「済まぬ、兄者。神殺し達を見失った」
「どうせ、向こうから仕掛けてくるであろうから問題は無い。それにお前をそこまでやる者を相手にするからのは警戒しんといかんからな」
喰とヴェーラが吸血をしている間に、金角と銀角は合流していた。
銀角は千切られた右腕を押さえながらも、目を擦っていた。
何故か先程浴びた血が中々落ちないのだ。
◆◆◆◆◆
合流した金角銀角をヴェーラは対戦車ライフルを構えながら覗いていた。
まだ撃つ時ではない。
幾ら竜骨で強化しようと、“眷族化”をしようと根本的に人が神に勝てるはずが無い。
だが、隙を作る事は出来る。
だから、合図を待って狙いをつける。
「込めるは翼。放つは魔槍弾。貫くは心臓。必殺の魔弾よ、我が敵の命を撃ち抜け」
言霊を呟き、引き金を引けばいいようにする。
今回の魔弾は“特別製”である。
◆◆◆◆◆
パチン、と指を鳴らす音が響いた。
直後に金角と銀角は構えを取るが、すぐにそんな事はしていられなくなる。
「ゴグ……ガラァグアァァァァァァ!?眼が…………眼がぁぁぁぁぁぁ!?」
銀角の瞳が、正確には銀角の瞳に浴びせられた喰の血液が発火したのだ。
あの時、目潰しに使ったのは吸血用の輸血パックでは無く、自分の血を詰めた輸血パックだったのだ。
眼球内の水分が沸騰し、蒸発する。
想像を絶する激痛が銀角を襲う。
瞳が燃え上がり、銀角が転げ回る中で茂みの方から人影が飛び出してくる。
「どうもどうやら“神”でもそれは激痛のようだなァァァ、銀角!!今、楽にしてやるよ!!」
茂みから飛び出したのは当然、喰だった。
真紅の瞳を輝かせながら龍爪を振り降ろす。
「させるか!!」
龍爪は金角の七星剣によって受け止められる。
同時に指を鳴らす。
金角が警戒する様に身を震えさせた。
先程、指を鳴らし発火させたのもこれが目的だ。
不要の心配を煽る事で敵の手を狭める。
体を震えさせたと同時に龍爪に力を更に込め、体勢を崩させる。
そして、指を鳴らすのはもう一つ意味がある。
◆◆◆◆◆
(合図、来た)
「当たれぇぇぇぇぇ!!」
二度目の指が鳴る音で対象を撃て、言われた事はそれだけだった。
それでも十分だ。
この距離なら割りと軽く当てられるくらいだ。
そして、迷わず引き金を引く。
魔槍弾として放たれた魔弾は、槍の様に一直線に走り続けた。
同時に対戦車ライフルが煙を上げる。
「やっぱ、こうなるか。銃は普通だからね」
呟きながらも魔弾の光を見守る。
◆◆◆◆◆
魔弾が金角の腕へと突き刺さった。
まるで本物の槍の様に光で出来た様な槍は金角の肩へと刺さっている。
それによって金角は完全に体勢とバランスを崩す。
そこへ竜の尾を叩き付ける。
意外に耐えてきた。
片腕で受け止め、掴む事で倒れる事を防いできた。
だが、それでいい。
そこまでは想定済みだ。
これまでチャージしていた竜の頭から、竜の息吹を金角に向けて放つ。
「弟より先に消し飛んでろ」
「悪いが、そういうわけにもいかない」
金角は掴んでいた尾をそのまま利用して、喰の体勢を崩す事によって竜の息吹と射線がズレる。
竜の息吹によって森がごっそりと消し飛ぶ。
しかし、直後に地中から放たれた竜の息吹が銀角の半身を消し飛ばした。
「は?」
「バッ?」
「上手くいったか」
喰が呟くと地面が盛り上がり、割れる。
そこから二本目の竜の頭が現れる。
これは此処に来る前に左耳を代価に召喚したのだ。
その傷もすぐに再生させた。
何はともあれ、二本目の竜の頭は地中に仕込み、掘り進めさせたのだ。
そして、銀角の真下で竜の息吹の為にチャージをしていたのだ。
それ以外の全ては囮だったのだ。
銀角の動きを封じ、金角を狙ってる様に思わせたのだった。
何で周りくどいやり方をしたかというと、金角銀角はとあるタイプの神だからだ。
「あ、あ………兄者………済ま………
べチャリと残っていた銀角の半身が地面に倒れる。
血溜まりを作るわけでもなく、死体は砂の様に散っていった。
「ゴッ………おのれぇぇぇ!!これを狙っていたわけか」
「そりゃそうだろ。あんたらは二体で一柱だ。なら、片方を殺せばバランスが崩れて制御出来なくなるよなぁ?」
苦しみ出す金角に説明する様に言う喰。
だが、金角の苦しみは力のバランスの崩壊だけでは無かった。
先程、金角の肩に突き刺さった魔弾の槍部分が消え、残った銃弾が心臓に向かう様に体内を動いているのだ。
「人間ごときが小賢しい!!」
強引に魔弾を摘出して消滅させる。
そして、喰へと向き直る。
「銀角の仇を取らせて貰おう」
「その必要は無い。お前もどうせ向こうへ行くからなぁ!!」
喰は龍爪を、金角は七星剣を構え、互いが互いへと向かっていく。
多少弱ってはいるが“まつろわぬ神”には違いない。
正面からぶつかるのは得策ではない。
だからこそ、喰は仕掛けの一部を発動させる。
常に張っている物である“糸”を使う。
「ぬぅ!?」
金角の足元の“糸”を収束させ、一瞬の隙を作る。
竜の尾を叩き付ける。
だが、それは受け止められる。
「やっぱ、パワー不足か」
金角は逆に竜の尾を掴み、投げ飛ばした。
木々を薙ぎ倒しながら吹っ飛んでいく。
「(さーて、どうすっかな。弱体化してるって感じじゃねぇな、ありゃ)」
(そりゃそうだろ。複数体で一柱というタイプでもブリュンヒルデとかのワルキューレと違って繋がりが薄いんだよ)
「(まぁつるんでる仲間に近い所はあるからな)」
(で、どうするつもりだ?)
「(お前は何か案は無いのか?)」
(此処が俺の死に場所じゃ無いのは確かだが、俺が相手をする気はねぇよ。というか、お前が本気でやれば終わるだろうが)
「(いや、今は少しな)」
(少しなんだよ)
「(何でもねぇよ。それより一つ思い付いた案があるんだが協力してくれねぇか?)」
(どういう意味だ?)
「(“あの時”の感覚覚えてるか?)」
(“あれ”か。出来るのか?)
意識内で割りと高速に会話を続ける喰と骸。
両方が表に近くなったからこその速さである。
だが、時間はそこまでない。
「ぬぅぅぅぅん!!」
金角が芭蕉扇を思いっきり振るう。
森の一角が炎に包まれる。
喰は慌てて回避行動を取る。
「どうやら作戦会議する時間も無いようだな」
(作戦会議と呼べる程でもねぇけどな!!)
言い争いをしながら二人は金角を確実に狩る方法を探るのだった。
相手は此方の座標を何となくだが気付いてる。
だから、得意の奇襲は難しかった。
銀角退場でした。
扱いとしては金銀セットで一柱なので金角を倒さないと殺った事にはなりませんが。
それでは質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。
睡魔に襲われながら書くのはキツいですね