漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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それぞれの動き(リリカル側)

 管理局本局内のとある執務室。

 その部屋の主である『時空管理局本局統幕議長』ミゼット・クローベルは、本局に起きている混乱の中、最高評議会の死を目撃したクロノ・ハラオウンを呼び出し、詳細な状況に関する聴取を行なっていた。

 その中でクロノは事前にグレアムとレティからミゼットに例のデータを見せるようにアドバイスを受けていたので、最高評議会が所持していたデータの全てをミゼットに見せた。無論、それはコピーであり、万が一を備えて他の場所にもデータのコピーは残してある。

 クロノから渡された管理局の裏が記されているデータを吟味していたミゼットは、管理局が裏で引き起こしている不祥事の数々に頭を抱えざるをえなかった。

 

「……最高評議会側の高官達が怪しい動きをしていたのは知っていたけれど…此処までだったなんて」

 

「ご存じだったのですか?」

 

「…クロノ・ハラオウン君…貴方のような一執務官では知らないでしょうけれど…管理局内で不審な行動を取っている局員は多数いるの。本来ならば監査部が動く筈なのだけど、困った事に不審な動きを行なっている局員の殆どが高官であり、その部下達なのよ」

 

 ミゼットはそう告げると共に対面して座っているクロノの前に、空間ディスプレイを投影してデータを映す。

 その映像に映し出されたのは、クロノが持って来たデータに載っている最高評議会の行動に組していた局員達とデータに記されてる他の局員の管理局内での立ち位置。改めて見てみると、最高評議会に組していた高官以外にも汚職や不正を行なっている局員達は居る。

 もしもデータを一般に公開して逮捕に踏み切れば、管理局内で大量の逮捕者が出るのは間違い無かった。しかし、もはやそれだけで済む事態では無い。

 

「管理局が『人造魔導師』と『戦闘機人』の違法研究の大元で在る可能性が高く、ミッドチルダに古代ベルカ時代の悪夢のロストロギア『聖王のゆりかご』を秘匿し続けていた。他の世界だけではなく、ミッドチルダの行政府にも知られたら、管理局は完全に信用と信頼を失うでしょうね」

 

「…つまり、黙っていろと言う事ですか?」

 

「…そんな事は絶対にしてはならないわ」

 

 ミゼットは凄まじい覇気を放ちながらの断言に、クロノは思わず息を呑んだ。

 『時空管理局本局統幕議長』ミゼット・クローベル。『武装隊栄誉元帥』ラルゴ・キール、『法務顧問相談役』レオーネ・フィルスらと共に管理局黎明期の功労者であり、その功績の数々から『伝説の三提督』とまで呼ばれている者の一人であり、現在でも管理局に勤めている重鎮の一人である。

 その功績のおかげで管理局内では彼らに信頼を置く者が多く、既に名誉職扱いで在りながらも最高評議会派閥と同じぐらいの規模の派閥のトップに位置している。彼らもまた平和を護る為に管理局で仕事をしている者達だが、最近では行き過ぎる面が強まり始めた管理局と言う組織を何とかして正そうと行動している者達であった。

 その最大の邪魔が在る意味では最高評議会側の派閥であり、ミゼット達と彼らが方針でぶつかり合う事も多くあった。そんな中、クロノが持ち込んだデータは最高評議会側の高官達を潰せるデータだったが、同時に管理局が潰れてしまうほどの力を持っている事実に、ミゼットは管理局の腐敗は自分達が想像していた以上に進んでいた事実に言葉を失うしかなかった。

 

「このデータは確かに私達にとって切り札になるのは間違いないわ…だけど、同時に管理局が自分達で定めた法を破って来た証拠でも在る」

 

「…一歩間違えば…管理局が潰れると言う事ですね」

 

「えぇ…現在の混乱を利用して公表すると言う策も在るけれど…今は難しいわね。誰が敵で誰が味方なのかも不明の状況…迂闊に公表すれば、闇に逃げられる可能性が高い…もしも、管理局内を全て粛清するとしたら、年単位の時間と…そして管理局の権限の縮小を絶対に行なわなければならないでしょうね…此処まで腐敗が進んでいるとしたら、物騒な方法以外に全てを粛清出来ないわ」

 

「…其処までの事態にやはりならざるを得ないのですね?」

 

「残念だけど…貴方のような真面目に現場で働く局員も、実は管理世界の中では自分達の世界への過度の干渉だと考えてしまう者も居るの…管理局に不平不満を抱く政治家も居るわ…そんな彼らにとって管理局の不祥事は今まで溜まっていた不平不満を叫ぶ絶好の機会なのよ…現にコレを見てみなさい」

 

ーーーブン!!

 

 ミゼットが自身の手元の端末を操作すると共に、再びクロノの前に空間ディスプレイが投影された。

 其処に映し出されたのは先ほどとは違い、各世界から届いた管理局本局に対する今回のブラックウォーグレイモンの襲撃に対する抗議文書の数々。

 その中にはミッドチルダの地上本部からの抗議文と、ミッド行政府からの抗議文も存在している事にクロノが目を見開くと、ミゼットはゆっくりと話す。

 

「クロノ・ハラオウン執務官。貴方は入局当時から本局に勤めているから知らないでしょうけど…地上、ミッドチルダの犯罪率は次元世界でも高い部類に位置されているの。次元世界の中心と言う事で、ロストロギアの密輸、魔導師に寄る犯罪の横行、盗みや殺人などの一般犯罪…地上本部も頑張っているけれど、根源的な問題である人材不足のせいで火の車が現状なのよ…私達も地上本部への執り成しは他の幹部に行なっているけれど、規模の大きさを盾にされて聞く耳も持ってくれないのが現状ね」

 

「ですが、本局が扱う事件の規模を考えれば…優秀な魔導師はやはり多めに居るべきだと」

 

「確かにその点も在るけれど…私達の足元が崩れたら終わりなのも事実なのを忘れてはいけないわ。現在の本局の殆どが外ばかりを見つめて来ている。これは不味いの…忘れてはいけないわ。私達管理局は多大な権限を管理世界から預かっているに過ぎない事をね。その管理局が犯罪行為を自ら進んで行い、管理世界に全てでは無いにしても違法研究を蔓延させた…重大な裏切り行為…管理局はソレを償わないといけないわ」

 

「…どうするんですか?」

 

「時間は掛かったとしても切り崩して行くしかないでしょうね。幸いにもあの竜人が最高評議会を潰してくれた事で、彼らの足並みは乱れる。その隙に彼らの決定的な犯罪の証拠を集めて、管理局の浄化を少しずつ行い、最後に民衆に真実を告げて管理局と言う組織の権限を分散させる協議を各管理世界の政府にするの…時間は年単位で掛かる上に、管理局内の考えも変えなければならない大仕事になるわ…手伝う気は在るかしら?」

 

「僕は構いません。元々このデータをミゼット統幕議長に持ち込んだのは、管理局の自浄に協力して貰う為でしたから…ただ変わりに、かあ…いえ、リンディ・ハラオウン提督の権限で護られていた『高町なのは』の第九十七管理外世界での滞在をそのままにして欲しいです…彼女は偶然にも管理世界と魔法の事を知った一般人ですから…この管理世界の問題に関われば…」

 

「謀殺も充分に考えられるわ」

 

「はい…ですから、グレアム元提督とその使い魔であるリーゼアリアとリーゼロッテが海鳴市と呼ばれる場所に住んでくれる事になっています」

 

「彼らの実力なら高ランクの魔導師で無ければ簡単には敗北しないし、万が一の時には連絡も取れる。其処まで準備が進んでいるのなら何とか対処出来るわね…分かりました。『高町なのは』の管理外世界での滞在は私が許可を出す事で護ります…正し、他の高官を納得させる為に嘱託魔導師にだけは登録しておいた方が良いでしょう。デバイスを携帯するにしても許可書は必要です」

 

「分かりました…本人にはそう伝えます」

 

「今後貴方は私付きの執務官として暫らく行動して貰う事になるわ。覚悟をしておきなさい」

 

 そのミゼットの言う『覚悟』と言う言葉が様々な意味を宿している事をクロノは感じながら、ミゼットに一礼して部屋を退出して行った。

 それを確認したミゼットが一息吐くと共に、その横に通信用の空間ディスプレイが出現し、険しい顔をした壮年の男性二人、『ラルゴ』と『レオーネ』が映し出された。今回のクロノの聴取では管理局内の重要な情報が手に入ると予感したミゼットは、事前に二人にも部屋の内部の映像が見えるようにしておいたのである。

 結果的にミゼットの予感は当たったが、その内容は三人が想像していたモノを遥かに超える内容だった。

 

『…よもや最高評議会が此処までの事を行なっていたとは…管理局内で身内を庇ってしまう流れが構築されてしまっているようだな』

 

『そう考えて間違いないだろう、ラルゴ…もはや荒療治以外に管理局を変える方法は無いと見て間違いない』

 

「これが私たちの最後の仕事になるでしょうね。管理局の腐敗を潰すのに利用するのは気が引けるけど、もはや手段を選べる状況じゃない。根は深く、広く張ってしまっている。ちょっとやそっとの方法では取り除けないのなら、荒療治以外に手段は無いわ」

 

『うむ…先ずは信用と信頼が出来る局員を見定めて仲間を増やして行く以外に在るまい。下手に動けば、他の高官達に気づかれるからのう』

 

『本局だけの味方では足りんぞ…この際、地上とも協力すべきだ』

 

「そうね…レジぼう、じゃなくて『レジアス』とも本格的に協力を結びましょう」

 

『あやつが地上を護りたいと言う意思は本物だ。しかし、最近最高評議会側と接触が在ったと言う報告も在る相手だぞ?』

 

「だからこそ、彼を此方側に引き込んで相手側の事を調べて貰うの…それに最高評議会は私達にも秘密で何かを行なっていた可能性が高いわ」

 

『…例の高ランクのベテラン魔導師の召集と大気圏から使用可能の長距離魔導砲の使用の件か?』

 

『アレに関してだけは最高評議会側の高官達でも何に使用したのか知らない者が多い…それにリンディ・ハラオウンを謀殺した時の最高評議会の策だが…アレは幾ら考えても“竜人”の実力を知らなければ出来ない策だ』

 

「最高評議会はあの“竜人”について何かを知っていた…その何かは分からないけれど、最高評議会が使用したと言う機械兵器『ギズモン:XT』…どうやら、今回の件は完全には終わっていないのかも知れないわね」

 

 ミゼット、ラルゴ、レオーネは漠然とした嫌な予感を感じていた。

 今回の件で明らかになった事以外に、何かが次元世界で起きようとしている。それが何かまでは分からないが、確実に危機と呼べる事態なのだろうと感じながら、少しでもその予感に対抗する為にミゼット達は動き出したのだった。

 

 

 

 

 

 地球の海鳴市になのはの両親が営んでいる喫茶『翠屋』。

 その場所には管理世界に対する説明を行なう為にやって来たレティと、なのはの家族である高町家の面々、そして『闇の書』事件の時に偶然にも封鎖領域というベルカ式の結界魔法に巻き込まれて『魔法』の事を知ったなのは、フェイト、はやての友達であるアリサ・バニングスと月村すずかがそれぞれ難しい顔をしながらレティの説明を聞いていた。

 いきなり知らされた別世界の存在と管理局と言う組織の現状。そしてなのはとフェイトが数日間別世界の病院に居たという事実。特になのはの父親である士郎は、レティから聞いたブラックウォーグレイモンの戦い方に険しい表情を浮かべながら考え込んでいた。

 そしてゆっくりと別の席に座っていたなのは、フェイト、アルフ、ユーノ、はやてに顔を向ける。因みに守護騎士とリインフォースは、まだ本局内の医局室で治療を受けている。

 

「なのは…先ずは言っておくが、私としてはお前が管理局と言う組織に入るのは反対だ」

 

「お父さん!?」

 

「話からお前には『魔法』と言う力に関して凄い才能を持っているのは分かった…だが、その組織が信用が於けない様な行動を行ない、更に危険な出来事に関わる。その上、その組織を手玉に取った生物と戦う可能性も在ると言う…なのは…ハッキリ言うが、その生物と戦ったフェイトちゃんとお前は…“全く相手にもされていないぞ”」

 

『ッ!!』

 

 士郎の発言になのはとフェイトは目を見開くが、士郎は二人が今生きているのはブラックウォーグレイモンが手心を加えたか、或いは興味も全く無く、ただ自身に近づいた存在を敵としても認識せずに掃ったとしか考えられなかった。

 嘗て士郎は生家に伝わっていた武術の関係でボディーガードの仕事を行なっていた。なのはが子供の頃に生死に関わるほどの大怪我を負った後にはボディーガードの仕事を一切行なわなくなったが、それでも裏の世界で生きた事がある士郎は修羅場を潜って来た経験が在る。

 その経験と自身が有している知識からブラックウォーグレイモンは、敵対した相手には慈悲など殆ど与えず殺せる存在なのだと察する事が出来た。

 

「お前とフェイトちゃんが怪我を負って気絶した時に、追撃する事がその生物には出来ただろう。にも関わらずに、その生物は気絶したお前とフェイトちゃんに何も行なわなかった…ほぼ間違いなく止めを刺す相手と認識していなかった可能性が高い…今回こうして私達の下に戻って来れたのは、本当に運が良かったに過ぎないんだ」

 

「で、でも!? 今よりも強くなって、皆で頑張れば何時かは倒せ…」

 

「なのは!!!」

 

「ヒゥッ!!」

 

 何時になく怒りに満ちた士郎の顔になのはは、怯えたように声を出して士郎を見つめる。

 ゆっくりと士郎は湧き上がった怒りを抑えるように息を吐くと、ゆっくりと黙っているレティに顔を向ける。

 

「聞かせて欲しいのですが、管理局と言う組織では子供であろうとなのはの様に『魔法』と言う力に秀でた場合、危険な仕事を行なわせる可能性はどれぐらいなのでしょうか?」

 

「…なのはさんの魔導師ランクはAAAと言う管理局全体でも5%しか居ない高ランクです…もしも入局した場合は、訓練校の速成コースに入れられ…即戦力として加えられると考えて間違い在りません」

 

「…その魔導師とやらの…いや、この場合局員と言うべきなのか…その速成コースとやらの期間はどれぐらいなのですか?」

 

「…通常コースなら一年近くで…速成コースの期間は大体“三ヶ月”です」

 

「……ハァ~…今ので心が完全に決まった…なのは、俺は絶対に管理局への入局を認めない」

 

 レティの告げた期間に、士郎は先ほどまでの丁寧な口調を止めて家での口調に戻った。

 その士郎の考えに同意するように話を聞いていたなのはの兄妹である美由希、恭也、そして母親の桃子も士郎の考えに同意するように頷き、なのはは驚いたように自身の家族を見つめる。

 この話し合いが設けられる前にフェイトとアルフは、色々と悩んだ末に管理局に入局する事を決意していた。自身が生み出された技術を悪用し、違法に手を出している管理局の上層部を告発する為にフェイトは自ら敵地へと入り込む事を決めたのだ。

 はやては無実になったとは言え、家族であるシグナム達は管理局で無償奉仕を行なわなければいけない事から、足のリハビリを行ないながら魔法を学んでその後に入局するか、それとも別の方面から動こうかと悩んでいる。

 そしてなのはは、これから管理局内の自浄を行なうであろうクロノ達に少しでも力になりたいと考えて、管理局の事を士郎を含めた家族全員に魔法に少し関わってしまったアリサとすずかに説明して、手伝うための許可を貰おうとなのはは考えていた。

 色々と揉める可能性も考えていたが、最終的には士郎を含めた家族全員が自身の管理局入りを認めてくれるとなのはは思っていた。だが、レティから現状と管理局と言う組織の仕事及び関わった事件の詳細を聞いた士郎達の決定は、『なのはの管理局入りは絶対に認めない』だった。

 何故と言うようになのはが士郎達を見つめていると、恐る恐るアリサがなのはに声を掛ける。

 

「ねぇ、なのは…アンタが魔法って言う力と関わったのはフェイトと出会った時期と一緒なら半年ぐらいでしょう? …その時に魔法を教えて貰った相手って言うのが、其処に居るユーノなのよね?」

 

「う、うん?」

 

「はい、僕がなのはに魔法を教えました」

 

「…気になったんだけど…アンタ…魔法の事ってユーノ以外に誰かに教えられた事在るの? それに魔法の教本とかも読んだ事在る?」

 

「えっ? …それは…その」

 

「無いのよね?」

 

「…う、うん」

 

 アリサの質問に狼狽しながらもなのはは頷き、質問したアリサに話を聞いていたすずかと士郎達は難しげに顔を歪める。

 何かを学ぶ為には、先ず第一としてその分野に関して教えて貰う者が必要。しかし、なのはの場合は魔法を教えていたユーノが、いや、管理局に所属している者の殆どが驚嘆するほどの才能を有していた。

 魔法を知ってから僅か一ヶ月以上の時間の間に、数年間の英才教育を受けていたフェイトと互角以上に戦える力を身に付け、半年近くでデバイスの性能面さえ互角ならばシグナム達とリインフォースと一対一ならば戦えるほどの実力を身につけた。魔法を扱う才能と言う一点だけを見つめれば、間違いなくなのはは秀才どころか百年に一人に近い才能を有している。だが、その才能ゆえになのはには魔法を学ぶという段階が必要とは思えないほどだった。

 最初に魔法を教えていたユーノが教えられる範囲は既に終わっいる。しかし、ユーノは魔法を教える先生とは言えない。自身が魔法を学ぶ上で得た知識を使ってなのはに魔法を教えていたに過ぎない。

 恭也と美由希に自身の実家に伝わっている武術を師として教えている士郎は、なのはは魔法と言う技術を詳しく知らないで振るっているのではと危惧を覚えていた。これが怪我も無く、また管理局と言う組織が信用出来ると思えれば士郎達もなのはを応援していたかもしれないが、管理局が信用出来ない組織であり、またブラックウォーグレイモンと戦ったことでなのはが大怪我を負い、数日間家に戻って来なかった事が士郎達の内面に大きく影響を与えていた。

 今よりもなのはが幼い頃に寂しい思いをさせてしまった負い目が在る士郎達は、出来るだけなのはの意思を尊重してやりたいのだが、命に関わる可能性が出た時点でなのはの管理局入りは断固反対すると全員が心に決めていた。

 

「なのは…お前が友達に手を貸したいと言う気持ちは良いことだ。だが、お前に何が出来る? 相手は権力と言う力を持った組織の高官達だ…九歳の子供に過ぎないお前じゃ、管理局と言う組織に入れば利用されるだけだろう」

 

「……」

 

「…レティさん…そう言う事でなのはの管理局入りは止めさせて貰います」

 

「分かりました…ですが、なのはさんが高ランクの魔導師だと言うのは既に管理局内に知れ渡っています…最悪の場合は高官達が力尽くで動く可能性も在りますので…『嘱託魔導師』としてだけは登録をお願いします」

 

「…その『嘱託魔導師』と言うのは、簡単に身分証明書なのでしょうか?」

 

「はい…管理局から仕事を頼まれる時も在りますが、基本的には簡単な調査任務だけです。本人が望まない限りは危険な任務への参加は認められません。また、なのはさんは管理局の裏を知ってしまった面も在りますので、彼女に届くかも知れない任務は私が目を通してからになるように管理局内で信頼と信用が置ける上司に依頼する予定です」

 

「…その『嘱託魔導師』には絶対に登録しないといけないのかしら?」

 

「これだけは絶対に外せません」

 

 桃子の質問に対してレティは苦虫を噛み潰したような顔をしながら答えた。

 なのはが『嘱託魔導師』として登録される件は、絶対に外せない件なのだ。管理局の他の高官達に高ランクの魔導師であるなのはを逃がさないと言う鎖と思わせる為にも、絶対に『嘱託魔導師』の登録だけはしなければならない。

 レティの様子から士郎達は渋い顔をしながらも頷き、近い内になのはは『嘱託魔導師』の勉強をして試験を受ける事で話は進み出す。その間、ずっと顔を俯かせているなのはの姿に、フェイト、アルフ、はやて、ユーノ、アリサ、すずかは、言い知れない嫌な予感を漠然と感じるのだった。

 

 

 

 

 

 とある管理世界に存在する管理局が秘密裏に支援を行なっている違法研究所。

 つい最近にその研究所の主任が変わり、今は管理局の上層部から直接派遣された男が研究所の主任となっていた。

 その男こそ、『デジタルワールド』の存在を最高評議会の面々に教え、嘗て別の地球とデジタルワールドを未曾有の危機に追い込んだ人物、『倉田明弘』だった。

 だが、予てより進めていた計画が思惑通りに進まなかった事で、倉田は与えられた執務室の中で本局を襲撃したブラックウォーグレイモンの姿が映っている映像を苦虫を噛み潰したような顔をしながら睨んでいた。

 

「全くもって最悪ですね…これだからデジモンと言う生物は忌々しいのです!!! …コイツのせいで計画が遅れる事になっただけではなく、折角取り入れる事が出来た最高評議会と言うスポンサーまで失ってしまった!! それだけではなく管理局は混乱状態!! えぇい!! 本当に忌々しい!! …まぁ、スポンサーは他にも成れる事が出来る人物が居ますから構いませんが」

 

 そう倉田は呟きながら、最高評議会に組していた管理局の高官達のリストを空間ディスプレイに映し出して品定めするような視線で眺める。

 

「…フフフッ…次元の穴に飲み込まれた時は死を覚悟しましたが…こうして私は生きている…今度こそ夢を…いえ、私は全ての世界を手に入れてみせましょう! その為の力は既に一つ手に入った」

 

ーーーブン!

 

 倉田が端末を操作すると共に一つの研究室内の映像が映し出された。

 その研究室内は巨大なカプセルが存在し、カプセル内部に入っている液体の中で、子供の姿をした背中に十二枚の純白の翼を生やし、四つの『ホーリーリング』を身に付けた天使が眠るように液体の中で体を丸めていた。

 順調に成長している天使の姿に、倉田は満足そうに頷きながら楽しげに目を細める。

 

「『ベルフェモン』と同じ『七大魔王デジモン』の称号を持つデジモン…しかし、これだけでは戦力として足りません…『大門大(だいもん まさる)』は究極を越えた力を持つ『バーストモード』を手にしている。必ず奴にも復讐を遂げてやります…その為には一体では足りない・・・『ギズモン』、『魔法』、『管理局』、『ロストロギア』、そして全ての『七大魔王』。これらを全て手に入れ、私は全ての世界を支配する王となる!! フフフッ!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!」

 

 自らが手に入れるであろう栄光を思い、倉田は自身の執務室の中で狂喜に満ちた邪悪な笑い声を楽しげに上げ続ける。

 故に気がつかなかった。先ほどまで倉田が見つめていた映像に映るカプセル内の液体に浮かんでいる天使。その天使の口元が倉田以上の邪悪さに満ち溢れた笑みで歪んでいた事を。


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