陽が落ちた夜の道に馬の足音が響く。
それはただの馬の足音では無かった。
夜道を進む馬には首が無かった。
その背に跨がる者も普通では無い。
一つ目で髭を生やした鬼だった。
その異形の背後へ飛び掛かる人影があった。
人影は後ろに纏めた黒髪を揺らしながら刃を振るう。
『_____』
異形の声にならない叫びが響き渡る。
異形の胸は背後から貫かれていた。
更にもう一つの人影が飛び掛かる。
両手に持った刀を異形の首の所で交差させ、開く。
異形の跳ね飛ばされた首から血が溢れる。
最初の人影は異形の胸に刺さっていた刃を縦に振るい、その体を真っ二つに斬り裂く。
ボトリ、と異形の死体が馬の左右に落ちる。
そして、二つ目の人影が首無し馬を斬り刻むのだった。
夜道に飛び散った異形の血肉は闇に溶ける様に散っていった。
◆◆◆◆◆
「随分あっけ無かったけど、あの夜行って奴はわざわざ不意討ちする必要あったの?」
「“夜行さん”な。“夜行さん”は正面から相手にするのはダリィんだよ」
襲撃者こと骸と半月は帰路についていた。
“夜行さん”で馨の依頼は終わりだった。
「“夜行さん”は、伝承としたら会ったら蹴り殺されるタイプだからな」
(説明、ざっくりし過ぎだろ………)
「(うるせぇな………説明もダリィんだよ………)」
(知るか)
「でも、何時も通り呪符やら“糸”使っておけば正面からでもいけた事無い?最悪プラン2で行けばよかったし」
「それでも早目に倒しておくに越した事は無いんだよ。“夜行さん”は曲がりなりにも“神”に近い存在だからな。存在が不安定な内に消しとかないと面倒だ」
ちなみにプラン2とは、骸が“夜行さん”に蹴り殺されてる隙に、半月が“夜行さん”を殺るという作戦である。
半分冗談な作戦ではあるが“夜行さん”が完全な状態だったら考慮に入れていたかもしれない。
半月は今は“疑似土地神化”は使えないのであまりメインな戦力では無い。
それでも地脈関連の魔術やその他魔術で十分な程度ではあるが。
一応、馨に連絡するかと骸が携帯を取り出そうとした時、半月が歩を止めてる事に気が付いた。
「ん?どうした?」
「何か………この乱れ方は嫌な予感しかしないわね」
半月は何かを“視て”いた。
おそらく、というか確実に地脈だろう。
「(地脈を揺らがす要因ね………)」
(ほぼ、確定してる様な物だろうが)
「(出来れば嫌な予感は、外れて欲しいんだけどねぇ………)」
(そうならねぇのが運命って物だ)
そして、まるでタイミングを図った様に携帯が着信音を鳴り響かした。
◆◆◆◆◆
「えーと…………つまり護堂と中国のカンピオーネが殴り合って、何だかんだの末に弼馬温に封じていた猿が本性全開で復活した所か、万里谷の妹の体を奪ったって事か?」
『まぁ、ざっくり言ったらそんな感じだろうね。僕もまだ詳しくは聞けて無いから』
「とりあえずは甘粕の連絡待ちってわけか。どうせ俺にも日光に迎えとか言ってくるんだろ?」
『分かってるじゃないか』
「チッ………報酬はしっかり貰うぞ」
そう言って通話を切る。
背後の半月が、報酬upと聞いて目を輝かせているがそれは放っておく。
ヴェーラに関しては馨が一緒に連れてくるらしい。
とりあえず二人は日光へと向かう事になったのだった。
◆◆◆◆◆
「陀羅尼の中に何か別の物が混じっている?」
偵察していた甘粕は孫悟空の唱える声に、何か別の物が紛れ込んできるのを感じていた。
「“まつろわぬ神”の詠唱に介入するとはいい予感はしませんね」
しかも、それを孫悟空に気付かせていないとなれば更にである。
気付いた上で放置している可能性もあるにはあるが。
甘粕は上司に報告を済ませた後、新たな“まつろわぬ神”誕生の余波に巻き込まれ、大水に呑み込まれるのだった。
◆◆◆◆◆
「“ ”___“ ”」
“彼女”は孫悟空の詠唱に合わせ、奇妙な歌声を放っていた。
認識する事さえ難しいその“音”と孫悟空の詠唱が混じり、“彼女”は術を作っていた。
神祖に近い存在でありながら同一ではない“彼女”だからこそ出来る芸当だった。
“彼女”は“結果”が“現れた”のを視て、歌声を止めた。
そして、必ず来るであろう目的の人物を待つのだった。
◆◆◆◆◆
骸と半月は、日光の近くまで来ていた。
そこで彼らを歓迎したのは猿軍団と巨猿だった。
「こりゃダリィな…………」
「あいつら………斬っちゃダメ?」
「OKと言いたい所だが…………気配的に面倒っぽいんだよな………」
猿軍団から逃げながら話し合う二人。
どうもどうやら猿軍団は元々は人間っぽいので手が出しにくいのだ。
“人殺し”くらいなら平気でやれる程度には、歪んでいる彼らではあるが、現在の“立場”的にそれはやりにくかった。
それ故に呪符や“糸”で足止めしつつ、逃げに徹していた。
それに近くには中国のカンピオーネがいるらしいので、気配消しの結界無しで権能を使うわけにもいかない。
甘粕とは、連絡は取れないので合流しようが無い。
そんな事を考えていると、巨猿が一匹飛び掛かってきた。
その巨体はさすがに咄嗟に避けれる物では無い。
呪符を取り出し、どうにか対処しようとした時に聞き覚えのある声が響いた。
「“召喚”RPG!!」
直後に爆音が響く。
どうやら至近距離でRPGをぶっ放したらしい。
巨猿は吹き飛び、猿軍団を巻き込み転がっていく。
今の内に骸達は猿軍団を撒くのだった。
◆◆◆◆◆
「意外と速い事合流出来たな」
「馨さん達とは別経路で来たからね」
骸と半月の救援に来たのは、ヴェーラだった。
どうもどうやらヴェーラは、途中までは馨達と一緒に来ていたらしいが日光の状況を聞いて自分だけさっさと駆け付けたらしい。
三人は取り合えず猿達の徘徊する範囲から出て休もうという事になった。
夜目は利くメンバーなので暗闇だろうが問題は無い。
出来れば護堂達を見付けて状況を聞きたい所だった。
戦闘に手は出す気は無いが、手伝いくらいならする気はある。
「「「___っ!?」」」
何やら強い呪力を感じて三人同時に上を見上げた。
直後に彼らの前に“何か”が降ってきた。
土煙が舞う。
その中には人影があった。
土煙が晴れ、中から現れたのは少女だった。
中三くらいの背丈にローブを纏った様だった。
フードを被ってるせいで顔は見えない。
だが、口が何処か寂しげながら歪み笑みを浮かべるのは見えた。
「やっと会えたわね……………“あの時”の復讐をさせて貰うわよ、骸」
その言葉には、憎々しい様に恨みが込められた。
しかし、その中に恨み以外の“感情”が複数混じっているのは本人すら気付いていなかった。
◆◆◆◆◆
介入の“結果”は出た。
しかし、それらはすぐに力を失い、石となった。
だが、“敵”と出会えば“あれら”は覚醒するだろう。
例えば神殺しなどであれば、確実に。
幾ら気配を隠そうと“神”の前では無意味である。
“あれら”の準備を整え、“彼女”は彼らの前に立つ。
七巻分に入りました。
“彼女”は今までちょこちょこ出てきた人です。
冒頭の妖怪は『夜行さん』です。
夜行“さん”でちゃんとした名称です。
孫悟空の詠唱に介入した結果は次回辺りに
それでは質問があれば聞いてください。
感想待ってます。