漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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この作品は『にじファン』の時のクリスマス記念として出した『ディアボロモンの逆襲』の話です。


外伝 『ディアボロモンの逆襲』 前編

 それは『漆黒の竜人』が世に生まれる一年前の出来事。

 世界を滅ぼす力を宿して生まれた『悪魔のようなデジモン』と、勇気と友情、そして人々の想いが一つになった時に現れた『聖騎士デジモン』の戦いがあった。

 その戦いは凄まじく『勇気』と『友情』は『悪魔のようなデジモン』に敗れ、現れた『聖騎士デジモン』が人々の想いを自身の力に変える事で漸く『悪魔のようなデジモン』を撃ち破る事に成功し、世界は危機から救われた。大勢の人々が『悪魔のようなデジモン』が消滅するのを目撃し、全てが終わったかのように思われた。

 しかし、『悪魔』は滅んではいなかった。狡猾にも生き残り、自身の目的を阻んだ『聖騎士デジモン』を滅ぼす為に再び動き出そうとしていた。

 だが、『悪魔』は知らなかった。自身と同様に悪魔のごとき力を持った存在が『聖騎士デジモン』を象る想いの一つ『勇気』に救われ、例えどれほどの距離が離れていようと、『勇気』を救いに向かう事を。

 

 

 

 

 

 三大天使が見守るデジタルワールド。他のデジタルワールドと同様に広大な自然が広がる世界。

 その場所に存在する切り立った巨大な山脈の上空で背中に巨大な羽を生やした鳥の顔をした鳥人型デジモン-『ガルダモン』と『漆黒の竜人ブラックウォーグレイモン』こと、『ブラック』がぶつかりあっていた。

 

ガルダモン、世代/完全体、属性/ワクチン種、種族/鳥人型、必殺技/シャドーウィング、ファイアハリケーン

大空をかける翼と敵を切り裂く巨大なツメを持つ鳥人型デジモン。進化条件は厳しく、選ばれたデジモンのみがガルダモンになれると言われ、大地と風の守護神と崇められて世界の平和が乱れると出現し、平和へ導くと言われている。必殺技は、炎に巨大な鳥の形を持たせて相手に向かって放つ『シャドーウイング』に、巨大な炎の竜巻を発生させる『ファイヤーハリケーン』だ。

 

「オオォォォォォーーーーーー!!!!!」

 

ーーードゴオオォォン!!

 

「ガアッ!!」

 

 ブラックが突き出した渾身の力を込めたドラモンキラーを胸に受けたガルダモンは苦痛の声を上げて、山脈に激突する。

 その様子を上空からつまらなそうな視線でブラックは眺めながら、地面から起き上がろうとしているガルダモンに質問する。

 

「フン、この辺りで最近縄張りを広げているデジモンだと聞いて来て見れば、この程度の実力か…正直期待外れだ」

 

「グゥゥゥゥゥッ!!シャドーーウイング!!!」

 

ーーーピイィィィィィーーー!!!!

 

 ブラックの残念さに満ちた声を聞いたガルダモンは悔しげな唸り声を上げながら立ち上がり、全身から炎を発生させ、ブラックに向かって巨大な炎の鳥-『シャドーウイング』を放った。

 しかし、ブラックは高速で迫って来ているシャドーウイングを目にしても慌てる事無く右手を凄まじい速さで横に振り抜く。

 

「ムン!!!」

 

ーーーバシュン!!!

 

「ナッ!!」

 

 ブラックが右手を振り抜くと共に迫って来ていたシャドーウイングは簡単に霧散し、ガルダモンは目を見開きながら、自身の最大の技を簡単に霧散させたブラックを見つめる。

 しかし、ガルダモンの驚愕などに構う事無く、ブラックは一瞬の内にガルダモンの目の前に移動する。

 

ーーービュン!!

 

「ッ!!」

 

「終わりだ。ドラモンキラーー!!!!」

 

ーーードグゥオオン!!

 

「ガハッ!!」

 

 ブラックが突き出したドラモンキラーを避ける事が出来ずに鳩尾に直撃を食らったガルダモンは、口から血を吐き出し、そのまま気絶してしまった。

 ブラックはその様子に心の底からつまらなそうな顔をしながらガルダモンを地面に倒れさせると、そのまま気絶しているガルダモンに背を向け、前に向かって歩き出す。

 

(つまらんな。此処最近はつまらん敵ばかりだ。あの女が定期健診でアルハザードに戻っている内に暴れられると思っていたが、この程度ばかりではつまらん)

 

 ブラックは本気で今の戦いに何も感じる事が出来なかった。

 数日前にリンディがアルハザードに帰還し、自由に暴れられると思ってオファニモンからの情報を元に強敵と思われるデジモン達と数日間ずっと戦い続けていたのだが、正直に言えばブラックからすれば手応えがない敵ばかりだったのだ。しかし、それは仕方が無い事だった。

 ブラックが戦いたいと思っている究極体のデジモンは滅多な事では表に出て来る事が無いデジモン達。完全体ではブラックの戦闘本能を満たせる者は限られている。その事はブラックも分かってはいるが、自身の本能を抑えきれずに居た。

 その様にブラックが自身の戦闘本能について考えていると、ブラックの頭上に突如としてオファニモンが姿を現す。

 

ーーービュン!!

 

「………此処で暴れていたデジモンなら、もう倒したぞ? それとも漸く管理世界に居るイガモンどもから、『倉田』に繋がる情報が届いたのか?」

 

「いえ、違います。ですが、事態は一刻を争います。貴方の力を貸して欲しいのです」

 

「ほう、貴様が其処まで言う敵か………面白い。此処最近つまらん敵ばかりだったからな。丁度貴様から渡された資料に載っていたデジモン達を全て倒し終えたところだ。別口で強敵と戦えるなら、すぐに向かってやる」

 

「……貴方に行って貰いたい場所は、この世界とは『別世界のデジタルワールド』………貴方の生まれ故郷の世界です」

 

「ッ!!!」

 

 オファニモンが告げた場所にブラックは衝撃を感じた。

 ブラックが生まれた故郷に危機が迫っている。それが意味する事は一つしかない。親友であるアグモン、そして自身を救ってくれたヒカリ達に危機が迫っていると言う事に他ならない。

 その事が思い浮かんでたブラックは、目を細めながらオファニモンに視線を向ける。

 

「詳しく事情を話せ? 一体何があの世界で起きているのかを」

 

「もちろんそのつもりです。あの世界に迫っている脅威を止める為には、貴方の力が必要になるでしょうから」

 

 そうオファニモンは答えると、ブラックに全てを話す。

 アグモン達のいる世界に迫っている脅威。それを知ったブラックは即座に自身のパートナーであるルインを呼び出し、オファニモンの力で二度と戻るつもりは無かった故郷へと帰還する。

 親友であるアグモン達を助ける為に。

 

 

 

 

 

 別世界の地球。ブラックが生まれたデジタルワールドと隣接している世界。

 その場所のお台場に存在しているビルの屋上で、ブラックはルインを伴いながら静かに立ち続け、街を眺めていた。

 その胸の宿る想いは郷愁の念。二度とこの世界に戻って来るつもりはブラックには無かった。

 憎しみに支配され、多くのデジモン達を殺し、世界のバランスさえも限りなく危険なレベルにまで崩した自分がこの世界にいる資格は無いとブラックは考えている。例え受け入れられても、自身の罪は消えない。だからこそ、ブラックはオファニモン達にこの世界の事を知らされても、戻って来るつもりはなかった。この世界が滅びるかもしれない危機が無ければ。

 

「ブラック様………それでこれから如何しましょう? やはり、この世界にいるブラック様の仲間に接触を…」

 

「する気は無い。俺はこの世界の危機が無くなれば、オファニモン達の世界にすぐに戻る。連中が奴に出会う前に、俺が奴を滅ぼす………お前はさっさと奴が潜んでいる電子空間を探せ」

 

「………了解です……少し情報を集めて来ます………(ブラック様には申し訳ありませんけど、会いに行って見ましょう。ブラック様を救った人間達に)」

 

 そうルインは内心で呟くとブラックに背を向け、ビルから降りて行く。

 後には静かに街の中の機械関係から出て来る『幼年期デジモン』を険しい瞳で見つめるブラックだけが、ビルの屋上に残されたのだった。

 

 

 

 

 

 東京の街中。

 その場所に存在している道を、猫の容姿をしているデジモン-『テイルモン』を腕の中に抱いた『八神 ヒカリ』がお台場中学に向かって急いで走っていた。

 

テイルモン、世代/成熟期、属性/ワクチン種、種族/聖獣型、必殺技/ネコパンチ

好奇心が旺盛でイタズラ好きな聖獣型デジモン。見た目とは裏腹に恐るべきパワーを持っている。神聖系デジモンの源となる貴重なデジモンで、神聖系デジモンの証である“ホーリーリング”をつけているが、外れてしまうと力が出なくなってしまう。必殺技の『ネコパンチ』は、手の長い爪で相手を攻撃する技だぞ。

 

 突然に東京の街中の電子機械関係から溢れるように姿を現した同じ種類の幼年期デジモン。

 そのデジモンの危険性をヒカリとテイルモンは知っていた。そのデジモンに対する対策を取る為に、ヒカリとテイルモンは仲間である光子郎の召集に応じてお台場中学に急いでいた。

 しかし、そのヒカリとテイルモンが走っている道路の先から、何処か普通の人間とは違う雰囲気を放っている銀髪に蒼い瞳をしてロングスカートを着ている女性が歩いて来る。

 その女性の姿を見た瞬間、テイルモンは何かを感じたのか女性を険しい視線を睨みつける。

 

「ウゥゥッ!!」

 

「テイルモン?如何したの?」

 

 何時もとは違うテイルモンの様子にヒカリは疑問を覚えながら質問するが、テイルモンは答える事無く女性を睨み続ける。

 そのテイルモンの視線に女性は気がついたのか、困ったような笑みを僅かに口元に浮かべながらヒカリとテイルモンに声を掛ける。

 

「あら? 其方の変わったペットに嫌われたんですかね?」

 

「アッ! すいません!」

 

「気にしないでいいですよ。それにしても其方のペットさんといい、街の中に溢れている謎の生物………この街は変わっていますね………“まるで何か危機が迫っているような”」

 

『ッ!!』

 

 東京に起きている事を知っているような女性の言葉にヒカリとテイルモンは驚くが、女性はそれ以上何も言うつもりは無いのか、ヒカリの背後に向かって歩き出す。

 ヒカリとテイルモンは女性の動きに警戒するが、女性は何もする気は無いと言うように無防備に前へと進み、ヒカリの横に差し掛かった瞬間にヒカリだけに聞こえるように囁く。

 

「気をつけた方がいいですよ。この事件の犯人は、恐ろしく狡猾ですからね。二重三重の手を打っています」

 

「えっ!?」

 

 囁くように告げられた女性の言葉にヒカリは慌てて女性に顔を向けるが、振り返った先には女性の姿は全く存在せず、ヒカリとテイルモンは幽霊でも見たような顔をしながら顔を見合わせるのだった。

 

 そして三十分後。ヒカリとテイルモンは来る途中で出会った女性の事が気になりながらも、お台場中学のパソコン部の部室の椅子に座っていた。

 

「ん? ヒカリにテイルモン? 如何したんだ?」

 

「何か在ったのか?」

 

 何かを考えているような顔をしながら座っていたヒカリとテイルモンに気がついた、ヒカリの兄である『八神 太一』と金髪を短髪に整えた髪型をした男性-『石田 ヤマト』が心配そうな顔をして質問した。

 

「………うん………ちょっと此処に来る前に、女の人に会ったんだよ」

 

「女? 誰だ?」

 

「分からないの………会った事も無い人だったから………だけど、その人はこう言っていたの。『今回の事件の犯人は、二重三重の手を打っている』って」

 

「それは本当ですか!?」

 

 パソコンの設定をしながら話を聞いていた『泉 光子郎』は目を見開きながらヒカリに質問し、他のメンバー-『井ノ上 京』、『一乗寺 賢』、『火田 伊織』、タケル、太一、ヤマト、そしてデジモン達もヒカリとテイルモンを見つめるが、テイルモンは更なる事実を伝える。

 

「間違いないわ………だけど、その女性は多分人間では無いわ」

 

「人間じゃないって!? 如何言う事だよ!? テイルモン!!」

 

「一目見て私には分かったの………あの女性は人間と言うよりも、ゲンナイに近い感じを受けた………立ち振る舞いにも隙は無かったし、只者では無いわ、太一」

 

「ゲンナイさんに近い感じ? そんな話は聞いていませんが」

 

 光子郎はそうテイルモンの報告に疑問の声を上げた。

 光子郎は定期的にゲンナイと今回の事件について連絡を取り合っていたが、テイルモンの言うゲンナイに近い印象を受ける女性が関わっているなど聞いた覚えは無い。では、ヒカリとテイルモンの前に現れた女性は何者なのかとその場にいる全員が考えるが、答えは出る事無く悩み続ける。

 そして全員が悩んでいると、突如として部室のドアをノックする音が響く。

 

ーーートントンッ!

 

「デジデジ」

 

「モンモン」

 

ーーーガラガラ

 

「失礼します」

 

 合言葉が答え終わると共に部室の扉が開き、カバンを肩に提げた『本宮大輔』が部室の中に入って来た。

 それを光子郎は確認すると、ヒカリとテイルモンが告げた謎の女性の事は一先ず置いて、部室の中にいるメンバーを見回す。

 

「これで全員ですね」

 

「ミミさん、丈さん、空さんは?」

 

「ミミさんは丁度今は飛行機の中です。丈さんは高校の入学手続きです。空さんは?」

 

「テニス部の合宿………今こっちに向かって居る所だ」

 

 光子郎の質問にヤマトが椅子に座りながら答えた。

 その事でこの場にいないメンバーの理由が分かった大輔は、疑問に満ちた顔をしながら光子郎に顔を向け質問する、

 

「で、一体如何したんですか?」

 

「………これを見て下さい」

 

ーーーポチン!

 

 光子郎は持っていたリモコンを操作し、部室の中に在る大きなモニターに画像を映し出した。

 その画像に全員が目を向けてみると、干してある布団の前でピースサインをしているゴーグルを首に掛けた少年の映像が映し出された。

 その映像を見た大輔は笑いが抑えられないと言うように口に右手をやりながら、左手で画像を指差す。

 

「ハッハッハ、誰こいつ?」

 

「………すまん、俺だ」

 

「ハッハッハ………」

 

 太一の言葉に大輔は乾いた笑い声を上げながら、太一の顔を見つめた。

 それに気がついた光子郎は再びリモコンを操作し、今度はヤマトと共に街の中を歩いている『武之内 空』との画像に変える。

 

ーーーピッ!

 

「ネットの中でばら撒かれているんです」

 

「悪質な悪戯ですよね!?」

 

「犯人は分かっています………間違いなく『ディアボロモン』の仕業のようです」

 

「『ディアボロモン』?」

 

「三年前のネットに現れたデジモンの事ですよね?」

 

「『オメガモン』が倒したんじゃなかったんですか?」

 

「倒した筈だった」

 

「だが、奴は生きていたんだ」

 

「如何言う事ですか?」

 

 ヤマトと太一の言葉を耳にした伊織が質問した。

 それに気がついた光子郎は、自身が弄っていたパソコンの前に移動し、ディアボロモンについて説明し出す。

 

「あの戦いで生き残ったデータが増殖したんでしょう。奴は普通のデジモンとは違って、自身のデータをコピー出来る特殊なデジモンですから。更に奴はメールと共に『クラモン』を現実世界に送り込んでいます」

 

 光子郎はそう状況を伝えると共にパソコンの画面を皆に見えるように回し、コンソールを弄ると件のメールと思われるメールを開き、クラゲのような姿をして一つ目を持ったデジモン-クラモンがパソコンに映し出された。

 

クラモン、世代/幼年期Ⅰ、属性/解析不可、種族/分類不可、必殺技/グレアーアイ

コンピューターのバグによって突如出現した謎のデジモン。幼年期でありながら高いネット侵入能力を持っている。他のデジモンとは違い、進化ルートはひとつしかないが自分自身をコピーし、病原菌のように無数に増殖が出来ると言う恐ろしい力を持っている。人間の破壊本能が詰まったデジタマから誕生したとされている最悪の幼年期デジモン。必殺技は、巨大な目の部分からアワのようなモノを出す『グレアーアイ』だ。

 

「大丈夫なんすか!? それ!?」

 

 パソコンに映し出されたクラモンの映像に大輔は悲鳴のような声を上げながら、クラモンの画像を指差した。

 当然だろう。画像からクラモンが現れると言う事は、光子郎が映し出した画像からもクラモンが現れると言う事に他ならない。その事はもちろん光子郎も分かっている。

 

「えぇ、これはキャプチャーして貰った映像ですから」

 

 光子郎はそう大輔の質問に答えると共に、画像をパソコン内部のゴミ箱の中に移動させ消去した。

 その事に全員が安堵の息を吐くと、タケルが光子郎に顔を向けながら声を出す。

 

「核ミサイルまで発射しようとした奴だ」

 

「現実世界にまで出て来られたら、何を仕出かすか分からないよ」

 

 タケルの言葉に頷くようにパタモンも声を出し、全員が世界に迫っている危機を充分に理解し、太一は、光子郎に顔を険しくしながら向ける。

 

「光子郎。ネットの中にゲートを開けないか」

 

「何処かにクラモンをばら撒いているマザーが居る筈だ」

 

「そいつを叩く!」

 

ーーーパシッ!!

 

 太一は声を出すと共に手を打ち合わせた。

 クラモンをばら撒いている元凶である本体のディアボロモンを倒せば、少なくともこれ以上のクラモンの現実世界侵入が治まる。そう考えた太一とヤマトは、クラモンを生み出しているマザーであるディアボロモンを倒そうとネット世界に入り込もうとする。

 その事に気がついたヒカリは慌てて椅子から立ち上がり、太一を止めようとするが、その前に大輔が太一に詰め寄り叫ぶ。

 

「俺も行きます!!」

 

「大輔、お前達はクラモンの方を頼む。現実世界で奴らが進化したら大変だからな」

 

「そうですよ。此処は『オメガモン』に任せるべきです。太一さん、ヤマトさん、ネット界へのゲートでアグモン達と合流して下さい。その後メールの発信元に誘導します。他の皆はクラモンの回収をして下さい。くれぐれも攻撃を加えて進化させないように。捕まえたクラモンはD-3のゲートを使って僕のパソコンに転送させて下さい」

 

 そう光子郎はパソコンを弄りながらこれからの方針を全員に伝えた。

 その会話を聞いていたヒカリは僅かに落ち込んだ顔をしてしまう。ヒカリもディアボロモンの異常過ぎる強さを知っている。三年前は『ウォーグレイモン』と『メタルガルルモン』の二体が同時に掛かっても倒せなかった強敵。しかも今回の目的は確実に『オメガモン』への復讐しか考えられない。

 その敵の下に自身の兄が向かう事にヒカリは凄まじい不安に襲われながら、一年前ほど前に自分達を護る為に命を散らしたこの世界の未来を知っていたデジモンが頭の中に浮かび上がって来る。

 

(………ブラックウォーグレイモンは、この事も知っていたのかな………知ってたら、如何していたんだろう?)

 

「大丈夫よ、ヒカリ。オメガモンは負けないわ」

 

「……うん………そうだね」

 

 不安を消すように告げられたテイルモンの言葉にヒカリは、僅かに安心感を得ながら椅子から立ち上がり、光子郎の指示通りに動こうとする。

 だが、その胸の内にある漠然とした不安だけは消す事が出来なかった。そしてその不安が的中してしまう事を、神ならぬヒカリには分からなかった。

 

 

 

 

 

 お台場中学の屋上。

 その場所でヒカリとテイルモンの前に現れた女性-ルインは、耳に掛けていたイヤホンからヒカリ達の会話を全て聞いていた。何も興味本位だけでルインはヒカリとテイルモンの前に現れた訳ではない。

 確かにブラックを救ったヒカリ達には興味は在ったが、それ以上にブラックの指示通り出来るだけ早く目的の敵であるディアボロモンの所在地を知る為に現れたのだ。

 その為に気づかれないようにヒカリに盗聴器を仕掛け、今までヒカリ達の行動方針を聞いていたのだ。

 

「フム、なるほど。メールの出所先ですか。その場所にディアボロモンは………それにしてもヒカリと言う女性………如何にも気に入らないんですよね………何だか凄まじい最大のライバルに出会ったような? ………ん~~?」

 

 ルインはヒカリに対する自身の気持ちが分からなかった。

 別にブラックを救った人物だからと言って、ルインは他人にあまり興味を示す気は無かった。しかし、ヒカリの顔を見た瞬間、ルインはヒカリがリンディより、そして最も嫌っている半身であるリインフォース以上の自身の最大のライバルだと何故か確信した。別にヒカリが嫌いだと言う訳ではない。寧ろルインにしては珍しく他人でいながらも、好感が持てる人間だった。

 にも拘らず、如何してもルインはヒカリには好感が持てなかったのだ。

 

「何であんな小娘を私はライバルだと認識したのでしょうか? ………分かりません………まぁ、それよりもブラック様の所に戻りましょう。さっさとディアボロモンを倒して、元の世界に戻らないといけませんからね」

 

 そうルインはヒカリに対する自身の想いについて考えるのを止めると、自身の主であるブラックの下に急いで向かい出した。

 

 

 

 

 

 東京の街中に存在する路地裏。

 その場所には先ほどまで数体のクラモン達が動き回っていた。しかし、そのクラモン達は既に一体まで数を減らし、最後の一体のクラモンは恐怖に震えながら仲間を殺した漆黒の竜人-ブラックから逃れようと壁に張り付いていた。

 

「クラ~!!!」

 

「フン、やはり進化出来ないようにプログラムされているか」

 

 恐怖に震えているクラモンを見下ろしながら、クラモン達を排除していたブラックは険しい声を出した。

 光子郎達とは違い、この世界に関する知識を持っていたブラックはクラモンが進化しないであろう事を確信していた。例え全てのクラモンがディアボロモンに進化したとしてと、その間には幼年期Ⅱ、成長期、成熟期、完全体、そして究極体と五段階の進化が存在している。しかもクラモンとディアボロモン以外は自身のコピーを作り出す能力は存在していない。

 その間ならば『オメガモン』ではなくても、他のデジモン達で進化したクラモンを倒す事が出来る。特にディアボロモンは『オメガモン』の力をよく知っている。だからこそ『オメガモン』を倒す為に必ず『あのデジモン』の力を使うだろう。

 そう考えたブラックは試しに数体のクラモンに攻撃したのだが、予想通りクラモンは進化する事無く簡単に消滅した。

 

「貴様の主と交信が出来るのならば、死ぬ前に伝えておけ。すぐに戦いに向かってやるとな!」

 

「クラーー!!!」

 

「逃がさん!!ドラモンキラーーー!!!!」

 

ーーードスゥン!!!

 

ーーーバリィィィィィーーン!!!

 

 慌てて逃げようとしているクラモンに、ブラックは迷う事無く右腕に装備しているドラモンキラーの刃を突き刺し、クラモンは悲鳴を上げる暇も無く消滅した。

 それを確認するとブラックはその場から背を向け、認識阻害の魔法を使用し、街の中を人々に認識される事無く歩き始める。

 

(もうすぐルインが、敵の情報を手に入れて来るだろう。そうなればオファニモンから渡された力でネット内に入り込み、ディアボロモンを倒す!!ウォーグレイモンとメタルガルルモンの二体がかりでも倒せなかった存在!!久々に楽しめる戦いが出来そうだ)

 

 そうブラックは内心でディアボロモンとの戦いに想いを馳せながら街の中を歩いていると、ブラックの前をチビモンとワームモンを連れた大輔と賢が通り過ぎる。

 

(ッ!!)

 

 二人とチビモン、ワームモンの姿にブラックは思わず声を出してしまいそうになるが、何とかそれを押さえ込み、大輔達の姿をジッと見つめる。

 

「こっちの方でクラモンを見たって話だぜ」

 

「あぁ、そうらしいな。とにかく一体でも多くクラモンを光子郎さんの下に送ろう。光子郎さんの話だと更にクラモンが出て来ているそうだからな」

 

(其処まで話は進んでいたか。一刻も早くルインと合流した方がいいな)

 

 大輔と賢の会話から状況が分かったブラックは、すぐさま近くの路地裏の中に身を隠し、ルインとの合流を急ぐ。

 だが、ブラックは気がついてはいなかった。大輔と賢はブラックの姿に気がついていなかったが、青と白の体に両手足と尻尾を持ったぬいぐるみの様なデジモン-『チビモン』と緑色の虫の様なデジモン-『ワームモン』が顔を青ざめさせ、まるで幽霊でも見たような顔をして顔を見合わせている事に。

 

チビモン、世代/幼年期Ⅱ、属性/なし、種族/幼竜型、必殺技/ホップアタック

青と白に両手足と尻尾を持った幼竜型デジモン、幼年期にしては珍しく両手足と尻尾を持ったデジモン。小さな両手で物をつかみ、両足でぴょんぴょん跳ねながら移動する事が出来る。寝る事が大好きで、目を離すとすぐに眠ってしまう。必殺技は、ぴょんぴょん跳ねながら相手に体当たりをする『ホップアタック』だ。

 

ワームモン、世代/成長期、属性/フリー、種族/昆虫型、必殺技/ネバネバネット、シルクスレッド

気弱で臆病な性格の幼虫型デジモン。ブイモン等と同じ古代種族の末裔で、特殊なアーマー進化をすることができるが、単体でのワームモンは非力で、大型のデジモンには到底かなわない。しかし、デジメンタルの力でアーマー進化することで、信じられないようなパワーを発揮することができる。賢のパートナーデジモン。必殺技は、口からネバネバの糸を吐き出し、敵の動きを封じる『ネバネバネット』に、絹糸のような細く、先が針のように硬い糸を吐き出す『シルクスレッド』だ。

 

「………なぁ………大輔?」

 

「………ねぇ………賢ちゃん?」

 

「うん? 如何したんだよ? チビモン」

 

「ワームモンもそんなに顔を青ざめさせて? 一体如何したんだい?」

 

 チビモンとワームモンの様子が可笑しい事に気がついた大輔と賢はそれぞれチビモン達に質問した。

 

『………幽霊って昼間も出るの?』

 

『ハアァ~~~!?』

 

 チビモンとワームモンの質問に大輔と賢は同時に訳が分からないと言う声を上げ、チビモンとワームモンを見つめると、チビモンがブラックが入って行った路地裏を恐る恐る指差す。

 

「……今さっきさぁ………ブラックウォーグレイモンが………アソコの路地裏に入って行ったんだよ」

 

『ブラックウォーグレイモンだって!?』

 

「うん、僕も見たよ………歩いている周りの人達は誰もブラックウォーグレイモンの姿に気がついていなかったけど………僕らの事をジッと見ていたんだ」

 

『ッ!!』

 

 ワームモンが告げた言葉に大輔と賢は目を見開き、すぐさまチビモンが指差した路地裏の中に向かって駆け出す。

 チビモンとワームモンが告げた路地裏を見回すが、ブラックの姿は影も形も存在していなかった。

 

「………いないよな?」

 

「あぁ………見間違いじゃないのかい? ワームモン」

 

「違うよ! 絶対にアレはブラックウォーグレイモンだったよ!!」

 

「間違いないぜ! 確かにブラックウォーグレイモンだった!」

 

「だけどよぉ………アイツは………」

 

 ワームモンとチビモンの言葉に、大輔と賢は落ち込んだように顔を俯かせてしまう。

 二人ともブラックの最後を知っている。何せ二人はブラックが死ぬ瞬間をその目で目撃したのだから。

 自身の体を消滅させて、光ヶ丘のゲートを閉じる為にその命を使った瞬間を。夢で在ってくれと、二人やタケル、伊織、京、そしてヒカリとアグモン達は願った。しかし、現実は変わる事無くブラックは死んでしまった。

 その出来事は大輔達にとって忘れられない悲しい思い出として、胸の内に強く残っている。

 その死んだ筈のブラックが東京の街中に姿を現した。

 

「………一体何が起きているんだ? ………ヒカリさんが会ったって言う謎の女性に、死んだ筈のブラックウォーグレイモン………この東京で何が起きようとしているんだ」

 

 更に深まる謎に賢は空を見上げながら疑問の声を上げるが、大輔、チビモン、ワームモンは答える事が出来ずに同様に疑問に満ち溢れた顔をするのだった。

 

 

 

 

 

 ネット空間内部に存在する通路。

 その場所にも大量のクラモンが存在し、通路内部を通って現実世界に出ようとしていた。

 そのクラモン達とは逆に自分たちのパートナーデジモンである『アグモン』、『ガブモン』と合流した太一、ヤマトは、クラモン達が出て来る方向に向かって真っ直ぐ進んでいた。

 

アグモン、世代/成長期、属性/ワクチン種、種族/爬虫類型、必殺技/ベビーフレイム

獰猛でとても勇敢な性格で頼りになる爬虫類型デジモン。怖いもの知らずだが体はまだ成長の途中なので力は弱いが、成長期デジモンの代表的な存在でもあり、個体差も大きく、亜種もいくつか確認されているデジモンである。必殺技は、口から高熱の火炎の息を吐き出す『ベビーフレイム』だ。八神太一のパートナーデジモン。

 

ガブモン、世代/成長期、属性/データ種、分類/爬虫類型、必殺技/プチファイヤー

毛皮を被っているが、れっきとした爬虫類型デジモン。とても臆病で恥ずかしがりやな性格でいつもガルルモンが残していったデータをかき集めて毛皮状にしてかぶっている。必殺技の『プチファイヤー』は小さな青色の火炎弾を放つ技だ。タケルの兄であるヤマトのパートナーデジモン。

 

ーーードン!!

 

「ワァッ!!」

 

「アグモン! 気をつけて!」

 

 前方から進んで来たクラモンと衝突してバランスを崩したアグモンに、ガブモンが声を掛けた。

 それと共にアグモンはすまなそうな顔をしながら、再び太一達と並ぶようにして前に進むと、太一が辺りの大量のクラモン達に顔を向ける。

 

「こいつ等、俺達を無視して何しようってんだ?」

 

「大輔達に任せたんだろう? 俺達はとにかく大元を叩くだけだ」

 

 クラモンを見ながら上げた太一の声に、ヤマトは前方を険しい顔して見つめながら答えた。

 その言葉に太一も最もだと思い、前方に顔を向けると共に自身のデジヴァイスを握る。

 

「行くぞ!!」

 

ーーーピカァァァァァァァーーン!!

 

 太一が叫ぶと共に太一とヤマト二人のデジヴァイスが光り輝き、アグモンとガブモンがそれぞれオレンジ色と青色の光に包まれ、光が消えた後にはアグモンはウォーグレイモンの頭部に、ガブモンはメタルガルルモンの頭部に変わっていた。

 それと共に太一はウォーグレイモンの頭部を掴み、ヤマトもメタルガルルモンの頭部を掴むと、二つの頭部は光の速度で前へと進み、光が通路内部に満ちる。

 そして光が消えた後には、白き鎧で身を包み、背中に内側が赤く白いマントを羽織って、左腕にオレンジ色の肩当てをつけてウォーグレイモンの頭部を模した篭手に、右腕に青色の肩当てをつけ、メタルガルルモンの頭部を模した篭手をつけた騎士が姿を現す。

 その騎士こそ『ウォーグレイモン』と『メタルガルルモン』が人々の平和を願う思いから融合した究極体を越えた合体究極体。最強の称号であるロイヤルナイツに名を連ねる聖騎士デジモン-『オメガモン』だった。

 

オメガモン、世代/究極体、属性/ワクチン種、種族/聖騎士型、必殺技/ガルルキャノン、グレイソード、ソード・オブ・ルイン

遥か昔『古代デジタルワールド期』に発生した極度の“デジタルクライシス”時に、2体の究極体デジモン、ウォーグレイモンとメタルガルルモンが平和を願う人々の強い意志によって融合し、誕生した聖騎士型デジモン。究極体を越えた合体究極体。また『ロイヤルナイツ』の一員としても高い地名度を誇っている。右腕はメタルガルルモンの特徴を色濃く残しており、大砲やミサイルなどが装備され、左肩には『ブレイブシールド』、腕には『グレイソード』と呼ばれる剣を装備し、こちらはウォーグレイモンの特徴が強く現れている。剣と大砲による攻撃、『ブレイブシールド』による防御、そして回避時や飛行時に自動的に出現する背中のマントなど、如何なる状況下の戦いにおいても対応する事が出来る優れたトータルバランスを持っている最強の聖騎士型デジモンの一体だ。必殺技は、ガルルモンを模した右腕の篭手から砲塔を出現させ、相手に向かって氷の砲弾を撃ち出す『ガルルキャノン』に、ウォーグレイモンを模した左腕の篭手から出現させたデジモン文字で『オールデリート』と刻まれたグレイソードに炎を纏わせ、相手を斬りつける『グレイソード』。そしてグレイソードから放たれる究極乱舞『ソード・オブ・ルイン』だ。

 

 遂にその姿を現したオメガモンは右肩にヤマトを、左肩に太一を乗せて通路の先に見える広い電子空間に飛び出す。

 そして飛び出した空間を見回してみると、無数のクラモン達と黒い球体の中に潜んでいるオレンジ色の髪を持ち、胸に砲塔と思われる箇所を備え、間接が存在しない長い腕を持った『悪魔のようなデジモン-ディアボロモン』を発見する。

 

ディアボロモン、世代/究極体、属性/ウィルス種、種族/分類不可、必殺技/カタストロフィーカノン、パラダイムロスト、闇の力、システムフェイル

クラモンの最終形態デジモン。ネットワーク上のあらゆるデータを吸収し、進化と巨大化を繰り返す。ディアボロモンの手足は柔らかく素早く伸び、手や足の爪は鋭く格闘戦を得意としている。またクラモンの時にあった自分自身で自分のコピーを作る能力も復活し、自身を無数に分裂させると言う恐ろしき能力を持っている究極体デジモン。しかしコピーのディアボロモンは本来持っている能力を多少低下させてしまう欠点がある。必殺技は、胸の発射口から破壊エネルギー砲を相手に向かって発射する『カタストロフィーカノン』に、自身の全ての力を解放して相手と共に自爆する『パラダイムロスト』。周囲のデータを吸収し体を巨大化、無数の腕で相手を殴り続ける『闇の力』。そして自分の周りに居るデジモンのエネルギーを吸い取り、強制的に一段階退化させる『システムフェイル』だ。その他にも数多くの技を所持しているぞ。

 

「何だってんだこれは!?」

 

 余りにも多すぎる数え切れないほどのクラモンの数に、太一は慌てながら声を上げた。

 幾らなんでもクラモンの数が多過ぎるのだ。視界が封じられるほどの数のクラモン。その数は一万や二万でも足りないほどであろう。

 しかし、オメガモンは太一の声にも慌てる事無く、自身に向かって寄り集まって来ているクラモンに目を向けながら左腕を掲げ、グレイソードを出現させる。

 

ーーーガッシャン!!

 

「オオォォォォォォーーー!!!!」

 

ーーーブオォォォーーン!!

 

 オメガモンはグレイソードを出現させると共に、全力で横薙ぎに振るい、視界を塞ぐほどに周りに漂っていたクラモン達を吹き飛ばす。

 しかし、すぐに吹き飛ばされた以上のクラモン達がオメガモンの周りに寄り集まり、オメガモンの動きを阻害する。

 

「クソッ!! ディアボロモンを!! マザーをやるんだ!!」

 

ーーーガッシャン!!

 

 ヤマトの叫びにオメガモンは即座に応じ、右腕を軽く振るうと、今度はメタルガルルモンを模した篭手の口部分から巨大な砲身が展開し、黒い球体の中でオメガモンの動きを観察しているディアボロモンに照準を合わせ砲撃を撃ち込む。

 

ーーーズドォォォン!!!

 

『クラクラクラクラ~~~!!!!』

 

ーーードゴオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 しかしオメガモンの撃ち出した砲撃がディアボロモンに向かって進む途中、無数のクラモン達が盾のように立ちふさがり、砲撃はクラモン達に直撃し爆発を起こした。

 その為、本来の目標だったディアボロモンには砲撃の余波さえも届く事が無く、ディアボロモンはオメガモンに嘲りに満ちた笑みを向ける。

 本来のオメガモンの砲撃ならば、ディアボロモンに大ダメージを与える事は確実だった。だが、ディアボロモンの周りを囲んでいる無数のクラモン達の方に問題があるのだ。幼年期のクラモン達では砲撃を防ぐ事など不可能に近い。だが、クラモン達の数は最低でも十万以上を超えている。力が足りなければ数で補う。そして例え砲撃を連射してクラモン達を排除したとしても、クラモンには自身のコピーを病原菌のように無数に増やせると言う最悪な特性を持っている。つまり、オメガモンの凄まじい威力を持った砲撃を持ってしても全てのクラモンを消滅させるのは不可能に近い。

 その上ディアボロモンは三年前の自身のミスが分かっているのか、オメガモンと今戦っているフィールドの広さは異常と言っていいほどの大きさだ。狭い場所ならば砲撃の余波で数多くのクラモン達を巻き込み倒す事が出来るが、広すぎるフィールドでは余波からクラモン達は逃れる事が出来る。

 完全に今戦っている場所はオメガモンにとって最悪なフィールドであり、ディアボロモンにとって最高の場所だった。このままオメガモンが力を使ってディアボロモンに攻撃をしても、その度にクラモン達が立ち塞がり、オメガモンの攻撃を防いでいく。そうなれば幾ら最強の騎士の一人であるオメガモンでも体力を失ってしまい、疲弊した所を襲われディアボロモンに倒されてしまう。

 その事が分かった太一とヤマトは険しい顔をしながら、オメガモンの攻撃を防ぎ続けるクラモン達と嘲りの笑みを浮かべ続けているディアボロモンを睨むのだった。

 

 

 

 

 

 現実世界渋谷区。

 その場所で大輔、賢、チビモンの進化体である頭にVの字が書かれたデジモン-『ブイモン』、ワームモンはビルの壁に置かれている巨大テレビに映し出されているオメガモンとディアボロモンの戦いを見ていた。

 

ブイモン、世代/成長期、属性/ワクチン種、種族/小竜型、必殺技/ブイモンヘッド、ロングソード

数少ない“古代種”デジモンの一匹。古代種の成長期の中でも高い戦闘力を持っている。『デジメンタル』を使って、『アーマー進化』と言う特殊な進化をすると爆発的な力を発揮する。性格はやんちゃでいたずら好きだが、正義感の強い一面も持っている。必殺技は、勢いをつけて頭から突っ込む強烈な頭突きを相手にぶつける『ブイモンヘッド』と、クロンデジゾイド製のソードで切り裂く『ロングソード』だ。

 

 ディアボロモンは三年前と同じように自身がオメガモンを倒す映像を多くの者に見せる為に、戦いの映像を流していたのだ。

 テレビに報道されている映像を見る限り、戦いの状況は如何見てもオメガモンの方が不利だと大輔達には分かっていた。

 やはり全てがディアボロモンの策略だったと悔しげに顔を歪めていると、大輔の持っている携帯から音が鳴り響く。

 

ーーーピロピロッ!

 

「ん! 何だよこんな時に? もしもし!!」

 

『大輔君!オメガモンの救援にはヒカリさんとタケル君が向かいました!君達はくれぐれもクラモン達をお願いします!!』

 

ーーーピッ!

 

「………ヒカリちゃーーん!!」

 

ーーーガシッ!!

 

「よせ」

 

 携帯を切ると共に走り出そうとした大輔の服の襟首を賢は掴み、大輔の動きを押さえながら声を掛ける。

 

「光子郎さんの指示に従った方がいい」

 

「って! 放って置けるかよ!!」

 

 賢の言葉に大輔は反論するように叫び、自身もオメガモンの救援に向かおうと賢に伝えようとするが、その直前に大輔のカバンの中から顔だけを出していたブイモンがテレビを指差す。

 

「大輔!! アレ見て!!」

 

『ん?』

 

 ブイモンの叫びに大輔だけではなく、賢とワームモンもブイモンの指差すテレビに顔を向けてみると、ヒカリを肩に乗せた女性型の天使デジモン-『エンジェウーモン』と、タケルを肩に乗せたエンジェモンがオメガモンとディアボロモンとの戦いの場に飛び込む映像が流れていた。

 

 

 

 

 

 ネット世界、ディアボロモンとオメガモンが戦っている電子空間。

 ディアボロモンとオメガモンとの戦いの場所に飛び込んだエンジェウーモンとエンジェモンは広いフィールドを自身の背にある翼で縦横無尽に飛び回り、オメガモンの救援に急ぎ向かう。

 

エンジェウーモン、属性/ワクチン種、世代/完全体、分類/大天使型、必殺技/ホーリーアロー

八枚の翼を背中に付け、仮面で顔を覆った大天使型デジモン。デジタルワールドの女神と呼ばれている。しかし、曲がったことや悪は許さず、相手が心を入れ替えるまで攻撃をやめない。必殺技で在る『ホーリーアロー』は腕に付いている飾りを弓へと変化させて光の矢を放つ技だ。その他にも光の光線を放つなど、多彩な神聖系の技が使える上に、肉弾戦まで行える力も持っている。テイルモンの完全体の姿。

 

「お兄ちゃーーーん!!!」

 

「グオォォォッ!」

 

ーーーズドオォン!!ズドオォン!!ズドオォォン!!

 

 接近して来るエンジェウーモンとエンジェモンに気がついたディアボロモンは折角旨く言っている作戦を邪魔されまいと、エンジェウーモンとエンジェモンに向かって胸元の発射口からエネルギー弾-『カタストロフィーカノン』を連続で撃ち込んで行く。

 エンジェウーモンとエンジェモンは自身に迫って来るカタストロフィーカノンを素早く避け続けるが、ディアボロモンは逃さないと言うように連続でカタストロフィーカノンを発射する。

 

ーーーズドオォン!!ズドオォン!!ズドオォォン!!

 

「兄さーーーん!!!」

 

「タケル!!」

 

「ヒカリ!!」

 

 タケルとヒカリがやって来ている事に気がついたオメガモンは二人に体を向け、ヤマトと太一がそれぞれ名を呼んだ。

 その様子にディアボロモンはますます不安を覚えてエンジェウーモンとエンジェモンに向かってカタストロフィーカノンを撃ち込むが、二体は素早く体を動かし、直撃を食らっても最小限のダメージで済む程度に抑える。

 その様子にディアボロモンは更なる不安に襲われたようにカタストロフィーカノンを連射し続けるが、内心では嘲りの感情が溢れていた。自身の思い通りに全てが進んでいる。このままエンジェウーモンとエンジェモンをある箇所に追い込めば、その瞬間に自身の勝利は確実になる。

 そうディアボロモンは内心で考えながら最大のカタストロフィーカノンをエンジェウーモンとエンジェモンに向かって撃ち出し、二体がその攻撃を避けた瞬間。

 

ーーーブオン!!

 

ーーーギュルルルルルーーーーー!!!

 

『なっ!? ウアッ!!』

 

ーーードオォォォォォン!!!

 

「ヒカリ!!」

 

「タケル!!」

 

 何も存在していなかった筈の壁に突如としてゲートが開き、その先から長い手が飛び出して来たと思った瞬間、エンジェウーモンとエンジェモンは手に捕らえられそのまま壁に叩きつけられた。

 それを目撃した太一とヤマトは慌てた声を上げ、オメガモンにエンジェウーモンとエンジェモンの救出を頼もうとするが、その前に再びクラモン達が立ち塞がりオメガモンの動きを封じる。

 その事に太一とヤマトが険しい顔をしながらエンジェウーモンとエンジェモンを捕らえている敵の正体を見ようと、手が飛び出してきているゲートに目を向けてみると、ゲートの中からもう一体のディアボロモンが姿を現す。

 

「もう一体のディアボロモン!? しまった!?」

 

「クソッ!! 自分の事も分裂させていたのか!?」

 

 現れた二体目のディアボロモンの姿に、太一とヤマトは自分達のミスを悟った。

 よくよく考えてみれば、ディアボロモンが生み出せるのはクラモンだけはない。自分自身も分裂させて戦力を上げる事がディアボロモンには出来る。

 恐らくディアボロモンは一番最初に姿を見せていたディアボロモンが倒された時に、油断するであろうオメガモンの隙をつき、本命の二体目でオメガモンを倒すつもりだった。三年前にも使われていた手だと太一とヤマトは悔しげに顔を歪めるが、すぐにその顔は焦りへと変わる。

 確かにエンジェウーモンとエンジェモンの行動のおかげで、二体目のディアボロモンの奇襲は無くなった。だが、逆にエンジェウーモンとエンジェモン、そしてヒカリとタケルが人質に取られてしまっている。これではオメガモンは攻撃する事が出来ない。

 それが分かっているのか、黒い球体に隠れているディアボロモンとヒカリ達を拘束しているディアボロモンは残忍さに満ちた顔をしてオメガモンに向かってカタストロフィーカノンを連射する。

 

ーーーズドオォン!!ズドオォン!!ズドオォォン!!ズドオォン!!ズドオォン!!ズドオォォン!!

 

「グアアアァァァァァァァァッ!!!」

 

『オメガモン!!!』

 

「お兄ちゃん!!」

 

「兄さん!!」

 

 背中に羽織ったマントでカタストロフィーカノンを防御しながらも苦痛の声を上げたオメガモンに向かって、エンジェウーモン、エンジェモン、ヒカリ、タケルは悲鳴を上げた。

 しかし、オメガモンは答える余裕が無いのか撃ち出され続けているカタストロフィーカノンの威力に耐えようと更に防御を行う。

 その様子にエンジェウーモンとエンジェモンは何とかディアボロモンの手の拘束から逃れようと体を動かすが、それに気がついた二体目のディアボロモンは自身の目をギュルと回し、壁に押し付けているエンジェウーモンとエンジェモンに更に両手の力を込める。

 

ーーーギュゥゥッ!!

 

『アァァァァァァァァッ!!!』

 

「エンジェウーモン!!」

 

「エンジェモン!!」

 

 苦痛の叫びを上げたエンジェウーモンとエンジェモンにそれぞれの肩に乗っているヒカリとタケルは叫ぶが、二体とも答える気力も無いのか苦しげな声を上げ続ける。

 それと共にオメガモンに対する二体のディアボロモンの砲撃も激しさを増していき、ヒカリとタケルは悔しさと辛さが入り混じった顔をしてしまう。助けに来た筈なのに、逆にオメガモンと太一、ヤマトに危機を与えてしまった。

 その事実にヒカリは自身の無力さからか涙が目元に浮かび上がり、内心で悲しみに満ちた叫びを上げる。

 

(また駄目なの!? またあの時見たいに助けられないの!? お願い!誰でもいい!! お兄ちゃん! ヤマトさんを! オメガモンを!! 皆を助けて!!!)

 

ーーーブオォン!!

 

 ヒカリが内心で助け願う叫びを上げた瞬間、二体目のディアボロモンの遥か頭上の天井に突如としてゲートが開き、ゲート内部から勢いが凄まじい黒い竜巻が飛び出して来ると、そのまま二体目のディアボロモンに向かって高速で落下する。

 

「ブラックトルネーーーード!!!!!」

 

「ッ!!」

 

ーーードゴオオォォォォーーン!!!

 

『ッ!!!』

 

 突然の頭上からの奇襲に二体目のディアボロモンは黒い竜巻の突撃を避ける事が出来ず、黒い竜巻に弾き飛ばされた。

 その黒い竜巻の攻撃を目にしたオメガモン、太一、ヤマト、そして二体目のディアボロモンの拘束から逃れる事が出来たエンジェウーモン、エンジェモン、ヒカリ、ヤマトは限界まで目を見開いた。

 彼らは二体目のディアボロモンを弾き飛ばした技を知っていた。本来ならばもう使い手が居ない筈の技。自分達を護る為に命を散らしたデジモンの技の一つ。

 その事実に誰もが信じられないと言う顔をしながら未だに回転を続けている黒い竜巻を見つめていると、黒い竜巻は回転を治め、その中からオメガモンと同程度位の大きさの体である漆黒の竜人が姿を現し、そのまま弾き飛ばした二体目のディアボロモンに向かって突撃して行く。

 その漆黒の竜人の姿を目撃したヒカリ達は、信じられないと言うように限界まで目を見開き、漆黒の竜人の名を同時に叫ぶ。

 

『ブラックウォーーグレイモン!!!!』

 

「オオォォォォォォーーーー!!!!! ドラモンキラーーー!!!」

 

ーーードッゴオォッ!!

 

「ッッ!?!?」

 

 ヒカリ達の叫びを耳にしながらブラックは自身のスピードを緩める事無く、未だに奇襲の衝撃から立ち直っていなかった二体目のディアボロモンを右腕のドラモンキラーで殴り飛ばした。

 その姿にもう一体のディアボロモンは目を見開くが、すぐに驚愕を治め、今度はブラックに向かって胸元の発射口を向け、カタストロフィーカノンを連射する。

 

ーーーズドオォン!!ズドオォン!!ズドオォォン!!

 

「ほう、中々の攻撃だ………だが、軌道が読み易いぞ!!」

 

ーーービュン!!

 

「ッ!?」

 

 ブラックは叫ぶと共に自身に向かって放たれていたカタストロフィーカノンの軌道を読み取り、全て簡単に避けた。

 その事で驚愕して動きが止まってしまっているディアボロモンに向かって、ブラックは即座に右腕のドラモンキラーの爪先に作り上げていたエネルギー弾を投擲しようとする。

 だが、その動きは突然に止まり、背後から迫って来ていた二体目のディアボロモンの長く伸びた右拳を避ける。

 

ーーーギュルルルルーーーーー!!

 

ーーービュン!!

 

ーーーガシッ!!

 

「ッ!!」

 

「貴様のような究極体と戦えるなら、戻って来たのは正解だったようだな!! オオォォォォォォォォーーーーーー!!!!」

 

ーーーブンブンブンブンブンブン!!!

 

「ッ!?」

 

 ブラックはディアボロモンの右拳を僅かに首を下げるだけ避けると、そのまま頭上を通り過ぎていたディアボロモンの腕を両手で掴み取り、ディアボロモンを全力でフルスイングする。

 それによって空間内部に存在していた無数のクラモン達が次々とフルスイングされているディアボロモンにぶつかり消滅するが、ブラックは止まる事無くディアボロモンをフルスイングし続け、完全に自身の周りからクラモン達がいなくなるのを確認すると、ディアボロモンを凄まじい勢いで壁に叩きつける。

 

「オオオオオオオオォォォォォォーーーー!!!!」

 

ーーードゴオオォォォォォォォン!!

 

「ガッ!!」

 

 壁に叩きつけられた二体目のディアボロモンは苦痛の声を上げると共に顔を俯かせてしまう。

 しかし、ブラックはそれでは済まさないと言うように両手の間に負の力を集中させ、巨大な赤いエネルギー球を作り上げると、自身の頭上に掲げ、壁に体を預けたままのディアボロモンに投げつける

 

「ガイアフォーーース!!!」

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 ブラックが投げつけたガイアフォースは寸分違わずに二体目のディアボロモンに直撃し、大爆発が起こった。

 それを確認するとブラックは僅かに視線を、驚愕に動きが止まってしまっているオメガモンに向けながら叫ぶ。

 

「何をしている!? オメガモン!! 敵はまだ存在しているぞ!!」

 

「………ブラックウォーグレイモン………君は、君は本当にあのブラックウォーグレイモンなのか!?」

 

 ブラックの叫びにオメガモンはアグモンとしての意識を表に出して、ブラックに質問した。

 アグモンは覚えている。自分達に後を託し、その後も最大の敵を倒す為に希望を残していてくれていた親友の最後の瞬間を。だからこそ、目の前にいるブラックが本当にあの時のブラックなのかと疑問を覚えて質問したのだが、ブラックは答える事無く爆発の影響で発生した煙に向かって両手のドラモンキラーを構える。

 

「今はそんな事を話している場合か!? さっさともう一体のディアボロモンを倒せ! こっちは俺が相手をする!!」

 

ーーーギュルルルルルルーーーーー!!!!

 

『ッ!!!』

 

 ブラックが叫び終えると共に煙の中からディアボロモンの両拳が飛び出し、ブラックに向かって直進して来た。

 オメガモン達はその事に目を見開くが、殴り掛かられたブラックはそれを読んでいたと言うように軽々とディアボロモンの両拳をかわし、そのまま煙の中に隠れているディアボロモンに向かって突進する。

 

「ウオォォォォォォォーーーー!!!!」

 

ーーービュン!!

 

 ブラックの突撃を今度はディアボロモンが素早くかわし、そのままブラックとディアボロモンは互いに凄まじい速さで拳や蹴りを放ち続ける。

 

ーーードゴオォン!!ドゴン!!ドゴオォン!!

 

「オォォォォォォォォーーーー!!!!」

 

「ッ!!!」

 

 ブラックとディアボロモンは互いに凄まじい攻防を繰り広げるが、ディアボロモンとは違い、ブラックは本当に心の底からディアボロモンとの戦いを楽しいと感じていた。

 本来ならばオメガモン達が到着する前にブラックは、ルインの案内でこの場に訪れる予定だった。しかし、ディアボロモンはブラックが倒したクラモン達から情報を受け取っていたのか、進化が可能であるクラモン達をブラックとルインが選んだ侵入口に配置して、ブラックを足止めしていたのだ。最もブラックからすれば逆に本命であるディアボロモンとの戦いのウォーミングアップになった為に別に困る事は無かったが、オメガモン達と再会する事だけは完全に予想外だった。

 最も姿を見られた以上、隠すのはもはや不可能だ。だからこそ、ブラックはオメガモン達への事情の説明は後回しにして、とにかくディアボロモンとの戦いに専念する事にした。後の事など考えていられない敵だと言うのも、もちろんあるのだが。

 その様にブラックが考えているとは知らずにオメガモン達は、ディアボロモンと互角以上の戦いを繰り広げているブラックの姿に驚愕を抑える事が出来なかった。

 ウォーグレイモンとメタルガルルモンでさえも、二体同時で掛かって勝てなかったディアボロモンを相手に、退く所か逆にブラックは押している。例えコピーで能力が多少低下したとしても、ディアボロモンの実力がそんなに変わる訳ではない。その事を知っているオメガモン達はブラックと二体目のディアボロモンの戦いに信じられないと言う思いを抱くが、オメガモンに向かってもう一体のディアボロモンがカタストロフィーカノンを砲撃して来る。

 

ーーーズドオォン!!ズドオォン!!ズドオォォン!!

 

「ハッ!? グレイソーード!!」

 

ーーーバシュン!!

 

 ディアボロモンがカタストロフィーカノンを発射して来た事に気がついた、オメガモンは素早く左腕のグレイソードをカタストロフィーカノンに向かって振り抜き四散させた。

 それと共に我に返った太一とヤマトはオメガモンとヒカリ達に向かって叫ぶ。

 

「皆!! 今はディアボロモンを倒すのが先決だ!!」

 

「ブラックウォーグレイモンの事は、ディアボロモンを倒した後に聞けばいい!! とにかくディアボロモンを倒すぞ!!」

 

『分かった!!』

 

 太一とヤマトの叫びにオメガモン、エンジェウーモン、エンジェモンは即座に答えると、黒い球体の中に隠れているディアボロモンに向かって突撃する。

 それに気がついたディアボロモンは即座にクラモン達を操り、再び自身の盾にしようとした瞬間。

 

ーーーブンブンブンブンブンブン!!!

 

《ビンゴ!!》

 

『ッ!!』

 

 何処からともなく京の声が響くと同時に、次々と周りの壁に現実世界へと繋がるゲートが開き、ディアボロモンとクラモン達はその突然の現象に思わず動きが止まってしまう。

 その隙を逃さずにエンジェウーモンとエンジェモンは、クラモン達の壁とディアボロモンに向かって突進する。

 

「エンジェウーモン!!」

 

「えぇっ!! オメガモン!!」

 

ーーーズガァン!!ズガァン!!ズガアァン!!ズガァン!!

 

 エンジェモンとエンジェウーモンはクラモン達の壁に突撃し、クラモン達の壁を破壊した勢いのままディアボロモンが隠れていた黒い球体を破壊し、ディアボロモンを球体の中から引きずり出し動きを封じた。

 

「お兄ちゃん!!」

 

「分かった!!」

 

「オォォォォォォーーーー!!!!」

 

 ヒカリと太一の言葉の意味が分かったオメガモンは即座に左腕のグレイソードを突き出しながらディアボロモンに向かって突撃し、ディアボロモンの顔にグレイソードを突き刺す。

 

ーーーブザン!!

 

「兄さん!!」

 

「応!!」

 

ーーーガッシャン!!

 

 タケルの言葉に今度はヤマトが答えると、オメガモンは右腕の砲身をディアボロモンの胴体に押し付け、エンジェウーモンとエンジェモンがディアボロモンから離脱するのを確認するとゼロ距離で砲撃をディアボロモンに撃ち込む。

 

ーーーズドオォン!!ズドオォン!!ズドオォォン!!ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

「ギャァァァァァァァァァーーー!!!」

 

『ブラックウォーグレイモン!!!』

 

 ゼロ距離で砲撃を撃ち込まれて苦痛に苦しんでいるディアボロモンに構わずに、オメガモン、太一、ヤマト、エンジェウーモン、エンジェモン、タケル、そしてヒカリが別の場所で二体目のディアボロモンと戦っていたブラックを呼ぶ。

 それに気がついたブラックは即座に戦っていた二体目のディアボロモンの体を掴むと、そのままオメガモンに向かって投げつけ、オメガモンも右腕に乗ったままのディアボロモンをブラックに向かって投げつける。

 

『オォォォォォォォォーーーー!!!』

 

ーーードゴオオオオオオオオン!!

 

『ッ!!!!』

 

 ブラックとオメガモンが投げつけたディアボロモンは丁度二体の中間で衝突し合った。

 それと共にブラックは再びガイアフォースを作り上げ、オメガモンも右腕の砲身に自身のエネルギーを集中させ、ブラックとオメガモンは背中合わせで寄り掛かっている二体のディアボロモンに向かって同時に必殺技を放つ。

 

「ガイアフォーーース!!!」

 

「ガルルキャノン!!!」

 

ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 

『ッ!!?』

 

 ブラックとオメガモンの必殺技を同時に前後から受けた二体のディアボロモンは叫び声を上げる事も出来ずに、爆発の光の中に消えて行った。

 それを確認したオメガモン達は安堵の息を吐くが、ブラックだけは即座に動き、ゲートから逃げようとしているクラモン達を追いかける。

 

『クラクラクラクラクラクラクラクラクラッ!!!』

 

「逃さんぞ!!!」

 

ーーービュン!!

 

『ブラックウォーグレイモン!!』

 

「お前達は此処で体力を回復させておけ!!! いいか!? 絶対に自分達の力でゲートを開くな!! 出口のゲートは必ず開く!! この先に現れる敵は、ディアボロモン以上の実力だ!!」

 

『ッ!!』

 

 ブラックが告げた事実にオメガモン達は驚愕に目を見開くが、ブラックはもはや喋る暇も無いと言うようにクラモン達が逃げ込んでいる数多くのゲートの一つに飛び込んだ。

 それと同時に他のゲートは次々と切断され、後には暗くなっていく空間の中で困惑した顔をしながら顔を見合わせるオメガモン達だけが残されたのだった。


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