自殺志願の神殺し(F)/生存欲の魔王(B)   作:天崎

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隠し切れぬ感情(C)/捨て切れない想い(G)

 

「何で俺をn

 

「っ!?」

 

骸が何かを言う前に二つの銃声が響き、“彼女”は背後に倒れていった。

骸がかなり面倒そうに後ろを向くと、思った通り半月とヴェーラが銃を構えていた。

ヴェーラは、レバーアクションで既に弾を再装填してある様だ。

 

「…………何やってんだ、お前ら」

 

「「いや、敵だし。“復讐”とか知らないし、殺れる内に殺ればいいでしょ?」」

 

骸が多少引き気味に言うと、二人は口を揃えて言うのだった。

そういやこういう奴らだったな、と苦笑する。

二人としては隙あったから撃った程度なのだろう。

 

「いっきなり…………何すんのよ!!話し合いすらする気無し!?」

 

どうやらギリギリで防御していたらしい“彼女”が慌てた様な声を出しながら上半身を上げた。

直後に二人が無言で発砲する。

今度は届く前に魔法陣が銃弾を防ぐ。

 

「ちょ!?本当に何なのよ!?礼儀って物を知らないわけ!?」

 

「「神祖に言われたくは無い!!」」

 

「それは関係無いでしょ!?人としてどうなのそれは!?何!?悪魔!?鬼!?」

 

「「うっさい、死ね!!」」

 

困惑している“彼女”を他所に二人はド直球に叫ぶのだった。

そして、カチッカチッと弾切れを示す様な音が響くまで乱射は続くのだった。

 

「「チッ……」」

 

「本当に何なのよ………」

 

二人が舌打ちする中で、“彼女”は涙目になりながら、ゼェゼェと息を切らすのだった。

何か、もう先程まであった雰囲気は台無しであった。

そこで骸は気付く。

“彼女”のフードが外れている事に。

“彼女”の顔が見えてる事に。

“彼女”が“誰”なのかを。

 

 

「まさか………“零姉”?」

 

 

(…………)

「はぁ!?」「え……?」

 

骸が思わず呟いた言葉に喰は無言、半月とヴェーラは各々驚く。

そして、“零姉”と呼ばれた“彼女”もその言葉に反応する。

反応し、骸の方を向く。

向いてしまった。

顔を見てしまった。

ハッ、と気付く時にはもう遅い。

 

「へっ……あっ…………いや、そ、そそそうよ!!」

 

顔が一瞬で紅くなっていた。

言葉も動揺する様に乱れていた。

慌ててフードを被り直すが色々な意味でもう手遅れだった。

骸の顔を見た時点で、“彼女”は冷静ではいられない。

色々な感情が心の中で混ざり合っていく。

が、整理を付かせる暇を半月とヴェーラが与えるわけが無い。

二人は既に服装を変えていた。

半月は何時ものスリット入り改造修道服、ヴェーラはフード付きの黒いロングコートに狐面。

半月の両手には刀が、ヴェーラの両手にはライフルが握られている。

二人にとっての戦装束である。

 

「さて、“復讐”って言うからには殺り合うんでしょ?」

 

「さっさと始めようか」

 

うっすらと察し初めていた二人は、悪い笑顔を浮かべて武器を構える。

ただの“復讐”ってわけでは無いのには気付いていた。

“復讐”が何に対してどういう物かは知らないが骸とそれなりの関係であったのは分かる。

だからこそ、速めに終わらせ様とする。

こういうタイプを追い詰めるとどうなるかは大体察する事は出来るのだ。

 

「ハハッ……そうだよな。恨まれて当然だよなぁ…………」

(……………)

 

骸は骸で“彼女”の正体が分かるなり、精神が不安定になった様に笑っていた。

頭を抱え、うわ言の様に呟く。

それを見ても、喰は無言のままであった。

そして、“彼女”は呼吸を整え、懐から金の石像と銀の石像を取り出す。

“これら”はとある物を小さくした物だ。

それを半月とヴェーラの前に投げる。

二人は警戒した様に距離を取る。

その間に“彼女”は立ち上がる。

 

「別に私が直接手を下すわけじゃないわ。カンピオーネを相手にどれだけ無謀な事かくらいは分かってるわ。だから、化け物の相手は化け物にしてもらう。貴女達も死にたく無ければ骸を置いて逃げる事ね」

 

「待ちなさいよ!!」

 

そのまま去って行こうとする“彼女”に半月が叫ぶ。

“彼女”は顔だけそちらに向ける。

フードを被っているので表情は見えないが、おそらく乾いた笑みを浮かべているのだろう。

 

 

「私は“間払 零”。縁が会ったら…………いや、縁が無かったらまた会うでしょうね」

 

名乗ってから“間払 零”は姿を消すのだった。

 

「“間払”だって?」

 

その名前にヴェーラは反応を示すのだった。

だが、半月もヴェーラもそんな事を気にしていられなくなった。

彼女が投げて行った二つの石像から凄まじい呪力を感じたからだ。

まるでカンピオーネを目の前に封印が解かれた様に。

呪力が一定を越えると、石像は周囲に光と衝撃波を放つのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「まだ私を“姉”として見てくれてるのね…………」

 

去り行く中で彼女は呟く。

昔の様に呼ばれ、久々に間近で顔を見て、心を乱されたがそれは一時的な乱れだ。

 

「それでも私は……“復讐”を止めるつもりは無いのよ…………」

 

悲しげに、だが何かを切り捨てる様に呟き続けるのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

孫悟空の詠唱は、“深沙神”と“猪剛鬣”を顕現させる物であった。

では、それに介入した“結果”も見える物である。

当然、“まつろわぬ神”を顕現させるのが目的であった。

“まつろわぬ神”招来には、膨大な呪力が必要であった。

サーシャ・デヤンスタール・ヴォバンがその秘儀を決行した時も、かなりの犠牲を出した。

それを手っ取り早く済ませるにはどうするか。

ある意味、簡単ではある。

膨大な呪力を持つ“まつろわぬ神”が従属神を呼ぶ、その時を狙い利用する。

これさえ出来れば条件は満たせる。

最もそれを実行するのは人間には不可能であろう。

神祖の中でもそれなりに魔術の扱いに長けた者でも無ければ出来はしない。

例えやれるだけの腕があっても生きて終えれるかは難しいところであろう。

だが、“彼女”は成功させた。

狙った物では無い。

リスクも覚悟していた。

しかし、運命は“彼女”の味方をした。

孫悟空は別の優先すべき目的と枷があった。

それゆえに詠唱に介入されようが、お構い無しだったのだ。

とは言え、この方法で呼び出す問題点は幾つかある。

一つは“何”が出てくるか一切分からない事だ。

介入し、暴走に近い形で招来するのだ指定など出来るわけが無い。

それにあくまで“介入”である為に招来する“まつろわぬ神”は介入された神に近しい存在となる可能性が高い。

二つ目は、その方法ゆえに顕現させた神の動向には一切操作を加えれない。

問答無用に招来した神に殺される可能性すらある。

だから、すぐに活動停止して石像となったのは都合がよかった。

かくして“彼女”は、骸達の前に立つ前に仕込みを終えていた。

あとは招来した“まつろわぬ神”が骸を殺してくれれば“復讐”は達成されるのだ。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

光と衝撃波が止み、土煙が晴れると半月達の前には二つの巨体が現れていた。

片方は金の装束を纏う鬼だった。

もう片方は銀の装束を纏う鬼だった。

金の鬼は巨大な瓢箪を、銀の鬼は巨大な瓶を持っていた。

その他にも様々な装備を付けていた。

二匹の鬼は周囲をグルリと見回すと、骸達の方へと目を向ける。

 

「兄者、あれはもしや………」

 

「そうだな。巧妙に気配を隠している様だが我らには無意味だ」

 

「やはり、そうですか。女二人も何やら妙な気配を感じますねぇ」

 

「そちらも相手にすれば分かる事だろう」

 

まるで骸達をなめ切ってるかの様に二匹の鬼は話し合う。

半月は冷や汗を流しながら、構えを崩さずに背後を見る。

そこにはまだブツブツ言ってる骸の姿があった。

 

「骸はダメそうだし、覚悟を決めた方がよさそうよ」

 

「その様だね。僕としてもあれは相手にするには不味いタイプだ」

 

二人もボソボソと小声で話す。

“まつろわぬ神”に対するメイン戦力である骸がこうなっているのはかなり不味い。

二人して冷や汗を流していると、二匹の鬼はようやく骸達の方に体を向けた。

 

「まずは名乗らせて貰おう。我は銀角」

 

「そして、我は金角だ」

 

「貴様らを我ら兄弟の最初の相手としてやろう」

 

「光栄に思うがいい。人間ごときが我らの“相手”となれるのだからな」

 

「「っ!!」」

 

二人は最大限に警戒して身構える。

そして、金角銀角は顕現したばかりの体を慣らす為に遊び感覚で呪力を高める。

銀角が、腰から剣を抜き高く掲げる。

 

 

「“七星剣”よ!!我らが僕達よ!!今ここに現れ、奴らを食らい尽くせ!!」

 

 

銀角が叫んだ直後に、ボコボコと周囲の地面が盛り上がっていく。

そして、半月達を囲む様に童子の集団が現れるのだった。

 

 





というわけで今回の敵は金角銀角です!!
孫悟空の詠唱に介入した結果、孫悟空一行を苦しめた敵が顕現した感じです。
割りと強引な召喚ゆえに金角銀角はまだ体に慣れていません。

間払 零に関しては色々ある人、とだけ。
ちょっと複雑な物を抱えていたりします。

それでは質問があれば聞いてください。
感想待ってます。


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