大体原作で言うと二巻終了辺りの時系列です。
「ふぅ…………こんなもんか」
とある国のとある郊外のビルの一室にて彼は息を吐き呟く。
その背後には血肉飛び散る惨状があった。
彼、上月 喰はまた血溜まりの中にいるのだった。
◆◆◆◆◆
ミカエルとの戦いの後に“彼ら”は海を漂流していた。
気が付いた時には大きめの木片の上で海に浮かんでいた。
ミカエル戦での傷は何故か塞がっていた。
理由は不明。
赤い竜は再生能力も持っていたという話もあり、おそらくそれだろうと“彼ら”は結論付けていた。
魚や鳥で食い繋ぎながらしばらく漂流し、運よく何処かの海岸に流れ着く。
まだフラつく体で最寄りの街に行くと、誘拐の様な光景に出会い、それを阻止した。
どうやら助けたのは寺院の子供で、その関係でとりあえずの泊まる所を確保し、療養していた。
そして、体力と傷が完全に回復すると、一宿一飯の恩という事で手持ちでそれなりの品を渡しておいた。
二柱との連戦、漂流で手持ちはほぼ全滅していたが何とかした。
その後、その子供を誘拐しようとしていた悪質系の魔術結社を潰し、現在に至る。
これで本当に一宿一飯の恩を返したという事にしておく。
“彼ら”の見立てでは助けた子供は“霊視”の素質持ちであった。
狙われた理由はおそらくそれだろう。
◆◆◆◆◆
そして、現在はその潰した魔術結社の金庫を漁っている所である。
ヨーロッパを中心に魔術結社や騎士団とかに目をつけられているので、まともに金の入りが無いのでこうして非合法な連中から強奪しているわけである。
何より現在はカンピオーネである為に目立った行動は避けたい。
気配で気づかれる心配は無い。
ミカエルから奪った権能の一部分に天使の人に紛れる能力があった。
それを使い、気配を一般人同様にしているのだ。
「さ~て、そろそろ来てもいい頃だと思うが」
金庫から大体の物を奪うと、窓を見ながら呟く。
現在の格好はボロボロのジーパンに半袖ワイシャツ、左目に眼帯がしてある。
例え竜の再生力でも欠損部位を再生させる程では無い様だ。
黒髪に一房の白髪がある髪はボサボサでそれなりに長い。
後ろで適当に結んで纏めてはある。
魔術結社を潰すのに使った“糸”を回収していると、窓をつつく様な音が聞こえる。
喰が窓を開けると、そこには少々黒い鳩が背に何かを背負いながらいた。
「来た来た~」
喰は鳩の背負っていた袋を回収すると、鳩の背に刻まれていた“666”の文字に指を当てる。
「我に宿りし聖なる力よ。哀れな魂に憑きし闇を祓え!!」
当てていた指から浄化の力を放ち、刻まれていた文字を消滅させる。
「お疲れ様」
刻まれていた文字が完全に消えると、鳩は白くなり、空へと飛んでいった。
先程まで鳩は使い魔化されていた。
赤い竜は、人々に獣の数字である“666”を刻み、背徳的な行為に向かわせ、神を冒涜させる言葉を吐かせるという。
この能力を権能として使用する事によって生物を使い魔とする事が出来るのだ。
そして、“天使の浄化”でその刻んだ文字を消滅させる。
ミカエルを倒した後に何故か権能とは別に浄化の能力も復活していた。
“彼ら”が権能じゃないと思っているだけで権能の一部なのかもしれない。
「さて、あいつはちゃんと約そ………ガッ!?」
袋から中身を取り出そうとした時、喰を激しい頭痛が襲う。
この頭痛は何時ものである。
(さっさと、体を返しやがれ!!)
「ったく………笑えねぇ…………何でこういう時に出てくるかね…………」
文句を言いながらも、喰の人格は深く沈んでいった。
一房の白髪が黒くなり、人格が骸へと変わる。
「ったく……ダリィ。やっと体を取り戻せた」
骸は手を開いたり、握ったりしながら体の調子を確かめる。
ミカエルとの戦い以降、“彼ら”は体を奪い合っていた。
一方が体を奪えば、一方は深く沈んでいく。
しかし、時間が経てば沈んだ方が強くなり、体を奪い返しにくる。
そして、奪われた人格は深く沈んでいく。
そんな事を“彼ら”は繰り返していた。
この繰り返しにも例外があった。
骸が表に出ている状態で自殺を試みると、喰急に強くなり、体を奪われるのだ。
それに加え、カンピオーネになった影響で自殺がかなりやりずらくなった。
とことん自分を死から遠ざけようとする運命に、骸はかなりうんざりしていた。
「さて、この袋の中身はドニの奴に補充を依頼した携帯だよな?」
無気力に、ダルそうに呟き、袋の中身を確かめる。
予想通り、中身は携帯であった。
ドニから渡された携帯は二柱との戦いで粉々になっていた。
故に代わりの品を使い魔で依頼しといたのだ。
カンピオーネになり、ドニとは出来るだけ会いたく無いのだが、立場的に裏の情報が入りにくいので連絡手段くらいは手に入れておきたいのだ。
骸は電話帳に登録されていた、ドニの電話番号へとかける。
リベラが出るかと思ったら驚いた事に本人だった。
『どちら様?』
「俺だ。上月 骸だ」
『何だ。骸かい。久しぶりだね。無事携帯届いた様で何よりだよ。しばらく連絡が無いから友人として心配してたよ』
「俺とお前は友人って間じゃねぇだろ」
『そうかい?まぁいいさ。それで用は何だい?君がわざわざ届いた事を知らせる為だけに電話してくると思えないけど』
「しばらく隠れてた物でな。情報を把握してねぇんだ。だから、最近の魔術関連の事を教えてくれ」
それから、リベラに電話が変わる。
どうやらそういう話はリベラ任せの様だ。
大体の事を聞き終わると、またドニに変わった。
『そうそう。これだけは僕から答えておきたいんだけど、七人目との決闘なら引き分けたよ』
「…………は?お前が?新参に?」
自分もそのカンピオーネの新参と化してるのだが、そこらへんは隠してあるので置いておく。
『そうだよ。やぁ~中々いい戦いだったよ』
「草薙護堂だったか?」
『そうだよ』
「よし、覚えた。お前と引き分ける様なのとは出会いたくねぇ」
『ハハッ。君らしいね。それで?他に聞きたい事はあるかい?』
「なら、お前以外のカンピオーネの居場所でも教えてくれないか?」
何時も聞いてる事である。
以前はカンピオーネに出会うのを避ける為によく聞いていた。
だが、今は別の目的で聞く。
大体は予想通りだが、一人予想外のがいた。
「ヴォバンの爺が日本にいるだと?」
『そうだよ。まぁ僕の親友にケンカを売りに行くといいって言ったし、数日いないにはケンカしてるんじゃないかな』
「そうかよ……(日本か……ダリィな)」
これからの行動をもう面倒くさがりつつ、話を聞く。
どうやらヴォバンはまつろわぬ神の召来の為の人材を求めに東京にいるらしい。
わざわざ本人が出向く事は無いと思うのだが、ヴォバンの事だから気紛れだろうと結論付ける。
聞きたい事を聞いて、電話を切ろうかと思った時、ドニに逆に尋ねられた。
『そういえば、君が消息を断った日に二柱の出現と消滅が確認されたんたけど君は知っているかい?』
「………知らねぇよ」
『そうかい。なら、いいよ』
そこで電話は切れた。
「さて、どうやって日本に行くか」
以前なら避けていたカンピオーネ。
しかし、今はむしろ寄って行く気が満々である。
その心変わりは喰の存在と自身がカンピオーネになった事に起因する。
ただでは死ねないカンピオーネの体に、自殺を徹底的に止める喰。
これらを踏まえて死ぬにはどうするか考えた結果、他のカンピオーネと戦って負けて死ねばいいと言う結論に至った。
喰は生存欲が強い癖に、戦闘狂な一面がある。
無気力で自殺志願な骸とは真逆に近い。
というより、だからこその二重人格である。
喰の性格的にカンピオーネとは嬉々として戦うだろう。
そこで負けて死ぬ事に期待するというわけである。
まつろわぬ神でもいいかもしれないが、万が一勝った時に権能が増え、強化されかねないから駄目なのである。
一先ず、行先を日本と定め“彼ら”は行動を開始する。
とはいえ、陸路も海路もろくに使えない“彼ら”が苦労するのは間違い無い。
◆◆◆◆◆
ヴォバンとの戦いが一週間が過ぎ、草薙護堂は夏休みにエリカ・ブランデッリから逃れる為に資金を集め、逃げ場所を探していた。
とはいえ、学校は普通にある。
そして放課後、万里谷裕理との帰り道、“彼ら”は突如目の前に現れる。
帰り道を歩いている時、目の前にいきなり何かが落下してきたのだ。
「キャ!?」
「うぉ!?」
落下の衝撃で大量の土煙が舞い、驚いた万里谷が倒れ尻餅をつく。
「大丈夫か、万里谷」
「えぇ……ですが、一体何が……」
護堂の手を掴みながら立ち上がる万里谷。
二人が落下地点を見ていると、土煙が徐々に晴れていく。
落下地点に見えたのは、一人の男だった。
男は護堂達の方を見る。
「………お前が草薙護堂か?」
「そうだ。俺が草薙護堂だ。お前は一体何者だ?」
護堂は警戒しながら問う。
こんな現れ方をするのは普通の人間では無い。
しかし、男は護堂の問いには答えず、こう言った。
「初めまして。会いたかったぜ、同類さん」
それはある意味、護堂の問いに対する答えでもあった。
新章開始で護堂と骸が接触でした。
人格は骸です。
どう関わるかは次回で。
ミカエルから奪った権能については今回出たのは副産物的な要素です。
それでは質問があれば聞いてください。
誤字があれば言ってください。
感想待ってます。