半月は周囲一帯自分達を囲む様に現れた童子達を見て、顔をひきつらせる。
隣のヴェーラも似た感じである。
「ねぇ、半月。何か策はあるかい?」
「私にそれを聞く?」
思わず苦笑する。
半月は割りと力業でごり押しするタイプである。
その半月に聞くからにはヴェーラも何も思い付かないのだろう。
それもしょうがない。
この場で一番前衛に立つべき神殺しが戦える状態ではなく、むしろお荷物な状態なのだから。
「ったく、本当に肝心なところで使えないわね」
「それは僕も同感だね。それでどうする?もう選択肢は三つほどしかないけど」
「奇遇ね。私もよ」
そこから先は互いに言わなくても察せる。
今ある選択肢は、
1、骸を囮に逃げる。
2、骸も連れ童子の群れに穴を開けて逃げる。
3、二人で神殺しに挑戦する。
3はそもそも成功するはずが無い。
そんな事は考えるまでもなく分かっている。
2はベストではあるのだが、成功確率が皆無に等しい。
数百回の奇跡が起きてやっとというレベルである。
あいにくそんな数の奇跡を拾える幸運はこの三人には無い。
となると、1が一番現実的ではあるのだが……………二人としては避けたい選択肢だった。
まさに八方塞がりだった。
「第四の選択肢があるにはあるんだけどね………」
「僕には思い付かないんだけど…………どんなのだい?」
「あの馬鹿は“契約”だけは破らないでしょ?それを利用すれば何とかならない事も無いんだけどね………」
「問題点は?」
「今のあの馬鹿に声が届くかどうかね……………」
「それは…………いや、いいよ。それくらいなりいいや。その選択肢で行こう」
「あんた正気?」
「正気も正気だよ。それに敵は待ってくれないようだし………ね!!」
童子達が飛び掛かってきた直後にヴェーラはいつの間にか手に持っていた煙玉を地面に叩き付けた。
辺り一面を白煙が包む。
「一分、時間を稼ぐからあとは頼むよ」
ヴェーラはそれだけ言うと、両手にライフルを構え、煙に困惑する童子達へと向かっていく。
半月はポカンとしつつも冷静に判断し、骸へと駆け寄った。
「あぁ……やっぱり……やっぱり俺は…………」
「まだ言ってんの?面倒な奴ね………」
骸の様子を間近で見て、半月はイラッとした。
ウジウジウジウジブヅブツブヅブツしている骸が、ただただムカついた。
骸の髪を掴み、顔を引っ張り上げる。
そして、何を見ているかさっぱり分からない骸の瞳を正面から見る。
そのまま頭突きを入れる。
「っ!?」
「あんたね………あんたが何を悩もうが勝手だけど、あんたは“私”を護るんでしょ?そんな“契約”ぐらいは守りなさいよ!!」
文句を簡潔に言った後に口付けをする。
骸の瞳は一瞬揺らいだ気はするが、特に変化は無かった。
半月は思いっきりイラッとした様に顔を歪めると、骸の顔を地面に叩き付けるのだった。
「どうだった?」
「知らない」
「は………?」
ヴェーラの横に立ち、童子を斬り裂く。
適当に答えはしたが、はっきり言ってそんな気分でも無かった。
“蜘蛛切丸”をしまい、“鬼切丸”だけを構える。
指の先を薄く切り、刀の側面に血を吸わせる。
「さて…………狩りと行きましょうか、“鬼切丸”!!」
「いや、ちょ、何一人で変なテンションになってんの!?」
状況が分からないヴェーラを放っておいて、半月は敵の集団に飛び込む。
“疑似土地神化”は使えない。
しかし、“鬼切丸”は茨木童子を斬った妖刀である。
鬼に対してはかなりの力を発揮する。
まずは目の前の一体を縦に真っ二つにする。
肉片が地面に倒れる前に右側を蹴り飛ばす。
蹴飛ばされた死体を受けて体勢を崩した童子達を団子の様に貫いていく。
貫かれただけではまだ生きていたが構わず童子達ごと刀を振るう。
その勢いで貫かれていた童子達が飛んでいく。
飛んでいった童子達は周囲の童子を巻き込み、転がっていく。
背後から飛び掛かってくるのを感じたので前に倒れるようにして避ける。
そのまま刀を口にくわえ、両手を地に付いて、逆立ちをする様にして童子を蹴り上げる。
そのままブーツの踵に仕込んである銃口から銃弾を放ち、童子を撃ち抜いていく。
そして、ブーツの爪先に仕込んである刃で斬り裂く。
そのまま踵落としの要領で地上の童子の顔面に蹴りを入れる。
グシャッと嫌な音がすると、童子の眼球がブーツの踵に潰される。
そのまま発砲し、童子の頭部を吹き飛ばす。
立ち上がり、右手に刀を持ち、横薙ぎに振るい、童子達の上半身と下半身を分ける。
童子は無限に近く湧いて来るが、それゆえに強さはそこまででも無い。
強いには強いが半月の敵では無い。
「あの馬鹿は………あそこまでやらせて無反応か!!」
何やら叫びつつも童子の群れに穴を開けていく。
◆◆◆◆◆
「何一人で自棄になってんだか………」
半月より後方で淡々と童子を撃ち抜いていくヴェーラが呟く。
暴走気味に血の海を作る半月に若干引き気味でもあった。
「ん?」
そんな時にヴェーラの横を何かが通るのを感じるのだった。
◆◆◆◆◆
「兄者、あの女は中々やりますな」
「確かにな。あれは上手い“酒”になるであろう………」
金角はニタァと笑うと瓢箪の栓を開け、口を下に向ける。
それを半月の方へと下に向けたまま傾ける。
「半月と言ったか?人間のくせに中々強いではないか!!」
「うっ「ったく、笑えねぇ………させるかよ」
「ぬぅ!?」
金角の言葉に半月が反応する前に喰が金角の前に降ってきて瓢箪を蹴り上げた。
「“紅葫嵳”なんて使わすと思ったか?」
「チッ……知っていたか!!」
「前に骸が資料見てたからな」
本人は覚えて無いだろうがな、と喰は付け加える。
知識は共有しているが何を覚えているかは各々次第である。
瓢箪“紅葫嵳”は口を下に向けた状態で返事をした相手を吸い込み、溶かし、酒に変える。
だから、口を蹴り上げて阻止したのだ。
「兄者から離れろ、神殺しが!!」
背後から銀角が七星剣で斬り掛かってくる。
喰は輸血パックを噛みながら足に仕込んでいる呪符に呪力を注ぐ。
「“跳”、“弾”」
「うぬぅ!?」
血を飲み、吸血鬼の権能で身体能力を上げながら地面を“弾”き、“跳”躍し、剣を避ける。
髪の三割程が白髪へと変化する。
銀角の頭上を跳んでいる間に空になった輸血パックを吐き捨て、右手の爪を剥がす。
「我は身を捧げたり、捧げし身を代価に顕現せよ!!天に歯向かいし、その力を我の手に!!地を裂きし、爪よ、我が元に現れよ!!」
赤き竜の爪を顕現させ、銀角の背後に着地する。
そのまま爪を振るい、銀角を吹っ飛ばす。
位置的に金角も巻き込まれ、二匹纏めて地面を転がった。
「「ぐぅおおぉぉぉぉ!?」」
その隙に半月の所に跳ぶ。
半月近くの童子は龍爪で斬り飛ばす。
「結局、喰が来るのね」
「悪いな。あの馬鹿が闇を作りながら意識の奥へと沈み込んで行きやがったおかげで俺も出るのに苦労した」
「あっそ。それでどうするの?」
「逃げる。骸のせいで本調子が出せねぇからな。今の状態で戦ったら確実に殺られる」
「そう………けど、童子はど………キャ!?」
喰が突然、半月を抱えてヴェーラの所まで跳んだので半月が驚き、小さく悲鳴を上げた。
「やぁ、やっと君が出たんだね」
「悪いな、ルーシャ。お前にも苦労かけた」
「べ、別にそんな事は無いよ」
ルーシャと呼ぶ様に喰には言っていたが実際呼ばれると少し紅くなるヴェーラであった。
そんな彼らに童子達が襲い掛かる。
「逃げるにしてもあれはどうするつもりだい?」
「もう仕込みは終わってる。あとは仕上げだ」
そう言うと喰は“糸”を絡ませた左腕を思いっきり振る。
それに合わせて童子達に切れ目が入っていき、完全な肉片へと変わっていく。
金角銀角の位置までわざわざ“跳んで”移動したのは“糸”を仕掛け、童子を一網打尽にする為だったのだ。
「まっ本当は“糸”の扱いに関しては骸の方が上手いんだが」
そんな事を呟きながらヴェーラも脇に抱える。
その様子に金角銀角が叫びを上げる。
「「貴様、神殺しのくせに我らから逃げるつもりか!?」」
「別に逃げやしねぇよ。本調子が出ねぇから一旦“引く”だけだ」
「それを逃げと言うと思うけどね」
「右に同感」
「うっせえ!!」
そんなやり取りをしながら、ヴェーラが再び煙玉を放つ。
数は増やしているので範囲は広い。
白煙で金角銀角が此方を認識していない内に駆け出す三人であった。
「逃がすなぁぁぁぁ!!」
金角、銀角、どちらかは分からないが叫び、再び童子達が湧き始めるのだった。
「これ?」
「それだ、それ」
喰は脇に抱えた二人に自分の血が入った輸血パックを裂かせ、童子達に浴びせかけ、四元素の火で燃やし、追跡を振り切るのだった。
これは逃亡ではない、撤退だ。
まぁ明らかに逃亡ですが。
喰の本調子が出ないと言うのは骸が精神的な闇を産みながら意識の底へと沈んだ事によって、喰にも影響が出ているという事です。
それでは質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。