漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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長らくお待たせしました。

漸く完成しましたので投稿します。待っていた皆様申し訳ありませんでした


夜の激闘

 暗い病院内の廊下。

 黒い煙のようなモノが噴き出した病室内から逃げ出した美由希、アルフ、ヴィータ、そして美由希の背に背負われているなのはは、屋上を目指して廊下を走っていた。

 そして階段へと辿り着き、なのはを背負って走る美由希を先頭にヴィータとアルフが背後を護る形で三人は屋上へと登って行く。前からの奇襲も心配だが、それよりもヴィータとアルフは触れた物を腐食させる黒い煙のようなモノの方が心配だった。

 

「おい! 追って来てるか!?」

 

「暗くて分かんないけど…あの嫌な匂いは漂って来るよ」

 

 自らの鼻を手で押さえながらアルフはヴィータの質問に答えた。

 狼を素体とする使い魔であるアルフの嗅覚は、黒い煙のようなモノから漂って来る腐臭を嗅ぎ取っていた。そして着かず離れず、一定の距離を取っている事にも気がついていた。まるで自分達の動きを把握しようとしているのか、またはあざ笑うかのように腐臭はアルフ達を追って来ている。

 その報告にヴィータは苦虫を噛み潰したような顔をする。黒い煙を操る者は、少なくとも碌な相手では無い事を悟ったのだ。とにかく今は病院から脱出しようと三人は急ぐ。

 美由希はともかく、ヴィータとアルフは屋内での戦闘では全力を発揮出来ない為に外に出るのはどうしても必要な事だった。

 そして美由希が階段を駆け上って行くと、前方に階段をゆっくりと上っているナースが居た。

 

「ッ!? 貴女達! もう消灯時間なんですよ! それなのに出歩いているばかりか、騒いで!! それに其処の患者は絶対安静の筈ですが!」

 

 美由希達を見つけたナースは、三人の行動を注意しようと近づいて来た。

 相手側の言い分が分かる美由希達は事情を説明しようとする。だが、その前にアルフの表情が焦りに満ち溢れて叫ぶ。

 

「伏せるんだよ!!」

 

『クッ!!』

 

「キャッ!」

 

 アルフの指示に美由希は背中に背負っていたなのはを抱え込むように伏せ、ヴィータは目の前に居るナースを押し倒した。

 同時にアルフも伏せると、凄い勢いで階段下から黒い煙の塊が昇って来てアルフ達の頭上を通過する。幸いにも黒い煙はアルフ達に触れる事が無かったので、病室で起きた腐食現象は起きなかった。

 ヴィータは警戒しながら顔を上げてみると、黒い煙の塊は屋上への道を塞ぐように宙に停滞していた。

 そしてヴィータ達が警戒心を強めていると、黒い煙の塊の中から声が響く。

 

「フフッ、何時までも逃げ続けられると思っているのか?」

 

「テメエ…何もんだ!? 何でなのはを狙いやがる!!」

 

「ほう…貴様がそれを言うか?」

 

「何だって?」

 

「貴様と其処の娘が何をしたのか忘れたのか? 貴様ら二人は我らの仲間の安住の地を襲った事を?」

 

「…まさか…テメエ! ブルーメラモン達の仲間か!?」

 

「その通りだ!」

 

 ヴィータの叫びに答えると共に黒い煙の塊が消え去り、中に隠れていたメフィスモンが姿を現した。

 初めて見るメフィスモンの姿に美由希、アルフは驚愕と困惑に満ち溢れた顔をする、ヴィータとなのはも内心では動揺を覚えていたが、ブルーメラモン達と出会った事が在ったので美由希やアルフほどでは無かった。

 ゆっくりとメフィスモンは右手を自らの顔に当てて嘆くように声を出す。

 

「貴様らとて分かるだろう? 帰るべき場所が奪われる苦しみと悲しみが? 管理局と言う組織は我々を多くの異世界の地に放逐した。そして今度は漸く得られた安住の地まで失ったのだ。復讐する理由として充分であろう? 幸いにも貴様らの情報を提供し、こうして此処まで運んでくれた者達もいたのでな」

 

「クッ!」

 

 嘲るようなメフィスモンの声音にヴィータは唇を噛みながら、グラーフアイゼンを構える。

 

「…此処はあたしに任せて逃げろ」

 

「ヴィータ!? 何を言ってるんだい!?」

 

「コイツの言っている事がほんとかどうか分かんねぇけど・・・・実力だけは間違いなく、あたしが負けたブルーメラモンと同等か、それ以上だ」

 

『ッ!?』

 

 ヴィータの発言にアルフ、美由希、なのはは驚愕した。

 しかし、驚愕しているアルフ達に構わずにヴィータはグラーフアイゼンの柄を強く握り、左手に鉄球を出現させて握る。

 

(コイツ…ただ立っているだけなのに隙が見えねぇ。屋内で何処までやれる?)

 

 この場に居る誰よりも戦いに関する経験を持っているヴィータは、メフィスモンの動きを一切見逃さないと言うように睨み付ける。

 その気迫の篭もったヴィータの瞳をメフィスモンは楽しげに眺める。希望や友情など輝く感情をメフィスモンは好む。そう言う強い感情を持ったモノを汚し、破滅に追いやる事こそがメフィスモンの一番の喜びだった。

 そしてヴィータを獲物として認めたメフィスモンはゆっくりと右手を動かす。その動きに対してヴィータは先手必勝と言うように、左手に持っていた大型の鉄球をアイゼンで放つ。

 

「グラーフアイゼン!!」

 

Schwalbefliegen(シュワルベフリーゲン)ッ!!》

 

ーーードォン!!

 

「デスクラウド」

 

 ヴィータが撃ち出したシュワルベフリーゲンに対して、メフィスモンが低い声で呟くと共に右手の先に先ほど病室でヴィータ達に襲い掛かった黒い煙のようなモノが発生した。

 しかし、今度発生したのは黒い煙ではなく、まるでモクモクとその場に停滞するように黒い塊の形をし、シュワルベフリーゲンは黒い塊の中に飲み込まれる。同時に黒い塊の中で腐食音が鳴り響く。

 

ーーージュゥゥゥゥゥッ!!

 

ーーーガシッ!

 

「戦いの始まりにしては、随分と味気ない攻撃だと思うのだが?」

 

 そう呟くメフィスモンの右手には、もはや原型が全く分からないほどに腐食し切った鉄球の成れの果てが握られていた。

 ヴィータはその鉄球の変わり果てた姿に、メフィスモンと自らの相性はブルーメラモン同様に最悪だと悟った。距離を離しての攻撃にしても、ヴィータはアームドデバイスであるグラーフアイゼンを直接相手に叩き込む戦いを主としている。なのはやフェイトのように魔力弾を用いた攻撃は苦手なのだ。まだブルーメラモンと違って、攻撃さえ直接体に当たればダメージが通るメフィスモンはマシなのかもしれないが、それが難しい相手だともヴィータは理解している。

 

(アルフ…此処はあたしが何とか時間を稼ぐ。その間になのはと美由希を避難させて、フェイトにこっちに来るように伝えてくれ)

 

(…大丈夫なのかい? ヴィータ? アイツかなり強いんだろう? あたしも一緒に戦った方が良いんじゃ?)

 

(拳で戦うお前じゃ、あたしよりキツイ。もしも腕に腐食が及んだら…最悪の場合、捨てる(・・・)以外に方法がねぇぞ)

 

 ヴィータよりは放出系の魔法を使えるとは言え、基本的なアルフの戦闘スタイルはザフィーラ同様に高い身体能力を活かした近接戦を得意としている。

 もしもアルフがメフィスモンと戦えば、腐食の効果を持っている黒い煙に触れて拳が腐食してしまう。そうなればアルフの命は無い。ヴィータも接近戦を主体にしているが、アルフの拳と違ってアームドデバイスであるグラーフアイゼンならばリカバリーする事が出来る。倒せないまでも時間を稼ぐ事は出来るのだ。

 その事を理解したアルフは苦虫を噛み潰したような顔をしながらも頷き、ヴィータも頷き返す。

 

「行くぜ! アイゼン!!」

 

Schwalbefliegen(シュワルベフリーゲン)ッ!!》

 

 ヴィータの叫びに答えるようにグラーフアイゼンから電子音声が響き、新たに手に握っていた小さな鉄球を四つ同時にメフィスモンに向かって撃ち出した。

 メフィスモンは先ほどと同様に黒い煙の塊を発生させて迫る鉄球を防ごうとする。だが、今度は先ほどとは違い、撃ち出された鉄球を不規則な軌道を行ないながら黒い煙の塊に触れないようにしながらメフィスモンの周りを飛び回る。

 

「これは? ……そうか、この攻撃…誘導型の攻撃か」

 

 自らの周りを飛び回る鉄球をメフィスモンは見回す。

 その動きに注意が逸れたと感じたアルフが、メフィスモンに向かってオレンジ色の鎖を放つ。

 

「食らいな!! チェーンバインド!!」

 

ーーーガシィィィィッ!!

 

 アルフが放ったチェーンバインドはメフィスモンの体に巻きついた。

 そのまま確りと拘束しているのをアルフは確かめると、横に居る美由希に向かって叫ぶ。

 

「今だよ! 美由希!!」

 

「うん!!」

 

 アルフの呼びかけに美由希は即座に反応を示し、なのはを抱えたまま階段を駆け上げる。

 それにアルフも続こうとするが、床に座り込んでいるナースに気がついて、その腕を掴み引き上げる。

 

「アンタも来るんだよ!!」

 

「は、はい!」

 

「ヴィータちゃん!! 気をつけて!!」

 

 美由希の背におんぶされているなのはが激励を行ない、美由希達は屋上に向かって走って行った。

 それを確認したヴィータはなのはの激励に苦笑しながらグラーフアイゼンを構え、黒い煙を自らの周囲に発生させながらチェーンバインドを破壊しているメフィスモンを睨みつける。

 

ーーーバキィィィン!

 

「フム。やはり放出系の魔法に対しては『デスクラウド』は通じないか。まぁ、貴様相手には問題は無いがな」

 

 ゆっくりとメフィスモンは確かめるように右手を握り直しながら、自らに険しい視線を向けているヴィータに顔を向ける。

 

「貴様はアームドデバイスとか言う物を振るう魔導師だったな。その類の魔導師は放出系の魔法が苦手だと聞いている。先ほどの女が残った方が良かったのでは無いか?」

 

「ヘッ、言ってくれるじゃねぇか。あんまりあたしを舐めてっと、痛いだけじゃ済まねぇぞ?」

 

「……フッ、貴様の考えは読めているぞ。今別の場所で戦っている金髪の小娘が来るまでの時間を稼ぐつもりだろう。オレンジ色の髪の女が念話と言う力で連絡を取るつもりなのだろうが……果たしてそう上手く行くかな?」

 

「………何が言いてぇんだ」

 

「フフフッ、先ほど貴様と一緒に居た眼鏡を掛けた女だが………“もうすぐ死ぬぞ(・・・・・・・)”」

 

「ッ!?」

 

 突然のメフィスモンの美由希に対する死の宣告にヴィータは目を見開いた。

 その様子にメフィスモンは口元を楽しげに歪めて、残酷な事実を心の底から嬉しそうに語り出す。

 

「あの女は魔導師でも無いのに中々やるようだ。『バケモン』の気配を感じると同時に、攻撃を行なったばかりか、標的と『バケモン』の間に自らの体を割り込ませた。だが、それ故に本来ならば標的に当たる筈だった『バケモン』の必殺技、『デスチャーム』を女は受けたのだ」

 

「『デスチャーム』?」

 

「そうだ。その技は相手に死の宣告を与える技でな。一定の時間が経過すると共に宣告された相手は死に至るのだ。つまり、遠からずあの女は死ぬ」

 

「出鱈目言うな! そんな技が在る訳が…」

 

「無いと言い切れるのか?」

 

「ッ!?」

 

 メフィスモンの問いかけにヴィータは反論出来なかった。

 ブラックウォーグレイモンを筆頭に、ブルーメラモン、アイスデビモン、アイスモン、そして目の前に居るメフィスモンと言った自分の常識を超えた存在とヴィータは何度も出会っている。

 メフィスモンが言った事もあながち間違いで無いかもしれないと悟ったヴィータは、すぐさまアルフに連絡を取ろうとする。

 

「ッ!? ……念話が通じねぇ……まさか!?」

 

「分かったようだな、小娘。時間稼ぎを行なうのは貴様ではない。この私だ!!」

 

「ちくしょう!!」

 

 飛び掛かって来たメフィスモンに向かって悔しげな叫びを上げながら、ヴィータはメフィスモンに挑むのだった。

 

 

 

 

 

 一方その頃。元々なのはが寝泊りしていた病室の中ではザフィーラとシールズドラモンが格闘を行なっていた。

 

「ムン!!」

 

「フッ!」

 

ーーードガッ!

 

 シールズドラモンが放った拳に対し、ザフィーラは瞬時に腕を掲げて防御した。

 そのまま反撃しようとするが、シールズドラモンは瞬時に身を沈めて足払いを掛けようとする。ザフィーラは僅かに後方に移動する事で足払いを躱し、間合いを取って拳を構える。

 同時にシールズドラモンもザフィーラとの距離を取って、同じように拳を構える。

 

「……やるな」

 

「其方こそ」

 

 ザフィーラとシールズドラモンは互いに相手に対して賞賛した。

 その様子を見ていたフェイトは、自分が割り込む事が出来ない雰囲気に言葉を失っていた。本格的な戦いが始まってからは、フェイトは病室の中に潜んでいる見えない相手の警戒をし、ザフィーラがシールズドラモンと格闘を繰り広げていた。

 互いに近接戦闘を得意としているが故に両者の実力は伯仲していた。

 

(……この生物。ナイフを扱う腕だけでは無く、格闘技も洗練されている。しかも、テスタロッサにも注意を払っているばかりか、此方に魔法を使わせないようにまでしている)

 

 本来ならばザフィーラには『鋼の楔』と言う魔法が在る。だが、その魔法は屋内では使用出来ず、また、フェイトも放出系の魔法を病院内で使用する事は出来ない。

 病院には他の入院患者も居るので、強力な魔法は周りに被害を及ぼしてしまう。その事を理解しているザフィーラはシールズドラモンを窓から外に叩き出そうとしたのだが、シールズドラモンの実力はザフィーラの予想よりも高かったので病室内で格闘戦を行なうしか無かった。無論フェイトも見ているだけではなく、バインドなどの捕縛魔法でシールズドラモンを捕らえようとしているのだが、シールズドラモンはフェイトの視線の動きやザフィーラの動き、そして自らの危機察知能力でバインドの位置を悟り、バインドから逃れていた。

 互いに決め手と言える攻撃が出せず、このままでは膠着状態が続くとフェイトとザフィーラは焦りを覚え始める。逆にシールズドラモンは当初の予定どおりに状況が進んでいる事を僅かに安堵していた。元々シールズドラモンは事前に標的であるなのはが病室に居ない事を知っていた。それでも襲撃を行なったのは、フェイトとザフィーラを足止めする為。そう、フェイトとザフィーラは自分達がシールズドラモンを足止めしていると思っているが、シールズドラモンの方が二人を足止めしているのだ。

 既に最初にフェイトの動きを押さえた相手も病室から移動している。後はこのまま時が来るまで時間稼ぎを続けるだけだとシールズドラモンは考えながら、仕舞っていたナイフを取り出す。その動きにフェイトとザフィーラの警戒心は強まり、内心で細笑みながら体勢を低くする。

 

「…行くぞ…抹消してく…ッ!?」

 

ーーーギン!!

 

「えっ!?」

 

「何っ!?」

 

 突如としてシールズドラモンは横薙ぎにナイフを振るい、何かを弾き飛ばした。

 フェイトとザフィーラは驚きながらシールズドラモンが弾いて床に落ちた手裏剣(・・・)に目を向ける。すると、シールズドラモンは何かに慌てたように病室内を見回す。同時にフェイトとザフィーラに向かって何処からとも無く声が放たれる。

 

『お二方! 早く高町なのはの下に向かわれよ!! 既に敵は彼女を追い詰めているでござるよ!!』

 

「何!? ……しまった! 此方は陽動か!?」

 

「クッ!」

 

Sonic(ソニック) Move(ムーブ)!!》

 

ーーーバリィン!!

 

 なのはの危機を知らされたフェイトは、後先考えずに瞬間高速移動魔法であるソニックムーブを使用して窓ガラスを破壊しながら外に飛び出した。

 まんまとフェイトに逃げられたシールズドラモンは、せめてザフィーラだけは逃さないと言うようにナイフを構えて突進する。だが、それを遮るようにシールズドラモンの四方から再び手裏剣が複数迫る。

 

ーーーシュン!!

 

「チィッ!!」

 

ーーーギィン! ギン!! キィン!!

 

 シールズドラモンは洗練された身のこなしで手裏剣をナイフで弾く。

 しかし、それによって隙が生じてしまい、ザフィーラは隙を逃さずにシールズドラモンの懐に入り込む。その事に気がついたシールズドラモンは慌てて迎撃しようとするが、その前に渾身の力を込めたザフィーラの拳が胴体に突き刺さる。

 

「フッ!!」

 

ーーードゴッ!

 

「ガッ!?」

 

 突き刺さった拳の威力はシールズドラモンが纏っているアーマーを超えて体へと届き、シールズドラモンは病室の壁に向かって吹き飛ぶ。

 

ーーードゴォン!!

 

『此処は拙者に任せて、早くお主も向かうでござる! それと見えぬ敵の姿は光さえ当てれば見えるようになるでござるよ!』

 

「……分かった。この場は頼む!」

 

 今だ姿を見せない相手に不信を抱きながらも、少なくともこれ以上時間を掛けてはいられないとザフィーラは判断し、フェイトが出て行った窓ガラスから自身も外へと飛び出した。

 それと共に壁に寄り掛かっていたシールズドラモンが立ち上がり、苛立たしげに顔を歪めながら病室の天井の一角を睨みつける。其処には天井に背中から張り付くように潜んでいたイガモンの姿が在った。発見されたイガモンは床へと降り立ち、背に背負っている刀に右手を伸ばす。

 

「倉田とルーチェモンに組するデジモンでござるな? 動けぬ幼子を狙うとは……此処からは拙者が相手を致す!!」

 

ーーーチン!

 

 イガモンは背中の忍者刀を僅かに引き抜く。

 シールズドラモンはその動きに警戒心を強めながら、ナイフを構え直して油断無くイガモンをスコープ越しに睨みつけるのだった。

 

 

 

 

 

 病院の屋上。メフィスモンから難を逃れたアルフ、美由希、なのは、そしてアルフに連れて来られたナースは、荒い息を整えながら周囲を警戒していた。

 

「……クッ! 駄目だよ! 転移だけじゃなくて、さっきまで使えていた念話も妨害されてる!」

 

「それじゃ、フェイトちゃん達の方にも何かが在ったんじゃ!?」

 

「多分ね。とりあえず、フェイトに気がついて貰う為に何か魔法でも使って……美由希? どうしたんだい?」

 

「お姉ちゃん?」

 

 アルフの様子に疑問を覚えたなのはも美由希に視線を向ける。

 すると、美由希の顔は真っ青に染まり、荒い息を吐いていた。明らかに様子が可笑しい美由希の姿に気がついたなのはは、美由希の手を握って目を見開く。

 

「ッ!? ……冷たい…ア、アルフさん! お姉ちゃんが!?」

 

「美由希! 確りしな!!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」

 

 なのはとアルフの様子にも気がつかないのか、美由希は自身の体を抱き締めてガクガクと震えていた。

 明らかに異常な美由希の状態になのはとアルフは、心配して駆け寄る。少しでも悪化を止めようとアルフは回復魔法を使用しようとする。だが、その前に第三者の声が響く。

 なのはの脳裏に絶対に忘れる事が出来ないほどに刻まれた声が。

 

「あらあら、そんな事をしても無駄ですわよ」

 

『えっ?』

 

 聞こえて来た声になのはとアルフはそれぞれ驚きながらも振り向いてみると、アルフの腰に研ぎ澄まされたメスが突き刺さる。

 

ーーードスッ!

 

「ガッ!?」

 

「アルフさん!」

 

 苦痛の声を漏らしたアルフに向かってなのはは叫び、メスを突き刺したナースに目を向ける。

 

「フフッ、油断大敵ですわね」

 

「あ、アンタ…ま、まさか…」

 

「そう、彼らの仲間ですわ。そして!」

 

 ナースは捻じりながらメスを引き抜くと共に後方に飛び去る。

 そのままメスを投げ捨て、ナースの服のポケットから緑色の細長い機械を取り出し、機械の上部分に右手を滑らせる。

 

「ハイパーーバイオエヴォリューーーション!!!」

 

ーーーギュルルルルルルッ!!!

 

 ナースが叫ぶと共にデジコードが発生し、そのままナースを覆い尽くすように繭を形成した。

 デジコードの繭は僅かに大きさを広げると共に弾け飛び、その中からなのはに重傷を負わせた張本人である『バイオ・レディーデビモン』が右頬に鋭く刻まれた傷跡を残しながら現れる。

 

「バイオ・レディーデビモン!!」

 

「あ、貴女は!?」

 

「フフッ、お久しぶりですわね。あの時は殺しそこねましたけれど、今日は逃しませんわ」

 

 ゆっくりとバイオ・レディーデビモンは右手を黒く輝く槍-『ダークネス・スピア』-に変えながら、残忍さに満ちた笑みを浮かべて近づく。

 メスで刺されたアルフは苦痛に苦しみながらも顔を上げて、バイオ・レディーデビモンを睨みつける。

 

「…あ、アンタが…なのはを…傷つけた張本人かい?」

 

「えぇ、そうですわよ。まんまと此方の策に乗ってくれて助かりましたわ。今頃は他の連中も大変な状況になっているでしょうね。さて、無駄話はそろそろ終わりにして、高町なのは。貴女には死んで貰いますわよ」

 

 バイオ・レディーデビモンはダークネス・スピアを構えながら近づく。

 なのはは逃れようと無意識に後ろに体を動かそうとするが、思ったとおりに体が動かずに床に倒れてしまう。アルフもなのはを助けようとするが、腰から走る激痛とまるで痺れたように手足が動かなかった。

 バイオ・レディーデビモンが刺したメスには麻酔の効果を持つ薬が塗られていたのだ。これで邪魔者は居なくなったと思っていると、青褪めて体を震わせていた美由希がなのはを護るように立ち塞がる。

 

「さ…させ…ない……なのはを殺させたり…しない!」

 

「……フゥ~、姉妹揃って驚かせてくれますわね。でも、其処に居る高町なのはを護るなんて、貴女には不可能ですのよ。何せ貴女は死の宣告を受けたのですもの」

 

「ッ!?」

 

「な、何だって? ……どう言う事だいそりゃ!?」

 

「言葉どおりですわ。出て来なさい! 『バケモン』達!!」

 

『……バ~ケ~』

 

『ッ!?』

 

 バイオ・レディーデビモンの呼びかけに反応するように、空中に十体近くの白い布を被ったオバケを思わせるような生物-『バケモン』-が出現した。

 出現したバケモン達はユラリユラリと空中を飛び回り、バイオ・レディーデビモンは固まっている美由希、アルフ、なのはに説明する。

 

「この生物の名前はバケモンと言いますの。夜ならばその姿を希薄にさせて、姿を相手に捉えないのですが、そのバケモンの気配を察知した貴女には驚嘆しますわね。でも、代わりに貴女は高町なのはが受ける筈だった技。『デスチャーム』のその身に受けましたの」

 

「……『デスチャーム』?」

 

「そう。その技は相手に死の宣告を与えて、一定時間経つと同時に対象を死に至らせる技」

 

「そ、そんな!? それじゃお姉ちゃんは!?」

 

「えぇ、もう大分時間は経っていますし、もうすぐ死ぬでしょうね」

 

『ッ!?』

 

 告げられた残酷な宣告にアルフ、なのは、そしてデスチャームを受けた当人である美由希は息を呑んだ。

 実際に美由希の体調は悪化の一刻を辿っている。既に立っているだけでも辛く感じ、ヒシヒシと何かが迫って来ているような感覚を美由希は感じていた。その様子に気がついたなのはは声を掛けようとするが、その前に美由希は遂に膝をついてしまう。

 

「グゥッ!」

 

「お姉ちゃん!?」

 

「美由希!!」

 

 更に体調が悪化した美由希になのはとアルフは心配して叫んだ。

 バイオ・レディーデビモンはその様子に笑みを浮かべて、もはや何も出来ないであろう美由希の横を通り過ぎてなのはの命を奪おうとする。だが、バイオ・レディーデビモンの耳は空気を切り裂くような音を捉える。

 

ーーーシュン!!

 

「クッ!」

 

ーーーキィン!!

 

 バイオ・レディーデビモンは瞬時にダークネス・スピアを振り抜き、美由希が投げつけた飛針を弾いた。

 そしてバイオ・レディーデビモンは目にする。命を懸けてでもなのはは護り抜くと言う意志を宿した美由希の力強い意志が宿った瞳を。宿った本能が告げていた。魔導師とか関係なく、美由希は早急に殺さなければならない存在だと言う事を。

 早急に葬ると決めたバイオ・レディーデビモンは背中の翼を広げて浮かび上がり、両翼を広げる。

 

「気が変わりましたわ。全員一度に葬って上げますわ! ダークネスウェーーブ!!」

 

 バイオ・レディーデビモンが叫ぶと同時に無数のコウモリが出現し、屋上に居る美由希、なのは、アルフに迫る。

 避ける事が出来ない攻撃に美由希、アルフ、なのはは絶望感を抱く。だが、迫るダークネスウェーブくを遮るように上空から桜色の魔力弾が降り注ぐ。

 

Accel(アクセル) Shooter(シューター)

 

ーーードドドドドドドドドドドドドドッ!!!!

 

「なっ!?」

 

『バ~ケ~』

 

 ダークネスウェーブを防ぐように降り注いだアクセルシューターにバイオ・レディーデビモンは声を漏らし、バケモン達は爆発の衝撃によって吹き飛ばされた。

 そのバケモン達に向かって長く伸びたバネのような緑色の手足の先に握られた回転する手裏剣が迫り、バケモン達を切り裂く。

 

「『紅葉おろし』!!」

 

ーーーブザン!!

 

『バ~ケ~!!』

 

 切り裂かれたバケモン達は悲鳴を上げて、次々とその体をデジコードへと変えて行く。

 バイオ・レディーデビモンはバケモン達を攻撃した主に目を向けてみると、背中にガブモンを背負ったシュリモンが給水塔の上に立っていた。

 

「デジモン!?」

 

「これ以上の狼藉は見過ごせん!!」

 

「クッ!! 邪魔をしてくれて! でも、標的だけは殺しますわ!! ダークネス…」

 

「させん!! 草薙!!」

 

 バイオ・レディーデビモンが突然の事態に、固まっているなのは達を攻撃しようとしている事に気がついたシュリモンは空中に高く飛び上がると共に大手裏剣-『草薙』-を投げつけた。

 草薙は高速回転し、ダークネスウェーブを放とうとしているバイオ・レディーデビモンに迫る。だが、草薙が直撃する直前、バイオ・レディーデビモンは背中の翼を大きく羽ばたかせて後方に移動した。

 

「しまった!?」

 

「もう遅いですわ! ダークネスウェーーブ!!」

 

 バイオ・レディーデビモンが叫ぶと同時に、先ほどの同じように無数の蝙蝠が屋上の床に向かって放たれた。

 急な移動も在ったのでなのは達への直撃は無理になったが、それでも充分だった。何せ今屋上に居るなのは達は誰一人として空を飛ぶ事は出来ないのだから。そしてバイオ・レディーデビモンの狙いどおりにダークネスウェーブは屋上の床に激突すると同時に大爆発を引き起こし、なのは達を屋上から吹き飛ばす。

 

ーーードゴォォォォォン!!

 

『キャアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーー!!!』

 

「なのは!!」

 

 少し離れた場所で屋上から落下するなのは、美由希、アルフを目撃したフェイトは急いで助けようとする。

 だが、その前に再び別のバケモン達が立ち塞がり、後から来たザフィーラも加えて足止めを受けてしまう。シュリモンの背でそれを捉えたガブモンは瞬時に判断を下す。

 

「シュリモン! 僕を投げて!!」

 

「心得た!!」

 

 ガブモンの指示にシュリモンは即座に応じ、ガブモンをなのは達に向かって投げつける。

 投げられたガブモンは身を縮めて落下速度を加速させ、なのは、美由希、アルフの先に回り込む。

 そしてなのはは目撃する、突然自分達の前に回り込んだガブモンの体からデジコードが発生し、自身を加えた美由希、アルフの前に広がるのを。

 

「ガブモン進化!! ……ガルルモン!!!」

 

 デジコードが弾け飛ぶと共に巨大な五メートルほどの大きさを持った銀色の狼-ガルルモン-が、なのは、美由希、アルフを乗せて地面へと着地したのだった。




息抜きに新しい小説を投稿する事にしました。

其方は漆黒シリーズとは全く関係ない作品で、オリキャラは一切出さない予定です。

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