漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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次なるステージへ

 アルハザードの通信整備が置かれている一室。

 『ガジェットⅠ型』の軍勢と戦いを終えた後、リンディはブルーメラモン達と共に即座に『アルハザード』に戻り、アイスデビモンの治療の為に別室に居るブルーメラモン達と一先ず分かれ、そのまま司令室代わりに使っている一室で『デジタルワールド』に居るオファニモンと通信を行なっていた。

 

「と言う訳で・・管理世界か或いは管理局が動いている無人世界などに『デジモン』が幼年期の頃に放逐された可能性が在ります。更にこのデジモン達をばら撒いたのが管理局の人間である可能性が高いと私見で判断しています。保護した彼らは一先ず別室で待機して貰っていますが、出来れば其方の『デジタルワールド』に受け入れて貰いたいのです」

 

『・・・そうですか・・・・分かりました。すぐに彼らを私達の『デジタルワールド』に受け入れましょう・・・・しかし、一年前に幼年期デジモン達が放逐されたとなれば・・・一年前に起きた『ディアボロモンの件』と事は繋がっていると見て間違いないでしょうね』

 

「はい。恐らくはそうと考えて間違いないと私も思います。詳しくはまだ聞いていませんが、三体とも『デジタルワールド』から連れ去られたと言っていました。恐らくは他の『デジタルワールド』で攫われたデジモン達も管理世界の何処かに居る可能性が高いでしょう」

 

『私もそう思います・・・・では、可能であるならば次元世界に居るデジモン達を出来るだけ此方の世界の『デジタルワールド』に招いて下さい』

 

「分かりました。彼らが戻って来たら伝えておきます」

 

『お願いします・・・イガモン達にも今回の件は伝えますので・・・では、これから此方も対策について話し合いますので失礼します』

 

ーーーブン!!

 

 オファニモンが最後の言葉を告げると共に通信の映像が切れた。

 それを確認したリンディは一先ずはこれで連絡は終わりだと安堵の息を吐く。それと共に部屋の扉が開き、ガブモンを掴んでいるブラックと、回復魔法をガブモンに掛けている、ルインが室内に入って来る。

 

ーーーブゥン!

 

「・・・・オファニモン達への報告は終わったのか?」

 

「えぇ、終わったわ。そっちでも戦闘が在ったみたいだけれど、何か掴めたの?」

 

「あぁ、倉田に繋がる重要な情報源がな」

 

 そうブラックは告げながら、ガブモンを近くの椅子に乗せて自分達が戦った相手に関する事をリンディに説明する。

 『バイオ・デジモン』に進化する力を持ったチンク、トーレ、クアットロの三人。その三人に襲われ、なのはが重傷を負った事。三人にはフリートの追跡機がついている事の全てを話した。

 なのはが襲われて重傷を負ってしまった事にリンディは苦い思いを抱くが、その思いは一先ず押し込めてデジモンが管理世界にばら撒かれている理由について話し出す。

 

「間違いなく管理世界にデジモンをばら撒いたのは、管理局に居る『倉田』か『ルーチェモン』の指示だろう。管理局で追い込まれた連中が自分達の功績を作る為に二人に手を貸したんだろうな」

 

「『管理局』と言う組織を彼らは知っていた事から・・・・管理局の人間と敵対するように仕組まれていた可能性も高いわね」

 

「功績を作る為に事件を自ら引き起こす、ですか?・・・・随分と管理局の闇もなりふり構わなくなりましたね?」

 

「それだけ彼らが追い込まれていると言う事でしょうね。現にその効果はなのはさん達が襲われた件で確実に出て来るわ」

 

「フン・・・大方奴らを簡単な調査任務で死なせる事で、今の改革が進んでいる管理体制を問題にしようとしたのだろう。どうやら管理局では倉田とルーチェモンに協力している派閥以外にも、別の勢力の派閥が在るらしいな・・・まぁ、俺には興味も無い話だ・・それよりも貴様が連れて来た三体のデジモンは何処に居る?」

 

ーーーブゥン!

 

「此処に居るぞ、究極体」

 

 ブラックの質問に答えるように部屋の扉が開き、室内にブルーメラモンが入って来た。

 ゆっくりとブラック、ルイン、ガブモンは部屋に入って来たブルーメラモンに顔を向けるが、ブルーメラモンは構わずにリンディに話し掛けて来る。

 

「アイスデビモンの治療の為の道具を貸してくれた事を感謝するぞ」

 

「構わないわ。それと聞きたい事が在るのだけれど良いかしら?」

 

「・・・良いだろう。少なくともお前達が管理局に関する連中と違うと言うのは分かった。答えられる質問にならば答えよう」

 

 人間に不信感を抱いているブルーメラモンだが、流石に共に戦い治療道具を貸してくれたリンディと戦う気は起きず素直に答えた。

 戦意がブルーメラモンに無い事を悟ったブラックは僅かにつまらなそうな顔をするが、リンディは構わずに気になっていた事をブルーメラモンに質問する。

 

「先ずは貴方の生まれた世界の『デジタルワールド』だけれど・・・『三大天使』と言うデジモンが治めている世界かしら?」

 

「『三大天使デジモン』? ・・・・・・いや、そんなデジモン達が治めていると言う話は聞いた事は無い」

 

「(やっぱり思っていたとおり、他の『デジタルワールド』からも連れ去った訳ね)・・・・それじゃ貴方は何処で生まれたデジモンなのかしら?」

 

「『始まりの街』と呼ばれる場所だ。俺の故郷のデジモンは全て其処で生まれる」

 

「・・・・『始まりの街』だと?」

 

 壁に寄りかかりながら話を聞いていたブラックは、自らが知っている場所の話が出て来た事に僅かにブルーメラモンに視線を向ける。

 『始まりの街』。その場所は元々ブラックが居た『デジタルワールド』で死んだデジモン達が生まれ変わる場所。全てのデジモンはその場所で新たに生まれ、幼年期時代を過ごす場所の名称。懐かしい場所の名前が出た事を驚きながら、ブルーメラモンにブラックは視線を向ける。

 

「つまり、貴様は其処から管理局の連中に攫われたと言う事か?」

 

「いや、違う。俺達を放逐した連中は確かに管理局員を名乗っていたが・・・俺達をデジタルワールドから攫った奴らとは別の連中だ」

 

「(流石に管理局の連中では、他の『デジタルワールド』までは向かえんようだな)・・・・どんな奴らだ?」

 

「・・・・眠らされる直前に僅かに見ただけだからおぼろげだが・・・・・“片目で青い服と帽子を被った男”だ」

 

「ッ!?・・・・・な、ん、だと?」

 

「ブラック様?」

 

「どうしたんですか?」

 

 明らかに動揺を覚えているブラックにルイン、ガブモンはそれぞれ疑問の声を上げ、リンディも訝しげな視線を向けるが、ブラックはそれどころでは無かった。

 ブルーメラモンを幼年期時代に攫ったと言う“片目で青い服と帽子を被った男”。その容姿に一致する相手をブラックは良く知っていた。憎んでも憎み足らないほどに怒りを抱いている相手。だが、その相手が生きている筈が無い。

 

(・・・・馬鹿な、奴が本当に生きているとしたら、アグモン達が逃す筈が無い・・・俺が死んだ後は多少の変化は在ったらしいが本来の歴史どおりに、俺が憎んでいる連中は全て死んだとオファニモンは言っていた・・・・だが、ブルーメラモンが告げた容姿・・・それに連れ去られたのがあの世界だとすれば・・・偶然にしては一致し過ぎている・・・・まさか・・・・生きていると言うのか?)

 

 ブラックはそう内心で呟きながら思考に耽り、リンディ達はその様子に疑問を抱きながらも一先ずはブルーメラモンに質問しながら此方にある『デジタルワールド』について説明するのだった。

 

 

 

 

 

 時空管理局本局集中治療室前。

 その場所の扉の前で簡単な調査任務だった筈の任務から、武装局員達の死とボロボロな状態のなのはを連れて医療班と共に帰還したヴィータは、事情を聞いて集まったフェイト、はやて、アルフ、ユーノ、シグナム、ザフィーラ、レティに起きた出来事を自らが知っている限り話していた。この場に居ないクロノは、なのはが重傷を追った件とヴィータ達が戦った未知の生物について調べる為に現地に調査に赴いている。

 管理局が一年前に放逐したと言う三体の未知の生物との戦闘。その内のアイスデビモンは何とか倒したが、自らはその後戦ったブルーメラモンと戦って不覚を取ってしまい、氷漬けになってなのはが重傷を負う場面は見ていない事。気がついた時にはルインが現れて自らを回復させ、なのはに応急処置を施してくれた事の全てを語った。

 全てを聞き終えたフェイト達は信じられないという気持ちを抱き、フェイトは今の話は間違いだと信じたくてヴィータに質問する。

 

「・・そんな・・・・ヴィータとなのはが一緒に戦ってやっと一体しか倒せない生物が居るなんて」

 

「・・・ヴィータ・・・・ほんまに起きたことなん?」

 

「・・・・本当だよ、はやて・・・あたしとなのはが一緒に戦ってアイスデビモンは倒したけれど・・・その後ブルーメラモンと戦ってあたしは負けちまった」

 

「・・・・お前が敗れるとは・・・そのブルーメラモンと言う生物は余程の実力者と言う事か。しかし、デバイスを熔解させるほどの炎を操る生物か」

 

「『アームドデバイス』を扱う者にとっては天敵のような生物だな」

 

 ヴィータの説明にシグナムとザフィーラは苦い顔をしながら言葉を発した。

 ただでさえ『アームドデバイス』はカートリッジシステムを搭載しているので頑丈に作られている。更に言えばヴィータのグラーフアイゼンは古代ベルカ時代に作られ、現代の最新鋭の技術まで組み込まれたデバイス。それを熔解させるほどの炎を操ったブルーメラモン。

 炎熱変換の資質を持ったシグナムのレヴァンティンでも、もしかしたら相性が悪い相手。その相手と戦ったヴィータは悔しげに語る。

 

「・・・油断しちまった。アイツ、最初は低い温度で戦っていたんだ。それであたしが大技を放つの待っていやがった。アイゼンを修復させようと離れたところで、黒い球体のような攻撃を放ってきやがって、それを食らってからの記憶がねぇ・・・・ルインフォースの話だとあたしは氷漬けになってたらしい・・・多分なのははあたしを護ってそれでやられたんだと思う」

 

「何て事なの・・・そんな危険な生物が、調査に赴いた先の遺跡に居たなんて」

 

 告げられた情報にレティは眩暈がすると言うように声を出した。

 得られた情報だけでも今回の件がかなり不味い事態に発展してしまう可能性は高かった。嘱託魔導師扱いのなのはが重傷を負った件。本当に未知の生物を放逐したのが管理局だとすれば、多少話は変わるかもしれないが、それは相手の生物が告げた情報。証拠能力としては明らかに不十分。どちらにしても相手側は管理局に不信を抱いている。せめて調査に赴いているクロノが何かしらの情報を持ち帰って来てくれる事をレティは願う。

 次々と明らかになった事実にフェイト達が顔を青褪めさせていると、慌しく通路を走って来た士郎、桃子、恭也、美由希、アリサ、すずかがやって来る。

 

「レティさん!? なのはは!?」

 

「今・・・集中治療室に居ます・・・詳しい事は治療に当たっている医務官から聞かないと分かりませんが・・・命の心配だけは無いと言う話です」

 

「ッ!? ・・・そうですか・・・なのは」

 

「母さん。大丈夫だよ・・・なのははきっと助かるから」

 

 取り合えず命の危険だけは無いと言う事実に桃子は安堵の息を吐きながら、美由希に支えられた。

 その様子にレティはゆっくりと士郎に内密の話が在ると小声で告げ、士郎は恭也を連れながらレティと共に移動して詳しい話を事情を聞く。

 聞き終えた士郎と恭也は、なのはとヴィータが未知の生物と戦い氷漬けになったヴィータを護り抜いていた事に複雑そうな顔を浮かべた。

 

「・・・・そうですか・・・・なのははヴィータちゃんを護って・・・」

 

「はい・・・・少なくともなのはさんを応急処置してくれた相手はそう言っていたようです」

 

「・・・その相手と言うのは?」

 

「ブラックウォーグレイモンと共に居るルインフォースと言う女性です・・・・・それとこれはまだヴィータさん達には話していないのですが・・・士郎さん・・・恭也君・・・なのはさんはもしかしたら魔導師としてもう二度と戦えないかもしれません」

 

『ッ!?』

 

 告げられた事実に士郎と恭也は目を見開き、一体どう言う事なのかとレティを見つめると、申し訳なさそうな顔でレティは説明する。

 

「今手術に当たっているシャマル医務官が手術前に簡易検査で調べたところ・・・内臓に損傷が見られるらしいのです」

 

「内臓に損傷が!?」

 

「はい・・・それもかなり深い損傷らしいんです。事前に応急処置が施されていたので命には問題は無いのですが、それでも後遺症が残る可能性は高いと思われます」

 

「・・・・・分かりました・・・覚悟だけはしておきます」

 

 レティの言いたい事を察した士郎は神妙な顔をしながら頷き、恭也も頷く。

 同時に集中治療室の扉の上に在った点灯ランプの光が消え、扉が開くと共にストレッチャーに呼吸器を口に付けた病院着を着て目を閉じているなのはが医務官達と共に出て来る。

 痛ましい姿になったなのはにフェイト、はやて、ユーノ、アルフ、アリサ、すずかは心配しながら後を付いて行き、残されたヴィータと大人達は最後に治療室から出て来たリインフォースとシャマルになのはの状態を聞く。

 

「シャマルさん、リインフォースさん・・・正直に教えて欲しい・・・なのはは如何なんですか?」

 

「・・・・内臓が刺し貫かれた傷が深く、治療は難航しましたが、事前に応急処置が施されていたおかげで命に別状はありません。ですが・・・・」

 

「・・・・・・日常の生活は・・・・リハビリを頑張れば何とかなるかもしれませんけど・・・・魔導師としては二度と復帰は無理です。もう二度となのはちゃんは激しい運動は・・・・出来ません」

 

ーーーガクッ!!

 

「桃子!! しっかりしろ!!」

 

「かーさん!!」

 

「母さん!! 気をしっかり持って!?」

 

 告げられた自らの大切な娘に降り掛かってしまった悲劇に、桃子の体から力が抜けて倒れそうになり、士郎達は慌てて支えた。

 その様子にレティ、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ、リインフォースは苦い想いを抱きながらなのはが運ばれて行った通路を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 深夜に近い時間帯、なのはが大怪我を負った原因の調査に向かったクロノは本局に戻って来ると共に足早にミゼットが居る執務室に訪れていた。

 向かい合うように二人は椅子に座り、ミゼットはクロノが持って来た調査資料を険しい顔で読み進めていく。

 

「・・・・・謎の機動兵器の残骸が多数発見され、大規模な戦闘の跡が在った訳ね?」

 

「はい、今分析班が機動兵器の残骸を調査しているところですが・・・・それでも最低でも数十機は在ったようです・・・・明らかに此れは…」

 

「事前に仕組まれていた可能性が高いわね・・・狙いは安全な任務で嘱託とは言え高ランクの魔導師が撃墜され、あわよくば、高町なのはが死亡すれば・・・・追及は免れないわね」

 

「クッ!!」

 

 まんまと敵対勢力の罠になのは達を飛び込ませてしまった事実に、クロノは悔しげに両手を握り締めた。

 安全だと思っていた調査任務こそが罠だった。相手側も高ランクの魔導師であるなのはを犠牲にするような作戦は取り辛いとクロノ達は思っていた。実際になのはレベルの魔導師を倒す為には同レベルかそれ以上の魔導師が必要。旧最高評議会派には何名かはなのはレベルかそれ以上の魔導師が居るが、事前にその者達には別の任務が割り当てられているのも確認済み。だからこそ、油断してしまっていた。

 

「・・・ハラオウン執務官・・・・実はヴィータちゃんから聞いた話だと、この機動兵器の類の存在に関する事は何も出てないの」

 

「どう言う事ですか? ヴィータ達は機動兵器に襲われたんじゃないんですか?」

 

「いいえ、ヴィータちゃん達を襲ったのは別の三体の生物よ。彼女達が乗って向かった艦でもその存在は捉えているわ」

 

 ミゼットは端末を操作し、ヴィータ達が乗って向かった艦に記録されていたブルーメラモン、アイスデビモン、アイスモンの姿をクロノに見せる。

 事前に任務に赴く前に知らされていたとは言え、改めて見るが見た事も無く、常識では考えられない生物の姿にクロノは目を見開き、ミゼットも同意するように頷きながら話を進める。

 

「この生物達に奇襲されて武装局員達は戦闘不能。ヴィータさんとなのはさんは一緒に戦ってこの内の一体を倒したらしいけれど、ヴィータさんは蒼い炎のような生物にやられたらしいの」

 

「ちょっと待って下さい! では、ヴィータとなのはが二人で掛かって漸く一体だけしか二人は倒せなかったって言うんですか!?」

 

 ミゼットが言わんとしている事を察してクロノは信じられないという気持ちに支配された。

 なのはとヴィータの実力をクロノは良く知っている。二人掛かりで挑まれれば、負ける可能性が高いとクロノは思っている。それだけの実力が二人には在る。

 その二人が同時に掛かって漸く一体しか倒せなかった生物。一体何故そんな生物が急に現れたのかとクロノの心中は疑問に満ち溢れる。

 

「・・・一体どうしてそんな生物があの遺跡に?」

 

「彼らはヴィータさんにこう言ったらしいわ。『管理局が自分達を連れて来た』とね」

 

「ッ!? では、やっぱり今回の一件は全て!?」

 

「・・・・可能性は高いけれど・・・・確証は何も無いわ。あくまで状況証拠しかない。もしかしたら管理局と敵対している組織が動いたのかも知れないし・・・・何よりも態々強力な生物達に管理局は敵だと知らせるメリットが在るかしら?」

 

「・・・・確かにそうですね」

 

 ミゼットの考えにクロノは同意するしか無かった。

 管理局でも全体でAAAランク以上の魔導師は5%しかいない。つまり、ブルーメラモン達のような強力な生物が多数出現されれば即座に対抗は難しくなる。ただでさえ二年前から改革で管理局内の高ランクの魔導師の数は減っている。

 そんな状況で次元世界を危険に追い込む行為は、旧最高評議会派からすればデメリットが多くなる。そのデメリットを乗り越えた際には確かに大きなメリットが在るが、其処に辿り着くまでにはかなり困難が待っている。

 

「・・・・何とかなのはさんに起きた出来事を知りたいけれど・・・・彼女の意識はまだ戻ってないわ・・・彼女のデバイスの方は発見出来たの?」

 

 ヴィータのグラーフアイゼン同様になのはのレイジングハートにも記録機能は在る。

 救助された時になのはがレイジングハートを所持して居なかった事から、戦いの場に残された可能性が高いと思い、クロノ達には回収指示が出されていた。

 それから何も分からない現状を抜け出せないかとミゼットは一縷の望みを託すが、クロノは悔しげに首を横に振るう。

 

「・・・・・大きな戦いが在った場所を重点に捜索しましたが・・・・発見出来たのは・・・残骸(・・)だけでした。とても修復は不可能だと技術班から連絡が来ています」

 

「そう・・・・・クロノ執務官。悪いけれど次の任務に同行する予定だったフェイト・テスタロッサ補佐官をメンバーから外してくれるかしら?」

 

「・・・なのはの護衛ですね?」

 

「えぇ・・・もしも管理局内部の者が全てを仕組んだとすれば、何が起きたか知っているなのはさんを狙って来るわ。彼女の証言で全てが覆るかもしれない・・・・(だから、追及が来ないのかもしれないわね)」

 

 今回の件が発生した時にミゼット達は必ず敵対している派閥から追及が来ると思っていた。

 だが、予想していた追及は来なかった。その理由がなのはと言う追及した後に全てを引っくり返せるような証言を行なえる者が居るからだとすれば、追及が来ない事に納得出来る。

 同時にそれはミゼット達と敵対している相手にとってなのはは邪魔な対象。護衛を付けておくのは当然だとクロノも同意を示す。次の任務は確かに重要な任務だが、その隙をつかれてなのはを暗殺させる訳にはいかないとクロノとミゼットは思いながら、今後に対する方策を話し合うのだった。

 

 

 

 

 

 地上本部レジアス・ゲイズ『中将』の執務室。

 この二年間で地上の治安を向上させた事で昇進したレジアスは、本局から届いた資料に険しい瞳を向けていた。其処に記されているのは今回起きた高町なのは達に起きた件に関する資料と現場に調査に赴いたクロノと調査員達が発見した物に関する資料だった。

 クロノ達の調査資料には現場では件の生物は発見出来なかったが、変わりに夥しい数の機動兵器らしき物の残骸が多数残っていた事が記されていた。レジアスが気になっているのは謎の機械兵器に関する項目だった。

 状況から考えればヴィータとなのはと言う高ランクの魔導師を相手に圧倒的な実力を示した未知の生物『デジモン』との出会いは偶然の可能性が大きい。だが、件の生物が発見出来ず変わりに発見した機動兵器に関しては別だった。ヴィータからの話では機動兵器に関する情報は得られず、唯一何が起きたか知っている筈のなのはは未だに意識が戻らないで詳しい話は聞けず、謎の機動兵器の残骸に関しては不明なままだった。

 

(クロノ・ハラオウンの若造は管理局がばら撒いたと言う未知の生物の方が気になっているようだが・・・・現場で発見された機動兵器の残骸らしき物・・・資料に記されている残骸の数から考えて百機以上が居た可能性は高い・・・もしもコレによって『高町なのは』と言う小娘が落とされていたら)

 

 今だ不明な点が多いので仮の話になるかもしれないが、もしも資料に記されていた機械兵器になのはが落とされていた場合、かなり不味い事態になってしまう可能性が高い。

 今現在管理局の改革を進めているので高ランクの魔導師であろうと、犯罪を犯していれば処罰する対象になっている。これらに意を唱えているのが旧最高評議会派に属していた者達。高ランクの魔導師が減れば、それだけ管理局の戦力が減ると彼らは唱えている。今までは管理局にとっての脅威はブラックウォーグレイモンだけだったが、もしも他に脅威が現れれば話は大きく変わって来る。

 現在の管理局の派閥の状況は、旧最高評議会派が三提督派にかなり追い込まれて来ている。もしも今回の一件で現れた『デジモン』に関する点を除外して状況を考え直して見れば、謎の機械兵器の目的はなのはを重傷か或いは抹殺する事で三提督派の勢いを少しでも削ぐ為の暗躍で在った可能性にレジアスもミゼット達同様に気がついていた。

 

「・・・・・ミゼット統幕議長に自らの周りも今一度洗うように進言した方が良いな・・・・それともう一つ。今回の件で連中が勢いをつける前にどのような形で在れ、管理局が関わっている可能性が高い違法研究所で決定的な証拠を手に入れなければならん・・・恐らく何か得たいの知れない事が起きようとしている。高町なのは達が遭遇した未知の生物に関する情報も何としても得なければ、対抗出来ぬやも知れん」

 

 そうレジアスは言いながら、自身の端末を操作して秘書である人物と連絡を取る。

 

ーーーピッ!

 

「首都防衛隊のゼスト・グランガイツを呼んでくれ。例の違法研究所の件だと伝えれば、すぐに来る筈だ」

 

『分かりました、すぐにお呼びします、レジアス中将』

 

 そう秘書官が答えるとレジアスは通信を切って、窓の外から見えるクラナガンの街並みを眺める。

 この二年間、三提督の協力が在ったとは言え、有望な魔導師が地上に増えた事によって治安は僅かながらも向上の兆しを見せていた。それの最大の理由が本局を殆ど単身で襲撃したブラックウォーグレイモンのおかげだと言うのは皮肉に近いが、その治安が崩れ掛けて来ているような嫌な予感をレジアスは漠然と感じて来ていた。

 後数年で大詰めに近かった筈の管理局内の浄化に反するように独自の動きを活発させて来た管理局内の闇の動き。そして高ランクの魔導師を倒せるほどの実力を宿した未知の生物。何かが起き始めているとレジアスだけではなく、本局に居るミゼット、ラルゴ、レオーネは感じていた。

 

「・・・・早急に奴らの息の根を止めるか、未知の生物に関する情報を得なければならん・・・その為には・・・・最高評議会と最も関係が深いとされる違法研究者『ジェイル・スカリエッティ』を捕らえねばならん・・・奴ならば何らかの情報を詳しく所持している可能性は高いからな」

 

 そうレジアスは言いながら、ゼストが来るまでクラナガンの街並みを眺め続けるのだった。

 

 

 

 

 

 数日後のアルハザード研究室。

 その場所の主であるフリートは、漸くイガモン達から送られて来た『倉田』と繋がっている可能性が高い人物の現在の所在地を掴み、ブラック、リンディ、ルイン、ガブモンに説明していた。

 モニター画面に映る地図の一角を棒で指しながら、フリートは目の前に居るブラック達に話す。

 

「この場所に『倉田』と繋がっている人物が居る可能性が高い違法研究所が存在しています。例の高町なのは達を襲った連中は今此処に居ます。この前の件で防備もかなり減っている様子ですから、襲撃するには最も適しているでしょう。とは言ってもそれでもかなり厳重に護られていますね」

 

「そう・・・なら、その研究所はかなり彼女達にとって重要な拠点と見て間違いないのね?」

 

「間違いなくそうですね。こっちの存在には気づいていないでしょうから、今攻めれば情報を全て消滅させるのは不可能でしょう・・・・もしもそれが出来た場合は」

 

「『デジモン』に関係する何が在る可能性が高いと言う事か」

 

「はい・・デジモンはデータ生命体ですから、機械に強いですからね・・・攻め込めばどっちにしても情報は確実に手に入る可能性が高いでしょう」

 

「なら、決まりですね」

 

 フリートの説明にガブモンは納得の声を出し、ブラック、リンディ、ルインもそれぞれ納得しながら立ち上がると、転移装置のある部屋へと向かって行く。

 自分を除いた全員が出て行くのを確認したフリートは、ゆっくりと近くにあるコンソールに手を伸ばして操作を開始する。

 

ーーーカタカタカタ

 

「フフフッ、フレーム及び各種パーツは完成しましたね。後はこれを組み上げて行くだけです」

 

 そう呟くフリートが見つめる先には、次々と各種部分のパーツがアームによって運ばれ一つのデバイスが組みあがって行く映像が映し出されていたのだった。

 

 

 

 

 

 何処とも知れぬ場所。

 その場所に二つの影が立っていた。一人は一般的な大人の男性ぐらいの大きさ。もう一つは子供ぐらいの大きさだった。

 

「・・・スカリエッティから連絡が届きました。どうやらスポンサーと敵対している管理局内の連中がやって来たようです」

 

「そうかい・・・全く事前に情報が渡って来ていたのに、防衛の戦力が殆ど無くなっただなんて笑い話にもならないよ」

 

「仕方が無いでしょう。どうやら『デジタルワールド』側も本格的に動き出したらしいですからね・・デジモンの力を使いこなせていないスカリエッティ達では荷が重いでしょう」

 

「まぁ、そうだね・・・・それじゃ僕は行って来るよ・・・全滅させても良いだろう?」

 

「スポンサーは構わないらしいですから、貴方のお好きなように」

 

「最近運動不足だったから・・少しは運動出来る事を願うよ、それじゃね、倉田」

 

 そう小柄な少年らしき者が告げると共に、音も無く影は消失した。

 残されたもう一つの影は、スカリエッティの研究所を急襲しようとしている管理局員達に同情を僅かに覚えるのだった。




次回はよりにもよって奴が動き出します。

前作までだとブラックが奴出会う機会が中々無かったので、今回は初期の内に出会います。
巻き込まれる管理局員の方々には運が無かったとしか言えないでしょうが。

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