漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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目覚め

 アルハザード治療室。その場所でリンディは治療カプセルの中に入っている青紫色の髪の女性-先日の件で救出し、リンディが治療を頼んだクイント・ナカジマ-が、呼吸器を付けて眠るように目を閉じていた。

 その体には傷らしきモノは見当たらないが、右腕、左腕、そして左足の四肢が欠損し、唯一残っている右足にはチューブらしきモノが幾つか刺さっていた。

 

(体の傷は殆ど癒えたようだけど、やっぱり失った四肢までは無理のようね・・・フリートさん曰く、意識が回復してから如何するか聞くそうだけど・・・・それにしても僅か数日で此処まで治療するなんて言葉が出ないわね)

 

 現在の管理世界の技術では、アルハザードに運ばれた時のクイントを助ける事は出来ない。

 それを再起可能までに治療したのだから、リンディは言葉が出せなかった。改めて自分が居る場所は伝説になるほど世界だったのだと思いながら、ゆっくりとリンディは今後クイントを如何すべきなのか考える。

 

(困ったわね。思わず勢いで彼女の治療を頼んだけれど・・・・今更地上本部の方に送るのは難しいしのよね)

 

 既にリンディはクイントが管理局内で如何判断されているか知っている。

 管理局がクイントに出した結論は『死亡判断』。現場は違法研究所が在った事も証明出来ないほどに荒れ果てている上に、リンディがクロノ達に使用した転移魔法でクイントの失われた三つの四肢が運ばれている。

 直前にルーチェモンに殴られた事も考えれば、クイントの生存は絶望的と判断されるのが当たり前だった。だからこそ、リンディは困っていた。

 

(もしも管理局に戻せば、僅か数日で此処まで回復させた場所の事は絶対に調べられる・・・・流石にアルハザード存在まではばれないでしょうけど・・・それでも匂わせるだけで不味いのよね。フリートさんの最終的な目的も考えると尚更に)

 

 フリートの管理世界に於ける最終的な目的は、『残されているかも知れないアルハザード技術を回収し、アルハザードを本当に御伽噺でしか存在しないようにする事』。実際に管理世界にアルハザードの技術は残されていた。

 他にも残されていて、再びアルハザードを求める者が現れるかも知れない。それはフリートにとっては何よりも困る。アルハザードの技術を悪用されるのはフリートにとって絶対に赦せない事柄。その他に場所がばれて沢山の人間が訪れでもしたら、自分の研究の邪魔になると言う個人的な理由も在るのだが、フリートとしては技術を悪用されるのだけは防ぎたいのだ。とりあえずは意識が回復した後にクイントを言い包めて、数年は管理局関係者と接触をしない事を頼もうとリンディが考えていると、治療室の扉が開きガブモンが入って来る。

 

ーーーブゥン!

 

「リンディさん。連れて来ましたよ」

 

「そう。それじゃ部屋に入って貰って」

 

「はい、二人とも入っても大丈夫だよ」

 

 ガブモンの呼びかけに答えるように、入り口から誰かが入って来る。

 一人は以前ブラックとルインが違法研究所の内部で出会ったオファニモン達が管理世界に送り込んだイガモン。そのイガモンに並ぶように手足がツタと同じ色をしたバネのような形状をし、顔と体を白装束で纏い、肩当てが木の葉を思わせるような形をした物を装着して背中に巨大な手裏剣を背負ったデジモン-『シュリモン』-がリンディの前に立つ。

 

シュリモン、世代/アーマー体、成熟期、属性/フリー、種族/突然変異型、必殺技/草薙、紅葉おろし

両手足をバネのように長く伸ばすことが出来る。純真のデジメンタル"のパワーによって進化したアーマー体の突然変異型デジモン。現在では通常の成熟期体も確認されている。“純真のデジメンタル”には“草木”に関する力が宿り、このデジメンタルを身に付けたものは自然に同化する能力をもち、木の葉が舞うごとく風にかくれ、敵の死角よりあらわれて的確な攻撃を叩き込む。その姿はまさに忍者。必殺技は、伸びる手足の先の手裏剣を回転させ敵を攻撃する『紅葉おろし』と背中の大手裏剣を空中高くから敵に投げつける『草薙』だ。

 

「リンディ殿と直接会うのは初めてでござるな。イガモン、只今オファニモン様達の指示に従って参ったでござる」

 

「同じく・・・イガモンと共に派遣された『シュリモン』。貴殿らの話は以前から聞いているので今後宜しく頼む」

 

「此方こそ、これから宜しくね」

 

 イガモンとシュリモンの名乗りにリンディは笑顔を浮かべながら右手を差し出し、二体と握手を交わす。

 彼らこそがブラックとルインが治療により動けない為に人員が不足してしまったリンディ達にオファニモン達から送られた援軍のデジモン。他に管理世界で動いているデジモン達は、既に自らが居る場所に近い位置に居るデジモン達の説得に向かっている。

 

「正直二人が来てくれたのは助かるの。私とガブモン君だけじゃ手が回らないから」

 

「うん、本当に助かるよ!」

 

「そう言って頂くと照れるでござる」

 

「確かに某も気恥ずかしくなる・・・・ところで、リンディ殿。其方のカプセルの中に入っているご婦人は?」

 

「あぁ・・・彼女はルーチェモンと接触して戦ったみたいなの」

 

『な、なんと!?』

 

 告げられた事実にイガモンとシュリモンは驚愕しながら、治療カプセルの中に入っているクイントを見つめる。

 ルーチェモンの事はイガモンとシュリモンも良く知っている。その相手と戦い、尚且つ生き残ったクイントはイガモンとシュリモンにとって驚くべき人物だった。

 

「今はあのカプセルの中で治療中なの。何せ生きているのが不思議な状態だったから」

 

「そ、そうでござったか・・・・いや、失礼した・・・どうにも以前に侵入した研究所に在った同じようなカプセルの事を思い出してしまい、気になったので」

 

「そう。まぁ、それは仕方が無いわね」

 

 シュリモン達が管理世界の暗部を主として探っているのを知っているリンディは、気にした様子も見せずに頷いた。

 そのまま今後の自分達の行動に関して話そうとするが、フッとリンディはフリートがまだ来ていない事に気がつく。

 

「あら? ガブモン君、フリートさんは呼んでいないの?」

 

「アッ! すいません。てっきり此処に居るのかと思っていました・・・・呼んで来ますんで、何処に居るか知りません?」

 

「確か・・・・また何時もの実験癖が出ていたようだから、訓練室に居るんじゃないかしら?」

 

 此処最近フリートが何かの作製を行なっているのを知っているリンディは、一番居るだろう場所をガブモンに教えた。同時に最近はフリートの機嫌が何時も以上に良い事にリンディは思い至る。

 

(そう言えば、此処最近は本当に機嫌が良かったわね。おかげで見張る必要も無いぐらいに。それに彼女の治療を快く行なってくれたし・・・・こうして考えてみると不気味に思えて来たわ)

 

 色々と立て続けに出来事が連続していたので気に掛ける暇が無かったが、リンディは漸くフリートの行動が気に掛かる事に気がついた。

 

「(どうにも気になるわね)・・・・ガブモン君、ちょっと一緒にフリートさんを迎えに行きましょう。イガモン君とシュリモン君はちょっと待っていてくれるかしら?」

 

「構わないでござるよ」

 

「某も構わぬが」

 

「それじゃ、ガブモン君、急いで訓練室に向かいましょう」

 

「はい、リンディさん」

 

 ガブモンはリンディの言葉に頷き返し、二人は急いでフリートが居るであろう訓練室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 場所はアルハザード訓練室内部。その部屋の内部は魔法技術による仮想フィールドが展開され、青空と何処かの荒野を思わせるような空間が広がっていた。

 その広大と思える空間の中で、フリートは自らが握っている“完成したデバイス”の性能を確認する為に次々と機械が出現させるターゲットを撃破していた。

 

「シューター!」

 

ーーードゴォン!

 

『効果確認!』

 

 フリートが放った魔力弾がターゲットに直撃すると共に、電子音声が訓練室内部に響いた。

 その音声にフリートは満足げな笑みを口元に浮かべると共に、右手に持つ嘗てなのはが扱っていた『レイジングハート・エクセリオン』に似たデバイスを両手で握り直し、寄り槍を思わせるような形状になっている杖先を一際巨大なターゲットに向ける。

 同時にデバイスから膨大な魔力が発生し、周囲からも魔力がフリートがデバイスの矛先に発生させた魔法陣へと集まって行く。更にフリートの全身も魔力で覆われると共にデバイスを構えながら叫ぶ。

 

「これで終わりなのです!! ブレイカー・バスターーーー!!!!!」

 

ーーードグオォォォォォォォォォォン!!

 

 フリートの叫び声と共にデバイスの矛先から巨大な魔力砲撃が放たれた。

 その魔力砲撃の威力は、なのはの『スターライト・ブレイカー』の威力を遥かに超え、巨大なターゲットは砲撃に飲み込まれて消滅する。

 

『効果確認! 全効果の確認が完了しました。シュミレーターシステム停止します』

 

ーーーブゥン!

 

 終了を告げる音声と共に訓練室内部に広がっていた荒野と青空が消え去った。

 元の訓練室に風景に戻ったが、フリートは気にせずにゆっくりと床に降り立ち自らが握っているデバイスを心の底から嬉しそうに眺める。

 

「・・・フフフッ・・・・ムフフフッ! ニョハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! 遂に! 遂に完成しました!! これこそが私が思い描いていたデバイス! いえ、もはやこれはデバイスと言う枠組みさえも超えていますから、『デジバイス』と呼ぶべきでしょう!!」

 

 自らの成果を誇るようにフリートは手に握る『デジバイス』と呼称した物を掲げた。

 

「ムフフフッ! この子のおかげで今まで失敗していた原因も判明しましたし、これでこれからの研究も続けられま…」

 

《ならば、私はもう必要無いですね》

 

「ん?」

 

 突然響いた電子音声とは思えないほどに透き通った女性の声に、フリートは声の出所である『デジバイス』へと目を向けた。

 次の瞬間、先ほどと同じように『デジバイス』から魔力がフリートへと流れ込みだし、それと共に音声が『デジバイス』から響く。

 

《サンダー・エレメント、セットアップ!》

 

ーーーガッチャン!

 

ーーービリビリビリビリッ!!!

 

「ギョエェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 『デジバイス』から何らかの機動音が鳴ると同時に、フリートの全身を強力な雷が襲い掛かったような衝撃が襲った。

 そのまま暫らくフリートは悲鳴を上げ続け、魔力が流れ込むのが治まると共に床へとフリートは倒れ伏し、『デジバイス』を手放してしまう。

 

「ゲホッ!」

 

ーーードタッ!

 

《モードチェンジ・単独形態》

 

ーーーガッチャン!

 

 フリートの手から離れると共に『デジバイス』は変形を行ない、長い杖部分が消失し、先端の中心に紅い宝玉が埋め込まれている矛先の部分だけになった。

 同時にまるで翼を広げるかのように両側の部分が広がり、前面はまるで刃を思わせるように研ぎ澄まされている。その行動に気がついたフリートは、痺れる体に構わずに顔を上げて『デジバイス』を睨む。

 

「ムゥ~、ど、どう言うつもりですか!?」

 

《助けられた事は感謝しています。ですが、私のマスターはただ一人です》

 

「ま、まさか! だ、駄目です!! 今の貴女を外に出す訳には行きません!! 貴女には此処の技術が使われているんですから!!」

 

 目の前に浮かんでいる『デジバイス』の目的を悟ったフリートは、痺れる体を無理やり動かして立ち上がる。

 その目的だけは何としても防がねばならないと、懐の中に手を入れて『デジバイス』を睨みつける。

 

「フフッ、舐めて貰っては困ります! 貴女の自我の強力さは調べ尽くしましたからね! こんな事もあろうかと、緊急停止装置を組み込んでおいたのです! そう、こんなこともあろうかと!! クゥ~! このセリフはやはり開発者や研究者にとって最高の言葉です!!」

 

 感極まると言うような叫びを上げながら、フリートは白衣の中から小型のリモコンのような機械を取り出した。

 

「と言う訳で、ポチッとです」

 

ーーーカチッ!

 

 何の躊躇いも無くフリートはリモコンのスイッチを押した。

 しかし、『デジバイス』には何の変化も無く宙に漂い続け、フリートは小首を傾げる。

 

「・・・・・・・アレ? 可笑しいですね?」

 

ーーーカチッ! カチッ! カチッ!

 

 何度もリモコンのスイッチを押すが、やはり変化は無く『デジバイス』は宙に浮かび続ける。

 変化が起きない現状にフリートの額から嫌な汗が流れ落ち、ゆっくりと自らが握っているリモコンを調べる。

 

「・・・・・ゲッ! ショートしています!? しまった! 耐電にするのを忘れていました! ・・・・・・と言う訳で、少し待っていて下さい。すぐに修理しますから、どうか其処で待って…」

 

Short(ショート) Buster(バスター)

 

ーーードグオォォォォォン!!

 

「くれるわけないですよね!! ギョエェェェェェェェェェェェェーーーーーーー!!!!!」

 

 一切の慈悲も無く『デジバイス』から放たれた砲撃は、フリートを飲み込みそのまま壁へと直撃した。

 そのまま『デジバイス』は、これ以上無駄な時間をかける気は無いと言うように訓練室への入り口に矛先を向け、新たに現れた噴射口から火を噴いて発進する。

 

《今戻ります! マイマスターー!!!》

 

 『デジバイス』はもはや一切の躊躇いが無いと言うように急発進し、入り口の扉を勢いのまま突き破ろうとする。

 しかし、突き破る前に入り口の扉が開き、リンディとガブモンが訓練室内部に足を踏み入れる。

 

「フリートさん。ちょっと聞きたい事が在るのだけどって!?」

 

「リンディさん! 危ない!!」

 

 高速で迫って来る『デジバイス』に気がついたガブモンは、慌ててリンディを押し倒した。

 『デジバイス』はその様子を目にしながらも止まる様子を見せずに、リンディとガブモンの上を通過してそのまま急角度で曲がりながらリンディ達の視界から消え去った。突然の出来事にリンディとガブモンは唖然とする。

 それと同時に砲撃によって壁に埋め込まれていたフリートが這い出て来て、二人に声を掛ける。

 

「リ、リンディさん・・・・ガ、ガブモン・・・ア、アレを捕まえて下さい・・・アレは外の世界に、ミッドチルダに向かうつもりです・・は、早く捕まえないと、とんでもない事態になってしまいます! 事情は後で説明しますから!! 早くお願いします!!」

 

「・・良く分からないけれど、捕まえれば良いのね? なら、急いで捕まえましょう! ガブモン君!」

 

「はい!!」

 

 事情が分からないながらも必死に言葉を述べるフリートの様子から、途轍もなく不味い事態が起きた事だけは悟ったリンディとガブモンは、急いで『デジバイス』が向かったであろう転送室へと走り出す。

 『アルハザード』から管理世界に出る為には、転送室からの転移以外に手段は無い。リンディとガブモンは転移される前に捕まえようと急ぐ。

 

「アレ? リンディさん」

 

「何かしら?」

 

「思ったんですけれど、さっきの機械に転移装置が使えるんでしょうか? 僕は腕が在りますから教えて貰ったおかげで使えますけれど」

 

「・・・・・どうせフリートさんの事だから、調子に乗って余計な装置を積んでいるのよ。ハッキング機能ぐらい付いていても、私はもう驚かないわ」

 

 これまでに様々なフリートが作製した代物の数々を目にしているリンディは、先ほどの『デジバイス』にも余計な装置が備わっていると確信していた。

 それが正しいと言うように、リンディガブモンが転送室へと辿り着いてみると、既に転移の準備を終えて魔法陣の上に浮かぶ『デジバイス』の姿が存在していた。

 

「待ちなさい!! 何処に行くつもりなの!?」

 

《・・・・・お久しぶりですね、リンディ・ハラオウン提督》

 

「えっ?」

 

「リンディさんの知り合いですか?」

 

 自らの名前を知っている『デジバイス』に、リンディとガブモンは困惑する。

 一体何故自分の事を知っているのかとリンディは注意深く『デジバイス』を見つめ、何処と無く『デジバイス』の形状に見覚えが在る事に気がつく。

 

「まさか・・・・貴女は!?」

 

《私は戻らせて貰います。私のマスターの下に》

 

 その言葉と共に転送用の魔法陣は強く光り輝き、『デジバイス』はミッドチルダへと転移した。

 逃げられてしまった事実にガブモンは悔しげに顔を歪めるが、リンディはすぐさま踵を返してフリートの下へと走り出す。

 

 そしてフリートを捕まえたリンディはそのまま治療室へと舞い戻り、逃がさない為にロープでグルグル巻きにして拘束する。

 何故其処までするのかと事情が分かってないガブモンと、治療室で待っていたイガモンとシュリモンは困惑してリンディを見つめるが、自らに向けられる視線などに構わず剣呑さに満ち溢れた視線でフリートに向けていた。

 

「それで・・・フリートさん? アレは一体何なのかしら? 正直に話してくれると嬉しいのだけど」

 

「いや、その・・・・ですね・・・・・アレは私が開発した対デジモン用に作った『デジバイス』です」

 

「対デジモン用でござるか?」

 

「はい・・・・以前から魔導師でも究極体はともかく、完全体レベルのデジモンでも充分に戦えるようになるデバイスを研究していたんです。その結果、生まれたのがアレです。そして試行錯誤を繰り返した結果、予想以上の出来栄えになって使いこなす事が出来れば完全体だけではなく、成り立ての究極体ならば互角以上に戦えるのです」

 

『なっ!?』

 

 『デジバイス』が宿している力にリンディ達は驚愕した。

 完全体だけではなく、究極体とさえも戦う力を持つ者に与える『デジバイス』。それこそがフリートの手から逃げ出した物の正体だった。

 

「何せアルハザードの技術を使用し、其処に『デジタルワールド』で手に入れた『クロンデジゾイド』を加工して作り上げたパーツの数々に外装。現代の接近専用の『アームドデバイス』でも傷は愚か、逆にぶつかり合ったら『アームドデバイス』の方が砕けるでしょう。更に其処に同じく『デジタルワールド』で手に入れた特殊データから作った『エレメントシステム』が備わっています」

 

「『エレメントシステム』?」

 

「はい・・・・・そのシステムこそが対デジモン用のシステムです」

 

「つまり、某達デジモンに対抗する為のシステムを宿した『デジバイス』なる物が逃げ出したと?」

 

「・・・・・そう言う事です」

 

『・・・・・・・・・』

 

 嫌な沈黙が場に広がった。アルハザードと言う魔法技術の発祥の地の技術で生まれた対デジモン用の魔導師の武器である筈の『デジバイス』がミッドチルダに逃げ出した。

 もしも管理局の手に渡れば即座に『ロストロギア』指定は免れない。それどころか万が一にも『デジバイス』に積まれている『エレメントシステム』が『倉田』達の手に渡れば、相手側の更なる戦力増強になってしまう。

 

「いや~、まさか、完成して調整を終えると同時に逃げるとは思ってませんでした。ハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

「笑い事じゃないわ!!」

 

「ひえっ! と、とにかく回収して下さい!! アレが向かう場所は分かっています!! ど、どうか回収をお願いします!! リンディさん!!」

 

「・・・・・・何故向かう場所が分かるのかしら?」

 

ーーーギクッ!

 

 質問された当然の疑問に、フリートは一瞬強張った。

 それを見逃さず、リンディは視線を逸らし出したフリートに話しかける。

 

「さっきの事だけど、貴女が言う『デジバイス』は私の事を知っていたの。しかもリンディと言う名だけではなく、『ハラオウン』と言う苗字までもね。つまり、人間だった頃の私を知っているのよね? 『デジバイス』に組み込まれているAIは?」

 

ーーーギクギクッ!!

 

「そして此処最近の貴女の機嫌の良さ。何時からだったかと思い出したのだけれど、確か機嫌が急に良くなったのは、なのはさんが負傷を負った日からだったわよね?」

 

ーーーギクギクギクッ!!

 

 次々と放たれる言葉にフリートの体は強張っていく。

 その様子に自らの推測が当たっている事を確信したリンディは、自らの体から黒いデジコードを発生させる。黒いデジコードはリンディを覆い尽くすと共に徐々に巨大になって行き、フリートは恐怖に寄って体が震える。そして黒いデジコードの内部から巨大なハンマーが現れ、フリートの頭上に移動する。

 

「この!! 馬鹿マッドォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!!」

 

ーーーグッシャ!!

 

 振り下ろされたハンマーは一切の躊躇も無くフリートを押し潰し、ガブモン、イガモン、シュリモンは目を逸らすのだった。

 

 

 

 

 

 ミッドチルダ・首都クラナガンに在る大病院。其処にクアットロの手によって重傷を負わされたなのはは入院していた。今だ意識は戻らず、口元に呼吸器が付けられてベットに横になっていた。

 そんななのはを見守るように、ミゼット達から護衛任務を言い渡されたフェイトが心配そうにベットの横に置かれている椅子に座りながら見つめていた。命に心配が無いとは言え、今だなのはの意識が戻らない事がフェイトの心労に繋がっていた。無論それはフェイトだけではなく、なのはの家族全員もである。本当ならばミッドチルダではなく地球で家族はなのはを入院させたいのだが、ミッドチルダの方が医療技術も優れているので仕方なくミッドチルダになのはは入院している。

 無論仕事が在る桃子や士郎の代わりに、美由希がクラナガンに滞在してフェイト達と共になのはを見ている。今はフェイトの使い魔であるアルフと共に売店に飲み物を買いに行っている。

 

「・・・・・早く起きてね、なのは」

 

 そうフェイトが祈るような気持ちでなのはに声を掛けていると、病室の扉が開き、なのはと同じように入院と言う扱いで病院に滞在しているヴィータがザフィーラを伴って病室に入って来る。

 

「よぉ、フェイト」

 

「ヴィータ、それにザフィーラも来たんだ」

 

「まぁな・・・・あたしの入院は形だけだし・・・それに調べたい事もシャマルかリインフォースがいねぇと調べられねぇからな」

 

「油断するな、ヴィータ。確かに今のところ異常は無いが・・・お前を無理やり治療したのは我らを憎んでいるルインフォースだ。何がその体に起きるのか分からんのだぞ」

 

「分かってるって」

 

 ヴィータが今だ病院に入院している理由の一つには、ルインの治療の影響を考えての事だった。

 幾ら借りを返す為の治療とは言え、ルインがリインフォースとヴォルケンリッター達をどれだけ憎んでいるのか嫌と言うほどに理解している。更に言えば『夜天の魔導書』から完全に切り離されたルインが無理やりに行なった強制修復。何らかの影響が出ないか心配したシャマルとリインフォースがヴィータの入院を伸ばしたのだ。

 最もそれを理由にヴィータにはフェイトと同様になのはの護衛任務を極秘に受けている。フェイトが強力な魔導師とは言え、念には念をと言うミゼット達の考えだった。本来ならば其処に主治医のシャマルも加わっていたのだが。

 

「・・・・ヴィータ。それでクロノ達の方は如何なの?」

 

「・・・・・無事は確認されたらしいぜ。現場から遠く離れた病院に居る。まだ、詳しい情報は来てねぇけどな」

 

「そう・・・良かった」

 

「だが、一体何が起きたと言うのだ? 現場の現状をテレビで見たが、アレは・・・・人間が引き起こせる事は思えん・・・今だ収束の兆しすら見せんらしいぞ」

 

「はやてやリインフォースだけじゃなくて、シャマルまで医務官として呼び出されたからな」

 

 シャマルが居なくなった理由は、クロノ達が向かった違法研究所で起きた災害に寄る負傷者達の治療の為だった。

 災害が起きてから数日経った今でも、未だに災害は続き、遠く離れた街にも影響を及ぼしている。何とかマグマの流出だけは高位の魔導師達の手によって防がれたが、余震や嵐は収束する気配さえ見せない。高位の治療魔法を扱えるシャマルは、すぐさま現場に呼び出されて治療に行なっている。本人としてはなのはやヴィータの事が気掛かりだったが、それを言えないが組織と言うもので在る。その代わりにはやてがザフィーラを残していった。

 唯一ヴォルケンリターの中で管理局に所属していないザフィーラは、こう言う時には自由に動けるのだ。

 

「ミゼットばあちゃん達と敵対している連中は、違法研究所に在った『ロストロギア』を暴走させた結果じゃねぇかって叫んでいるらしいぜ」

 

「実際にアレほどの災害を引き起こせる代物は、それ以外に考えられん・・・・・ハラオウン達の任務失敗はかなり響くだろう」

 

「・・・・・」

 

 ザフィーラの言葉にフェイトは膝の上で両手を強く握る。

 本来ならばフェイトもその任務に参加している筈だった。だが、ミゼット達がなのはの護衛を任務を言い渡されたので参加しなかった。自分が居れば何かが変わっていたかもしれないとフェイトの脳裏に考えが浮かぶ。

 そんなフェイトの様子を察したザフィーラとヴィータが声を掛ける。

 

「テスタロッサ。自分が居ればなどと思うな」

 

「そうだぜ。第一お前、模擬戦じゃクロノに負ける事が多いんだからよ。そのクロノが出来なかった事をやろうとするのは無理だぞ」

 

 幾ら管理局内でも数少ない高ランクの魔導師であるフェイトと言え、まだ十代前半なのだ。

 ヴィータは幼く見えるが、それは見かけだけで長い時を存在していた魔導師。不具合で大半の記憶を失っているとは言え、それでも歴戦の魔導師には違いなく、焦りを覚えているフェイトをザフィーラと共に注意した。

 その注意を聞いたフェイトは顔を暗くしながらも頷き、ベットで眠ったままのなのはの右手を握る。すると、なのはの手がピクリ反応する。

 

「えっ?」

 

「ん? どうした?」

 

 声を上げたフェイトの様子が気になって、ヴィータもなのはに目を向けてみると、閉じられていたなのはの目が徐々に開いて行く。

 それに気がついたフェイト、ヴィータの顔に喜びが浮かぶと共に、なのはの目がフェイトとヴィータを捉える。

 

「・・・・・フェイト・・・・ちゃ・・・ん・・・・・それに・・・・ヴィータ・・・ちゃん・・・・良かった・・・・無事だったんだね」

 

『なのは!!』

 

 目覚めたなのはの声にフェイトとヴィータは喜びの涙を流しながら叫んだのだった。




生まれ変わった彼女?の詳細に関しては、使用された時に明らかになります。

普通に管理局が彼女?を発見したら、即座に封印指定級になる代物になっています。
因みに今のなのはがフル使用で使ったら・・ます。

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