流れ自体は変わっていませんが、戦闘の様子は大きく変わっています。
『時空管理局本局襲撃事件』から二年の歳月が流れ、時は新暦67年。
その間に様々な出来事が起きていた。名誉職で殆ど管理局内で権力を振るわなかった『伝説の三提督』と称されるミゼット、ラルゴ、レオーネの三人が襲撃の件の後に管理局内で起きていた不祥事に関する事項に対して動き出した。
不正を行なっていた者が高官だったり、その部下だったりした為に監査部でもそう簡単に手が出せない相手だったが、ミゼット達と言う強力な後ろ盾の出現によってこれまで手が出せなかった相手にも手を出せるようになった。次々と汚職や不祥事を行なっていた局員達は、例え強力な魔導師だとしても見逃される事無く処罰を受けて行った。
これによって二年前は互角ぐらいの大きさだった最高評議会派と三提督派の派閥の力は大きく変わり、最高評議会派の力は二年と言う月日でかなり減退してしまった。無論、彼らも強力な魔導師が減る事は管理局の戦力の低下に繋がると進言して三提督派の勢いを抑えようとしているのだが、そもそも自分達が決めた法を自ら破っていると言う点が大きく、進言した相手も裏が在る事が調べ上げられて粛清されて行った。
また、地上の方も二年の間に変化が生まれていた。以前は優秀な魔導師の殆どが本局へと取られていたが、地上の高官であるレジアス・ゲイズが『ブラックウォーグレイモンが地上に現れた時の対処の為に、地上の戦力も在る程度上げておかなければ不味い』と進言し、以前よりも優秀な魔導師が徐々に地上に増えて来ていた。
ブラックウォーグレイモンと言う脅威は、二年前の本局襲撃の件で管理世界の殆どに知れ渡っている。
本局襲撃の後は姿を見せなくなったが、それでもブラックウォーグレイモンの存在は次元世界で知らない者は殆どいない。当時少しでも本局襲撃の件での責任追及を弱めようとした高官達の発表が知れ渡っている事も原因であり、もしもミッドチルダに現れた時にどうすれば良いのかと言うレジアスの進言によって、本局は優秀な魔導師を自らの戦力に加える事が出来なくなった。
もしも今の状況で第一管理世界であるミッドチルダを蔑ろにするような行動を行なえば、ただでさえ二年前の出来事で下落した管理局の信用と信頼が更に失墜する事態になる。故に二年前よりもミッドチルダの治安は徐々に良くなっている。
その様に管理局内に変化がおき始めた中、ミゼットの指示で管理局が関わっている可能性が在る違法研究所を捜査していたクロノは、この二年の間に運用部から人事部に移動したレティ・ロウラン提督と執務室で話し合っていた。
「そう・・・・やっぱり、今調べている違法研究所にも管理局の高官からお金が流れていた可能性が高いのね?」
「はい・・・・正直、この二年間・・・・ミゼット統幕議長の指示で調べ続けましたが・・・自分が所属している組織がどれだけ自ら決めた法を破っていたのか、嫌と言うほどに見ましたよ」
「そうね・・・・そう言えばフェイトさんとアルフはどうなの? 一年前にフェイトさんは正式に管理局に入局して、貴方の補佐を行なっているのでしょう?」
「フェイトは近々執務官試験を受けるようです。正直僕だけでは違法研究所の捜査の手が足らないので、フェイトが執務官になれば助かります」
「はやてさんの方もシグナムさん達の件が在るから入局したけど、彼女の方はミゼット統幕議長が直々に管理局内部を教えているから安心は出来るわ。かなり厳しく教えているみたいだしね・・・ユーノ君も無限書庫の司書になってバックアップしてくれるし・・・・問題は…」
「・・・・・・なのはの事ですね?」
フェイト、はやて、ユーノの三人と違って唯一管理局に入局していないなのはの事を思い、クロノとレティは顔を暗くする。
二年前の件を知りながら管理局に入局していないなのはは、嘱託魔導師として管理局に関わっている。その点に関しては予定通りの事なのでレティとクロノには問題はなかった。だが、此処最近なのはに管理局員にならないかとレティ達の目を盗んで勧誘を行なっている幹部が出て来ている。粛清が進むに連れて本局に居る魔導師の数が減って来ているので、少しでも優秀な魔導師が欲しいのが管理局の実情。故に嘱託魔導師として活動し、AAAランクのなのはは是が日にでも局員になって欲しい幹部は多い。
最も二年前に管理局の裏を知り、家族とも話し合って管理局に入る事を止めたなのはは拒否している。 レティ達も士郎達との約束が在るので、なのはの局員入りは止めて貰うように幹部に進言しているが、それも限界が近づいて来ていた。
「一応勧誘している幹部も表面上は納得してくれたように見えたけれど、隙あらばなのはさんの勧誘をまた行ないそうよ。実際局員の逮捕で人材が減って来ているのは事実だから」
「今のところは例の法律の件を持ち出して来ていませんけど・・・・・・アレを主張して来たら…」
「・・・まだ、法の改正にまでは手を伸ばせないのが現状・・・あの法が在るから今回勧誘を行なった幹部も納得したところでしょうね。その気になれば何時でもなのはさんを管理世界に連れ去る事は出来るのだから」
「はい・・・それでなのはは、今何を?」
「今日は簡単な調査で、とある世界の無人の遺跡をヴィータさんと数名の武装局員達と一緒に調べに向かっているわ。事前の調査資料でも怪しい点は見られなかったら大丈夫な筈よ」
「そうですか」
クロノはそう呟きながら、嘱託魔導師としての仕事をこなしているであろうなのはの事を思うのだった。
なのはの両親が営んでいる『喫茶翠屋』。
時間帯的に珍しく人の数は少なく、なのはの両親で在る桃子と士郎は珍しいこともあるなと思いながら自らの仕事を行ないながら話す。
「・・・・そう言えば、今日はなのはが他の世界に調査に行くって言っていた日だったな?」
「えぇ、そうよ、貴方。レティさんからも話を聞いたし、貴方宛に調査に行く場所の資料を見せて貰って納得していたでしょう? 急にどうしたの?」
「いや・・・・・どうにも嫌な予感を感じてね」
「嫌な予感って? まさか? なのはに何か起きるかも知れないって事なの!?」
思わず心配になった桃子は、士郎に詰め寄って質問した。
その様子に士郎は己の言葉は迂闊だったと思いながら、安心させるように桃子の肩に手を置く。
「あくまで予感だよ、桃子。俺の取り越し愚弄かもしれない。ヴィータちゃんも一緒らしいから大丈夫さ」
「そうだと良いけれど・・・・・何か私も嫌な予感がして来たわ・・・・・(まるで士郎さんが大怪我を負った時のような予感が・・・・気のせいであって欲しいけれど)」
一先ず落ち着きを取り戻した桃子は、自分も感じ始めた嫌な予感が気のせいで在る事を願いながら仕事へと戻って行く。士郎も自らの感じる予感が外れてくれる事を願いながら、桃子と同じように仕事へと戻って行った。だが、そんな二人に待っていたのは、吉報では無かったのだった。
時空管理局本局の一室。
その場所には管理局の制服を着たフェイト、アルフ、はやて、そしてユーノがなのはに関して話っていた。本来ならばシグナム、ザフィーラ、シャマル、リインフォースも集まって話し合いたかったのだが、残念ながら管理局の仕事の関係で集まることは出来なかったのだ。
「今日はなのはちゃんはヴィータを含めた数名の武装局員の人達と一緒に、遺跡の調査任務に出ているそうや。もちろん、武装局員の人達はミゼット御婆ちゃんの配慮で信頼がおける人達で構成されとるよ」
「そう・・・・・だったら安心だね」
「まぁ、簡単な調査任務なんだし、そんなに心配する事はないとあたしは思うよ。調査の資料にはユーノも協力したんだったよね?」
「うん。実際今までも何度か歴史研究者の人達が調べている遺跡だし、今回の調査だって遺跡を荒らしている者が居ないか調べるだけだからすぐに終わると思うよ」
「荒らしって? そう言えば此処最近立ち入り禁止の遺跡に何かが住みついているかもしれないって、報告が良く上がっているらしいわ」
「そうなの? はやて」
「そや・・・・何でも入るのが禁止されとる筈なのに、真新しい獣の骨や果物の皮なんかが落ちてたりしてるやて。でも、調べても何も出て来ないらしいんや」
「今回のなのはとヴィータが参加している調査任務もその類でね。もしかしたら盗掘者が許可なく遺跡に入り込んでいるかもしれないから、管理局が調べることになったんだよ」
なのはとヴィータが参加している任務の内容をユーノは説明し、納得したようにはやて、フェイト、アルフは頷く。
「まぁ、盗掘者って言っても武装局員に加えてヴィータになのはまで居るんだから、出会っても盗掘者が勝てるわけないだろうし、すぐに二人とも帰って来るだろうね」
「そうだよね。アルフの言うとおり、なのはだけじゃなくてヴィータと局員の人達も居るんだから」
「無用な心配やろうね」
アルフの言葉にフェイト、はやてはそれぞれ苦笑を浮かべながら答えた。
実際のところ、局員として働いていなくてもなのはは魔法の鍛錬は怠らなかっただけではなく、士郎と桃子に体調も管理されているので万全の調子で調査任務に赴いている。其処にヴィータも共に居るのだから、余程の事が無い限り二人の安全は保障されている。
だが、フェイト、はやて、ユーノ、アルフはこの時忘れていた。既に自分達が常識を外れた存在と出会っていた事を。そして其れが既に管理世界中に存在している事など、四人は夢にも思っていなかったのだった。
次元世界でのブラックウォーグレイモンことブラック達の拠点アルハザード。
ブラック、ルイン、リンディはデジタルワールドからアルハザードに戻って来ていた。この二年間、ブラック達はオファニモンの許可の下、第二のデジタルワールドで旅を続け、デジモンの弱点や生態について調べ続けていたのだ。ブラックはともかく、ルインとリンディはデジモンについては僅かにしか知らないので、知識を補うと言う目的も在ったが、実際の所はブラックの欲望を満たす為の方が強かった。
そして指示が来るまでデジタルワールドを探索していたある日の事、漸くイガモン達から倉田に繋がる可能性が在る情報が届き、オファニモンの指示に従ってアルハザードへと帰還したのだ。
「むう~、やっぱり、ブラック様の姿が在りません・・・・まさか、もう外に行ってしまったのじゃないでしょうね?」
アルハザードの通路の中を姿が見えないブラックを捜し歩いていたルインは、不機嫌そうな声を出して呟いていた。
何せこの二年間でよく分かった事だが、ブラックはとにかく戦闘を心の底から楽しむ為に、デジタルワールドに居た時も強いデジモンを発見したら、ルインとリンディを放って戦いに向かっていった。最初はルインとリンディも止めたのだが、何度言ってもブラックは止めない上に、途中からはリンディも戦闘を楽しむ様に成ってしまった為に、止められるものがいなくなってしまったのだ。
そんな風にルインがブラックを探して通路を歩いていると、通路の奥から狼のような毛皮を被った生物が歩いて来る。
「アレ? ルインさん、どうかしたんですか?」
「あっ! ガブモンちゃん、ブラック様を見ませんでした?」
ガブモン、世代/成長期、属性/データ種、分類/爬虫類型、必殺技/プチファイヤー
毛皮を被っているが、れっきとした爬虫類型デジモン。とても臆病で恥ずかしがりやな性格でいつもガルルモンが残していったデータをかき集めて毛皮状にしてかぶっている。一年ほど前に、ブラック達がデジタルワールドを旅している時に出会ったデジモン。ブラックの絶大な力を見て憧れを抱き、以降ずっとブラック達と一緒に旅をしている。尚、進化してガルルモンに成る事が可能なので、ルインとリンディは良く背中に乗って移動していた。必殺技の『プチファイヤー』は小さな青色の火炎弾を放つ技だ。
「え? ブラックさんなら、フリートさんがイガモン達から送られて来た情報を確認するまで暇だから外に出るって言っていましたよ?」
「はあ~、やっぱりですか。全く何時も勝手に動くんですから」
「そうですね。でも、ルインさんとリンディさんの話は少しは聞いてくれるじゃないですか。僕は無理ですけど」
「そうなんですけど、少しは落ち着いて・・・・・・と言っても無理ですね」
ルインはブラックに少しは落ち着いて貰いたいと思ったが、絶対にそれは不可能だと気が付き落ち込み、ガブモンはその様子に汗を流し始める。
ガブモンもブラックが聞いて止まってくれるような性格では無い事を良く知っているので、落ち込んでいるルインに気休めの慰めは出来ずに、少しでも話題を変えようと声を出す。
「アッ! そう言えば、さっきリンディさんも外に出て行きました。勝手に出て行ったブラックさんを連れ戻して来るそうですから、待っていても大丈夫ですよ」
「何ですって!? ブラック様を追い駆けてリンディさんが!?」
「い、いや・・・・ブラックさんの事だから、呼び出してもすぐに戻って来ない可能性が高いから、すぐに連れ戻せるようにらしいですよ。丁度ルインさんはフリートさんの検査を受けていたじゃないですか? だから変わりにリンディさんが向かったんだと思いますよ?」
「クゥッ!! そう言う事ですか!? すぐに私も後を追います!! ガブモンちゃんはフリートに状況を伝えておいて下さい!!」
ルインはそうガブモンに向かって叫ぶと共に転送室に向かって駆け出して行った。
ガブモンはそのルインの背を呆然と見つめるが、すぐにルインの指示に従ってフリートが居る研究室に向かい出すのだった。
とある雪が降り積もる世界。
遺跡が存在する白い雪が降り積もった場所。その場所に簡単な調査に赴いたなのはとヴィータは自分達の前に居る二体の生物-体が青い石の様な物で構成された生物と、白い体に悪魔の様な翼を持った生物-と戦いに苦戦を強いられていた。
本来ならば武装局員達との簡単な調査で終わる筈の任務だったが、赴いた遺跡に何時の間にか住み着いていた“三体”の生物の奇襲を受けて武装局員達は戦闘不能になり、なのはとヴィータは戦闘不能になった武装局員達の安全を確保する為に奮闘していた。
「・・・・貴方達は一体?」
「ふむ、人間にしてはやるようだな。そう思わないか、アイスモン?」
「あぁ、そうだな、アイスデビモン。奇襲を仕掛けて他の連中を倒したのは正解だったみたいだぜ」
アイスモン、世代/成熟期、属性/データ種、種族/氷雪型、必殺技/アイスボールボム
全身が氷に包まれたゴツモン系の氷雪型デジモン。ゴツモンから進化したのか、はたまた変種なのか謎に包まれている。必殺技は、強力な冷気が篭もった氷の爆弾を投げつける『アイスボールボム』だ。
アイスデビモン、世代/成熟期、属性/ウィルス種、種族/堕天使型、必殺技/フロストクロー
氷のように冷たい心を持つ堕天使型デジモン。デビモンの中でも特に残忍な心を持つデビモンが進化した姿といわれている。話術で敵を騙すのが得意で、近寄って来た相手を氷の羽で包み込み氷付けにさせる。必殺技は、両手の爪で相手の体を突き刺す『フロストクロー』だ。その他にも氷関係の技を持っているぞ。
二体の生物-『アイスデビモン』と『アイスモン』は、僅かに感心した様子を見せながら自分達に対して油断無く構えているなのはとヴィータを眺めながら会話をする。
ヴィータは自らのデバイスであるグラーフアイゼンを構えながら、目の前で会話しているアイスデビモンとアイスモンに向かって叫ぶ。
「テメエら何者だ!? 何でこの遺跡に居やがった!?」
「フゥ~・・・それは此方のセリフだ。私達は此処が気に入ったから住んでいたと言うように、今更“連れ戻そうとやって来る”とは」
「そうだ!! 俺達がこの世界で生きる為にどれだけ苦労したと思ってやがる!?」
「なっ!? ど、どう言う事だよ!?」
アイスデビモンとアイスモンの発言に身に覚えが無いヴィータは疑問に満ちた声で質問した。
その声にアイスデビモンとアイスモンは怒りに満ちた視線をヴィータに向け、アイスデビモンは鋭い爪が生えている人差し指でヴィータを指差しながら叫ぶ。
「とぼけるな!!! お前達と一緒に居た連中が着ていた服! アレは間違いなく一年前に私達を放逐した奴らが着ていたモノと同じだ!」
「故郷から俺達を連れ去って、こんな場所に放逐しやがったくせに!! この上、漸く手に入れた俺達の住処まで荒らそうとしやがった!! もう勘弁出来ないぜ!!」
「ま、待てよ!? ど、どう言う事だ!? “お前らを放逐した”!? だったら、お前達が此処にいるのは管理局の誰かが連れて来たのかよ!?」
アイスデビモンとアイスモンの叫びに、ヴィータは訳が分からないと言うように叫んだ。
その様子にアイスデビモンとアイスモンは訝しげな表情を浮かべる。彼らが今の世界に居るのは、一年ほど前にヴィータとなのはと共に居た武装局員達が着ていたバリアジャケットと同じ装備をしていた管理局の者がこの世界に放逐したからだ。
まだ、幼年期デジモンだった自分達を故郷から連れ去り、挙げ句の果てにはこの世界に連れて来るとともに自分達だけ去って行った。苦労しながらも進化を果たして三体で生き延び、安全な住処も手に入れた。その住処を荒らすように自分達を連れて来た者達と同じバリアジャケットを纏い、最初に名乗る時に『管理局』ともヴィータ達は告げて来た。にも関わらずに、自分達の事を知らないと叫ぶヴィータに対して怒りを覚えながらもアイスデビモンは質問する。
「貴様らは『管理局』と言う組織の人間であろう?」
「そうだ! お前らを此処に連れて来たのは、本当に管理局の人間なのか!?」
「その通りだ・・・・どうやら貴様は本当に知らないようだな・・・だが、私達の住処を荒らしてくれた事は赦せん!!」
「どっちにしたって! お前らが俺らの敵だって事には変わりねぇぜ!!」
「その通りだ」
『ッ!!』
アイスデビモンとアイスモンの叫びに続くように二体の背後から新たな声が響いた。
なのはとヴィータは警戒心を強めながら、一番最初に自分達に奇襲を仕掛けて武装局員達を戦闘不能に一撃で追い込んだ相手-腕を組みながら透き通るような青い炎で全身を覆い、赤い目をした人型の火炎型デジモン-『ブルーメラモン』を見つめる。
ブルーメラモン、世代/完全体、属性/データ、ウィルス種、種族/火炎型、必殺技/アイスファントム
超高温で全身が透き通るような青い炎で燃えている火炎型デジモン。とても荒々しい性格で、触れるもの全てを焼き尽くすため、手なづけるのは不可能に近い。寒い地域でも全然平気だ。赤く燃える目はブルーメラモンの熱い性格を表している。必殺技の『アイスファントム』は、冷たい炎のつまった不気味な黒い球体を敵に撃ちこみ、相手の心と体を凍りつかせる技だ。その他にも己の炎を利用した様々な技を所持しているぞ。
「貴様らが俺達の事を知らずとも、貴様らは俺達の縄張りに手を出した。俺達の住処に手を出したのが運の尽きだったな」
「く、くそ・・・・・(コイツ・・・幾ら奇襲だからって言ったって・・・・ミゼット婆ちゃん達が選んでくれた局員達だぞ。そいつらを一撃で・・・・間違いなくこいつら強い!)
戦いが始まってしまった当初の予定では明らかにリーダーだと分かるブルーメラモンは何故か静観し、残りのアイスデビモンとアイスモンがヴィータとなのはと戦った。
一番強いと思われるブルーメラモンが動かない間にヴィータとなのはは、アイスデビモンとアイスモンを戦闘不能に追い込むつもりだった。だが、ヴィータ達の予想以上にアイスデビモンとアイスモンの実力は高く、AAAランクオーバーのヴィータでも簡単に倒す事が出来なかった。
本来ならばアイスデビモンとアイスモンの実力ではヴィータとなのはには勝てない。だが、ヴィータは知らない事だが目の前に居るアイスデビモンとアイスモン、そしてブルーメラモンは『デジモン』と言う種族。
デジモンは自らの属性と居る場所の属性が合えば、その力を『倍増』させると言う特性を持っている。雪が降り注ぎ、辺り一面が白銀の世界となっている場所はアイスデビモン、アイスモン、ブルーメラモンの力を通常時よりも引き上げていた。その上、ヴィータ達は『非殺傷設定』で目の前の相手と戦ってしまったので決定的なダメージが与えられなかったのも大きい。そしてヴィータとなのはが不利になっている最大の要因は、地面に倒れ伏している武装局員達の存在だった。気絶している為にアイスデビモン達が攻撃を仕掛けてくれば身を護れない。その事も踏まえてなのはとヴィータは得意な空中戦でなく、地上で二人は戦うしかなかった
だが、フィールドの力でパワーアップしているアイスデビモンとアイスモンの実力はヴィータとなのはと同等かそれ以上。ブルーメラモンに至っては失敗すれば万全な状態でも地上では勝てる可能性は低い。
気絶している武装局員達を護りながらでは、幾ら魔導師として優秀であるヴィータとなのはでも勝てる可能性は低かった。
(クッ!! まだなのかよ! 何時まで掛かってやがるんだ!!)
未だに自身となのはが待ち望んでいる変化が、地面に倒れ伏して気絶している武装局員達に起きない事を横目で確認したヴィータは、思わず内心で悪態をついた。
そのヴィータの目線から何かを感じ取ったブルーメラモンは、組んでいた両手を解きながら自分の前に立っているアイスデビモンとアイスモンに向かって指示を出す。
「アイスデビモン! アイスモン! 奴らは何かを企んでいる!! 先ずは気絶している連中から片付けろ!!」
「了解した!!」
「あいよ!!」
ブルーメラモンの指示にアイスデビモンとアイスモンは即座に反応し、アイスデビモンは長い右手を気絶している武装局員達に向かって構え、アイスモンは両手に強烈な冷気が篭もった氷の塊を作り上げる。
「終わりだ!! アイス…」
「させない! アクセルシューターーー!! シュート!!」
アイスデビモンが攻撃を放つ前になのはが反応し、レイジングハートを構えると共に二十個近くの桜色の魔力弾-『アクセルシューター』-を撃ち出した。
しかし、高速で接近して来るアクセルシューターにアイスデビモンは慌てた様子を見せず、逆に口元を笑みで歪めると共に左手から無数の針のような氷の矢を撃ち出す。
「ニードル!!」
ーーードドドドドドドドゴォン!!
「やべぇ! なのは! 飛びあがれ!!」
アクセルシューターがアイスニードルで迎撃されるのを目にしたヴィータは、一連の流れがアイスデビモン達の罠だった事を悟り、なのはに向かって叫んだ。
ヴィータの叫びになのはは即座に反応し、自身の両足に発生させていた二対の桜色の翼-『アクセルフィン』-を羽ばたかせると共に空へと舞い上がった。ヴィータもなのはに続いて飛び上がると共に、直前まで二人が居た場所に二つの氷の塊が直撃する。
《
「アイスボーールボム!!」
ーーードゴォォォン!!
「ありがとう、ヴィータちゃん」
直前まで自分達が居た場所から広がる強烈な冷気を目にしたなのはは、横を飛んでいるヴィータに向かって礼を告げた。
しかし、ヴィータはなのはの礼に答えている暇は無いと言うように、左手の指の間に四つの小さな鉄球を出現させてブルーメラモン達に向かって構える。
「油断するなよ、なのは! こいつらつえぇぞ! (先ずは空を飛べる白い翼を生やした奴から倒す! これ以上待ってたら、あたしらの方がやばいからな!)」
「う、うん! (分かったよ!)」
言葉と共に届いて来たヴィータの念話になのはは頷いた。
その様子にヴィータは口元に笑みを浮かべてハンマーフォルムのグラーフアイゼンを構えると共に、左手の指の間に構えていた鉄球に魔力を込めて手放し、グラーフアイゼンのハンマーヘッドを鉄球に叩きつける。
「行くぞ!! アイゼン!!」
《
「フッ!!」
ーーードォン!!
グラーフアイゼンの電子音声と共にヴィータは何時の間にか左手の指の間に出現していた四つの小さな鉄球をアイスデビモン、アイスモン、ブルーメラモンに向かって撃ち出した。
真紅の魔力光に包まれた四つの鉄球はそれぞれ軌道を空中に書きながら、二つがアイスデビモンに向かって、残る二つはブルーメラモン、アイスモンに向かって高速で迫る。自分達にとって未知の攻撃に対してブルーメラモンは、即座にアイスデビモンとアイスモンに指示を出す。
「どんな効果があるか分からん!! 迎撃か回避しろ!」
『了解!!』
ブルーメラモンの指示にアイスデビモンとアイスモンは即座に返事を返した。
アイスデビモンは自らに向かって接近して来る二つの鉄球に対して両手を構え、今度は両手からアイスニードルを撃ち出す。
「消え去れ!! アイスニードル!!」
放たれたアイスニードルは真っ直ぐに真紅の魔力光に覆われた鉄球に迫る。
だが、アイスニードルと鉄球が直撃する瞬間、鉄球はまるで自らが意思を持っているかのように動き、アイスニードルを回避する。
ーーーシュン!!
「何ッ!? クッ!!」
思わぬ鉄球の動きに驚きながらもアイスデビモンは、背中の翼を羽ばたかせて空へと飛び上がる事で鉄球を躱した。
だが、躱したはずの鉄球が先ほどのアイスニードルの時同様に自らの意思を持っているかのように動き、アイスデビモンを追跡して行く。その様子を目撃したブルーメラモンは自らに迫って来る鉄球を回避しながらも、鉄球に込められている力を見極めた。
(誘導系の攻撃か!? しかも複数同時で! ならば、このまま回避し続けるのは無意味だ。迎撃するしかない!)
鉄球の効果が分かったブルーメラモンは即座に判断を決めて、その通りに動こうとする。
しかし、動き出す直前にブルーメラモンの視界の中で倒れ伏していた武装局員達が光に包まれながら消え去るのを目にし、思わず足が止まってしまう。
ーーーシュゥン!
「何だと!? 一体何が起き…」
ーーードォン!
「グゥッ!」
「ブルーメラモン!!」
突然に消えた武装局員達の姿に、思わず動きが止まってしまったブルーメラモンの胴体に鉄球が直撃した。
アイスモンはブルーメラモンを心配して叫ぶが、その隙をついてアイスモンの背中に鉄球が直撃する。
ーーードォン!
「ウォッ!」
威力よりも直撃した時の衝撃でアイスモンは前に向かって倒れた。
その様子を空中で自らを追って来る鉄球を回避しながら見ていたアイスデビモンは、悔しげに顔を歪める。
「おのれ! 厄介な攻撃をしてくれる!」
「ヴィータちゃんの攻撃ばかり気にしていたら駄目だよ! アクセルシューターー! シューート!!」
「何ッ!?」
鉄球だけではなく自らの周りを縦横無尽に飛び回る三十以上のアクセルシューターを目にしたアイスデビモンは、慌てて周りを見回して叫んだ。
「ま、まさか!? これら全てが誘導系の攻撃!? こ、これほどの数を同時に操作しているというのか!?」
「ヘッ! やっぱ驚くよな。あたしも最初は驚いたからよぉ」
アイスデビモンの驚愕に、ヴィータは笑みを浮かべながら同意の言葉を呟いた。
一番の問題だった武装局員達が転送によって回収された今、ヴィータとなのはを地上に縛り付けるものは無い。此処からは自分達の土俵の場である空中から攻撃が行なえるのだから。
「此処から反撃だ! アイゼン!! カートリッジロー…」
「ヴィータちゃん!! 避けてッ!」
「ッ!?」
聞こえてきたなのはの悲鳴のような叫びにヴィータは考えるよりも体が先に動き、後方へと移動すると共に直前まで自分が居た場所を凄まじい勢いで氷の塊が通過するのを目撃する。
慌てて地上に目を向けてみると、ダメージから回復したブルーメラモンがアイスモンから氷の塊を受け取っているのを捉える。
(結構高く飛んでいるのに、アイツにはあたしらの事が見えているのか!?)
そのヴィータの疑問に答えるようにブルーメラモンは次々とアイスモンから受け取った氷の塊を全力で投擲し続け、なのはとヴィータへの攻撃だけではなく、アイスデビモンを取り囲んでいたアクセルシューターと鉄球も破壊されてしまう。
しかも衝撃波が起きるほどに飛んで来る氷の塊は勢いが強く、僅かな回避では体勢が崩れてしまう。これが普通の石などならば、なのはとヴィータは防御魔法で防げるのだが、ブルーメラモンが投擲して来ているのはアイスモンの必殺技である『アイスボールボム』。防御魔法で防げば込められている冷気が破裂し、ダメージを受けてしまう。必然的になのはとヴィータの回避を取らざる終えなく、逆にアイスデビモンは自らの動きを封じていた包囲網が壊され、自由に動けるようになった。そのチャンスを逃さずにアイスデビモンは大きく回避したヴィータの隙をついて接近する。
「貰ったぞ! フロストクローー!!」
このチャンスを逃さないと言うように、アイスデビモンは鋭く輝く両手の爪をヴィータに向かって突き出した。
だが、ヴィータは迫るアイスデビモンの攻撃に慌てた様子を一切見せず、アイスデビモンが嫌な予感を感じた瞬間、アイスデビモンの四肢が桜色の輪-『レストリクトロック』-によって拘束されてしまう。
ーーーガキィィィィィン!!
「こ、これは・・・う、動けん!?」
幾ら力を込めても壊れる様子を見せないレストリクトロックに体を拘束されたアイスデビモンは、何とか脱出しようと体を動かす。
しかし、今度はヴィータが逃さないと言うようにグラーフアイゼンを構えて柄の部分から薬莢を排出してカートリッジロードする。
ーーーガッシャン!!
《
「へっ! 今度はお前が罠に嵌ったな!」
「な、何だと!? ま、まさか!?」
「この距離じゃ流石に地上からの援護も出来ねぇ筈だ。あたしを狙ったらお前にも当たるからな!」
事前にヴィータとなのはは地上からのブルーメラモンの攻撃を避けながら、念話で作戦を決めていた。
大きく回避していけば、確実に自由になったアイスデビモンは追撃を行なって来る。其処をまだ戦いの中で見せていなかったバインド系の魔法であるレストリクトロックを使用して捕らえる。無論遠距離からの攻撃も考えられたが、確実性を持たせるならば接近戦を仕掛けて来るだろうとヴィータは考えて、なのはに指示を出したのだ。
アイスデビモン達が魔導師の持つ力である声を出す事無く会話出来る念話と、動きを封じるバインド系の魔法を知らなかった事で成功する策。その策は見事成功し、アイスデビモンに反撃させる事も出来ずに攻撃出来るチャンスがヴィータに訪れた。
ゆっくりとヴィータはグラーフアイゼンを構え、迷う事無くアイスデビモンの胴体に向かって振り下ろす。
「コイツを食らえ!! フランメ・シュラーークッ!!」
ーーードゴォン!!
ーーーゴオォォォォォッ!!
「ギャァァァァァァァァァァァァァァッ!! 火が! 炎が!? ガアァァァァァァァァァァァァァッ!!」
ヴィータが振り下ろしたグラーフアイゼンがアイスデビモンの胴体に直撃すると同時に、激しい炎がアイスデビモンの胴体から発生した。
アイスデビモンはその衝撃でレストリクトロックの拘束から外れるが、自らの身が炎に焼かれるのにもがき苦しんで地上へと落下して行く。
「アイスデビモン!?」
「や、やばいぜ! ブルーメラモン!! アイスデビモンの体が焼かれてるぞ!」
「分かっている! 急いで助けるぞ!!」
地上に向かって落下して来るアイスデビモンを目撃したブルーメラモンとアイスモンは互いに叫びを上げながら、急いでアイスデビモンが落下して来る地点へと走り出した。
その様子を見ていたヴィータは、やはりアイスデビモン達にとって炎の攻撃は弱点なのだと理解して笑みを浮かべる。
(よし! やっぱり炎に弱い見てぇだな)
(そうみたいだけど・・・ヴィータちゃん、良く分かったね?)
(何となくだけどな。あいつら氷系の技しか使ってねぇだろ? あの炎みたいな奴はともかく、他の二体には効きそうだったから使ってみたけど、正解だったみてぇだ)
ヴィータも先ほどの攻撃は実を言えば半信半疑な部分が在った。
だが、守護騎士として戦い続けて来て鍛えられた自らの直感を信じて攻撃したのだ。結果はヴィータの予想以上の成果だった。明らかに炎だと分かるブルーメラモンはともかく、アイスモンにはアイスデビモンと同様にフランメ・シュラークは通じる可能性が高い。
とは言っても同じ手段が通じる相手だともヴィータは思えず、その点も踏まえてなのはに次の指示を出す。
(良し! なのは! 炎みたいな奴の方はこっちで時間を稼ぐ! その間に石みたいな奴を倒してくれ!)
(でも、ヴィータちゃん? 大丈夫なの? あの三体の中で一番強そうな相手何だよ?)
(アァ、分かってる。だからあたしが相手をしている間に出来るだけ早く石みたいな奴を倒してくれ。そうすりゃあ、さっきみたいに空中での炎の奴の攻撃手段が無くなる。あんな回りくどい攻撃をして来たのは、多分炎みたいな奴には遠距離の攻撃が無いからの筈だ。だから先に石みたいな奴を倒しておいた方がいい)
(・・・・うん! 分かったよ! ヴィータちゃんも気をつけてね!)
ヴィータの説明になのはは納得し、二人は地上に居るブルーメラモン達が居る場所へと降下して行く。
その間に地上へと落下して来たアイスデビモンの下へと辿り着いたブルーメラモンとアイスモンは、全身を襲う激痛に苦しんでいるアイスデビモンを心配して駆け寄る。
「アイスデビモン! 大丈夫か!!」
「確りしろよ!! おい! アイスデビモン!」
「うぅ・・・・ブルー・・・メラモン・・・ア、アイス・・・・モン」
「何だ?」
「き、気を・・・・つけろ・・・・赤い小娘・・は・・・・炎の攻撃がで、出来る・・・・もう一人のこ、小娘は・・・う、動きを封じる技を・・・も、持って」
「・・・分かった・・今は休め。すぐに俺とアイスモンが連中を片付ける」
「・・・・た、頼む・・・・わ、我らの・・・安住の地を・・・」
アイスデビモンは苦痛に苦しみながらも右手を上げ、ブルーメラモンとアイスモンは手を握った。
すると、アイスデビモンは安心したかのように目を閉じて手から力が抜けた。ゆっくりとブルーメラモンはアイスデビモンを地面に横たえさせ、アイスモンと共に自分達に向かって来ているなのはとヴィータに決意が篭もった目を向ける。
「・・・アイスモン・・・お前は時間を稼げ。それだけで今は良い!」
「応よ!」
アイスモンはブルーメラモンの指示に了承の意を示して前へと走り出す。
それは自分達のリーダーであるブルーメラモンに持っている信頼している証。必ず指示を完遂して見せると誓いながらアイスモンはブルーメラモンから離れて行く。
その動きを目撃したなのはは、ヴィータの指示に従ってアイスモンに向かってレイジングハートを構えてアクセルシューターを撃ち出す。
「逃がさないよ! アクセルシューターー! シューート!!」
放たれたアクセルシューターは放物線をそれぞれ描きながら、高速でアイスモンに向かって迫って行く。
それら一つ一つがアイスモンの速さを超えていた。三体の中で一番動きが遅いのはアイスモン。だからこそ、ヴィータはなのはにアイスモンを倒す指示を出したのだ。だが、なのはとヴィータの予測に反してアイスモンは突然前へと身を躍らせると同時に膝を丸め、両手を膝を抱えるようにしながら転がり出す。
「オォォォォォォォッ!!」
「嘘!?」
自らの体を丸めて高速で回転しながら走り出したアイスモンの姿に、なのはは思わず驚愕の声を漏らした。
これこそがアイスモンの自らの動きの遅さを回避する唯一の手段。自らの体を丸めて地面を走ると言う切り札だった。だが、この切り札には弱点が在る。移動中は必殺技の類が一切使用出来ず、また空に居る相手に攻撃も出来ない。ただ地上に居る相手に向かって転がるか、或いは逃げ回るしか手段が無くなってしまう切り札。だが、ブルーメラモンの指示を実行するには最良の手段であり、追い駆けるアクセルシューターとアイスモンの間に徐々に距離が出来て行く。
それに気がついたなのはは慌ててアクセルシューターの制御に集中するが、アイスモンは構わずに必死に転がりながら辺りを逃げ回る。
その間にブルーメラモンとヴィータの戦いも始まり、ブルーメラモンは拳と蹴りを放ち、ヴィータはグラーフアイゼンを振るって激突を繰り返して行く。
「オラァッ!」
「フッ!」
ーーードゴォン!
ヴィータのグラーフアイゼンのハンマーヘッドとブルーメラモンの右拳が激突し、衝撃音が辺りに響いた。
その音が鳴り響き終わる前にブルーメラモンは左拳や蹴りを放つが、ヴィータは自らの小柄な体を利用して最小限で回避し、大振りになったブルーメラモンの隙をついて反撃を行なう。だが、ヴィータは戦いながら違和感を感じていた。
(何だコイツ? てっきり炎に覆われているから熱いのかと思っていたのに・・・・全然熱くねぇ!?)
当初ヴィータはブルーメラモンの体は高温の炎に覆われていると考えていた。
だから最初の一撃はグラーフアイゼンの熔解も覚悟していたのだが、ヴィータの予想に反して普通に激突を繰り返せている。
「(コイツの体の温度はアイゼンを熔かせるほどじゃねぇってことなのか? なら今の内に少しでもダメージを与えてやる!) ・・・・・アイゼン!!」
ーーーガシャン!!
《
ヴィータの叫びに応じると共にグラーフアイゼンのハンマーヘッド部分の片方が推進剤噴射口に、その反対側がスパイクに変形した。
同時に推進剤噴射口が噴き出し、ヴィータは己の体を回転させると共にブルーメラモンに向かって飛び掛かり、ラケーテンフォルムに変形したグラーフアイゼンのスパイク部分を振り抜く。
「ラケーテン!! ハンマーーーーー!!!」
「ヌゥン!!」
ーーードゴォォン!!
ヴィータが振り抜いて来たラケーテンハンマーに対してブルーメラモンは、先ほどと同じように右拳を叩きつけた。
今度はヴィータは己が信頼する一撃を放ったので先ほどと違いブルーメラモンにダメージを与えられると確信するが、ヴィータの予想に反してブルーメラモンは体勢を崩すどころか揺るぎさえもせずに口元に笑みを浮かべていた。
「掛かったな」
「なっ!? 何で通じ・・ッ!?」
ラケーテンハンマーが正面から破られた事実にヴィータは、驚きながらグラーフアイゼンのハンマーヘッド部分に目を向け驚愕した。
先ほどまでどれだけ激突させ合っても熔解しなかった筈のグラーフアイゼンが、スパイク部分からハンマーヘッドの中央付近まで熔解していたのだ。
「フフッ! 俺は自分の体の温度を自由に変える事が出来る。貴様の武器と激突させ合っても大丈夫なぐらいに温度を下げていたのだ。この瞬間の為にな!」
「クッ!」
今度は自分が罠に掛かった事を理解したヴィータは、急いで空中へと身を躍らせる。
ブルーメラモンはその動きを予測していたと言うように左手に不気味な黒い球体を作り出し、空中に居るヴィータに向かって撃ち出す。
「貰った! アイスファントムッ!!!」
「なっ!?」
初めて見せたブルーメラモンの遠距離の攻撃をヴィータは避ける事が出来ず、その身にアイスファントムが直撃する。
ーーードゴォォン!!
「ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
「ヴィータちゃん!?」
心身を凍て付かせるような極寒の冷気と食らった時の衝撃に、ヴィータは苦痛の叫びを上げた。
それを目にしたなのはは慌てて地上へと落下して行くヴィータの下へと移動し、その身を受け止めて驚愕に目を見開く。何故ならばヴィータの体には全く体温が感じられず、死体を思わせるほどに冷え切って完全にヴィータの体は凍り付いていた。
このままではヴィータの命が危ないとなのはは悟り、慌ててこの場から逃れようとするが、そうはさせないと言うようにブルーメラモンが再び左手からアイスファントムを放つ。
「逃さん! アイスファントム!!」
ーーードォン!!
「ッ!? プ、プロテク…」
超高速で迫って来るアイスファントムを防ごうと、なのはは防御魔法を発動させようとする。
しかし、発動が間に合わずアイスファントムがなのはと抱えているヴィータに激突した。だが、その直前、まるでなのはとヴィータを護るように壁のように二人の目の前の空間が歪み、アイスファントムは空間の歪みと激突してアイスファントムは在らぬ方向へと飛んで行く。
ーーーギュィン!!
「何ッ!?」
「えっ!?」
目の前で起きた出来事にブルーメラモンとなのはは、それぞれ驚愕の声を漏らした。
離れたところで見ていたアイスモンもブルーメラモンの攻撃が何者かに防がれた事実に目を見開いていると、自らの背後で誰かが雪を踏む足音が響く。
ーーージャリッ!
「悪いけれど、その二人は知り合いなの。出来れば見逃してくれると嬉しいわ」
「だ、誰だ!?」
背後から聞こえて来た声にアイスモンは慌てて振り返り、アイスモンの叫びを聞いたブルーメラモンとなのはも顔を向ける。そしてなのはは自分とヴィータを助けてくれたと思わしき人物の姿に驚愕と困惑に目を見開く。
その相手はゆっくりと雪に覆われた地面に足跡を付けながら歩いて来ていた。翡翠色の髪をポニーテールにして纏め、黒いゴスロリ服を着たなのはと同い年ぐらいに見える少女。二年前にブラック、ルインと共に管理世界から姿を消したリンディが、無表情にアイスモン、ブルーメラモンを睨んでいたのだった。
とある違法研究所。
その場所の主である紫色の髪の男性は、自身の目の前のモニターに映っているアイスデビモン達と対峙しているリンディの姿を楽しげに眺めていた。
「これは予想外の事態だね。スポンサーからの依頼も兼ねて暇潰しで送った兵器から、こんな嬉しい映像が届くなんて・・・彼女が居ると言う事は、もしやあのデジモンも近くに居るのかも知れない。興味深いね・・・フフフッ」
「ドクター、不気味な笑い声は止めて下さい」
「・・・新たに改造を施してから最近、何故か私に対する君の言動や行動が事が冷たく感じるのだがね、ウーノ?」
背後から容赦なく言葉を放って来たウーノに、ドクターと呼ばれた男性は僅かに暗い声を出しながら振り返った。
しかし、言われたウーノは気にした様子も見せずに、モニターに映っている映像を眺めながら男性に話しかける
「そんな事よりも、早急に依頼を完遂するべきです。新しいスポンサーからの依頼・・・『ドクターが作製した機動兵器が魔導師に対して有効かどうかの実戦テスト』の為に兵器まで送ったのですから」
「そうだね、ウーノ・・・だが、兵器を使用するのは少し後回しだ。二年ぶりに姿を見せた彼女の実力も気になるからね・・・しかし、スポンサーも人が悪いとしか言えないね。態々デジモンが住んでいる遺跡の調査任務を簡単な調査任務と偽って彼女達を誘き出したのだから・・・ばれれば自分にも危険が及ぶと言うのに」
「それだけスポンサーも追い込まれていると言う事でしょう・・・・なりふり構わずに三提督側の権威を貶め始めたと言うことでしょうね。愚かとしか言えませんが」
「同感だね・・・だからこそ、私達が好きに暗躍出来ると言うのも在る者さ・・・さて、ゆっくりと見学しようではないか。私達の敵になるかもしれない者の実力を。その後に私が作り上げた兵器が何処まで彼らに対抗出来るのか確かめるのも悪くは無いからね」
そう男性は楽しげに笑いながら、映像の中で睨み合っているリンディとブルーメラモン、アイスモンの姿を楽しげに観察するのだった。
基本的には流れが変わっていませんが、アイスデビモンがなのはとヴィータに敗北しました。
これは魔法と言う力をアイスデビモン達が知らなかったのと、フィールドの特性が在っての油断があったからです。
逆にヴィータとブルーメラモン戦ではブルーメラモンが自らの力を抑えて戦ったと必殺技を最後まで温存していたのが、自らの勝利に繋がりました。因みにヴィータは生きています。