漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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長らくお待たせしてしまって申し訳ありませんでした。

活動報告でもお知らせしましたが、今話から改訂版を投稿して行きます。

今まで待っていて下さった皆様、本当に申し訳ありませんでした。


そして時は進む

 首都クラナガンに聳え立つ超高層タワーミッドチルダ管理局地上本部。

 まるで管理局の権力を誇示するかのように聳え立つタワーの一室で、レジアス・ゲイズ少将は本局に居るミゼットから届いた手紙を難しそうに眺めていた。

 内容は簡単に言えば、管理局の不祥事に関する案件の内容であり、レジアスは僅かに苦い表情を浮かべるしか無かった。

 通称『海』と呼称される本局は、ロストロギアや次元犯罪者及び組織が関わる重大な犯罪の捜査の為に次元航行艦を使用して次元世界を渡り歩く『広域捜査』を主な任務の主軸としている。ロストロギアや世界を渡り歩く次元犯罪者に関わる場合は、常に死と隣り合わせの危険な任務。そう言う背景が在る為に優秀な魔導師や最新の設備機器などは、本局に優先して配置されている

 逆に通称『陸』と呼称される地上の方は、本局と比べれば魔導師の質は圧倒的に低く、機材や設備なども殆ど本局に設置されている物よりも古い物が多い。此処で重要なのは、幾ら魔法文明が発達しているミッドチルダだと言っても、其処に住む人々や生まれる子供が全員魔力資質を兼ね備えている訳ではない。寧ろ魔力資質を持たない者が多いと言う現状である。訓練を積んで装備さえすれば一定の力を発揮出来る質量兵器と違って、『魔法』と言う力は個人によって差が存在している。優秀な魔導師となれば尚更に少なく、管理局全体を見てもAAAランクの魔導師は全体の5%しか居ないのが現実だった。

 そしてAランク以上の魔導師の殆どは本局の方に所属し、地上の魔導師のランクは低い者が殆どで在る為に『量より質』の手段が使える本局と違って、地上は『質より量』で日々を護っているのが現実だった。

 だが、ミッドチルダは次元世界の中核を担っている第一管理世界と言うせいで、ロストロギアの密輸やそれらを行なっている犯罪組織が集まり、その他にも一般の事件を対処する為には地上の戦力は不足しているとしか言えず、ミッドチルダの治安は徐々に悪化の一歩を辿って行き、地上の局員達は苦しい日々を過ごしていた。

 それに対して本局が何かを手段を講じたり、手を貸してくれる訳でもないので、本局と地上は同じ管理局と言う組織でありながらも管理局の内部に大きな軋轢を生み、両者の仲は最悪としか言えなかった。

 そんな現状をずっと憂い続けていたレジアスは、此処最近、最高評議会の面々と連絡を取り合い、違法で在ると分かっていながらも戦力増強の為に『戦闘機人』の実用化について話し合っていた。

 無論その行為が管理局が定める法に違反しているのは分かっていたが、このままではミッドチルダの人々が危機に瀕するかもしれないと危機感を持ったレジアスは最高評議会の提案を受けようとかと悩んでいた。しかし、その提案を出していた最高評議会の面々が殺され、更には本局の権威も落ちた。

 長らく煮え湯を飲まされて来た本局の権威が落ちたのはレジアスとしては嬉しい事だが、最高評議会まで殺されてしまった事によって『戦闘機人』に関する案件は止めざるを得なかった。

 違法研究という危ない橋を渡る勇気が持てたのは、少なからず自身が所属する組織のトップの容認が在ったからこそ。それが無くなったレジアスとしては、寧ろ今の状況を利用して本局の権力を削いで地上の戦力増加を画策していたのだが、その考えが纏まる前にミゼットから届いた手紙によって動きを止めざるを得なかった。

 悩むように手紙をレジアスが見つめていると、執務室のドアをノックする音が聞こえて来る。

 

ーーーコンコン

 

「入って構わんぞ」

 

ーーーガチャッ

 

「失礼するぞ、レジアス」

 

 レジアスの言葉に応じるように扉が開き、地上局員の服装に身を包んだ大柄な男性-『地上のSランクオーバーの魔導師ゼスト・グランガイツ』-が室内に足を踏み入れる。

 ゼスト・グランガイツは首都防衛隊に所属し、その中でも最強と称される隊の隊長を務めている猛者だった。同時にレジアスの親友であり、二人とも地上の平和を護ると言う誓いを結んだ仲である。

 

「急に呼び出してすまない、ゼスト」

 

「構わないさ…本局での件についてか?」

 

「うむ……ゼスト…今から話す事は暫くはワシとお前の間だけにして欲しい…事は管理局の存亡にも関わる重大な事だ」

 

「どう言う事だ、レジアス?」

 

「……お前達…『ゼスト隊』が現在追っている『戦闘機人』の案件…ワシはその大元の犯人を知っている」

 

「何だと!? 本当なのか、レジアス!?」

 

 突然のレジアスの発言にゼストは驚愕に目を見開きながら叫んだ。

 ゼストとその部下達がどれほど調べても尻尾さえも掴めなかった『戦闘機人』に関する案件の大元の犯人。それを知っていると言うレジアスの言葉に、ゼストが困惑しながらレジアスを見つめていると、レジアスは犯人の名を告げる。

 

「…違法研究『戦闘機人』に関する案件の犯人の正体…それは…『時空管理局最高評議会』の面々だ」

 

「なっ!?」

 

 余りにも告げられた自分達が追っていた犯人の正体に、ゼストは叫んだ。

 今のレジアスが告げた犯人の正体が真実だとすれば、『戦闘機人』を進めていたのは自分達が所属しているトップだったと言う事に他ならない。

 一体どう言う事なのかとゼストが険しい視線をレジアスに向けると、レジアスは僅かに顔を俯かせながら語り出す。

 

「…実はお前が知らない事だが…ワシはここ最近最高評議会の方々から一つの提案を持ちかけられていた。『地上の戦力増加の為に戦闘機人計画を秘密裏に進めないか?』とな。その為の研究者の連絡先も送られて来たのだ」

 

「馬鹿な!? …それが事実だとすれば…俺達がしていたのは…自らの組織が進めている計画を自分達が摘発していると言う事ではないか!?」

 

「…その通りだ…最もワシも大元だとは知らなかった。てっきり、最高評議会の連中も『戦闘機人』の研究内容に興味を引かれたからと思っておったが…どうやら真実はワシが考えていた以上に深いものだったようだ」

 

 そうレジアスは告げながら、ゆっくりと手に持っていたミゼットからの手紙をゼストに差し出す。

 差し出された手紙をゼストは受け取り、内容を読み進めていくと徐々に手が震えていく。

 

「…ば、馬鹿な…ミッドチルダの山岳地帯の何処かに…危険度が高いロストロギアが秘匿されているだと? こ、これが真実だとすれば」

 

「…ゼスト…お前の部隊のメンバー全員と、信頼出来る者達の手を使って捜索してくれ…秘密裏に処理するにしても何をするにしても、現物の品が無ければ証明も出来ないのだからな」

 

「…分かった。すぐにメンバーを選出する…その前に質問だが、レジアス? …本局での件でお前は本格的に関わる前に終わったが…違法に手を出そうとしていたのはどう言う理由でだ?」

 

「…お前とて分かっている筈だ…地上の戦力は本格的に限界を迎えて来ている。このまま行けば数十年と持たずにミッドチルダの治安は崩壊するかもしれん…次元犯罪者達も地上の力が弱い事に気がつき始めている。地上の平和と人々の安全の為ならば、違法と分かっていても手を出さない訳には行かないほどなのだ」

 

「…私利私欲の為では無い事は分かった…だが、俺達が築こうとしていた平和は、沢山の犠牲を持って作り上げようとしていたものなのか!? 俺達が目指していたのは違法に手を出しても構わない事だったのか!?」

 

「……そうだな…確かにワシは焦り過ぎていたのかもしれん」

 

 ゼストの叫びにレジアスは、何時の間にか目的の為に手段を選ばなくなっていた自身に気がついた。

 平和と言う願いは確かに大切だが、その為に違法と言う手段を使用すれば、自らが築こうとしていた平和は悲しみによって作られた平和に過ぎない。その果てに待っているのは、レジアス自身が何時か後悔する結末しかない。

 手段は間違えかけたが、レジアスは決して暗愚な人間ではない。これが本局の人間だったら反発していたかもしれないが、同じ願いを持って管理局に入った親友であるゼストの言葉は頑固なレジアスの胸に確かに響いた。

 幸いにも今回の本局の件を旨く利用すれば、少しの間は本局に地上の戦力を持っていかれずに済む。

 

「今一度考えてみよう…違法などに頼らずに地上の人々の安全を護る術を探してみる」

 

「そうか…レジアス…俺はお前の正義に殉ずる覚悟は既に持っている。現場でしか力を発揮出来ない俺だが、お前の力となろう」

 

「あぁ…頼むぞ、ゼスト」

 

 こうして本来の正史ならば互いの死と言う結末で終わったゼスト・グランガイツとレジアス・ゲイズの未来は変わった。

 その事を知らない二人は、ミゼットの手紙の内容に対して自分達がどう行動するのが最善なのか話し合いを続けるのだった。

 

 

 

 

 

 時空管理局本局医療施設。

 その場所の一室には、本局を襲撃して来たルインと戦ったシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、そしてリインフォースがそれぞれのベットの上で横になっていた。本来ならば魔導生命体で在る彼らの治癒力は人間などよりも遥かに高いのだが、今回戦った相手であるルインは彼らの事を彼ら以上に知っている者。

 その為に魔導生命体としての治癒力が通じ難い構成で発動された魔法を受けた為に、普通の人間と同じぐらいの時間を掛けなければ完治しない状態になっていた。

 

「グッ!」

 

「大丈夫? ヴィータちゃん?」

 

「…ど、どうってことねぇよ」

 

「無理をするな、ヴィータ…奴から受けた傷は治りが遅い…無理に動けば悪化する可能性も在るのだぞ」

 

「分かってるよ…なぁ、リインフォース」

 

「何だ? ヴィータ」

 

 声を掛けられたリインフォースがゆっくりと視線をヴィータに向けると、ヴィータは顔を俯かせながら質問する。

 

「…そのさ…アイツが言っていた事…本当なのか? …あたしらも…アイツを望んで生み出すのに力を貸したって?」

 

「……事実だ…奴が…ルインフォースが言っていた事は全て事実だ。『夜天の魔導書』をより完璧にする為に…ルインフォースは生まれた」

 

「だけど…それが『夜天の魔導書』が『闇の書』へと変わる始まりだったのよね?」

 

「そうだ…最初に改変した主が死してから、歴代の主達は半身の存在を知ると共に自らが使用出来る方法を模索し続けた…当時は長きベルカ戦争の始まりでも在った・・・自分達が戦争に勝利する為にもルインフォースの力は必要だと主達は考え、何よりも先ず自らが使用出来る方法を模索し続けた。だが」

 

「改変を行うたびに奴は異常な存在へと変貌していったか。そして更に従えられる存在はいなくなって行ったのだろう?」

 

「…正解だ、ザフィーラ…そして改変を続けて行った結果、他のシステムにも異常が出始めた。その影響が最初に起きたのは『守護騎士プログラム』。本来ならば保持出来る記憶を保持出来なくなった」

 

「それで我らは『夜天の魔導書』と言う本来の名を忘れ、『闇の書』と言う新たな名前の方しか記憶出来なくなったと言う事か。そして後から加えられたルインフォースの存在も忘れてしまった」

 

「…もはや、何が在っても私達と半身が分かり合う事は無い。私達は主はやてと言う光に救われた。だが、奴を救ったのは自分と同じように世界に悪影響を与えるブラックウォーグレイモンと言う闇。漸く見つけた主の為ならば、奴は喜んで動くだろう。次に戦う時がくれば、奴は守護騎士プログラムを乗っ取る事も行う。例え別れても、奴が『夜天の魔導書』の上位プログラムだと言う事実は変わらない」

 

「次に戦ったとしたら…あたしらがあたしらじゃなくなるかも知れねぇってことか…ちくしょう」

 

 リインフォースが告げた事実にヴィータは悔しげに声を上げ、シグナム、ザフィーラ、シャマルも顔を俯かせる。

 シグナム達が決死の思いで挑んでいたと言うのに、ルインには余力が残っていた。その気になれば戦っている最中に守護騎士であるシグナム達を再び取り込み、管理局の魔導師に対して戦わせると言う戦法も使えたのに使わなかった。実際のところルインとしては最後に脅しとして言ったに過ぎず、シグナム達を再び自らの守護騎士にする気は全く無い。何よりも意思ある守護騎士達を人形にように操る事は、ブラックウォーグレイモンが絶対に許す筈が無いのだ。

 その事を知らないシグナム達は再びルインと出会った時に、自らが自らではなくなるかも知れない恐怖に体が震える。今の自分を絶対に失いたくは無い。だが、それを行えるルインの存在に対してシグナム達は心の底から恐怖を感じていた。同じ『夜天の魔導書』に宿っていた者としての義務感では次は戦えない。戦う前に恐怖で動けなくなるとシグナム達は直感し、体が我知らずに恐怖に震える。

 その様子を見たリインフォースは、ルインが最後に脅しとして残した言葉は絶大な効果を持っていた事実に顔を険しく歪める。

 

(半身はこうなる事を分かって、あの言葉を残したのか…私達を心の底から嫌っている奴が本当にやるのかは別にしても…可能性として存在している時点で守護騎士達は半身と戦うのを拒絶するかもしれない…私達は半身に完全に敗北したのだな)

 

 そうリインフォースは自分達の完全な敗北に顔を俯かせて、自分達がこれからどうすべきなのか悩むのだった。

 

 

 

 

 

 海鳴市に在る小高い丘の桜台。

 その場所はなのはが早朝で良く魔法の練習をする場所である。その場所に置かれているベンチに、家族から管理局に入局する事を許されなかったなのはが悩みながら座り込んでいた。

 

「…ねぇ、レイジングハート?」

 

『何でしょうか? マスター』

 

 なのはの首に掛かっている赤い宝石-『待機状態のレイジングハート』-が、電子音声を発しながら聞き返した。

 自らの相棒であるレイジングハートをなのはは見つめると、意を決したなのはは声を出す。

 

「…やっぱり、何か私にも出来ないかな? 皆が頑張っているのに、私だけ何もしないって…何か嫌な気持ちになるから」

 

『……マスター…お気持ちは分かります』

 

 レイジングハートにはなのはの気持ちが機械で在りながらも、少しだけ理解出来ていた。

 今回起きた『闇の書事件』の中で、ヴォルケンリッター達との最初の戦闘の時に自らが大破した時にレイジングハートは悔しさを感じた。故に今なのはが抱いている気持ちが、機械でありながらもレイジングハートは理解している。

 だが、今回の件はなのは一人の力で動向出来る範囲を明らかに超えている事態。管理局と言う巨大な組織全体に関わる問題なのだ。

 

『マスター…今はご家族の皆様の言葉に従うべきだと私は思います』

 

「…レイジングハートもそう思うの?」

 

『はい…そもそもマスターとフェイト・テスタロッサ、そして八神はやての状況は大きく違います。言い方は悪いかもしれませんがマスターは他の二人と違って、『PT事件』と『闇の書事件』は巻き込まれただけです。フェイト・テスタロッサ、八神はやては家族が事件に大きく関わっています。二人とマスターの状況がこの時点で大きく違うのは分かりますね?』

 

「…うん」

 

『二人は残念ながら、管理局に関わらなければならない立場に居ます。しかし、マスターは違います。平時ならば管理局に入局を許されたかもしれません。ですが、ご家族の方々は管理局が信用出来ないのです。それはマスターを想っての事です…私もマスターが利用されたり怪我をするのは嫌です。今はご家族の方々の言葉に従って下さい』

 

「・・・・・・そうだよね・・・お母さんやお父さん達は意地悪で許してくれない訳じゃないもんね」

 

『はい、マスターを想っているからこそお父様は怒ったのだと私は想います。やはりもう一度話し合って見るべきでしょう』

 

「…うん。家に帰って詳しく話してみるよ。行こう、レイジングハート!」

 

『はい、マスター』

 

 自らの相棒の言葉になのはは深く頷くと、ベンチから降りて家に向かって走って行く。

 その様子を観察するかのように近くに潜んでいる隠密用の機械が存在していた事に気がつく事無く、なのはは家へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 デジタルワールドの火の街。

 オファニモンからデジタルワールドでの滞在の許可を貰ったブラックウォーグレイモン、ルイン、リンディはそれぞれオファニモンからの今後自分達がどう動けば良いのか話し合いを続けている。

 そんな中、リンディは話し合いを抜け出して、デジタルワールドに来る前にフリートに頼んだ件に関して通信機を使用して状況を聞いていた。

 

『と言う事で…例の『高町なのは』と言う少女は、相棒のデバイスに説得されて家族の方々と話し合うみたいですよ。まぁ、私見ですけど、リンディさんが危惧している無茶な事はやらないと思いますよ。あくまで私見ですが』

 

「そう良かったわ…なのはさんは時々自分を省みないで無茶をする時が在るから…私も驚かされる時が在ったから心配していたけど、レイジングハートが止めてくれたみたいね」

 

『確かに観察機器から送られてくる情報から見てみると、魔導師としての才能は素晴らしいとしか言えません…ですが、『魔法面』以外は不味いですよ。見たところ運動神経と体力は低そうですから、『魔法』を扱うという体の土台の基礎が出来ていません』

 

「…管理局の訓練は魔導戦闘に趣きを置くから、それが悪かったわね。前にクロノがなのはさんに送った訓練メニューも魔導師の訓練内容だから…私もウッカリしていたわ。なのはさんの魔法の才能だけを見ていて、その他に目を向けていなかった…もしも無茶な訓練をするようだったら、無理やり止めに行く事も考えていたけれど、そうならなそうで良かったわ」

 

『? …何か心配するほどの無茶するような事が彼女には在るんですか? 今の言い方だと、まるで自分を省みないほどの無茶を彼女はしているように聞こえましたけれど?』

 

「…そう言えば貴女には話していなかったわね。なのはさんが持っているレイジングハートなのだけれど、『インテリジェントデバイス』って言うベルカ式の『カートリッジシステム』を積むのは危険なデバイスなの。安定性などの問題が在って、フルドライブする時はデバイスの自壊も在り得るのよ」

 

『………ハァ?』

 

 説明された事柄にリンディが持っている通信機から、フリートの間が抜けたような声が響いた。

 そして漸くリンディの説明を理解したのか、十数秒経ってから恐る恐る質問するようにフリートの声が通信機から響く。

 

『…え~と? …つかぬ事を聞きますが? …彼女? 『高町なのは』は陸戦の魔導師ですか?』

 

「いいえ、空戦だけれど?」

 

『…あ、あっ』

 

「あ?」

 

『ア、アホですかァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!???』

 

「ッ!?」

 

 突然に通信機からフリートの怒鳴り声に、通信機を耳元に当てていたリンディは慌てて通信機を耳から離した。

 予想外の怒鳴り声にリンディは耳を押さえる。だが、フリートはリンディの様子に構わずに通信機の先で怒鳴る。

 

『そんな自壊の可能性が在るデバイスを持たせていたんですか!? 『アルハザード』の全盛期時代ならともかく! 今の魔導師達にはデバイスが魔法行使に何よりも必要な筈ですよね!?しかも彼女は空戦なんですよね!? 空中で自壊を引き起こしたら、地上に真っさかさまに落ちて死にますよ! …一体今の技術者達は何を考えているんですか!?』

 

 技術者であるフリートにとってリンディの説明は認め難い事実だった。

 誰かを戦いの場に赴かせるならば、その準備を行なう者は万全にして送るべきだと言う考えをフリートは持っている。情報、物資、そして戦う者の武器や防備。これらが万全であれば在るほどに、戦いの場に送り出された者の安全は増す。逆に不備などがあれば在るほどに送り出された相手の命が危険にさらされる。

 そして一頻りフリート怒鳴り声が通信機から響き、リンディは両耳を押さえてフリートの怒りが治まるのを待つ。

 

『ハァ、ハァ、ハァ…なるほど、リンディさんが心配になる理由が良く分かりました。自壊の危険性が在るデバイスなんて危険ですからね』

 

「…えぇ、そう言う事よ…(本当はなのはさん自身の事もなのだけれど…それを今言ったら、また怒鳴りそうね…でも、人格的には問題ありだけれど、技術者としてのフリートさんは信用出来そうね)」

 

 本気で怒っているフリートの様子から、リンディは人格的な事は別として技術者としてのフリートは信用出来ると確信した。

 自らが作った物ではないに不備が在る代物に対して怒りをフリートは顕にしているのだから、少なくともフリートは技術者としては信用と信頼が出来る。それでもマッドな面だけは気をつけておくべきだとリンディは思いながら、気になっていた事をフリートに質問する。

 

「ところで…彼とルインさんは暫らく此方の世界に留まるみたいだけど…貴女はこれからも協力してくれるのかしら?」

 

『あぁ、それは構いませんよ…長く存在している私でも知らなかった『デジモン』と言う電子生物に、電子世界『デジタルワールド』…とても興味を引かれる存在ですッ! 更にブラックウォーグレイモンからの情報では、其方の世界に存在している鉱物を加工すればブラックウォーグレイモンが装備している武器や防具と同じ堅牢さが手に入ると言う話じゃないですかッ! …次元世界に在るかも知れない『アルハザード』の技術回収も確かに大切ですが、それとは別として未知の存在への追求と探求は楽しいのです!!! フフフッ、久方ぶりに本気で好奇心が湧き上がって来ます!! だから、今までどおりに手を貸すつもりです』

 

「そ、そう」

 

 不穏なフリートの声にリンディは不安を覚えながら声を出すと、何らかの資料を手に持ったルインとブラックウォーグレイモンがリンディの下にやって来る。

 

「此処に居たか」

 

「あら、話し合いは終わったの?」

 

「あぁ、俺達はイガモン達から倉田が潜んでいるかも知れない研究所の情報が届けば、其処を襲うと言う事になった。それ以外の時はデジタルワールドを自由に歩いて構わんらしい…最も、その代わりにデジタルワールドで起きている問題の解決も行なってくれという事らしいがな」

 

 ブラックウォーグレイモンはそう告げると、ルインが手に持っていた資料をリンディへと手渡す。

 渡された資料にリンディが目を通し始めるが、ブラックウォーグレイモンは構わずに話を続ける。

 

「オファニモンを含めた『三大天使』達が外の世界に眼を向けると共に、各地で何体かのデジモン達が自らの支配地を延ばそうと言う動きを行い始めたらしい。その中には究極体も居るらしいから、俺としては構わん…お前とルインにしてもデジモンを詳しく知る経験になる。悪い話では在るまい」

 

「確かにそうね」

 

「私も問題は無いです。何れは外の世界でもデジモンと戦う可能性が在るのならば、経験を積んでおくのは助かりますからね」

 

「そう言う事だ。明日には発つから今日は体を休めておけ」

 

「分かったわ」

 

「了解です」

 

 ブラックウォーグレイモンの言葉にリンディとルインはそれぞれ頷く。

 彼らが再び次元世界で本格的な行動を行ない出すのは二年後、その時に事態は動き出すのだった。




次回は前回同様に二年後の話です。

なのはの対応が変わったので次の戦いの流れは大きく変わります。

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