自殺志願の神殺し(F)/生存欲の魔王(B)   作:天崎

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視えた悪夢(O)/歪む感覚(T)

 

「ハァァァァァァ…………」

 

骸は夜の教室で大きく溜め息を吐く。

頭にはタオルを巻き付けている。

現在は夜一時くらいである。

周囲を見れば、護堂と三バカが段ボールを寝具に眠っていた。

骸がこんな時間に教室にいるのは、大体三バカのせいである。

一割ほど半月のせいではあるが。

数日前に三バカが半月にメイドをやってくるよう説得してくれと骸に要求してきたのだ。

ヴェーラは何かそういうのは頼みににくいらしい。

それで骸が適当に聞いてみると、半月は三バカの目の前に電卓を出した。

直後に三バカが土下座した辺り、額はもの凄いのだろう。

その時の半月の表情は笑顔ではあったが、目は確実に笑っていなかった。

結果として八つ当たり気味に『メイド喫茶チャイナアレンジ館』の開店準備を手伝わされる羽目になった。

喰に押し付けようともしたが、こういう時はかなり抵抗してくるのだ。

 

「(…………クラスの出し物の方をサボれるから損だけでは無いんだが)」

 

ただし、準備をサボりまくったツケが学園祭当日に襲ってくるのにまだ気付いてはいない。

そんなこんなで学園祭前日にせっせと働いていたわけだが、骸は眠れずにいたのだった。

適当に荷物漁っていると陶製の小ビンを見付ける。

中身を見る限り普通の液体に見えるが、違った。

死ぬ為に無駄に読み漁り得た知識の中に引っ掛かる物があった。

 

「邯鄲夢の霊薬か…………睡眠薬にはちょうどいいな」

(…………おい、ちょっと待て他にも色々あっただろ、その霊薬!!)

 

喰が何か言ってくるが無視する。

杯に適量を注ぎ、面白半分で護堂近くの机に置いてから寝転がり、杯を煽る。

そのままバタンと眠り込むのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

突如として意識が覚醒する。

体がかなり痛む。

よく見れば全身から血が溢れている。

 

「(どういう状況だ、こりゃ)」

 

状況がよく分からないまま、首を鈍く動かす。

自分が瓦礫の上に横たわっているのが確認出来る。

そこへ、歩いてくる足音が聞こえる。

そちらを見ると半月とヴェーラの姿を確認出来る。

その背後には零の姿が見えた。

 

「終わりよ」

「終わりだ」

 

近付いてきた半月とヴェーラが各々呟く。

半月の手には刀が、ヴェーラの手にはライフルがあった。

それらが骸に向けられる。

半月とヴェーラの表情はよく分からない。

だが、口を歪ませているのは確かだった。

まるで、笑いを堪える様に。

 

「(…………なんだよ、これ)」

(……………笑えねぇ)

 

骸と喰が各々心の中で呟いた直後に斬撃音と銃声が響き、意識が途切れるのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

炎が弾ける様な音が聞こえる。

目を覚まして初めに感じたのは身を焼く様な炎の熱さだった。

感覚的に左腕丸ごと一本と右足の膝より先が無い事が分かる。

更に身体中の骨は砕け、全身血塗れの様だ。

かなり重症な上に再生が上手く機能していないらしく体を動かす事すら難しい。

何とか目を開くと周囲は炎の海だった。

そして、近くの瓦礫に半月とヴェーラが血塗れで横たわっている。

だが、目は死んでないらしく何かを睨んでいるが、体は動かない様だ。

彼女達の視線の先を見れば、零が立っていた。

その瞳からは涙が流れ、狂った様な笑顔だった。

 

「これで終わるのよ。ようやく、ようやくよ。貴方を殺る事で終わる」

 

「何も終わりゃしねぇよ。俺を殺した所で“終わり”はしない、お前が“壊れる”だけだ」

 

いつの間にか表に出ていた喰が状況も分からずに言う。

まるで零が気にくわないとでも言うかのように。

しかし、零は何かを振り払う様に首を振り、手袋の様な物に包まれた右手を動かす。

それに合わせる様に“何か”が動く。

“それ”は真紅の刃だった。

万物の血を吸ったかの如く深く紅い禍々しいその刃は零の右手に収まり、刃先を骸へと向ける。

 

「いいのよ、何でも…………これで何もかも終わるんだから」

 

零は涙を流しながら、骸の心臓めがけ突きを放つ。

骸はその刃先に目を向けながら呟く。

 

「……まぁ……零姉に殺される……………これもまた俺の死に場所としてはちょうどいいか」

 

骸は笑い、受け入れるかの様に無抵抗だった。

そして、意識が再び途切れる。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

“岩融”を杖に立つ骸。

骸に持たれ掛かる様に倒れている零。

そして、零ごと骸を貫く刃。

 

「………は?」

 

思わず声を漏らす。

状況が全く理解出来ない。

視線が刃の持ち主へと向く。

刃の持ち主は黒いマントを纏った男だった。

顔は見えない。

だが、何処か懐かしさを感じる。

 

「ハッ」

 

そんな思考をしている間に男は零を蹴り飛ばして刃を抜く。

骸を下敷きにして倒れる。

上に重なっている零の体をあまり動かさない様にしつつ、上半身を起こす。

骸の血と混ざりながら、零の血が溢れる。

 

「カハハ、カハッ、カハハハハハ!!いい、いいね!!その絶望に染まりかける顔、そうだ、そうだよ!!俺が見たいのはそういう顔なんだよ!!」

 

黒マントの男の笑い声が響く。

性格の悪そうな笑いを響かせているが、視線は定まっていない。

まるで骸や零など眼中に無く、別の物を見ている様な。

そして、その笑い声にもやはり聞き覚えはあった。

何処で聞いたか思い出せない。

あと一歩と言う所で引っ掛かる。

そのまま記憶を漁る内に意識は闇に消えていった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

ザザッ__ザザザザザザ____

聞こえてくる音にノイズが混ざる。

目を開いても視界もノイズが走り歪んでいる。

 

『我y__ザザ___“運m_ザザ_uン”なr_ザザザザザ_す_ザザ__ザザザザ_う』

 

聞こえる声にもノイズが走る。

状況が全く把握出来ない。

分かる事と言えば神々しい光が自分へと向けられていることくらいである。

そちらへと何とか視線を向けると三つの人影が見える。

全員女である。

だが、ノイズが酷くて姿は確認出来ない。

 

「……三人の女神?」

 

ザザザザザザザザザザ

呟いた直後にノイズが更に拡大する。

もはやに何も見えないし聞こえない。

五感、平衡感覚すらおかしくなる。

 

『貴様……見ているな……………』

 

歪む感覚の中ではっきりとした言葉が聞こえた直後に視界にヒビが入り、“世界”が砕ける。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「……く、はぁ!!……ハァ……ハァ………」

 

目が完全に覚める。

息を切らし、汗もかなり掻いている。

息を整えながら時間を確認する。

 

「四時か………」

 

どうやらそこまで眠れなかった様だ。

息を整え終わると、頭に巻いていたタオルを外して汗を拭く。

そして、夢を思い返して苦笑いする。

 

「…………なんつー悪夢だよ。ダリィにも程があるだろ」

(………それが悪夢じゃ済まねぇ可能性もあるから笑えねぇ)

 

邯鄲夢の霊薬の効果を思い出しながら骸と喰は呟く。

服用した人間に将来についての夢を見させる。

霊視の素養を持つ場合はそこそこの確率で“来るべき未来”を見せる。

カンピオーネには経口摂取ならこういう類いは効く上に霊視方面にも傑出している。

つまり、今見た“悪夢”は“夢”で済まない可能性もあるのだ。

とはいえ、内容的に何が何だかさっぱりではあったが。

時期も分からないのであれば対策のしようもない。

 

「まぁ零姉に気を付ければいいだけか」

(そういう事だな)

 

骸は期待する意味で、喰は警戒する意味で言う。

互いに人物に対しての想いが違う故に結論も違う。

互いに未来がもっとマシな方向へ進む事を願いながら再び眠りにつくのだった。

今度は薬無しでもあっさりと眠れるのだった。





八巻終了でした!!

視えた物が何時の物か分からなければ未来予知も意味は薄いという感じでした。
更に確率も曖昧と言う不確かさでした。
とはいえ、ノイズの意味は色々ありますが。

それでは、質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。

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