黄金の光に包まれながら喰は自身の力が斬り裂かれ、散っていくのを感じていた。
(はぁ~こりゃ負けたかな。龍の力が消えた時点で攻撃手段が無くなったに等しいからな。“糸”や“鬼切丸”でいけない事も無いが……それは面白くねぇ)
自身を貫いた黄金の刃を見て、諦めたかの様に受け入れる。
その時、
トクン__
何かが脈を打った。
(おいおい………何だよこりゃあ………)
自身の奥底で何かが脈打つのを確かに感じていた。
そして、それがどんどん近付いてる事にも気付いていた。
(この感覚……何処かで………)
デジャヴを覚え、頭の中を探る。
(___っ!?)
あと一歩、何かに届きそうな所でノイズが走る。
思わず頭を押さえる。
自らの奥から何かが這い出てくる。
そんな感覚の中で冷や汗を大量に流す。
「おいおい、笑えねぇ…………何だよ……これは………まるで……グッ……ガァァァァァァァァ!?」
奥から何かが這い出て、自分が暗闇の中に引きずり込まれるのを感じながら喰の意識は沈んでいった。
◆◆◆◆◆
「…………ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
悲鳴の様な叫び声が聞こえる中、黄金の光が収まる。
「一体……何が?」
光が収まり、そこに見えたのは白髪で真紅の瞳を輝かせる“彼”だった。
左目の眼帯が落ちる。
その奥にはあるはずの無い真紅の瞳。
よく見れば、手足の傷も再生していた。
「喰………なのか?」
変わり果てた姿に護堂達は困惑する。
“彼”はキョロキョロと周囲を見回すと、護堂を見付け視認すると凝視し、口が笑っているかの様になる。
「カハッ、カハハハハッ!!カハハハハハハハハハハハハッ!!」
「な!?」
「護堂!!」
「護堂さん!!」
“彼”は護堂が、エリカすら認識出来ない程の勢いで近付き、護堂達が気付いた時には目の前にいた。
そして、護堂の腹を掴む。
それだけで肋骨が軋む様な音がする。
「グッ…アァ……!?」
怪力も無い、今の護堂ではその力を振り払う事が出来ず、投げ飛ばされ、大きめの岩にその身をめり込ませる。
「カハハハハハハハハハハハハッ!!」
“彼”、否、“それ”は笑う。
狂った様に笑い声を上げる。
◆◆◆◆◆
「どうなってやがる?」
呑み込まれ、喰が気が付いた時には“ここ”にいた。
周囲には何も無い。
喰はただ真っ暗な空間を漂っているだけだった。
「簡単だ。ダリィ事に闇に沈められたんだよ、俺達は」
闇の向こうから骸が現れる。
喰は露骨にうんざりした表情をするが、骸は特に気にした様子では無い。
「あの“黄金”に俺達の体がどういう影響を受けたか知らねぇけど、その衝撃で俺達の奥から何かが目覚めたんだ」
「何かって何だよ」
「俺が知るかよ。俺はてっきりお前の方が知ってるかと思ってこの上無くダリィのにお前を探してたんだぞ」
「そりゃ悪かったな。確かに俺はお前の奥底で眠ってたがそれより更に深い所に眠ってた物の事なんか知らねぇよ。まぁ一番笑えねぇのは、精神と肉体が切り離されたこの状況だが」
喰の言う通り、現在“彼ら”の体と骸と喰と言う精神は切り離されていた。
それゆえに目覚めた何かに振り回される様に体は暴走し、暴れ回っているのだ。
「異変が最初にあったのはお前があの野郎の血をなめた時だけどな」
「あれがか?確かに何かが脈打つ様な感覚はしたが」
「そうなると、吸血鬼か」
「あ?お前は目覚めた何かが権能の類いとでも思ってるのか?」
「そりゃこんだけの事となると権能と考えるだろ」
「だが、俺達が殺したのはミカエルとルシファーだけだぜ?」
「それは確かだな。発生不明の権能もどきねぇ……」
そんな会話をしていると、突如脳裏にノイズが走り、“彼ら”の目の前に見覚えの無い何かが写し出される。
「「は?」」
◆◆◆◆◆
爆音が響く。
“それ”は現在、鋼の獅子を相手にしていた。
“それ”の動きは単調そのものであり、エリカの操作する獅子で充分囮が出来ていた。
その間にエリカと万里谷は護堂を回収していた。
「だ、大丈夫ですか護堂さん?」
「あぁ何とか大丈夫だ。肋骨は少しヤバそうだけどな」
「気休め程度だけど、治癒の魔術をかけておこうかしら?」
「いいや、大丈夫だ。“これ”でいい」
「何をするつもり?」
「どんな状態か知らないが暴れてる、あの馬鹿を止める」
護堂は立ち上がり、“それ”の前に出る。
エリカも別に止めたりはしない。
条件は揃っている。
あの権能を発動させる。
「全ての敵よ、我を畏れよ」
言霊を唱える。
“それ”が護堂に気付き、飛び掛かってくるが気にしない。
むしろ、その拳を受け入れる。
今度は覚悟していただけあって吹っ飛ばずに済んだが、少々内臓が傷付いたのか口から血を流す。
「全ての悪しき者よ、我が力を畏れよ。今こそ我は、十の山の強さを、百の大河の強さを、千の駱駝の強さを得ん!!雄強なる我が掲げしは、猛る駱駝の印なり!!」
「カハハッ!!……ガブグゥ!?」
口元を歪め、二発目を放とうとする“それ”を蹴り飛ばす。
本能で危機を悟ったか、一瞬後退したがもう遅い。
護堂の蹴りは正確に“それ”の胸板を蹴り抜いた。
◆◆◆◆◆
済まない……君とその子を守れなくて……ザザッ
私はそなたの帰りを……ザザッ
生き残るのは…無……ザザッ
ザザッ……ここ……ザザッ……終…ザザッ…って……ザザッ
……ザザッ……せめ……ザザッ………来s……ザザッ……彼女達を………ザザッ……もれ……ザザッ
“彼ら”の脳裏に流れ込もうとしていたのは全く見覚えの無い光景だった。
そして、“彼ら”目覚めた物が何かを理解する。
クドラク___吸血鬼の名である。
その吸血鬼は死後にとある処理をされなかった場合、更に強大な存在として甦る。
その権能を“ ”は持っていた。
そして死に際に発動したのだ。
転生の権能として。
そして、“ ”が転生したのが“彼ら”である。
今流れ込もうとしている物こそ、“ ”の、前世の記憶である。
骸は流れ込もうとしている“それ”に手を伸ばす。
そして、
「ふざけんな!!」
握り潰した。
流れ込もうとしていた記憶を、前世の記憶を、その手で握り潰した。
「ふざけんなよ!!何があったかは知らねぇが!!こんな因果を背負うつもりは俺にはねぇんだよ!!」
激昂し、前世の記憶を払いのける。
喰はそれを唖然として見ながら、口元を歪める。
「……笑えねぇな。俺らが転生した存在という事も、お前の行動も」
「うるせぇよ。俺はただ死にたかっただけなのに何でこんな面倒な物を背負わないといけねぇんだよ。いらねぇんだよ、前世の記憶なんて!!」
「それで?断片覗いた感じからして、かなり事情がありそうなカンピオーネが前世の様だがどうするつもりだ?」
「こんな因果は断ち切る。そして、断ち切った上で俺は死ぬ。ただの“俺”として死ぬ!!」
「ハッ!!やっぱり相容れねぇな。お前が死ぬ事さえ目的として無かったら協力を“契約”してもよかったんだがな」
「“契約”してどうする気だよ?」
「どうするも何も“契約”だけは絶対に裏切らない。それが“俺達”の唯一守っている事だろ?」
「そうだな。でも、お前に協力して貰う気はねぇよ。俺は死にたいんだ!!」
「そうかよ。俺としては前世なんかどうでもいいんだが、好きにやればいいさ。死ぬのは止めるけどな」
「お前がどうあろうがもう関係無い。何が何でも死んでやるよ!!」
言って、骸は右手を上に向ける。
そして、暗闇にヒビが入り、砕ける。
◆◆◆◆◆
骸の意識が体に戻ったのはちょうど護堂の蹴りを受けた所だった。
駱駝の権能で強化された蹴りは胸板を砕き、内蔵を破裂させる。
しかし、クドラクの、吸血鬼の再生力である程度は回復する。
「カハッ……やってれるじゃねぇか…………」
「戻ったか。どっちだ?」
「骸だよ。別に覚え無くていい。どの道、近々死ぬ予定だからな」
「死ぬって、お前……命の扱いが軽過ぎないか?」
「俺の命に価値なんかねぇよ。そして、どんな命も等しく平等に価値なんか無いに等しいんだよ」
護堂は溜め息を吐き、骸の方を向きなおる。
その額には青筋が浮かんでいる。
「お前が死にたがりだろうが、何だろうが俺には関係無い。でも、その考え方は気にいらない。命の大切さってのを叩き込んでやるよ」
「ダリィ……ダリィんだよ。そういうのは。叩き込めるもんなら叩き込んでみろ。その前に一回殺してやるから。死ねば命の価値なんて気にしなくなるからよ!!」
「お断りだよ!!」
クドラクの権能、駱駝の権能、各々が各々の権能を振るい、最後の攻防を始める。
サラッと流したけど主人公はカンピオーネの転生した者でした。
とはいえ、本人達がああいう感じなので詳しくは“現状”誰にも分からずな状態ですが。
ちなみに数百年前のカンピオーネです。
次回でvs護堂は決着です。
骸と喰の関係に変化が出るかもです。
それでは質問があれば聞いてください。
感想待ってます。