「ハアァァァァァァァァァァァーーーーーーッ!!!!!」
デュークモンの力強く気迫が篭もった咆哮と共に、グラムに寄る神速の突きが幾重にも空中に浮かぶルーチェモンに向かって繰り出される。
その一撃一撃が必殺の領域に匹敵するほどの威力が込められている。更に繰り出される速さのせいで、幾重にグラムが在るかのようにさえ見えてしまう。例え究極体でもロイヤルナイツ級で無ければ避ける事は愚か防御さえも出来ない。
だが、その苛烈と言う言葉が優しく思えるほどのデュークモンの猛攻をルーチェモンは軽やかな動きで躱し続けていた。
「ハハハハッ! 流石だね、デュークモン! 人間達の攻撃なんて比べものにならないほどにスリルが在るよ!」
「化け物が!?」
笑うルーチェモンにデュークモンは攻撃を中断して背後に飛び去りながら悪態を思わず吐いた。
神速の速さを持った突きの猛攻を全てルーチェモンは回避していた。無論回避に専念している事を考えれば、デュークモンの一撃が当たればルーチェモンもダメージを受ける。だが、その当てると言う行為が途轍もなく難しい事をデュークモンは悟っていた。
(このルーチェモン!? まだ、完全に覚醒していないと言うのにこれほどの強さとは!?)
出し惜しみなどしている場合ではない。
此処で倒す事が出来なければ、もはやルーチェモンを止める事は不可能なってしまうと危機感をデュークモンは抱く。
「セーバーショット!!」
地面に着地すると同時に、デュークモンはグラムの切っ先からルーチェモンに向かって聖なるエネルギーを放った。
しかし、それに対してルーチェモンは回避するような動きを見せず、迫るセーバーショットに向かって右手を掲げて振り抜く。
「フッ!!」
ルーチェモンが右手を振り抜くと共に直撃したセーバーショットは弾き飛ばされ、遠い場所に在る森に当たり爆発した。
必殺技では無いとは言え、自らの技が牽制にさえならない事実にデュークモンは悔しさを抱く。だが、同時にやはりルーチェモンには聖に属する技の効果は薄い事を悟る。
(奴は他の七大魔王デジモンと違い、聖なる力を宿す存在……他の七大魔王ならば『ファイナル・エリシオン』の効果も及ぶが、奴には通じん)
七大魔王と言う強大な七体のデジモンの中でも、ルーチェモンは別格の存在だった。
他の七大魔王デジモン達は闇に属する存在なので光属性に弱い。だが、ルーチェモンだけは違う。ルーチェモンは闇と光を自由自在に扱う事が出来る。故に他の七大魔王デジモンと違い、ルーチェモンには光属性での攻撃は効果が薄い。ましてや今のルーチェモンは成長期。完全に七大魔王として覚醒していないので闇の力には目覚めていないが、それが逆にデュークモンが扱う光属性の効果が薄くなっている原因でも在った。
エネルギー系の攻撃を使っても効果は無いとデュークモンは悟り、ルーチェモンに接近戦で挑み掛かる。
「スクリューセーバーーッ!!!」
デュークモンはルーチェモンに向かってジャンプすると共に、体を高速回転させて竜巻と化した。
吹き荒れる竜巻に飛ばされないようにルーチェモンは身構え、迫る竜巻を見極めるように睨む。
「……其処だね!!」
「ロイヤルスラッシュッ!!」
ルーチェモンが叫ぶと同時に、竜巻の下方からグラムがルーチェモンに振り上げられた。
だが、事前に分かっていたルーチェモンは背中の翼を羽ばたかせるだけで射程距離から僅かに離れ、ロイヤルスラッシュを避けた。そのまま技を放った直後のデュークモンにルーチェモンは急接近し、右足を振り抜く。
「ハァッ!!」
「グゥッ!?」
体格差など完全に無意味だとしか思えないほどの威力が篭もった蹴りを、デュークモンはイージスを翳す事で防いだ。
だが、防いでも尚威力を殺し切れず、デュークモンは後方へと吹き飛ばされ、数メートルほど地面に引き摺られたような後を付けながら着地した。自らが止まった事を確認したデュークモンは即座に飛び掛かろうとする。
それを遮るように両手にルーチェモンは光球を作り上げ、デュークモンに向かって放つ。
真っ直ぐに向かって来る光球をデュークモンは横に飛ぶ事で躱そうとする。だが、躱す直前に何かに気がついたようにハッとしてイージスで二つの光球を防ぐ。同時にデュークモンの左右を後方から放たれた光線が通過した。
「ッ!? 今のは!?」
イージスで受け止めた衝撃で足を止めながらも、デュークモンは光線が飛んで来た方向に慌てて目を向ける。
一見すればただの光線にしか見えない攻撃。だが、もしも今の光線を食らってしまえば、デュークモンは敗北していた。それはルーチェモンの攻撃さえ超える
(しまった!? 『ギズモン』はまだ残っていたのか!?)
先ほどの光線を放った者の正体は『ギズモン』
デジモンを抹殺する為に改造された意思無きデジモン。必殺技である『XTレーザー』はデジモンのデータを粉々に破壊する技。その力はデュークモンにも通じる。粉々にデータが破壊されてしまう為に、僅かな傷でも致命傷になってしまう。
最初に放った『ファイナル・エリシオン』のおかげでルーチェモンが連れて来たギズモンの大多数は倒せたが、まだ生き残りが周囲に潜んでいる。
(不味い! ルーチェモンだけではなくギズモンの攻撃にも気を配る事は…)
「考え事してる暇は無いよ!」
「ハッ!?」
聞こえて来た声にデュークモンがハッとした瞬間、上空からルーチェモンが急降下して来た。
慌ててデュークモンはイージスを構えようとする。だが、構える直前、再び離れたところに潜んでいるギズモンがXTレーザーを放ち、イージスに直撃する。
「こ、これは!?」
XTレーザーがイージスに直撃した事を悟ったデュークモンは、自らの武具で在るイージスが直撃した場所からデータになって行く事に目を見開く。
更にデュークモンに追い討ちを掛けるように遮る物が無くなったルーチェモンの強烈な蹴りが、デュークモンの胴体に直撃する。
「ガアァァァァァァッ!?」
直撃を受けたデュークモンは余りの威力に後方へと吹き飛び、その先に在ったピラミッド型の遺跡に激突した事で漸く止まった。
全身に走る激痛に苦しみながらもデュークモンは顔を上げ、左手に装備している聖盾イージスを目を向ける。だが、既に其処には堅牢を誇るイージスは無かった。半ばまでイージスはデータに変わっており、何時消滅しても可笑しくない状態になっている。自らの聖盾が失われた事実にデュークモンは悔しさに包まれながらも、イージスを地面に投げ捨てる。
もはやイージスは直らない。ギズモンの攻撃はデータを粉々に破壊すると言う性質上、食らった時点で終わり。通常なら損傷を負っても時間経過で例え粉々に破壊されても修復は可能だが、ギズモンの攻撃だけは何をやっても修復される事は無い。何せ元になるデータ事態が破壊されてしまうのだから。
「……最初から此れを狙っていたのか!?」
「正解だよ、デュークモン。君を始めとしたロイヤルナイツ連中は技を使用する為に武器を使用する。なら、武器さえ無くなれば戦力は半減。とは言っても、ロイヤルナイツで在る君らの武器は堅牢を誇る代物。でも、やっぱり、ギズモンの攻撃だけは例外みたいだ。感謝するよ、デュークモン。おかげでこれからのロイヤルナイツ連中への戦略の幅が広がったよ」
「お、おのれ!!」
デュークモンは決死の覚悟で戦っていた。
だが、ルーチェモンにとってはただ自らの目的を遂行する戦いでしかない。自らの中で決まっていた事が当たり前の結果として出た認識しかルーチェモンは持っていない。無論デュークモンの強さをルーチェモンは理解している。理解して尚、ルーチェモンは自らへの脅威としてデュークモンを認識していなかった。
それこそが『傲慢』の称号を司るルーチェモンの在り方。余程予想外の事が無い限り、ルーチェモンは動揺する事は無い。そして残念ながらデュークモンはルーチェモンの予想外には成らなかった。
(今の状態の僕でもロイヤルナイツまでなら互角以上にやり合える。ギズモンも戦力として加えれば勝率も上がるみたいだし、『倉田』は本当に役に立ってくれるよ)
嘗てのルーチェモンならば人間に対して脅威は抱く事も、何の感情も抱く事は無かった。
有り体に言えば嘗てのルーチェモンにとって人間は何時でも踏み潰せる小さな虫程度の認識。だが、その程度にしか考えて居なかった存在にルーチェモンは敗北した。自らの完全な敗北に加え、『倉田』が生み出したギズモン。そして別世界の人間が生み出した技術の数々にルーチェモンの中で人間に対する認識は大きく変わっていた。
“人間は脅威と成り得る存在と同時に、利用すれば絶大な益を齎してくれる存在”と言う考えに。
(
(気配が変わった!?)
発していたルーチェモンの気配が変わった事をデュークモンは察し、グラムを構える。
イージスが失われたとしてもまだ聖槍グラムが在る。何とか残された最大の必殺技である『ロイヤルセイバー』を叩き込む方法は無いかと考えながら、自らに残された本当の意味での最後の手段についても考えを巡らせる。
(……
ルーチェモンは気がついていないが、デュークモンもまた切り札を所持している。
だが、その切り札を使用する為には命を賭ける必要が在り、短時間しか使用出来ない。また、確実に倒せると言う保障も無かった。何とか切り札を使用する為の時間を得たいと考えるが、残念ながら現状では不可能。
「さあ……行くよッ!!」
「ッ!? クッ!!」
ルーチェモンの号令と共にデュークモンに向かって、周囲に潜んでいた八体ほどのギズモンXTが姿を現しながらXTレーザーを放った。
即座にデュークモンは上空に飛び立つ事でXTレーザーを躱す。しかし、既にその先にはルーチェモンが待ち構え、デュークモンに向かって左足で踵落としを叩き込もうとする。瞬時にデュークモンはグラムで防ごうとする。だが、防ぐ直前に嫌な予感が走り、右方向に移動する。
同時に直前までデュークモンが居た場所をXTレーザーが通過する。
(ギズモンとの連携攻撃か!?)
最悪の組み合わせに寄る連携攻撃にデュークモンは戦慄した。
一撃一撃が並みの究極体の攻撃に匹敵するルーチェモンの攻撃に加え、掠るだけでも致命傷になってしまうギズモンの必殺技。ルーチェモンよりも遥かに弱いギズモンXTを排除してから戦うのが本来ならば正しい選択。
だが、そんな事をルーチェモンが許す筈が無い。デュークモンがギズモンXTに攻撃を加えようとすれば、必ず邪魔をして来る。広範囲の攻撃が放てれば状況は好転出来たかも知れないが、残念ながらイージスを失った今のデュークモンには出来ない。この為にイージスを破壊したのだと、デュークモンは悟りながら次々に繰り出されるギズモンXTのXTレーザーと、ルーチェモンの攻撃を躱して行く。
その動きもまた見事としか言えないが、次々に繰り出される連携攻撃にデュークモンは追い込まれて行く。徐々に避ける事が難しくなり、背中の赤いマントの端が一条のXTレーザーに寄って撃ち抜かれてしまう。
慌てて侵食が及ぶ前にデータに変わり始めた部分を、デュークモンはグラムで斬り飛ばす。その隙をルーチェモンは逃さず、デュークモンの背中に向かって右拳を叩き込む。
「貰ったよ!!」
「ガハッ!!」
ルーチェモンの拳は寸分違わずにデュークモンの背に叩き込まれた。
全身を貫くような衝撃を食らったデュークモンは地面に激突し、大きなクレーターを作り上げた。更に追い討ちを掛けるように上空に浮かぶルーチェモンは、光球を両手に作り上げてデュークモンに向かって放つ。
次の瞬間、凄まじい爆発がデュークモンが居た場所から起こった。辺りには凄まじい爆風が発生し、周囲に在る地面が舞い上がる。
それが治まった後には、美しい輝いていた白き鎧が罅だらけになり、薄汚れ、背中の赤いマントがボロボロに焼け焦げたデュークモンが地面に倒れ伏していた。
「しぶといね。まぁ、デジタマに戻ってしまうよりは良かったかな。君みたいな使命感が強い奴は死んでも記憶を受け継ぐ可能性が高いからね……確実に抹殺しないと」
もはや動けないデュークモンにギズモンXT達が近づく。
確実にデュークモンを抹殺する必要が在る。今までのやり取りでルーチェモンは決してデュークモンが自らに屈する事はないと分かっていた。だが、ルーチェモン自らが倒せばデュークモンがデジタマに戻ってしまう。
デュークモンのデジタマを持って行くと言う方法も在るが、その場合、本格的に今居る世界の守護デジモン達が動き出す可能性が高い。今だ守護デジモン全員が動いて確実に勝てる確証をルーチェモンは持っていない。不確定要素が最も無い方法はギズモンに寄るデュークモンの完全抹消。これで厄介な守護デジモンが一体減るとルーチェモンは笑みを浮かべるが、次の瞬間、ハッとした様に右方向に顔を向ける。
それと共にルーチェモンが向いた方角から灼熱の光矢が向かって来て、デュークモンに攻撃しようとしていたギズモンXTを三体消滅させた。
「クッ!? 来たようだね、スレイプモン!!」
苦々しげにルーチェモンが顔を歪めると共に、灼熱の光矢が放たれた方角からソレはやって来た。
デュークモンと同じぐらいの大きさで六本の脚を持ち、赤いレッドデジゾイド製の鎧で身を包み、左腕に聖弩『ムスペルヘイム』握り締め、右腕に聖盾『ニフルヘイム』を装備したデジモン-『スレイプモン』-が空中を超高速で駆けながらやって来た。
スレイプモン、世代/究極体、属性/ワクチン種、種族/聖騎士型、必殺技/ビフロスト、オーディンズブレス
セキュリティの最高位『ロイヤルナイツ』に属する聖騎士型デジモン。人型が多い『ロイヤルナイツ』のデジモンの中で獣の姿をした異色の存在。クロンデジゾイドの中で最も硬い『レッドデジゾイド』を鎧として装備し、六本の脚を持って陸海空とあらゆる場所を超高速移動が可能。また、左腕に『
「オオォォォォォォォッ!!!」
ボロボロに成って地面に倒れ伏しているデュークモンを捉えたスレイプモンは、怒りに満ちた咆哮を上げながらルーチェモンに向かって突進して来た。
無論幾ら相手がデュークモンと同じロイヤルナイツの一体だとしても、怒りに任せた突進などルーチェモンにとって脅威ではない。案の定スレイプモンの突進は、ルーチェモンが上空に舞い上がる事で躱されてしまう。そのままルーチェモンは止まる事が出来ないスレイプモンに右手を向け、光球を放とうとする。
そして気がつく。スレイプモンの背から自身に向かって飛び掛かる二つの影を。
『オォォォォォォォッ!!』
「成長期のデジモンに…人間?」
自らに向かって飛び掛かる二つの影の正体に、ルーチェモンは思わず攻撃の手を止めて呆然となってしまう。
スレイプモンの背から飛び上がったのは年齢が二十代ぐらいで赤いシャツを着た精悍な顔をした男性。それに並ぶようにいるのは、両手に赤い紐のようなものを付けた黄色いトカゲのようなデジモン-『アグモン(S)』-以降アグモン。
アグモン(S)、世代/成長期、属性/ワクチン種、種族/恐竜型、必殺技/ベビーバーナー、ベビーフレイム、ベビーボルケーノ
X-進化を遂げたアグモンに近い特徴や能力を持つ恐竜型に分類される特殊なアグモン。赤い革ベルトを腕に巻いているのが最大の特徴でもあるが、指の数が4本から3本になっていたり、ドルモンに近い鼻になっていたり、また必殺技の面でもX-進化したアグモンの技が使えたりと他にも大きな変化が現れている。必殺技は、息を大きく吸い込み、口から炎を一気に吐き出す『ベビーバーナー』と、口から高熱の火炎の息を吐き出す『ベビーフレイム』。そして巨大な火球を口から吐き、大爆発を引き起こす『ベビーボルケーノ』だ。
(何だ? こいつらは?)
ルーチェモンは自らに向かって飛び掛かって来る男性-『
実際に何をやろうとしているのかはルーチェモンには分かっている。拳を振り上げて飛び掛かって来る事から考えれば、明らかに殴り掛かって来ているのが分かる。だが、デュークモンを圧倒したルーチェモンにただ殴り掛かると言う行為を行なうのが理解出来なかった。
(まさか、本気で僕を殴る気なのか? いや、そんな愚かな行為をする筈が無い。なら、一体? ……そうか!? 此れは僕の意識をこいつらに向けさせる作戦か! その隙にスレイプモンがデュークモンを救う! フフッ、馬鹿だね。この僕がそんな作戦に気がつかないと思っているのかい?)
ルーチェモンはそう思いながら大とアグモンから視線を逸らし、スレイプモンに視線を移す。
案の上ルーチェモンの読みどおり、スレイプモンはデュークモンを助ける為に残っているギズモンXT達にムスペルヘイムを向けていた。そうはさせないとルーチェモンは右手に力を集め、完全に大とアグモンを意識から外す。
この時、ルーチェモンは油断していた。嘗てルーチェモンが人間に敗北した時は、十闘士の力を得た人間達。今本拠地としている次元世界では魔法と言う力を人間達は振るって来る。どちらも生身で自らに挑み掛かって来る相手は居なかった。だからこその油断と慢心。たかが成長期のデジモンと生身の人間が殴り掛かった位で、自らにダメージを与えられるはずが無いと、ルーチェモンは完全に思い込んでいる。
だが、ルーチェモンは忘れていた。今居る世界に来る時に、『倉田』が注意していた事を。
次の瞬間、大の拳が頬に凄まじい衝撃と共に突き刺さると同時に、ソレをルーチェモンが完全に思い出す。
「ッ!?!?」
『もしもあの男に…大門 大に出会った場合、気をつけて下さい。あの男は私達の常識を真っ向から粉砕する忌々しい奴ですからね』
『倉田』の忠告をルーチェモンは思い出すが、既に遅かった。
大の拳は完全にルーチェモンの右頬に突き刺さり、神秘的なまで整っていた顔立ちが歪んだ。続くようにアグモンの拳がルーチェモンの鳩尾に叩き込まれる。
そして大とアグモンは殴られた衝撃で完全に固まっているルーチェモンに追撃するように、逆の拳を振り被り顔面に叩き込む。
『オラアァァァァァァァァァッ!!!!』
大とアグモンの拳を顔面に食らったルーチェモンは、凄まじい激突音を発しながら声も出せずに地上へと吹き飛んで行った。
それを確認した大はシャツのポケットからオレンジ色の細長い機械-『デジヴァイスバースト』-を取り出し、アグモンに向かって構える。
「行くぜ、アグモン!!」
「応! 兄貴ッ!!」
アグモンは力強い言葉で答えた。
大はルーチェモンを殴った時からオレンジ色の輝きを発する右手を機械の上部分に押し当てる。
同時にデジヴァイスバーストの液晶部分にULTIMATE EVOLUTIONの文字が映り出し、大はアグモンにデジヴァイスバーストを向け、オレンジ色の光をアグモンに向かって放つ。
「デジソウルチャージ!! オーバードライブッ!!」
「アグモン進化ッ!!」
デジヴァイスバーストから放たれたデジソウルを体に浴びたアグモンは叫ぶと、その体をデータ粒子へと一時変換させ、体を巨大に変化させる。
背中に赤い十二枚の機械のような翼が出現し、胴体には赤い鎧の中心に青い宝玉のようなものへと変わり、腕にも黄色い篭手のようなものを備え、更に先に刃のような光輪が付いた巨大な尻尾も持った大とアグモンの究極進化体の光竜型デジモンが現れる。その名も。
「シャイングレイモンッ!!」
シャイングレイモン、世代/究極体、属性/ワクチン種、種族/光竜型、必殺技/グロリアスバースト、シャイニングブラスト、ジオグレイソード
光竜型という新たな分類に属するデジモン。人型に近い、巨大なロボットのような姿をしている。赤や黄色のカラーリングはグレイモンというよりは、アグモンをイメージさせている。灼熱の太陽のエネルギーを蓄えて戦い、『ジオグレイソード』と呼ばれる剣を召喚する能力を持っている。 必殺技は、巨大な翼を広げて光のエネルギーを極限まで集中して放つ『グロリアスバースト』に、輝く光の翼で敵を薙ぎ払う『シャイニングブラスト』。そして
進化を終えたシャイングレイモンの右肩に大は危なげなく着地する。
殴り飛ばされて地面に激突したルーチェモンは、今だ何が起きたのか理解が及び切れてないのか、呆然と自らの顔に手を当てていた。
シャイングレイモンはルーチェモンの目の前に着地し、肩に乗る大がルーチェモンに向かって叫ぶ。
「テメエだな! 一年ぐらい前に沢山のデジタマをデジタルワールドから持ち去ったって言う、『倉田』の仲間は!? 好き勝手デジタルワールドを荒らしやがって! ぜってぇぶっ飛ばしてやるぜ!!」
「……れた? ……この僕が……人間と成長期のデジモンに?」
ルーチェモンは大の声が聞こえていないのか、呆けたように呟く。
殴られた経験はルーチェモンも持っている。だが、それは十闘士達の手に寄って疲弊していた時。だが、今殴られた時は全く疲弊して居らず、万全に近い状態だった。なのに殴り飛ばされた。在り得ない事実を味わったルーチェモンは呆然なって固まってしまう。
そして次に抱いたのは自らのプライドが粉砕された怒り。これまで誰一人成し遂げた事がなど居ない自らをただの拳で殴り飛ばした大への脅威。
(『倉田』が言っていた事は事実だ! この大門 大とパートナーデジモンは不確定要素過ぎる! 『ベルフェモン』を倒したのはマグレじゃなかったようだねッ!!)
そう考えながらルーチェモンは地面から立ち上がり、大とシャイングレイモンを言葉に出来ないほどの気迫が篭もった目で睨みつける。
完全に本気になったルーチェモンの気配を感じた大とシャイングレイモンも、力を込めながら身構える。この時点で大は人の身でルーチェモンの全力の気迫を耐え切ったと言う偉業を成し遂げている。もはや大をただの人間だと言う認識をルーチェモンは持っていない。
必ず此処で抹殺すると決めながら、ルーチェモンは背の白い翼を大きく広げる。
「君達は脅威だ…此処で消えて貰うよ!!」
「へっ! こっちは、好き勝手にデジタルワールドを荒らしやがったテメエらに、はらわたが煮えくり返ってんだ! 全力で行くぞ、シャイングレイモン!!」
「あぁ、分かってるさ、兄貴ィッ!!」
ルーチェモン、大、シャイングレイモンは叫ぶと共に動き出し、戦闘を開始したのだった。
次回はアレが降臨します。
絶望は平等に訪れてしまうのです。