目覚めたブラックウォーグレイモンはフリートに研究所内部を案内されながら通路を歩き、互いの事情を説明し合っていた。
「成る程、この世界は既に滅んでいると言う事だな?」
「ええ、人間はもうこの世界には一人も居ません。この世界に存在しているのは世界の管制を担っていた私だけです」
ブラックウォーグレイモンの質問に、フリートは悲しげな声で答えた。
しかし、ブラックウォーグレイモンはフリートの悲しみに構わず、自身の用件を言い始める。
「ふん、伝説の地と言っても所詮は人間の作った場所か……まぁ、良い。それで俺はこの世界から別世界に移動出来るのか?」
「可能ですよ。ですが、この世界を出て如何する気ですか?」
「決まっている。強い奴を見つけて戦うんだ! より強くなる為に!」
フリートの言葉にブラックウォーグレイモンは世界に宣言する様に叫んだ。
彼にとって戦いは、自分の欲を満たせるただ一つのもの。言うなれば完全な戦闘狂なのだ。
「俺は生きている。ならば、自由に生きるだけだ。誰にも俺を束縛などさせない。俺は、俺の意思で生きる!」
「……面白い考えです。良いでしょう。貴方を外の世界に送ります」
ブラックウォーグレイモンの言葉を聞いたフリートは面白そうな表情を浮かべながら、一つの部屋へ入って行く。
その様子を見たブラックウォーグレイモンは、同じ部屋に入って行き、部屋の中を見回すと一つの魔法陣を見つける。
「それは?」
「この魔法陣の中に入れば外の世界に行けます。ですが、一つだけ条件があります」
「何だ?」
「このネックレスを付けて行って欲しいのですよ」
ブラックウォーグレイモンの質問に、フリートは答えながら何処からともなく蒼い宝石が付いたネックレスを取り出した。
そしてフリートはそのネックレスをブラックウォーグレイモンの首に付けながら、ネックレスについて説明を始める。
「このネックレスを付ければ、私と何時でも通信が可能な上に、この場所に何時でも来れますよ」
「何故そんな物を俺に渡す?」
「簡単に言いますと、私も寂しいんですよ。何せ、此処にはもう誰も居ませんし、話し相手も居ませんので。それに私も外の世界を見てみたいんですよ」
「良いだろう。だが、俺の邪魔だけはするなよ」
「分かっていますよ」
ブラックウォーグレイモンの言葉に、フリートは笑みを浮かべて頷く。
そしてもうフリートには用は無いと判断したブラックウォーグレイモンは陣の上へと移動し、別世界へと転移して行くのだった。
砂漠だらけの世界では、桃色の髪に鎧を着て、手に剣を持った女性と、黒いマントを身に着け、金色の鎌を作り出している戦斧を握った金髪の少女が、互いに傷だらけになりながら戦っていた。
「ハアッ!」
「くっ!?」
ーーーガキン!!
少女の振るって来た金色の鎌を、女性は持っていた剣で受け止め、二人は戦闘を続けていく。
そして二人の戦いを遠くから注意深く観察している者が存在していた。
(奴らは俺の前世の知識の中で見た事がある。確か、フェイト、シグナムだったか? …あの二人が戦っていると言う事は、今は『闇の書』と呼ばれる遺失物が関わる事件の時期という事か?)
遠くから戦いの様子を観察していた存在-ブラックウォーグレイモンは、シグナムとフェイトの戦いを見て今の時期についての予測をたてていた。
(となれば、奴らを襲うのは適切ではないな。奴らもかなりの実力だが、所詮は人間レベル。今戦ってもつまらん。それに俺の知識も穴だらけだ。此処は情報を集める方に遵守すべきだろう)
ブラックウォーグレイモンはそう考え、その場を去ろうとする。
しかし、自身以外に戦いを見ている者の気配を感じとり、前に踏み出そうとしていた足を止め、フェイトとシグナムの方に再び目を向ける。
「気に入らんな。真剣勝負の戦いの邪魔をするとは。良いだろう。戦いの邪魔をする奴に礼儀を教えてやろう!!」
ーーービュン!!
ブラックウォーグレイモンはそう叫ぶと共に、瞬時に自身のスピードを全力で発揮し、音速を超える動きでフェイトの後ろに移動した。
「何!?」
「えっ!?」
突如して現れたブラックウォーグレイモンに、二人は驚愕の声を上げるが、ブラックウォーグレイモンは気にせずに右手に装備したドラモンキラーを振り上げ、フェイトの左側に向かって突き出す。
「ドラモンキラーー!!!」
ーーードゴン!!
「ガアァァァァーーー!!」
『なっ!?』
ブラックウォーグレイモンがドラモンキラーを突き出した先に、突如として仮面を付けた男の姿が現れ、砂を撒き散らしながら吹き飛んでいく。
仮面の男の姿を見たシグナムとフェイトは驚いた声を上げるが、ブラックウォーグレイモンは気にせずに立ち上がろうとしている仮面の男に顔を向ける。
「コソコソと隠れて、真剣勝負の戦いの邪魔をするとは気に入らん」
「ぐっ! 何者だ貴様は!?」
「これから死ぬ貴様には関係無い。大人しく死ね」
「何だと!?」
ブラックウォーグレイモンの言葉に、仮面の男は叫ぶが、ブラックウォーグレイモンは気にせずに瞬時に仮面の男の前に移動した。
ーーービュン!!
「なっ!? 速すぎ…」
「フン!!」
ーーードゴォ!!
「ガアッ!?」
一瞬の内に自身の目の前に現れたブラックウォーグレイモンに、仮面の男は驚いた声を上げるが、ブラックウォーグレイモンは気にせずに仮面の男の腹を蹴り飛ばした。
そしてその勢いのまま後方へと吹き飛ばされた男の先に、再び瞬時にブラックウォーグレイモンは移動し、吹き飛んで来る仮面の男に向かって右腕を振り下ろして地面に仮面の男を叩き付ける。
---ドゴンッ!!
「グハッ!!」
「やはりこの程度か」
地面に倒れ伏している男を見下ろしながら、ブラックウォーグレイモンはつまらなそうな声を出して呟いた。
その様子を見ていたフェイトとシグナムは驚愕に表情を染めて、ブラックウォーグレイモンを見つめる。見えなかったのだ。高速戦闘を得意としている筈なのに、ブラックウォーグレイモンの動きは、影さえも追う事が出来なかった。その事実は二人を驚かせるのに充分だろう。
そして二人が驚愕している内に、ブラックウォーグレイモンはドラモンキラーの刃を、仮面の男に振り翳す。
「終わりだ」
「ッ!! 駄目だよ!?」
ブラックウォーグレイモンのしようとしている事に気が付き、フェイトは止める為に叫んだ。
しかし、ブラックウォーグレイモンは止まらずに、ドラモンキラーの刃を気絶している仮面の男に突き刺そうとする。
たが、次の瞬間にブラックウォーグレイモンの周りに魔力の檻が出現し、ブラックウォーグレイモンは閉じ込められる。
ーーーガシィィィィィン!!
「何だこれは?」
自身を囲んだ魔力の檻に、ブラックウォーグレイモンが疑問の声を上げて魔力の檻を見つめる。
その間に別の仮面の男が何処からともなく現れ、倒れ伏している仮面の男をブラックウォーグレイモンの傍から救出し、その場から転移して行った。
それを見たブラックウォーグレイモンは不愉快そうに表情を歪めながら自身の周りに発生している魔力檻に向かって、右腕のドラモンキラーを振り下ろす。
ーーーバキィィィィン!!
「ふん! つまらなすぎる…(しかし、魔法か…デジモンとは違う力……何かしらの対処を考えるべきか)」
ブラックウォーグレイモンはそう呟くとその場を去ろうとするが、フェイトがブラックウォーグレイモンの背に向かって叫んで来る。
「待って下さい!貴方は一体!?」
「俺の名はブラックウォーグレイモン。縁が有ればまた会おう」
ーーーシュウン!
ブラックウォーグレイモンは自身の名をフェイトに告げると共に自身の足元にフェイトが見た事も無い魔法陣を発生させて、フェイトの前から転移した。
そして残されたフェイトはすぐに後方を振り返りシグナムの姿を探すが、既にシグナムの姿は何処にも無く、悔しそうな表情をしながらアースラへと戻って行く。
これが後に広域次元犯罪者『漆黒の竜人』と呼ばれる事になるブラックウォーグレイモンと、管理世界の人間の初邂逅で在った。