深々と雪が空から舞い落ちる荒野。
なのはとヴィータを襲った『ガジェットⅠ型』を操っていた長身で無駄なく引き締まった体を戦闘スーツで覆っている大柄な女性-『トーレ』と、同じ戦闘スーツに身を包み、その上にコートを羽織った小柄な銀髪の少女-『チンク』、そして『クアットロ』と呼ばれた『バイオ・レディーデビモン』は前後を挟まれる形で固まっていた。
前方に立つ巨大な銀色の狼-『ガルルモン』は三人と戦う事になっても問題は無かったが、後方に立つルインを肩に乗せたブラックの存在は完全に別だった。三人は管理世界で殆ど知られていない『デジモン』と言う種族を理解し、その中でも『究極体』と呼ばれる世代の規格外さを理解している。
クアットロが進化しているバイオ・レディーデビモンも『完全体』と呼ばれる世代だが究極体には遠く及ばない。更に言えば後方に立つブラックは、二年前に次元世界中にその名を知らしめた存在。万全な状態でも勝てる可能性が限り無く低い相手と戦う事態に、三人は冷や汗を流していた。
(クアットロ・・・お前のせいだぞ。さっさと事を終わらせていればこんな事態になる事は無かった)
(チンクの意見に同感だ)
(そ、そんな!? チンクちゃんもトーレお姉様も酷い!)
そうクアットロは悲痛な声を出すが、トーレもチンクもクアットロの意見に耳を貸す気は無かった。
本来ならば任務を終え次第に早急にこの場から転移する予定だったのだが、クアットロがなのはを嬲るような事をしてしまった為にブラックがやって来る時間を作ってしまった。その責任はクアットロに在るので、トーレとチンクは後で更に追求しようと心に決める。
そんな三人の様子に構わずにブラックはゆっくりと前に一歩踏み出し、トーレとチンクの腰の辺りに備え付けられているホルスターに収まっている細長い四角い機械に目を細める。
「・・・・貴様ら、全員『バイオ・デジモン』の処置が行なわれているな?」
「・・・何の事だ?」
「とぼけるな。其処に居る『レディーデビモン』の背中にあるカプセル。そして貴様と其処の小娘の腰に在る機械には覚えがある。それは本来ならば次元世界に在る筈の無い代物・・・・教えて貰おうか? 貴様らに『バイオ・デジモン』の技術を教えた『倉田明弘』の居所を」
「嫌だと言ったら?」
「こうするまでだ」
ーーービュン!!
『ッ!?』
言い終えると共に消失したブラックの姿に、三人は理性ではなく宿った本能に従って迷う事無くそれぞれ別方向に飛び去った。
同時に三人が直前まで居た場所にブラックがドラモンキラーを振り下ろし、地面が爆発したように大きく吹き飛ぶ。
ーーードゴオォォォォォォォォン!!!
「クッ! 分かっていたが出鱈目な! (本気で振るった様子も無くこの威力・・・・間違いなく二年前よりも実力が上がっている! 出し惜しみなどしていられん!)」
ブラックの実力の高さを本能と理性で瞬時に理解したトーレは、迷う事無く腰のホルスターを紫色の機械を抜き取る。
別方向に飛んだチンクもトーレと同じようにホルスターから黄色の機械を取り出し、二人は機械の上部分に右手を押し当てる。
『ハイパーーバイオエヴォリューーーション!!!』
ーーーギュルルルルルルッ!!!
トーレとチンクが自らの機械に押し当てていた右手を滑らすと共に、二人の体を覆い尽くすように蒼いデジコードが発生した。
発生したデジコードは繭を形成し、トーレのデジコードの中からは背中にロケットエンジンとバイオ・レディーデビモンと同じカプセルを背負い、体にベルトの様な物を身に付け、両手足が金属の腕で出来た蒼い狼の頭部を持った獣人-『バイオ・マッハガオガモン』が突き破るように現れる。
チンクのデジコードは徐々に大きさを増して行き、十メートル以上の大きさになった瞬間に弾け飛び、デジコードが消え去った後には巨大な体を支える四肢で地面を踏み、幾つものブレードを背中に生やし、背中の一部に大きなカプセルが存在し幾つモノ黒いコードが体に伸びているステゴザウルスを思わせる生物-『バイオ・ステゴモン』が現れた。
「バイオ・マッハガオガモン!!」
バイオ・マッハガオガモン、世代/完全体、属性/データ種、種族/サイボーグ型、必殺技/ガオガトルネード、ウィニングナックル、ハウリングキャノン
莫大な推進力をもつロケットエンジンを背負う蒼い狼の獣人で在り、サイボーグ型デジモン。本来ならば滞空時間は短いが元々空戦が出来るトーレが進化した事に寄って滞空時間は飛躍的に伸びている。また、瞬間の最大推力を生かし、ヒットアンドウェイを最も得意としている。トーレが進化したバイオデジモン。必殺技は、最大推力で相手を竜巻の中に包囲し、超高速連打を放つ『ガオガトルネード』に、サイボーグアームから渾身の一撃を放つ『ウィニングナックル』。そして弾丸のような咆哮を相手に向かって放つ『ハウリングキャノン』だ。また『戦闘機人』の固有スキルも失っていない。
「バイオ・ステゴモン!!」
バイオ・ステゴモン、世代/アーマー体、成熟期、属性/データ種、フリー、種族/剣竜型、必殺技/シェルニードルレイン
ステゴザウルスの姿をした剣竜型デジモン。最近では成熟期体も確認されているが、“友情のデジメンタル”のパワーによって進化したアーマー体であり、背中に生えている無数のブレードは敵からの攻撃を防ぎ、反撃を行える優れもので、好きな方向にブレードを動かすことができる。しかし、一度発射したらブレードは進化を解かなければ戻らないと言う弱点が存在し、全てのブレードを撃ち出したら背中かががら空きになってしまう。必殺技は、背中のブレードを上空に打ち上げ、敵の頭上に降らす『シェルニードルレイン』だ。『戦闘機人』であるチンクが進化したバイオデジモンの為に、チンクの固有スキルは失われていない。
(これが『バイオ・デジモン』・・・・リンディさんの進化に似ているけれど、こっちの進化は『デジモン』と融合して行なわれる進化!!)
トーレとチンクの進化の様子を見ていたガルルモンは、警戒心を高めながら何時でも反応出来るように身を僅かに低くする。
そして進化を終えたトーレとチンクは即座に戦闘態勢を整え、ガルルモンとブラックをそれぞれ見回して瞬時に行動を決める。
(チンク。お前はクアットロと共にガルルモンを仕留めろ。その間の時間は私が稼ぐ)
(分かった。其方は任せたぞ・・・・クアットロ。分かっているだろうが、今度は遊んでいる時間など無いぞ?)
(分かってますわ。でも、その前に目標だけは先に仕留め・・・・)
クアットロはチンクの念話に答えながら、倒れ伏している筈のなのはとヴィータが居る場所に目を向けて言葉を失った。
先ほどまでなのはとヴィータが居た場所には動けずに地面に倒れ伏していた二人の姿が無かったのだ。その事にトーレとチンクも気が付き、慌てて辺りを見回してみると、上空でなのはとヴィータをそれぞれ小脇に抱えたルインを見つける。
「なっ!? い、何時の間に!?」
「ブラック様が攻撃を仕掛けると同時にです。では、ブラック様? 私はこの二人をジャミングが掛かっていない範囲まで連れて行きます」
「あぁ、さっさと連れて行け」
「では、失礼します。フラッシュムーブ」
ーーービュン!!
言い終えると共に移動魔法でスピードが上がったルインの姿は、一瞬の内に遠くに去って行った。
任務の一部がこれで失敗に終わってしまった事実にトーレ達の顔は苦虫を噛み潰したように歪む。本来の任務では高町なのはとヴィータを『ガジェットⅠ型』とステルス機能を持たせた機動兵器で抹殺し、その後に直前の戦いで疲弊している筈のブルーメラモン、アイスモン、アイスデビモンの捕獲が三人に与えられた任務だった。
なのはとヴィータの抹殺はトーレ達の主のスポンサーからの依頼に過ぎず、寧ろ三人が主から重要視されていたのはブルーメラモン達の捕獲の方だった。しかし、予想外のリンディの乱入によりブルーメラモン達の捕獲は難しくなり、なのはとヴィータは無事に逃げ果せてしまう寸前だった。一応スポンサーとの契約上の為になのはとヴィータの抹殺だけは完遂しようとしたが、今度はよりにもよってブラックと鉢合わせてしまった。
「(今日は厄日だ・・・だが、何としても逃げ切らねば)・・・行くぞ!! ハウリングキャノンッ!!」
ーーードゴオォォォォォォン!!
トーレがブラックに向かって咆哮を上げると共に、弾丸のように衝撃波がブラックに向かって真っ直ぐ放たれた。
ブラックは真っ直ぐに自分に向かって突き進んで来るハウリングキャノンを目にすると同時に、地面から空へと舞い上がる。防御するでも撃ち破るでも無いブラックの行動にトーレは僅かに疑問を抱くが、空に上がってくれたのは自分としても助かるので自身の手足からそれぞれエネルギー状の刃を出現させて、ブラック同様に空へと舞い上がった。
残されたチンクとクアットロもトーレの指示に従ってガルルモンに向かって攻撃を開始し、空と地上での戦いが始まった。
上空に上がったブラックとトーレは自らの武器を構えながら互いの隙を探るように睨み合う。
「・・・・フン、貴様が時間を稼いでいる隙にガルルモンを倒す作戦のようだな」
「・・・其処まで分かっていながら、何故上空に上がった? 自らの仲間のデジモンを危険に晒すつもりか?」
「必要が無いからだ。ガルルモンを舐めるな。奴を並みの成熟期だと考えているなら間違いだ。さて、無駄話は終わりだ。どうやらただの『バイオ・デジモン』とは違うようだ。俺を楽しませてみろ!!」
「クッ!! ハアァァァァァァァァァァァァーーーーッ!!!」
ブラックの咆哮に気押されないようにトーレも咆哮を上げ、互いに自らの武器を振り抜くのだった。
戦場から離れたルインは真っ直ぐに前へと突き進み、一定の距離に達すると共に地上へと降り立つ。
周りに敵の気配が感じられない事を確認すると共に両脇に抱えていたなのはとヴィータを地面に降ろし、なのはの脇腹に開いた傷口に手を当てる。
「・・・・かなり深いですね。これは内臓にも損傷が及んでいるでしょう・・・本格的な治療はあっちに任せて、応急処置だけはしておきますか・・・・静かなる風よ、癒しの恵みを運び、この者を癒したまえ」
詠唱を終えると共になのはの傷口に当てていたルインの手から魔力光が発生し、手を退かした後には出血が止まっていた。
一先ずはこれで命は繋いだのを確認すると共に、ルインはゆっくりとヴィータに目を向けて眼を細めながら胸元に手を置く。
「・・・・何時まで眠っているつもりですか? 鉄槌の騎士」
ーーーズボッ!!
「ッ!? アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
言葉と共にルインの右手はヴィータの胴体に入り込んだ。
同時に凍り付いて完全に意識が失っていた筈のヴィータの目が見開き、悲鳴が口から放たれた。その悲鳴をルインは聞くと共にヴィータの体から手を引き抜き、ヴィータは荒い息を吐く。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・て、手前・・・ルインフォース?」
「正解です。二年ぶりですね、鉄槌の騎士?」
「・・・あ、あたしに何しやがった?」
「? ・・・・あぁ、そう言えば結構忘れていたんでしたっけね。『守護騎士強制修復機能』。生真面目と主、そして私だけが使えるシステムですよ。まぁ、もう切り離された私が無理やり介入して行なったので激痛が走ったでしょうけど、良い気付けになったでしょう?」
「な、何が良い気付けだ、こ、このや・・・・・」
ルインに向かってヴィータは言い返そうとするが、その言葉は途切れた。
何故ならばヴィータの視界の中に私服を血で染めたなのはの姿を捉えたからだった。呆然とヴィータは固まるが、すぐに状況を把握して痛む体に鞭を打ってなのはの傍に近寄る。
「おい、おい! 確りしろよ、なのは! おい!!」
「無理に動かさない方が良いですよ。応急処置はしましたが、結構血が流れていましたからね」
「だ、誰がなのはを!? あたしが気を失ってから何が在ったんだよ!?」
「ずっと護っていたんですよ。凍り付けになっていた貴女を彼女は・・・・さっさとグラーフアイゼンを修復させて艦艇と連絡を取りなさい・・・それじゃぁ、さような…」
「待てよ!!」
「ん?」
背後から聞こえて来た声にルインはゆっくりと振り返ると、何かを悩むような表情をしたヴィータが見つめていた。
「・・・・・何で助けた? なのははともかく、お前あたしの事は憎んでいるんだろう?」
「・・・憎んでいますよ、これ以上に無いぐらいにね。助けるなんて本当は死んでもゴメンですけど・・・・借りを返さないと嫌ですからね、“八神はやてに”」
「はやてに?」
「そうです」
ルインにとって守護騎士とリインフォースは抹殺したいほどに憎んでいる相手なのだが、此処で現在の『夜天の魔導書』の主であるはやての存在が在った。
はやてに対してはルインは怒りも憎しみも抱いていない。寧ろ何も知らないおかげで自分を『夜天の魔導書』から切り離してくれたので、リインフォースに邪魔される事無くブラックと言う主を得られた。もしも切り離されずにブラックに手を伸ばしていた場合、リインフォースが確実に邪魔をして来る。ある意味では、はやてのおかげでブラックと安全に契約出来たのでルインにとっては恩人に当たる。二年前に守護騎士達とリインフォースを見逃した理由も、彼らを家族と思っているはやてが居たからだった。
ルインの主であるブラックは基本的に傍若無人に動くが、誰かに借りが在る時だけはその借りを返す為に動く。ルインもまた借りを返さないと気が済まない部分を持っていたのだ。
「まぁ、今回の件で八神はやてへの借りは返し終えました。次は助けないので、自力で頑張るんですね」
そう告げると共にルインは浮かび上がり、振り返る事無く去って行った。
残されたヴィータは去って行くルインの背を呆然と見つめるが、すぐさま我に返ると共にグラーフアイゼンを修復し、急いで自分達が乗って来た艦艇と連絡を取るのだった。
「ダークネスウェーーブッ!!」
「フォックスファイアヤーーー!!!」
ーーードゴオォォォォォォン!!
雪が降り注ぐ荒野を走り回りながらガルルモンは口から青い炎を放ち、上空からバイオ・レディーデビモンに進化しているクアットロが放ったコウモリのような飛翔物を迎撃した。
そのままガルルモンは全速力で荒野を駆け抜け、その先に居るバイオ・ステゴモンに進化しているチンクに向かって行く。
「ウオォォォォン!!」
「(速い!)・・・・・だが、舐めるな!」
接近して来るガルルモンに対してチンクは背中に生えているブレードの一本の切っ先を動かし、ガルルモンに対して射出した。
ガルルモンは真っ直ぐに突き進んで来るブレードを瞬時に見切り、最小限の動きで回避しようとする。だが、直前に嫌な予感が走り、大きく横に飛び去ると同時にチンクが叫ぶ。
「IS発動!! ランブルデトネイターーーッ!!!」
ーーードゴォン!!
「クッ!」
チンクが叫ぶと同時にガルルモンに向かって放たれたブレードが空中で爆発を引き起こした。
大きく飛び去っていた事でガルルモンは僅かに体勢を崩すが宙で体勢を整え直し、危なげなく地面に着地する。
(『ステゴモン』には自分が放ったブレードを爆発させる力なんて無い筈? やっぱり普通の『ステゴモン』と違う! これが彼女の『バイオ・デジモン』としての力なのか!?)
(初見で私のISを見切るとは!? ・・・・・いや、違う。見切ったのではなく奴は直感で危険を感じ取った。己の直感に忠実に従い、私を警戒しながらも完全体であるバイオ・レディーデビモンに進化したクアットロの攻撃を冷静に対処する判断力・・・・間違いなく奴は成熟期でありながらも完全体に匹敵するほど強い!!)
ガルルモンとチンクは互いに目の前に居る相手の力を悟った。
だが、僅かに追い込まれているのはガルルモンの方だった。チンクの持つインヒューレントスキル。通称『IS』の名称は『ランブルデトネイター』。その能力は一定時間手で触れた金属にエネルギーを付与し、爆発物に変化させる能力。人間時では爆発出来る金属に制限が存在し、主に自らの武装である『スティンガー』を爆発物に変えて使用する。だが、『バイオ・ステゴモン』へと進化すれば、その制限はかなり縮小され、自らの背に生えているブレードだけではなく、進化して巨大となった体の大きさ以下の金属を全て爆発物に変えられるようにチンクはなっている。
ガルルモンは先ほどの攻撃でチンクの持つ能力を大体悟っていたが、それは逆にチンクの攻撃は大きく回避しなければならないと言う事になる。
(爆発のタイミングはバイオ・ステゴモンの自由自在・・・・一体一なら方法は在るけれど、今は!?)
「フフッ、成熟期のくせに頑張りますわね」
ガルルモンは上空に目を向け、嗜虐に満ちた笑みを浮かべているクアットロを捉える。
チンク一人ならば撹乱するように動き回れるのだが、上空から攻撃を繰り出して来るクアットロが厄介だった。完全体のデジモンと融合しているだけにクアットロの攻撃は強力。迎撃を誤れば大ダメージどころか戦闘不能に追い込まれてしまう。
このままでは不味いと思いながらガルルモンは何とか打開策を考える。
「(・・・・・・一か八か・・・・失敗すれば其処までだけど、このままジリ貧の戦いを続けるよりは良い!!)・・・・行くぞ!! アイスキャノン!!」
ーーードォン!!
ガルルモンは口を大きく開けると共にチンクに向かって大きな氷の塊を口から放った。
自らに向かって高速で迫って来る氷の塊を目にしてもチンクは慌てる事無く、背に生えているブレードの一本を操作して氷の塊に照準を合わせて射出する。
射出されたブレードは真っ直ぐに進み、氷の塊と激突するがブレードは氷の塊を粉砕してガルルモンに直進して行く。しかし、氷の塊は砕けたと同時に辺りに散らばり、チンクの視界を僅かに遮る。それを待っていたと言うようにガルルモンは後ろ足を全力で蹴りつけて弾丸のようにチンクに向かって走り出す。
ーーードン!!
「ウオォォォォォォォッ!!」
「自棄になっての突進しての攻撃か? 無駄な事だ! シェルニードルレインッ!!」
ーーードドドドドドドドドドドドドッ!!
チンクが叫ぶと共に一斉に背中に生えているブレードの半数近く照準がガルルモンに合わさり、背中から射出された。
弾丸のように突進したガルルモンが避けられる筈無いとチンクは確信するが、次の瞬間、チンクだけではなく上空に居るクアットロも目を疑うような光景が広がった。
自らが地面を蹴りつける事で発揮した速さをガルルモンは、一切損なう事無く信じられないほどの身のこなしでブレードの中を駆け抜けて行く。
『なっ!?』
「ウオォォォォォォッ!!」
次々と迫って来るブレードを四本の足を器用に利用し、ガルルモンは時間差で迫って来るブレードの中を駆け抜ける。
無論回避し切れずにブレードの刃はガルルモンの体に傷を付けて行くが、一本たりともガルルモンは自らの体にブレードが突き刺さらない様に器用に体を動かして避けている。チンクの能力が金属を爆発させる能力だと判明した今、一本でもブレードが体に突き刺さればそれだけで致命傷になってしまう。体の内側からの爆発など防げる筈が無いのだから。
一瞬でも判断を誤れば致命傷になってしまう行動をこなすガルルモンに、チンクとクアットロは揃って言葉を失うが、すぐにチンクは我に返る。
「ッ! これで終わりだ! IS発動 ランブルッ!!」
(今だ!)
チンクがISを発動させるのを感じたガルルモンは、自らの後ろ足に負担が掛かるのも構わずに飛び上がると同時に一斉にブレードが大爆発する。
「デトネイターーーッ!!!」
ーーードゴォォォォォォォン!!!
「ウオォォォォォッ!!」
ブレードが大爆発すると同時に飛び上がっていたガルルモンは、爆発と共に発生した衝撃と共に空高く舞い上がる。
その舞い上がった方向にはクアットロが浮かんでいた。チンクはその動きに最初からガルルモンの狙いがクアットロに在った事に気がつくが、狙われているクアットロも含めて慌てる事は無かった。
『ランブルデトネイター』と言う金属を爆発させるISをチンクが所持しているように、クアットロもまた固有のISを所持している。その名は『
その力をクアットロは既に使用している。今空中に居るクアットロの姿自体が幻影。本体は姿を透明にさせて隠れている。つまり、攻撃したともガルルモンが行う事は無意味でしかない。そして空中と言う本当にガルルモンが身動きを取れない場所に居る今、次の自分達の攻撃でガルルモンは倒せると二人は確信する。
案の定ガルルモンの口から青い炎が見えるが、狙われているクアットロは慌てる事無く寧ろ冷笑を口元に浮かべ、次の瞬間に目を見開く。
青い炎が放たれる直前、ガルルモンは空中に映っているクアットロではなく、自らの能力で透明化しているクアットロに向かって口を向けて蒼い炎を放つ。
「フォックスファイヤーーーー!!!」
「なっ!? キャアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーー!!!!」
「クアットロ!?」
攻撃されることは無いと高をくくっていたクアットロは、無防備な状態でフォックスファイヤーをその身に食らった。
全身を蒼い炎に焼かれながらクアットロは悲鳴を上げながら暴れるが、ガルルモンは構わずに落ち始めている自らの足元に氷の壁を発生させてクアットロに向かって飛び掛かる。ガルルモンが所有している技の一つ『アイスウォール』の応用技。熟練したデジモンは自らの技と能力を応用する事を覚える。
それによって僅かながらも滞空移動を可能にしたガルルモンは、クアットロに向かって鋭く爪を伸ばした右前足を振り抜く。
「これで終わりだ!!」
ーーードガッ!!
「ガッ!!」
ガルルモンが振り抜いた一撃をクアットロは避ける事が出来ず、その身に食らい右頬辺りから体に向かって傷ができ、血が空中に飛び散る。
その勢いのままクアットロはチンクの背中に向かって吹き飛んで行く。自らに向かって吹き飛んで来るクアットロを目にしたチンクは慌ててブレードが無い箇所にクアットロがぶつかるように体を動かす。
ーーードゴォッ!!
「グゥッ!! クアットロ! 無事か!?」
「・・・・・アァァァ・・・・顔が!? わ、私の顔が!?」
チンクの呼びかけに進化が解けて茶色の髪にメガネを掛けてチンクとトーレと同じ戦闘スーツを身に纏ったクアットロが、自らの右頬を押さえて全身に走る苦痛に苦しんでいた。
その間に地面に危なげなくガルルモンは着地し、チンクが苦虫を噛み潰したような顔をした瞬間、上空から凄まじい勢いでチンクのすぐ傍にトーレが落下して来る。
ーーードゴオォォォォン!!
「・・・・ウゥ・・・ウァ・・・」
「トーレ!?」
クアットロ以上に全身に傷を負い、進化が解けて意識が在るのかも怪しいトーレの姿にチンクは悲鳴のような声を上げた。
その間にガルルモンの傍にブラックがゆっくりと降り立ち、クアットロとトーレを庇うように立つチンクを睨みつける。
「少しは楽しめた。しかし、本来融合したデジモンに無い能力を得るか・・・・(倉田の奴は厄介な相手と手を結んでいるようだな)」
ブラックは目の前に居るチンク、トーレ、クアットロの背後に居る黒幕の正体を知識として知っている。
別世界の未来では管理局に大打撃を与えた相手。危険過ぎる存在にデジモンに関する知識が渡ってしまった事実にブラックは内心苦々しげな想いを抱きながら、自らの右手のドラモンキラーの爪先に赤いエネルギー球を出現させる。
「さて、改めて聞かせ貰おうか? 倉田は何処に居る?」
「クッ!!」
殺意と共に放たれた質問にチンクは口元を悔しげに歪めた。
答えなければ明らかに殺すと言うブラックの意思表示。傷だらけのトーレとクアットロを護りながら勝てる相手でないのは明らか。情報を告げるしかないとチンクが諦めかける。
だが、次の瞬間、ブラックとガルルモンは同時に上空に顔を向け、此方へと高速で迫って来る全翼機のような形状をしてる航空型の機動兵器-『ガジェットⅡ型』と『ガジェットⅠ型』が三十機を目にする。
チンクも迫って来る二つの機動兵器に両目を驚愕で見開く。
(アレは試作型のドクターの兵器!? しかし、アレは研究所の護りに使っていた筈! 何故この場に!?)
(チンク!)
(その声はウーノ!?)
脳裏に聞こえて来た一番上の姉の声にチンクは内心で驚くが、声の主であるウーノは構わずに用件だけを伝える。
(今から一瞬だけ隙を作るわ! その隙に二人を連れて逃げなさい!! 良いわね!)
(・・・分かった)
ウーノの指示にチンクは了承の意を示し、すぐに逃げられるように身構える。
ブラックとガルルモンはそのチンクの動きに気がつくが、高速で迫って来る『ガジェット』から目を離さずに居る。機動兵器の攻撃は本来ならば脅威ではないが、相手側に倉田が関わっているならば油断する訳には行かない。
一体どんな攻撃をして来るのかとブラックとガルルモンが警戒していると、『ガジェット』全機が更にスピードを上げて迫り、チンク達とブラック達の間に入り込んだ瞬間、一瞬にして全ての『ガジェット』が爆発する。
ーーードゴオォォォォォォォン!!
『クッ!!』
三十機の同時爆発と『ガジェットⅡ型』に積まれていた火薬などで引き起こった大爆発の衝撃から護るようにブラックとガルルモンは身構えた。
そして爆発の影響が治まり、煙が吹き去った後にはチンク達の姿は影も形も無かった。逃げ去ったのだとブラックとガルルモンは悟るが、二体は慌てる事無く辺りを見回す。
「・・・・逃げたみたいですね」
「そうだな・・・・場所を聞き出すよりも
最初からブラックとガルルモンはチンク達を見逃すつもりだった。
目的の人物である倉田に辿り着く為には、怪しまれずに後を追う方が辿り着ける。その為に殺さないようにブラックは加減していた。既にチンク達にはフリート製の追跡機が付いている。
後はそれを頼りに追い詰めるだけだとブラックは思いながら、ゆっくりとガルルモンに振り返り、ガルルモンの全身を蒼いデジコードが覆うのを確認する。
ーーーギュルルルルルルッ!!
「・・・・フゥ~ウ」
「かなりダメージを受けたようだな? ガブモン」
「はい・・・・正直あのまま戦っていたら危なかったです」
進化を解いて成長期の姿に戻ったガブモンは、地面に座り込みながらブラックの質問に答えた。
無茶な動きを続けたせいでガブモンの両手足はもはや限界だった。立つことさえも痛みを感じていたのだから走ることなど不可能。ブラックがトーレを倒して地上に降りて来なければ、ガブモンはチンクの攻撃を避ける事が出来ずに敗北していただろう。
「・・・・無茶をした理由はレディーデビモンに進化していた女が理由か?」
「・・・・・あんな風に嬲るようなやり方は赦せない・・・・だから、絶対に後悔させてやるって思ったんです」
「・・・・フッ、確かにな」
ブラックはガブモンの考えに同意を示しながら、ゆっくりとガブモンに右手を伸ばし、体を掴み上げる。
「戻るぞ。どうやら他のデジモンどもは先にアルハザードに向かったらしいからな」
「はい」
二体はそう呟き合うと、なのはとヴィータを避難させていたルインと合流する為に戦いによって荒れ果てた荒野を歩いて行くのだった。
ブラック達とトーレ達が戦った世界とは別世界にあるトーレ達の主のアジト。
その場所の主であるジェイル・スカリエッティは助手であるウーノを横に従えながら、先ほどのブラック達とトーレ達の戦闘の様子が映し出されているモニターを興味深そうに眺めていた。
「ドクター、トーレ達の回収は完了しました。すぐに治療を開始いたします」
「宜しく頼むよ、ウーノ・・・・・しかし、予想外の事態だったね」
「はい。簡単な依頼の筈が予想を超える膨大な被害が出てしまいました。トーレは重傷負い。クアットロもかなりのダメージを受けてしまい、二人とも戦闘への復帰には時間が必要でしょう。唯一戦闘に即座に復帰出来るのはチンクだけ。機動兵器に関してはこの研究所の護衛に使用している物だけしか残っていません。大損害どころの騒ぎでは済まない被害です」
「確かにその通りだが・・・・それに匹敵するほどの戦果も得る事には成功したよ。私達が得た『バイオ・デジモン』技術とは違う技術を用いられているリンディと言う女性の戦闘データ。対魔導師用の兵器として開発した機動兵器とデジモンとの戦闘データ。成熟期でありながら完全体に匹敵する力を持ったデジモンの存在。そして『戦闘機人』だけではなく『バイオ・デジモン』の力を得たトーレと究極体との戦闘。これらは全て素晴らしいデータだ」
「・・・確かに得難いデータですが・・・・どうするのですか? スポンサーから近々レジアス・ゲイズ中将の直属の地上部隊と三提督直属の本局部隊の合同部隊が、この研究所を狙っているとの情報が届いているのですよ? 今回の件でスポンサー側が勢いづく前に彼らは必ず此処を狙って来ます。今の戦力では護り切れるか分かりません」
「問題は無いよ、ウーノ。まだ
「・・・・・分かりました。では、私は帰還したトーレとクアットロの治療を行なってきます」
僅かにスカリエッティの考えに疑念を抱きながらも、ウーノは恭しく一礼して部屋から出て行った。
残されたスカリエッティはウーノが抱いている疑念に気がつきながらも、その口元は楽しげに歪める。
「フフフッ、やはり彼と手を組んだのは成功だった。私に従うだけだったウーノに起きた変化。いや、この変化はきっとウーノだけでは止まらないだろう・・・それにしても・・・素晴らしい」
スカリエッティは何処か恍惚としたような笑みを浮かべながら、モニターに映っているトーレとブラックの戦いの様子を眺める。
バイオ・マッハガオガモンに進化し、更に『戦闘機人』としてトーレが持っているIS『ライドインパルス』を駆使してもトーレはブラックに及ばない。自らの作品が一方的に追い込まれている姿をスカリエッティは悔しがるどころか、寧ろ楽しそうに眺め続ける。
「・・・これこそが私が求めている力。己の意志のままに動ける圧倒的な力だ・・・フフッ、恐らく彼らも此処にやって来るだろう・・・直接会って会話出来る日を楽しみにしているよ。漆黒の竜人ブラックウォーグレイモン君」
そうスカリエッティは必ず訪れるであろうブラックとの邂逅の時を楽しみに待つのだった。
同時刻。スカリエッティとは違う一人のマッド-フリートが、心の底から嬉しそうに自らの研究室で罅割れた赤い宝石のような欠片を右手に持ちながら嬉しげに眺めていた。
「ムフフフフッ、嬉しいですね。本当に嬉しいですよ。まさか、求めていた物がこうも簡単に手に入るなんて思ってませんでした。これで一気に研究が進められます」
自らの右手の中に在る赤い宝石の欠片-大破した『レイジングハート・エクセリオン』のAI部分-が得られた事をフリートは心の底から喜んでいた。
ブラックの首に掛かっているネックレスには物品関係のアルハザードの遺産が見つかった時に転移させる為の機能が備わっている。送られてくる映像の中に大破したレイジングハートが在ったのを捉えた瞬間、フリートは即座にレイジングハートのAI部分を自らの手元に転送させた。あのままデジモン同士がぶつかりあっている戦場に残っていれば、運よく無事だったAI部分も完全に大破してレイジングハートは完全に失われていただろう。最もこれから起きるであろうフリートの実験を思えば、女性人格のレイジングハートにとっては不幸としか言えないのだが。
そんな事が自らの身に降りかかろうとしている事を外界の情報を全く得る事が出来ないレイジングハートが知る事は無く、それを行なおうとしているフリートは大切そうにレイジングハートを保管カプセルの中に仕舞う。
「ムフフフッ、最高の気分です!! リンディさんに知られたら絶対に取られるでしょうから、内緒で研究しないとですね! 求めていたパーツが手に入ったのです! 今度こそ研究を成功させるのです! フフフッ!」
フリートは高笑いを上げながら、コンソールを操作して今までの研究の失敗によって得られたデータを全て利用して研究を完成させる為のデバイスの設計図を作り上げて行くのだった。
ブラックとトーレの戦闘は今回は省きました。
今のところトーレ達はバイオデジモンの力を使いこなせて居ないのでブラックが満足出来る戦闘は難しかったので今回は簡略しました。
逆にガルルモンがクアットロとチンクを相手に互角以上に戦えた理由は、戦った場所が雪原だった事が理由の一つです。
それ以外にもガルルモンが純粋に強かったのも在ります。
次回は今回の件で起きたそれぞれの場所の波紋についてです。