漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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聖騎士と天使の激闘開始

 昨夜の戦闘が終わってから翌日の早朝。

 負傷を負って入院する事になったザフィーラと違い、怪我らしい怪我を負わなかったフェイトとヴィータは、地上本部に通信施設を使用して、現在本局の医務局に入院しているクロノと連絡を取っていた。

 既にミゼット達には昨夜の内に事の経緯を伝えていたが、一応任務の事を知っているクロノにも事の経緯をフェイトとヴィータは説明していた。二人の説明を聞き終えたクロノは思い悩むように質問する。

 

『……ヴィータ? 聞くが、本当に相手は母さんが『ルーチェモン』と襲撃者に声を掛けたら、反応を示したんだな?』

 

「………あぁ、間違いねぇ。あたしが戦った奴は、『ルーチェモン』って奴の事を呼び捨てにしたら怒ってやがった」

 

『……そうか』

 

「クロノ? 如何したの?」

 

 明らかに様子が可笑しいクロノに、質問したフェイトだけではなくヴィータも疑問を抱く。

 しかし、クロノはすぐに答える事は無く、何かを思い出すように苦悩する。もしもヴィータが告げたルーチェモンと言う名前の主がクロノの脳裏に二度と忘れる事は無い相手と同一人物だとすれば、フェイト達が戦いを潜り抜けられたのは幸運としか言えなかった。

 それは直接ルーチェモンを目にし、戦う事になったクロノは理解していた。アレだけの実力を誇るルーチェモンの配下が弱い筈は無いのだから。

 

『……ルーチェモンと言う名前に僕は覚えが在る』

 

「ッ!? 本当なの!?」

 

「どんな奴だよ!?」

 

『……化け物だッ!!』

 

『ッ!?』

 

 心の底から苦々しさと悔しさが篭もったようなクロノの声に、フェイトとヴィータは言葉を失った。

 だが、実際にクロノがルーチェモンに抱いた感想は“化け物”としか表現出来なかった。一瞬で魔導師を数名を殺し、必死のクロノ達の猛攻を全て嘲笑いながら躱し続けたばかりか、直撃させる事で出来たのは処分すると言っていた服を焼き尽くすだけ。更に言えば本気になったルーチェモンが相手の時は、文字通り手も足も出す事は出来ずに床に倒れ伏すしか出来なかった。

 

(奴の部下が動いているとすれば、ブラックウォーグレイモンでも勝てなかったのか……此処まで来たら間違いない。三提督の方々が危惧していた通り、二年前の最高評議会の連中が行なった一件は終わっていない。寧ろ深くなっていると見るべきだ)

 

 以前から三提督は、二年前に最高評議会が行なった行動に関して一つの危惧を抱いていた。

 不明瞭な使用制限を持った長距離魔導砲を装備した艦の出撃。艦に装備された長距離魔導砲は恐らく使用された筈。その使用目的に関しては不明であり、更に言えばこの二年間の間に参加したと思われる乗員や魔導師に不可解な死(・・・・・)が頻発していた。

 その件に関しては情報を知る者は少なく、クロノも三提督から告げられるまで知らなかった。

 

『(この件も気になる。やっぱり二年前に最高評議会が何をしたのか知らなければ)……フェイト、ヴィータ。君達はとにかくなのはの護衛を続けてくれ。シャマルも何とか早く其方に戻せないか頼んでみる』

 

「う、うん…分かった、クロノ」

 

「だけど、シャマルを戻して大丈夫なのかよ? まだ、災害は治まってねぇんだろう?」

 

『其方に関しては、はやてとリインフォースを含めた魔導師達が広域魔法で災害の方は治めてくれたと報告が本局に届いている。襲撃が在った事も考えればシャマルを呼び戻せる……とにかく、気をつけれてくれ。それともし襲撃が再び在って、その時に金髪の十歳前後の子供が出て来たら、脇目も振らずに逃げるんだ』

 

「おい! 逃げるって!? 何でだよ!?」

 

『良いから逃げるんだ!! 詳しい事は直接在った時に説明する!! これは命令だ!!』

 

 有無を言わさぬように告げるクロノに、フェイトとヴィータは反論を封じられ黙り込む。

 此処まで逃げる事を告げるクロノの様子にフェイトとヴィータは疑問を抱く。例え相手の方が実力が上だとしても、クロノは挑み掛かる。そのクロノが此処まで逃げる事を優先するように指示を出すルーチェモンとは何者なのかと二人は顔を見合わせる。

 話は終わりだとクロノは通信を切ろうとするが、フッと報告の中で気になった事を思い出す。

 

(そう言えば、なのはが撃墜された件で回収出来なかった『レイジングハート』…母さん達が回収していたのか。後で返すと母さんが言っていたようだが、もしかしたらその時に母さんから情報が得られるかもしれない)

 

 リンディは既に管理局に追われる身の上になっているので確実は言えないが、クロノ達の知らない情報を多く握っている。

 リンディから詳しい話を聞く事が出来ればベスト。出来なくても『レイジングハート』から情報を得られる可能性が在る。今の自分達に欲しいのは何よりも“情報”だとクロノは分かっていた。少しでも“情報”を得られる手段は無いかとクロノは模索するのだった。

 

 

 

 

 

「ぶっちゃけって言って……AIの取り外しは不可能です」

 

「事情を詳しく説明しなさい」

 

 予想外の戦闘も在ったが、逃げ出した『デジバイス』を回収し終えたリンディ達はアルハザードへと帰還し、『デジバイス』を待っていたフリートに渡した。

 当初の予定通り、『デジバイス』に使われているAIを外し、新たにフリートが作った『レイジングハート・エクセリオン』に組み込んでなのはに返すつもりだった。だが、『デジバイス』を調べ終えたフリートからの報告は、AIの取り外しが不可能と言う報告。一体どう言う事なのかとリンディ、ガブモン、シュリモン、イガモンは険しい顔をして冷や汗を流しているフリートを睨む。

 睨まれたフリートは事情を説明する為に、モニターを展開する。

 

「先ずは此れを見て下さい」

 

 リンディ、ガブモン、シュリモン、イガモンはフリートが展開したモニターに視線を向ける。

 そのモニターには記録映像なのか、器具を握ったフリートの手らしきモノが『デジバイス』を作製している映像が映し出されていた。

 映像はゆっくりと進み、AIらしき物品を組み込む作業まで進む。

 

「組み込んだ時には、本当に普通のデバイスと同じようにAIを組み込んだんです。……ですが、今は!」

 

 次に映し出された映像は『デジバイス』の内部構造をスキャンした映像。

 其処にはAIが組み込まれた付近の機械類が変質し、まるで青い球体に近い状態になっていた。

 

「此れだけなら問題は、まぁ、在りますけど、取り外し事態は可能でしたが、入念に調べた結果信じられない事に青い球体は人間で言う所の脳や心臓の役割を担っている状態になっているのです! つまり、『デジバイス』のフレームは体! もはや『デジバイス』は完全に『デバイス』のカテゴリーから外れたモノへとなっていました! そう言う訳でAIの取り外しは完全に不可能です」

 

「…………何でそんな状態になっているのか説明出来るかしら?」

 

 頭痛を覚えると言うように頭に手をやりながらリンディは質問した。

 質問されたフリートは悩むように頭に手をやる。流石にフリートも『デジバイス』の現状は完全に予想外だったのだ。とは言え、自らが作製した代物なので在る程度は推測が浮かび、リンディ達に説明する。

 

「ウ~ム……やっぱりアレが一番の原因でしょうか?」

 

「アレって何ですか? フリートさん」

 

「いえ、『デジバイス』の重要なシステムである『エレメントシステム』の作製の為に……“十闘士のスピリット”を調査した時に得たデータを組み込んだんですよ」

 

『…………えっ? ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!!!!?????」

 

 告げられた『デジバイス』の事実にガブモン、シュリモン、イガモンは一瞬呆然となったが、すぐさま我に返って驚愕と困惑に満ちた声で叫んだ。

 “十闘士のスピリット”。ソレはガブモン達、三大天使デジモン達が治める『デジタルワールド』に於いて重要過ぎる代物。嘗てルーチェモンが引き起こした危機を二度救った伝説のデジモン達の力を宿した力の結晶こそが“十闘士のスピリット”なのだ。

 炎、風、土、雷、氷、光、闇、鋼、木、水とそれぞれ属性に特化した力が宿っている。“十闘士のスピリット”は、属性と言う力に於いて純粋な意味で特化している。其処にフリートは目を付け、秘密裏に三大天使デジモン達と交渉を挑み、結果“十闘士のスピリット”のデータを手に入れたのだ。

 

「いや、ちょっと待つござるよ!? “十闘士のスピリット”は我が世界の至宝と呼ぶべき代物! 幾ら緊急事態で一部のデータだけとはいえ、三大天使の方々が認める筈が無いでござろう!?」

 

「まぁ、イガモンの言うとおり最初は即座に駄目って言われました」

 

 交渉に関しては当然ながら三大天使デジモン達も最初は認める訳が無かった。だが、其処でフリートにとって予想外の援軍が現れたのだ。

 

「交渉している時にですね。その『十闘士』の霊みたいなのが現れて悪用する気が無いならば自分達の力を貸すって言ってくれたんです。『十闘士』の方々もルーチェモン復活と言う緊急事態ですから……とは言っても、その『十闘士』の方々は動けない状態なので」

 

 嘗てルーチェモンが復活した時、『十闘士』が目覚めてルーチェモンを倒した。

 だが、その時、『十闘士』が復活出来たのは人間の子供の力を借りたおかげ。故に再び嘗てルーチェモンを倒した力を再び振るう為には、『十闘士』と共に戦った人間達の力が必要になる。しかし、彼らは平穏な日常へと戻った。

 再び戦いの中に戻す事を三大天使デジモンだけではなく、『十闘士』も躊躇ったのだ。ましてや今回の戦いの中には、別世界とは言え人間とも戦わなければならない可能性が在る。彼らに同胞と戦う重荷を抱いて欲しくは無いと三大天使デジモンと『十闘士』は考えた。しかし、『十闘士』が最大の力を発揮する為には人間の力が必要。何も出来ない『十闘士』達は悔しい想いを抱いていたが、其処にフリートの提案は伝えられたので渡り舟だったのだ。

 

「色々と試行錯誤をした結果、『エレメントシステム』は完成しました。しかし、完成したのに関わらず成功作はあの逃げ出した『デジバイス』だけです。これに関しては一部とは言え、『十闘士』のデータを使用したのが原因でした」

 

 『エレメントシステム』の根幹部分に在るのは『十闘士』の力。

 幾ら高性能とは言え、並みのAIでは制御し切れずに暴走してしまうのがAI付きの『デジバイス』の完成を阻んでいた原因だ。逆に非人格型の『デジバイス』の場合、制御面に力を加えていたので成功作の完成は早かった。

 漸く完成した人格型の『デジバイス』。だが、現在『デジバイス』に起きている事は完全にフリートの予測を超える事態。

 

「一応今のところは事前に組み込んでいた停止システムと、何重にも張り巡らせた封印魔法で起動停止させていますけど……もはや、『デジバイス』は完全に私の考えていた代物を超える物になっています…とても興味深い!!! 今すぐに分解して徹底的に調べ尽くしたいです! もうAI部分から完全に解体を行なって…」

 

「止めなさいッ!」

 

「ヘブッ!?」

 

 瞳を輝かせて『デジバイス』の解体に入ろうとするフリートの脳天に、リンディは渾身の力を込めた手刀を振り下ろし、床に沈めた。

 プスプスと脳天から煙を上げ、明らかにフリートの頭の形が手刀を叩きつけられた場所からへっ込んでいるが、一切リンディは気にせずにガブモン達に顔を向ける。

 

「ハァ~、予想以上の大事になってしまったわね。なのはさんに返すって言ったけど…これは」

 

「AIが取り外せないと言う事は、今の状態のまま返すしかないって事ですけど…それは流石に無理ですよね」

 

「当然でござるよ。『十闘士』の力を一部と言え、宿していると成れば、もはや渡す訳にはいかぬでござるよ」

 

「更にその力が我らデジモンにとって脅威となるなら、絶対に渡せぬ。『ギズモン』以外にも脅威が生まれる事だけは避けねば」

 

「えぇ、そうね」

 

 既に『倉田』とルーチェモン側には『ギズモン』と言う、デジモンにとって最悪な脅威が在る。

 万が一にも『デジバイス』に搭載されている『エレメントシステム』が渡ってしまえば、もはや手に負えない事態になってしまう。とは言っても、『デジバイス』に搭載されている『レイジングハート』のAIは、クロノ達にとって必要な物で在る事もリンディは分かっている。

 

(AI部分だけでも取り外せればそれで助かるんだけど……とにかく、フリートさんに頑張って貰わないと……それに問題は他にも出て来てしまったわ)

 

 『デジバイス』を回収する為に予想外の戦いも在ったが、収穫は在った。

 その収穫が間違いで無い事を確認する為に、リンディはイガモンに質問する。

 

「イガモン君…貴方が戦った敵はどうだったのかしら?」

 

「……拙者が戦ったシールズドラモンはかなりの強敵でござった。実力も然る事ながら、期を見抜く目も一流で、不利と判断したら迷う事無く撤退を選んで見せたでござるよ。アレは幾ら過酷な二年の月日の中を歩んだとしても、手に入れられる実力では無いでござる」

 

「そう……私が見たメフィスモンも同じよ。油断していたおかげでダメージは与えられたけれど、正直夜では正面から戦うのは難しいわね」

 

「某とガブモンが見たバケモンは、並みの成熟期ぐらいの実力だったが……アレだけの数のバケモンが居る点は不可解としかいえぬ」

 

「僕もそう思いました」

 

「……と言う事は間違い無いわね」

 

 全員が同じ意見を持っている事を確信したリンディが呟くと、イガモン、シュリモン、ガブモンは頷く。

 

「ルーチェモンには自分の意思(・・・・・)で協力しているデジモン達が居ると考えて、間違い無いわね」

 

 それは本来ならば『倉田』が関わっているならば考えられない可能性。

 極度のデジモン嫌いで『ギズモン』を造り上げた『倉田』は、デジモンからも嫌われている。故に『倉田』に進んで協力するデジモンは皆無と言って良い。だが、今の『倉田』にはルーチェモンが共に居る。

 嘗てルーチェモンは三大天使デジモン達が治めている『デジタルワールド』の支配者だったデジモン。そのカリスマ性は衰えていない。実際にリンディはルーチェモンをその目にした時に、恐怖と畏怖を心の底から感じた。それに惹かれて進んで協力するデジモンが居ても可笑しくは無い。

 

「……この事はすぐに三大天使の方々に伝えましょう…確か今はオファニモンさんとケルビモンさんはサミットへの参加の為に『デジタルワールド』には居ないけど、セラフィモンさんは残っている筈よね?」

 

「その通りでござる」

 

「それじゃ私が連絡して来るわ……三人は其処で気絶した振りをしながら、部屋から這い出ようとしているマッドを見張っていて頂戴」

 

 床に倒れながら体をギクリと振るわせたフリートを冷めた目でリンディは見つめ、ガブモン、シュリモン、イガモンは同時に頷くのだった。

 

 

 

 

 広大な森林が広がり、まるで侵入者を阻むように深い霧が立ち込める地域が『デジタルワールド』に存在していた。深い霧は立ち入る者を阻み、方向感覚を狂わして侵入者を惑わし、広大な森林は奥に隠されているモノを覆い隠す役割を持っていた。

 その地域だけは完全体クラスのデジモンでさえも立ち入る事は殆ど無い。何故ならばその地域は完全体を越える究極体のデジモン達が生息しているからだった。究極体のデジモン達には森林の奥深くに在る遺跡を護る役割を持ち、入り込んで来た侵入者を排除する。其処には一切の情けも容赦も無い。

 それほどまでに危険且つ重要なモノが遺跡には封印されていた。解き放たれれば『デジタルワールド』を追い込むほどの危険性を秘めたモノ。究極体のデジモン達はその正体を知り、例え己の命が消えようと絶対に遺跡内部に封印されているモノは死守すると言う気持ちを抱いていた。だが、今、デジモン達の覚悟は無慈悲な攻撃に寄って跡形も無く消え去り、広大な森林に断末魔の咆哮が鳴り響いていた。

 

『グウオォォォォォォォォォォッ!!!!』

 

「……また一つ……命が消え去ったか」

 

 森林の奥深くに隠されているピラミッド型の遺跡の前に立つ背中に赤いマントを羽織り、全身を白く輝く鎧で包み、右手に長大な槍を持ち、左手に丸い形をした盾を持った騎士型デジモン-『デュークモン』-は、森の方から聞こえて来る断末魔の叫びに胸を痛めるように目を閉じながら顔を上げた。

 

デュークモン、世代/究極体、属性/ウィルス種、種族/聖騎士型、必殺技/ロイヤルセーバー、ファイナル・エリシオン

『デジタルワールド』で“四大竜”の一体に数えられる邪竜『メギドラモン』より誕生した聖騎士型デジモン。『デジタルワールド』に於ける最高位の『ロイヤルナイツ』に所属している。ウィルス属性でありながらネットの守護神という矛盾を内包した存在であり、万が一でもバランスが崩れると危険な存在にもなりうる。99.9%の高純度『クロンデジゾイド』を精製して造られた聖鎧を纏い、右手は聖槍『グラム』、左手は聖盾『イージス』を持つ。必殺技は、右手に持つ聖槍『グラム』から繰り出す強烈な一撃『ロイヤルセーバー』と左腕に装着している聖盾『イージス』から全てを浄化するビームを放つ『ファイナル・エリシオン』だ。

 

「……済まない。だが、お前達の覚悟。このデュークモン。仕方と受け止めたぞ」

 

 森から聞こえて来る究極体デジモン達の断末魔に心を痛めながらも、デュークモンは遺跡の前から動く訳には行かなかった。

 全ては覚悟出来ていた事。何時かはこの日が来る事をデュークモンを含めたこの地を護っていたデジモン達全てが理解していた。今更慌てる事は無い。デュークモン自身も死ぬ覚悟は出来ている。

 『デジタルワールド』に於いて『ロイヤルナイツ』と言う最高位の称号を持つデュークモンでさえも、死を覚悟しなければならない脅威が目前に迫って来ているのだ。

 そして森林から聞こえて来ていた叫びは徐々に数を減らして行き、遂に全く聞こえなくなった。

 

(……クレニアムモンが居ない時を狙って来たか……スレイプモンが到着するまでは今しばらく掛かる……だが、絶対に奴らには渡さん! 例えこの身が燃え尽きようとも!!!)

 

 閉じていた目を見開くと共にデュークモンは左腕に装着するイージスを前方に広がる森に向かって構え、己の最大の技を撃ち出す。

 

「ファイナル・エリシオンッ!!!」

 

 デュークモンの咆哮と共にイージスが光り輝き、全てを浄化するビームが放たれた。

 放たれたビームは森を貫き、その先に潜んでいたモノ達を飲み込んだ。ビームは徐々に弱まり、消えた後にはデュークモンの前に広がっていたのは、森の木々が失われ、ビームの後が地面に広がっていた。

 ロイヤルナイツに属するデジモンの最大の必殺技。大抵の敵はその一撃によって完全に消え去る。だが、例外が存在する。そして今、その例外がゆっくりとファイナル・エリシオンが通り過ぎた後が広がる地面を歩いて来ていた。

 デュークモンはその相手が来る事を分かっていた言うように、右手に持つ『グラム』を構える。しかし、身構えるデュークモンに対して歩いて来た相手は逆に余裕さに満ちた顔をしながら声を掛ける。

 

「流石だね、デュークモン。連れて来た『ギズモン』達が今の一撃で殆ど(・・)消えちゃったよ。やれやれ、これは『倉田』に怒られるかな?」

 

「……その私の一撃を無傷で防ぐ貴様は、私以上の化け物であろう…『ルーチェモン』ッ!!」

 

 デュークモンの険しさに満ちた叫びに対して、目の前に立つルーチェモンは微笑みを浮かべた。

 一見すればただの微笑み。だが、デュークモンはまるで死神に自身の命が握られたイメージがハッキリと脳裏に浮かんだ。ルーチェモンは完全に『七大魔王』として覚醒しておらず、大きさもデュークモンの方が圧倒的に大きく、子供と十階建て以上のビルほどの差が在り、相手は成長期の状態だと言うのにデュークモンには自らがルーチェモンに勝利するイメージが全く浮かばなかった。圧倒的と言う言葉では足りないほどの何かをルーチェモンは持っている。

 だが、それが分かっていてもデュークモンには退く気は無い。この地域を護り、ギズモン達の手に寄って消えたデジモン達の為にも、デュークモンはルーチェモンを倒すつもりだった。

 

「…やはり、『ドゥフトモン』の読みどおり、貴様が姿を現したのは此方の戦力を減らす為だったか」

 

「正解だよ。だけど、分かっていても集まらない訳には行かないだろう? 何せ、『七大魔王』デジモンに数えられる僕が不完全ながらも覚醒を果たしているんだからね」

 

「クッ!」

 

 デュークモンは悔しげに呻いた。

 本来ならば、この地は究極体のデジモン達とデュークモンの他にロイヤルナイツの属するクレニアムモンが護っていた。だが、今クレニアムモンは他の『デジタルワールド』の守護者達が集うサミットに参加していてこの場には居ない。ルーチェモンが姿を現したのは、サミットを開かせる為の罠の可能性が高い事は分かっていた。だが、各『デジタルワールド』の今後の方針を決める為にサミットはどうあっても開かねばならなかった。

 もしも足並みが揃わずに勝手に動き出したりすれば、ソレは最悪への引き金になってしまう。無論その事も踏まえて、ロイヤルナイツの指揮者であるドゥフトモンとデュークモンと共にこの地を護っていたクレニアムモンは強力な援軍を呼んでいたが、スレイプモンがその者を連れて来る前にルーチェモンはやって来てしまった。

 

(我らの世界にルーチェモンに同調する者が居ると言うのか? それともオファニモン達が言っていた人間の組織の力を使ったのか? ……いや、今は疑問など考えている時ではないッ!)

 

 幾つかの疑問が脳裏に過ぎるが、デュークモンは全て振り払う。

 余計な考えをしていれば、次の瞬間に自らが敗北するとデュークモンは直感していた。全身全霊で挑まなければ勝ち目すら見えないと感じながら、デュークモンは『グラム』の矛先をルーチェモンに向ける。

 互いの発する威圧感によって空気が圧迫するが、デュークモンとルーチェモンは一切気にせず互いに相手を見つめ続け、デュークモンが神速の速さでルーチェモンに向かって踏み出す。

 

「ロイヤルセーバーーッ!!!!」

 

 デュークモンの踏み込みと突き出した『グラム』によって大地は爆発したように吹き飛び、『デジタルワールド』の守護者であるデュークモンとルーチェモンとの激闘が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 デュークモンとルーチェモンが戦っている地域から遠く離れた上空。

 蒼い空と白い雲を突き破るように超高速で駆ける一つの影が在った。何かを焦っているかのように影はスピードを更に上げる。今だかなりの距離が離れているにも関わらず、デュークモンとルーチェモンとの戦闘が始まっていると感知しているのだ。

 その影の背には誰かが乗っており、その相手も戦闘が始まっているのを感じたのか、焦ったように叫ぶ。

 

「おい! もう始まっているんじゃねぇのか!?」

 

「急がないと不味いんだろう!」

 

「言われずとも分かっている! スピードを更に上げるぞ! しっかり掴まっていろ!!」

 

 叫びと共にスピードは更に上がり、大気が悲鳴を上げる。

 しかし、悲鳴を上げさせている張本人は全く気にも止めていなかった。寧ろ一瞬の内に目的地に辿り着けない自身に苛立ちさえも覚えていた。

 

「無事でいてくれ! デュークモンッ!!」




次回は遂にあの方が登場します。

七大魔王の一体を殴り飛ばしたあのお方が。

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