漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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お久しぶりです。

長らくお待たせしてしまいました。
待っていてくれた方々、申し訳ありませんでした。
漸く完成しました。


暗殺者達の襲撃の終わり

「フフッ、如何した? 抵抗はしないのか?」

 

「クッ……、ち、ちくしょう」

 

 嘲笑するメフィスモンを自らの周りに全方位型の障壁-『パンツァーヒンダネス』-を張る事で、周囲を囲むように漂っている腐食性の雲-『デスクラウド』-から身を護っているヴィータは、悔しげに睨みつけた。

 ヴィータはパンツァーヒンダネスのおかげでデスクラウドに触れる事は無く、腐蝕から逃れる事は出来ていたが、逆に攻撃と移動を完全に放棄する完全防御状態で展開しているのでメフィスモンに対して何も出来なかった。パンツァーヒンダネスの展開を止めれば、デスクラウドに飲み込まれてしまうのは目に見えている、既に纏っているゴスロリ衣装の騎士甲冑では、デスクラウドの腐蝕を防げないのは試したので文字通りヴィータは殻に篭もって身を護る以外に何も出来なかった。

 そして余裕なのか。メフィスモンはヴィータに対して攻撃らしい攻撃は行なわず、ただ嘲笑をヴィータに放ち続けていた。

 

「このまま時間が経てば経つほどに仲間の命は消えて行く。悔しかろう? 何も出来ない自分に怒りを覚えるだろう? そして絶望感に包まれて行く。さぁ、ソレを解いて私に攻撃してみろ? 最も解いた瞬間に貴様は……フフッ」

 

「て、テメエ!?」

 

「しかし、時間を稼ぐにしてもこう変化が無いのは飽きて来る。そろそろ終わりにして、腐蝕した貴様の死体でも貴様の仲間達に見せてやろう」

 

(良し! 来い!)

 

 近づいて来るメフィスモンに、ヴィータは強く右手に持つグラーフアイゼンを握り締めた。

 完全防御状態のパンツァーヒンダネスはそう簡単に破れはしない。一箇所に集中攻撃でもされれば別だが、デスクラウドはそう言う類の攻撃が出来ないタイプだとヴィータは見抜いていた。他に攻撃らしい攻撃もメフィスモンは行なって来ていない事から、接近戦で攻撃して来るのは間違いない。

 その時にグラーフアイゼンを叩き込むとヴィータは決めながら、メフィスモンがパンツァーヒンダネスに向かって拳を振り被るのを見つめる。

 

「ムン!!」

 

(今だ!!)

 

 拳を振り抜くメフィスモンを目にしたヴィータは、パンツァーヒンダネスを解除しようとする。

 しかし、解除する直前、突然メフィスモンはパンツァーヒンダネスに触れる直前で拳を止め、背中の翼をはためかせて後方に飛び、黒い稲妻が発生している左手をヴィータに向ける。

 

「あぁ、言い忘れていたが私は接近戦ではなく、暗黒系黒魔術を使う遠距離戦が得意なのだよ。その程度の障壁、何時でも破れる攻撃は放てた。さらばだ」

 

「ッ!?」

 

 言葉と共にメフィスモンの左手から黒い稲妻が放たれ、ヴィータに向かって突き進む。

 その威力がパンツァーヒンダネスを破壊出来るとヴィータは悟り、何も出来ない事実に悔しげに顔を歪めた瞬間、突然黒い稲妻とヴィータの間で空間の歪みが発生する。

 

「何ッ!?」

 

 発生した空間の歪みに寄って黒い稲妻は防がれた。

 メフィスモンは自らが放った稲妻が防がれた事実に、慌てて周りを見回す。しかし、見回す前にメフィスモンの背後から声が響く。

 

「ヘブンズチャーーム!!」

 

「ガアァァァァァァァァァッ!!!」

 

 デスクラウドを突き破りながら光線がメフィスモンの背中に直撃し、その威力に悲鳴を上げた。

 普通の魔導師が放つような砲撃が直撃したならば、完全体のメフィスモンにはダメージが少ない。だが、直撃したヘブンズチャームはメフィスモンの弱点で在る技。その威力にメフィスモンは思わず前に進んでしまい、ヴィータの攻撃範囲に足を踏み入れてしまう。

 

「アイゼン!! カートリッジロード!!」

 

Explosion(エクスプロズィオーン)!》

 

「しまっ!?」

 

 パンツァーヒンダネスを解除すると共に、ラケーテンフォルムへと変形させたグラーフアイゼンを振り被るヴィータに気がついたメフィスモンは慌てて体からデスクラウドを発生させようとする。

 だが、発生する前にバリアジャケットを腐蝕させながらもヴィータは、渾身の一撃をメフィスモンに叩き込まれる。

 

「ラケーテン! ハンマーーー!!!」

 

ーーードゴォォォォォォン!!

 

「グアハッ!!」

 

 ヴィータが振るったラケーテンハンマーはメフィスモンの腹部に突き刺さった。

 更にヴィータはラケーテンハンマーを突き刺したまま勢い良く体を動かし、メフィスモンを背後の壁に向かって吹き飛ばす。

 

「オリャアァァァァァァァーーーー!!!」

 

ーーードゴォォォン!!

 

 メフィスモンは叫ぶ事も出来ずに壁を突き破り、外へと吹き飛んで行った。

 同時に空気の流れに変化が発生し、階段付近に発生していたデスクラウドが外に流れて行く。自らに向かって流れて来るデスクラウドにヴィータは気がつくが、何かをする前にデスクラウドの向こう側から声が響く。

 

「伏せなさい!」

 

「ッ!!」

 

 聞こえて来た指示にヴィータは迷う事無く従い、床に伏せると同時に翡翠色に輝く障壁が発生し、デスクラウドからヴィータを護る。

 徐々にデスクラウドは外に流れて行き、階段付近に発生していたデスクラウドが薄れて行く。ヴィータを護っていた翡翠色の障壁も消失し、ヴィータが顔を上げると、リンディが壁に開いた穴を睨みながら横に立っていた。

 リンディが横に立っている事に全く気がつく事が出来なかったヴィータは目を見開くが、リンディは構わずに険しい瞳を壁に開いた穴の向こう側に向け続けていた。

 

「……やっぱり、“非殺傷設定”の魔法攻撃では倒し切れないようね」

 

「そう言う事だ」

 

「お前ッ!?」

 

 ヴィータが壁に穴に目を向けると同時に、腹部を右手で押さえながら穴の淵に左手をやりながらメフィスモンが姿を見せた。

 しかし、メフィスモンはヴィータには目を向けず、リンディだけを殺意に満ちた目で睨んでいた。

 

「……貴様…“一体何だ”? 先ほど私に食らわせた攻撃は…『エンジェウーモン』の技だぞ? その上、発している気配と良い……まさか!? 貴様は『バイオデジモン』か!?」

 

(エンジェウーモン? 『バイオデジモン』? 何の事だそりゃ?)

 

 意味が分からない言葉を発しながら狼狽するメフィスモンをヴィータは見つめるが、リンディは構わずにメフィスモンに足を一歩進める。

 

「どうやら洗脳されているデジモンでは無い見たいね。丁度良かったわ。『倉田』と『ルーチェモン』に繋がっている情報を見つけたかったのよ。話して貰うわ」

 

「貴様!? 寄りにも寄ってルーチェモン様を呼び捨てに!!」

 

 自らの真の主を呼び捨てにしたリンディにメフィスモンは怒りを顕にした。

 逆にリンディは口元を笑みで歪め、メフィスモンは自らのミスを悟り苦虫を噛み潰した顔をする。

 目の前に居るリンディこそがデジタルワールドの協力者。前回のスカリエッティの研究所での件で、自分達に繋がる情報を殆ど抹消出来たと言うのに、その相手に情報を与えるような事を言ってしまった。

 

(不味い! こ、このようなミスがルーチェモン様に知られたら、私は消されてしまう!!)

 

 ルーチェモンは自らの部下のミスを絶対に赦さない。

 もしも情報を与えたと知られてしまえば、メフィスモンの命などそこいらの小枝をへし折るように簡単に消すのがルーチェモンなのだ。

 此処でリンディとヴィータを消して自らのミスを消す方法も在るが、それには背中のダメージが大き過ぎた。

 

(クッ! 弱点の攻撃を完全に食らってしまった! ダメージは深い……小娘の攻撃の方のダメージは酷くはないが、この得体の知れない女は危険だ!)

 

 ただの砲撃魔法の類だったならば夜と言う事も在ってダメージは其処まで深くは無いが、リンディが放った『ヘブンズチャーム』はメフィスモンの弱点である技。それをまともに受けたのでかなりのダメージを負ってしまった。

 得体が知れず、その上自らの弱点である攻撃を放てるリンディにメフィスモンはどうするべきかと考える。その考えを遮るように突然病院全体が揺れるような衝撃と、何かが着地するような重たい音が響く。

 

「ッ!? 今の揺れは!?」

 

(この揺れは……クッ! どうやらこの女以外にも標的の援軍が来ているようだ。それに今の音で人間どもが騒ぎ出す。此処は退くしかないか!)

 

 メフィスモンは瞬時に状況を把握し、撤退を決意した。

 標的を護るのが情報どおりのメンバーだけだったならば問題は無かった。だが、得体の知れないリンディだけではなく、他にも援軍が来ているとなれば話は変わる。今はまだ人目がつくような派手な暴れ方をするのだけはルーチェモンから赦されていない。だからこそ、メフィスモンはデスクラウドを広範囲に展開しなかったのだ。

 メフィスモンは壁から手を離すと共に外へと飛び出し、背の翼を大きく広げる。

 

「悪いが退かせて貰うぞ!」

 

「待ちやがれ!!」

 

 夜の空に飛び上がって行くメフィスモンを追いかけようと、ヴィータは飛び出そうとする。

 だが、ヴィータが外に飛び出す前にバリアジャケットの襟首をリンディが掴み、無理やり引き止める。

 

「ウワッ!」

 

「追いかけるのは駄目よ。これ以上追い込んだら、周りの被害が増えて大変な事になるわ」

 

 メフィスモンが本気になれば、今居る病院だけではなく、クラナガンと言う都市全体にデスクラウドを発生させる事が出来る。

 そうなれば被害は甚大ではない済まない。だからこそ、リンディはダメージを負っているメフィスモンを追わないのだ。

 

(間違い無く、あのデジモンは上位級の完全体。ダメージを負っているとは言え、夜で力が上がっている上に、その気になれば広範囲攻撃型のデジモンである事を考えれば倒せたとしても周りの被害は甚大になってしまう。悔しいけど此処は見逃すしかないわね)

 

 この場においてメフィスモンを誰よりも仕留めたかったのかは、ヴィータではなくリンディだった。

 広範囲攻撃型の必殺技を持つ強力なデジモンがルーチェモン達側に居るだけで、それは脅威以外の何ものでもない。今回は抑えていたが、次に会った時は確実にメフィスモンも本気で掛かって来る。

 それまでに更に実力を上げなければと決意をリンディは固めながら、ヴィータに諭すように話し掛ける。

 

「急いでなのはさん達の方に向かいましょう。多分、あっちは不利になっても退かない可能性が高いわ」

 

「…あぁ、分かった」

 

 リンディの言葉にヴィータは納得し、二人はメフィスモンが飛び出した壁の穴から外へと出てなのは達の方に急いで向かうのだった。

 

 

 

 

 

 その場に居合わせた殆どの者が驚愕によって固まっていた。

 病院の屋上から落下していたなのは、美由希、アルフの落下を防ぐように現れた全長五メートルほどの大きさを持った巨大な銀色の狼-『ガルルモン』。その現れ方も見ていた者には不自然にしか見えなかった。

 しかし、進化を終えて轟音と共に地面へと降り立ったガルルモンは、自らに向ける奇異な視線になど構わずに自身の背に乗っている三人に声を掛ける。

 

「大丈夫かい?」

 

「…はっ! はい!」

 

「た、助かったけど、アンタ一体?」

 

 ガルルモンの姿に呆けていた美由希、アルフは疑問を抱きながらも答えた。

 アルフの質問にどう答えれば良いのかとガルルモンは悩むが、静かにガルルモンを見つめていたなのはが口を開く。

 

「…も、もしかして…あの時に私を助けてくれた狼さんなの?」

 

「うん。そうだよ。無事で良かった……でも、今は!!」

 

 ガルルモンはなのはに優しげな視線を向けていたが、すぐさま瞳を険しく細めて上空で自らを見下ろしながら睨んでいるバイオ・レディーデビモンに目を向けた。

 バイオ・レディーデビモンは静かにガルルモンを見つめていたが、ゆっくりと右手を自らの傷跡が残っている頬に当てる。

 

「……フフフッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

 

 突如としてバイオ・レディーデビモンは哄笑を上げて、なのは、美由希、アルフ、そして離れた場所で新たに現れたバケモン達の相手をしていたフェイトとザフィーラは思わず体を震わせた。

 バイオ・レディーデビモンが上げた哄笑には、暗く、底が知れないほどの憎悪が篭もっていた。その哄笑を向けられている張本人であるガルルモンは顔を険しげに歪めながら警戒心を強める。以前戦った場所とは違い、今のガルルモンは土地の恩恵を受けていない。逆にバイオ・レディーデビモンの方は夜と言う時間帯ゆえに力が増している。前回とは逆になっている条件に、ガルルモンは危機感を強めていた。

 加えて言えば前回の時と今のバイオ・レディーデビモンが放っている雰囲気が明らかに違う。

 

(あの時に倒し切れなかったのは失敗だったかも知れない。今度は油断も無く、確実に僕を殺しに来る)

 

 そうガルルモンが内心で考えていると、哄笑を上げていたバイオ・レディーデビモンは笑うの止めて、憎悪に満ちた視線をガルルモンに向けた。

 なのは、アルフ、美由希は自分達に向けられて居る訳でもない関わらず、バイオ・レディーデビモンから感じられる憎悪に更に体を震わせるが、もはやバイオ・レディーデビモンは三人の事など気にせずに口を開く。

 

「フフフッ、会いたかったですわよ、ガルルモン。この私に傷跡を刻んでくれたお礼…その体に存分に味合わせて上げますわ!!」

 

「悪いけど、僕はお前の相手をする気は無い。こっちは怪我人を抱えているんだから」

 

「関係在りませんわね。こっちからすれば早く貴方を殺したくて堪らないのですから!」

 

ーーーバサッ!

 

「クッ!!」

 

 背中の翼を広げ、右手を黒い槍-『ダークネス・スピア』-に変化させたバイオ・レディーデビモンに、ガルルモンは背に乗っている三人に揺れを出来るだけ感じさせないようにしながら体を動かそうとする。

 だが、ガルルモンが動き出す前にバイオ・レディーデビモンの翼を大きく広げる。

 

「ダークネス…」

 

「させない!!」

 

 バイオ・レディーデビモンの行動を遮るように、バケモン達の包囲から抜けたフェイトがバルディッシュを振るう。

 しかし、バルディッシュの金色の刃が届く前にバイオ・レディーデビモンはダークネス・スピアを動かして防ぐ。

 

「邪魔ですわ!!」

 

「クッ!!」

 

 バイオ・レディーデビモンは防ぐと共に全力で振り抜き、フェイトを弾き飛ばした。

 あっさり力負けした事実にフェイトは内心で驚きながらも体勢を立て直し、自らの周りに魔法陣を発生させる。

 

「プラズマランサーー!! ファイアッ!」

 

 号令と共にプラズマランサーが複数射出され、バイオ・レディーデビモンに向かって突き進む。

 だが、バイオ・レディーデビモンは余裕の笑みを浮かべると同時に両翼を大きく広げながら叫ぶ。

 

「ダークネスウェーーブ!!」

 

「ッ!?」

 

 叫び声と共に両翼から数え切れないほどの蝙蝠が飛び出し、プラズマランサーを飲み込んでフェイトに向かって進む。

 

「クッ!」

 

Blitz(ブリッツ) Action(アクション)

 

 音声が響くと同時に瞬間的にフェイトの移動速度は増し、ダークネスウェーブを上空に移動する事で躱した。

 そのままフェイトは再び高速移動魔法を使用してバイオ・レディーデビモンに攻撃を仕掛けようとするが、その前にバイオ・レディーデビモンが口元に笑みを浮かべている事に気がつく。同時に一方向に向かって進んでいたダークネスウェーブがバラバラに散らばり、空中に溶けるように消え去る

 

「これは!?」

 

「フフッ、貴女の情報を既に知っておりますのよ。高速機動を得意とする魔導師。ですけど、周囲に強力な爆発物が在って高速移動出来ますかしら? そしてソレが見えなくなったりしたら、対処出来るのでしょうか?」

 

「ッ!?」

 

 告げられた事実にフェイトは周囲を見回して消えたダークネスウェーブを構成していた蝙蝠の大群を探すが、全く視界には捉えられなかった。

 バルディッシュに索敵を頼むも、バルディッシュも何も発見出来ないと言う報告をするしか無く、フェイトは迂闊に動く事が出来なくなってしまった。それは地上に居てなのは達を安全な場所に運ぼうとしていたガルルモンも同様だった。

 バイオ・レディーデビモンがこの場で最も憎んでいるのはガルルモン。逃がさない為に自身の周りにもダークネスウェーブを移動させている可能性が高い。フェイトだけではなく、自身の動きを封じる一手を打ったバイオ・レディーデビモンにガルルモンは危機感を募らせる。

 

(不味い! これじゃ僕も迂闊に動けない! かと言って、ダークネスウェーブを破壊する為にフォックスファイヤーを放ったら、あの子も巻き込んでしまう!)

 

 ダークネスウェーブを構成している蝙蝠一匹だけでもそれなりの威力が在る。

 その強力な爆発物が空中に無数に存在し、しかも視覚的に捉えられない。気配で場所を察知しようにも、辺りに同じ気配が在るので察知し切れない。デジモンとしての能力と自らが持っているISとしての力『シルバーカーテン』を完全にバイオ・レディーデビモンは操っていた。

 以前よりも実力が上がっているバイオ・レディーデビモンに戦慄を覚えながら、ガルルモンは自身と同じように移動も攻撃も封じられているフェイトに顔を向け、次にバイオ・レディーデビモンに目を向けて見開く。

 

「オオォォォォォッ!」

 

 バイオ・レディーデビモンの背後からバケモン達を気絶させ終えたザフィーラが飛び掛かり、拳を振り下ろそうとしていた。

 

「駄目だ! それは幻影だ!」

 

「何ッ!?」

 

 ガルルモンの叫びに慌ててザフィーラは拳を止めようとするが、拳は止まる事無くバイオ・レディーデビモンの体をすり抜け、幻影の中に隠されていた蝙蝠に拳は当たり爆発する。

 

「グアアアァァァッ!」

 

「ザフィーラ!?」

 

 爆発を食らい、苦痛の叫びを上げて落下して行くザフィーラを目にしたフェイトは助ける為に移動しようとする。

 だが、フェイトが移動する前に背後の空間にバイオ・レディーデビモンが音も無く現れ、ダークネススピアを突き刺そうとする。フェイトはそれにギリギリのところで気がつき、バルディッシュで防ごうとするが、再びガルルモンの警告が飛ぶ。

 

「それも幻影だ! 避けて!!」

 

「ッ!? クッ!」

 

 ガルルモンの警告にフェイトは慌ててバルディッシュを止めて、横に体を動かす事でバイオ・レディーデビモンから離れた。

 離れると同時にバイオ・レディーデビモンの姿は消え去り、何処からとも無く忌々しげに憎しみに染まったバイオ・レディーデビモンの声が響く。

 

『忌々しいですわね。私の力は高性能センサーでさえも騙せると言うのに、それを察する事が出来るなんて! 本当に忌々しい狼ですわ! 貴方は!?』

 

「…もしかして、あのバイオ・レディーデビモンって人の場所が分かるの?」

 

「……確かに分かるけど、止まる事無く移動し続けていて、ハッキリとした場所は分からないんだ」

 

 なのはの質問にガルルモンは苦々しげな声で答えた。

 この前の戦いの時と違い、バイオ・レディーデビモンは止まる事無く移動し続けている。前回の時は余裕の表れで空中に止まっていたので攻撃する事が出来たが、今回はその点を反省しているのか、常に移動し続けているので正確に場所を捉える事が出来ない。

 攻撃もダークネスウェーブによって封じられてしまっている。ガルルモンと同じように気配で相手の居場所を察知出来るシュリモンも居るが、常に移動しているバイオ・レディーデビモンに攻撃を当てられる保証は無い。その上、ガルルモン同様に空を飛ぶ事が出来ない。

 以前とは違い、油断も無く自らの能力を使いこなしているバイオ・レディーデビモンは間違い無く強敵となっていた。

 

(……勝つ方法は一つだけ在る。だけど、その為には彼女とあの人の力…そしてもう一つ!)

 

 周囲を警戒しているフェイト、地上に落下して焼け爛れている右腕を左手で握っているザフィーラ、そして屋上に居るシュリモン、そして上空でバイオ・レディーデビモンの隙を窺っているモノにガルルモンは僅かに視線を向ける。

 バイオ・レディーデビモンがこの場で唯一気がつかず、尚且つフリートの話ではデジモンに対して友好的な攻撃が放てる筈。その全ての力を集約すれば、バイオ・レディーデビモンを倒せなくとも退かせるまで追い込む事が出来る策が一つだけ在る。

 

(だけど、それを伝える手段が僕には無い。声を出して告げれば相手に知られてしまう……どうすれば!?)

 

「…あ、アンタ…何か策はないのかい?」

 

「えっ?」

 

 聞こえて来た声にガルルモンが目を向けて見ると、治療系の魔法でも使ったのか、僅かに顔色が良くなっているアルフがガルルモンを見つめていた。

 

「アンタやさっき屋上であたしらを助けてくれた奴が何者か知らないけど……なのはを狙っている連中の事は知っているんだろう? だったら、何かあいつらを倒す方法は無いのかい?」

 

「……在る」

 

『ッ!?』

 

「だけど、それを上空に居る女の子に知らせる手段が僕には無いんだ。声を出したら敵に知られてしまう。そうなったら、もう僕達に勝てる可能性が無くなってしまう」

 

「…声を出さずに伝えれば良いんだよね? だったら方法は在るよ」

 

「えっ? 本当かい?」

 

 アルフの言葉にガルルモンが問い返すと、アルフだけではなくなのはも頷いた。

 その方法をなのはとアルフはガルルモンの耳に小声で告げ、ガルルモンは頷くと共に周囲に冷気が発生してガルルモンを取り囲むように氷の壁が発生する。

 

「アイスウォーール!!!」

 

 発生した氷の壁はガルルモンの四方に盾のように発生した。

 バイオ・レディーデビモンはガルルモンが何かを仕掛けようとしている事に気がつく。前回の時もガルルモンは奇抜な発想で窮地を乗り越えた。今回も何か仕掛けると瞬時に察し、ガルルモンの周囲に滞空させていたダークネスウェーブをアイスウォールにぶつける。

 

『させませんわ!!』

 

 アイスウォールにぶつかったダークネスウェーブは爆発を引き起こした。

 爆発に寄ってアイスウォールは砕け散り、周囲に煙が漂う。バイオ・レディーデビモンは姿を隠しながら、煙が届かない上空まで移動する。突発的な変化が発生した場合、隠すような幻影はそれについては行けない。自らの位置だけは絶対にばれる訳には行かないと、前回の経験から学んでいる。

 その為に姿を隠してからは移動し続けていた。最もフェイト達以外のガルルモンやシュリモンは地上型のデジモンなので、前回の時の様な出来事でも無ければ上空まで攻撃は届かない。シュリモンが居る屋上までの距離も充分に取っているので攻撃が届く事は無い。

 フェイト達には姿を隠したバイオ・レディーデビモンを発見する事は出来ない。煙が晴れると同時に今度こそ止めを刺すとバイオ・レディーデビモンは決め、自らの最大の必殺技を放つ為に力を集める。

 

(此れで私の勝ちですわ! 標的ごと消え去りなさい!)

 

 そう、バイオ・レディーデビモンは自らの勝利を確信し、煙の中に浮かぶガルルモンの影に向かって口を大きく開く。

 

「プワゾ…」

 

《この時を待っていました。Accel(アクセル) Shooter(シューター)!!》

 

「ッ!?」

 

 頭上から聞こえて来た電子音声とは思えないほどに済んだ音声にバイオ・レディーデビモンは慌てて顔を挙げ、自らに向かって迫る桜色の十数発の魔力弾に気がつく。

 必殺技を放とうとしたタイミングでの攻撃の為に避ける事は出来ず、自らの両翼で体を包み防御姿勢を取る。それでバイオ・レディーデビモンは魔力弾を防げると思っていた。僅かにダメージを受けるだろうが、魔力弾では甚大なダメージは受けないと確信していた。

 だが、その確信は両翼に魔力弾が直撃すると同時に感じた激痛によって間違いだったと気がつく。

 

「ッ!? キャアァァァァァァァァァァァーーーーー!!!!」

 

 在り得ない出来事にバイオ・レディーデビモンは両翼から感じる激痛に苦しみ、混乱しながらも少しでもダメージを避けようと下降する。

 

(ど、どう言う事ですの!? わ、私が防いだのは確かにただの(・・・)魔力弾の筈!? それなのにこの痛みは一体!?)

 

 己の大ダメージを与えた相手の正体を探ろうと、バイオ・レディーデビモンは視線を音声が響いた方に目を向けて発見する。

 月の光を反射して金色のブレードエッジと共に輝く赤い宝玉が中央に備わっているデバイスらしきモノを。何処か見覚えが在るデバイスらしきモノにバイオ・レディーデビモンの意識が向いてしまう。

 その隙を逃さないと言うように、地上で機会を窺っていたザフィーラが力強い声を発しながら左腕を地面に叩きつける。

 

「縛れ!! (はがね)(くびき)ッ!!」

 

 ザフィーラの声に応じるように地面から拘束条が飛び出し、バイオ・レディーデビモンに向かって突き進む。

 拘束条が伸びると共に幻影によって隠されていたダークネスウェーブに当たり、次々と爆発が起こる。しかし、ザフィーラが全力で魔力を注ぎ込んだ拘束条は爆発によって砕ける事無く突き進み、バイオ・レディーデビモンの両翼に突き刺さる。

 

「こ、これは!?」

 

 自らの両翼に音を立てながら突き刺さった拘束条にバイオ・レディーデビモンは気がつき、慌てて逃れようとする。

 だが、バイオ・レディーデビモンが拘束条から逃れる前に、拘束条をツタって高速で移動して来たフェイトがザンバーフォームにバルディッシュを変形させながら叫ぶ。

 

Zamber(ザンバー) form(フォーム)

 

「撃ち抜け、雷神!」

 

Jet(ジェット) Zamber(ザンバー)

 

 フェイトが放ったジェットザンバーは寸分違わずにバイオ・レディーデビモンに轟音を発しながら直撃した。

 直撃を受けたバイオ・レディーデビモンは吹き飛び、更なる追撃と捕縛の為にフェイトは追いかけようとする。だが、フェイトが追いかける直前、バイオ・レディーデビモンとフェイトの間に黒い雲が発生した。

 

「それに近寄っちゃ駄目だ!!」

 

「ッ!?」

 

 ガルルモンの警告に慌ててフェイトは黒い雲から離れる。

 黒い雲は意思を持つかのように留まり、発生した時同様に突然に消え去る。消え去った後にはバイオ・レディーデビモンの姿は無く、黒い雲を発生した主の姿だけではなく、ザフィーラが気絶させた筈のバケモン達の姿も無くなっていた。

 逃げられた事実にフェイトは悔しげに唇を噛むが、すぐさま振り返り、ガルルモンの背からアルフの手を借りて降りるなのはの下に向かう。

 

「なのは!? 大丈夫!」

 

「フェイトちゃん! うん! 大丈夫だよ」

 

「…良かった」

 

 無事ななのはの姿にフェイトは安堵の息を吐き、次に気絶している美由希を背負ってガルルモンの背から降りて来るアルフに顔を向ける。

 

「アルフ。美由希さんは如何したの?」

 

「いや、ソレがあたしにも分からないんだよ。連中の仲間から変な攻撃を受けて弱っていたんだけど…今は顔色も戻っているし、呼吸も落ち着いているみたいだね」

 

「……多分技を放ったバケモンが倒されたから助かったんだよ」

 

「ッ!?」

 

 口を開いたガルルモンにフェイトは警戒するようにバルディッシュを構える。

 幾らなのは、アルフ、美由希を助けてくれたとは言え、ガルルモンもまたフェイトにとっては得体の知れない生物。なのはを護るようにフェイトはガルルモンを警戒するが、ガルルモンは戦う気は無いと言うように後方に下がり、デジコードを発生させてガブモンに退化する。

 いきなり姿が変わったガブモンにフェイトだけではなく、なのはとアルフは面を食らう。ガブモンはその三人の姿に苦笑を浮かべ、話し掛けようとするが、その前になのはの背後から電子音声が響く。

 

《……マスター》

 

「えっ!?」

 

 聞こえて来た音声になのはが振り向いてみると、バイオ・レディーデビモンにダメージを負わせた『デジバイス』が宙に浮いていた。

 なのははジッと『デジバイス』を見つめ、何かに気がついたように目を開き、恐る恐る『デジバイス』に問いかける」

 

「……もしかして……『レイジングハート』なの?」

 

《はい。姿形は大きく変わりましたが……貴女のデバイス。『レイジングハート』。ただいま帰還しました》

 

「……うぅっ!」

 

 失ったと思っていた自らの相棒で在る『レイジングハート』の帰還に、なのはは両目から涙を溢し、『レイジングハート』に手を伸ばそうとする。

 

「『レイジングハート』!!」

 

《マスターーー!!!》

 

「……はい、其処までよ」

 

 カチッと何かのスイッチを押すような音が響く。

 同時に輝いていたレイジングハートの宝玉の光が消え、形態も嘗ての『レイジングハート・エクセリオン』の待機モードに変形して地面に落下する。

 突然の事態になのは、フェイト、アルフが固まっていると、なのはの目の前に落ちている待機モードになっている『レイジングハート』をリンディが拾い上げる。

 

「回収完了。これで此処での用は終わったわ。行きましょう、ガブモン君。もうシュリモン君はイガモン君と合流しているらしいから、私達も急いで合流しましょう」

 

「は、はい!」

 

 リンディの呼びかけに慌ててガブモンは駆け寄る。

 自身の横にガブモンが来るのをリンディは確認すると、今だ突然の事態に固まっているなのは達に顔を向ける。

 

「なのはさん。悪いけど、暫らくの間、このデバイスは預からせて貰うわ。後で必ず返すから」

 

「え、あ、あの……どうしてですか? それにどうしてリンディさんが此処に? その狼さんは一体?」

 

「色々と疑問は在るでしょうけど、今は答えられないわ。次に会った時に話せる事だけは話すから…それじゃあね」

 

 リンディは別れの言葉を告げると共にガブモンを抱え、空へと飛び立った。

 残されたなのは達は次から次に起きた出来事の処理が追いつかず、ザフィーラを支えたヴィータが声を掛けるまでリンディがガブモンと共に飛び立った方向を見つめるのだった。




読んでくれた方々、更新が遅れて申し訳ありませんでした。

中々納得出来る話が書けず、こんなにも時間が掛かってしまいました。

次回は今回の事後処理、そしてとあるデジタルワールドでの出来事を書く予定です。
ブラック復活は暫らく時間が掛かります。

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