漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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襲撃の後

 ブラックウォーグレイモンとルインに襲撃された後の管理局本局は大騒乱状態に追い込まれた。

 実質たったの二体に次元世界の平和を護ると謳っていた管理局本局は良いように動かされ、本局内部へと侵入されたばかりか、一番頑丈に護られていた筈の『ロストロギア保管庫』にまで辿り着かれ、管理局最高評議会の面々が殺されたのだから、本局は上から下への大騒乱状態。

 更に間の悪いとしか言えない事に、襲撃時に行なわれていた『リンディ・ハラオウンの葬儀会』の為に各管理世界から招いていたマスコミ関係者のせいで、本局に起きた出来事は即座に管理世界中に報道されてしまった。おかげで本局の築き上げて来た信頼と信用は大暴落し、ミッドチルダの地上本部は多額の予算と人員を持ちながら最初から最後までブラックウォーグレイモン達の掌の上で動かされていた本局に対して嫌味を告げて来ていた。

 すぐさま本局の高官達は『闇の書の暴走体』に対する指揮を執っていた責任者に責任を押し付けようとしたが、もはやそれだけ済む事態ではなく、何名かの高官は責任を取る為に辞職に追い込まれた。

 更に不味い事に最高評議会と言う管理局のトップの面々を殺された事も問題視され、管理局本局の信頼と信用は下がる一方だった。そうなった原因であるブラックウォーグレイモンとルインは即座に抹殺許可も出された『広域次元犯罪者』に指定され、更に少しでも自分達への追求を避けようとブラックウォーグレイモンを悪名で知られる『闇の書』の主として発表した。

 今回の『闇の書』事件では死者は出ていないが、過去の『闇の書』事件では死傷者が出ている。少しでも自分達への追求を避けようとする高官達の苦肉の策だった。そのせいで事件を引き起こした守護騎士はともかく、『夜天の魔導書』の主である『八神はやて』に対しては自分達が望むような形での罪の追求が行なえなくなり、実質はやては保護観察は在るが無罪となった。

 そして高官達が更に頭を抱えたのは最高評議会の死を目撃したクロノ、なのは、フェイト、アルフ、ユーノが、“リンディ・ハラオウン”と思われる人物が二名の最高評議会の面々を殺害した場面を目撃したと言う事実だった。。

 リンディに関しては既に公式的に死亡者と発表したばかり。それなのにその人物が寄りにも寄って最高評議会のメンバーの内、二名を殺害してブラックウォーグレイモンと共に逃亡したと言う事実は発表出来る事では無かった。発表したら最後、何故そのような行動を行なったのかと追求されるのは目に見えていたので、ブラックウォーグレイモンがリンディのクローンを生み出したと言う違法研究の容疑まで追加して高官達は誤魔化す事にした。

 最高評議会の面々が殺害される瞬間を目撃したクロノ達に関しては、その場で見た事に対する緘口令を発して口を閉ざさせる事で、一応事情聴取からは解放された。

 

 そしてクロノは本局が混乱状態に在る今を利用して、ルインとの戦いで重傷を負った守護騎士とリインフォースを除いた面々と、エイミィ、レティに、ブラックウォーグレイモンと戦いながらも傷自体は深くなかったグレアム、リーゼアリア、リーゼロッテを地球での活動拠点にしていたマンションに呼び出し、最高評議会の面々が居た部屋の内部端末に記録されていたデータを全員に見せていた。

 そのデータの内容に管理局に所属しているレティ、エイミィは驚愕に目を見開き、少し前まで管理局に所属していたグレアム、リーゼアリア、リーゼロッテも余りの内容に言葉を失い、なのは、フェイト、はやて、ユーノ、アルフも言葉を失わざるを得なかった。

 クロノがコピーしたデータに記録されていたのは、管理局最高評議会が進んで違法研究を進行させていたばかりか、他の高官の汚職や不正、在りとあらゆる管理局の裏での所業が記されていたのだ。

 自分達が定めた法を自ら撃ち破るような所業の数々に、グレアムは眩暈を覚えると言うように顔に手をやりながら声を出す。

 

「…私が言えた事ではないが…こ、これが事実だとすれば…全ての真実が公表でもされれば管理局は崩壊する」

 

「…えぇ…私も同感です…リンディの件だけではなく、最高評議会は裏で…これほどの所業の数々を…しかも、彼らに属していた高官の殆どが不正を容認していただなんて」

 

「…それだけではすまないかも知れません…最高評議会はミッドチルダにとんでもないロストロギアを秘匿していたようです」

 

 そうクロノは告げながら、震える指で端末を操作する。

 クロノ自身、グレアムとレティ同様に最初にデータを見た時は自身が信じていたモノが崩壊するような気持ちを抱いた。正直ショックで寝込まなかったのが奇跡なほどだ。

 だが、それでもこのままにしておく訳にはいかないと言う思いから端末を操作する為に震える指をクロノが伸ばしていると、横合いからエイミィの手が伸びる。

 

「此処で良いんだよね?」

 

「…あぁ…そうだ…ありがとう、エイミィ」

 

「うん…じゃ、映すよ」

 

ーーーポチッ!

 

 エイミィが端末のボタンを操作すると共に、一隻の地中深くと思われる場所に埋められている巨大な戦艦が映し出された。

 見ただけでただの艦艇では無いと分かる代物の映像に、事前に知っていたクロノとユーノを除いた全員が息を呑むと、何らかの資料と思われる本を持ったユーノが話し出す。

 

「クロノから教えられて、すぐに本局の無限書庫を調べて見つけた資料に、この戦艦の事が記されていました。この戦艦の名は『聖王のゆりかご』。古代ベルカ時代に於いても悪夢の兵器と記されていた…危険度が非常に高いロストロギアです…この戦艦が万全で動き出したら最後、本局の艦隊全てが出撃しても勝てる可能性は限りなく低いです」

 

「な、何だと!? そんな危険なロストロギアがミッドチルダに存在しているのか!?」

 

「最高評議会の端末から得られたデータですから…可能性は非常に高いです…時間が無くて詳しく記されている資料はユーノを持ってしても発見出来ませんでしたが…一つだけこの艦艇に関する重要な部分が分かりました」

 

「それは何かしら?」

 

「…この艦艇は古代ベルカ時代に存在していた王族の一つである『聖王家』の血筋の者が必要なようなんです。ですが、既に『聖王家』の人間は存在していません」

 

「その通りだ。もしも存在しているならば、『聖王教会』が確保に乗り出しているだろう」

 

 管理世界で管理局と同じぐらい名を馳せている宗教組織である『聖王教会』の存在を思い出し、グレアムはクロノの言葉に同意するように頷いた。

 『聖王教会』の事を知らないなのは、フェイト、アルフ、はやては同意し合うクロノ達の様子に首を傾げると、ユーノが簡単に説明する。

 

「『聖王教会』って言うのは、古代ベルカ時代の王族の一つである、さっき話しに出た『聖王家』を崇める宗教の事だよ。その他にも古代ベルカの遺産を確保したりしているから、簡単に言えばベルカ専門の遺産を確保する組織みたいなものなんだ」

 

「そんなのが在ったんだ?」

 

「うん? …だったらさぁ? 何で『闇の書』に関して動かなかったんだい? アレも一応古代ベルカの遺産なんだろう?」

 

「アルフの疑問は簡単だ。『闇の書』に関しては過去の被害の大きさのせいで、『闇の書』に関する一件は管理局が動くように『聖王教会』との間で取り決められたんだ」

 

「そうだったのかい。なら、確保に動かなかったのも納得だね」

 

「…最も『夜天の王』と認められたはやてさんには遠からず接触が来るでしょうね」

 

「わ、私にですか!? …せ、せやけど…私はシグナム達やリインフォースには認められたけど…一番の権限が与えられたルインフォースには認められて」

 

「アレは別格だ…僕らが居なくなった後の映像を見せて貰ったけど…アレは異常としか言えない」

 

 クロノはそう言いながら自分達が本局に移動してからのルインとリインフォース達の戦いの内容を思い出して顔を険しくし、映像越しでは在るが戦いを見ていたレティとはやては顔を俯かせる。

 ルインとリインフォース達の戦いは一方的と言う言葉では足りないほどの戦いだった。シグナム達の全力の一撃を食らいながらも、ルインは即座に受けた傷を完全に修復してしまい、逆に接近していたシグナム達に強力な魔法の一撃を叩き込んで戦闘不能に追い込んでしまう。

 『暴走体』時に確認されていた『無限再生』。最も重要なプログラムであるルインを絶対に失わないようにする為に歴代の主の一人が組み込んだ機能らしいのだが、正直に言えばクロノ達はその改変を行なった『夜天の魔導書』の主を殴りたい気持ちで一杯だった。おかげでルインを倒すには『アルカンシェル』のような絶対に回避出来ない攻撃かつ、一撃でその身を滅ぼすほどの威力を持った攻撃以外は即座に修復されてしまう。

 常に万全に近い状態を保てるルインと、傷を負えば動きが鈍るリインフォース達では戦う前から大きな差が存在している。生み出された経緯ゆえに魔法の化け物と呼んでいい存在であるルインに、『無限再生』と言う驚異的な再生能力。勝つ方法を見つける方が難しいと言うのが能力と存在を知った管理局の考えだった。

 

「先に話しておくけれど…はやてさんを含めた守護騎士達とリインフォースさんは私の預かりになったわ…と言うよりも、どの部隊も艦も、彼女達を自分の部隊に入れてルインフォースが来るかも知れない可能性を恐れているのよ」

 

「でしょうね…こっちとしては助かりますけど…話は戻しますが、最高評議会は『聖王のゆりかご』を管理局の戦力に加える為に、存在していない『聖王家』の血筋をこの世に蘇らせようと考えていたようです」

 

「何だと? …馬鹿な…そんな事をしたら『聖王教会』と争う事になるぞ!?」

 

 告げられた情報にグレアムは驚愕の余り目を見開き、リーゼアリアとリーゼロッテ、そしてレティも顔を青褪めさせて言葉を失った。

 最高評議会の者達が行なおうとしていた事は、『聖王教会』の崇める『聖王』の血筋を道具のように扱う所業に近い。そんな事実が『聖王教会』に知られれば、即座に熱心な信者達が激怒するのは目に見えていた。最悪の場合、ミッドチルダでベルカ自治領とミッド行政府の戦争にまで発展するほどの事態を呼んでいただろう。

 その事実に行き着いたグレアム達は最高評議会の行なおうとしていた事に恐怖を感じるが、同時に一つ気になる点が存在していた。例え何らかの手段を使って『聖王家』の血筋を蘇らせたとしても、『聖王のゆりかご』を動かす為には血筋だけではなく、魔力が必要。ただクローンとして生み出しただけでは魔力を持って生まれる保証は無い。

 それに気がついたグレアムは思わずフェイトに視線を向けて、そのままクロノに険しい顔をしながら質問する。

 

「…クロノ…まさかと思うのだが…最高評議会は…」

 

「…今考えている通りです…最高評議会は『人造魔導師』計画を裏で支援していました…『人造魔導師』と『戦闘機人』に関するデータを管理世界にばら撒いていた可能性が在ります」

 

「…何と言う事だ…では、今管理世界で起きている『人造魔導師』と『戦闘機人』の違法研究の始まりの大元は、管理局だと言うのか」

 

「…父様…こ、こんな事が各世界に知られたら」

 

「管理局は崩壊するどころの騒ぎでは済まない…失敗したら…再び次元世界を巻き込む戦争が起きる」

 

 リーゼアリアの質問にグレアムはこれ以上に無いほどに苦虫を噛み潰したような声を出した。

 全ての違法研究を管理局が行なっている訳ではないが、それでも一番最初に考えたと言う点を考えれば、間違いなくそれは管理局から始まった可能性が高い。それが明らかになれば、確実に管理局の存在意義が揺るがされる。

 クロノがリンディの指示で手に入れたデータは、言うなれば管理局内に存在していた希望が一切入っていない『パンドラの箱』に近かった。

 知らなかったとは言え、自分達が所属していた組織の所業の数々に、なのは、フェイト、アルフ、ユーノ、はやてを除いた管理局に所属している面々は項垂れる。

 そんな中、フェイトが顔を青ざめさせながら話の中で気になった点をクロノに対して質問する。

 

「…ねぇ、クロノ? …今の話だと…母さんが私を生み出した技術は管理局から始まったんだよね?…だったら、もしかして母さんが『アルハザード』を目指したのも…何か関係が在るんじゃ?」

 

「……可能性は在る…実はこのデータ内には最高評議会が出自不明の技術を利用して生み出した人物の情報が記されていた…その人物こそが『人造魔導師』技術の基礎と呼べる部分『プロジェクトF』を理論として作り上げたんだ。そしてプレシア・テスタロッサがその技術を完成させた。つまり」

 

「…か、管理局が…人造魔導師の大元…そ、それじゃ…わ、私はどうしたら」

 

「フェイト!! 落ち着いて!?」

 

 僅かに錯乱し始めたフェイトに気がついたアルフは、慌ててフェイトを支えた。

 自分のような人造生命体の悲劇を繰り返さない為に管理局に入局しようと考え始めていたフェイトにとって、管理局の真実は嘗てのプレシア・テスタロッサに生み出された経緯を告げられた時と同じぐらいの衝撃を与えていた。

 このまま本格的に管理局に入局すれば、自身の体の事を調べられてデータとして利用されるかも知れない。いや、もしかしたら既に利用されているのかもしれないと考えたフェイトは、アルフの腕の中で体を震わせる。

 

「わ、私…も、もしかして…」

 

「フェイト!! 確りするんだよ!!」

 

『フェイトちゃん!!』

 

 精神が揺らぎ出したフェイトを安心させるようにアルフ、なのは、はやては声をかけるが。フェイトは体を振るわせ続ける。

 クロノはそれに対して沈痛な面持ちで顔を伏せる。既にフェイトの裁判は決まって無実となっているが、数年間の保護観察と言う件が存在し、更に管理局の嘱託魔導師として登録されている。はやてにしても同じように数年間の保護観察はほぼ間違いない。

 最後のなのはに関しては管理局の嘱託魔導師としては登録されていないが、問題はなのはの魔導師ランクに在った。なのはの現在の魔導師ランクは少なく見積もってもAAAランク。実は管理局が取り決めた法でAAAランクの魔導師は管理外世界に住んではいけないと言う法が在る。以前はリンディがあの手この手の裏技を駆使して地球に留まる事が出来たが、リンディはもう居ない。ほぼ間違いなく管理局はなのはを取り込もうと動くのは間違い無いのだ。

 

(こうして裏を知ってしまった今では、あのAAAランク以上は管理外世界に留まってはいけないと言う法は…状況が変われば管理局に優秀な魔導師を取り込む為の悪法だったとしか思えない…もしもなのはが管理世界に来たら、何処にも行く当てが無いなのはは、結局管理局に頼るしかないんだから…僕はどうしたら良いんだ)

 

 自分が信じていた組織の裏を知ったクロノもまた悩んでいた。

 管理局を何とか自浄したいと考えても、その相手の殆どが管理局の高官達。一人の執務官でしかない自身が相手に出来る存在ではないと理解しているクロノは、混乱しているフェイトを支えようとしているなのはに難しい視線を向けるしかなかったのだった。

 

 

 

 

 

 アルハザード、フリートの研究室内。

 その部屋の中に置かれているカプセルの中に帰還と共に戻ったリンディは、フリートの調整を受けながら自身が知る管理局に関する事と、フリートが得た管理局の裏に関する情報に関して話し合っていた。

 

「いや~、外の世界で管理局なんて組織が生まれていたなんて知りませんでした。それにしても管理外世界とか言いながら、何でその世界に関する法が勝手に決まっているんですか?」

 

『…私が聞いた限りだと、管理外世界に入り込む次元犯罪者に関しての取り決めらしかったのだけど…こうして別の見方をして見ると、確かに矛盾している点が在るわね…私も管理局の大義に飲み込まれていたと言う事ね』

 

「まぁ、時間が経てば大抵の組織は腐敗する部分が出ますからね…フゥ~ム? 体の方は少しずつ安定率が高まってきました。これなら、今日中にカプセルから出られるようになるでしょう」

 

『そう…何時までもこのカプセルの中で過ごしているのは良い気分じゃなかったから、良かったわ…それにしても…一つ良いかしら?』

 

「何でしょうか?」

 

『…何故私は子供になっているの? 普通なら大人のままの方が良かったんじゃないかしら?』

 

「あぁ、それは簡単です。貴女が此処に運び込まれた時は、本当にこっちの技術でも手の施しようが在りませんでした。何せ膨大な魔力が流れ込んだせいで、内臓の殆どが魔力に汚染されて機能停止寸前。骨格もボロボロ。普通の治療じゃ治しようが無かったので、強い生命力と言うか、途轍もない力を秘めた因子を埋め込むと言う処置しか無かったんです。しかし、大人だと拒絶反応が出てしまうので、体だけを子供に戻す薬を急いで使用して体を子供に戻し、その後に因子を埋め込んだのです。結果、ボロボロだった体は因子の力で一命を取り留めました。その後は因子と体が融合して行くように調整していたのですけど、途中で侵食率に変わって調整が不十分なまま暴走した訳です。とんでもない憎悪や破壊衝動に襲われて暴走したのはそれが原因です」

 

『そう…確かに正気に戻れたのは奇跡だったのね』

 

 本局で正気を取り戻す前の自身の行動を思い出して、リンディはフリートの説明に納得したように頷いた。

 実際に正気に戻る前は憎しみと言う感情に支配されて、親しかったグレアム達にまで容赦の無い殺意に満ちた攻撃を行なっていた。ブラックウォーグレイモンが止めていなければ、安定していなかった自らに宿った“力”を使用してでも管理局内で暴れていたとリンディは確信している。

 

『…それで私はこれからどうなるのかしら?』

 

「う~む…恐らくはある程度の年齢までは成長するでしょうが、その後は誰かが殺さない限り死ななくなるでしょう。既にデータを見る限り、貴女の体は人間よりも守護騎士と言う魔導生命体。或いはブラックウォーグレイモンに近い体になっていますからね。つまり、不完全な不老不死になった訳です」

 

『そう…本当は死んでいた命が助かった代償ね…人生は複雑だけど…本当に複雑だわ。私はもう人間でも無いのだけど…それにしても侵食…一歩間違ったら、私は私としての人格を失っていた可能性も在ったと言う訳ね…現に私には彼の記憶が流れて来たわ』

 

「ウワ~…流石にそれは予想外でした…(やはり、ウィルス種なのが原因だったのでしょうか?)」

 

 そうフリートは内心でリンディに起きた出来事を考えながら調整を進めていると、フッとリンディはブラックウォーグレイモンとルインの事が気になって質問する。

 

『そう言えば、あの二人はどうしているの?』

 

「手に入ったデータを調べて、最高評議会に『ギズモン:XT』を提供した研究者が居る筈の違法研究所に向かいました。どうにもその研究者はかなり危険だとブラックウォーグレイモンは判断しているようですね」

 

『……それは正解かもしれないわね…『『ギズモン:XT』は途轍もなく危険な存在なのだから…彼が知る種族にとっても、管理世界にとっても危険な弾薬庫でしかないわ』

 

「ん? どう言う事です?」

 

『…彼の知識から得られた情報なのだけど』

 

 そうリンディは前置きすると共に、流れ込んで来たブラックウォーグレイモンの記憶から得られた『ギズモン:XT』と、それを創り上げた者の事をフリートに説明するのだった。

 

 

 

 

 

 とある管理外世界の森林地帯。

 その場所には最高評議会が秘密裏に支援していた違法研究所の建物が隠されていた。その建物に訪れたブラックウォーグレイモンとルインは、入り口を破壊して内部へと侵入したが、既に建物の中には人の気配は全く存在せず、無人だった。在るのは一般的な感性を持つ者なら嫌悪感を感じるような機械類だけで、人の姿は影も形も無かった。

 何か手掛かりは無いかと建物内部にある警備装置をルインは調べてみたが、情報らしい情報は手に入らず、背後に立っていたブラックウォーグレイモンに申し訳無さそうな顔をしながら報告する。

 

「マイマスター…建物内部の警備装置に記録されていた画像も全て消去されています。痕跡を全て抹消してから逃げ出したと見て間違い在りません」

 

「そうか…やはり、逃げ足は速いようだな…しかし、これで“奴”に繋がる手掛かりは消えたか…残る方法が在るとすれば管理局の研究施設を虱潰しに探す以外に無いだろうな」

 

 ルインの報告にブラックウォーグレイモンは予想していたとは言え、目的の人物に対する情報が得られなかった事に目を細めた。

 フリートが最高評議会の端末から得ていたデータを調べて『ギズモン:XT』を作製した研究者の所在地で在る研究所にブラックウォーグレイモンとルインは訪れたのだが、既にもぬけの殻だった。

 

「マイマスター? 質問ですけれど…その『ギズモン:XT』でしたか? …それを創り上げた者は、そんなに危険なのですか?」

 

「……『ギズモン:XT』を最高評議会の連中に渡した“奴”の名は、恐らく『倉田明宏(くらた あきひろ)』。俺の知識が間違っていなければ、奴を野放しにしておけば確実に争いが起きる。並みの争いでは済まない。下手をすれば管理世界の幾つかは滅びるほどの大戦争が起きるだろう」

 

「ッ!? …一体何者なんですか? その人間は?」

 

「臆病な人間だ。だが、同時に奴には底が知れない欲望が在る。『ギズモン』もその結果生まれた存在だ…他のデジモンならばいざ知らず、ギズモンだけは目にすることは無いと思っていたが…まさか、異世界で目にするとは夢にも思ってなかった」

 

 ブラックウォーグレイモンはそう呟くと共にゆっくりと機械が立ち並んでいる場所へと視線を移し、その目を細めながら機械が並んでいる場所の一角を睨む。

 

「…出て来い…隠れているのは分かっているぞ」

 

「…いやはや、拙者、穏行にはかなりの自信が在ったでござるのだが、流石は究極体どのと言う事ですかな」

 

 ブラックウォーグレイモンの言葉を肯定するかのように響いた声に、ルインは顔を険しくしながらブラックウォーグレイモンが見ていた機械の影から出て来た者の姿を目にし、呆然とする。

 機械の影から出て来たのは、地球で言う忍者のような衣装を着込んだ生物。だが、その容姿は同じように地球で言う毬栗を思わせるような体型に手足がついたような姿だった。

 ルインが呆然と現れた生物を見つめていると、生物はブラックウォーグレイモンの前で片膝をついて名乗り出す。

 

「拙者の名は『イガモン』にござる。『三大天使』の方々の命を受けて、次元世界と呼ばれる世界で隠密行動をしている者にござる」

 

イガモン、世代/成熟期、属性/データ種、種族/突然変異型、必殺技/イガ流手裏剣投げ

赤いマスクを被った毬栗のような容姿をした謎の突然変異型デジモン。デジタルワールドを渡り歩き修業を積んでいる。隠密行動を主としており、森の木々に隠れたり、水中に隠れたりと、なかなかその姿をみることは難しい。必殺技は、巨大な手裏剣を相手に向かって高速で投げつける『イガ流手裏剣投げ』だ。

 

「『三大天使』だと? …(なるほど、此方のデジタルワールドは『オファニモン』、『セラフィモン』、『ケルビモン』が見守るデジタルワールドだったか)…で、俺に何の用だ?」

 

「ハッ! …拙者の主であるオファニモン様よりの言付けをお伝えに参りました…『地球の東京都に入り口は存在しています。『異界の魂』を宿す貴方ならば、正確な出入り口の場所を知っているでしょう』との事です。知らない場合は、拙者が場所をお伝えする事になっております」

 

「…(オファニモンは俺の事を知っているのか? …此方の世界のデジタルワールドに関する情報が足りんな…罠の可能性も否定出来んが、とにかく、此方のデジタルワールドに向かわない限り詳しい情報が集まらん)…場所は分かっている。お前の案内は必要ない」

 

「そうでござるか…では、拙者は任務に戻る故に失礼するでござる」

 

ーーーシュン!!

 

 言葉と共にイガモンの姿はブラックウォーグレイモンとルインの前から消えた。

 遠ざかって行くイガモンの気配を感じながら、ブラックウォーグレイモンは出口の方に向かって歩き出す。

 

「行くぞ、ルイン…この場所にはもう用はない」

 

「は、はい…それでどちらに向かうのですか?」

 

「地球の日本…東京都に存在する渋谷駅だ」

 

「ハッ?」

 

 余りにも場違いとしか思えない場所に、ルインは思わず間の抜けた声を出してしまったのだった。

 

 

 

 

 

 とある世界に存在している薄暗い研究所内部。その研究所の一室で、自身の背後に紫色の髪を伸ばしている女性を連れた白衣を着た男性は、モニターに映る本局内で暴れまわるブラックウォーグレイモンの姿にこれ以上に無いほど興奮していた。

 

「素晴らしい!! 話には聞いていたが、これが『デジモン』ッ!! その中でも究極体に分類される存在の力か!? 管理局の魔導師では勝つ事は不可能に近いとしか言えないね…フフフッ」

 

「ドクター、何を言っているのですか? この生物のせいで最高評議会の面々が殺されてしまったのですよ?おかげで資金の工面が難しくなりました」

 

「別段気にする事ではないさ、ウーノ・・・確かに老人どもが殺されたのは一時的には私達に不利になるが、所詮は一時的なものに過ぎない。彼が殺したのは結局のところはトップだけだ。老人どもの考えに同意している管理局の高官達は残っているのだから気にすることはないさ」

 

 そう男性は告げながら、次々と最高評議会の息が掛かっていた管理局の高官達のデータを表示して行き、楽しげに笑みを浮かべる。

 

「恐らくは“彼”も私と同じように考えているだろう。“彼”の計画が数年遅れてしまうが、問題は殆ど無いさ。寧ろ私達が“彼”が齎した技術を利用する時間が出来たと言うものだよ」

 

「…“彼”ですか」

 

「おや? …ウーノは“彼”が嫌いだったのかね?」

 

 僅かに不愉快そうに目を細めた紫色の髪の女性-『ウーノ』-の様子に気がついた男性は、僅かに驚いたようにしながら目を向けた。

 

「はい…正直あの男に関しては技術だけは認めますが…あの男は嫌いです」

 

「フム…私としてはアレはアレで面白いのだがね…まぁ、“彼”とは今までどおり技術交流の関係が良いだろうね…そう言えば…“彼”が『デジタルワールド』から回収していたアレが遂に生まれたそうだよ」

 

「ッ!? アレがですか!?」

 

「そう…だが、今回の件でアレを使って『デジタルワールド』に大打撃を与える作戦は中止だろうね。最高評議会が死んだことによって本局の足並みはかなり乱れる。暫らくは戦力の充填や、新たなスポンサー探しで“彼”は忙しくなるだろうから、私達が技術を取り込む時間は充分に出来た。今は雌伏の時と言う事さ、ウーノ」

 

「…分かりました…それで我々はどう動くべきでしょうか?」

 

「暫らくは私達もスポンサー探しだね。最高評議会派だった高官の誰かに取り入れれば問題は無いさ。寧ろ最高評議会の面々が居なくなったおかげで、私達の自由は増えたからね…そうそう、本局を襲撃したデジモンの捜索も頼むよ。管理世界に現れた究極体。興味深い対象だからね」

 

「了解しました。すぐに『トーレ』達にも指示を出します」

 

 ウーノはそう告げると共にゆっくりと部屋から出て行った。

 それを確認した男性は再びモニターに目を向けて、楽しげに魔導師相手に戦うブラックウォーグレイモンと、守護騎士やリインフォース、管理局の魔導師相手に互角以上に戦うルイン、そして魔法陣もデバイスも介さずに魔法と呼べる力を振るったリンディの姿を眺める。

 

「…興味深いね…この子供となってしまった管理局の元提督も、古代の技術の結晶と生み出されたと言う『闇の書の闇』も…何とか彼女達の情報を手に入れたいね…そしてデジモンと言う種族をもっと知りたい…フフフッ、世界とはこんなにも楽しい場所だったとは知らなかったよ」

 

 男性は楽しげに笑いながら、手に入れた映像をウーノが戻って来るまで見続けるのだった。


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