漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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あけましておめでとうございます!

本年も宜しくお願いします!


暗殺者達の襲撃

「・・・・・・・どうやら意識を取り戻したようですわね」

 

 病院内の一室でナースに変装して病院に入り込んだクアットロは、病院内に在る監視システムから得られた情報に苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

 本来ならば眠っているなのはの検診の時間に、自らのISで別人に成りすましたクアットロがなのはを暗殺する手筈だったが、なのはが目覚めたせいで計画を変更せざる得なくなってしまった。今だ本格的な自らが重傷を負った件をフェイト達に話してはいないとは言え、今の検査が終わればなのははフェイト達に話すだろう。そうなればなのはだけではなく、フェイト達の口も塞がなければならない。

 余計な手間が増えてしまったとクアットロが親指の爪を噛んでいると、部屋の中に声が響く。

 

『慎重に進めすぎたな、女よ』

 

「・・・・うるさいですわよ。出来るだけ貴方達の姿や力を晒さない方針でしたのだから、文句を言われる筋合いはありませんわ」

 

『フン・・・・だが、そのおかげで余計なターゲットが増えてしまったのは事実・・・・連中は全て抹殺する方針に切り替える事で良かろう』

 

「そうですわね。私達の情報が漏れるのは確かに不味い事には変わりませんし・・・・病院内の通信機器は全て押さえて、ジャミングも行なって起きますから・・・・決行は今夜の夜中にしましょう」

 

『今でも我々は構わんが? 油断している連中など、私の力でグズグズに出来る』

 

「・・・そうかも知れませんけど、念には念を・・貴方と私は夜になれば力が増し、他の方々も夜の方が動きやすい事には違いはありませんわ」

 

『・・・・・・良いだろう。では、決行は今夜、寝静まった時間帯に行なおう・・・フフ、連中がグズグズに腐食した姿を見るのが楽しみだ』

 

 その邪悪さ嗜虐さに満ちた言葉と共に、部屋の中から姿が見えなかった何者かの気配は消え去った。

 それを確認したクアットロは溜め息を吐きながら、今夜の為の準備を行なう為に目の前に浮かぶ空間ディスプレイを操作する。

 

「・・・理解出来ない趣味ですわね」

 

 そう呟くと共に準備は終わり、空間ディスプレイを消失させて、ナース服に付いているポケットから小さな手鏡を取り出す。

 そのまま自らの顔に向けて、ゆっくりと傷跡が消えている(・・・・・・・・)右頬を撫でる。今は傷跡は消えているが、それはあくまでクアットロがISを使用して頬の傷跡を見えなくしているだけに過ぎない。ISを解除すれば、其処には刻まれた傷跡がくっきりと鏡に現れる。治る見通しすら見えない傷跡が脳裏に浮かび、手に力が篭もり手鏡が割れる。

 

ーーービシッ!!

 

「・・・必ず! 必ず! 見つけて殺してやりますわ! あのガルルモン!! 私の顔に傷を付けてくれた礼!! その命で償わせて上げますわ!!」

 

 自らの顔に消えない傷跡を付けたガルルモンは、クアットロにとって不倶戴天の敵として認識されていた。

 その為に今回の任務に志願した。ただガルルモンを殺すだけでは憎しみは治まらない。自らが護ったと思っているであろうヴィータと、そしてなのはを葬り、自らの無力さを痛感させる事も復讐の内容に入っている。無論前回の任務での汚名を返上する事も含まれているが、クアットロは必ずガルルモンに復讐を遂げるとつもりだった。その為にも今回の任務は必ず遂行すると心に誓いながら、クアットロは襲撃の準備を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 なのはが入院している場所から程近くに在るビルの屋上。

 その場所でガブモンは双眼鏡を目に当てながら周囲を見回していた。リンディもその横に立ち、ガブモンと同じように双眼鏡を持って、病院の周囲を警戒するように監視している。

 

「・・・・どう、ガブモン君?」

 

「いえ・・・・今のところ・・・病院に向かって来るような物は見えません」

 

「そう・・・・イガモン君とシュリモン君・・そっちはどうかしら?」

 

 リンディは右手に持った通信機を使い、別の場所から逃げ出した『デジバイス』を捜索しているイガモンとシュリモンに連絡を取った。

 

『此方イガモン・・・現在病院付近を探索しているでござるが、渡された機器に反応は見れないでござる』

 

『某の方も同じく・・・地下の下水道を捜索しているが、反応は出ておらん」

 

「・・・相手も私達が捜索に出てるのは予想しているでしょうから、簡単には姿を見せないようね・・・悪いけれど、二人ともそのまま捜索を続けてちょうだい」

 

『了解したでござる』

 

『此方も見張りを続けるので安心してくだされ』

 

 イガモンとシュリモンの了承の意が伝えられると共に、リンディは通信機を切り、再び双眼鏡を目に当てて病院を監視する。

 

「でも、直接この街に転移してなくて良かったですね」

 

「そうね。私達が追いついて座標位置を正確に入力出来る時間が無かったのか、それとも追跡を恐れて転移位置を知られないようにする為だったのかは分からないけれど。おかげで見張る為の準備時間が出来たのは良かったわ」

 

 リンディ達がこうしてなのはが居る病院で『デジバイス』が来るのを見張っているのは、『デジバイス』がミッドチルダに転移した時に正確に転移座標が入力されておらず、ランダムになって居たからだった。

 ランダムのせいで『デジバイス』をそのまま追跡する事は出来なかったが、リンディ達は『デジバイス』が最終的に向かうのはなのはの下だと言う事を知っている。追い駆けるよりも、向かう場所で網を張っていたのが確実だとリンディ達は判断し、復活したフリートに全員分の『デジバイス』の緊急停止装置のリモコンを作らせ、更には探知機器を持って『デジバイス』捕獲の為の網を張っているのだ。

 

「それにしても良かったですよね。『デジバイス』が例の子の下に辿り着いても、例の子には使用出来なくて」

 

「えぇ、本当にそれだけは良かったわ・・・(『デジバイス』には『レイジングハート』のAIが確かに使われているけれど・・・フリートさんは『レイジングハート』を修復した訳じゃない。新たに作り直していたおかげね)」

 

 リンディが『デジバイス』の事で最も懸念していたのは、『デジバイス』をなのはが使って無事で済むかどうかだった。

 現代の魔導技術と『アルハザード』の魔導技術の間には、途轍もないまでの差が存在している。なのはが学んでいる魔導技術はあくまで現代の魔導技術。伝説の地と称され、ありとあらゆる魔導技術が究極の領域に達していると呼ばれている『アルハザード』の技術によって生み出された『デジバイス』をなのはが扱える訳が無い。言うなれば自転車しか乗った事が無い人が、免許も何も持たずに宇宙船を操作するようなモノなのだ。

 当然その事もリンディは心配したが、事前にフリートがその対応策を『デジバイス』に組み込んでいた。

 

『アレの自我の強さはとんでもないですからね。以前リンディさんから聞いたとおり、勝手に主を変更する事も考えて、アレには主設定変更の起動パスワードを記録していないのです! 今の主は私を登録しています!! 例え高町なのはが持ったとしても『デジバイス』は扱えませんし、『デジバイス』も何も出来ないのです!!』

 

 と言う対応策をフリートはリンディ達に力説した。直後に其処までやっているなら『デジバイス』に高性能なハッキングなどと言う逃げる為のシステムを組み込むなと、拳と共にリンディから放たれたが。

 ともあれ、以前の人間だった頃のリンディのように扱い切れない力でなのはが死ぬような危険性が無い事だけは判明し、リンディは心の底から安堵した。

 

(とにかく、『デジバイス』を捕獲したら、すぐにフリートさんにAIを外させて、なのはさんに返さないと)

 

 これに関してはフリートも了承している。

 フリートにとってアルハザードの技術流出は絶対に避けなければならない事。幾ら『デジバイス』が素晴らしい出来栄えだとは言え、流出の危険性が出た今、フリートにとって『デジバイス』は危険な存在となっていた。最も既に必要なデータは手に入っているので、『デジバイス』に組み込まれているAI自体に興味が薄れて来ている事も在る。

 ともあれ『デジバイス』を無事に回収出来さえすれば、問題は解決するとリンディが監視を続けながら思っていると、地下の下水道を見張っているシュリモンから連絡が届く。

 

『此方シュリモン!! 至急応答を!!』

 

「此方リンディ・・・どうしたの、シュリモン君? もしかして『デジバイス』が現れたのかしら?」

 

 何かを焦っているようなシュリモンの声音に、リンディは現れると共に再び『デジバイス』が強硬な手段に出たのでは無いかと心配しながら連絡に答えた。

 だが、返って来た答えはリンディの予想を遥かに超える情報だった。

 

『リンディ殿! 某、今し方下水道を移動する『バケモン』を複数見たのだ!!』

 

「何ですって!? 『バケモン』を!?」

 

「ほ、本当かい!! シュリモン!?」

 

 リンディの横で周囲を見回していたガブモンは、思わず双眼鏡から手を離してシュリモンに質問した。

 

『間違いなく『バケモン』だった! 奴ら、どう言う訳か下水道を通って病院内に入り込もうとしている。幸いにも潜んでいた某の事に気づかれてないが・・・・何故『バケモン』がこのような場所に?』

 

「・・・確かにそうね」

 

 シュリモンの疑問に頷きながら、リンディは晴れ渡り、空高くに見える太陽に目を向ける。

 『バケモン』とは成熟期の世代のデジモンであり、昼間は力が大幅に弱体化する。幾ら下水道が暗い場所とは言え、本来ならば明るい昼間の内は余り動かないデジモンなのだ。その『バケモン』が複数で下水道内部を移動し、なのはが入院している病院内部に忍び込もうとしている。

 

(・・・・まさか・・・三提督の派閥と敵対している派閥が、『倉田』達に命じてなのはさんを暗殺しようとしているの?)

 

 『バケモン』達が動いている理由をリンディは眉を顰めながら推測する。

 実際に今の現状で魔導師がなのはの暗殺に動けば、確実に管理局内部の者が第一に疑われる。だが、『バケモン』達のようなモノに襲われれば、なのはが負傷を負った出来事で最初に戦ったブルーメラモン達の方に目が向く。

 ブルーメラモン達も『バケモン』達も、管理世界にとっては未知の存在。ましてやブルーメラモン達は管理局と明確に敵対しているので危険生物に指定されている。最終的にブルーメラモン達と『バケモン』達が同種族だと判断された時、管理局に明確に敵対する生物が存在していると思われてしまう。

 

「(もしも『倉田』達が私が考えているとおりの事を狙っているとすれば・・・・絶対に阻止しなければいけない!!)・・・シュリモン君・・・貴方はそのまま潜んでいて、夜になったら貴方も病院に忍び込んで・・・恐らく敵の狙いは病院に居るなのはさんよ。絶対に殺させる訳には行かないわ」

 

『心得た!』

 

「ガブモン君。私達もイガモン君を呼んで病院内の庭に忍び込んで夜になったら動くわ」

 

「はい!」

 

 話を聞いていたガブモンもリンディと同じ推測をし、絶対に阻止すると意気込みながら頷いた。

 その様子を頼もしげに見ながらリンディはイガモンへと連絡し、すぐさま行動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

「・・・・銀色の大きな喋る狼が助けた?」

 

「うん・・・黒い仮面を付けた・・・え~と、何となくだけどアイスデビモンを女性にしたような生物から、私とヴィータちゃんを助けてくれたの」

 

 検査も終わり、ある程度会話する事を医者から許可されたなのはは、病院に居るフェイト、美由希、アルフ、ヴィータ、ザフィーラに自らに起きた事をベットの上で横になりながら話していた。

 目覚めた当初は美由希に涙を流しながら抱きつかれ、アルフにも涙を流して喜ばれた。そして自分が半月以上眠っていた事を知らされ、今は自らに起きた出来事を皆に説明していた。ヴィータがブルーメラモンに敗れた後、リンディが現れてブルーメラモン達を説得しようとした事。その説得に乗じて現れた機動兵器の大軍。

 リンディが機動兵器からなのはとヴィータを逃がすが、その先にも機動兵器が現れてなのはがヴィータを護りながら孤軍奮闘として戦い、現れたレディーデビモンに重傷を負わされ、レイジングハートを破壊されてしまった事。そして意識を失う前にガルルモンがレディーデビモン達の魔の手から護ってくれたことも説明した。

 

「・・・あたしが意識を失っている間にそんな事があったのかよ」

 

「・・・それでなのは? 間違いなく、なのはに重傷を負わせた生物は別の誰かと行動していたの?」

 

「うん。良く思い出せないんだけど・・・・・女の人の声が二つ聞こえたよ」

 

 おぼろげながらも覚えている事をなのはは説明し、フェイト達の顔は険しそうに歪む。

 意識が朦朧としていたせいで正確なところまでは不明だが、少なくともなのはが重傷を負った原因は判明した。誰かが明確になのはとヴィータの命を狙って襲撃を仕掛けた事が明らかになったのだ。

 

「・・・私、すぐに今の事を報告して来るね。アルフ、なのはの護衛をお願い」

 

「あいよ。フェイトが戻って来るまで部屋で待機してるよ」

 

 そうアルフが力強く頷きながら返事を返すと、フェイトはすぐさま病室から出て行った。

 それに続くように床に伏せて話を聞いていたザフィーラも立ち上がり、病室から出て行く。ザフィーラが病室の前で護衛をする事を悟ったヴィータは、自身もすべき事を察して立ち上がる。

 

「それじゃ、あたしは毛布を取って来るか」

 

「毛布って? ヴィータちゃんも個室が与えられているんじゃないの?」

 

「そうだけど、あたしの入院は名目上なだけで、本当はお前の護衛だ、なのは・・・・助けられた借りは必ず返すからな」

 

 ぶっきら棒にヴィータはなのはに告げると、すぐさま病室から出て行った。

 その様子を見ていたアルフと美由希は微笑ましそうにヴィータが出て行った扉を見つめるが、すぐに美由希は真剣な顔になってなのはに話しかける。

 

「なのは」

 

「・・お姉ちゃん、ゴメンね・・・・こんな事になっちゃって」

 

「それに関しては後で家族全員が集まってから話をするから、覚悟しておいてね」

 

「・・・はい」

 

 待っているであろう家族会議の事が脳裏に過ぎり、力なくなのはは返事をした。

 その様子に美由希は頷きながら、先ほど地球に連絡した時の事をなのはに話す。

 

「父さんと母さんは、すぐに来れないらしいよ。本局の方が慌しいから、レティさんもすぐに許可が取れないらしいんだって」

 

「そうなんだ」

 

「先に言っておくけれど、父さんも母さんもなのはが意識を取り戻したって言ったら、泣いて喜んでいたんだよ。本当はすぐにでもこっちに来たかったんだけど」

 

「今は本局の方は例の事件で、てんてこ舞いだからね。流石に許可は取れなかったんだよ。許可さえ在れば、本局の転送ポートが使用出来なくても、あたしが転移魔法を使ってなのはの家族皆を連れて来たってのに」

 

 美由希の説明を補足するようにアルフが士郎達が来れない理由を補足した。

 本当はなのはが意識が取り戻した話を聞いた直後に、士郎と桃子はすぐさま恭也を連れてクラナガンに向かいたかった。だが、現在の本局は例の事件のせいで非常に慌しい状況に在る為に、レティやミゼットでも許可が出せなかったのだ。

 許可さえ貰えれば世界移動の転移魔法が使えるアルフが迎えに行くと言う手段も在ったのだが、状況が状況だけに個人的な理由での許可は貰えなかった。フェイトが管理局に所属する今、流石に昔のように勝手な転移はアルフも出来なかった。もしも許可さえ貰えればすぐに転移魔法を使用して桃子と士郎をクラナガンに連れて来ただろう。

 

「まぁ、とにかく暫らくは安静にしておきなよ、なのは。許可が貰えればすぐにあたしが連れて来るからさ」

 

「そうだよ。今は怪我の回復に集中して、早く良くなろうね。成った時には、家族会議だからね」

 

「・・・・・・お手柔らかにお願いします」

 

 笑顔で美由希から告げられた言葉に、なのはは冷や汗を流しながら返事を返したのだった。

 

 

 

 

 

 夜も遅い時間帯。病院内も昼間とは打って変わり、静けさだけが広がっていた。

 動くのは夜勤のナースや医者。患者達は誰もが寝静まっている。だが、病院内を音も立てずに、しかし、確かに素早い動きで移動する者が居た。それは闇に溶け込むような黒いローブで全身を覆い、音も立てずに廊下を走っていた。

 時々巡回している警備員やナースなどと接触しそうになるが、誰にも気づかれずにやり過ごし目的の場所へと向かって行く。そして『高町なのは』の名前が刻まれている表札を確認すると、黒いローブはやはり音を一切立てずに扉を開けて部屋の中に入り込む。

 ゆっくりと黒いローブは病室の中を見回し、ベットの上で横になって毛布に包まっている者を捉える。音も立てずに近づき、篭手らしき物で覆われた右手を振るうと共に研ぎ澄まされたナイフが握られた。

 

「・・・・標的・・・排除」

 

 感情を廃したような声と共に一切の躊躇いも無く、黒いローブはベットの上で横になっている者にナイフを振り下ろす。

 

ーーーガキィン!!

 

「ッ!?」

 

ーーーバサッ!

 

 在り得ない筈の金属音がベットから鳴り響くと共に毛布が舞い上がった。

 毛布が自身の視界を塞ごうとしている事に気がついた黒いローブはすぐさま後ろに飛び去り、改めてベットに目を向けてみると、バリアジャケットを纏い、アサルトフォルムのバルディッシュを構えたフェイトがベットの上に立っていた。

 

「時空管理局執務官補佐フェイト・テスタロッサ。殺人未遂の容疑でお前を逮捕する。抵抗するなら容赦はしない!」

 

 アサルトフォルムの杖先を黒いローブに向けながら、フェイトは宣言した。

 その様子に黒いローブは自らのナイフはバルディッシュによって防がれたのだと悟りながら、背後に在る扉に近寄ろうとする。だが、黒いローブが扉に近づく前に扉が開き、人間の姿になったザフィーラが拳を構えながら部屋に入り込む。

 

「逃げ場は無いぞ。大人しくするが良い」

 

 そのザフィーラの勧告に対して黒いローブは手に持つナイフを構え直し、フェイトに向かって腰を低く構える事で答えた。

 明らかに戦闘を行なうと言う意思表示にフェイトとザフィーラも構え直して、病室内に重い空気が溢れた瞬間、黒いローブがフェイトに向かって飛び掛かった。

 フェイトはその動きを察していたのか、振り下ろされたナイフをバルディッシュで防ぐ。これで相手は背後からの攻撃には一瞬だけ対処出来ないとフェイトは思い、案の定背後ががら空きになった黒いローブにザフィーラが殴り掛かる。

 無防備過ぎる背中にザフィーラは違和感を覚えながらも、襲撃者を捉えようと全力で殴り掛かり、黒いローブの背中から自らに振り下ろされる(・・・・・・・・・・)一撃をギリギリのところで避ける。

 

ーーーブォン!!

 

「何ッ!?」

 

「ザフィーラ!?」

 

 予期せぬ攻撃に回避したザフィーラだけではなくフェイトも驚愕した。

 その驚愕の隙を逃さぬと言うように黒いローブはフェイトに向かって左拳を振り抜く。

 

ーーーブォン!!

 

「クッ!!」

 

 自らに向かってフェイトは体を逸らす避けた。

 しかし、黒いローブは慌てる事無く体を動かし、窓際に移動してフェイトとザフィーラと向き合う。

 フェイトとザフィーラは僅かに動揺を覚えながら、黒いローブの背中から現れた金属の鎧で覆われた長い尻尾(・・・・)を目にする。

 

「尻尾だと? 貴様、何者だ?」

 

「・・・・標的・・・排除する」

 

「なのははやらせない!! バルディッシュ!!」

 

Blitz(ブリッツ) Action(アクション)

 

ーーービュン!!

 

 バルディッシュから音声が鳴り響くと共に、フェイトの姿は一瞬の内に黒いローブの目の前に移動した。

 瞬間移動と見間違えるほどの高速移動。フェイトは移動を終えると共にアサルトフォルムのバルディッシュを黒いローブに向かって横薙ぎに振り抜く。

 

ーーーブザン!!

 

「ローブだけ!?」

 

「テスタロッサ!! 上だ!」

 

 切り裂いたものがローブだけだと気がついたフェイトはザフィーラの言葉に従って上を向き、犬のような顔立ちに目元にはスコープを装着し、両肩の部分から刃を生やしてた金属の鎧で身を包み、右手にナイフを構えた生物-『シールズドラモン』-が天井に張り付いているのを目にする。

 

シールズドラモン、世代/成熟期、、属性/ウィルス種、種族/サイボーグ型、必殺技/デスビハインド、スカウターモノアイ

機械化旅団『D-ブリガード』に所属するサイボーグ型デジモン。『セレクション-D』と呼ばれる特殊選抜試験に合格した100体の中の1体のコマンドラモンだけが進化することができるといわれている。暗殺任務を得意とする精鋭で、武器や迷彩能力に頼らず、体術のみで戦う。その身体能力は計り知れず、その動きは目視で捕らえることは不可能。必殺技は、研ぎ澄まされたナイフで一撃で相手を殺す『デスビハインド』に、瞬時に敵の急所を計測する『スカウターモノアイ』だ。

 

「デスビハインドッ!!」

 

「クッ!」

 

 尋常ならざる殺気を放ちながら飛び掛かって来るシールズドラモンに危険を感じたフェイトは、すぐさまその場から移動しようとする。

 だが、移動する直前、フェイトは足首を見えない何かに掴まれてしまう。

 

ーーーガシッ!

 

「えっ!?」

 

「何をしている、テスタロッサ!?」

 

 突然動きが止まってしまったフェイトを護るようにザフィーラがシールズドラモンとの間に割り込み、振り下ろされようとしているナイフの刃を障壁で防ぐ。

 

ーーーガキィン!!

 

「チッ!」

 

 自らの必殺技である『デスビハインド』が防がれた事実に、シールズドラモンは舌打ちをしながら床に着地した。

 文字通りの一撃必殺技である『デスビハインド』だが、急所を見抜く『スカウターモノアイ』の対象をフェイトに設定していた為に横合いから割り込んだザフィーラの障壁を貫く事が出来なかったのだ。自らの必殺技があっさりと防がれた事実にシールズドラモンは屈辱を感じながら、ザフィーラとフェイトを『スカウターモノアイ』で索敵する。

 

「一体どうした?」

 

「ザフィーラ、気をつけて・・・・・こいつだけじゃない。他にも襲撃者が潜んでいる。そいつが私の足を掴んだの」

 

「・・・そうか」

 

 フェイトの説明にザフィーラは頷きながら、油断なく周りを警戒しながらシールズドラモンに向かって両拳を構える。

 

「・・・どうやら奴が言っていた標的とは・・・・高町の事だけでは無いようだ」

 

「うん・・・・・私達も標的に加わっているようだね」

 

 フェイトはザフィーラの言葉に同意を示しながら、目の前に居るシールズドラモンだけではなく見えない敵にも警戒心を高めるのだった。

 

 

 

 

 

 病院内に在るヴィータが使っている個室。

 その場所に秘密裏になのはは運ばれ、ヴィータとアルフ、そして美由希が護衛を行なっていた。なのはの意識が戻ったとなれば、すぐさま襲撃が在っても可笑しくは無いと考えたヴィータ達は、念話でやり取りを行ないなのはをヴィータが使っている個室に移動させていたのだ。

 昼間のやり取りは何処かで監視しているかもしれない者を騙す為の行動に過ぎず、病院内でも上位の者しか知らない事だった。

 

「・・・・・今、ザフィーラから念話が来た・・・・やっぱ、きやがった見てぇだ」

 

「クッ! そんなになのはが目障りって事かい!!」

 

 ヴィータからの報告にアルフは怒りに満ちた声で叫んだ。

 その怒りにヴィータは同じように顔を怒りで染めながら、手に持つグラーフアイゼンの柄を強く握る。

 襲撃に関しては予想していた事態だった。何せ今はミゼット達の派閥に大打撃を与えるチャンス。その為に自らの派閥に不利になる情報を握っているなのはの存在は、ミゼット達の派閥と敵対している派閥にとって邪魔な存在なのだ。

 自らの命の危険にベットの上に居るなのはは不安そうに体を震わせる。そんななのはを安心させるように美由希が頭を優しく撫でる。

 

「大丈夫だよ、なのは。絶対になのはには手を出させないから」

 

「・・・・お姉ちゃん」

 

「安心して・・・私達が護るから・・・・ッ! 其処!!」

 

 突如として何かに気がついたように美由希が腕を振るい、飛針を壁に向かって投げつけた。

 投げられた飛針は音を立てながら壁に突き刺さり、ヴィータとアルフは面を食らうが、美由希は構わずに服の両袖に隠していた小太刀を手に握る。

 

「ちょ、ちょいと! いきなり何してんだい!?」

 

「・・・・居る・・・この部屋に私達以外の何かが・・・・・」

 

「何かって? ・・・・・何もいねぇだろ…」

 

『まさか』

 

『ッ!?』

 

 突然ヴィータの言葉を遮るように聞こえて来た男性と思わしき声に、ヴィータとアルフは慌てて身構える。

 

『まさか・・・・魔導師でもないただの人間が『バケモン』の気配を察するとは』

 

「何処だ!? 何処にいやがる!」

 

 姿が見えない相手にヴィータ、アルフ、美由希は警戒心を強めながら部屋の中を見回すが、やはりヴィータ達以外の姿は無かった。

 一体どう言う事なのかとアルフが困惑しながら部屋を見回していると、僅かに腐臭が部屋の中に漂って来ている事に気がつく。

 

「(何だい? この腐臭? ・・・・・・こんなのさっきまで臭わなかったのに・・・一体何処・・・っ!?)・・美由希ッ!! なのはをベットから退かしな!!」

 

「クッ!!」

 

 アルフの指示にすぐさま美由希は反応し、ベットからなのはを抱き上げてその場から飛び去る。

 同時にベットの下の床がまるで腐ったように崩れ、其処から勢いよく黒い煙のようなモノが噴き出し、真上に在ったベットだけではなく個室に在る物や壁などを腐食させて行く。

 

ーーージュゥゥゥゥゥッ!!

 

「やべ!! 部屋から出ろ!!」

 

 次々と黒い煙のようなモノに触れると同時に物や壁が腐食して行く様子に、危機感を覚えたヴィータは美由希とアルフと共に部屋から慌てて出て行った。

 同時に黒い煙が溢れ出している床から雄羊の顔を持ち、背中に悪魔の様な翼を生やしたデジモン-『メフィスモン』が出て来る。

 

メフィスモン、世代/完全体、属性/ウィルス種、種族/堕天使型、必殺技/デスクラウド

巨大な雄羊の姿をした二足歩行の堕天使型デジモン。全ての生命を滅しようとしたアポカリモンの残留思念から生まれた闇の存在、アポカリモンと同じ様に全ての生命を滅しようとしている。。“暗黒系黒魔術”を使い、高い知性で戦略を立てる狡猾さを持っている。必殺技は、暗黒の雲を発生させ、全てを腐蝕させる『デスクラウド』だ。

 

「鼻が利く者も居たか・・・まぁ、良い。作戦は当初の予定通りに進んでいる・・・・それにしても美しき姉妹愛・・・それらをグズグズに腐食させて汚したいものだ・・・・・『バケモン』」

 

「・・・バケ~」

 

 メフィスモンの呼びかけに答えるように、何も無かった筈の場所から白い布を被ったまるで幽霊のように宙に浮かぶデジモン-『バケモン』-が姿を現した。

 

バケモン、世代/成熟期、属性/ウィルス種、種族/ゴースト型、必殺技/ヘルズハンド、デスチャーム

頭から布かぶっているゴースト型デジモン。布の中身はナゾに包まれている。呪われたウィルスプログラムでできており、取り付かれたコンピューターは、一瞬でシステムを破壊されてしまう。また、影はブラックホールに繋がっていると言う説もある。必殺技は、巨大な腕で敵を地獄へと引きずり込む『ヘルズハンド』に、対象に死の呪文で呪いを掛ける『デスチャーム』だ。

 

「首尾は如何だ?」

 

「バケ~」

 

「ほう・・・・そうか、面白い・・・フフッ! 麗しき姉妹愛に訪れる悲劇! それは見逃せんな!」

 

 バケモンの報告にメフィスモンは心の底から楽しそうに邪悪に満ちた笑みを浮かべ、ゆっくりとバケモンと共にヴィータ達の後を追うのだった。




バケモンが今回何をしたのか分かる人は分かると思います。

しかし、ちゃんと解く方法は考えています。
最も簡単な方法で解ける設定にしています。

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