漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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再び更新が遅れて申し訳ありませんでした。

因みに話の流れは大きく変わっています。早い登場が三人ぐらい居ます。


血塗れの出会い

 時は少し戻り、アルハザードの主であるフリートの研究室。

 イガモン達から送られて来た情報の取り纏めとルインの検査を終えたフリートは、此処一年間続けていた研究の実験を行なっていた。何時に無く真剣な眼差しで自らの目の前に展開されている空間ディスプレイと、その先に在るカプセルに内に入っている機械的な杖型のデバイスを見つめる。

 

「今度こそ、今度こそ成功する筈です。一年間の間に失敗し続けていた結果得られたありとあらゆるデータ。それとデバイスに使われている金属。それら全てが加わったデバイスなのです。今度こそ成功間違いなし! では、実験開始! ポチッとな!」

 

《テスト開始》

 

 カプセル内に入っているデバイスの電子音が鳴り響き、重低音のような音が研究室内に響き渡った。

 

《ピピッ・・・・・エレメントシステム起動》

 

「オォォォッ!!」

 

《フレイム・エレメント・・・・セットアッ・・・・ガガガガガガガガガッ・・・・》

 

「えっ?」

 

ーーーポン!!

 

 突如としてデバイスの電子音が異常な音を響いたと同時に、デバイスに組み込まれているAI部分から爆発が起きた。

 それと共に研究室内に響いていた重低音が鳴り止む。カプセル内に充満する黒い煙にフリートは体を震わせ、両手で頭を抱える。

 

「フェ~ン!! また、失敗です!! 何でですか!? 非人格型は成功したのに、人格型のデバイスだと成功しないんですか!?」

 

 此処一年間続けていた実験が今回も失敗した事実に、フリートは嘆きながら空間ディスプレイを操作してカプセル内に消化剤を吹きつける。

 そのままカプセル内に入っているデバイスを機械的なアームで回収するように指示を出すと共に、今の実験で得られたデータも加えた新たなデータを眺める。

 

「ウ~ム・・・・・やはりデータの上では成功している筈・・・・なのに成功しないと言う事は・・・・この研究を完成させる為にはデータで表せない要素・・・・大抵の研究者が考えるどころか排除する要素である“意志”が必要なのでしょう」

 

 フリートは“意志”と言う要素を否定していない。

 寧ろ“意志”と言うものこそがフリートにとって何よりも楽しめる部分の一角を担っているのだから。だからこそ、今の実験を完成させる為にはデバイス自体に並ではない強力な“意志”が必要なのではないのかと思い立った。

 実際に時間は掛かるがインテリジェントデバイスに組み込まれているAIは成長して行き、人間のように受け答えが出来るようになる。フリートを含めたルインやリインフォース、守護騎士達などもその例である。

 

「しかし、AIに自我が確立するまでには時間が掛かりますからね・・・・となると、この研究は一時的に凍結してAIの成長をやるべきでしょう・・・・何処かに無いですかね? 普通のAIじゃ考えられないぐらいに人間的なAI・・・そうそう都合よく在る筈が・・・・・・・」

 

 脳裏に一つのデバイスの存在が過ぎった。

 明らかに通常のデバイスのAIとは考えられないぐらいに人間的で、更に言えばリンディの話では本来の持ち主から別の持ち主をマスターに選ぶほどに自我も確立しているAI。フリートの研究を完成する為に最も適している。

 今すぐ研究を完成に近づけるには最適なAIなのだが、手に入れるには幾つもの問題が存在していた。

 

(・・・・研究の為には欲しいですけれど・・・リンディさんが許してくれないでしょうし・・・まぁ、今回は地道なAIの成長を行なうとしましょう。それはそれで面白そうですからね)

 

 そうフリートは今の研究を一時的に凍結するの決めると、空間ディスプレイに映っているデータに凍結の文字を入力しようとする。

 しかし、その直前に研究室の扉の方から最近備え付けたインターホンからガブモンの声が聞こえて来る。

 

『フリートさん? 今良いですか?』

 

「ガブモン?・・・・・良いですよ。入って来ても」

 

ーーーブゥン!

 

「失礼します」

 

 扉が開くと共にガブモンが研究室内に足を踏み入れた。

 そのままガブモンはフリートの傍に近寄って、ルインから言い渡された伝言を伝える。

 

「ルインさんから伝言で、自分もブラックさんとリンディさんを追うそうです。多分ブラックさんが着けているネックレスから位置を教えてくれって事じゃないでしょうか?」

 

「なるほど。まぁ、ブラックですからね。普通に探すよりもそっちが手っ取り早いですから・・さ~て、ブラックの位置は・・・・・・おや?」

 

「どうしたんですか?」

 

 コンソールに座ってブラックの位置を割り出そうとしたフリートが突然上げた疑問の声に、ガブモンは質問した。

 

「・・・・これは・・・ジャミングらしきモノがブラックの居る付近から出ています」

 

「えっ? じゃぁ、ブラックさんの居場所は分からないんじゃ?」

 

「甘いですね、ガブモン。この程度のジャミングじゃ、私の作った探査装置を邪魔出来る訳が無いじゃないでしょう? それにしてもかなり広範囲にジャミングが掛けられていますね・・・・ムゥッ!」

 

「どうしました!?」

 

「・・・デジモンの反応です! しかも“六体”同時にです!」

 

「えっ!? デジモンが!?」

 

 告げられた報告にガブモンは驚愕と困惑に満ち溢れながら叫んだ。

 何故デジモンが管理世界に居るのかと疑問をガブモンが覚えている間にフリートは探査装置の精度を上げて詳しい情報を瞬時に集めて行く。

 

「むぅっ! デジモン以外にもかなりの数の機動兵器らしき物が居るようです! リンディさんが三体のデジモンと共同して行動しているようですが・・・・機動兵器と共に行動している三体が居ます。恐らくこいつらが機動兵器を操っている連中でしょう」

 

「機動兵器って?・・・・もしかして管理世界の誰かと手を結んでいるデジモンが居るって言うんですか!?」

 

「恐らくはそうでしょう。しかし、これは私達にとってチャンスです! 管理世界の誰かと手を結んでいるデジモン。しかも多数の機動兵器を操っているデジモンとくれば!」

 

「『倉田』に繋がるかもしれないって事ですよね!?」

 

「そうです! ガブモン! 貴方もすぐに向かうんです! この機動兵器と共に行動しているデジモン達が向かう方向に転移装置を設定します。私はブラックにこの事を伝えますので!」

 

「分かりました! すぐに向かいます!」

 

 フリートの指示にガブモンは返事を返すと共に、急いで部屋を出て行った。

 それを確認すると共にフリートはブラックに自分が調べた情報に関する事を伝える為に、通信を開くのだった。

 

 

 

 

 

 深々と雪が空から雪が降るとある遺跡の近く。

 『アルハザード』から勝手に外に出たブラックを連れ戻そうとしていたリンディは、目の前に立っているアイスモンと離れた場所で胸部が黒くこげて気絶しているアイスデビモン、そしてなのはとヴィータを追い込んでいたブルーメラモンの姿に無表情を装いながらも、内心では驚きに満ち溢れていた。

 二年間、定期的に体の検査の為に『アルハザード』に戻る事は在っても、殆ど『デジタルワールド』で過ごしていたリンディには、目の前に居る三体が『デジモン』で在る事が分かっていた。一体何故『ギズモン』ではなく、意思と心を持ったデジモンが次元世界に居るのかと内心で疑問に思いながらも、自分を警戒するように見つめている二体にそれぞれ視線を移していると、警戒心を強めたブルーメラモンがなのはとヴィータに背を向けてリンディに向かって体を向ける。

 ブルーメラモンは本能とリンディの全身から発せられる気配によって悟っていた。背後の上空に居るなのはと、その腕の中で凍り付いているヴィータよりも、アイスモンの目の前に立っているリンディの方が遥かに危険な存在だと言う事を。

 

「アイスモン!! すぐにそいつの傍から離れて、アイスデビモンの護りにつけ!!」

 

「わ、分かった!」

 

 ブルーメラモンの指示にアイスモンは即座に返事を返し、リンディから離れるように後退りながらアイスデビモンの下へと移動して行った。

 リンディはその様子を横目で確認するが、アイスモンには手を出す事無くブルーメラモンに視線を戻す。それと共にブルーメラモンは警戒しながらもリンディに質問する。

 

「貴様は・・・一体“何だ”? 見た目は人間に見えるが・・・その体から発している気配・・・人間では有り得んぞ?」

 

「流石は『デジモン』ね。見ただけで、いえ、感じただけで分かるなんて・・・・確かに私は人間とは言えないわね・・・色々と在って“貴方達に近くて遠い存在”になってしまったの・・・・それよりも? ・・・何故『デジモン』である貴方達がこの世界に居るのかしら?」

 

「フン・・・やはり『デジモン』を知っているようだな・・・良いだろう。貴様の質問に答えてやる。俺達は『管理局の連中』によって一年前にこの世界に連れて来られたのだ!」

 

「ッ!? ・・・・・・そう・・管理局が貴方達を・・・・(例のオファニモンさんが言っていた各デジタルワールドでの『デジタマ及び幼年期デジモンの行方不明』事件が起きたのは一年ぐらい前・・・・間違いなく彼らはその時に行方不明になった子達ね・・・・やってくれたわ)」

 

 無表情を装いながらも内心でリンディは苦々しい思いを抱いた。

 管理世界に放逐されたデジモンがブルーメラモン達だけの筈が無い。既に管理世界全体に悪意の種はばら蒔かれてしまったのだとリンディは内心で苦々しく思っていると、再びブルーメラモンが背後に居るなのはとヴィータに向かって右手の指を向けながら質問して来る。

 

「次の質問だ。さっきの俺の必殺技からあの二人を護ったのは貴様だな?」

 

「・・・・えぇ、そうよ」

 

「・・・・・ならば貴様も『管理局』と言う組織での仲間か?」

 

「前はそうだったわ・・・でも、私はもう彼女達の仲間とは言えないわね。ただ目の前でその知り合いが死ぬ所を見たら目覚めが悪いのよ。出来れば二人を見逃して欲しいのだけれど?」

 

「フム・・・なるほど・・確かに嘗ての仲間が目の前で死ぬのは目覚めが悪くなるな・・・・だが、それは貴様の都合に過ぎない。こっちは漸く見つけた安住の地を荒らされかけたのだ。連中を見逃す事は出来ん」

 

 そう戦意を高めながらブルーメラモンが告げた言葉に、リンディは内心でやはり交渉は無理かと判断する。

 『デジタルワールド』で二年近く過ごしたリンディは、その間に『デジタルワールド』は一部を除いて基本的に弱肉強食の世界だと理解していた。暗黙のルールで街などでは暴れたりしないが、それ以外の森や泉、果ては大地を縄張りとして過ごしているデジモンには、基本的に交渉は難しい。中には交渉も成功する時が在るが、その時が来る方が珍しい。

 何よりもブルーメラモン達はいきなり故郷から連れ去られて幼年期の頃から訳が分からない世界に放逐された為に、尚更に自分達の安住の地を荒らしたなのは、ヴィータ、そして武装局員達を赦す気が無い。戦いは避けられないかもしれないが、それでも出来る事だけはやろうとリンディはブルーメラモン達に向かって告げる。

 

「彼女達を見逃してくれれば、貴方達を『デジタルワールド』に連れ帰って上げると言ってもかしら?」

 

「何ッ!?」

 

「こ、故郷に帰れるのか!?」

 

 リンディが告げた提案の内容にブルーメラモンと気絶しているアイスデビモンの横で話を聞いていたアイスモンは動揺し、思わずリンディを見つめた。

 

「そう、『デジタルワールド』へ貴方達を連れ帰って上げる。この場所が貴方達にとって安住の地だと理解しているわ。だけど、故郷には戻りたいでしょう?」

 

「ぬぅっ! ・・・・(確かにこのまま此処で暮らすよりも、故郷・・・・『デジタルワールド』への帰還はしたい・・・・だが、この女の言葉を信じるべきか?)」

 

 リンディが告げた提案は確かにブルーメラモン達にとって魅力的だった。

 今ブルーメラモン達が居る場所は漸く得られた安住の地ではあるが、今回の件で管理局が自分達に対して何らかの行動を行なって来るのは目に見えている。なのはとヴィータをこの場で抹殺したとしても既に共に居た武装局員達が逃げ延びているので、ブルーメラモン達がこの地に居る事はどうやっても知られてしまう。

 感情面を除けばリンディの提案はブルーメラモン達にとって嬉しい提案なのだが、最大の問題はリンディを信じる事が出来るかどうかだった。

 

(出来ればこの話に乗って貰いたいのよね・・・・運良く私が先に来れたけれど・・・・・確実に彼もこっちに向かって来ているはず・・・そして彼らと出会った時に彼が行なう行動は一つだけ)

 

 リンディがこの場で恐れているのは、何よりもブラックがやって来る事だった。

 アイスモンやアイスデビモンはともかく、ブラックが実力者である完全体のブルーメラモンを見逃すとは思えない。確実に戦いが始まる。

 その光景がリンディの脳裏にはごく自然な形で思い浮かんでいた。だからこそ、ブルーメラモンに提案に乗って貰いたかった。そしてリンディが真っ直ぐにブルーメラモンを見つめていると、ゆっくりとブルーメラモンが口を開こうとした瞬間、リンディとブルーメラモンは同時に背後に振り返り、リンディは蹴りを、ブルーメラモンは拳を突き出す。

 

『フッ!!』

 

ーーードゴォッ!!

 

《ビビッ!?》

 

「えっ?」

 

「なっ!?」

 

 リンディとブルーメラモンが繰り出した一撃がそれぞれ何も無い場所に突き出されると同時に、破砕音が辺りに鳴り響き、空間から多脚生物のような形をした鎌を装備した機動兵器が煙を噴き上げながら姿を現した。

 それと共に機動音のような音が次々と鳴り響き、リンディ、ブルーメラモン、アイスモン、なのはが辺りを見回すと同時に今度はカプセル状の機動兵器が姿を現す。

 

《ビビッ!》

 

「こ、これって!? 一体何なの!?」

 

「なのはさん!! すぐにヴィータさんと一緒にこの場から逃げなさい!!」

 

「リンディさん!?」

 

 突然のリンディの叫びになのはが地上に目を向けてみると、自身の周りに翡翠色の刃を複数出現させているリンディの姿が在った。

 

「突破口は私が作るわ! だから早く逃げなさい!」

 

「で、でも!? こんなに数が居るのにリンディさんだけじゃ!?」

 

「凍り付いているヴィータさんを護りながら戦えるはずが無いでしょう!? それにもうすぐ強力な援軍が来るわ! 貴女も知っている援軍が!」

 

「ッ!?」

 

 リンディの叫びになのはの脳裏に浮かんだ相手は一人だけだった。

 そもそもリンディはその相手と共になのは達の目の前から去った。ならばその相手もこの世界に居る可能性は十分に考えられる事。それを理解したなのははリンディに向かって頷き、リンディも頷き返すと共に自身の周りに浮かべていた翡翠色の刃を自分達を取り囲むように展開している機動兵器の軍の一方向に向かって撃ち出す。

 

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフトッ!!」

 

ーーードドドドドドドドドドドゴォン!!

 

 撃ち出されたスティンガーブレイド・エクスキューションシフトはカプセル型の機動兵器を貫き、次々と爆発した。

 それと共に煙を切り裂くように桜色の閃光が走り、ヴィータを抱えたなのはが戦場から離れて行く。

 

Flash Move(フラッシュムーブ)

 

「リンディさん! 気をつけて!!」

 

 この場に残されるリンディになのはは叫びながら、リンディ達の視界から遠く離れて行った。

 

「・・・・・『気をつけて』・・・・それはこっちが言いたいセリフなのよ、なのはさん」

 

 苦笑をリンディは浮かべながらそう呟き、自分達を取り囲むように未だに周囲に滞空している機動兵器軍に目を向ける。

 リンディには分かっていた。周囲に存在している機動兵器と先ほど自身とブルーメラモンが破壊したステルス機能を持った機動兵器が、本当に狙っていたのはなのはとヴィータで在る事を。事前にこの場に準備していなければ、此処までの数の機動兵器が潜む事など出来ないのだから。

 

(デジモンとの戦いで疲弊したなのはさんとヴィータさんを狙っていたと見て、間違いないわね。やっぱり管理局内部にはまだ敵が潜んでいるわね。それも高官クラスに)

 

「おい、女?」

 

「何かしら、ブルーメラモンさん?」

 

「・・・どうやらデジモンの事を知っているのは間違いないようだな。なら、詳しい話は後にするぞ。今はこいつらを片付けてからだ。アイスモンも良いな!!」

 

「わ、分かった!」

 

 ブルーメラモンの叫びに辺りに漂っている『ガジェットⅠ型』を警戒するように見回しながらアイスモンは返事を返した。

 此処は一先ず自分達以外の手が必要なのだと、ブルーメラモンの意図をアイスモンは理解していたのだ。その辺りの事もリンディは察し、苦笑を浮かべながら『ガジェットⅠ型』軍に向き直り、その身に宿った力を解放する。

 

「えぇ、それで構わないわ。ダークエヴォリューーーション!!!」

 

ーーーギュルルルルルルッ!!!

 

『ッ!?』

 

 リンディが叫ぶと共にその身を覆い尽くすように黒いデジコードが発生し、ブルーメラモンとアイスモンは驚愕と困惑で目を見開く。

 二人の様子になど構わずに繭のような形でリンディを覆っていた黒いデジコードの内部から、黒い八枚の天使の翼のようなモノが羽ばたく様に黒いデジコードを突き破り、ソレと共に仮面で顔を覆った大人の女性が黒いデジコードを吹き飛ばしながら現れる。

 

「ブラックエンジェウーモン!!!」

 

ブラックエンジェウーモン、属性/ウィルス種、世代/完全体、分類/大天使型、必殺技/ホーリーアロー

八枚の翼を背中に付け、仮面で顔を覆った大天使型デジモン。デジタルワールドの女神と呼ばれている。しかし、曲がったことや悪は許さず、相手が心を入れ替えるまで攻撃をやめない。本来ならば白い翼を持ったワクチン種なのだが、ダークタワーデジモンを基にした為に生まれた為、黒い翼を持ったウィルス種に成ってしまった存在、しかしその実力は本来のエンジェウーモンを超える。必殺技で在る『ホーリーアロー』は腕に付いている飾りを弓へと変化させて光の矢を放つ技だ。その他にも光の光線を放つなど、多彩な神聖系の技が使える上に、肉弾戦まで行える力も持っているぞ。

 

「やはり貴様から感じた気配は・・・『デジモン』ッ!? 本当に何者だ!? 貴様は!?」

 

「詳しい話は後よ! 今はこの兵器達の方を片付けてからよ!」

 

「チッ! 確かにな! 今はこっちが優先だ!」

 

 『ブラックエンジェウーモン』に進化を果たしたリンディにブルーメラモンは返事を返すと共に、全身の蒼い炎を燃え上がらせてリンディと共に『ガジェットⅠ型』軍の掃討へと乗り出すのだった。

 

 

 

 

 

 一方、リンディに逃がして貰ったなのはは、凍り付いて意識が戻らないヴィータを抱えながら空を駆けていた。

 残して来た二年ぶりに再会したリンディや見た事も無く、実力も高いブルーメラモン、アイスデビモン、アイスモンの事は気になっていたが、今はそれよりも腕の中に居るヴィータの方がなのはは心配だった。

 

(氷みたいに冷たい。早くヴィータちゃんを医療班のところに連れて行かないと!)

 

 そうなのはは内心で呟くと共に、そろそろ戦いの場の影響から逃れられたと思い、自分達を今の世界に連れて来た艦に連絡を取ろうとする。

 だが、幾ら連絡を取ろうとしてもなのはの呼びかけに艦艇から返事が返って来る事は無く、なのはが嫌な予感を感じた瞬間、レイジングハートから警告が響く。

 

《マスター!! 囲まれています!》

 

「えっ!?」

 

 警告音になのはは慌てて空中に止まり、周りを見回してみると、リンディ達が戦っている筈の『ガジェットⅠ型』が多数なのはとヴィータを取り囲んでいた。

 

「クッ! まだ、こんなに居たなんて! レイジングハート! カートリッジロード!」

 

Load(ロード) Cartridge(カートリッジ)!》

 

ーーーガッシャン!!

 

 なのはの指示にレイジングハートは即座に応じ、カートリッジロードを行ない薬莢を排出した。

 一気に上がった魔力を使い、なのはは自らの周りに桜色の誘導弾-『アクセルシューター』-を十数個出現させて『ガジェットⅠ型』軍に向かって放つ。

 

「アクセルシューター・シューート!!」

 

ーーーブゥン!!

 

 なのはの呼びかけと共にアクセルシューターは、一斉に『ガジェットⅠ型』の軍に向かって殺到した。

 防御が高そうには『ガジェットⅠ型』は見えず、少なくともこの攻撃で十機近くは破壊出来るとなのはは確信しながらアクセルシューターを操作する。

 しかし、『ガジェットⅠ型』にアクセルシューターが直撃する直前、突如として『ガジェットⅠ型』のセンサーが光り、次の瞬間にアクセルシューターの威力が大きく減少してしまう。

 

ーーーードドドドドドォン!

 

「そんな!? 何で!?」

 

 目の前に広がった光景に、なのはは思わず叫んだ。

 十機近くは確実に破壊出来ると思ったなのはの攻撃は、僅か四機破壊するのが精一杯だった。何故いきなり自らの魔法の威力が弱まってしまったのかとなのはが疑問に思うと同時に、今度は両足に発生している『アクセルフィン』の維持も難しくなってしまう。

 

「ど、どうして!?」

 

《マスター!! すぐにこの場から離れて下さい! 敵機全てからAMFが発生しています!》

 

「AMF? ・・・それって確か!?」

 

 レイジングハートの報告になのはは驚愕と困惑に満ち溢れながら叫んだ。

 『AMF』。通称アンチマギリンクフィールド。その効果は『魔力結合・魔力効果発生』を無効にし、フィールド内では攻撃魔法はもちろん、飛行や防御、機動や移動に関する魔法も妨害されてしまう魔導師にとって天敵と呼べる力。本来はAAAランクのフィールド系で上位の魔法防御に分類されている魔法。

 資料としてその魔法を知っていたなのはは、目の前に居る『ガジェットⅠ型』軍の脅威を理解し、顔を青褪めさせて空に向かって駆け上る。

 

Flash Move(フラッシュムーブ)

 

ーーービュン!!

 

(今の状況じゃ砲撃が出来ない! なら、此処は逃げるしかない)

 

 腕の中に居るヴィータに負担を及ぼさない為にも、なのはは必死に『ガジェットⅠ型』が放って来るレーザーを避けながら空を駆ける。

 何時もよりも多い魔力消費を感じながら、時には防御魔法でレーザーやアーム攻撃を防ぎ、隙あらばアクセルシューターを放って『ガジェットⅠ型』を破壊して行く。ただ一人の戦い。しかもヴィータに衝撃が行かないようにしながら なのはは必死に『ガジェットⅠ型』群と戦い続ける。

 そんな戦いを続けていると、徐々に『ガジェットⅠ型』の数は減って行き、なのはの顔に僅かに安堵が浮かぶ。しかし、次の瞬間になのはの顔は青褪める。

 なのはの視界の先には、最初に自分が必死になって倒した筈の『ガジェットⅠ型』郡と同等の数の『ガジェットⅠ型』が向かって来ていた。

 

「そ、そんな!? クッ! こうなったら! レイジングハート!」

 

Load(ロード) Cartridge(カートリッジ)!》

 

ーーーガッシャン!

 

Exelion(エクセリオン) mode(モード)!》

 

 なのはの呼び声に応えると共にレイジングハートの形状が変化し、槍を思わせるような金色の装甲が先を覆い、フルドライブモードである『エクセリオンモード』を変形した。

 それをなのはは確認すると共に爆発的に高まった出力と能力を駆使して、『ガジェットⅠ型』郡から離れるように下に向かって高速移動する。

 

Flash Move(フラッシュムーブ)

 

ーーービュン!!

 

「これで終わりにするよ! エクセリオン!」

 

 『ガジェットⅠ型』郡から距離を離す事に成功したなのはは、即座に魔力を高め、レイジングハートを構えると共に桜色の砲撃を撃ち出す。

 

「バスターーーー!!!」

 

ーーードグォォォォォォォォォォン!!

 

 放たれた桜色の砲撃は真っ直ぐに空を駆け上り、そのまま新たに現れた『ガジェットⅠ型』を破壊する為に突き進む。

 しかし、砲撃が『ガジェットⅠ型』に触れる直前、新たに現れた『ガジェットⅠ型』が音も無く消失し、桜色の砲撃は何も無い空間を通り過ぎるだけだった。

 

「えっ!? 一体何が起き…」

 

「はぁ~い♪ 残念でしたわね♪」

 

「ッ!?」

 

ーーードスゥン!

 

「あっ!」

 

 背後から聞こえて来た女性の声になのはが振り向こうとした瞬間、なのはは背後から刺し貫かれた。

 しかし、刺し貫かれたモノの正体が分からず、なのはが激痛に苦しみながら刺し貫かれた右脇腹辺りに目を向けてみると黒い槍のような物が出現し、なのはの背後に背中に黒い翼とカプセルのような物を備え、カプセルから黒いケーブルのような物が伸びた闇を思わせるような仮面で口元以外を顔を覆い、左手の鋭い爪を煌めかせ、右腕が槍の形状をしているデジモン-『バイオ・レディーデビモン』が立っていた。

 

バイオ・レディーデビモン、世代/完全体、属性/ウィルス種、種族/堕天使型、必殺技/ダークネスウェーブ、プワゾン

人間の技術によって生み出された『バイオ・デジモン』技術が利用されている。本来は高貴な女性型の堕天使デジモン。闇の貴婦人と呼ばれている強大なダークサイドパワーの持ち主。エンジェウーモンのライバル的存在。しかし、その強さは通常の『レディーデビモン』を超えている。必殺技はコウモリのような暗黒の飛翔物を無数に放って相手を焼き尽くす『ダークネスウェーブ』と、相手の持つパワーをダークエネルギーと相転移し、敵を内から滅殺する『プワゾン』だ。その他にも自らの腕を槍に変化させて相手を刺し貫く『ダークネススピア』などの技を持っている。

 

「あ・・・あ、貴女・・・・は?」

 

「あら? ・・・・まだ、喋る力がありますの? 正直驚嘆しますけれど、もうこれ以上の時間は掛けられませんの。死になさい」

 

ーーーブォン!

 

 バイオ・レディーデビモンは宣告すると共に、なのはを刺し貫いている槍に変化している右腕を思いっきり横に振り抜いた。

 それと共になのはの体は槍から引き抜かれるが、振り回された反動でなのはは勢い良く左腕に抱えていたヴィータと共に地上に向かって落下して行く。

 

Protection(プロテクション)!》

 

 レイジングハートの電子音声が響き、地面となのは、ヴィータが激突する前にプロテクションが発生して激突を防いだ。

 そのままなのはとヴィータは危なげなく地面に落下するが、右脇腹を刺し貫かれたなのはは血が次々と傷口から流れ、激痛と血が減って行く事によって意識は朦朧として行く。

 

「・・・・あっ・・・ヴィー・・タ・・・ちゃ・・・」

 

 朦朧とする意識の中、自らの横で凍りついたままのヴィータに向かってなのはは左手を伸ばす。

 そしてなのはの左手がヴィータに触れようとした瞬間、再びレイジングハートの切羽詰まったような電子音声が響く。

 

Wide(ワイド) Area(エリア) Protection(プロテクション)!!》

 

ーーーギィン!!

 

「クッ! 忌々しいですわね!」

 

 レイジングハートが広範囲での防御魔法である『ワイドエリアプロテクション』が発生し、空中から落下すると共にダークネススピアを振り下ろして来たバイオ・レディーデビモンの攻撃を防いだ。

 だが、徐々にダークネススピアとワイドエリアプロテクションがぶつかり合っている場所から罅が入って行き、遂にワイドエリアプロテクションが破られてしまう。

 

ーーーバキィィィィン!!

 

「もう邪魔はさせませんわ!!」

 

ーーードスゥン!!

 

 バイオ・レディーデビモンは迷う事無く、なのはの横に落ちていたレイジングハートの赤い宝玉部分にダークネススピアを突き刺した。

 同時になのはが纏っていたバリアジャケットが輝き、まるで糸が解れるかのようにバリアジャケットは消失し、私服姿になのはは戻ってしまう。

 

《・・・・・マ・・・ス・・・ター・・・ザザ・・申し・・・ワケ・・・ザザザ・・・ア・・・ザザ・・・リ・・・・》

 

 まるで断末魔の声のようにレイジングハートの音声は酷い音を奏で、宝玉部分から光が消え去ると共に音声は聞こえなくなった。

 その様子になのはは朦朧としながらも涙を流すが、バイオ・レディーデビモンは忌々しそうに機能が完全に停止したレイジングハートを見つめると、左手にコウモリのようなモノを出現させる。

 

「私の邪魔をしてくれた御礼ですわ。フッ!」

 

ーーードゴォン!!

 

 バイオ・レディーデビモンはコウモリのようなモノをレイジングハートに向かって投げつけ、二つが触れ合った瞬間に爆発が起こった。

 爆発と共にレイジングハート・エクセリオンを構成していたパーツが辺り散らばり、完全に大破した。その様子にバイオ・レディーデビモンが満足そうな笑みを浮かべると共に背後から声が響く。

 

「遊び過ぎだぞ」

 

「そうだ。余りこれ以上時間を掛けるな、“クアットロ”」

 

 聞こえて来た女性と思わしき二つの声になのはがバイオ・レディーデビモンの背後に朦朧としながらも目を向けてみると、大柄な女性と小柄な女性が立っている事に気が付く。

 

「でも、トーレお姉さま、チンクちゃん。これぐらいは構わないでしょう? だって、せっかくドクターが作った玩具が大半破壊されてしまったのですから?」

 

「それは予想外の出来事も在ったからに過ぎないぞ、クアットロ」

 

「チンクの言うとおりだ。まさか、この地に例の女が現れるなど予想外も良いところだ。最もドクターはデジモンと魔導師両方との戦闘データが得られて喜んでおられるようだがな」

 

「やれやれ、ドクターにも困ったものだ。とにかく、クアットロ。いい加減に終わらせろ。嬲っているような時間はもう無いぞ」

 

「分かってるわよ、チンクちゃん」

 

 不満そうにしながらクアットロと呼ばれたバイオ・レディーデビモンは答えると共に、ゆっくりとダークネススピアの矛先を朦朧としながらも意識を保っているなのはではなく、意識が全く無いヴィータに向ける。

 その様子を見たチンクと呼ばれた小柄な女性は僅かに眉根を寄せた。忠告したのにクアットロは最後の最後までなのはを嬲るのを止める気が無いのだ。しかし、クアットロの性格が残忍さと冷酷さ、そして遊び心が強い事も知っている。もはや抵抗も何も出来ない意識だけがあるなのはの目の前でヴィータを殺し、絶望と悲しみに満ち溢れた顔をクアットロは堪能する為なのだとチンクは悟った。

 トーレと呼ばれた大柄な女性もクアットロの行動を読み取るが、此方はさっさと済ませて欲しいと言うように背を向けている。

 そんな風に二人に思われながらも、クアットロはこれから見る事が出来る光景を思い、恍惚とした笑みで口元を歪めながらダークネススピアを掲げる。

 

「それではさようならですわ。ダークネス! スピ…」

 

「フォックスファイヤーーーー!!!!」

 

『ッ!?』

 

 クアットロの声に覆い被さるように別の声が響き、クアットロ、チンク、トーレは迷う事無くその場から大きく離れた。

 同時に三人が直前まで居た場所を蒼く輝く炎が通り過ぎ、なのはとヴィータを護るように氷の壁が発生する。それを目にした三人は蒼い炎が放たれた方向に目を向け、怒りに染まった目をしている五メートルほどの大きさの青白く輝く銀色の毛で全身を覆った巨大な狼-『ガルルモン』-が立っていた。

 

ガルルモン、世代/成熟期、属性/ワクチン種、種族/獣型、必殺技/フォックスファイヤー

極寒に生息している狼のような姿をしている獣型デジモン。全身が青白く輝く毛に覆われていて、そのひとつひとつは伝説のレアメタルと言われる『ミスリル』のように硬い。獲物を見つけ出す勘と、確実に仕留める力をもっているため、他のデジモンから恐れられている。またとても賢く主人に従順で、なつきやすい性格をしているとの情報も存在している。『グレイモン』同様生息範囲が広く、属性もワクチン・データ・ウィルスと全てのパターンが確認されている珍しい種だ。必殺技は青い炎を口から放つ『フォックスファイヤー』だ。その他にも口から氷を放つなど、氷関係の技を数多く所有しているぞ。

 

「グルルルッ!! お前達! もう動けず、意識も朦朧としている子を嬲るなんて!」

 

「・・・『ガルルモン』だと? 馬鹿な・・・この辺りに居るデジモンはアイスデビモン、アイスモン、ブルーメラモンの三体だけのは…」

 

「ほぉ。其処までデジモンの事を知っているとは、やはり当たりか。まぁ、バイオ・デジモンが居る時点で分かっていたがな」

 

『ッ!?』

 

 ガルルモンとは別に聞こえて来た声に、トーレ、チンク、クアットロは慌てて背後を振り向いた。

 三人には聞こえて来た声に聞き覚えがあった。直接会った事はない。だが、映像では聞いた事がある声。そして振り返った三人の視界に予想通りの相手が立っていた。

 漆黒の体に、金色の髪に鈍く光る銀色の頭部に胸当てをし、両腕の肘まで覆う手甲の先に、三本の鍵爪の様な刃を装備した漆黒の竜人。ブラックウォーグレイモンが右肩にルインを乗せながら、悠然と雪が降るなか立っていたのだった。




ヴィータが未だに目覚めない理由ですが、言うまでも無く完全に心身が凍り付いているからです。
普通なら死んでいますが、ヴィータは守護騎士プログラムなので言うなれば停止状態あります。つまり、外部からの干渉さえ在れば意識は戻ります。最も出来るのはリインフォース、はやて、そしてルインの三人だけですが。

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