宜しくお願いします!!
ーーードゴオオオオオオオン!!
「ガアッ!!」
何処までも黒い漆黒の体に、金色の髪に鈍く光る銀色の頭部に胸当てをし、両腕の肘まで覆う手甲の先に、三本の鍵爪の様な刃を装備した漆黒の竜人は、放たれた漆黒の閃光に胸を貫かれて膝を付く。
その様子を見ていた色は違うが似たような黄金の竜人が、漆黒の竜人に急いで駆け寄る。
「■■■■■■■■■■■■!!」
「フフフフフッ、笑えるな。この体になってから、お前達に救われた借りを返す為に歴史を少しでも変えようと動いた結果がこのざまとは、俺は馬鹿だな」
「何を言っている!?」
漆黒の竜人の言葉に、意味が分からなかった黄金の竜人は疑問の叫びを上げた
しかし、漆黒の竜人は黄金の竜人の言葉には答えず、激痛に苦しみながらも無理やり立ち上がり、黄金の竜人から離れ始めた。
「グウッ! ……だが、悪くなかった。少しでもお前達の様な者達と共に居られて俺は満たされた。だから最後に恩返しがしたい」
「ッ!! 止めろ!!」
黄金の竜人は漆黒の竜人がしようとしている事に気がつき叫んだ。
しかし、漆黒の竜人はやはり何も答えずに上空へ浮かび上がろうとするが、その前に漆黒の竜人の背後から、首にデジタルカメラを掛けた茶色の短髪の少女が漆黒の竜人に向かって悲痛に満ちたような声で叫ぶ。
「駄目ッ! 死んだら駄目ッ! だって、アナタが死んだら私達は悲しいよ! だから死んだら駄目だよ!」
「…ヒカリ、本当にありがとう。お前がいなければ俺は取り返しの付かない事をしていた。お前、いやお前達には本当に感謝している。だから、俺は!!」
少女-八神ヒカリに漆黒の竜人は感謝の言葉を伝えると、自身の背後を振り返り、ヒカリと他の子供達、そして黄金の竜人に向かって笑みを向ける。
それと共に今度こそ上空に浮かび上がり、地上にいる黄金の竜人に向かって叫ぶ。
「この世界の事を頼んだぞ! ウォーグレイモン!!」
「ブラックウォーグレイモン!!」
漆黒の竜人-ブラックウォーグレイモンの言葉に黄金の竜人-ウォーグレイモンは悲痛の叫びを上げ、ヒカリ達も悲しみの表情を浮かべる。
しかし、もはやブラックウォーグレイモンは振り返らずに街の方へと飛び立ち、自身の体を街の上空で黒い粒子に変えながら消滅させた。
ーーーバリィィィィィン!!
それを見たウォーグレイモンはブラックウォーグレイモンが消えた空に涙を浮かべた顔を向ける。
「ブラックウォーグレイモンッ!!!!」
ブラックウォーグレイモンが消えた空に向かって、ウォーグレイモンは友を失った悲しみの叫びを上げ続けるのだった。
其処は上下左右、在りとあらゆる空間が漆黒に染まった空間の中で消滅した筈のブラックウォーグレイモンが、辺りを懐かしそうに見回しながら自身の過去を思い出していた。
(懐かしい。そうだ、思い出したぞ。俺はこの空間に一度来た事がある。俺は一度死んでこの体に転生したんだ)
彼は俗に言う転生者と呼ばれる存在だった。
とある世界で彼は一度死んで、その世界のアニメで在った世界へと転生したのだ。たが、彼は転生者の多くが行うで在ろう世界を救う行動とは逆に、自身が生まれ変わった世界を滅ぼそうとしたのだ。
(この体になってからは本当に苦しかった。俺の知るブラックウォーグレイモンが自身の存在意義に苦しむのに納得したな)
彼は自身が転生した先で在るブラックウォーグレイモンが味わっていた虚しさ、虚無感に襲われ続け徐々に心が壊れていき、最後には全てを破壊する事を誓い、自身が転生したデジタルワールドを崩壊させようとしたのだ。だが、それは阻まれた。
(本当にアイツ等には感謝してもし足りん。アイツ等のおかげで俺は本当に救われた)
世界を崩壊させようとした彼を止める為に、八神ヒカリや他の子供達、そしてウォーグレイモンは勝てないと分かっていて果敢に挑み続け、最後には彼の心を救ったのだ。
(あの時ほど、嬉しかった時は俺の前世の記憶の中でもなかった。俺はアイツ等に少しでも借りを……いや、返せてはいないだろうな)
最後に聞いたヒカリとウォーグレイモンの悲しみの叫びを思い出し、ブラックウォーグレイモンは何も返せていなかった事に気がつき、心に痛みが走る。
(…済まない。だが、アイツ等になら後を任せられる)
そう考えながらそのまま目を閉じようとすると、上から突如として光が溢れ、ブラックウォーグレイモンの体を包み始めた。
(これは!?)
突如として自身の体を包んだ光にブラックウォーグレイモンは内心で驚愕の声を上げた瞬間に、空間からブラックウォーグレイモンの姿は突如として消失した。
「ハッ!?」
気絶していたブラックウォーグレイモンは突如として目を覚まし、辺りを見回しながら自分の状態を急いで確認し、自身の両手を信じられないと言う目で見つめる。
「生きているだと!? 馬鹿な!? 俺は確かに死んだ筈だ!」
ブラックウォーグレイモンは自分が生きている事に心の底から困惑した。体を貫かれた上に、消滅させたのにも関わらず、無傷で体は存在しているのだから、困惑せずにはいられないだろう。
そのまま少しの間、困惑した表情でブラックウォーグレイモンが自身の体を見つめていると、横から女性の声が響いて来る。
「あ~、気が付きましたか?」
「誰だ!?」
ブラックウォーグレイモンが聞こえて来た声の方を見てみると、蒼い髪に赤い瞳を宿し、白衣を纏った女性が立っていた。
そしてブラックウォーグレイモンの視線の先に居た女性は、自分が名を名乗っていない事に気がつき、自身の名をブラックウォーグレイモンに告げる。
「始めまして、私はアルハザードのホストコンピュータの管制人格。名前はフリートと言います」
「アルハザードだと? …(何処かで聞いた事があるような? ……そうだ! ……俺の前世の知識の中に在る『リリカルなのは』と言う物語で出た伝説の地と呼ばれる場所の名前ではないか!?)」
女性-フリートの言葉を聞いたブラックウォーグレイモンは、自分の記憶の中に在る前世の知識の中に在る言葉が出てきた事に驚きながらも、横になっていたベットのような物から立ち上がり、フリートに声を掛ける。
「女、何故俺は此処に居る?」
「私にも分かりません。行き成りこの研究所内部に現れたんですよ」
「…そうか(何故俺は蘇った? まあ良い。再び生が得られたのならば、あの世界に帰って……いや、もうあの世界に帰る事は無い。俺にはそんな資格は無い)」
フリートの言葉に、ブラックウォーグレイモンは残念そうな表情を浮かべるが、すぐに自身が生きている事を喜び、ヒカリ達の世界に戻ろうと思ったが、最後に見たヒカリ達の顔を思い出し、帰るのを思いとどまる。
(今更あの世界には帰れん。それに俺が居れば世界に悪影響が起きる。もうあの世界には迷惑をかけたくない。だが、約束は絶対に守ってみせる! 今度こそ無様に生き抜いてみせるぞ!!)
そうブラックウォーグレイモンは内心で宣言し、新たな世界で生きる事を誓うが、この時は後に起きる全世界を巻き込む戦いに関わる事や、自身に大切な者達が出来るとは夢にも思わなかったのだった。