漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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それぞれの動き(デジモン側)

 地球の日本、東京都渋谷。

 イガモンからのオファニモンの伝言を聞いたブラックウォーグレイモンとルインは、即座に此方側のデジタルワールドの入り口が存在していると言う渋谷駅を目指していた。

 リンディのデバイスから手に入れた認識阻害の魔法を使用してブラックウォーグレイモンは人々が行きかう東京の街中を進み、その隣を歩いているルインはブラックウォーグレイモンが告げた場所に対して半信半疑な気持ちを抱いていた。

 ブラックウォーグレイモンを疑う訳ではないが、よりにもよって魔法文明が全く存在せず、次元空間を渡る術を持たない地球に、別世界の入り口が存在しているとはルインには信じきれなかった。とは言っても、長い時を『闇の書』内部で過ごしていたルインにしても、『イガモン』と言う生物を見た事も聞いた事もない。

 一定のページを集めれば外との会話が可能であり、暴走時には一時的に外に出られるリインフォースや、魔力を蒐集する事と主を護る役目を担っている守護騎士達と違って外に一切出られなかったルインは、仕方がないので守護騎士達の視界を通して外の世界を覗き続けていたのだ。

 その時知った外の世界の情報を考えても、やはり『イガモン』と言う生物の存在を見た事が無かった。

 

(…マイマスターはあの『イガモン』と言う生物を知っているみたいですし…アレ? そう言えば私、マイマスターがどんな種族なのか聞いていませんでした!?)

 

 長年求めた主を得た喜びで忘れていたが、そもそもルインは自身の主であるブラックウォーグレイモンの事を良く知らない事を漸く思い出し、念話でブラックウォーグレイモンに質問する。

 

(マイマスターー!!!)

 

(…いきなり何だ?)

 

(いえ、今の今まで聞くのを忘れていましたが…マイマスターは一体どう言う種族なのでしょうか?あの『イガモン』と言う生物は、マイマスターを『究極体』と呼んでいましたが?)

 

(…そうだな…コレからお前も付き合う生物になるかもしれんから教えておくか…『デジタルモンスター』。通称『デジモン』と呼ばれる生物が存在している。この種族にはそれぞれ世代が存在し、世代が変わる事を『進化』と言う)

 

(『デジモン』? …初めて聞きました。そんな生物が居たなんて)

 

(基本的にデジモンは自らが住む世界だけで満足している。例外も中には居るが、大抵のデジモンは自分達の住む世界から出る事は無い…特にこれから俺達が向かう『デジタルワールド』では、外の世界に出る事自体を掟として禁止している世界だ…『イガモン』が外の世界に出ていると言う事は、その掟を破らざるを得ない状況になっているのだろう)

 

(なるほど…管理世界のように他世界との交流は一切行なわず、自分達の世界だけで満足しているのですか…それなら、私が知らないのも頷けますね)

 

 広大な次元世界。その中には管理世界のように世界を行き来する関係も在るが、中には外の世界の存在を知りながらも干渉を控える世界は存在している。

 少し前の『アルハザード』同様に、ブラックウォーグレイモンが告げた世界もその一つなのだろうとルインは納得する。

 

(でも、どうしてその世界に行ける場所が地球の、しかも日本の渋谷駅なんて場所に在るんですか?)

 

(其処までは知らん…どちらにせよ、次元空間を移動する手間が省けるのだから気にする事は無い)

 

(ハァ~…それでデジモンと言う生物の世代は幾つ在るんですか?)

 

(『幼年期』、『幼年期の二世代目』、『成長期』、『成熟期』、『完全体』、そして最後に『究極体』の六つだ。最もそれ以外にも『アーマー体』と呼ばれる世代や、『超究極体』と言う世代も存在している。この内、俺が分類されるのは最後の『究極体』。イガモンの奴は『成熟期』だ)

 

(なるほど…と言う事はマイマスターも今の姿の前が在ったのですね)

 

(いや、俺はこの世に現れた時からこの姿のままだ。俺はデジモンではなく、『ダークタワーデジモン』。普通のデジモンのように『デジタマ』から生まれたのではなく、『ダークタワー』と呼ばれる暗黒の塔が百本変形と合体を行なった結果生まれた存在だ…最も俺は通常の『ダークタワーデジモン』とも違うがな…思い出すだけでも忌々しい…奴らをこの手で殺せなかったのが今のところ最大の無念だ)

 

(マ、マイマスター?)

 

 僅かに殺気を滲ませ出したブラックウォーグレイモンの様子に、ルインは僅かに怯えながら声を出した。

 それによって話が脱線しかけて居た事にブラックウォーグレイモンは気がつき、ゆっくりと殺気を治めると、話の続きを始める。

 

(話は戻すが、恐らく管理局で最高評議会の連中は『倉田』の奴から情報を聞いて、『デジタルワールド』の存在を知ったのだろう。そして奴らは『倉田』の口車に乗った可能性が高い。デジモンを倒すには魔導師では命を懸けて挑まねばならない。もしもデジモンが管理世界に進出して来たら、魔法主義の管理局としては認められない事態を呼ぶ可能性が在る。だから、奴らは『デジタルワールド』を自分達の管理化に置こうとでも考えていた・・・最もそれが可能かどうかと言えば、不可能に近いだろうがな)

 

(え~と? ・…詳しくは分かりませんが…デジモンと言う種族の力は管理局の魔導師よりも上なのですか?)

 

(それは間違いないだろう・・・デジモンはそれぞれによって技の威力や効果は異なるが、純粋に攻撃力だけの奴の必殺技ならば、『完全体』の中で核兵器クラスの威力の攻撃を放てる奴が居る。核兵器が分からない場合は、小島が一つ消滅するほどの威力の攻撃が連続で放てると考えろ)

 

(…な、何ですか? それは!? …ど、どう考えても常識なんて言葉が通じない威力の攻撃じゃないですか!? 幾ら魔導師のバリアジャケットが強靭でも、そんな威力の攻撃は防げませんよ!!)

 

(だろうな…直接戦った俺が見たところ、魔導師のバリアジャケットでまともに防げる攻撃は成熟期レベルが限界だろう。最も攻撃の種類によっては防いだ瞬間に終わる攻撃も在るがな…魔導師がデジモンと戦う場合は、先ず第一に防御よりも回避を優先して動くべきだ)

 

 魔導師とデジモンの両方と戦ったブラックウォーグレイモンは、純粋に威力と言う点だけを考えればデジモンの方に圧倒的に分が在ると分かっている。

 多数の方面に効果が期待出来る魔法と違い、デジモンの必殺技や能力は言うなれば過酷な環境や戦いの中で生き残る為に特化した力。中には魔導師の天敵と呼べる必殺技を保有しているデジモンも居る。

 魔導師とかは考えずとも、人間とデジモンでは両者の間に大きな差が存在している。人間がデジモンに勝てるとすれば、かなりの知恵を振り絞らなければならない。その点で言えば、ブラックウォーグレイモンの力を把握し、形は最悪にしても有効な攻略法を考えた最高評議会の面々は知恵者だったのは間違いようのない事実だった。

 そんな風にルインがブラックウォーグレイモンから告げられるデジモンに関する情報を吟味していると、二人の視界の先に白いリュックのような物を背中に背負った黒い色合いのゴスロリと呼ばれる衣装に身を包んだリンディが渋谷駅の入り口の前に立っている姿が映る。

 

(…おい)

 

(あら? …やっぱり此処に来たのね)

 

(…何故貴様が此処に居る?)

 

(フリートさんの調整が終わって、二人の現在位置を調べたら地球の東京都に居る事が分かって、もしかしたらと思って此処で待っていたのよ)

 

(チッ! …そう言えば貴様には俺の記憶が流れ込んでいたのだったな)

 

 リンディが此処に居る理由を理解したブラックウォーグレイモンは僅かに不機嫌そうな声を出し、リンディを睨むが、リンディは気にせずにブラックウォーグレイモンとルインの傍による。

 ルインはブラックウォーグレイモンの隣に並ぶように立つリンディに険しい視線を送るが、リンディは気にせずに自身が背負っている白いリュックの中身を念話で教える。

 

(此処に来るのを優先して忘れていたようだけど、回収した『デジタマ』をアルハザードに忘れていたわよ)

 

(…そうだったな…それで、お前も付いて来るのか?)

 

(えぇ…この目で『デジタルワールド』を見てみたいし、それに私も状況が知りたいの)

 

(好きにしろ)

 

 ブラックウォーグレイモンはそう告げると真っ直ぐに渋谷駅内に存在しているエレベーターの一つに向かって歩いて行く。

 リンディとルインもその後を追うと、向かった先のエレベーターの扉が勝手に開く。まるで自分達を待っていたかのような現象にルインとリンディは僅かに顔を険しくするが、ブラックウォーグレイモンは構わずにエレベーター内に乗り込む。慌ててルインとリンディもエレベーター内に足を踏み入れると、エレベーターの扉は再び勝手に閉まって下降を開始する。

 

「ほ、本当に地下に入り口が在るみたいですね…時々他世界への入り口が存在している世界も存在していましたが、まさか、地球もその一つだったとは思っても見ませんでした」

 

「此方の地球でのデジタルワールドへの出入り口は此処だけだろう」

 

 そうブラックウォーグレイモンがルインに説明していると、エレベーターは最下層へと辿り着いて扉が再び勝手に開く。

 扉の先に広がっていたのは巨大な地下ホームだった。何台もの電車が停まれると分かる線路が存在し、その中の一つに電車らしきモノが停車していた。

 

「電車? …マイマスター? もしかしてあの電車で別世界に行けるんですか?」

 

「ソイツは電車ではない…『トレイルモン』と言う名前の『デジモン』だ」

 

「えっ?」

 

 ブラックウォーグレイモンが告げた事実にルインは驚きながら目を向けて見ると、電車と思われていたモノの先頭車両から声が響く。

 

「よう、アンタらが『オファニモン』様から呼ばれている連中だな? 早く乗りな。デジタルワールドまで連れて行くからよぉ」

 

「で、電車が喋りました!?」

 

「おいおい、其処の究極体が言っただろう? 俺は『トレイルモン』って言うデジモンだ」

 

トレイルモン、世代/成熟期、属性/データ種、種族/マシーン型、必殺技/クールランニング

電車の形をしたマシーン型デジモン。本来は同名ならば一つしか姿が無いデジモンと違い『トレイルモン』と言う名を持つデジモンは、様々な電車の形をしている。広大なデジタルワールドの交通機関や運搬作業を主に行なっている。また、走り続けた事で痛んだ体を脱ぎ捨て、新たな体を得ると言う特殊な能力も持っている。必殺技は、高速で相手に向かって突進する『クールランニング』だ。

 

「本当にこんな生物が居たのね? …次元世界を幾つも渡ったけど、こんな生物は本当に初めて見たわ」

 

 知識としては知っていても、初めて見る『トレイルモン』を興味深そうにリンディは見回す。

 その間にブラックウォーグレイモンは『トレイルモン』の中へと入り込み、リンディとルインも警戒しながら入るが、中は地球の電車とさほど変わっていなかった。

 

「本当に名前の通り電車と変わらないんですね?」

 

「こう言うデジモンは他にも居る。中には潜水艇を模したデジモンも居る」

 

「改めて聞くと、本当に驚くわ」

 

 そうリンディが呟くと共に『トレイルモン』は線路を走り出して、窓から映る景色が進んで行き、暗い空間へと入り込む。

 それぞれが向かう先に存在する『デジタルワールド』について考え込んでいると、窓から見える前方の方に光が発生し、徐々に光へと近づいて『トレイルモン』が光を通り抜けた瞬間に、車内が光で溢れる。

 ルインとリンディが光で眩んだ目を擦り、ゆっくりと目を開けてみると、窓の外には広大な自然が広がっていた。

 

「こ、此処が『デジタルワールド』ですか!? マイマスターー!!」

 

「そうだ…見てみろ」

 

 ブラックウォーグレイモンは驚くルインに、窓から見える広大な森をドラモンキラーで示す。

 リンディとルインが示された森の方に目を向けて見ると、森の上空を背に生えている四枚の翼で飛び回る甲殻で体を覆った巨大なカブトムシを思わせるような昆虫を目にする。

 見た事も無い巨大な昆虫にルインは目を見開き、知識として知っているリンディも驚いていると、ブラックウォーグレイモンが昆虫に関して説明する。

 

「アレは『カブテリモン』と言う成熟期のデジモンだ」

 

カブテリモン、世代/成熟期、属性/ワクチン種、種族/昆虫型、必殺技/メガブラスター

カブト虫の姿をした昆虫型デジモン。アリのようなパワーと、カブト虫のもつ防御性能とを合わせ持つとされ、攻撃・防御ともに能力値は高い。頭の部分は金属化していて守りは鉄壁に近い。しかし、その反面、知性はかなり低く、人間のパートナーが居なければ本能のままに動くデジモン。必殺技は、羽を羽ばたかせツノに電撃を溜め、プラズマ弾を放つ『メガブラスター』だ。

 

「ア、アレで成熟期!? じゃ、もしかしたら完全体や究極体には、アレよりも大きな生物が居るんですか!?」

 

「基本的にデジモンにとって体の大きさは余り関係ない。デジモンの中には俺のような大きさや、人間の子供にも満たない大きさの生物も居る。小さいからと油断すれば、其処で終わりなど『デジタルワールド』では良く在る事だ…ムッ? …ほう、面白いのが始まりそうだな」

 

『えっ?』

 

 カブテリモンが居る方に目を向けながらのブラックウォーグレイモンの言葉に、ルインとリンディが慌てて目を向けて見ると、上空を飛び回っていたカブテリモンに向かって赤い色合いの甲殻で体を覆ったクワガタ虫を思わせるような昆虫が襲い掛かるのを目にする。

 

「シャアァァァァァァァァァァァァーーーーー!!!!!!」

 

「アレは『クワガーモン』だ。カブテリモンのライバルと言われているデジモンだ」

 

クワガーモン、世代/成熟期、属性/ウィルス種、種族/昆虫型、必殺技/シザーアームズ

赤い体を持った巨大なクワガタ型の凶暴な昆虫型デジモン。全身がかたいカラに守られているため、防御力にもすぐれている。パワーも強力で、ハサミの部分で一度敵を鋏むと、倒れるまで離さない。カブテリモンとはライバル関係にある。必殺技の『シザーアームズ』は、頭部に付いている巨大なハサミを使って真っ二つにする技だ。

 

 森の上空で戦い始めたカブテリモンとクワガーモンを楽しげに見つめながら、ブラックウォーグレイモンは呆然としているリンディとルインに説明した。

 空中で激しくぶつかり合うカブテリモンとクワガーモンの戦いに、ルインは呆然としながらブラックウォーグレイモンに質問する。

 

「と、止めなくていいんですか?」

 

「あの程度は『デジタルワールド』では良く在る事だ。デジモンには理性が在る者も居るが、それと同じくらいに本能のままに戦う奴らも居る。昆虫型にはそう言う奴らが多い…街中で暴れでもしない限りは、止めようとする者は居ないだろう」

 

「街ですか?」

 

「そうだ」

 

 ブラックウォーグレイモンがそうルインに向かって頷くと共に、窓の外の前方の方に建物らしきモノが並んでいる場所が見えて来る。

 ルインとリンディはその場所が『デジタルワールド』の街なのだろうと考えていると、『トレイルモン』が街の中に在る駅のホームへと辿り着いて停車する。それと共にドアが開き、ブラックウォーグレイモンは外へと降りて行き、ルインとリンディも『トレイルモン』から降りる。

 駅から見える街の景色は、ミッドチルダのような高度な技術は使われているようには見えず、地球の東京のようにビルが並んでいる街並みでもなかった。それなりに大きいが、高度とは呼べない街だとリンディが判断していると、ゆっくりと自分達に向かって来る巨大な気配を感じ取る。

 

(ッ!! …コレは?)

 

 感じた気配に対してリンディは警戒しながら横に目を向けて見ると、自身と同じように警戒しているルインと、楽しげに目を細めているブラックウォーグレイモンを目にする。

 ブラックウォーグレイモンの様子に呆れたようにリンディが溜め息を吐いていると、ゆっくりと駅のホームの入り口に向かって背に十枚の金色の翼を生やし、翠色の鎧を身に纏った女性型天使デジモンが歩いて来る。

 

「待っていました、『異界の魂』を宿す竜人」

 

「やはり、俺の事を知っているようだな、『三大天使』デジモンの一人、『オファニモン』」

 

オファニモン、世代/究極体、属性/ワクチン種、種族/座天使型。必殺技/エデンズジャベリン、セフィロートクリスタル

翠色の鎧で体を覆い、十枚の金色の翼を持った女性型天使デジモンの最終形態である座天使型デジモン。慈愛と慈悲を伝えるデジタルワールドの聖母的な存在で、三大天使デジモンの一体でもある。神の深い慈愛を体現し、セラフィモン、ケルビモンとともにデジタルワールドの“神の領域(カーネル)”を守っている。必殺技は悪の心を浄化し、楽園へ導く『エデンズジャベリン』と、十個の宝石を召喚し、相手にぶつける『セフィロートクリスタル』だ。

 

「その通りです…この場所ではゆっくりと話は出来ませんので、付いて来て下さい」

 

 そうオファニモンはブラックウォーグレイモン、リンディ、ルインに告げると共に無防備に背を見せて歩き出す。

 無防備ながらも一切の隙が見えない後姿にブラックウォーグレイモンは僅かに感心した視線をオファニモンの背に向けながら、リンディとルインと共にオファニモンの後を追って行く。

 そして街の中でも一際堅牢に見える建物の中に入り、用意されていた椅子に対面するように座りながらオファニモンとブラックウォーグレイモン達は視線を向け合う。

 

「先ずは此方の呼び出しに応じてくれた事を感謝します」

 

「俺としては『デジタルワールド』に簡単に辿り着ける術が見つけられて助かったから構わん…それと…」

 

 ブラックウォーグレイモンはゆっくりとリンディに視線を向け、意味を察したリンディは白いリュックの中に入れておいた『デジタマ』を取り出してオファニモンに差し出す。

 

「…此方が彼が管理局本局内で戦った『ギズモン:XT』のデジタマです」

 

「ッ! …やはり、既に『ギズモン』として世に生み出されてしまっていましたか」

 

 リンディが差し出して来たデジタマを辛そうにオファニモンは見つめながら受け取り、愛しげにデジタマを撫でながら話を再開する。

 

「…デジタマを取り戻してくれた事を感謝します…そしてどうか私達に協力してくれないでしょうか? 事はデジタルワールドだけではなく、他の世界にも危機を呼ぶ事態なのです」

 

「ほう…やはり、既に状況は悪いようだな…詳しく話して貰おう」

 

「分かりました…では、順を追って説明します」

 

 オファニモンはそう告げると共にゆっくりと右手を翳し、横に手が動いた瞬間に、室内の景色は一瞬にして変わり、黒い空間の中に青い星が四つ浮かんでいる光景へと変わった。

 その青い四つの星に見覚えが在るリンディは、目を細めながら星を観察していると、四つとも同じ星の形をしている事に気がつく。

 

「地球で…間違いないわね」

 

「はい…コレは同じ地球と呼ばれている世界です。最も管理局なる組織が認識している地球は一つだけ…残りの三つは認識も出来ない程遠く離れた地点に存在しています」

 

「なるほど…つまり、俺が居た地球はこの四つの内の一つ。俺はとんでもなく遠い場所で蘇ったと言う訳だな」

 

「そう考えて間違いないでしょう。貴方が発している波動は、他のデジタルワールドに存在する『チンロンモン』から伝えられた波動と一致しています」

 

「チンロンモン…奴と連絡を取り合っているのか?」

 

「常にでは在りません…本来ならば他のデジタルワールドへの干渉は余程の事が無い限り禁止されているのです…ですが、今回の案件は最悪の場合は全てのデジタルワールドを危機に追い込むほどの重要な案件ゆえに、他の世界のデジタルワールドの守護者達とも連絡を取り合っているのです」

 

「…全てのデジタルワールドの危機だと?」

 

「はい…『異界の魂』を宿し、『ギズモン』を目にした貴方ならば既にご存知でしょうが…『ギズモン』を創り上げた人間…『倉田明弘(くらた あきひろ)』が次元世界の何処かに潜んでいます…次元世界で活動しているイガモン達の調べによれば、嘗て別世界の地球とデジタルワールドを滅ぼし掛けたあの人間は次元の穴に飲み込まれながらも生き残り、次元世界の一つで管理局と言う人が築いた組織に保護されたようです」

 

「次元漂流者の保護も管理局の仕事の一つですから…でも、まさか、世界を滅ぼし掛けた元凶の人物を保護してしまうなんて」

 

「仕方が無いとは言いたくは在りませんが…言うしかないでしょう…あの人間の行いを知る者は、此方の世界では居ないのですから…しかし、あの人間は管理局に『デジタルワールド』の存在を教えてしまいました。その結果、この世界の存在が知られ、管理局の上層部の一部はこの世界を管理下に於こうとして来ました…無論、私達は管理世界になる事を認められませんでした」

 

「だろうな…誰が好き好んで知りもしない組織に従いたいと思う。第一にこの世界は自分達の世界で満足している世界なのだから、尚更に管理局に従う理由は無い」

 

「その通りです。私達は自らの世界だけで充分だと彼らに伝えました…ですが、彼らは納得しなかった」

 

 オファニモンが険しい声を出すと共に周りの光景が歪み、『デジタルワールド』と思われる星と、その星の大気圏に浮かぶ一隻の管理局の巡航艦が映る光景へと変わった。

 リンディがその巡航艦に備わっている装備に目を細めながら注意深く見つめていると、オファニモンが話を再開する。

 

「彼らはあの艦艇に乗って『デジタルワールド』へやって来ました…そしてあの人間も」

 

 再び映像が変わり、管理局の高官と思われる男と武装局員の魔導師達、そして白衣を着た陰険な男がデジモンが住む街へと歩いて来る光景が映し出された。

 ブラックウォーグレイモンは白衣を着た陰険な男を睨み、オファニモンもその人物の姿に険しい視線を向け、リンディとルインはその男こそが『倉田明弘(くらた あきひろ)』なのだと察する。

 

「彼らは何の通告も無しに火の街に現れました…そして…悲劇は起きてしまいました」

 

 次の瞬間に映し出された光景は、管理局の武装局員達が街の中から倉田の指示に従ってデジタマを強奪する光景だった。デジタマを護ろうと成長期デジモンや、数は少ないが成熟期のデジモンが武装局員に攻撃を加えるが、ベテランで高ランクと思われる武装局員達に次々とデジモン達は倒されて行く。

 それと共に街は火に包まれ、街の周りに居たデジモン達と十枚の黄金色の翼を背中から広げ、全身を鎧で覆った天使型デジモン-『セラフィモン』-が街へと駆けつける

 

セラフィモン、世代/究極体、属性/ワクチン種、種族/熾天使型、必殺技/セブンヘブンズ、テスタメント

白銀に輝く鎧を身に纏った全ての天使型デジモンを纏める最高位の熾天使型デジモン。邪悪な存在との最後の戦いの時に出現し、世界を浄化する。最も『神』に近いと称される三大天使デジモンの一体だ。必殺技は7つの超熱光球を作り出し敵に放つ『セブンヘブンズ』に、自らの命と引き換えにビッグバンを起こし、相手を消滅させる『テスタメント』だ。

 

『お前達!? 何をしている!?』

 

『おやおや…この世界の守護者デジモンが来ましたか。何をとは簡単ですよ。『デジモン』の生体調査の為に『デジタマ』を回収していたんです』

 

『何だと!?』

 

 セラフィモンは目の前に立つ倉田の言葉に声を荒げた。

 もはや赦す気はなくなったと言う様にセラフィモンが倉田に向かって構えを取ると同時に、『デジタマ』を回収していた一人の局員が倉田に向かって叫ぶ。

 

『倉田研究員!! 予定の数を手に入れました!! それと別班からも『回収』の連絡が届きました!!』

 

『そうですか。では、退散するとしましょう』

 

『待て!! 『デジタマ』を返せ!!!』

 

 逃げようとする倉田にセラフィモンは飛び掛かるが、セラフィモンの拳が届く前に倉田の足元に発生していた転移用の魔法陣が光り輝き、その姿は消失した。

 まんまと逃げられてしまった事実にセラフィモンが悔やんでいると、六枚の翼に金色の杖を持った天使デジモン-『エンジェモン』-が慌てながらやって来る。

 

エンジェモン、世代/成熟期、属性/ワクチン種、種族/天使型、必殺技ヘブンズナックル

光り輝く六枚の翼と、神々しい白き衣を纏った天使型デジモン、完全に善なる存在で、幸福を齎すデジモンと言われているが、反面、悪に対しては冷徹に非常で完全に消滅するまで攻撃を止めない。必殺技は、黄金に輝く拳の波動で相手を攻撃する『ヘブンズナックル』だ。

 

『セラフィモン様!! 大変です!!』

 

『如何した?』

 

『連中の攻撃は此処だけでは在りません!! …ふ、封印されていた『ルーチェモンのデジタマ』が奪われたと『ケルビモン』様からご連絡が届きました!!』

 

『な、何だと!?』

 

 エンジェモンから告げられた事実にセラフィモンは声を上げ、ソレと共にブラックウォーグレイモンの達の周りの光景は元の室内へと戻る。

 それぞれが今見た光景に対して考え込む。特に管理局に所属していたリンディは、自らの組織が行なった行動に暗く顔を俯かせていた。やがて、考えがある程度纏まったのか、ブラックウォーグレイモンは先ほどの映像で気になった点についてオファニモンに質問する。

 

「質問だが、『ルーチェモンのデジタマ』と言っていたが…俺の知識ではこの世界を滅ぼそうとした『ルーチェモン』は十闘士に倒されて浄化されたとなっているが?」

 

「確かに一度蘇った『ルーチェモン』は新たな十闘士達のおかげで倒せました…ですが、戦いが終わった後に回収した『ルーチェモンのデジタマ』に触れた時に感じたのです…『ルーチェモン』の怨念を」

 

「…記憶の引き継ぎか」

 

「どう言う事ですか、マイマスター?」

 

「デジモンは死んだ後に『デジタマ』へと戻る。この時に死ぬ前の記憶は全て無くなるのが自然だが…稀に死ぬ前の記憶を引き継ぐ時も在る。恐らく倒された『ルーチェモン』の怨念が『デジタマ』に宿り、記憶を引き継いだのだろう」

 

「その通りです…私達は再び『ルーチェモン』復活の脅威を感じ、その『デジタマ』に強力な封印を掛けてとある遺跡の奥に封印しました。強力なデジモンも護りに配置していたのですが、それが仇となり…」

 

「連中に、倉田に狙われたと言う事か。魔法と言う力は初見では厄介な面が在る。其処を付かれたと言う事か」

 

「それだけじゃないわ」

 

 ブラックウォーグレイモンの言葉に続くように何かを考え込んでいたリンディが声を出し、全員の視線がリンディに向けられると、リンディは話し出す。

 

「さっきの映像に映った巡航艦が装備していた兵器だけど…アレは長距離用の魔導兵器。アルカンシェル級の威力は無いけれど、大気圏上から地上に向かって魔導砲を放つ兵器…一つ間違えれば、大気圏航行が出来ない世界での虐殺兵器になる危険性から、アルカンシェル同様に使用規定が設けられている兵器なの…多分、いきなり大気圏から攻撃されて護りについていたデジモン達は負傷したのでは無いかしら?」

 

「はい…貴女の考えの通り、空からの奇襲に遺跡を護っていたデジモン達は負傷を負ってしまいました。その後は封印式に似た力を使ってデジモン達の動きを封じ、その隙に遺跡の内部から『ルーチェモンのデジタマ』を盗み出されました…相手側にあの人間が居ない事を知らなかったのが最大のミスでした」

 

「フム…何時倉田の事を知った?」

 

「以前に別世界のデジタルワールドの異変についてロイヤルナイツの一人と話した時です。『ギズモン』と言う驚異的な存在を教えに来てくれたのですが、『ギズモン』を生み出した人間が此方側の、しかも、幾多の世界を管理していると言う巨大組織に入り込んでいたのを知った時は、言葉を失うしか在りませんでした」

 

 最悪な人物に、強大な権力を有している管理局は接触してしまった。

 更に言えば倉田は人に取り入るのが上手い。簡単に言えば世渡りが上手いのだ。嘗て別世界の地球でデジモンと人間の争いの流れに持っていきながらも、最後の最後まで倉田は世間には信じられていた。

 その技術を利用して管理局の高官、果てはその上の最高評議会にまで取り入った。最もその取り入った最高評議会をブラックウォーグレイモンとリンディが殺してしまったので、再び誰かに取り入らなければいけないだろうが、最高評議会の考えを受け継いでいる高官は管理局内に残っている。

 再び権力を握るのに時間は掛からないだろうとブラックウォーグレイモンは判断し、ゆっくりとオファニモンに質問する。

 

「それで? お前達は俺に何をして欲しい?」

 

「…私達に力を貸して欲しいのです。イガモン達のように隠密に秀でたデジモンならば行動出来ますが…強力なデジモンが動けば、管理局と言う組織以外に『デジタルワールド』の存在が知られる可能性が高いのです。『ルーチェモン』の事を考えれば、強力な究極体の力は必要だと考えてたところで」

 

「地球で暴れた俺を感知したと言う訳か……良いだろう。俺も『ギズモン』などと言うデジモンを兵器に変える技術は気に入らん。何よりも『ルーチェモン』と戦うのは楽しめそうだからな。無論、報酬として此処のデジタルワールドへの滞在、旅をする許可を貰いたい」

 

「…現在の事態を解決に導けるのならば、それぐらいは構いません」

 

「フッ、交渉は成立だ」

 

 オファニモンの了承の言葉にブラックウォーグレイモンは笑みを浮かべながら頷き、リンディとルインは同時に溜め息を吐きながらオファニモンに顔を向ける。

 

「管理局のせいで動けないと成れば、私にも少し責任が在るので協力します」

 

「マイマスターが協力するなら力を貸します」

 

「ありがとうございます、皆さん」

 

 リンディとルインの言葉にオファニモンは深々と頭を下げ、リンディとルインは笑みを浮かべるが、ブラックウォーグレイモンだけはこれから起こる戦いに想いを馳せるのだった。


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