止まってしまう。シャイングレイモン・バーストモードはその隙を逃さず、瞬時にルーチェモンの目の前で移動し、炎で出来た剣を振り下ろす。
「ハアァァァァァァァッ!!!」
シャイングレイモン・バーストモードが振り下ろした剣はルーチェモンに直撃し、地面へとルーチェモンは落下して行く。
「こ、この!!」
地面に激突する直前で体勢を立て直したルーチェモンは、両手に光球を出現させてシャイングレイモン・バーストモードに向かって放った。
少なからずダメージは与えられるとルーチェモンは考える。だが、その考えは間違いだと言うようにシャイングレイモン・バーストモードは火炎盾で光球を防ぐ。先ほどまでと違い、僅かな揺るぎさえ見せないシャイングレイモン・バーストモードにルーチェモンは驚愕する。
スレイプモンはルーチェモンの動揺を感じ取り、再び二フルヘイムを構え、超低温のブリザードをルーチェモンの周囲に発生させる。
「オーディンズブレスッ!!」
「クゥッ!!」
発生した超低温ブリザードに行く手を遮られたルーチェモンは、苛立ちに満ちた声を漏らした。
シャイングレイモンはその間に火炎の盾と剣を合体させた大剣『コロナブレイズソード』を掲げる。
爆発的に剣から炎が噴き上がり、シャイングレイモン・バーストモードはコロナブレイズソードの切っ先をルーチェモンに向ける。
「決めろッ!! シャイングレイモン!!」
「コロナブレイズソーーード!!」
スレイプモンの言葉と共にシャイングレイモンの背から炎が凄まじい勢いで噴出し、瞬時にルーチェモンの目の前に移動する。
そのまま全力でルーチェモンに向かってコロナブレイズソードをシャイングレイモン・バーストモードは振り下ろし、大地に炎の道を作り上げた。
シャイングレイモン・バーストモード、スレイプモン、そして大は油断無く、炎の道を見つめる。普通ならば倒せても可笑しくない筈の一撃。だが、相手はルーチェモン。倒せても可笑しくない一撃を受けても生きている可能性は高い。
それが正しいと示すように大地で燃え上がっていた炎が一部吹き飛び、白い翼とローブが黒く焼け焦げ怒りと屈辱に満ちた顔をしたルーチェモンが姿を現した。
「ハァ、ハァ、ハァ、やってくれたね。……なるほど、『バーストモード』。
「不完全だと?」
「どう言う事だ、そりゃ?」
ルーチェモンの発言を耳にしたシャイングレイモン・バーストモードと大は、首を傾げながら疑問の声を漏らした。
その発言にルーチェモンは僅かに口元を笑みで歪め、自らのローブの中に右手を入れる。
「僕ら七大魔王デジモンに属するデジモンは、どれも本当の覚醒の為に膨大なエネルギーが必要なのさ。そう、覚醒の為には膨大なエネルギーがね」
「…何を言っている?」
「フフフッ、スレイプモン。人間の力は恐ろしいね……其処に居るシャイングレイモンがバーストモードを発動させる為には大門大の力が必要。人間は本当に凄いよ」
急に人間を褒めるような発言をし出したルーチェモンに、スレイプモンだけではなくシャイングレイモン・バーストモード、大も訝しげに目を細める。
「そう、人間は本当に凄い……何せ、こんな物に膨大なエネルギーを込められるんだからね」
『ッ!?』
ルーチェモンが言葉と共にローブの中から赤く輝く宝石を三個取り出した。
スレイプモン、シャイングレイモン・バーストモードは、その宝石から感じる膨大なエネルギーを感じ、戦慄する。一個だけでも膨大なエネルギーが宿って居ると言うのに、それと同じ物が三つも在る。
大はエネルギーを感じる事は出来ないが、それでも三つの宝石が危険な物だと察して警戒する。
「さて、君達の絶望の時だッ!!」
「行かん!! シャイングレイモン!!」
「あぁっ!!」
ムスペルヘイムを構え出したスレイプモンに続くように、シャイングレイモン・バーストモードは全身に力を込め出す。
その間にルーチェモンは次々と宝石を飲み込んで行く。同時に膨大なエネルギーがルーチェモンから発生し、ルーチェモンを覆い尽くして行く。
「ルーチェモン!! 進化!!」
「させん!! ビフロスト!!」
「ファイナルシャイニングバーーストッ!!!」
スレイプモンが放ったムスペルヘイムからビフロストが撃ち出され、シャイングレイモン・バーストモードはルーチェモンに向かって巨大な大爆発を引き起こした。
二つの技はルーチェモンを飲み込み、天に届くほどの巨大な火柱が起きた。これならばとシャイングレイモン・バーストモード、スレイプモン、そして大は思う。だが、次の瞬間、風が火柱に向かって集まって行く。
風は竜巻へと変じて火柱を飲み込み、竜巻は徐々に巨大になって行く。大は吹き荒れる風から身を護るように腕を翳す。
「な、何だこりゃ?」
「兄貴……何か来る」
「……まさか…
「スレイプモン?」
僅かに怯えが篭もった声で呟いたスレイプモンの声を耳にした大は、スレイプモンに顔を向ける。
シャイングレイモン・バーストモードも目を向けるが、スレイプモンはそれどころでは無かった。もしも予想が当たっていれば、もはや絶望しか待っていない。しかし、そのスレイプモンの切実な願いを裏切るように、ソレは竜巻の中から姿を現す。
白と黒の衣を纏い、背中の右側には天使の翼を思わせる5枚の純白の翼と一番上に付く小さな1枚の翼は黒く染まっており、左側には悪魔の翼を思わせる6枚の漆黒の翼を備え、金の髪が輝く頭部にも、それぞれ天使と悪魔を思わせる翼が左右の側頭部にそれぞれ付いている人型デジモン。そのデジモンこそ、七大魔王として覚醒を果たしたルーチェモンの姿。その名も。
「ルーチェモン・フォールダウンモード」
ルーチェモン・フォールダウンモード、世代/完全体、属性/ウィルス種、種族/魔王型、必殺技/パラダイスロスト、デッド・オア・アライブ
聖と魔を併せ持つ究極の魔王型デジモンで『七大魔王デジモン』最強の存在。超古代に反逆戦争を起こし、多くの魔王型デジモンと共にダークエリアに封印されていた。その力は完全体で在りながらも他の究極体をも超え、“神”と呼ばれる存在に匹敵すると言われている。全てのものを慈しむ神のような一面も持ちながら、この世界全体を破壊せんとする悪魔の様な相反する存在である。そのためこの世界を一度破壊し、新たなる新世界を創造することを目論んでいた。必殺技は、打撃の乱舞で敵を空高く舞い上げた後に、敵の四肢を固定して地面に叩きつける破壊技『パラダイスロスト』と、聖と魔の光球で立体魔法陣を作り出し敵を封じ込める『デッド・オア・アライブ』。この魔法陣に閉じ込められると完全に消滅するか、大ダメージを負うか1/2で決まってしまう。
進化を終えたルーチェモン・フォールダウンモードは、自らの姿の名を厳かに名乗った。
同時に先ほどまで荒れ狂っていた風が一瞬の内に止み、静けさだけ辺りを支配した。自らの鼓動の音さえも聞こえるほどの静けさを大達は感じながら、ルーチェモン・フォールダウンモードを見つめる。
ゆっくりとルーチェモン・フォールダウンモードは、スレイプモン、シャイングレイモン・バーストモード、そして大に視線を向ける。
「……馬鹿な…」
「……そう怯える事は無いぞ、スレイプモン。安心しろ。この状態は長時間維持出来ない。先ほどのロストロギアを使って一時的に覚醒を果たしているに過ぎない。最も…」
『ッ!?』
全ての言葉を言い切る前にルーチェモン・フォールダウンモードの姿が消え去った。
慌てて姿を探そうと大達が辺りを見回そうとした瞬間、シャイングレイモン・バーストモードの体に凄まじい衝撃が襲い掛かる。
「グガアァァァァァァァッ!!」
「ッ!? シャイングレイモン!?」
苦痛に満ちた叫びに大が目を向けて見ると、右拳を振り抜いたルーチェモン・フォールダウンモードの姿と、上空に向かって吹き飛んで行くシャイングレイモン・バーストモードの姿が在った。
「貴様らを葬るに充分な時間は在るがな」
「ビフロストッ!!」
スレイプモンは迷う事無くルーチェモンにムスペルヘイムからビフロストを放った。
灼熱の光矢は光速でルーチェモン・フォールダウンモードに迫る。だが、迫るビフロストに対してルーチェモン・フォールダウンモードは静かに視線を向け、次の瞬間、右手を振り抜き、ビフロストを空に向かって弾き飛ばす。
「フン!」
「…こ、これほどとは」
あっさりと自らの最大の技が弾き飛ばされた事実に、スレイプモンは現在のルーチェモン・フォールダウンモードとの実力の差を感じた。
それでも諦めるつもりは無いと言うようにスレイプモンは、二ムルヘイムを構える。再び気候を操作する気なのだと悟ったルーチェモン・フォールダウンモードは、そうはさせないと背の翼を全て広げる。
しかし、飛び掛かる前に上空から凄まじい熱量を放つコロナブレイズソードを握ったシャイングレイモン・バーストモードがルーチェモン・フォールダウンモードに向かって剣を振り下ろす。
「ウオォォォォォッ!!」
「フッ!!」
自らに向かって振り下ろされたコロナブレイズソードを、ルーチェモンは左手で簡単に受け止めた。
幾ら力を込めてもコロナブレイズソードはピクリとも動かず、発している熱量を受けてもルーチェモン・フォールダウンモードは涼しげな顔を浮かべていた。
「ば、馬鹿な!?」
「どうした? この剣で私を斬るつもりなのだろう? 動かしてみたらどうだ?」
「な、舐めるな!!」
シャイングレイモン・バーストモードは怒りの声を上げ、更に力を込めるが、やはりコロナブレイズソードはピクリとも動かなかった。
(駄目だ! 『ファイナルシャイニングバースト』を使ったせいで、余り力が残っていない! このままだと!)
「動かせないのなら、私が動かしてやろう」
言葉と共にルーチェモン・フォールダウンモードは左手に力を入れ、シャイングレイモン・バーストモードをスレイプモンに向かって投げ飛ばした。
「ウワアァァァァァァァァァァッ!!」
「危ない!」
投げ飛ばされたシャイングレイモン・バーストモードをスレイプモンは受け止めた。
そのまま即座にその場から離れようとするが、その前に二体にそれぞれ威力が上がった光球が次々と放たれる。
『グアァァァァァァァァァッ!!』
「この野郎! 好き勝手にさせるかぁぁぁぁぁッ!!」
一方的に攻撃を食らうシャイングレイモン・バーストモードとスレイプモンを目にした大は、ルーチェモン・フォールダウンモードに向かって駆け出した。
そのまま勢いつけてジャンプし、ルーチェモン・フォールダウンモードに向かって全力で殴り掛かる。
「ウオォォォォォォッ!!」
全力を込めた拳。必ず殴り飛ばすと言う意思が篭もった大の拳。
今までどんな相手にも届かせる事が出来た大の拳。だが、その拳は、ルーチェモン・フォールダウンモードが突き出した左手に寄って受け止められてしまう。
「なっ!?」
「……良い拳だ。
「…成長期…だと?」
「そうだ、先ほどまでの私の世代は成長期に過ぎん。そして今の世代は…
「完全体…それじゃまさか!?」
「そう、私は後一度進化出来る。最もソレを貴様が目にする事は無い。此処で…死ぬのだからな!!!」
ルーチェモン・フォールダウンモードは叫ぶと共に左手を引き、大を引き寄せると共に右拳を叩き付けた。
その衝撃と共に掴んでいた左手を離し、大は空に向かって吹き飛んで行く。同時にルーチェモン・フォールダウンモードは追い討ちを掛ける為に背の翼を広げ、両手を強く握り締める。
「パラダイスッ!!」
「させるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
大に止めを刺す直前、シャイングレイモン・バーストモードが飛び掛かって来た。
そのまま至近距離に近づくと共に残された全ての力を振り絞って、コロナブレイズソードをルーチェモン・フォールダウンモードに向かって振り下ろす。
「コロナブレイズ…」
「邪魔だ!! 『光』ッ!! 『闇』ッ!!」
止めを刺すのを邪魔されたルーチェモン・フォールダウンモードは、怒りに満ちた叫びと共に凄まじい力が篭もった二つの光と闇の球をシャイングレイモン・バーストモードに放った。
ダメージを受けてでもこの一撃だけは決めるとシャイングレイモン・バーストモードは決意し、衝撃に耐える為に全身に力を込める。だが、シャイングレイモン・バーストモードの予想に反して、二つの球はシャイングレイモン・バーストモードに触れた瞬間、立体魔法陣を出現させて、球状に形が変わると共にシャイングレイモン・バーストモードの動きを封じ込めてしまう。
「か、体が……う、動かない」
「そんなに死にたいのならば、先に消えるが良い。デッド・オア……アライブ」
「ウオアアァァァァァァァァァァァッ!!!!」
指をパチンと鳴らしながらルーチェモン・フォールダウンモードが技名を呟いた瞬間、魔法陣が輝き、シャイングレイモン・バーストモードに凄まじいエネルギーの奔流が襲い掛かった。
そしてエネルギーの奔流が治まり、魔法陣が消えた後には、シャイングレイモン・バーストモードの姿は影も形も無く、代わりに気絶して地面に倒れているアグモンの姿が在った。ルーチェモン・フォールダウンモードは上空からアグモンを確認し、忌々しそうに舌打ちする。
「チッ! 運の良い奴だ」
ルーチェモン・フォールダウンモード時の必殺技『デッド・オア・アライブ』。
対象に1/2の確率で死か生のどちらかが起きる必殺技。死の方は当然ながら完全消滅を与え、生の方でも大ダメージを負わす。強力無比且つ防御不可能な必殺技。
その技をアグモンは大ダメージを受けて生きている。運良く生き残ったアグモンに苛立ちをルーチェモン・フォールダウンモードは抱くが、すぐに表情を戻して右手をアグモンに向ける。
どちらにしたところでアグモンの死は変わらない。スレイプモンは先ほどの攻撃からアグモンを庇ったせいで動けず、大も何処かへと飛んで行った。もはやアグモンを助けられる者は居ないとルーチェモン・フォールダウンモードは考え、今度こそ止めを刺そうとする。だが、ルーチェモン・フォールダウンモードが攻撃を放つ直前、背後から長大な槍が凄まじい勢いで迫って来る。
「ムン!!」
背後から飛んで来た槍-『グラム』-に気がついたルーチェモン・フォールダウンモードは、振り向きざまグラムを弾き飛ばした。
「…そう言えば、まだ貴様が残っていたな。デュークモン」
呟きながらルーチェモンはスレイプモンの居る方向に体を向ける。
其処には右手に気絶した大を、左手に同じく気絶しているアグモンを大切そうに乗せたデュークモンが、スレイプモンに二人を差し出していた。
「…スレイプモン。此処は私に任せて大達を連れて逃げるのだ」
「何を言っている、デュークモン! 残るならば私だ! お前はもう戦える体では……まさか!?」
話している途中で何かに気がついたスレイプモンは目を見開いて、デュークモンを見つめる。
それに対してデュークモンは答える事無く、スレイプモンの手に大とアグモンを乗せ、すぐさまルーチェモン・フォールダウンモードに体を向ける。
「……デジタルワールドの未来を頼んだぞ!! ウオオォォォォォォォォッ!!!」
突然デュークモンは咆哮を上げ、同時に胸に刻まれている『デジタルハザード』の紋章が赤く輝き、真紅の柱が発生した。
真紅の柱が消えた後には、真紅に輝く鎧を身に纏い、背中に白く光り輝く10枚の翼を伸ばした騎士が立っていた。その姿こそデュークモンが秘めた力を全て解放した姿。その名も。
「デュークモン・クリムゾンモード!!」
デュークモン・クリムゾンモード、世代/究極体、属性/ウィルス種、種族/聖騎士型、必殺技/無敵剣《インビンシブルソード》、クォ・ヴァディス
紅蓮色に輝く鎧に身を包んだデュークモンの隠された姿。秘められたパワーを全開放しているため、鎧部分が熱を持ち赤色に染まっている。その為に長時間クリムゾンモードを維持することは出来ない。胸部には『デジタルハザード』を封印した『
「クリムゾン・モード…そうか。それが貴様の切り札か、デュークモン」
赤熱に染まった鎧を身に纏ったデュークモン・クリムゾンモードは、右手に光の神剣『ブルトガング』を出現させて握る。
「行け!! スレイプモン!!」
「…済まん、デュークモン!!」
文字通り最後の切り札を使用して時間を稼ごうとしているデュークモン・クリムゾンモードに気がついたスレイプモンは、悔しげな声を上げながら大とアグモンを両手に乗せて空に上昇した。
逃げようとしているスレイプモンに気がついたルーチェモン・フォールダウンモードは、追い掛けようとする。本来ならばフォールダウンモードを使用せず、持って来た三つのロストロギアは別の目的の為に使用する筈だった。それを使わされ、生き残れば確実に脅威と成る大とアグモンを逃す訳には行かない。
背の翼を羽ばたかせてルーチェモン・フォールダウンモードはスレイプモンに追いつこうとする。だが、それを阻むようにデュークモン・クリムゾンモードがブルトガングを振り抜く。
「クゥッ!!」
流石に今の状態のデュークモン・クリムゾンモードの攻撃は通じるのか、ルーチェモン・フォールダウンモードはブルトガングを受け止めた。
「貴様の相手は私だ!」
「死に底無いが!! そんなに死にたければ貴様から消し去ってやる!!」
互いに叫びあうとと共に、二体は同時に離れる。
空中で二体は向き合い、ルーチェモン・フォールダウンモードは両拳を。
デュークモン・クリムゾンモードは神剣ブルトガングを正眼に構える。二体の気迫に圧され、空はどんよりと暗く曇り、大粒の雨が降り始める。互いの体に雨が落ちた瞬間、二体は同時に動き、空中で幾重にも衝撃波を発しながら最後の激闘が始まったのだった。
本文で出た『ルーチェモン・フォールダウンモード』及び、『デュークモン・クリムゾンモード』に関する設定。
『ルーチェモン・フォールダウンモード』
本文でルーチェモン・フォールダウンモードに進化出来たのは、管理世界に在るエネルギー関係のロストロギアを使用した結果、膨大なエネルギーを一時的に飲み込む事で進化出来る。正し今回使用したロストロギア《レリック》一個で約十分前後だけ進化状態を保てる。また、完全体から元の成長期に戻った場合、酷く消耗し、一般的な成長期よりも弱体化してしまう。力が完全に戻る為には半年ほどの休息が必要になる。また、本来備わっている特性の幾つが使用不能で在り、最たるものは『七大魔王』デジモンが持つデジモンの完全消滅能力が消失している。
その為にルーチェモンはギリギリまで使用しなかった。本格的に覚醒する為にはエネルギー関係のロストロギアに百以上が必要なのに加え、デジタルワールド一つを吸収しなければならない。
『デュークモン・クリムゾンモード』
デュークモンの正真正銘の最後の切り札。オリジナル《タカトのギルモン》と違う為に、クリムゾンモードを使用した代償は重く、一定時間力を高める必要が在り、十五分しか姿を維持出来ない。デュークモンがクリムゾンモードを早期に使用しなかったのは制限時間の為であり、クリムゾンモードに成っていられる制限時間を過ぎなくても成った時点でデュークモンの死は確定してしまう。その為にデュークモンは戦いの中ではクリムゾンモードに成れず、ルーチェモンと相対してもなる事が出来なかった。
デュークモンのクリムゾンモードに関してはオリジナルと違う場合は、代償を設定しました。
出ないとデュークモンと言う種全体でクリムゾンモードの乱発が発生していると思いましたので。
自由自在にクリムゾンモードに成れるのはオリジナルの特権で、更にグラニと言う愛馬の犠牲が在るからだと思いましたし、愛馬も無く、パートナーも存在しないセイバーズのデュークモンは、クリムゾンモードの自由自在への変化は出来ない設定です。